機動戦士ガンダムSEED 理想の従者   作:傍観者改め、介入者

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第13話 紅の衝撃

リオンがまず接近する4機。後衛にいる1機を相手にするべく前面に躍り出た。

 

 

「――――坊主、前に出過ぎだ!!」

 

ナスカ級を退ける任務を貰っているエリクは、リオンの無謀にも見える突出に怒鳴る。

 

「――――陽動は一機必要です。艦に取りつかれたら、それこそ火器管制が不十分なアークエンジェルが持ちません。」

 

冷静な状況判断を下し、自信を苛烈な状況へと追い込む。しかしリオンは追い込まれた感覚すらなかった。

 

 

今はこれしか状況がない。無理をする場面と無理をしない場面は心得ている。

 

 

ストライクに乗るキラはランチャー装備を選択。アークエンジェルの甲板近くに待機し、アグニを放つ。

 

「ええいっ!!」

狙いを定めて敵モビルスーツ群に砲撃を加えるが、各個散開され、狙いが定まらない。

 

「キラっ! 無闇に打つな!! アークエンジェルと連携して敵を追い込むんだ!!」

リオンはバカスカアグニを撃っているキラを注意する。

 

 

その時、警報音がリオンの耳に聞こえる。

 

「このっ!! 同じ機体の分際で!!」

イザークはまるで鏡写しのような敵機にイライラを隠せなかった。もう一機、デュエルが存在していた。それは仕方のないことなのだが、目の前にいていい気はしなかった。

 

ロックオンし、ビームを放つもたやすくリオンはそれをシールドで防ぐ。

 

「苛烈な攻撃だな――――陽動か」

 

ちらりと横を見ると、イージス、ブリッツが側面から回り込んでいるのが見えた。

 

 

不意にデュエル二号機がスラスターを吹かせる。ちょうどブリッツとデュエルの間に位置する宙域。リオンはまず厄介なイージスではなく、ブリッツとデュエルのやりやすいほうから始末することにしたのだ。

 

「なっ! 強引に包囲を!」

ライフルでその動きを阻止するニコルだが、バレルロールしながら回避し、即座にカウンターを放つデュエル二号機の動きは速い。狙いを定めようと、無意識のうちにニコルはデュエル二号機に近づいてしまう。

 

脚部バーニアで最小限の動きをもって回避行動を続けるリオンは、横目で接近するブリッツを見てほくそ笑んだ。

 

――――黒い奴が釣れたか。

 

 

「ふざけた動きをしてぇぇぇ!!!」

まるで遊ばれているような感覚、同じデュエルでもこうも技量の差を見せつけられれば、意地にもなってしまう。イザークは尚もライフルでデュエル二号機を攻撃する。

 

 

ブリッツの攻撃を回避する癖に、デュエルの攻撃は律義に受け切っている。しかし、

 

 

「くっ!! 射線が――――」

 

ブリッツとデュエルが若干デュエル二号機に接近しすぎているため、イージスに乗るアスランが援護しづらい位置に立たされていたのだ。そのためらいがアスランにとっての悔やむ時間になる。

 

連続でイザークのビームライフルによる攻撃が当たった瞬間、デュエル二号機が少しだけ後ろに退いた。攻撃に耐えきれずに後退したのだろう。これをチャンスと見たニコルが接近戦を死角から仕掛けたのだ。

 

 

「貰った、新型っ!!」

 

 

その様子を見ていたアスランは、妙な寒気がした。

 

「待て、ニコ―――――」

言いかけた瞬間、アスランの予想が最悪の形で現実のものとなる。

 

 

「えっ!? きゃぁぁぁぁ!!!!」

急加速による上昇回避で袈裟斬りを避けられたニコルは、背後よりカウンターを仕掛けたデュエル二号機の蹴りをコックピットに食らったのだ。

 

強い衝撃で視界が揺れる彼女は悲鳴とともに視界が暗転。次の瞬間には盾代わりにされていた。

 

「くそっ! 卑怯なっ!!」

アスランが回りこもうとするが、あまりに近づき過ぎているため、うかつに攻撃もできない。

 

 

「人質だとぉぉぉ!!」

そしてさらにイザークが激昂し、その苛烈な攻撃をやめてしまう。

 

 

「―――――さて、バスターはどうなっているかな」

ブリッツの動きが弱弱しいのを見たリオンは、ムウに足止めを食らっているバスターを見た。

 

