機動戦士ガンダムSEED 理想の従者   作:傍観者改め、介入者

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第22話 紅の爪痕

アークエンジェル組の活躍により、当初よりも早く第八艦隊の撤退は完了しつつあった。

 

 

「やっぱりMSはいいな! 手足のように動く!!」

エリクのデュエル二号機が本領を発揮。艦隊に襲い掛かるMSを一掃。生き残りは残ったナスカ級とともに後退を始めている。

 

 

マシュマーが轟沈し、隊長を失ったオデュッセイアは尚も連合軍への攻撃を続けていた。が、

 

 

 

「なぜだ。なぜ貴様はそちらにいるのだ――――――」

分かってしまった。あの動きはコーディネイターそのもの。さらに言えば、あの男がモビルスーツを動かせない道理はない。

 

すでに主砲は破壊され、連合軍を蹂躙していた時と同じように、ザフト艦船を圧倒する連合の新型モビルスーツ。

 

片や、赤い彗星と謳われた存在。片や、裏切り者と揶揄された存在。

 

そのカタワレに、命を奪われようとしていた。

 

 

「エリク・ブロードウェイ―――――ッ」

ライフルの一撃が、ブリッジを貫くまで、オデュッセイア艦長、パル・ゴドルフはその疑問を心中で抱き続けていた。

 

 

 

 

ヴェサリウス艦内で、他の艦船がすべて落とされたことを知ったクルーゼは、

 

「――――――やはり、どこまでも立ち塞がるか、赤い彗星―――――」

 

ムウ以上に宿命、運命を感じる存在。その登場に彼は戸惑いを隠し続けたものの、世界の流れが変わり始めていることに焦りを覚えていた。

 

 

 

ヴェサリウスは反転。ザフト軍は後退を始めたことで連合の勝利はほぼ確実とされた。

 

 

 

「よし、もういいぞ! こちらもアークエンジェルに戻るぞ!」

 

「了解した!!」

 

 

メビウス・ゼロ、デュエル二号機が去っていき、残された第八艦隊の艦内ではまたしても歓声に沸いていた。

 

「どうだ、みたか!!」

 

「俺たち連合にもついにMSが出来たぞ!」

 

「俺は二度目だけどな!」

 

「うおっ、汚ねぇぞ!!」

 

「映像で我慢するんだな!!」

 

第八艦隊はMA20機を失い、護衛艦二隻が航行不能となったものの、速やかな退艦が兵士の命を救う。第八艦隊の精強さが為せることではある。が、その被害を最小限に抑えた立役者は間違いなく彼らだ。

 

 

快挙といってもいい状態だ。

 

「赤い彗星、か。」

ハルバートンは、リオンの機体のことを考えていた。

 

宇宙を駆ける、赤い軌跡。その表現にこの異名はとてもしっくり来た。

 

「通常の三倍ほど速いような気がするぞ、あの赤い機体だけ」

 

「いや、でもスペックはそこまで差はないぞ」

 

「いやぁ、見えたんだけどなぁ」

 

第八艦隊は低軌道戦線から離脱。この艦隊の生存が、今後の人類の未来を大きく左右するとは、彼らもまだ予期していなかった。

 

 

 

一方、エリク、ムウが帰還できたものの、キラとリオンはデュエルとバスターの襲撃にあっていた。

 

が、

 

「早く去るがいい。お互い時間がない」

 

バスターに過剰な攻撃を見せ、片方の砲身を対艦刀で切り裂いたリオン。もうそこまでの接近を許してしまっていたディアッカは、散弾をダメ元でばら撒き、ストライクとの距離を取る。

 

「むっ!」

ストライク自体は装甲で大丈夫なのだが、後ろのユニットはそうではない。それを回避するために距離を大きくとってしまったリオン。バスターとの距離が離れる。

 

 

「悪いけど、俺も命が惜しいんでね(おっしゃぁ、フィオナのキッスゥゥ!!)イザークも早く!!」

 

バスターに逃げられてしまったリオン。だが、これは好都合でもある。

 

――――まあいい。後はあの機体だけか

 

「うるさい! ここでこいつだけでも!!」

 

その時、キラとイザークの機体を謎の力が襲う。

 

 

「え!?」

 

「あっ!? 機体が、重いっ!?」

 

