機動戦士ガンダムSEED 理想の従者   作:傍観者改め、介入者

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第19話 穢れなき騎士

プラントでは、ラクス・クラインの捜索に火がついており、アスラン・ザラは、ラウ・ル・クルーゼとともに新たな部下を引き連れ、ヴェサリウスに搭乗した。

 

 

「―――――」

一言も話さないフィオナ。対してニーナはアスランの横でフィオナとアスランの様子をニコニコしながら見守っていた。

 

「緊張しているのか?」

 

「いえ。軍務中です、あまり私語をするべきではないかと考えましたので」

ツン気味なフィオナ。仕事中なので、余計に意識しないようにしているのがわかる。

 

「初めての任務はみんなそんな感じだ。俺もそうだった」

アスランもフィオナの様子は無理からぬことだという。初めから力を入れていると、後半持たなくなることも知っている。

 

「――――ただ、ラクス姉さまが大変な時に、笑うことなんて――――」

俯きながら白状するフィオナ。アスランが訓練校に入り、しばらくの間ラクスと何度か交流する場面があったのだ。そこで彼女と親しくなったフィオナは、ラクスと親交を深めた。

 

あのアスランの婚約者。とてもやさしい人だったことが印象的で、銃を持つような人でもなかった。

 

「――――分かっている。ラクスが戦争に巻き込まれることに、何も思っていないわけじゃない。正直悔しいさ。あんなに平和を願っていた彼女がなぜ――――」

 

「アスランさん――――」

ニーナは悔しそうにしているアスランを見て、憧れよりも理解が進む自分に悟る。

 

―――この人は、憧れなんかじゃない。アスランさんも、人間なんだ

 

誰かの幸せを望んだり、その不幸を悲しんだり。どこにでもいる、いそうでいない優しい人なのだと知った。

 

 

その後、シルバーウィンドの残骸だけが残されており、近くには強行偵察型ジンの残骸も発見された。

 

さらに、抜け殻となった救命ポッドが見つかり捜索は中止された。まだ国民感情を考えて、ラクス・クライン捜索の打ち切りは発表できず、一部の者たちにのみ知らされることになる。

 

が、意外な場所で彼女の身柄が発見されることになる。

 

 

その後、ガモフと合流を果たしたアスランたちは、ジェシー・オロゴン率いるオロゴン隊とも合流し、4隻からなる大部隊で第八艦隊と地球への降下を敢行するであろうアークエンジェルを追撃することになる。

 

新型Gシリーズが4機。ジン、シグー、ハイマニューバを含む総勢20機のMSで決戦を挑むことになったのだ。

 

「壮観だな。足つきを落とすためにこれほどの戦力が揃うとはな」

クルーゼは少し突いただけなのだが、評議会は新型がアラスカにわたることを恐れた以上に、足つきにいるであろう連合のエース、赤い彗星を何としても撃破したいということだ。

 

 

「ラクス・クラインを襲った地球軍に報復をと、本国からも志願兵がいたほどだからな」

ラクス・クライン不在の影響は、日に日に増していた。今は評議会が何とか情報の流出を抑えているが、もし決壊すれば、プラントは急進派一色に染まるだろう。

 

早期に彼女が見つかれば、ここまで膨れ上がることもなかっただろう。だが、穏健派の総本山のクライン派閥の中にも彼女のことを悼む兵士が出てきている。

 

―――――しかし、予想したほどではないな

 

クルーゼは、ラクス・クライン襲撃事件でプラントの地球連合軍への怒りがさらに増すものかと考えていた。しかし肝心の油が、ただの水だったというのは納得できるものではなかった。

 

 

―――――意外なほど理性的だな、アスラン・ザラ

 

温厚だが、情に厚い彼は怒り狂うはずだった。しかし彼は嘆き、それでも自分の道標を忘れない。父親とは違い、血縁を疑うほど理性が働いている。

 

――――しかし、まあいい

 

アスランが油にならないのであれば、他の油を探すだけだ。幸いにも、油になり得る存在は他にもいる。クルーゼ隊には議員の息子を筆頭に、ユニウスセブンにおいて象徴的な少女までいる。

 

アークエンジェルという厄介な存在を消したうえで、こちらの部下の一人や二人が消えたとしよう。戦争拡大の理由が出来上がる。

 

 

―――――フィオナ・マーベリック。もう一度その痛みを思い知るとき、君はどうなる?

