機動戦士ガンダムSEED 理想の従者   作:傍観者改め、介入者

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第21話 従者の殺意

「ザフト軍め、どうあってもアークエンジェルの地球降下を阻止する気か」

 

あの少年の言う通り、ザフト軍は降下前に仕掛けてきた。

 

「全軍、密集陣形で弾幕を張れ、アンチビーム爆雷射出!!」

 

ナスカ級の艦砲射撃を数発も食らえば、このメネラオスとて持たない。

 

――――あとは、彼が果たして出撃するかだが

 

アークエンジェルの方では、

 

「あのナスカ級というの!?」

マリューは上官の艦隊に接近しているのが自分たちを追い回した部隊だということがすぐに分かった。

 

そのMS部隊の機影の中に、新型の4機がいたのだ。さらにはその背後より20機近いMS部隊が展開されており、第八艦隊に接近している。

 

「――――契約を完遂させるために、今すぐ降下シークエンスに」

その時、モニターにはストライク二号機に乗るリオンの姿が。

 

「り、リオン君!? どうして―――」

この船を降りるのではなかったのかと。なぜ彼がここにいるのか。

 

「何もおかしいことはありません。オーブまでの安全航路。その契約に変わりはありません。シャトルに乗りそびれてしまったのはこちらの落ち度でしたが、ザフトの襲撃でそうもいっていられません」

契約に基づき、リオンはアークエンジェルに残ることを選んでいた。ザフト軍の襲撃がある中、シャトルでの避難はリスクが高い。

 

「契約主である、貴女の上司を守ること。これは契約外ですが、こちらの善意でやらせてもらいます。どうか出撃許可を」

 

まるで悪魔のような取引だ。これ以上民間人を使うわけにはいかない。なのに、彼の実力に目がくらむ。

 

 

「あと、セイラさんもシャトルに乗りそびれたので、個室を一つ用意してもらいたい。ハルバートン中将には彼女をオーブに送り届けることになっている。事後報告というやつです」

 

 

「え、ええ!?」

そして、プラントの民間人、セイラ・グレンベルがシャトルに乗り遅れたという問題。

 

「なんにせよ、時間がありません。第八艦隊の生存と、アークエンジェルの降下は、俺の利にもなり得る。出撃許可をいただきたい」

 

 

だが、目の前にいるのは傭兵だ。得体のしれない男だ。しかし、彼は今まで何度も何度も自分たちを救ってきた。

 

しかし機密はどうなる? 彼をこのまま信じていいのか?

 

迷走するなか、ナタルはマリューに代わった通信に応える。

 

「重力圏が近い。ストライクはスペック上、単独での大気圏突入は可能だが、やった人間はいない。中がどうなるかわからないぞ!!」

 

「そうなればそういうこと。やりようはいくらでもある。心配してくれてありがとうございます、ナタル・バジルール少―――いえ、もう中尉でしたね。昇進おめでとうございます」

 

「な、何を言っている、こんな時に!! さっさと仕事を済ませてこい!!」

思わぬ軽口に、頬を染めてしまったナタル。まさか自分よりも年下の少年に翻弄されるとは考えていなかった。が、彼のおかげで力みは取れた。

 

―――僚友にいれば、私も――――

 

 

「ふふ、了解した、バジルール中尉。そして艦長。手遅れぬにならないうちに、指示を」

 

覚悟を決めている。ハルバートン氏を本気で助けようとしている。そして、こんな切迫した状況でも焦りを見せない年齢離れした胆力。

 

彼にすがりたい。彼ならきっと何とかしてくれる。

 

 

 

「―――ごめんなさい、提督を――――」

初めてマリューは、リオンに心からの、懇願をした。

 

「提督のことを、頼みます」

もう恥も外聞もない。マリューはリオンに助けを求めるしかなかった。

 

「了解した。パル曹長、シークエンスを―――」

 

「ちょっと待ったぁぁ!!」

ここで、エリクがさらに画面に映る。

 

