機動戦士ガンダムSEED 理想の従者   作:傍観者改め、介入者

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第24話 紅と白の共演

尚も砂漠で苦戦中だったリオンとエリク。

 

「無闇に動かないほうがいいです。だいぶ動きにも慣れてきました」

 

「ああ。集団戦法が得意そうだけどよ、だいぶパターンもつかんできた」

 

そして反撃の機会を待つ二人。この環境下では、バルカンのほうが信用できるほど過酷な状態だ。もしくはサーベルによる近接攻撃。

 

 

一方、良いように翻弄される二機の新型を見て、バルドフェルドは双眼鏡で様子を見ながら戦況を眺めていた。

 

「パイロットはどちらも経験豊富なようだ。さすがはあのクルーゼ隊を屠るだけの力はある」

 

「そうですよね? でも、バクゥの動きに初見でついていけるパイロットなんて……ましてやアレは宇宙用の機体です」

リディアは、この戦況は当然だと言い張る。宇宙では確かにフィオナたちを苦しめた機体ではあるが、ここは地球。重力があり、まったく別の環境と言っていい。

 

「そうだな。所詮は人型。砂漠という劣悪な環境に特化したバクゥが有利だ」

バルドフェルドはセオリーの観点から、自軍有利という判断をまず下す。

 

 

「だが、相手は赤い彗星だ。油断するなよ」

しかしバルドフェルドだけは違う。敵を仕留めるまで油断するなと言い続ける。

 

あの赤い彗星はこれまで困難とされた状況をひっくり返してきた力を備えている。

 

彼の予想はよく当たるのだ。だからこそ、各員の安否を気遣っていた。

 

 

 

その怨敵赤い彗星ことリオンは、実弾兵器の装備で出るべきだったと考え始めた。

 

「くそっ、どうせならIWSPで出るべきだったな」

 

「デッドウェイトで機体を壊す気か、よっ!!」

 

リオンとの会話中に懐に飛び込んできたバクゥの突撃を上空にジャンプして躱したエリク。

 

「背を見せたな、それがお前の死因だ」

 

サーベルを引き抜いたリオンは、そのままサーベルで背を見せたバクゥの背後を付く。しかし、それを見逃すザフト軍ではない。

 

 

「簡単に釣られやがって!!」

 

「ここではバクゥが陸の王者なんだよ!!」

 

背中を晒すストライク二号機についてきたバクゥ二機。レールガンの砲撃を仕掛けるも、リオンは低空飛行でそれらをすべて躱していく。

 

「――――俺を忘れんなよ!!」

上空にとんだエリクがライフルを連射。リオンが逃げる方向で待ち伏せしていたデュエルがライフルを近距離で構えていた。

 

「!?」

 

「こんだけ近けりゃ、照準もくそもねぇだろ!!」

 

緑色の閃光がバクゥの頭部から胴体を貫き、まず一匹目をしとめた二人。まさかバクゥを撃破されるなど考えていなかったザフト軍は驚きを隠せない。

 

「敵に時間を与えない!! 突貫する!! 援護任せた!!」

 

爆散する刹那に反転したリオンが2機目をしとめに来た。

 

「なっ!?」

目の前に近づいてくるストライクの姿に恐怖するバクゥのパイロット。しかし臆することなくサーベルで真っ二つにしようと突撃を仕掛ける。

 

「ふっ」

 

その場でバク転機動を見せつけたリオン。大きな砂埃が舞い上がり、ストライクの姿が見えづらくなる。

 

熱センサーがまともに使えない状況下だ。有視界戦闘のために必要なモニターから状況がわからない。

 

――――どっちだ!?

 

動きが、その速さを緩めてしまう行為こそ、彼の運命を決める選択だった。

 

「遅い――――」

砂埃から現れたストライクのビームサーベルによる刺突がバクゥの頭部を正確に貫いたのだ。

 

「メイラム、ベンをよくも!!」

 

大きな隙を晒しているリオンのストライクに攻撃を仕掛けるバクゥのパイロット。ミサイルを撃ち込むが――――

 

「もはや単騎、相手にならないな」

 

バルカンで直撃コースだけを瞬時に予測し、迎撃。貫いたまま動かないバクゥからサーベルを引き抜く時間はない。

 

「っ!?」

 

目の前のストライクはもう片腰からビームサーベルを取り出したのだ。そして、それを投擲に使う。

 

 