 

彼女は間違いなくアスランに依存している。身寄りのない彼女を温かく出迎えたのはアスランであり、ザラ議員だ。そんな大切な人たちが殺されると思えば、彼女はクルーゼ好みの戦闘人形になり得るだろう。

 

――――痛ましい現実は、世界中でどこにでもあり得ることだ。

 

 

何か、心の中で引っかかるものを感じたクルーゼだったが、その原因を知ろうともしなかった。孤独となったものが光を見つけた時、その光を奪われないよう、必死になるのは人の性だ。

 

普通の人間ならば、きっとそうなってしまう。だが、

 

―――――赤い彗星。貴様は厄介だ

 

彼は、そんな普通が通用しない人間だ。おそらく彼は、自分と他人を同格に見ていない。全ては自らの理想の為の装置だ。望ましい存在をただ活かしているだけだ。

 

 

恐らく彼は、自分と同じ存在。自分のエゴを貫くことこそ是としている。そして、そのエゴは互いに許容できない。

 

 

―――――同じ存在が、仇敵とはな

 

 

赤い彗星。宇宙空間で縦横無尽に動き回り、アークエンジェルと合流しようとした部隊と交戦したモロヘイヤ隊が、その赤い機体によって全滅したとの報告もある。

 

「赤い彗星。同じ色を着る者として、負けられせん」

彼のことは脅威だ。アスランは交戦経験が複数ある貴重な人物。

 

「その意気だ、アスラン。デュエルの修理も完了し、イザークも出られる。ニコルも落ち着いたから、これでようやく4機でまた攻めることが出来る」

 

デュエルは改修され、アサルトシュラウドと呼ばれる追加武装を装甲に装着している。これで火力不足だったデュエルは短所が消え、より戦果を期待できるだろう。

 

「おのれ、ストライクめ! この借りは絶対に返すからな!!」

そしてイザーク・ジュールはあの白いストライクに執着していた。デュエルの機体を著しく傷つけ、自分を負傷させた敵。必ず自分の手で殺してやると意気込んでいたのだ。

 

「まあまあ。熱くなると視界が狭まるってね。けど、俺はこの砲撃で足つきを落とすだけさ」

ディアッカも、さんざん自分をコケにしたばかりか、自分たちと同じ規模だった部隊がたった1機によって全滅させられたことに、内心恐怖を抱いていた。

 

―――母艦さえつぶせば、後はどうとでもなる

 

「何を悠長な! 今すぐ出撃するべきだ!!」

イザークがディアッカの冷静な物言いが気に入らないらしく、食って掛かる。

 

「―――イザーク、一番いい局面で奇襲を行う。合流は阻止できませんでしたが、降下中はさすがの足つきも、攻撃オプションは使えないでしょう」

 

ニコルは、あくまで冷静に敵を知り、己を知ることをやめない。血の気の多いイザークをなだめるために、理論詰めで説得する。

 

「そうだな。アークエンジェルは確かに積極的に戦闘に参加は出来ないだろう。だが、赤い彗星がそれを予期しているとすれば、モビルスーツでの戦闘はあるだろうな」

 

「望むところです! 今日こそあいつらを落とす!!」

赤い彗星が出てくるかもしれない、クルーゼの言葉に、イザークがさらに熱くなる。

 

 

新兵同然のニーナとフィオナは、

 

―――か、会話に入れないよぉ~~

 

―――入る必要性を感じないわ。クルーゼ隊長の話を聞くだけで事足りるわ

 

 

 

その後ブリーフィングが終了し、イザークはニーナとフィオナ、女性兵士に食って掛かる。

 

「おいっ!」

 

「―――っ!!」

ニーナは背中をびくっと震わせ、恐る恐る後ろを振り返る。

 

「よくそんな怯えた目で戦場に出てこれたな! 後、ストライクという白い機体は俺の獲物だからな、絶対に手を出すな!」

 

「は、はいっ!!」

びくっ、としてニーナは敬礼で返す。初対面で怒らせるようなことをしたのだろうか、とニーナは頭が真っ白になる。

 

「―――――――」

フィオナはその様子を見ているだけだった。

 

「あと、アスランと仲が良いからと言って、お前も調子に乗るなよ。あの新型には新型しか勝てん!! ジンやシグーでは無理だ!」

 

これは、なんだかんだ自分たちを危険から遠ざけようとしているのだろうか。

 

フィオナはイザークの不器用過ぎる物言いに微笑んだ。

 