「リオンの坊主が出るんなら、デュエル二号機で俺も出る! 傭兵が頑張ってんだ! 俺が出ないと話にならねぇでしょ!」

 

「俺のメビウスもでる。友軍を見殺しにするわけにはいかないし、何より艦長の上官だ。行くしかないだろ!」

 

そしてムウまで出撃する気満々だ。

 

 

「―――避難民のシャトルは、安全航路を確保しないと出立もままなりません!!」

そしてストライクには、キラ・ヤマトの姿が。

 

「!?」

これにはリオンだけではなく、キラ以外の全員が驚いた。

 

「キラ、君?」

 

 

「シャトルは行きました! こんな状態で放り出すことなんてできない! ザフト軍を追い払って、それで―――!」

マリューがキラの言い分に呆然としている中、ナタルはマイクを取り4人に命令する。

 

「――――機動部隊は出撃!! もう一度言うぞ、フェイズシフト装甲を備えるGシリーズは、スペック上単独での大気圏突入も可能だが、中身がどうなるかは未知数だ。アークエンジェル降下前に必ず帰投しろ、いいな!!」

 

「おい待て、キラ!? どうして貴様がここにいる!? ヘリオポリスの面々は!?」

リオンはキラの登場に激しく動揺した。割り切れない彼に対しキラは、

 

「今はもう、ザフトを追い払わないと話にならないでしょ!! 後でお話しますから!! 今はそれどころではないでしょう!!」

 

「―――――くっ」

キラにしては珍しく正論だった。リオンは今すぐにでも出撃する必要があり、第八艦隊の生存は必須項目である。

 

 

「キラ君ッ……バジルール中尉!!」

 

「ここで第八艦隊を見捨てるおつもりですか!! 誰が新型の戦果を評価してくれるのですか!! 彼らがいなければ、計画は頓挫します!!」

 

その一言で、マリューは黙ってしまった。

 

「あの、俺たちも参加させてください!!」

 

「ちょうど訓練も終わって、マニュアルは頭に入っています!」

 

「貴方たち――――」

キラとともにどうして残ったのか。見捨ててよかったのに。

 

「おし!! やるんだったら早く席に座れ、お前ら! 敵が来るぞ!!」

モニターのムウが学生たちに指示を飛ばす。もうどうにでもなれ、後は使えるものをすべて使う。

 

 

 

 

「APU起動、装備は―――」

 

「IWSPだ。今はとにかく手数が欲しい! この聞かん坊どもめ。無茶だけはするなよ」

 

 

 

「はいっ!! 装備はIWSPを選択。カタパルト、接続。IWSP、スタンバイ。進路クリアー。発進、どうぞ!」

 

ミリアリアの初めての管制。多少堅いところはあるが、おおむね不満はない。

 

「リオン・フラガ、ストライク二号機、出撃する!」

 

「続いてストライク。APU起動、装備はエールを選択します。エールストライカー、スタンバイ。進路クリアー、どうぞ!」

 

「キラ・ヤマト、ストライク、行きます!!」

 

オーブ組の少年が出撃。そして、連合軍としては新型に乗る初めてのパイロット。

 

「デュエル二号機。カタパルト、接続。進路クリアー、発進、どうぞ!」

 

「エリク・ブロードウェイ、デュエル二号機、発進する!!」

 

三機のMSが連合側で投入される。この低軌道戦線では新たな戦局を示すものとなるだろう。

 

 

「提督! アークエンジェルより、X105ストライク、X105Aストライク二号機、X102Aデュエル二号機が発進!! 遅れてメビウス・ゼロも出撃!」

 

「この状況でか! やはり破天荒な奴らだ」

愉快そうに笑うハルバートン。重力圏が近い場所で、ここまでの度胸を示す少年がいる。

 

「しかし、この戦局は―――」

 

「だが、こうなっては仕方ない。第八艦隊は予定通りアークエンジェルの降下と同時に現宙域を離脱! 向かってくる敵を掃討するだけでいい!! アンチビーム爆雷! 再度装填!!」

