機動戦士ガンダムSEED 理想の従者   作:傍観者改め、介入者

17 / 58
第12話 漆黒の空へ

イージスの急な覚醒じみた動きにより、アスランを取り逃がしてしまったリオン。

 

 

「奴の気迫に圧倒されたか。私もまだまだだな」

悔しそうな言葉を漏らすも、そこまで口惜しさは感じられないリオン。

 

 

「――――ラミアス艦長。敵は後退していきます。機動部隊はローテを組みつつ哨戒活動にあたり、引き続きヘリオポリス内での物資の積み込みを具申します。ブロードウェイ中尉の目論見通り、ほぼすべてのザフト軍MSは撃破しましたが、まだ奪取されたGが残っています。気を緩めることはできません」

リオンは逃げていくイージスを追撃するのではなく、アークエンジェルの安全確保を優先し、物資の積み込みを急ぐべきだとブリッジの面々に勧めた。

 

「え、ええ。アークエンジェルはひとまず着陸し、可能な限り物資の積み込みを行います」

 

「ローテで24時間。ストライクとフラガ大尉、デュエルとブロードウェイ中尉の2交代で順次警戒するように。エネルギーはまだ余力があるとはいえ、一度帰還せよ、デュエル」

マリューも物資の問題は死活問題であるため、異論はない。ナタルもそうだが、デュエルのエネルギー残量を考慮し、一度戻るよう命令を飛ばしてきた。

 

「了解。すぐに帰投する」

 

 

記念すべき連合軍の公式記録に残る、MSの実戦投入。その戦闘が終了した。

 

 

一方、命からがらヴェサリウスに戻ることが出来たアスランは、事の詳細をクルーゼに報告する。

 

「ええ。あの戦艦には、私や隊長に全く引けを取らない実力者がいます。MA二機を相手取った時点では戦況も有利でした。しかし―――」

 

戦闘ログに残されているデュエル二号機の戦闘能力ははっきり言って異常そのものだった。

 

瞬く間にジンが二機撃墜され、その戦況が変わった。全てのジンは撃破されていき、同じ新型MSのイージスも圧倒された。

 

――――しかしあの口ぶりから、キラのことを知っている? まさか、あの船の中に

 

だが、それを隊長にいうつもりはない。余計なことを言えるのは、彼女一人だけだ。

 

「なるほど。私もやつとは一戦交えたが、なかなか見ない実力者だったよ。アレが連合の手に渡る、それだけは何としても阻止しなければならなかった」

仮面の下にある素顔は見えない。同じトーンで話す彼の口調から感情を読み取れないアスラン。

 

「では、今後の追撃はどのように」

 

「ドリスには怪我の回復次第で予備のシグーを与える。後は新型のGをありがたく使わせてもらうとしよう。せっかくの兵器だ。データの吸出しも終わっているからな」

 

「――――了解しました」

 

 

報告が終わり、自室へと戻る途中にニコルが血相を変えてやってきた。

 

「アスラン!! 無事だったんですね!!」

見た目では目立った外傷もないので一安心のニコル。しかし、

 

「――――味方は全部やられた。単騎であれと戦うのは厳しいな」

厳しい表情を崩さないアスラン。あのアスランが単騎での戦闘を厳しいといわせる強敵。ニコルの予測通り、連合は恐ろしい存在を誕生させてしまったかもしれない。

 

――――このままあの機体が量産されでもすれば、ザフトの優位性がなくなる

 

ザフトは、今のジンでは対応が出来なくなる。もっと高性能な機体を量産できるようにならなければ、この戦争に負ける。

 

「――――少なくとも、ストライク二号機と、デュエル二号機の搭乗者は強敵だということですね」

 

「いや、おそらくその二つの機体に乗り込んだ人物は同一人物だ。あのプレッシャー、忘れるわけがない」

 

その人物が同一人物であったことを喜ぶべきなのか。少なくとも、一人以上は脅威がいるということになる。

 

「今度戦うときは、絶対に一人で戦わないでくださいね」

ニコルは無茶をしがちなアスランにくぎを刺した。そんな危険な相手を仲間に晒すわけにはいかないと、無茶をするのがアスランという男だ。

 

「ああ、そのつもりだ――――」

ニコルの提案に同意したアスランだが、不意に頭を押さえる。

 