 

「!? 何がおかしい!!」

笑われるとは思っていなかったので、イザークの声がさらに荒くなる。

 

「いえ。後輩思いな先輩方に恵まれて、私たちは幸せだと感じただけです。ご心配なく、私たちは先輩方の露払いをします。後はどうか、存分に」

そして敬礼で返すフィオナ。このフィオナの一言で、部隊内での印象が変わった。

 

 

―――アスランの家で預かっている子だよね、理知的で頼りになりそう

 

ニコルは、冷静な視点を持つフィオナが来たことで、フォローの責任から少しだけ解放されると考えた。いつも自分の考えが採用されるのは、かなり責任が重いのだ。

 

―――へぇ、いい女じゃん。戦闘終了後に口説きに行こうかな

 

初々しいニーナも好みだが、理知的な雰囲気を出すフィオナに狙いを定めたディアッカ。ああいう鉄面皮の女の仮面を剥ぐことに、強い達成感を味わいたいのだ。

 

 

「分かっているならいい。分を弁えろよ。アレと戦うには新型だけだ。どうしてもやりたいなら、複数で囲め!! ほかの兵たちも聞いているのか!!」

 

他のパイロットたちもイザークの言葉に耳を傾けた。つい先日、モロヘイヤ隊が返り討ちにあったことを知っている。複数回足つきと交戦し、生還しているだけでもすごいことなのだ。

 

新型と既存のMSには大きな性能の差があることは明白だった。

 

 

イザークとフィオナの騒動が起きたが、今後に影響はなさそうだった。むしろ、緩んだ空気を引き締めるいい効果となったといえよう。

 

 

「こ、怖かったよ~~。よくフィオナは平気だったね」

 

「私は何も悪いことをしていないわ。だから、堂々としていただけよ」

ニーナがフィオナの横に移動し、格納庫へと向かう。そのフィオナはイザークに何を言われても落ち着いていた理由に、後ろめたい感情がなかったことを挙げる。

 

「そういえば、リディは大丈夫かなぁ。砂漠がいやぁ、とか言っていたよね」

リディアはアフリカ戦線に配属されている。今頃はバルドフェルド隊長に挨拶をしているところだろう。

 

「リディアなら大丈夫。私たちが足つきを地球に落とさなければね」

 

「も、もう!! そういうことを不意打ちで言わないでよ~~!!」

 

 

二人はそれぞれの愛機に乗る。まだまだパーソナルカラーを与えられていないひよっこだ。緑色を基調としたハイマニューバに乗り込んだ。

 

 

 

 

そんな様子を見ていたアスランとニコルは、

 

「なんだかんだ、いいコンビですね」

 

「ああ。フィオナが元気そうで安心したよ。捜索打ち切りで消沈していたからな」

アスランは二人の後姿を見て、何としても守りたいという感情が強くなった。そして、捜索打ち切りによって、フィオナが落ち込んでいたことも知っている。

 

 

「――――その、アスラン!」

ニコルはそのことで、アスランに言いたいことがあった。が、言葉が出てこない。簡単な言葉を投げかけても逆効果だからだ。

 

「大丈夫、とは言えない。だが、俺は生きている。だからこそ、仲間としてやってきたフィオナと、あいつの友人を、そしてクルーゼ隊の皆を守ることに全力を尽くすだけだ」

 

ラクスの生存が絶望的、という現実を突きつけられてなお、アスランは屈するわけにはいかない。

 

 

そんな理由で仲間を危険に晒すことはできない。しかも、自分を慕ってくれた妹分とその友人までいる。

 

――――どんなことがあっても、俺は立ち止ることを許されない。

 

 

「アスラン――――っ」

 

 

「――――頭の固い俺には、大局的なことを考えてもいい結果は生まれない。なら、上の命令を果たすまでだ」

 

そこには、軍人としての覚悟を示すアスランの姿があった。

 

 

 

 

 

一方、アークエンジェルは低軌道宙域で、アガメムノン級母艦、メネラオスと合流を果たしていた。

 

民間人はシャトルにて移動となり、帰国の準備が着々と進んでいた。

 

―――あとは、どうやってラクスを民間シャトルに入れるかだが、

 

 

リオンはラクスをどうやってシャトルに入れるかを考えていた。

 

そのことで、ラクスと相談をしに行くのだが、

 

 