 

 

第八艦隊は、アークエンジェルからゆっくりと離れていく。

 

「――――提督!!」

 

「ラミアス艦長。モビルスーツが出撃とはどういうことかな?」

 

「そ、それは――――」

言葉に詰まるマリュー。降下シークエンスの命令違反とも取れる行動だ。

 

「まあよい。今はそれを話し合う時間はない。我が第八艦隊は、アークエンジェルの降下シークエンス、彼らが戻らねばならん限界時間までその降下を援護する。その後は現宙域を離脱することにした」

第八艦隊はギリギリまで降下を助けるが、万全のアシストは難しいという。その後第八艦隊は残存ザフト軍から撤退する必要性があるのだから。

 

「そうです! 敵の狙いは本艦です!!」

 

「分かっている。非常に不本意だが、彼らの力を見せてもらおう。降下の幸運を祈る」

 

 

そして、マリューはその後のハルバートン氏の爆弾発言に頭痛を覚えてしまう。

 

 

「あと、降下予定場所はオーブだ。そこでいろいろと融通をする羽目になった。頼んだぞ。ラミアス大尉」

 

 

「え? えぇぇ!?」

思わず叫んでしまったマリュー。アラスカに降りるとばかり思っていたので、この命令は青天の霹靂だ。

 

 

「――――ふっ、あの青二才にしてやられたよ。横領の件は黙認してくれたが、技術と戦闘データはどうしても欲しいようだ」

 

やや疲れた笑みを浮かべるハルバートン。青二才というのはもはや誰なのか、簡単に察しがついてしまう。

 

 

 

「―――――まあ、彼がいるなら落ちることはない。呪いの武器だが、行き先が固定されるだけだ。遠回りだが、頼んだぞ」

 

 

「りょ、了解しました……」

 

 

 

通信が切れた後、ナタルはちらっとマリューのほうを見る。

 

「―――――提督、横領をしていたのですか……」

 

 

「―――――お互いに弱みを黙認する、ということね……」

 

二人の間で奇妙な友情が出来た。

 

 

 

 

しかし戦端は待ってくれない。

 

 

 

すでに戦闘中であり、MA部隊がジンの迎撃に向かうも、返り討ちにあう場面が頻発しているのだ。

 

 

「連携して敵機を追い込むんだ!!」

 

「攻撃機をフォローしろ!! 単騎で突っ込むな!!」

 

しかし、性能で劣るMAをよく知るベテランパイロットが新人をリードする。

 

 

「うわぁ!」

 

しかし犠牲者は出る。ジンの機動力はMAの旋回性能を凌駕している。少しずつ、ではない。

 

 

次々と落とされていく僚機を見て、ベテランパイロットたちは歯ぎしりをする。

 

――――くっ、モビルスーツがわが軍にあれば

 

宇宙で対等に戦えるはずなのだ。

 

 

「隊長っ!!」

 

新人パイロットの声が聞こえる。目の前にはバズーカを持ったジンの姿が。

 

「3機目!!」

そのジンに乗っていたのは、奇しくもニーナの乗るハイマニューバであった。

 

 

その弾頭がメビウスのコックピットに向けられる直前、

 

 

「えっ!?」

 

そのバズーカ砲の先端を正確に射抜いた緑色の閃光が、通り過ぎたのだ。

 

 

「キャァァァ!!!!」

 

爆炎の衝撃で吹き飛ばされるニーナ。まさかまさかの光景で、ニーナはまだ、暴発したのだと勘違いをしてしまっている。

 

「な、なに!? はっ!!」

その時、緑色の閃光がまたしてもニーナ機に襲い掛かってきた。今度は殺意たっぷりのコックピットへの一撃。

 

「油断しないで、赤い奴が来たわ」

フィオナが防御しなければ、ニーナは死んでいた。フィオナの反応の良さが、彼女を救ったのだ。

 

しかし、ジンを殺し損ねたリオンは、

 

