機動戦士ガンダムSEED 理想の従者   作:傍観者改め、介入者

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第14話 紅が奏でる不協和音

包囲網を振り切ることに成功したアークエンジェルだが、エリクのメビウスが完全にスクラップ状態になってしまったことは想定外だった。

 

貴重な機動戦力が失われたことで、意気消沈するブリッジの面々だったが、

 

「けど、これからの主役はモビルスーツだぜ。アーマー乗りの俺が言うのもなんだけどさ。今のうちに慣れといたほうがいいかもな」

ムウは、むしろエリクを縛るものがなくなり良かったと考えていた。幸いなことに、鹵獲したジンが2機収容されている。ほぼ破損もなく、修理も完了しているので使えないことはない。

 

「まあ、一応コーディネイターだし、使えないことはないのか。やるだけやってみますよ、大尉」

ジンのコックピットに乗り込んだエリク。同じコーディネイターなので、武装と動かし方さえ覚えれば、すぐに扱えるだろう。

 

「けど、もう一機なぁ。そろそろ俺も乗り換えないと時代に乗り遅れちまうようなぁ」

ちらっ、とムウはリオンのほうを見た。彼の言いたいことを理解したリオンはやや不機嫌そうな顔をする。

 

「確かに、協力は間違いではないですが、一応モルゲンレーテの技術の一端でもあるんです。おいそれと出すわけにはいきません。だからこそ、傭兵契約で連合とオーブ到着までの防衛という約束を結んだのですから」

きっぱりと、OS開発には手を貸さないと断言するリオン。

 

「はぁ、参ったね。けど、それよりも参ったのは、なあ」

残念そうに肩をすくめるムウ。いったんOSのことはあきらめ、目下の悩みについて語り始める。

 

「――――オーブ国民に罪はありません。ノズルをやられているのなら動けるわけがありません。襲撃の際にどこかの内壁に接触し、故障の原因になったのかもしれません。」

 

そうだ。現在アークエンジェルは救命ポッド二隻を収容する事態に陥っているのだ。

 

話はさかのぼり、リオンとクルーゼの死闘が終わる直前。

 

キラがソードストライカーで再度出撃をした際に、ちょうど戦闘が終了してしまい、周囲への哨戒も短時間ながら行っていたところ、動力部が故障し動けなくなった救命ポッドを発見したのだ。

 

本来なら物資の備蓄が苦しい中、乗船する人数が多くなると辛いところだが、食料面については万全という状況であるため、渋々ではあるがナタルも縦に頷き、マリューが許可をしたのだ。

 

元々クルーの人数が不足気味だったため、居住区に関してはいろいろな機材や機密文書の引っ越しをすることで確保することが出来た。

 

そこで、身分や身元を証明する時間に人員を奪われ、戦艦を動かすことにさえ苦慮するようになってしまった。

 

「――――俺はまだ認めていませんよ。なぜ彼らがブリッジに出張ってくる必要があるのか。彼らは民間人。キラと同様に戦う覚悟もないような奴らだ。彼らは戦争にかかわるべきではない。彼らの今後のためにも」

リオンはキラの友人たちまで巻き込んだムウの提案に怒りを覚えていた。エリクは上官の指示には従う、ナタルは物理的に現状では回らないと渋い表情を浮かべ、マリューに至っては、責任は自分が取る、と言い出す始末。

 

 

――――そういうことではないんですよ。

 

「確かに、お前がいれば大概の敵は何とかなるだろうさ。けど、この船が落ちればお前もそうとは言えなくなる。今は非常時なんだぜ。この状況が嫌なら、前線の俺たちが頑張るしかないだろ?」

 

ムウの言うことはもっともなのかもしれない。しかしそれはあくまで連合の側に立った場合の、最善の選択だ。

 

必ずしも、オーブに属する自分の最善ではない。とはいえ、オーブに属する証拠を何一つ持たないリオンは、それを正直に言う理由もない。そのすべてを私的な理由で片づけることが出来るのだから。

 