地球の重力圏に引っ張られているのだ。バスターとストライク二号機は無事だが、彼らの下へ行けば同じ運命をたどるのは間違いなかった。

 

 

「このままじゃ――――」

キラは何とかエールのスラスターを全開にしてここから逃れようとする。

 

 

「貴様だけでもっ!!」

イザークは燃えるような瞳で、重力から逃げようとするストライクをロックオンしようとする。

 

が、

 

 

「「!!!」」

 

不意に、両者の前にシャトルが横切ったのだ。ストライクをロックオンしていたのが強制的に切れ、ストライクを落とすチャンスを逸してしまったイザーク。

 

「――――ふざけるな―――」

ゆらゆらと声が震える。

 

「イザークっ!?」

ディアッカが通信で何度も撤退を伝えていたのだが、イザークの不穏な声に一瞬狼狽えた。

 

「このっ!!」

あろうことか、そのシャトルに銃口を向けたのだ。

 

 

「「!!」」

キラとリオンに焦りの表情が浮かぶ。あの船の中には、民間人がいるはずだ。それをデュエルは狙っている。

 

 

――――やめろっ――――

 

 

キラは迷わなかった。何かが切れたような音が体からした。

 

「くっ、そこには彼女らが――――ッ!!」

リオンは慌ててデュエルに銃口を向け、デュエルのライフルを破壊したのだ。

 

 

「うわぁぁぁ!!!!」

そしてその緑色の閃光はデュエルの肩も抉り、右マニピュレーターが完全に破壊された。爆炎とともに衝撃に揺らされるイザーク。

 

 

―――お前は、絶対に許さない

 

キラの中で何かが切れる音がした。

 

そして、思考が鮮明になる、ではなく、一方向へと傾いていく感覚。殺すという文字に傾倒していく。

 

 

「!? 上昇しろ、キラ!」

デュエルに襲い掛かるストライク。リオンの制止が聞こえないのか、キラはデュエルにとどめを刺そうと接近する。

 

「お前は!! 何を撃とうとした!! なんで、なんでッ!! なんで!!」

 

許さない、殺意しか芽生えない。暗い感情に支配されたキラは、いつもの優しさをかなぐり捨てていた。

 

「なんでそんなことが、平然と出来るんだぁぁ!!!」

 

アーマーシュナイダーでデュエルを殴りつけるキラ。何度も何度も何度も。

 

「ぐわぁ!!」

このまま攻撃を受け続ければ、フェイズシフトが切れる。イザークはなけなしの力を振り絞り、レールガンでストライクを吹き飛ばす。が、もう手遅れに等しい状況だった。しかし、デュエル自体も大きくその場所から吹き飛ばされる。

 

「このっ!! 叩き落してやる!!」

リオンはレールガンでデュエルに当て続け、ストライクとは大きく離れた場所にまで吹き飛ばしたのだ。これで、同じ降下ポイントにはいかないだろう。変な力も働いているので、真横ではなく、斜めに降下しているのがわかる。

 

 

「あ――――」

一方ストライクの中にいるキラは無事ではなかった。レールガンの衝撃で、キラを突き動かしていた何かが切れたのか、熱さで体をやられつつあるのかはわからない。キラはその瞬間に意識を失った。

 

動かないストライクを見て、リオンは舌打ちをする。

 

「キラッ! くそっ、世話の焼ける!!」

 

機体ごとストライクを押し返すリオン。こうなっては重力に引かれながらでもアークエンジェルに近づかなければならない。

 

 

「ストライク、一号機、二号機ともに戻りません!!」

 

「なんですって!!」

 

降下中のアークエンジェルが何とかこちらに近づこうとしている二機を発見する。キラの乗るストライクは微動だにせず、リオンの乗るストライクが担いでいるような状態だ。

 

「艦を動かして!! このまま二機を見捨てるわけにはいきません!」

 

「しかし、降下ポイントが大きくズレます!! 予測地点は―――!!」

 

「今はあの二機を届けることが最優先よ!!」

 

「分かりました! ただ、予測降下ポイントはアフリカです!!」

 

これから厳しい戦いが待っているだろう。一同はそれを予感した。しかし、

 

 

―――リオン・フラガには借りがある。

 

「今回の契約者は彼よ。提督から命令を受けた内容において、彼の生存は不可欠。それに、彼には借りがあるわ」

 

マリューの言葉に一同はうなずいた。

 