「あの機体、中々やるな。新型に次いで狙わせてもらおう」

フィオナの乗るハイマニューバの姿を見て、警戒を強めるリオン。なかなかいい動きをする。

 

しかし、今回は本気で行かせてもらう。リオンは必勝の気持ちでこの戦場に出向いていた。

 

 

遠距離対応型でもあるIWSP。ビームブーメラン、ガトリング砲を除いたほぼすべての武装を満載するリオンのストライク。

 

レールガンがロックオン無しで襲い掛かる。

 

「うわぁぁぁ!!!」

 

「なっ!」

 

「ぐわぁ!!」

 

遠方からの、ロックオンをしたところで容易に回避される距離で、赤いストライクはレールガンで砲撃してきたのだ。さらに悪質なのは、砲撃型に見える癖に、距離を詰めてきていること。

 

この攻撃で、いきなり3機のジンが沈んだ。レールガンの弾頭が前方の一機を突き破り、その後方に位置したジンの右マニピュレーターを破壊したのだ。その一機のみ撃墜を免れたが、その他の被弾した機体はコックピットを貫かれ、機体が爆散する前にパイロットを絶命させていた。

 

狂気染みた技量を平然と見せつけ、リオンは冷静に指示を送る。

 

「単装砲で接近する敵機をいくつか撃破する。陽動は―――」

 

「俺が行く。お前にだけいい格好はさせられないぜ!」

エリクが志願。赤いデュエルに乗った彼は、ライフルを連射しながら陣形の直下から攻撃を仕掛ける。

 

 

「全機散開!! 的になるだけだ!」

 

「くっ! あの技量、赤い奴は単装砲もちか!!」

 

 

「赤いのが下方より急速接近!!」

 

「陽動だ!! あくまでレールガン持ちを!」

 

指揮系統が乱れるザフト軍。連合側は個の力ではなく、戦術を用いてモビルスーツの陣形を破壊しに来ていた。

 

それを指揮するは赤い彗星、リオン・フラガ。

 

 

「ストライクはデュエル二号機に接近する敵機を優先的に狙え。デュエル二号機は引き続き敵を陽動。私は単装砲で数を減らす」

 

単装砲を無作為に打っているようだが、実は違う。この105mmの弾頭は容易くジンの装甲を突破するが、本来なら中距離までの武装だ。

 

しかし、リオンの驚異的な予知能力と空間認識能力をベースに、各個回避する敵部隊の動きを大まかに予測。

 

所謂置き弾頭で包囲し、敵の逃げ場をなくしていく。

 

 

次々と回避した場所で被弾し、一撃で撃墜されていく僚機。回避するのではなく、まるで弾頭に当たりに行っているような奇妙な光景がいたるところで見受けられ、ザフト軍は恐慌状態に陥った。

 

「くっ、重いっ!」

ハイマニューバの盾で何と防御するも、弾頭自体が重く、盾も限界を迎えてくる。フィオナは赤い彗星の力を過小評価していたわけではない。だが、これは想定外のレベルだ。

 

――――距離を詰めないと、嬲り殺しにされる!

 

ハイマニューバのスラスターを吹かせ、突貫を仕掛けるフィオナ。それに続くニーナ、その他のシグー。

 

「フィオナちゃんに続くわよ!! オロゴン隊、出るわよ!!」

ネカマ口調のオロゴン隊のMS部隊を指揮するネリー・オロゴンが部下を引き連れ、フィオナに続く。

 

 

「フィオナっ!? くそっ!!」

 

アスランもモビルアーマー形態にイージスを変形させ、彼女の後を追う。が、

 

「くっ、リオンの邪魔はさせない!!」

キラの乗るストライクが立ちはだかる。役割がはっきり分けられている。

 

今回、リオンに求められているのは新型以外の機体の速やかな排除。エリクとキラはその足止め。ムウに至ってはメビウス部隊と合流し、艦隊の撤退を助ける等。

 