「アスラン?」

 

「いや、さっきの戦闘で不思議な感覚が俺を支配したんだ。思考がクリアに、単純な話視野も広くなったというか。そしてその感覚が突然切れて――――それで―――」

 

「――――そう、ですか。火事場の馬鹿力、とも何か違いそうですね」

ニコルはある程度のことをマルキオ導師から聞いていた。

 

Superior Evolutionary Element Destined-factor

 

=優れた種への進化の要素であることを運命付けられた因子

 

ナチュラル・コーディネイターを問わず現れるものであり、発現した人間は人類が一つ上のステージに進むための可能性が高まるとされる。発現状態の人間は全方向に視界が広がり、周囲のすべての動きが指先で感じられるほど精密に把握できる。これによって高い反射神経と把握能力を発揮し、戦闘や周囲の把握において力を発揮する、と言われている。

 

だが、未だそんな状態になった者はいないとされている。しかしもし、アスランがその力を持つ者ならば。

 

 

「――――あの状態になれば、奴とは渡り合える、かもしれない」

アスランは自分の中に眠る因子について考えるようになった。それが仲間を救う手立てならば、リスクを冒してでも得ようとする。

 

「――――アスラン………」

 

しかし、極限の集中状態であるために、人間性を喪失した状態になるとも導師は言っていた。あまり多用するべきではない。アレは確実に脳に負荷をかけていると。

 

「あまり無理をしないでください。議員はもちろん、あの子だって」

 

訓練校に入る直前、泣きながらアスランを止めようとしていた銀髪の少女を目撃したニコル。その人物がユニウス市の生き残りであることは知っていた。

 

アスランの知人が、またあんな顔をするのは絶対によくない。

 

「ああ。フィオナのためにも、父上のためにも、俺は死ぬわけにはいかない」

 

 

 

 

アークエンジェルはほぼすべての物資を可能な限り積み込むことに成功し、あとはヘリオポリスを出るタイミングを探っていたのだが、

 

「―――――恐らく、ほぼ半壊状態なのですが、軍港に漂流、もしくは堆積している障害物を取り除きつつ、進むしかないです」

 

航路を確認するうえで、エリクは真面目な口調で映し出されたヘリオポリス全域図を見て、正面玄関から出るしかないと具申した。

 

「ええ。半壊状態のヘリオポリスをこれ以上破壊しないために、ここから出るのはそこしかないようね」

 

「特装砲の威力を落としつつ、進路を確保。開いたと同時に最大船速で離脱、つうのが理想だよな」

ムウも現状コロニーを刺激しない方法はそれだと考えた。

 

「救命ポッドはすでに射出されており、オーブ宇宙軍が回収に向かっているそうよ」

オーブの動きは速かった。宇宙軍をすぐに編成し、ヘリオポリス襲撃の際にはすでに出撃していたのだ。もう間もなくヘリオポリスの宙域に姿を現すだろう。

 

「まじか。けど、アークエンジェルが遭遇すると厄介なことになりそうだな」

ザフトはこの戦艦を狙っている。だからこそ、救命活動中のオーブ軍の邪魔をするわけにはいかないのだ。ムウは苦い顔をする。

 

つまり、現在アークエンジェルが収容している民間人を引き渡すタイミングが失われることになる。

 

「――――仕方がない。他の民間人の生命を危険に晒すこと、自分たちが早く解放されたいという願望とでは、とてもではないが釣り合わない」

リオンは、口惜しいが今回の合流はあきらめるべきだと考えていた。

 

「――――お前本当に民間人か? いや、あの家だし。まあ、あり得るのか」

ムウは、民間人と自分を分けるかのような言い方に、やはり彼はただ者ではないと考えていた。その思考はまるで貴族そのものだ。

 

 

 

「しかし、想定内とはいえ、物資の補給は万全とはいいがたいですね」

 

「ないよりはましよ。後は近い宇宙港で補給を受ければ問題がないはず」

 

アークエンジェルは減速しつつ前進。障害物を先回りしていたMSで取り除き、ヘリオポリスからの脱出を図っていた。

 

 

 

オーブ本国では、すでにヘリオポリス襲撃の知らせは届いており、国民も今回のことで非常に衝撃を受けていた。

 