 

「アークエンジェルっ!? まさか、降下ポイントをずらしてまで―――」

リオンはその予想外の動きに目を丸くする。

 

「しかし、この暑さは堪えるな。並の人間なら死ぬな――――」

アークエンジェルの甲板上に何とか着陸したリオンは、ストライクに乗るキラとともに収容された。

 

 

 

一方、シャトルに乗っていたカガリとアサギは肝が冷えていた。

 

「まさか、本当に撃つつもりだったのか、あの機体は――――」

冷や汗をかいていたカガリ。

 

「走馬灯が見えました。本当に」

アサギに至っては声が平坦になるほどだ。

 

 

「ママ、あの赤い巨人さん、格好良かったね」

 

「え、ええ。そうね。でもエルちゃん、窓の方は見なくていいのよ。今は、見てはだめよ」

 

民間人の親子なのだろうか。リオンが救わなければ目の前にいる民間人を含め、すべての命が失われていただろう。

 

「――――あの娘がいないのだが」

 

「そこはリオン君も計算外だったでしょうね。たぶんアークエンジェルにいると思います」

ジト目で互いの目を見ていた二人。リオンの計算が狂い、今頃頭を抱えているのが目に浮かぶ。

 

「――――お父様には、連絡だけはしておくか。アサギはリオンの企みを聞いているのだろう?」

 

「正確には、ノアがあとで教えてくれるそうです」

 

『そういうわけだ。ここではだれの耳があるかわからんからな』

 

 

 

 

第八艦隊には打撃をそれほど与えることが出来ず、こちらは戦艦3隻を沈められ、18機ものMSを落とされた。

 

プラント本国ではラウ・ル・クルーゼの能力を疑問視する声も出始めたが、ヴェサリウスから送られた赤い彗星の戦闘映像を見て、一同は沈黙した。

 

「これは一体どういうことだ? 連合にあそこまで動ける者がいたのか?」

議員の一人が赤いMSを見て率直な感想を述べ、周りを見回す。

 

「7機もの新型MSを開発し、一番わたってはならない存在にわたってしまった。あそこまでの動きは難しいだろうが、あのOSを搭載したMSを量産されれば戦局はひっくり返るぞ」

ヘルマン・グールド議員は、あのエース一人で戦術を変えかねないと言わしめ、その脅威を強調する。

 

「――――御覧の通りでしょう。アレを沈めるには生半可な戦力では落とせないのです。奪取した連合軍MSの技術をもとに、さらなる新型MSの開発、高性能化は急務でしょう。」

パトリック・ザラは、アレを倒すには戦力が足りなかったことを指摘し、クルーゼへの追及に疑問を呈した。

 

「クルーゼ君の能力を疑問視したことはないよ。しかし赤いMS。まさかコーディネイター? エリク・ブロードウェイではないだろう」

 

「よせ、裏切り者の名は」

 

「だが、コーディネイターの可能性は高いぞ。もしくはナチュラルな天才という線もある。」

 

 

「ふん! ナチュラルが素の能力で我々に勝る? そんなことは冗談だけにしろ、エルスマン!」

 

 

その後議会は紛糾。その末に決まったのは、例の足つきが降下したポイントがアフリカであることを考量し、アンドリュー・バルドフェルドにさらなる武器の提供などが決定されたことぐらいである。

 

そして、低軌道戦線の被害確認作業の中で、イザーク・ジュールが地球圏に降下した際に行方が分からなくなったということが判明。

 

ヴェサリウスでは、僚機のMIAにも等しい状態に騒然となった。

 

「―――――イザークが!? そんな――――」

アスランは雷に打たれた顔でイザークの降下ポイントがアフリカではなかった事実に愕然とする。

 

戦場でのキラとの遭遇。そして僚友の行方不明。今のアスランはそれだけで心が折れそうになった。

 

――――俺のせい、なのか?

 

ヘリオポリスから今の今まで、ずっと足つきに乗っていたとしたら。

 

―――これは俺への罰、なのか?