レールガンは決定打にはなり得ないものの、確実にエネルギーは消費している。砲撃重視のバスターは、新型の中でも消費スピードが速いほうだ。バカスか撃つばかりでは、早々にフェイズシフトも切れるだろう。

 

――――問題は、あのシグーだな。

 

白色の指揮官用MSは、こちらの隙を窺うように後衛に構えていた。

 

 

――――そうだな、ブロードウェイ中尉が撹乱するまでの時間潰しもそろそろ限界か

 

 

痺れを切らして、今にも襲い掛かろうとするイージスとデュエル。デュエルがやや突出しているが、それをイージスが止めている、そのような印象だ。

 

 

「キラ、3秒後にアグニで動きの鈍いブリッツを狙え。3秒後に俺は離脱する。」

 

 

「え!? は、はい!」

リオンはキラには元から期待はしていなかった。おそらく彼のことだ。手元が高確率でぶれるだろう。人殺しをしろという命令、しかも動けない敵だ。

 

――――まあ、ブリッツもまともに動けないし――――!?

 

 

思考中だったリオン。その瞬間に強烈なプレッシャーと殺意を感じた。

 

 

「よそ見とは、嘗められたものだな」

 

クルーゼが乗るシグーが、ビーム重斬刀で斬りかかってきたのだ。しかも、リオンの動きを予測して。

 

「くっ! やはり指揮官クラスは伊達ではないな」

それをやむを得ずシールドでガードするリオン。そのまま機体出力でシグーを吹き飛ばすも、ブリッツには逃げられてしまう。

 

「ニコル、まだ戦えるか?」

クルーゼがフラフラのニコルに尋ねる。

 

 

「は、はい! まだいけます!!」

ビームライフルを構えるブリッツを操るニコル。先ほどの衝撃で脳震盪に近い症状を発症しているが、まだいけると気合を入れなおす。

 

「―――――そうか、後衛で奴の隙をつけ。近接戦闘は単騎では無謀だ。無論この私もな」

 

 

一転して追い込まれたリオンだが、まだまだ余裕を見せる笑みを機体の中で浮かべているままだ。

 

「いいのか? そんなに近づいて?」

無論リオンの冷酷な笑みなど、ある男以外、気づかない。

 

「!? 全機散開!!」

クルーゼの焦ったような命令に従い、ばねのようにその宙域を散開するクルーゼ隊の面々。

 

次の瞬間、アグニの一撃がその宙域を照らしたのだ。

 

 

「っ!? ~~~~~!!!」

イザークのデュエルが回避に遅れる。右マニュピレーターが周辺に漂うプラズマの嵐に巻き込まれ、溶解する。そればかりか、コックピット付近まで破損。恐怖のあまり、イザークは声にならない悲鳴を上げる。

 

「イザークっ!? 彼を連れて下がります!!」

 

「ちぃ!! 後衛のMSか! あれほどの威力の武装を、MSに搭載できるとは」

高威力の武器だと傍目から見て感じていたが、よもやフェイズシフト装甲を容易く突破できる威力だとは想定外も甚だしい。

 

これは明らかな脅威だ。

 

「次、射角修正。35度下降。右方へ60度。2秒後に照射。」

 

ロックオン無しの完全マニュアルで射角指示を与えるリオン。彼の目が捕らえたイージスの動きを見て、その動きを予測し、先回りして殲滅する。致命打でもなくても、中破寸前まで追い込むことはできるだろう。

 

「!? ロックオン無し!? まさか―――!!」

 

アスランの予感は正しい。ストライクに乗るパイロットが、ロックオン無しでこちらを狙っていたのだ。その己の勘に従い、急旋回を行うのだが、当然Gもかかる。

 

「アスランッ!?」

急に無茶な機動で何かに逃れようとするアスランを見て心配するニコルだが、

 

「――――なるほど、赤い機体は相当運がいいらしい」

アスランの動きを見てほくそ笑んだリオン。あの赤いのは相当な幸運の星に生まれたらしい。

 

高インパルス砲の砲撃を寸前で完全回避したイージスを見て、リオンは驚きを隠せない。しかし、そこまでショックを受けたわけではなかった。

 

 

「避けた!?」

キラが驚く。リオンの指示通りにやったはずなのに、あの赤いのは逃れたのだ。指示したはずのリオンよりも驚いていた。

 

 

