機動戦士ガンダムSEED 理想の従者 作:傍観者改め、介入者
ヘリオポリス内にいる地球軍の新型MS、並びにグリマルディ戦線のエースを撃破せよ。
クルーゼ隊長が下した命令はそれだった。
ヴェサリウスのカタパルトに移動するアスラン。データの吸出しが終わったとはいえ、イージスでの出撃となる。
「―――――まさか、な」
クルーゼ隊長と互角以上に渡り合った実力者がいる。それを聞いた時に彼は強い衝撃を覚えた。
キラは――――彼はヘリオポリスに行くといっていた。ならもし、この戦闘に巻き込まれていたら?
「いや、そんなわけがない」
そんな仮定を頭で否定するアスラン。彼は間違いなく戦闘に巻き込まれた。ザフト軍が中立国のコロニーに侵入したのだ。
――――すまない、キラ。俺が祈る資格もないのはわかっている。だが、
どうか無事でいてほしい。運よくシェルターに入れて、脱出できればそれでいい。そうすればもう戦闘に巻き込まれることもない。
そして、もし――――そのモビルスーツのパイロットがキラだった場合。
「―――――だが俺は、止まれない。仲間のためにも、あいつのためにも―――」
脳裏に浮かんだのは、家族の全てを、これからの未来を破壊された少女の悲しそうな顔。母を失ったショックから正気に戻れるほどの沈痛な彼女の様子は、アスランの心を揺さぶった。
そして、苦悩する自分をいつも助けてくれる緑髪の少女の気遣い。
アスランは思い出す。出撃前のやり取りと、クルーゼ隊長が逃げ帰ったという事実について。
三機のジンが撃墜された後、コロニー内部から帰還した隊長は、新型MS、二機のメビウス・ゼロに撃退されたという。
「まさかクルーゼ隊長を退ける実力者がいるなんて」
ニコルは、あのOSであそこまで動けるのかと一瞬考えたが、その考えを改める。考えられるのは、戦闘中にOSを書き換えたことのみ。
――――それほどの技術を持つ人材が、連合にいる。これは大きな脅威かも
「ああ、裏切り者のコーディネイター。グリマルディの片割れ、エリク・ブロードウェイに次ぐ大罪人の予感がしますね」
この世の真実、ナチュラルはコーディネイターに劣るという心理を知らない愚か者、そんな人物だと断定するイザーク。
「まあいいだろ、自己責任だよ、自己責任。俺らが気にすることじゃない。倒すべき敵のことをよく知るつもりはないね」
ディアッカは、イザークのもったいぶった言葉に首を横に振る。どうせ倒す相手なのだ、知る必要もないと言い切った。
「―――俺の考えでは、ラスティを殺したやつが怪しい。白兵で圧倒されたのは久方ぶりだった。ありゃ化け物だ。」
ドリスは痛む肩を押さえつつ、その人物は本当に恐ろしい人物だったであろうことを述べる。ラスティに最後まで悟らせずに近づき、その命を奪った凄腕のヒットマン。
その話を聞き、アスランはほっとしたのだ。
――――キラがザフト軍兵士を瞬殺する、わけがないか
「けど、7機あった新型のうち、4機しか私たちは奪うことが出来ませんでした。隊長曰く、動いていたMSは三機。うち二つはそれなりに動き、ドリスの言う人物が乗る機体が襲い掛かったとか」
だが、その話を聞いて心臓が跳ね上がる。強敵がキラというわけではなく、残りの二つにキラが巻き込まれているかもしれない。
ドリス曰く、奪取する際に民間人らしき人影が複数見えたという。これは帰還後に聞いた話である。
――――やめろ、アスラン・ザラ。お前にはまだやるべきことがあるだろう
渋い顔をするアスラン。
「どうかしましたか、アスラン?」
ニコルが心配そうにアスランに声をかけてきた。何か深刻そうな顔をする彼を見て、気にしないというのが無理だ。
「どうせいつもの取り越し苦労だろ?」
「ああ。貴様は無駄に几帳面だからな」
「アスランのその勘は当たったためしがないが、今回もそれか?」
ディアッカ、イザーク、ドリスに呆れられるアスラン。無駄に考える癖があるアスラン、訓練校時代では、タイムアタックの際にそれで減点を食らったことがあるのだ。
しかし反面、安全、生存面での部隊運用はずば抜けていた。
「――――まあ、俺の取り越し苦労ならそれでいいんだが」
苦笑いのアスラン。その後、フンと鼻を鳴らし部屋を出るイザーク達に置いて行かれ、ニコルと二人っきりになった。
「――――アスラン、それは話せることなの?」
尚も心配そうにするニコル。思えば訓練校時代も後ろに彼女がいる時、安心した覚えしかない。
――――ニコルには、いいか
「――――コペルニクスからプラントに戻った話は知っているよな?」
「うん。その時に出来た友人がオーブに行ったんだよね。今はこんな状況だけど、いつか行ってみたい国の一つでもあるよ」
にこっ、と笑うニコル。彼女はこの件に関してはどちらも突っ込むべきではないと考えている。無論国民はふざけるなという感情だろうが、プラントにオーブと戦う余力はない。オーブも戦争論に傾くつもりもない。
それを差し引いても、オーブという国がその在り方がまぶしいと感じていたのだ。ナチュラルとコーディネイターが共に生きていける国。その課題に真正面から挑む姿勢。
彼女の手には届かない理想でもあった。
「あいつは――――キラは、ヘリオポリスに行くといっていた」