セイラン主導の元、モルゲンレーテが秘密裏に連合と技術協力をしていたこと、それが原因で事の発端が起きたこと。サハクはセイランを捨て鉢にしたのだ。

 

連合とつながりのあるセイランというフレーズ。信憑性も高く、国民はすぐにそれを受け入れた。その上ウズミ代表も今回の件で安全保障を徹底できなかった責任を取り、ホムラ氏に内閣の座を譲ることで、一応の騒ぎは収まりつつあった。

 

「キュアン、あれ以降リオン君と連絡が取れないわ!! まさか―――」

口元を手で覆い、今にも泣きそうなエリカ。ザフトは民間人への攻撃は禁じたというが、今も安否が定かではないヘリオポリスの住民。

 

「死地を掻い潜るのはあいつの十八番だ。俺が危惧しているのは、連合と遭遇していることぐらいか」

キュアンはリオンが連合と接触し、彼の能力が発露していることを心配していた。

 

「リオン君の、MSにおける技量――――」

エリカも技術者の顔となり、リオンの作った試作型OSのことを思い出していた。

 

一応、訓練すればものになるとはいえ、やはり扱いは難しい。即応性は言うことがないのだが、機体がとにかくピーキー過ぎるのだ。誰もがリオンのように動けるとはいかない。

 

リオンは複数の仕事を同時進行していたのもあり、OS開発はまだまだ成果を上げていない。

 

「――――それに、リオン自身の力。あいつの力は、いわば反則に近い」

俺よりもよっぽど遺産の才能に引き寄せられている、とキュアンは言う。

 

「――――空間認識能力、反射神経、運動神経、思考の速さ。一番はその危険予知能力」

超人と言われる人間のあらゆる要素を押さえつつ、第六感というべき能力。

 

その予兆を正確に読み取り、対処できる能力。これは有視界戦闘において重要なものになるだろう。

 

「――――別世界における新人類。宇宙に進出した人類が適応した姿。私には想像もつきませんよ。そんな存在」

 

まだ雲の上の存在。存在自体が明確にされていなかった定義。

 

 

「―――――あいつが連合に取り込まれること自体は、避けないといけない」

 

リオンも抵抗するだろうが、もしもということもある。彼にあった機体を用意し、彼の力を発揮できる環境が用意されれば、瞬く間に戦況はひっくり返るだろう。少なくとも、局地戦等において彼と戦える敵は稀だろう。

 

「まあ、あいつはカガリを裏切らない。必ずあいつは彼女とともにいようとする。あいつのそばにいるだろう二人も、きっと無事だ」

 

「ええ。そう、ですね……ですが、ギナ様がカガリ様に意図的に情報を流したのは本当でしょうか」

そしてカガリ出立の原因ともいえる情報漏洩。

 

「そう、だろうな。昔から奴は姫を敵視していた節がある」

 

それに一口噛んでいるとされるロンド・ギナ・サハク。ウズミ氏の退陣後に動きが若干見られたが、サハクの世間からの風当たりも強く、未遂に終わった。

 

彼の野望は、オーブを焼きかねない。危険な思想だ。

 

――――いずれこの件もけりをつけないといけないな―――

 

オーブの平和を脅かす存在は、何であっても許すわけにはいかない。たとえ、それがどんな存在であろうと。

 

キュアンはあの双子の兄妹をさらに危険視するようになっていく。

 

 

一方、ヘリオポリス襲撃のニュースを聞いたある一家は、

 

「お父さん、オーブは戦争に巻き込まれないよね?」

 

「ん? ああ。ザフトもオーブも互いに刺激を与えるわけにはいかないからな。奇跡的に民間人の死亡者はゼロだったと聞いているが、一部が連合軍の戦艦にいるらしい」

 

「なんでまた連合の船なんかに」

 

「おそらく逃げ遅れたんだろう。突然の襲撃だったんだ。オーブ政府と連合との情報交換で、詳細は明らかになったが、関係者以外は情報を伏せられている。個人情報だしな」

 

「――――モルゲンレーテの技術者としては、やはり今回の一件はどうしようもない。ウズミ氏の思惑も何となくだが理解している」

 

「――――難しいよなぁ、政治って」

 

「ああ。そうだな、シン」

 

 

一方、破砕作業をしつつ出口へと向かうアークエンジェルでは、今後の方針について議論がなされていた。最も、選択の余地はないのだが。

 