「隊長! あの攻撃を食らえば、戦艦といえども一撃で落とされます! ここは撤退を具申します!!」

アスランは戦艦への攻撃が本格化すれば、一撃が致命傷の攻撃を備えるストライクを無視できないと考えた。そしてその継戦によって生まれる被害は甚大なものになると確信した。

 

「ふっ、そのようだな。ニコルはイザークを連れて後退。アスランは距離をとれ。私がアレを足止めしている間に体勢を立て直せ」

クルーゼがしんがりを務める。そのことにさらに驚きを隠せないアスラン。

 

「相手は3機、単騎で抑えるおつもりですか!?」

 

「よく見るがいい、アスラン」

 

クルーゼは前方のストライクを左マニピュレーターで指さした。

 

「!? パワー切れ!? もうなのか!?」  

 

ストライクがフェイズシフトダウンを起こしたのだ。アグニの連発によって、ストライクは予想以上のパワー消費を強いられていた。試作型ということもあり、調整が進んでいないことが要因であることを、キラは戦闘終了後に思い知ることになる。

 

ムウもそんなストライクの様子を見て、この戦闘ももうすぐ終わると考えた。

 

「こりゃあ、何とか突破できそうだな」

 

「何を弱気な……追撃をされる立場なら、ここで畳みかける必要が」

リオンはそんな弱腰なムウの言動が気に入らなかった。突破だけで満足してもらっては困る。

 

――――こんなことでは、また襲撃は許すことになる! 今は無茶をする時だ

 

アルテミスで補給ならいくらでも受けられる。敵をつぶした後ならどうとでもなる。そう考えていたリオン。

 

しかし、エリクが思いのほか苦戦しているという報告も出てきた。包囲陣形を崩すのがやっとで、弾幕が濃くて取り付けないという。

 

――――モビルアーマー如きでは、分が悪すぎるか……ッ!

 

他に今自由に動かせられるのは、自分とムウのメビウスのみ。イージスが加勢すれば、こちらがやられかねない。

 

 

「残るはモビルアーマーと赤い新型。ならばこの前のリベンジもかねて、我らザフトの意地を見せる時だ」

 

「隊長!?」

 

「アスランは適度な距離を維持しろ。後衛でいつでも戦闘に参加できる場所に張り付き、プレッシャーをかけろ。奴らも奴らで強襲がうまくいかず、焦っている。苦しいのはこちらばかりではない」

 

そう言って、リオンの乗るデュエル二号機に突貫を仕掛けるクルーゼ。

 

「単騎!? まさかヘリオポリスの!」

 

あのプレッシャー。忘れるわけがない。敵部隊の中でもそこを見せない佇まい。あの一機だけはこちらの動きを冷静に見る余裕があった。

 

あの油断ならない存在が前に出てきた。この前面に出てきた理由がわかる。だからこそ、

 

彼はそれをチャンスと捉えた。ここが攻め時。

 

 

「大尉は色男の救援に行ってください。この機体は俺が責任をもって殺します」

 

 

「!? けど相手はクルーゼだ!! 一人じゃ無理だ!!」

 

「母艦さえつぶせば、後はどうとでもなる。あと、アークエンジェルは急いでストライクに新たなストライカーパックを送れ! このままではいい的だ。戦闘続行が厳しいなら帰投させろッ」

 

 

「り、リオン!?」

声を荒げるリオンに戸惑いを隠せないキラ。なぜここで彼が焦っているのかが分からない。

 

 

 

「ここで息の根を止めなければ、宇宙での追撃戦が始まる。包囲網を敷いた敵の作戦を上回り、彼らは後退する動きを見せた。戦場で弱みを見せたことを後悔させてやる」

 

 

明らかに冷静さを失っているリオン。ここで撤退を許せば、

 

―――カガリは殺させない。死ぬならお前らだけ死ね

 

 

「雑念が見える、勝利目前で気が逸ったな。少年」

 

 

「急に動きが変わった!? だがッ」

 

イージスが絶妙なポジションから砲撃を加える。MA形態で展開される高エネルギービーム、スキュラがデュエル二号機を照準に捉えたのだ。

 

「!!」

 

しかし、脚部バーニアで緊急静止を待たずに行った急加速で、アンバック機動でその攻撃を寸前で回避。体勢を崩した際にクルーゼの乗るシグーが迫っていた。

 

「その回避は予期していなかったが、これはどうだ?」

 

レーザー重斬刀がデュエルの頭部に迫る。が、

 