 

フィオナの制止を振り切り、戦場に出た報い。それともフィオナが戦場に向かうきっかけを作ったアスランの。

 

――――俺の弱さが、この状況を招いた

 

 

「アスラン……」

手を頭に置き、動かないアスランを見たニコルは、かける言葉が見つからなかった。

 

「すまねぇ、フォローするなんて言ったが、あの状況だと――――」

ディアッカが申し訳なさそうにアスランに謝る。

 

「いや、ディアッカのせいじゃない。俺も悪い。俺が不覚を取ったせいで、他の僚機に負担をかけたんだ。」

 

 

「――――そういえば、二人はどうしている?」

アスランは、酷な戦場が初陣となってしまったフィオナとニーナのことを気遣う。あの地獄のような戦場を生き残れたのはいいが、最初の戦場がアレでは酷すぎる。

 

――――兵士が戦場を選べるわけではないとはいえ、自分が情けない。

 

もっと同僚として、先輩兵士としてやれることがあった。

 

「フィオナちゃんは落ち着いているよ。赤い彗星の映像を見て、対策を練るくらいには。けど、ニーナちゃんは――――」

目を逸らして、ニコルは歯切れの悪そうな声色でアスランにニーナの現状を伝える。

 

「――――そう、か」

トラウマになったのかもしれない。未知の強さを見せつけられ、何もわからないまま殺されそうになったのだ。自分たちよりも恐怖を感じていただろう。

 

「アスランのことだから、放っておけないんでしょうけど、やり過ぎないでね」

 

ニコルはアスランにニーナの部屋を教え、忠告はした。

 

―――でも、仕方ないよね。

 

ニコルは心の中で二人のことを想う。

 

―――アスランはそういう人だから。今のニーナちゃんには、その優しさが必要だから

 

アスランは、傷ついた人を見捨てることが出来ない。命令に従い、勇敢な一面があるのだが、彼は味方の犠牲が前提となる作戦を良しとしない。

 

それでも感情を押し殺し、遂行に力を入れるのだから。

 

 

彼女の下へ向かう彼の背中を見てあきらめたような笑みを浮かべる。

 

―――そんな人だから、力になりたいんです。

 

 

 

部屋を訪れたアスランは、ドアの前でインターフォンを鳴らす。

 

「アスランだ、少しいいだろうか?」

 

 

「―――――――」

 

部屋からの反応はない。聞こえているのだろうが、彼女はそれすら適わないのかもしれない。

 

「――――まず一つ、君にいうべきことがある………よく生き残ってくれた。よく生きて戻ってきてくれた」

 

あの赤い彗星と交戦し、生還できた新兵がいるだろうか。なかなかいないだろう。そんなザフトの次の未来を背負ってくれるものは、なかなかいない。

 

「君が責任を負う必要はない。先達である俺たちが、奴を押さえる必要があった。情けない先輩で済まない」

 

だから、それまでは自分たちが彼女らを守らなければならない。それが先輩の義務だ。

 

 

そして、地球に降下した足つきをどうするのだろうかとアスランは考えたが、すぐにやめた。

 

それは上層部が判断することだ。

 

「―――今の君を情けないなんて言うやつはいない。怖いものを怖いと思えることは、戦士としての資質の一つだ。だから何一つ恥じることはない。」

蛮勇は優秀な戦士の資質に非ず。恐怖を、脅威を正確に認識できるものが、戦場を生き残ることが出来る。彼女はいいほうだ。

 

狂わずに、突っ込むことをしなかったのだから。

 

 

「そして厳しいことを言うが、その恐怖を理解する強さを、身に着けほしい。今すぐつけろとは言わない。ただ、奴が俺たちの敵である以上、いつかは戦わなければならない。」

 

彼が敵であることは、変えようのない事実。いつか向き合わなければならない。

 

 

――――俺が言えるわけではない。だが、彼女らには――――

 

 

アスランも、連合にいるであろうキラを討つ覚悟が必要になる。親友を殺さねばならないとき、自分はどうなのか。

 

 

―――だが、俺は仲間を裏切ることなどできない。仲間を悲しませるわけにはいかない。

 

 

敵として立ち塞がるなら、討たねばならない。母上だけではなく、婚約者の命すら奪った連合と、戦わねばならない。

 

―――だからこそ、守らねばならなかった。

 

仲間が一人帰ってこなかった。

 

「しばらくは時間が空くだろう。ゆっくり自分と向き合う時間を作るんだ。」

 

そう言い残し、アスランはニーナの部屋の前から立ち去った。

 

 

 

 




アスランは苦労人です。理性がよく働くので、狂うことも出来ません。

なお、キラくんはちょっと危ないかも
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