それに加え、その状況ごとに変化する命令を正確にリオンが各機に送るのだ。

 

 

「おうおう!! 半数が逝ったぞ!! けど、油断するなよ!!」

 

ストライクに襲い掛かるイージスをライフルで牽制し、状況的に2対1を作り出す。

 

 

「アスラン下がって!! 新型二体、しかも相手は―――」

ニコルがランサーダートのミサイル三連発でストライクを引かせるが、エリクの攻撃が今度は苛烈になる。

 

相手は取り決めを事前に決めて、連携を強化している。烏合の衆では勝てない。

 

 

「ぬわぁぁぁぁ!?」

 

汚い断末魔とともに隊長機のネリーが爆散したのだ。これも置き弾頭の3つ目に被弾し、熟練者でも回避が難しい弾幕を張っているリオン。

 

 

「よくやる、距離を詰めるのは間違いではないが。このIWSPを見くびるなよ?」

 

 

 

すでに敵の半数を撃破したリオンは、前線に取り残されている敵部隊4機を見て、冷静な目で次の指示を飛ばす。

 

「フラガ大尉、メネラオス以下、第八艦隊に砲撃要請!! 前後に分断されたジン部隊を各個に掃討します」

 

 

「俺は伝令役かよ!! 了解した!!」

 

そして程なくして、指定された宙域に弾幕が飛来。逃げ場を失いつつザフト軍は撤退という言葉も出始める。

 

「何という強さだ。」

メネラオスのブリッジから見えるリオンの乗る赤いストライクの動きは、その異名を体現している。

 

「赤い彗星、聞きしに勝る強さだ」

副官のバークライトも次々とザフト軍MSを撃破していく姿に震えるものを感じていた。

 

24機ものザフト軍MSが、彼の砲撃と彼を中心とした作戦で半数にまで削られている。恐ろしいのは、MJ領域下での高精度な遠距離砲撃。まるで分っているかのように単装砲とレールガンを使い分け、置き弾頭のようなことをやってのけている。

 

「しかし、レーダーやロックオン機能をあまり使わない、どういう頭をしているのでしょうか」

 

「――――私が聞きたいくらいだ」

 

のんきに戦評を述べるようになってきた二人。

 

 

そしてザフト軍はそれどころではない。

 

「艦長!!」 

 

「なぜだ、なぜこれほど我らが追いつめられる! 確かに鬼神の如き強さだ、赤い彗星!」

ジェシー・オロゴンは、先ほど弟のネリーが戦死したことを知る。

 

「なぜ他の奴らの砲撃が鋭くなっているのだァァァ!!!」

 

目の前に飛来するメネラオスの主砲が彼の船のブリッジを照らした。

 

 

 

「マシュマー、轟沈!!」

 

「なんだと!? 連合め、いったいどんな手品を!!」

アデス艦長は友軍の戦艦が落ちたことでこぶしを握り締めていた。

 

「あっ!」

クルーの一人が、あっ、と声を出す。

 

 

その映像には、ガモフが突出しつつあるというものだった。

 

「ガモフ、出過ぎだぞ!!」

アデスが吠えるが遅い。通信もNJのせいで安定せず、はっきりと聞こえない。

 

 

「われ――――もとは―――――逃がし――――」

苦悶の表情を浮かべ、ガモフの艦長ゼルマンが突貫を仕掛けている。が、

 

 

 

 

「苦し紛れの突貫など、カカシよりも劣る」

 

 

漆黒の闇に映えるような、死神の呟きが、その蛮勇を無慈悲に摘み取る。

 

 

 

ゼルマンの眼前には、黄色い閃光がブリッジに殺到する光景しか見えなかった。

 

 

―――――赤い彗星、恐るべし……

 

 

ストライク二号機のレールガンが正確にガモフのブリッジを貫いたのだ。爆炎を上げながら、ガモフは航行不能になり、地球に吸い寄せられるように落ちていき、爆散した。

 

 

