機動戦士ガンダムSEED 理想の従者   作:傍観者改め、介入者

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第9話 従者は動かず

3人が地上へと着いた時には、キラとマリューが乗るストライクがランチャーストライクの武装を取り付けており、アークエンジェルという母艦とのコンタクトを図っていた。

 

 

程なくして、コロニーの内壁から爆炎とともに白い大型戦艦、前方に両足を連想させるようなフォルムを備えた見たこともない建造物がはい出てきたのだ。

 

 

「アレは――――」

リオンは地上に着陸したときに、その船の姿を見た。

 

 

ドクンっ

 

その姿を見て、自分の記録ではない男の記録がフラッシュバックする。

 

 

―――――本当に、儘成らないな。この頭は―――――

 

頭を押さえたリオン。激痛がするのではない。まるで頭をいじくられるような感覚だ。妙な動悸すら覚えたリオンは、胸を押さえながらゆっくりと息を吐いた。

 

「――――そうなんだな。」

リオンは、頭を押えながらその感覚の意味を知る。

 

 

「―――――懐かしいと、貴方は思っているのか」

 

 

 

 

 

一方、キラたちはようやくまともに落ち着ける場所が出来たと安堵していた。

 

 

「キラ、なんだかんだようやく一息つけるな」

 

「うん。あの人たちが戦闘をしていた間に通信で何とか呼んでこれたし、これで避難が―――」

 

トールにいわれ、ようやくほっとした様子のキラ。もうこんなものに乗る必要はない。

 

「―――あぁ……うん……こほん」

その場にいづらそうなマリュー。ようやく落ち着けると喜んでいる少年たちにこれから酷なことを言おうとしていることを自覚し、憂鬱な気持になる。

 

だが、やらねばらない。

 

「ごめんなさい……地球軍の、それも軍事機密に触れてしまったあなたたちを、このまま帰すわけにはいかないの」

 

申し訳なさそうに白状するマリュー。

 

「え、えぇえ!?」

カズイが驚いた顔をして叫び声をあげる。トールたちも何を言っているんだ、という顔をしていた。

 

「そんな無茶苦茶だ! 俺たちはさっきまで逃げていた民間人ですよ!」

 

 

「それでも! これも規則なのよ。運がなかった、貴方たちにも悪いと思っているわ。それに、もうシェルターの入り口はほとんどが破壊されているか、もしくはほぼ満員。今から探すにしても、ここにいる以上に危険よ」

 

冷静に、マリューが彼らにとっての不都合な事実を羅列していく。

 

「それは――――」

先ほどからマリューに食って掛かっていたサイは、その事実を突きつけられて押し黙ってしまった。

 

「――――だめだ、サイ。こうなってしまった以上、ここでやり過ごすしかない。ここからシェルターの入り口を探すのも分の悪い賭けだ」

アルベルトが残念そうにサイの肩をポンポンと叩き、首を横に振る。

 

「――――はぁ、逃げ遅れた俺たちの運の尽き――――いや、拾う神もいるのかも。なんにせよ、たぶん新型の戦艦だろ。それなりに頑丈そうだぜ、これ」

しかし、トールは上空から降下し、着陸したアークエンジェルを見て、そんな感想を漏らした。まだまだ神様は自分たちをみすてていないと。

 

 

「え、ええ。確かに新造されたアークエンジェルはちょっとやそっとじゃ沈まないわ。けれど――――」

毒気を抜かれたマリューは、アークエンジェルはそんな脆い戦艦ではないと改めて説明するが、同時にザフト軍に狙われる標的でもあることも告げる。

 

 

「しかし、これがオーブの中にいて、中立国のコロニー内部に連合の新型兵器があった。プラントがこれを見過ごすはずがない」

 

デュエル二号機から降りてきたカガリとアサギが、マリューをやや睨みつけながらやってきた。

 

「貴女は?」

明らかに雰囲気が違う。そこにいる民間人とも違う。どことなく高貴な雰囲気を醸し出す少女と、それに付き従うかのように横にいる少女。

 

――――この子、どこかで――――

 