現在、彼はリオン・フラガとまだ認められていないのだ。その名前を騙る偽者と。

 

 

「まあ、早いところアルテミスで民間人の避難ルートを早々に決めて、何とかしないとな。疲労や不安もたまっているだろうし」

エリク・ブロードウェイは、一刻も早く彼ら民間人が解放されることを願っていた。民間人が船内にいる現在、彼らのストレスは相当なものだろう。

 

「――――キラはまだ自室から出てきませんか」

 

 

「酷なことをした、と思っているさ。あいつにはまだ戦闘が早かった。お前の言うとおりだった」

リオンの忠告は聞き入れられなかった。その結果キラは戦闘後に訪れた形容しがたい恐怖に襲われている。もうMSに乗れないかもしれない。

 

「――――ちゃんと訓練した新兵でも、あの戦闘は厳しいものでした。キラが生き残ったのはある意味奇跡です。」

 

 

となると、今後動けるのはリオンとムウ、そしてアルテミスにつく頃にはエリクも戦列に復帰できるかもしれない。

 

 

民間人の身元確認の最中、トールたちはブリッジでパル伍長の指導を受けて、乗組員としてのイロハを学んでいた。

 

「しかし、すごかったなぁ、リオン」

トールは2つ年上には全然見えないほど、戦場で大立ち回りを演じたリオンについて言及していた。

 

「ああ。あいつ一人でこの船を守ったようなものだった、な」

アルベルトも、オーブ本国で出会ってから、あそこまで差をつけられていたことを知り、驚いていた。

 

――――みんなは忘れているけど、あの時の二人組は、あの二人だった、よな

 

カガリが強引にリオンを外に連れ出して、自分たちのグループと遊んだ。その時の笑顔があまりにも幸せそうだったから、今もなおアルの記憶に残っていたのだ。

 

「けど、傭兵ってことはオーブに入るまでの契約らしいわね。やっぱりオーブ軍に所属する人なのかしら?」

ミリアリアはリオンの行動指針が怪しいと感じていた。

 

「何言っても腹を割ってくれないだろ。あいつ、なんだか義理堅い性格をしていると思うし」

サイもリオンが真実を語らないとあきらめていた。アレは味方だと恐ろしいほどに頼りになる存在だ。

 

「このままアルテミスに行けば、民間人の今後も保証されるのかな?」

カズイは、民間人の安全に関する情報を知りたそうだった。

 

「いや、まだ厳しいんじゃねぇの? 地球からどんだけ離れていると思ってるんだよ。まだまだ安全なんてないだろ」

トールは手をひらひらさせて、それはないと断言する。第一下ろす場所もない。

 

「―――ハァ、アルテミス、かぁ」

トノムラ伍長が唐突にため息をついた。アルテミスというワードが彼には不安だったらしい。

 

「伍長?」

アルベルトがそんな彼のため息に反応する。

 

「所属コードなし、おまけに大西洋連邦の独断で行われた新型機動兵器の開発。アルテミスが何をしてくるか不安しかない」

 

「え!? でも同じ地球軍ですよね!?」

 

「いろいろあるんだよ、連合軍もな……」

パル伍長もその話に参加し、肩を落とす。

 

 

その後二人は、今日はもう軍務を終えろと言い放ち、トールたちに休息を強引にとらせた。

 

「今ぐらいだからな、休むことが出来るのは。できるうちに体力を温存しとけ」

とのこと。

 

 

 

そしてトールたちは部屋でふさぎ込んでいるキラの元へと向かうのだが、

 

 

「サイ……サイっ!! サイなのね!!」

廊下を進んでいると、曲がり角でピンク色のドレスを着た赤髪の少女と遭遇したのだ。

 

「フレイ!? どうして君がここに?」

サイも許嫁がここにいるとは思っていなかったらしく、驚いた顔をしていた。

 

その後、ヘリオポリスでサイたちと別れた後のことをマシンガントークで話していくフレイ。疲れ切っていたサイは、そんな表情を何とか出さないよう努力していた。

 