モニターを正確に射抜いた一撃はバクゥのメインカメラを破壊し、ストライクへの突撃はそれてしまう。

 

 

「――――!!」

ここで初めてバルドフェルドの表情がゆがむ。即席の連携だろう動きで、アドバンテージと数の有利を持っていたはずのバクゥの半数がやられたのだ。

 

メインカメラをやられただけで、2機は帰投できそうだが戦闘を行うことは難しいありさまだ。

 

「うそ!? なんであんな正確に!? 動きを読んでいるとでもいうの!?」

リディアも、もはや予知に近いレベルで相手の動きを計算し、先回りする赤いストライクの動きに恐怖する。

 

 

「レセップスに打電。主砲で敵戦艦を攻撃しろ!」

 

バクゥはこれで半数がやられた。ヘリ部隊ではもはやどうにもならない相手だ。

 

ならば相手の本丸を狙う。

 

 

 

しかし、その直掩にキラ・ヤマトがいることを見落としていたバルドフェルド。

 

 

「アークエンジェルはやらせない」

 

またしても思考が鮮明になっていく感覚。視野が広がり、何もかもできそうな気持になる、危うい感覚。

 

その砲弾の軌道を瞬時に理解し、直撃コースだけに狙いを絞るキラ。

 

 

赤い禍々しい閃光が弾頭を溶解させ、砂漠を照らす。その正確な射撃能力は、敵味方関係なく驚愕させることになる。

 

 

「本艦に接近中の攻撃、すべて迎撃されました!!」

 

「後は動かなければ当たりませんよ!」

サイが驚きの声を挙げながら状況報告をして、ノイマンも動かなければ当たらないと言い張る。

 

「キラ、君?」

あんな精密な射撃ができるような存在だったのか。低軌道戦線からキラの力は爆発的に伸びている。

 

それこそ、神がかり的な成長スピードだ。

 

「キラ、すげぇ、なんて奴だ」

トールはアークエンジェルの危機を救ったキラの活躍に安心する。ミリアリアもキラの活躍で敵戦艦の攻撃は防げる見込みであると知り、何とか勝てると思い始めていた。

 

 

「――――」

しかし、カズイはキラの驚異的な成長スピードに呆けていた。

 

――――やっぱり、コーディネイターって。おかしいよ

 

なんであんな風にできるのか。なぜ、ああも成長するのか。

 

自分たちの努力を否定するように、何でもできてしまう。キラはコーディネイターというだけで、少し頭がいいくらいの少年だった。

 

だがどうだ。非常時で訓練していたであろう金髪の異常者とコーディネイターの軍人と肩を並べて戦えている。

 

日常ではきっと、手を抜いていたんだ。そして、心の中で笑っていたのではないかと。

 

そしてサイは、キラの力についていろいろなことを考えていた。

 

――――力があるのも、ないのも、どちらも大変だ

 

キラのように力があれば、誰かに疎まれ、誰かに妬まれる。そして、その力にいずれ振り回されてしまうだろう。

 

しかし、今の自分のように無力だった時。友人の危機を前に何もできない無力感を味わうことになる。

 

―――お前は、降りるんだよな? オーブで。

 

幸いなことに、まだ除隊許可証は生きているらしい。だが、あの体で戦闘を行ったキラは、何を考えていたのか。

 

 

それが怖いのだ。

 

 

 

 

 

一方、バクゥを半数破壊されたザフト軍。まだまだ戦闘続行する状況だが、

 

「――――あの赤い奴、煽っているな」

バルドフェルドの視線の先には、バクゥを威嚇するように歩行するストライクの姿が目に映っていた。

 

一見すると隙が多い行動だが、いつでも瞬時に動く気配すら感じる。前線に真っ先に立つその姿は、エースそのものだ。

 

 

――――赤い彗星は、その実力と肝も据わっているようだな

 

「――――後退だ。敵の戦力分析ともいえないが、砂漠での適応力は驚異的なものだ。残存部隊をまとめ、引き上げるぞ」

 

 

バルドフェルドの命令が発せられて程なくして、ザフト軍は反転し、撤退していったのだ。

 

 

 

「―――――臆病者、というわけではなさそうだな」

エリクは敵が全滅する前に退いたのを見て、率直な意見を述べた。まだまだ戦える状況であったにもかかわらず、敵は被害を考慮して撤退を選んだ。

 

今までのような猪突猛進の部隊とはえらい違いだと。

 