マリューは必死に思い出そうとするが、名前が出てこない。

 

「――――カガリ、今は――――」

そこへ、ジン3機を殲滅したストライク二号機のパイロット、リオン・フラガがやってきた。カガリと呼ばれた少女の前に立ち、まるで彼女を守ろうとしているような位置。

 

恐らく、知らない仲ではないのだろう。

 

 

 

「―――わかっている」

不機嫌そうにしつつも、ナイフのような雰囲気が消えるカガリと呼ばれた少女。

 

「――――おいおい。二号機のパイロットの若さにも驚いたが、こっちも坊主と士官が乗っているのは予想できなかったなぁ」

メビウス・ゼロから降り立ったムウが、部下のエリクとともにリオンとキラの顔をじっくりと観察していた。

 

「地球軍、第7機動艦隊所属、ムウ・ラ・フラガ大尉、よろしく」

見事な敬礼で、その軽薄な声色とは別印象を抱かせる姿勢だったムウ。

「同じくエリク・ブロードウェイ中尉、よろしく!」

快男子のような声で元気よく所属を述べるエリク。

 

 

「第2宙域、第5特務師団所属、マリュー・ラミアス大尉です」

 

「同じくナタル・バジルール少尉であります。」

マリュー、ナタルはそれぞれムウに敬礼とともに所属を彼に話す。二人の目の前にはザフト軍MSと互角に戦える数少ないエースがいる。そしておそらく銀色のメビウスの乗り手も一人しかいない。

 

「俺たちの乗船許可を貰いたいんだがねぇ。ここの責任者は?」

 

「え! それなら艦長と――――」

戸惑うマリューだったが、

 

「艦長以下、艦の主立った士官は皆、戦死されました。よって今は、ラミアス大尉がその任にあると思いますが。」

そんな彼女に残酷な事実を突きつけたナタルは、その視線をマリューに向ける。どうするかの判断を彼女に委ねた。

 

「っ!!! そんな、まさか艦長が―――――」

口元を手で覆うマリュー。上司の突然の死をやや受け止め切れていないようだった。

 

「やれやれ、なんてこった。あーともかく許可をくれよ、ラミアス大尉。 俺たちの乗ってきた船も落とされちまってねー。ほんと、戻ろうとしたんだけど」

戦闘が終わってから気づいたのだが、エリクから詳細な報告を受け取ったムウは目が点になった。

 

「その、言いにくいんすけど、敵MSの攻撃を受けた母艦は、ヘリオポリス外壁に衝突し、沈黙しちゃったんですよ」

理由がこれである。本当に何しにここに来たのかという。

 

「――――最後まで油断し過ぎだよ。あの艦長は――――ああ、ともかく頼むよ」

 

 

「ええ。乗船を許可します」

 

「しばらくは雨をしのげる場所が出来てよかったぜ」

宇宙に雨は降らないというのに、ムウはおどけたような表現で安堵する態度を見せた。

 

「大尉、今はそのノリは、控えたほうが」

冷静に突っ込むエリク。しかし無視するムウ。

 

「無視しないでくださいよ~」

 

 

エリクが尚もムウに声をかけようとするが、彼の興味はストライク二号機から降り立った少年へとむけられていた。

 

「――――坊主、名前は?」

 

リオンの前に立ったムウは、名前を尋ねる。

 

 

「リオン・フラガ」

 

その名字を聞いた瞬間に、ムウの目が大きく見開く。

 

「――――親父の野郎。まさか隠し子がいたなんてな。――――――ということは、お前も大火災の中にいたのか?」

あのろくでなしの父親にまだ子供がいた。しかし、公式記録ではもうリオン・フラガという人物のその後は途絶えている。

 

―――――あの糞親父の子供は死んだはず。ならこいつはなんだ?