 

――――よくやる。俺なら欠伸はするね

 

アルがやや呆れた視線を送るが本人は気づかない。

 

―――ミリィ相手だと、そういう疲れは吹き飛ぶかなぁ

 

――――リア充め、末永く爆散しろ

 

トールのリア充特有のアレを見せつけられ、アルはげんなりする。

 

「私怖かったんだから! モビルスーツが飛んでるし、サイは側にいないし! ねえ、サイ! 聞いてるの!」

 

尚も止まらないフレイのトーク。ここにはキラもいない。

 

「いきなり戦争が始まっちゃうし、知らない人ばっかりだし、シェルターはあちこち埋まってるし、やっと逃げ込んだら壊れちゃうし……もう最悪!!」

 

トールは、ああいう高飛車な女子が嫌いだった。隣を歩いてくれる普通の女の子が好みなのだ。確かに今まで見た中で一番の美人かもしれない。だが無理だ。

 

――――耐えていく自信がないぜ

 

「もう、フレイもそのへんにしなさいよ。みんな今は不安なんだから。ここで不満を言っても空気が悪くなるだけよ」

ミリィもいい加減聞き疲れたのか、話を強引に切り上げようとする。彼女も早く疲れをいやしたかったのだ。

 

「でもっ! 私、間違っていることは言っていないわ」

 

しかし止まらないミリィ。トールの手首をつかんでどこかへ行ってしまう。

 

「え!? ミリィ!? すまん、サイ!」

 

「あ。大丈夫、フレイのことは俺に任せて――――」

 

フレイもフレイでミリィの態度は気にも留めておらず、今は自身の不安をぶちまけることに集中しているようだった。

 

「まったく、やんなっちゃうわよ。戦争なんてよそでやればいいのに。いい迷惑だわ」

 

「フレイ、声が大きいよ」

 

「何でよぉ、サイだってご両親と別々に避難することになっちゃったんでしょ。こんな軍艦に入れられて。ザフトが悪いんじゃない。怒って当然よ」

 

 中立のコロニーに攻撃すること自体が言語道断。これだから野蛮なコーディネイターは、

とフレイは怒り心頭だった。

 

それは彼らのいる廊下のすぐ近くに位置する食堂に居た他の避難民にも聞こえる大きさの声だった。

 

別に同調の声は上がらないが、かといってフレイに否定的な空気もない。中には同意見の表情の者もいる。

 

ただし、へリオポリス避難民の中にもコーディネイターはいる。彼らは肩身が狭そうだった。ムウがいたらエリクのことで小言が増えるだろうが。

 

トールも、ここを再一人に任せるのは酷だと考え、

 

―――悪い、騒ぎになる前に何とか抑える。先行っててくれ

 

――――わかったわ。トールたちの分は用意しておくね

 

と言ってミリィを先に食堂へと行かせたトール。

 

「もうよそうぜ。いろんな考えの人間がいるんだって。全部真に受けてたら体が持たないって―――」

何とか明るい空気にしようとトールが奮起するが、一度淀んだ空気を払拭するには、荷が重かった。

 

「フレイ、止めなって。食べて部屋に戻ろう。もうすぐお父さんにも会えるからさ」

サイにも嗜められ、フレイは渋々頷いた。トールの言葉は虫に等しい態度ではあったが、婚約者の言葉にはうなずいたのか、彼女は何とか大人しくなった。

 

 

そこで終わりだと思えたのだが、今度は黙って食事をしていたカズイが呟いたのだ。

 

「てゆーかさ、ホントに大丈夫なの? この船」

 

「ちょ……」

トールが今ここでいうことかと。そういう話ならいくらでも部屋で聞いてやるのに、と言おうと思ったが、言っていないので手遅れだった。

 

 

「リオンやキラが戦ってくれたおかげで、さっきは逃げれたけどさ。またザフトが来たらどうするの、これ」

言ってはいけない言葉だった。何とか包囲網を突破して、アルテミスへ航路を決定し、一応の指針が決まったこの時では、水を差してはいけなかったのだ。

 