「ゼルマン艦長ぉぉ!!!」

泣きそうな顔で艦長の名前を叫ぶニコル。

 

しかし、悲劇はそれで終わらない。

 

 

新型以外のモビルスーツの数が、リオンの砲撃によって残り8機にまで消されたのだ。リオンの砲撃だけで半分のザフト軍MSが落とされたことになる。

 

エリクの乗るデュエルも陽動とはいえ単独で敵機を落とし、ストライクに乗るキラも蹂躙を続けている。

 

 

彼らの活躍で、アスランは敗色濃厚であることを感じつつも、撤退という文字から目を背けていた。

 

 

「くっ、こんな!」

 

彼は、次々と僚機を落とされているのに何もできない自分を呪う。

 

「甘いっ!!」

 

そんなアスランは、キラのビームサーベルの一撃を躱しきれず、フレームに大きな傷を入れられてしまう。

 

「しまった!!」

 

これでイージスはMAに形態変化することがこの戦闘中ではできなくなった。仲間のことを意識し過ぎて、自分への注意が散漫になっていたのだ。

 

 

一方キラは、リオンのおかげで一方的になっているので、あまりにもかわいそうに感じたのか、連合時代のイージスへの通信コードを入力し、通信を入れたのだ。

 

「早く逃げろ!! もう君たちの負けだ!!」

 

 

「―――――え?」

目の前のストライクから流れてきた声に、アスランは虚を突かれた。

 

 

「――――あっ」

対するキラも、聞き覚えのある声を聴いて、呆然とする。なぜ、彼がここにいる。

 

 

――――なぜ、お前がそこにいるんだ。

 

 

「キラ、なのか?」

久しぶりに聞いた声。聞こえてはならない方向から聞こえてきた。

 

「アス、ラン?」

戦争が嫌いだと彼はいっていた。なのになぜ。

 

この機体に乗っていることは、あのヘリオポリスを襲撃したザフト軍の中に、アスランがいたのか。

 

「アスラン下がって!!」

ニコルがそこへ割って入る。イージスを守るためにその間に割って入り、ストライクをけん制しつつ、この宙域から離れていく。

 

「敗色濃厚です! このままではこちらが逆包囲されて全滅します!!」

 

「あ、ああ……」

ニコルに連れられ、アスランは現宙域から離脱。ショックと虚無感でこの戦闘中はまともな受け答えが出来ていなかった。

 

 

一方、第八艦隊に苛烈な攻撃を加えていたイザークとディアッカは、アークエンジェルからストライクが発進したとの報告と、友軍不利との報告を受け、わずか短時間でここまで僚機を落とされたことに驚愕していた。

 

「――――なんだと!? 24機いたはずのわが軍が、たった8機に減っただと!?」

 

「俺たちが艦船を落としている間にそんなことになっていたのかよ!!」

二人でMA20機撃墜、戦艦は大破2と、途中でムウの乗るメビウス・ゼロに邪魔されたのが響いた。

 

ムウがいなければ、轟沈させることは出来たのに、と歯噛みする。しかし連合側からすれば、ムウが実質単独で二人の邪魔をしていたことになる。

 

エンデュミオンの鷹の異名は伊達ではない。

 

しかしそうも言っていられない。第八艦隊のザコ狩りを終了させ、本命のストライクを落としに行く。

 

「あの傷の礼だ!! この屈辱忘れはせんぞ!!」

白いストライクのせいで、デュエルは中破。自分も顔に傷を負った。イザークが期するものは強い。

 

「フィオナちゃんたち無事かなぁ」

 

 

 

 

ディアッカの予想通り、赤い彗星の相手をしているザフト軍は悲惨の二文字だった。

 

 

「いやぁぁ!! 何なの!! 何なのよぉぉ!!」

 

盾で防ぎながら、必死に叫ぶニーナ。敵の強さは意味が分からないほどのものだった。10機近くいた僚機も、

 

 

「うわぁぁぁぁ!!!」

 

今ので何機目が落ちたのだろうか。

 

残りはフィオナとニーナのみ。たった一機のモビルスーツの存在で、20機以上のMSが2機まで減らされた。

 

アスランは機体損傷が激しく、ニコルとともに撤退。とはいえ、それを怒ることなどできない。

 

誰がこの敵を止められる?