 

 

 

 

「――――俺は、あの火災で誰かに襲われたことは覚えています。生き残ったのも俺だけ、だったと思います」

不明瞭な受け答え。ムウは不審な目で彼を見ていた。

 

 

「――――キュアンは元気か」

叔父のキュアンについても訪ねるムウ。連合ではなく、オーブを選んだ彼の行方をそれなりに気にしていたのだ。軍に入ってからはなかなか近況を知ることが出来ていなかった。

 

フラガの名を騙るのだ。何か知っていそうだと考えたのだ。

 

 

「貴方方のせいで壊れたヘリオポリスを見て、胃が壊されると思います」

ジト目でムウをにらむリオン。

 

 

「――――参ったね。」

両手の手のひらを見せて、肩をすくめるムウ。彼の言うことはもっともだ。だが、その怒りをぶつけられてもどうすることもできない。

 

 

「まあ、そんな風に内情を言えるとは言いつつも―――――――」

 

ムウは笑いながらリオンに問いかける。

 

 

「リオンは死んだはずだぜ。公式発表でも死亡が確認されている。」

 

 

死人を語る。目の前の少年が其れをしていることに一同に緊張が走る。

 

 

「―――――名乗る名前がそれしかありませんからね。別にフラガ家に関係する、しないは些細な問題です」

 

相手が変に勘違いしてくれている、というよりは勘違いしかできない状態であることを利用し、言葉で相手を惑わすことにしたリオン。

 

「―――――俺は、貴方方の敵ではない。こちらもザフトのせいで迷惑している。それは嘘偽りがないことです」

 

その不明瞭な中で、真実を小出しにしていく。それは交渉事の手法の一つだ。

 

 

「――――まあいいや。裏切ることになれば後ろから撃つだけってね。その瞬間までよろしくな」

眼が笑っていないムウ。リオンのことを警戒している眼だ。

 

 

「笑えない言葉は尤もだが、疑念を抱かれただけで殺されるつもりはない。互いに賢い選択をしたいと考えている」

しかし、リオンはそんな疑念の眼もどこ吹く風だ。年上の男性を見下ろしている、そんな空気すら醸し出している。

 

 

「その物言い。あの糞親父そっくりだな。その尊大な言葉遣い。いいぜ、お前がリオン・フラガであることは認めてやるよ。」

幼少のころに知り過ぎた、父親の物言い。目の前の少年は父親顔負けの利己主義者だ。

 

 

微妙な空気になったが、ムウは話を続ける。

 

「予想が少し外れたな――――俺はてっきりコーディネイターが乗っていると思ったけど、得体のしれない少年ならやれそうか。尋問したいところだが、そんな余裕もねぇし」

 

コーディネイター、その言葉で空気が一変した。リオンはもしかすればコーディネイターかもしれない。そんな空気がアークエンジェルから遅れてこの場にやってきたナタルたちの表情を強張らせたのだ。

 

「――――――」

無意識に拳を作っていたキラ。言い出したら矛先が自分にも向けられる。それを恐れて何とかかかわらないようにしていた。

 

「俺はコーディネイターではないですよ。けど、あのクソ親父にいろいろ頭をいじられたりしたりと、普通に過ごすことはできませんでしたけど」

 

やや面倒くさそうな顔をしつつ、右手の人差し指で頭を指し、その後指を大きく広げ、どうしようもないといった表情をするリオン。

 

「――――フラガ大尉と血縁関係の方が、モビルスーツに。コーディネイターではないとはいえ―――」

話に入ってきたナタルは、リオンがコーディネイターではないことに安堵しつつも、おそらく異常な処置を加えられたであろう目の前の少年を見て、同じナチュラルには参考にならないとあきらめた。

 

 

――――なんだこの少年は。こんなかわいげのない少年がいるのか。

 

大人と話しているような感覚だ。ふざけているようで、まるで隙が無い。

 

 

「けど、コーディネイターだからって差別するのはNGな。そうなると、俺は部下を守らないといけないからな」

ナタルたちの態度を見て、ムウの顔からやや笑みが消える。

 

「ブロードウェイ中尉のことは存じています。数々の戦線でのご活躍はかねがね。」

ナタルは連合に協力しているブロードウェイ中尉は別だと言い切った。つまり、連合に協力しているコーディネイターには言及しないということになる。

 

「なら、こいつらがどちらであろうと関係ないな? そういうことだ。そういう話はなしな。」

 