 

避難してきた者は皆、同じ事を考えていたことは、不思議なことではなく、むしろ当然のことだった。

 

自分たちはいつになったら解放されるのか。いつになったら日常に戻れるのか。

 

 

安全な所につく前に、また襲われたらどうするのか。それを守れる保証はあるのか。リオンとキラという少年が、自分たちを完璧に守れる保証はどこにあるのか。

 

「あっ……」

 

周りの食事をしている者達の手が止まった。食堂にいたミリアリアも彼らの様子が変化していくことを感じ、不安を抱え始めた。

 

「カズイ。もうよせよ、食って戻ろうぜ、な。大丈夫だよ、すぐに安全な所につくって。兵隊さんたち言ってたじゃん」

せっかく先ほど軍務の手伝いをしていたというのに、これではどっちが人でなしだ、とトールは頭を抱える。

 

「降伏しちゃってもよかったんじゃない? そもそもさ、何で僕たちが連合の船にいる訳?」

トールの明るい声にも、カズイは感じ取ることをしようとしなかった。他の避難民も手を止めて完全に聞いている。完全にその方向へと傾き始めていた。

 

「おいおい。そりゃあ避難する場所がなかったからだろ。あの後シェルターを探すほうが危険だろ」

これまで黙っていたアルベルトがついに動いた。カズイの気持ちもわかるが、言動がぶれてきている。ここは冷静になるべきだと考えていた。

 

しかし察してほしい。生まれて初めて死の危険を感じて、ストレスがない方がおかしいのだ。こんな状況で、冷静になってザフト軍のパイロットを殺戮しているリオンがおかしく、何とか耐えられているトールとサイ、アルベルトのメンタルが強いだけなのだから。

 

「別に中立のコロニーの人間なんだからさ、僕たちはどっちでもいいじゃんか」

 

「止めろって。怒るぞ、他の人の迷惑だろ……」

サイが強い口調で諫める。どうしてしまったんだ、とサイは戸惑っていた。

 

「だって、あいつらは何かおかしいじゃんか。なんであんな大変なことが出来るわけ?」

 

「ねえ、どういう事? 何の話? あいつらが何?」

カズイの疑問にフレイが反応してしまう。今まで大人しくしていた彼女も動いてしまった。

 

「君たちがこの船に乗るとき、モビルスーツが戦ってたろ? 白いのに乗ってたのがキラなんだよ。それと赤いのは、頭のおかしい金髪の男だよ。連合に戦わされてんの」

 

カズイの言っていることは至極まともだ。心優しいキラが戦闘をしたいなんて思うわけがない。無理矢理に近い形で戦いを強いられているのは事実だ。

 

そして、リオンが頭のおかしい狂人に見えるのも仕方のないことなのだ。あそこまで軍事行動下で動くことが出来、民間人です。

 

おかしい。絶対にお前はおかしいだろう、まともな感性ならそう思うに違いない。

 

「ねぇ、そのあいつらっていうのは、コーディネイターなの?」

フレイの疑問に口を動かそうとするカズイ。

 

「カズイっ!! いい加減にしろ!!」

しかし、サイがここで最後のストップをかけた。声を荒げる友人を見て思わず眉を顰めるカズイだったが、それ以上は口にしなかった。

 

「今は非常事態なんだ。その辺りは考えろよ。」

 

「――――――」

 

「と、とりあえず飯にしようぜ。ミリィを待たせるのも悪いし、さ?」

 

「同感だな。腹が減ってみんなイライラしたのかもしれないしな」

 

トールは笑顔が引きつりそな状況で無理やり明るい顔を作り、みんなを先導する。アルももっともらしいことを言って、みんな少し冷静ではなかったという逃げ道を作る。

 

 

 

不穏な空気を出しつつも、一応の寄港ポイントを作ることが出来たアークエンジェル。

 

 

しかし天使に課せられた難行は、まだ始まったばかりに過ぎなかった。

 

 

 

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