「いずれにせよ、腰抜けであれ、考えているのであれ。今後も襲撃がありそうです」

リオンは冷静な視点で敵を分析するのだが、端的に予想されることだけを述べる。

 

相手が慎重な性格であることだけは間違いない。臆病な敵は、殺しにくいということを知っているのだ。

 

 

「それに、どうやらまたしても招かざる客が来そうですよ、ブロードウェイ中尉」

 

レーダーに反応した群影を見たリオンが、エリクに未確認の熱源を知らせる。

 

「ああ、みたいだな。けど、ジープに車? どう見たってザフトには見えないが、なんだ?」

戸惑いを隠せないエリク。いざというときには動けるようにはしているが、戦闘終了後、まだ余力のあるこちらに接触する理由は何なのか。

 

 

 

アークエンジェルではリオンとエリクから、程なくしてレジスタンスと接触したという報告を受ける。

 

 

「レジスタンス!? どうしてそんな勢力が我々に?」

ナタルもエリク同様困惑していた。

 

 

「どうって言われてもなぁ、なんでもさっきの部隊は砂漠の虎らしくてさ。で、この人たちはそれに抵抗する勢力みたいだぜ。なんだか厄介ごとに巻き込まれそうな感じだ」

エリクが端的に彼らの説明を行う。彼も、厄介ごとは何となく放置したい気分のようだが、アフリカの真ん中に降り立ってしまったので、すぐには脱出できない。残念ながら、彼らとともに砂漠の虎退治になりそうだと考えていた。

 

―――けど、補給ルートがあるのは、ありがたいかもしれないな

 

 

「判断は艦長に委ねます」

リオンは会うも会わないも艦長次第と述べていた。傭兵としてこういう方針には口を出さないのはある意味ありがたいと考えているマリュー。

 

「一応、敵ではないみたいだから、私はあってみようと思います」

 

「艦長、俺はジンの調整に手間取っているからパスな。やることが多くて敵わんな、モビルスーツってのは」

ムウは同行が難しいことを述べる。調整中のジンはナチュラルにとっては難しい代物だが、現在キラが意欲的に協力してくれている。

 

突然の積極的な行動に戸惑いを隠せない一同だが、キラの好意を無碍には出来ない。ムウは嬉々としてそれに参加している。

 

「では、ナチュラル用のOSが!?」

ナタルはその情報に驚く。まさかあの少年が心変わりしたのか、と逆に何か裏があるのではないかと考えてしまうが、これは間違いなく連合の益になると考えていた。

 

 

 

――――どういうことだ?

 

キラの協力でOS開発が進むことを喜ぶ面々の中、リオンはキラの方針転換に訝しむ。

 

彼は戦争が嫌いだったはずだ。なのに、突然人が変わったように協力を始めたのだ。

 

「――――確かめるべきだろうな」

 

先ほどの戦闘も驚くべき精密射撃を見せたばかりだ。何かが変わり始めていると断言していい。

 

 

その後、マリューとナタル、エリクがレジスタンスのリーダーと思われる男と前線基地へと向かい、アークエンジェルもその近くで停泊することになった。

 

 

エリクと同時期に帰投したリオンはブリッジのモニターで、その様子を見守ることになる。

 

三人は、まずは砂漠の上で折衝を行うことになった。相手はレジスタンスで、敵はザフト軍とはいえ、何が起きるかわからない。

 

保安員も配置し、万全の状態での接触を果たすことになるのだが。その心配はどうやら杞憂に終わりそうだ。

 

「地球軍第8艦隊、マリュー・ラミアスです。あなた方は一体――――」

 

「え!? あのザフト軍の一部隊を壊滅させた第八艦隊の!?」

 

一人の少年が目を輝かせてこちらを見てきた。マリューはその眼には優しい瞳を向けるが、内心は穏やかではない。

 

―――情報が早すぎる。南アフリカ機構の現状はどうなっているのかしら

 

「俺達は明けの砂漠だ。俺はサイーブ・アシュマン。俺はあんたたちの敵になりたくてここに来たわけじゃねぇ」

髭面の大男は自己紹介をする。サイーブと名乗った男は辺りを見回しながら、最後に三人を見る。

 

「けど、この戦力で砂漠の虎とやりあうって。無茶ってほどではないけど、だいぶきついんじゃ―――」

エリクは客観的な目で明けの砂漠に対して言葉を慎重に選びつつも、暗に無謀だといったのだ。

 