 

 

パンパンと手をたたき、ムウはその場を後にする。

 

「大尉! ああ、もう」

ムウはこの場をエリクに任せた、と言わんばかりにメビウスのほうへと向かって行ってしまう。

 

「ああ、こういうのは苦手なのに……ラミアス大尉。外にいるのはクルーゼ隊と呼ばれるザフトきっての部隊です。我々とリオン君で合計6機のジンを撃破し、戦力の大半を奪われたとはいえ、大尉の報告では少なくとも、3隻のザフト艦がいることになります。搭載機は恐らく合計14機ほど。奪取されたGを計算に入れると、これが最大数です。その内の6機を撃墜し、残るはまだ半数以上。彼なら仕掛けてきます」

 

 

エリクの説明の中に出てきた、ジンを6機撃墜されていることに驚くナタルたち。目の前のリオンがジンを3機撃破したことは知っているが、まさか外では彼らが3機もジンを撃破していたとは、と目を見開いていた。

 

「――――すんません。堅苦しいのは息が詰まる。」

固まったままの士官たちを見て苦笑いのエリク。話しづらそうにしていた。

 

「え、ええ。自然体で構わないわ」

妙に人懐っこいエリクの様子に拍子抜けしたマリュー。目の前のナンパしそうな青年が、グリマルディ戦線で活躍したメビウス・ゼロのパイロットなのかと。

 

「おっ、ではお言葉に甘えて。そういうわけで、ラミアス大尉には艦の指揮をとってもらいたいんですよ。俺と大尉はこの船のことは素人同然なんで」

 

「え、えぇ!? わ、わかりました」

 

「あと、早めに物資の積み込み。リミットは案外短いっすよ!」

 

 

そういって、エリクもメビウスのほうへと向かってしまった。

 

 

民間人たちと別れた後、マリューとナタルはリオンという少年について考えていた。

 

 

「どう考えても、あれは偽名です。あんな雰囲気を持つ少年が、名家の出の者であるはずがありません」

ナタルは、育ちの悪そうな、そして根性の曲がった性格をしていたリオンを、偽物だと断じる。

 

「――――さらに、オーブは近年情報統制をかけています。アスハの姫に関しても、情報が錯綜し、何が真実かも定かではありません」

 

曰く、気品に溢れた性格をしている。

 

曰く、無鉄砲な性格をしている。

 

曰く、粗忽者で、勘当同然の存在である。

 

 

他にも信じられないような情報ばかりが出るばかりで、諜報部も困り果てているほどだ。リオン・フラガという名前もそうだ。

 

 

キュアン・フラガはいまだに独身。子供もおらず、本家の者はあの大火災で死に絶えたとされている。

 

ならば、リオン・フラガは既に故人なのではないかと。目の前の少年はその名前を借りて暗躍する何か。

 

「偽名を使っている可能性がある、と上層部には報告しましょう。仮に死人の名前を使っているなら、どこかでぼろが出るはずよ」

 

マリューは、ここでリオンが本物か偽物かどうかはあまり考慮していなかった。どちらにしても、彼の力は必要になるかもしれない。

 

ならば、できるだけ彼を刺激せず、上手く折り合いをつければいいと。

 

 

それに、おそらく彼はカガリと呼ばれる少女たちのために、戦わなければならない。彼が戦士であるならば

 

――――彼は、最後まで彼女たちを守ろうとする。

 

だから、彼はこちらを裏切らない。人質がいる状況で、彼は強がっているだけなのだ。それは、あの言動とはかけ離れた彼のやさしさが秘められている。

 

彼女らを害する行動をとらなければ、彼は味方であり続ける。

 

 

マリューは、戦力に関しては楽観視していた。

 

 

 

 

 

 

その後キラたちとカガリたちは一か所にまとめられ、機密の口外を阻止する名目でアークエンジェルの一室に軟禁に近い形で移動させられた。

 

 

「どうする気だ、リオン」

カガリがリオンに尋ねる。ザフトは間違いなく攻めてくる。エリクの説明を聞く限り、あちらはあきらめていない様子だ。

 