「そんなことが、そんなものまであるんですね(そうですね、では手筈通りに。ハルバートン中将と話をつけ、シャトルでアサギとともに合流してください)。勉強になります、セイラさん」

 

「ええ。そうなんです。プラントのコロニーはだいぶ進んでいるでしょう?(はい。アサギさんとはいろいろとお話をしました。ハルバートン中将との話し合いでは、わたくしも出たほうが)」

 

「ヘリオポリスも時間が経過すればそうなっていたかな。いや、別のコロニーを作ったほうが早いかな(いや、顔が割れているということもある。うまく言い逃れするさ。)」

 

いつも通り紙面と言葉による会話。よく訓練されている両者のおしゃべりも慣れたものになっていた。それに、ラクスはこの状況で少しワクワクしていた。

 

―――まるで、スパイになっているみたいですわ

 

幼いころに、スパイが主役の映画を見た時も、あの手この手で困難を乗り越える姿にあこがれを抱いていた彼女は、今の状況がまさにそれだと思った。

 

映画と違うのは、一介の傭兵がプラント代表の娘である自分を救うところ。誰にも悟られないよう、細心の注意を払い、行動を共にしているところ。

 

―――あとは……

 

その続きの言葉を考えた時、ラクスは顔を赤く染めた。己惚れてはいけない。リオンとカガリには、自分が入れないような絆の深さを感じた。

 

そして、アスラン・ザラから目の前の少年に心変わりしているのが、酷く浅ましく思えた。

 

「どうかされましたか?」

 

「いえ。何から何までありがとうございます、リオン様。このご恩は忘れませんわ」

 

「セイラさんの長旅が良いものであると信じております」

 

 

そして、アークエンジェルでは、ハルバートン中将がアークエンジェルクルーを集めていた。

 

その後別室にて、ヘリオポリスの学生たちも集めている。

 

 

「まずは、改めて諸君らに礼を言わねばならんな」

 

ハルバートン提督は、最初にそう言って始めた。

 

「ヘリオポリスから此処までの道中、よくぞGとアークエンジェルを守ってくれた」

 

一見すると、もの優しそうな初老のおじさんだが、その実、なかなかの切れ者で知られるハルバートン提督。

地球軍本部が消極的だったGシリーズを積極的に推し進めたのが彼であり、連合の今後を考えれば有能といえる人物だ。

 

赤い彗星と言われるストライク二号機の活躍ぶりは第八艦隊では歓迎されており、計画当初から反対していたアラスカの連中はその非を認めず、責任の押し付け合いをする始末。

 

「勿体無いお言葉です、閣下」

 

ハルバートンの昔からの部下であるマリューが敬礼をしながら答えた。その隣にはムウとエリク、ナタルが直立している。

 

「しかし、奪われた4機のGは我々の予想を遥かに超えた性能を発揮しております。味方ならば心強いですが、敵となると……今後の奮起が一層求められます」

副官のアラン・コーウェンは、奪われたGのことを考えれば、まだプラスではないと考えている。しかし、現状に甘えることなく、プラスに近づけたいとも考えている。

 

「だだの脅威にしかならない……か」

ナチュラルよりも身体的能力が高いコーディネイターが操るMSに対抗するために作り上げたGシリーズ。

それが敵に奪われて自分達の身を危険に晒してしまうなど、本末転倒だった。しかし、それほどザフトにとっては、新型が脅威であったのには違いない。

 

「これを機に本部の連中が重い腰を上げてくれれば戦局も変わるのだが……あいつらめ、前線での被害を紙の上でしか理解しておらん!」

憤りを隠せないハルバートン。今こうしているときでさえ、連合軍は苦戦を強いられているのだ。

 

「閣下……」

 

「ラミアス大尉、何としてでもAAとストライクをアラスカに持ち帰ってくれ!」

 

「ハルバートン提督。その事で1つお話があるのですが」

 

ナタルが初めて口を挟んだ。

 

「我々に残された3機のG。うち、ストライク一号機に乗っていたのがコーディネイターの子供だということはお知りでしょうか?」

 

「ああ、ヘリオポリスの学生だと聞いたが。他にも友人が数名、AAのクルーとして志願したと聞いている。赤い彗星も元はオーブ国民と聞く」

 

「ストライクのパイロットであるキラ・ヤマト、並びにリオン・フラガという少年は今後、どのような処置をお考えになっているのでしょうか?」

 