「アルテミスにやはり向かうべきかと。食料など生活面での物資は万全でも、武装面では心もとない状況です。懸案なのは水の問題かと」

 

ナタルは、アルテミスで補給を行う必要があるという。敵に遭遇しないのであれば寄り道をする必要性はないが、そうもいっていられない。

 

「そうね。けど現在この戦艦には所属コードがないわ。極秘機密とはいえ、相手もそれでは納得しないでしょう」

アークエンジェルには所属コードが存在しない。存在自体を秘密とされていた部隊なのだ。仕方のない点ではあるが、アルテミスで騒ぎが起きる可能性がある。

 

「―――なら、このまま月基地へ? かなりの高速船なんだろ?」

 

「そうであればいいのだけれど――――あのナスカ級が許してくれるかどうか」

 

 

出た瞬間に捕捉されるだろう。近くにはアークエンジェルを誤認させるような大きな熱源はない。宇宙に出ればザフトは必ず追ってくる。幸いなことに、試作型ストライカーパックを入手できたことだろう。積み込みに余裕が出来た分、運べるものを運ぶ。そのおかげで今後の戦闘がかなり楽になるだろう。

 

 

「しかしこのIWSP、ですか。デッドウェイトで使い物になりませんよ」

ノイマンは資料で拝見したストライクの所謂全部乗せのユニットを見て苦い顔をする。

 

「そうね。けど仕方ないわ。試作型、全距離対応型のノウハウは未熟だもの。小型化されていけばこの方面は陽の目を見ることになりそうだけれど」

 

 

「ストライク、デュエルのパイロットは機体にて待機。中尉と大尉も待機をお願いします。」

 

 

「了解。ここでダメージを与えれば、追ってこられないだろう」

 

「―――――了解」

リオンは今後追い回されるぐらいなら、ここで仕留めるべきだと考え、キラは戦闘の影響で緊張していた。

 

「同意見だ、リオン」

 

「そりゃあなぁ。クルーゼをここで倒せるなら全力を出せるけどな」

 

エリクはその言葉に頼もしさを覚え、ムウはクルーゼを倒せるチャンスと聞いて奮起するしかないと考えていた。

 

 

程なくして、出口が近づいてきた。

 

最後の区画に突入するアークエンジェル。これを抜ければ黒い闇が広がる宇宙空間だ。

 

「総員、警戒を厳に。出たと同時に敵は反応するわ」

 

 

「アークエンジェル、ヘリオポリスを離脱します!」

 

 

船体の前方部が宇宙空間に出た。程なくしてザフトに捕捉されるだろう。

 

民間人の居住エリアに映るモニターでも、アークエンジェルから見える宇宙空間の映像が広がっており、トールたちは固唾をのんで見守っていた。

 

「――――大丈夫、かな」

カズイが心配そうな声で、これから起きるであろう戦闘について不安を煽るような声色でみんなの前でつぶやいた。

 

「ああ。キラ、無理をしなければいいんだけど―――」

あのやり取りの後、キラはストライクに乗っている。戦闘を好んでするような性格ではない。しかし責任感を感じるタイプであることは知っているサイ。

 

 

 

「何もできないのは歯がゆいよなぁ」

トールも悔しそうな表情で、今頃ストライクに待機しているであろうキラのことを案じた。

 

「けど、私たちが何かできる、わけでもないし―――」

ミリアリアも、トールが良からぬことを考えて、戦闘の手伝いをする、なんて言い出しかねないか不安だった。だからこそ、もう自分たちにはもう手に負える状況ではないと言い切る。

 

 

「しかし、あのカガリとかいう女。かなり、ていうか変だったよな」

 

「ああ。一般人と話している感覚じゃなかったのは確かだ。カガリ・ヒラノだったっけ。オーブ代表の娘に似ている気がするんだよなぁ」

アルベルトの疑問にサイが肯定を返す。明らかに場慣れしている感があった。アサギという女性も従者そのものの行動だ。

 

「つうか、もしかすると本人かもな」

 

「おいおい。そりゃあないだろ。今頃本国で普通に毎日を過ごしているだろ、あの身分だと」

アルベルトの予想を本気にしたトールが、獅子の娘発言をするが、アルベルトはそれを否定する。

 