 

 

「くっ、ニーナは帰投して。ここは私が食い止める」

 

「でもっ!!」

異を唱えるニーナ。しかし、ニーナの機体はもう片腕の状態。新兵ではあるが、ここまで赤い彗星の攻撃から逃れてきたのは、彼女に才覚があったということになる。

 

 

しかし、それだけでは彼には勝てない。

 

「今の機体状況だとニーナは死ぬ。私はやりようを考える。だから大丈夫」

フィオナがやさしく、しかし冷静な口調でニーナを諭す。

 

「ごめん――――死なないでよ、フィオナ……っ すぐに先輩たちを呼ぶから!!」

 

 

小破した機体が戦線を離脱した。残るは一機のみ。

 

「ブロードウェイ中尉は第八艦隊の防衛へ。フラガ大尉の援護に回ってください。」

 

「了解した! 残すは一機のみ! 手早く終わらせろよ!!」

 

デュエルがこの宙域を離れる。これで一対一の状況。しかし、機体性能が違い過ぎる。

 

「――――お前は最初に出会ったときから何か違うと感じていた。だいぶやるようだな」

 

相手に聞こえない言葉を紡ぐリオン。だが、言わずにはいられない。

 

「――――お前が、赤い彗星」

目の前の敵が、ザフトの宇宙での形勢を一変させた。この敵がいる宙域では、ザフト軍は決死の覚悟をしなくてはならない。

 

そんな危険な敵を、地球にいるリディアに遭遇させるわけにはいかない。

 

「絶対に、降りさせない!!」

 

ニーナから受け取った盾を構え、突撃を開始するフィオナ。

 

 

正直勝てるとは思っていない。ダメージを与えられたらいいほうと。

 

 

「思い切りがいい。だが、こちらも手間取るわけにはいかない」

 

限界時間が近づいている。これ以上の戦闘続行は厳しい。

 

 

「リオン、援護する!!」

そこへ、キラの乗るストライクが前衛に躍り出たのだ。不意を突かれたフィオナは慌てて後退するが、重力が近づいていることに気づき、宙域から離脱する。

 

「キラ!? なぜ戻ってきた?」

冷静さを欠いたリオン。キラの存在がリオンの計算を狂わせたのだ。

 

 

「――――何があったかは知らないけど、赤い奴の注意が外れた―――運がいい」

フィオナはここからならばまだ時間は稼げると考えた。何とかこちらに注意を引き付ける方法を考える。

 

 

「だ、大丈夫! まだ僕は大丈夫だから―――」

 

 

「何が大丈夫だ、バカ者!! 早くアークエンジェルに戻れ!!」

冷静ではない。また何かをやらかしたのか、とリオンはキラを観察するが、

 

二人の下に、リベンジに燃えるデュエルが現れたのだ。状況は待ってくれない。

 

 

「ストライクゥゥゥ!!!!」

イザークの叫び声とともに、キラへと襲い掛かるデュエル。

 

「!!!」

リオンはキラの援護に回ろうとしたが、バスターに阻まれる。

 

「そうはさせねぇって!! お嬢ちゃん、ここは俺に任せな!」

 

「――――すいません、離脱します」

申し訳なさそうにするフィオナ。この武装ではどうあがいても赤い彗星には勝てない。

 

 

「帰ったら、キス一つで許してやるぜ」

 

 

「――――考えておきます」

少しの間をおいて、フィオナは押し切られる。これで彼の生存の確率が高くなるなら安いものだと。

 

「―――ていうわけだ! こっから先は通さねぇ!!」

 

「遠距離タイプが前衛に来るとはな、嘗められたものだ」

 

その戦いは終わらない。

 

 

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