一部の青年たちの目が険しくなるが、サイーブが手で制する。

 

「あんた。エリク・ブロードウェイだな」

 

「情報の速さで予想していたけど、俺も有名人になったもんだ」

 

 

「連合初期のMSパイロットだからな。今は、赤い彗星、だっけか?」

 

「あ、あははは――――まあ、そんな名前はいらねぇんだけどな。」

 

そして、勘違いされるエリク。本当はリオンなのだが、自分は傭兵なので表舞台に立つつもりはないというのだ。ゆえに、その称号はエリクに全部あげると言ってきた。

 

怪訝そうな顔をするナタル以外はリオンの立場を守るためだと推察し、その案を通した。

 

「地球軍の新型特装艦アークエンジェルだろ。クルーゼ隊に追われて、地球へ逃げてきた。そんで、あれが…新型か?」

 

「ええ。詳しい情報は言えないけれど、連合の反攻作戦の要よ」

ストライクの性能自体は目の当たりにしているだろうが、詳しい情報は与えられない。

 

「さてと、お互い何者だか分かってめでたしってとこだがな、こっちとしちゃぁ、そんな厄の種に降ってこられてビックリしてんだ。こんなとこに降りちまったのは事故なんだろうが、あんた達がこれからどうするつもりなのか、そいつを聞きたいと思ってね」

 

 

早速本題に移ってきた。

 

「まあ、その前にそっちの銃を下ろしてからだ。こっちも前線基地に案内できねぇ」

 

「前線基地?」

保安部の存在はばれていることは、仕方ないと諦めるにしても、こんな砂漠のど真ん中にそんなものがあるのかと目を細めるマリュー。

 

「ついてきな」

 

 

 

その後、三人はアフリカ共同体がザフト軍の支援で勢力を拡大していること。南アフリカ機構が砂漠の虎の謀略で押され始めていることを知った。

 

その後、ジブラルタルを突破するのではなく、紅海を抜け、インド洋から太平洋を抜けるほかないと決めたマリューたちは、レジスタンスと共同戦線を張ることで、アークエンジェルの突破を阻んでくるであろう砂漠の虎に対抗することになる。

 

 

艦長らとは別れたリオン、ラクスは、その前線基地で働いているのが予想よりも年若いメンツで構成されていることに驚く。

 

「あんな子供まで、もう働いているのか……」

絶句するリオン。自分も才覚を活かして働いていたが、こんな場所ではなかった。

 

「―――――――誰が加害者なのか、誰が被害者なのか。もうその境界線は無いのかもしれませんわね」

ラクスも、最近キラの豹変ぶりを見て気落ちしていたのも重なり、本来の明るさを失っていた。

 

 

「―――――お兄ちゃん、どこか痛いの?」

そこへ、せっせと周囲を掃除していた少女がやってくる。辛そうな顔をする客人で、しかもあのアークエンジェルのエースでもある彼をもてなすよう言われたのも理由だが、子供はそこまで気が回っていないのだ。

 

だから、無警戒にリオンの周囲に近づいたのだ。

 

「―――――大丈夫。みんなに比べれば、どうということはないよ」

少女を心配させないよう微笑んで見せたリオン。

 

「わたくしも、どうも落ち着かなくて……何かできることはありませんか?」

 

「だ、だめだよ!! 私、お客さんをもてなしなさいって、ザイーブさんに言われたもん!」

エッヘン、と胸を張る少女。そこへ、同じ年ごろの少年がやってきた。

 

「俺らには力はねぇんだ。だから、力のあるアンタらに、せめていい状態でいてほしいんだ。こういうことぐらい俺らにもやらせてくれよ」

 

 

「―――――すまない。逆に空気を読んでいなかったな」

 

「――――皆様のご厚意にあずかりますわ。ありがとう」

心中で反省した二人は、謝罪の言葉を口にする。少年たちも要点だけは押さえている。無茶をするということが、この環境でどれだけ無謀なのかということを。

 

 

リオンは何気なく周囲を見ると、机の上に無造作に置かれた宝石を見つけた。

 

 

「ん? あの宝石は――――ルビーか」

よく採掘されるのは中央アジアで、加工技術が進歩するまで珍しい宝石と言われたものだ。

 

「これはね。採掘したアメジストと交換して手に入れたの。昔、金色の髪の男性からお爺ちゃんが譲り受けたの」

少女が説明する。どうやら物々交換で手に入ったものらしい。しかし、

 