顔を伏せるアスラン。限界だった。罪悪感で視界が曇りそうだった。
「!!!」
そこで、アスランが抱えていた葛藤を思い知ったニコル。黙ってアスランの言葉を待つ。
「――――今回の戦闘で、ドリスから聞いた。あの付近にまだ逃げ遅れた民間人がいたという報告も。ザフト軍は民間人を殺傷しないよう、隊長から厳命はされていた。しかし実際はどうなっているか、確認もできない」
「俺があいつの日常を奪ったと考えると―――いや、奪った事実を受け入れるのが怖い。」
キラはきっとザフト軍を恨むだろう。どれほどの事情があろうと、彼は民間人なのだ。ザフトに恨みを持つ友人の姿を見るのが怖かった。
そんな彼の姿を見れば、自分の誓いが揺らぎそうになる。
戦争に参加した自分が間違いなのではないかと、そう考えてしまう。
「――――戦争なんです。誰が悪い、何が悪いと、私たち軍人は言及できません」
ニコルは少し間をおいて、アスランだけの責任ではない、個人の責任について言及はできないと言い張る。
「でも、そんな風に相手を気遣えるアスランの優しさは、尊いものだと思います」
その中でも、人を傷つけることを慣れるのではなく、その重みを感じられる彼の在り方を、尊いと彼女は言う。
「甘いだけだ。その甘さがいつか味方を殺す。その現実も、今は怖い――――やはり、ニコルは他の奴を―――」
その甘さに自己嫌悪しているアスラン。これ以上、自分のフォローをするべきではない、そう言いかけた。
「アスランのそれがどうしようもないのであれば、アスランをフォローするというわがままも、どうしようもありませんよ。私の我儘でやっているだけです」
真剣な瞳を向けながら、ニコルはわがままを通しているだけと白状した。
「私は、誰かに優しくできるアスランの在り方が、好きなんです」
そして、彼女はアスランを勇気づけるように微笑んだ。
「――――ニコル。」
「――――だから、気にしないでください。フォローしたり、迷惑をかけたりするのが仲間でしょ?」
そう言って、ニコルは部屋を後にするのだった。
残されたアスランは、
「――――ありがとう、ニコル。少し楽になった」
気持ちを落ち着かせ、出撃に備えるために心を整えていた。
一方、部屋を出たニコルは、
――――わ、私、なんて大胆なことを――――
アスランのことで一生懸命になりすぎて、本当にとんでもないことを言った気がする。
―――し、しばらくアスランの顔を見れないよぉ……
悶々としながら、ブリッツの調整に向かうのだった。
今回の作戦では、ヴェサリウス、ガモフ、タリウスに残る合計6機のジンの内、6機すべてが出撃する。新型も程なく動かせるようにはなるが、まだ時間がかかる。
アスランは凝り性なのか、手早く正確にイージスのOSの最終調整を終えていたが。
「オロール、マシュ、ヘリックとともに連合のMAと新型を撃破せよ。ついていきたいといったアスランの意地、あてにさせてもらうぞ」
「ああ。わかっている。」
メビウス・ゼロ二機に恐らく動かせるのは一機のみ。イージスのログに残っていたGシリーズの目玉と言っていい機体。
X105ストライク。ストライカーパックによって、状況に応じて兵種を変化できる革命的なシステムを積んだ試作機。
兵器としての応用が利く、幅の広さは脅威だ。ユニットなしでもあの運動性能だ。
キラの安全を祈りながら、アスランは僚機とともにヘリオポリスへと進撃する。
そして連合側。早々にムウとエリクのメビウス・ゼロが出撃し、ジンに応戦する。
「おいおい、拠点攻撃用重爆撃戦装備だと!! あの野郎、本当に人の嫌がることしかしないな!!」
ムウはジンの装備を見て毒づく。
「使われる前に落とさないとやばい!! コロニーがもたない!!」
ガンバレルを展開し、ジンに対応する二人だが、その前に立ちはだかる者がいた。
「過去の戦線での話は聞いている。油断なくやらせてもらうぞ、エリク・ブロードウェイ!!」
コーディネイターでありながら、連合に所属する男。意識しないわけにはいかなかったアスラン。
サブのレールガンで牽制するも難なく回避するイージス。やはり乗っている相手も固定砲台の攻撃ぐらいではあたってくれない。
「けど、これならどうだ、赤いの!!」
ガンバレルを展開し、多角的な同時攻撃を仕掛けるエリク。さすがに初見の攻撃に戸惑うアスラン。
四方を囲まれ、それぞれが独立してアスランを照準に入れようと殺到する。
「くっ、これがガンバレル」
視線を絶え間なく動かし、何とか回避しようとするが、完全回避ができない。
その内の左斜め後ろに位置したガンバレルの攻撃を避けたが、本命の主砲の一撃を真正面から受けてしまい、コックピット内部に強い衝撃を感じる。
「ぐっ!!」
フェイズシフトがなければやられていた。この攻撃に初めから対応できたクルーゼ隊長はやはり次元が違う。
一方、エリクは直撃したものの、ほぼ無傷のイージスを見て舌打ちをする。
「くっそ!! レールガンが通らない!! いわんこっちゃない!!」
フェイズシフトが無限というわけではない。攻撃を受け続ければいずれエネルギーが尽きる。しかし、それまで自分はアークエンジェルの防衛に向かえず、ムウ一人に母艦を支えることになる。
―――ぜいたくを言っている場合じゃないんだよ!!