「舐めるなっ!!」

頭部バルカン砲が火を噴く。至近距離から放たれた弾丸が僅かにその斬撃の軌道をずらしたのだ。

 

「ぬうぅ!!」

一撃を期した攻撃を阻止され、盾によって防がれる。さらに――――

 

「貴様さえ殺せばッ!!!」

 

盾ごとシグーを突き飛ばすリオン。その衝撃に歯を食いしばりながらも耐えることを強いられるクルーゼ。尚もリオンはバーニアを緩めることはない。

 

「まるで獣だなッ!! だがっ!!」

 

しかしクルーゼも負けていない。尚も盾で押し飛ばそうとするデュエル二号機にけりを入れ、強引に機体をずらすことに成功するのだ。

 

 

「!! 逃げられた!?」

 

苦戦は必至。このシグーをしとめられなかったのは痛い。イージスとシグー。ブリッツはデュエルとともにすでに後退した。

 

 

その時、クルーゼとリオンから離れた場所で、大きな光が一瞬輝いたのだ。それも、大きく、そしてくっきりと。

 

 

「「!!!!」」

同時に反応するリオンとクルーゼ。アレは――――

 

――――敵が一隻、落ちた!! これで――――

 

 

「すまん、エリクが負傷した!! これ以上の戦闘は無理だ!!」

 

ムウからの焦りの感情を感じさせるものだった。

 

 

「タリウスが轟沈したか。これ以上の戦闘は厳しいか――――」

 

ガモフ、ヴェサリウスも損傷を受けている。たかがMA一機に不覚を取った。が、これではもう戦えない。

 

 

目の前にいるデュエルは動かない。いや、ここで消耗戦を挑むのはどちらにも利がない。

 

「――――貴様を見ていると、憎悪の炎が燃え上がる。お前は、あってはならぬ存在だ」

 

デュエルのパイロットに聞こえるはずがない。通信手段はない。あくまでクルーゼの独り言だ。

 

 

「――――お前は、俺が殺さなきゃいけない。お前は、彼女の夢を壊す存在だ」

 

一方、リオンもクルーゼが誰なのかを理解しきれなくても、彼が彼女を将来傷つける存在になると、彼の六感が告げていた。

 

 

「「貴様は俺(私)が殺す。他の誰でもない、お前は俺(私)に殺されろ」

 

互いに理解してしまったからこそ、分かり合えないことを知っている。ここでの戦いは終わったが、目の前の宿敵とは今後も戦う運命にある。

 

 

互いを敵と認識した最初の戦いは、味方の被害が大きく痛み分けとなる。

 

クルーゼが後退する船に合流し、リオンが負傷したエリクを心配する。

 

 

「本当に無茶をして! フラガ大尉とともに強襲に行くべきでした」

 

「ははは……けど、お前らに任せっきりだとな。ここは大人が踏ん張らなきゃいけないでしょ。前線で防衛なんて言う難しい役目を任せたんだ。何とか一隻沈めたぞ」

コックピット部に被弾したものの、爆散は免れたエリク。しかし、当分メビウス・ゼロは使えないどころか、予備パーツの余裕もない。

 

ローラシア級一隻を沈めたとしても、エリクの離脱は痛すぎた。

 

「けど、まさかあのラウ・ル・クルーゼと互角以上に渡り合うとはな。連合内でもいないぞ、そんなパイロットは。まあ、初めて戦闘に参加したモビルスーツ乗りがお前なんだが」

ムウもまさかあのクルーゼと戦える存在が他にいるとは考えていなかった。自分よりも腕は上で、ここまでやれる。今回は年相応の血の気の多さが見受けられたが、その判断も間違ってはいなかった。

 

「いいえ。理想と現実の違いを受け入れられず、一歩間違えれば死んでいました。今後は気を付けます」

リオンは俯きがちにそう零した。快挙といってもいい戦闘で反省をするような態度に、ムウは頼もしさを感じる。

 

「まったく、連合に入ってもいいんだぜ。お前なら歓迎されるぜ」

 

「――――それが俺の野望に近づくのであれば、考えますが。現在は対象外ですね」

ぶっきらぼうにそのつもりはないと吐くリオン。

 

「あらら」

 

 

ヘリオポリス宙域で、初のモビルスーツ同士による宇宙での戦闘が行われた。乗っていたのは一介の傭兵。ナチュラルと言われているが、詳細は明らかになっていない。

 

それが年若い、後のオーブのエースであることを、世界は知らない。

 

 

 

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