「それに、あんなガサツな奴が一国の首相の娘? もっとこう、上品な雰囲気だろ、お姫さまっていうのはさ」

 

 

 

それを聞いていたアサギは、この場にカガリがいなくて本当に良かったと心底思った。

 

――――ここでうかつに暴れると今度こそばれちゃう。

 

連合軍が獅子の娘をどう扱うのはわからない。おそらく、連合入りを強要する材料の一つにされる可能性が高いとリオンは言っていた。だから、アサギとカガリに出来るのは目立たないことだ。

 

―――絶対にカガリ様には聞かせられないわ

 

 

そんなやり取りをしていると、ついにアークエンジェルが宇宙空間を完全に出たのだ。

 

そしてそれと同時に、警報が鳴る。

 

 

「総員、第一戦闘配備! 繰り返す! 総員、第一戦闘配備!」

 

館内に鳴り響く警報音と、船員達への命令が飛ばされる。とはいっても、人員が足りていないアークエンジェルのクルーが持ち場につく時間はそれほどかからない。

 

 

 

網を張っていたザフト軍。

 

前方にナスカ級が2隻、ローラシア級が1隻いる状況。完全にこちらの道をふさぎに来ていた。

 

 

「やはり、ヘリオポリスを壊すという手段はとらなかったな」

クルーゼはずいぶん甘いことだと薄ら笑みを作る。連合の天使は民間人に対しては優しいようだと。

 

「こちらの出せる機体は5機。今回の戦闘では隊長も前に出るのですね」

アデスはクルーゼ自ら前線に出る重要性を認識していた。相手はそれほどの相手だということだ。

 

「ハーネンフースの作ったビーム兵器の出来が予想以上によくてな。これの戦闘データが欲しいという。ならば、私がそれを試し、本国の助けになるだけだよ」

本国で研究中だった小型ビーム兵器の運用。連合に先んじられる形となってしまったが、その試作型の兵器は無用の長物というわけではない。ありがたく使わせてもらうとクルーゼは言う。

 

「タリウスは前に出させるなよ。この戦闘の後にパイロットの補充のために本国へ戻る必要があるからな。まあ、ヴェサリウスとガモフもハンガーがさみしい状態であることは否めんが」

艦砲射撃での大天使の動きを封じるぐらいはできるだろうと軽く考えていたクルーゼ。この包囲網を少しでも厚くするために、無理を言ってこちらに来てもらった。

 

「了解しました、隊長。艦の指揮は私が」

 

「ああ。功を急ぐなよ、アデス」

 

 

 

そしてアークエンジェルは、その包囲網に対抗するための作戦を考えていた。

 

「やはり、モビルスーツはストライクとデュエルで対応し、艦船はフラガ大尉とブロードウェイ中尉で対処する、か」

 

リオンは溜息が出た。確かにメビウスではダメージを与えることはできない。しかしこうも傭兵扱いの自分に任せていいのかと。

 

「――――――」

一方のキラは初めての形式に則った戦闘態勢を前に、極度の緊張を強いられていた。

 

――――あまり当てには出来そうにないな。

 

リオンは弾幕を張るだけでもいいと考えつつ、彼に死なれたら寝覚めが悪いので、できる限りのフォローをすることにした。

 

「キラ。お前はそこまで前に出て戦うな。アークエンジェルの直掩について、離れるな。遊撃は俺一人で十分だ」

 

「――――」

キラからの反応が薄い。そこまで緊張しているのかとリオンは舌打ちをする。

 

 

「キラ・ヤマトっ!! 応答しろ!!」

 

「は、はい!!」

 

「乗るのは初めてではないだろうが、前にあまり出るな! 新兵以下の存在だ、お前は自分の命だけを優先しろ! 無茶だけはするなよ!!」

 

若干イライラが募るリオン。ルーキーに求めるようなことではない。しかし、これは人がいない弊害だとリオンはあきらめた。

 

 

「カタパルト接続。デュエル、スタンバイ。システムオールグリーン。発進を許可する」

 

「リオン・フラガ。デュエル、出る。キラ・ヤマトに無茶だけはさせるなよ」

 

その後、ストライク、メビウス・ゼロが続き、接近する機動兵器と刃を交えることになる。

 

アークエンジェルは迫りくる包囲網を掻い潜り、アルテミスへとたどり着けるのか。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。