民間人を戦闘に巻き込むわけにはいかない。だが、リオンとキラはすでに戦闘に巻き込まれ、モビルスーツを動かした。
彼らはもう無関係ではないのだ。
そしてムウも、大型ミサイルを撃たれる前に撃墜するという縛りを加えられ、発射前に仕留めるという目的を果たせずにいた。
「くっそぉぉぉ!! 迎撃は期待できないし、俺が踏ん張らなきゃまじで落ちるじゃねぇか!!」
アークエンジェルの火器管制は素人同然の命中精度だ。いずれは調整が利くのだろうが、今利いてほしかった。
6機のジンの内、2機がたった今アークエンジェルに向けて4つのミサイルを発射したのだ。
「おいおい、勘弁しろよ!!」
弾幕が薄いところから撃たれては、直撃コース間違いなしだ。
ガンバレルを展開し、うちと落としにかかるムウ。その際も残りのジンがムウに襲い掛かる。
「ミサイルはやらせんぞ!!」
「よそ見するな、鷹野郎!!」
左翼、前方より突撃銃の強襲を食らい、回避に専念せざるを得ない。高度を下げ、突っ切るように弾幕から逃れるムウ。ガンバレルも被弾しないように動かし、ムウの空間認識能力をいかんなく発揮した見事な動き。だが、ムウは必死だった。
ガンバレルの喪失はゼロの戦闘力低下を意味する。
これ以上少ない戦闘力を落とすわけにはいかないのだ。
「よけろっ!! アークエンジェル!!」
しかし、ムウの願いもむなしく、うち漏らしたミサイルがアークエンジェルの装甲に直撃してしまう。
轟音とともに、アークエンジェルが揺れる。
「――――まずいな」
「そんな、このままじゃ――――」
避難した民間人たちと同じ場所にいたリオンとキラは、モニターで戦況を眺めていた。モニター外から受けた攻撃が、この船を揺らしたのだ。
「――――」
厳しい表情でリオンをにらむカガリ。リオンが何を考えているのかがわかる。
「――――二人は無理でも、俺はギリギリ言い訳が通る。」
アサギとカガリは軍籍とそれに近いものに縛られている。動きようもない。だが、自分はまだ民間人。後で言い訳やへ理屈はどうとでも作れる。
「――――お前に人殺しをこれ以上させるわけにはいかない」
「もう5,6人以上殺した。きっとそう遠くない将来、数えることをやめる気がする」
なんでもなさそうに言うリオン。もう気にするなと。
「――――けど!」
「ここで、手が汚れるのが嫌です、だからみんなが死ぬ―――――そんな情けない理由で死にたくはないし、カガリとアサギさんを死なせるつもりはない」
カガリは否定したかった。それでは、リオンとあの少年を戦場に誘ったあの軍人たちと同じだと。あの理屈を認めるわけにはいかなかった。
「――――必ず帰る。カガリは将来の姿と同じく、どんと構えておけ。」
リオンの決意は固く、カガリはそれを聞いて両手で顔を覆う。
「――――すま、ない――――」
「カガリ様。リオン君は約束を破りません。私が傍にいる前から、ずっとそうだったのですから」
アサギが元気づけるようにカガリに言い含める。二人の関係性は自分よりも当然深い。だからこそ、彼は約束を守らない男ではない、必ず生きるという選択肢を捨てない。
「カガリを頼みます、アサギさん」
一礼し、アサギにカガリのことを任せるリオン。
「民間人の貴方にこんなことを頼むのは大変不本意よ。今でも止めるべきだと思う」
アサギも心の奥底では納得していない。だから、そのほんの少しの不本意が口に出てしまう。
「貴方は正規の軍人ではない。だから、武運は祈らないわよ。」
「――――はい」
当然だ。これは自分の我儘なのだから、リオンは心の中で納得する。
「すみやかに鎮めて、すぐに戻ってきなさい。」
「ああ、すぐに戻るさ」
薄く微笑んだリオン。当然だと言わんばかりに縦に頷き、後ろを振り返る。
そんなリオンのやり取りを見ていたのはキラ・ヤマト。どうやらこちらはリオンよりも早く覚悟が完了していたようで、彼のことが気になっていたのだ。
「――――あの、リオン、さん」
「リオンでいい。行くぞ。」
「はいっ!!」
劣勢を強いられるアークエンジェル。その戦局を打開すべく、二人の少年が立ち上がった。