「――――どうするも何も、あのグリマルディ戦線の英雄が二人いるんだ。俺たちの出る幕じゃない」

 

少し間を置き、リオンはあの二人に任せればいいと言い放つ。

 

「――――そうですね。カガリ様と私は立場上連合に協力するのは難しいです。民間人に戦闘行為をさせるのも酷です」

アサギも、オーブ軍属として連合への協力はできないと考えていた。これを口実にザフトに攻められたり、連合が仲間入りを強要する可能性もある。

 

迂闊なことはできない。

 

 

一方、キラたちは

 

「――――――」

キラは難しい顔で考えていた。なぜあのエリクという軍人は、コーディネイターでありながら連合軍に参加しているのか。

 

そして、自分がコーディネイターであることがばれずに済んでよかったと考えていた。

 

「けど、意外だよな。エリクって人。なんで連合にいるんだろ」

 

 

「肩身は狭いだろうな。けど、地球にはプラントに恨みを持っているコーディネイターだっているらしいぜ」

 

「――――コーディネイターでもいろいろいるんだなぁ」

 

 

キラは友人たちの話を聞いていろいろなことを考えていた。コーディネイターでもいろんな考えで、いろんな決意をして生きている。

 

「――――」

なら、ここで自分の力を使って友人を守る選択肢も、間違いではないのではないか。

 

 

ザフトはまた来る。あの中尉はそう言っていた。実際に奪われたあのMSの性能は知っている。

 

 

フェイズシフト装甲。実弾兵器をほぼ無効化する驚異の技術であり、いかにエンディミオンの鷹、銀色の疾風の異名をとる二人がいても、攻撃が通らないという事実は重くのしかかるはずだ。

 

キラはちらりとリオンのほうを見た。彼は全く動く気配がない。

 

「――――どうかしたのか、キラ君」

目をつけてきて怒るような性格ではないリオンは、キラにその視線の理由を尋ねた。

 

「えっと、その――――また、ザフトが来る、のでしょうか」

言葉に困ったキラは、現状注視するべき事項について考えを乞うことにした。

 

「――――ああ、ザフトは来る。このGシリーズの性能は現存するMSの中でも高性能の部類に入る。特に、残されたストライクの性能は他の機体を凌駕している」

 

話に割り込んできたカガリが、ザフトは必ず襲い掛かってくる、そしてストライクの脅威を説明する。

を説明する。

 

「――――なんで君は、そんなことを。君だって民間人じゃないの?」

 

なぜこうも軍事機密を知っているのか。この金髪の少女を含む目の前の三人は明らかに何かがおかしい。

 

「―――――そこは、まああれだ。いろいろあるんだ、察してくれ」

言葉に詰まったカガリ。そのまま何もしゃべらなくなった。

 

 

「ハハハ……俺とカガリは、親がモルゲンレーテの技術者なんだよ。だからそうだな、いろいろ抜け穴があるのさ」

ここでうまく事実を隠すリオン。モルゲンレーテの関係者。その言葉の意味は大きい。

 

「な、なるほど」

 

 

「あ、ああ。まさかヘリオポリスに隠しているなんてことは想定外だったけどな」

少し狼狽えている様子だったが、民間人しかいないこの場でそれを疑う人間はいなかった。

 

――――良いはぐらかし方。助かったわ、リオン君

 

――――うちの姫様の長所でも、短所でもあるからね。

 

二人にしか聞こえない小声で会話するリオンとアサギ。

 

 

 

 

一方、ブリッジではある一件で意見が分かれていた。

 

「私は反対です。オーブの、ナチュラルとはいえ少年に戦闘行為を勧めるのは気が進みません」

ナタルは厳しい視線をムウに向けていた。リオンを参戦させれば、戦闘がより楽なものになるかもしれない。しかし、それでは今ここにいる軍人としての誇りを傷つけるものになるし、何よりも民間人を守るのが軍人の役目だ。

 

 

民間人に戦闘をさせては本末転倒だ。

 