不可抗力とはいえ、兵器に乗ってしまったキラ。一般人としての、その行為は犯罪だ。

その為、一時的にマリューがキラ達に仮の軍人階級を与えたのだ。

 

「そうだな……本人達が希望するのなら地球降下時に別シャトルでオーブに送り届けようと思っているが?」

 

「しかし、彼は我々にとって非常に魅力的な力を持っています」

 

マリューとムウが弾かれた様にナタルを見る。彼女の言いたいことが分かったのだ。エリクはナタルに詰め寄る。

 

「おいおい、コーディネイターならここに俺がいるだろう!」

エリクも体調を崩してまで今まで頑張ってきてくれたキラをまだ戦闘に参加させるのかと憤る。

 

「パイロットとしてもそうですが、技術者としても貴重な戦力と……」

 

「馬鹿者っ!」

 

今まで穏やかだったハルバートンが怒鳴った。流石のナタルも驚いて口を閉ざした。

 

「聞けば彼らは状況的に仕方なく軍に身を置いたそうではないか! それを好機とばかりに戦場に引き込むなど、もってのほかだ!」

 

ナタルの言い分も間違っているは訳ではないのだ。軍人としてはキラのOS解析能力は喉から手が出るほど欲しい。彼のOS書き換えの実績は、ナチュラル用のOSを開発する可能性を示唆するものだった。

 

しかし、その考えた方は軍人としての考えであり、人間としての考え方は断固反対だった。

 

そしてハルバートンは、後者の考えだった。

 

「彼らには私から除隊許可書を発行する。その上でオーブに送り届けるとする。これ以上、彼らに干渉することは私が許さんからな!」

 

鋭い視線でナタルを射抜くハルバートン提督。その目は語っていた。下手な小細工はするな、と。

 

「……分かりました」

 

流石にこれ以上は不味いと判断したナタルは大人しく引き下がる。両隣のマリューとムウは少しだけホッとしたようだった。

 

「さて、私は今のうちに学生達と顔を合わせてこようと思う。後のことは頼んだぞ」

 

 

その後、ハルバートンはトールたちに家族の無事を知らせ、除隊許可証をそれぞれ一人ずつ丁寧に手渡しで託したのだ。

 

その厚意が感じられる対応に、学生たちは涙を流していたという。そんな学生たちの様子を見て、「明るい時代を精いっぱい生きるのだ」と激励し、戦場に近づかないよう求めた。

 

 

ハルバートンは、リオンに対しても同様のことを行うつもりだった。否、そうせざるを無い状況に連合軍が追い込まれている。

 

 

すでに、オーブのスパイーーーー正確にはフラガ家の手の者が連合軍の内部情報、腐敗している証拠を掴んでいる。地球の平和と尊厳を取り戻す戦いの中で、連合軍のやり方を熟知し、証拠として掴んでいる。

 

もしこれを民衆に暴露されれば、戦争継続が困難になるほどのダメージ。だからこそ、リオン・フラガのある程度の要求をのまなければならない。

 

そして、彼は無茶なことを言わない。ただ存在を秘匿してくれと。

 

「―――――年不相応な男だそうだな」

 

「閣下のお手を煩わせる青二才ですよ」

 

「――――ふん。まずは会ってみなければな」

 

 

ハルバートンは、リオンという存在を見定めることに注視することになる。

 

 

 

 

一方、ヘリオポリスの学生の面々は決断の時が迫っていた。

 

 

 

「トールは、どうする?」

サイは、アークエンジェルから降りるつもりだった。フレイも今頃地球に帰っているだろうし、自分も今は戦う理由がない。

 

キラが下りられるのなら、自分たちも降りようと。

 

「そうだな。俺、降りることにするよ」

トールも同じだった。だが彼は降下後、オーブ軍へと入隊するつもりだった。戦闘行為を知り、間近で戦闘を見てきた。

 

初の実戦は先遣隊の応援で、リオン一人で片づけてしまったが、彼は見た。

 

―――俺たちの国を守る。

 

「なら私も。補充要員もくるし、トールと一緒よ」

ミリアリアもトールが下りるなら除隊を選択。戦う理由はない。

 

「はいはい、バカップルバカップル」

アルベルトが茶化すが。

 

「モテない男のひがみは見苦しいわよ」

 

「ぐはっ」

見事撃沈した。

 

その後、カズイも降りることを決め、後はキラの選択を待つだけだった。

 

 

 




気配りが出来る人は、色々考えてしまうのです。
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