「――――そうよね。でも、リオン君の力は目を見張るものだったわ。ストライクのモニターから見えた、彼の戦い方は素人ではなかった。」

 

マリューは目を閉じながら思い出す。ジン三機という劣勢の中に躍り出た彼は、瞬く間にそのすべての脅威を排除した。鮮やかな動きと、的確な状況判断。

 

極めつけは、その苛烈な攻撃性。普段の彼をよく知るわけではないのだが、見た目では冷静で利発そうな容姿をしている彼が、戦闘では豹変している。

 

「確かにログを拝見しましたが、この戦闘力を持つ彼は、連合では非常に稀有な存在となるでしょう。しかし―――」

ナタルは尚も食い下がる。彼女はマリューがムウに同調しているのではないかと疑っていた。

 

「ええ。戦力が揃っている、とは言い難いけど、ブロードウェイ中尉と、フラガ大尉だけでは不安なのですか?」

 

「ああ。フェイズシフトを知っている身としては、今の装備で奴らが牙をむいたら、前線を維持できる自信がないな。あのクルーゼって男はそこらへんの思い切りがいいぞ」

 

「――――あそこまで思い切りのいい判断ができる、そんな奴はザフトでも珍しい。悟ってくれ、艦長方。俺たちはザフトで一番遭遇しちゃいけない相手と遭遇してるんだ」

一方、前線としての私見から、リオンの戦線参加を要望するムウとエリク。

 

「――――それに、あのキラってやつもそれはそれでおかしい。あんた、ろくな説明もせずにストライクでいろいろと指示を出したそうじゃないか。それをあの坊主はやり切った。軍事機密をいきなり触れる民間人ってのも、胡散臭い話だ」

ムウは、あの時リオンが堂々としていた際に、キラが目立たないようにしていたのを見ていた。特に、コーディネイターという単語が出てきたときに、彼の背中が一瞬だけ震えたのだ。

 

 

「オーブの国籍の人間ですよ。まさか大尉。少し触れたぐらいで彼も前線に立たせる気ですか?」

 

「あくまで可能性だ。まあ、あの性格だし、向いてなさそうだけどな。それに、あの機体のOSは明らかにコーディネイター用とも一線を画している」

 

キラがあくまで動きやすいようにセッティングしたのだろう。彼もそこまで深く考えていたわけではないはずだ。ここでまずスパイという線は消える。

 

こんなふざけたOSを乗せて目立つ行為をするはずがない。ムウはそのシステムを見て、疑念が確信に変わっていた。

 

「案外凝り性なんだろう。動かしにくいOSを修正したつもりであいつは再構築したんだろうけどさ。戦闘参加がほとんどなかったとはいえ、戦闘地帯で悠長にOSなんて組めるか普通。」

キラが並外れたコーディネイターであることはすでに軍人の間で知れわたっていた。ただ、目立った行動もしておらず、どうするべきかと考えている段階だ。

 

「まあ、目下の案件はリオンだ。あいつの力は必ず必要になる」

ここでエリクが強く出る。リオンにはさらに頑張ってほしいという私情が、彼を突き動かしているのだ。

 

彼のおかげで小破程度のジンと、中破寸前のジンを入手できた。今更ジンが欲しいというわけではないが、今後ナチュラル用のOSが完成すれば自分たちでも使いこなせるようになるかもしれない。

 

ナチュラルの中でも異質な存在ではあるが、それは逆に証明にもなる。

 

 

―――作られた天才は、生まれながらの天才には勝てない事実。

 

それこそが、エリクの答え。理想論。

 

 

 

技術士官としての側面から、マリューはジンを修理する判断を整備班に命令したのだ。アレがいずれ役に立つ日が来るかもしれないと。

 

 

「―――――なんにせよ、この案件は一度保留です。私からリオン君とは何度か話をします。本人が拒否をした場合、それを呑んでください、大尉。これ以上は譲歩しかねます」

 

 

「まあ、妥当な落としどころだよな。嫌々出るのは俺もそこまで強要はしないさ」

 

 

その時、けたたましいサイレンが艦内に鳴り響いた。

 

 

戦いが始まる。

 

 

 

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