「これは――――むっ、5カラットか。相当数のアメジストと交換したのだろう」

リオンはこの宝石を見た瞬間に驚いた。

 

なぜならこれは5カラットのルビー。しかもこれは天然ものだ。加工技術が進歩しても、天然物の価値は高い。どれほどの出費をしたのか。

 

「ううん。お爺ちゃんは3カラットぐらいのアメジストを2個ほど出しただけだよ。というより、3カラットや4カラットのルビーもあるよ」

 

「―――――――物好きな男もいたのだな」

全く釣り合いが取れていない。アメジスト2個に、重さでもおつりが出るほどの天然物のルビー群。

 

 

「綺麗ですわねぇ、天然物は初めて見ました」

 

 

何処までも赤く、どこまでも深い彩と、煌く宝石。ラクスが言うように、リオンもその輝きに目を離せなかった。

 

 

 

 

同時刻。ジブラルタル基地へと降り立ったクルーゼ隊の面々。しかし、肝心のラウ・ル・クルーゼはここにはいない。

 

「責任重大ですね、アスラン」

ニコルの言葉に、やや表情が強張るアスラン。クルーゼから言い渡された言葉を彼は思い出していた。

 

 

――――私はスピットブレイクの件で動けないが、君ならば隊長を任せられると思うのだが

 

クルーゼ隊長は戦争の早期終結を為すための作戦、スピットブレイクに駆り出されている。隊長不在の中、通常ならば部隊を動かすことはできないが、代わりにアスランを昇格させることで新たな部隊を創設し、アークエンジェルを追撃することは可能だ。

 

 

「――――あの船は、何としても沈める必要がある、か」

 

評議会でも早々に許可をいただいたとはいえ、アスランは親友が乗る船を討つことにためらいを感じていた。

 

――――この戦争は、いったい何のためにあるのだろう

 

母を失い、戦友を失い、婚約者も失った。アスランの心にあるのは虚無感だけだった。

 

 

考えることが、嫌になるほど泥沼化している。

 

「イザークの行方は、まだわからないそうです」

 

「――――そうか」

低軌道戦線で失った仲間。ザフト勢力圏のどこにも彼の情報がないということは、MIAと認定するのも仕方がないだろう。

 

エザリア・ジュールは息子を失った心労で倒れてしまった。ザラ派の中でも有力者でもあった彼女が倒れ、評議会でも動揺が広がっている。

 

さらに、ラクス・クラインの死亡と断定されたことで、クライン派も殺気立っていた。その全てが、強硬派に塗りつぶされようとしている現状に、いよいよ殲滅戦争になりかねないと危惧するアスラン。

 

「身近な人間の死に慣れていく自分が怖いな。ラクスが死んで悲しいはずなのに、悲しみよりも虚無感が先に来るんだ」

 

虚空をつかむアスラン。しかし、その手に掴めるものは何一つない。怒りを感じさせるような雰囲気は一切なく、そこにあるのは諦念のみ。

 

 

アスランはこの世界に絶望していた。

 

「どうすれば世界は間違えなかったのか。絶滅戦争になるであろう世界を、ただ黙ってみていることしかできないのか。戦争の虚しさを感じずにはいられない」

 

「アスラン。もうやめましょう、考えても好転しませんよ。今は、生き残ることだけを―――」

気が滅入っているアスランをこのままにさせてはならない。ニコルは直感から話を中断させようとした。

 

「このままでは、きっとみんな死ぬ。ナチュラルも、コーディネイターも。憎しみの連鎖は消えない。俺は、もう仲間を死なせたくないんだ」

 

 

「あ、アスラン……」

動揺するニコル。しかし、それは断じて乙女のそれではない。

 

―――そんな目で見ないでください、アスラン……

 

すべてをあきらめたような眼で、自分を見ないでほしい。アスランには見えているのだろう。

 

すべてが滅びる未来が。

 

「――――だが、お前がそう考えているのは僥倖だ。なら世界はまだまだ捨てたもんじゃない」

そこへ、ドリス・アクスマンがやってきた。怪我はもう完治しており、シグーディープアームズという新たな機体を取寄せたのだ。

 

ビーム兵器搭載型のザフトの新型モビルスーツ。シホ・ハーネンフースとは旧知の仲だという。あまり面識はないが、イザークとは会ったことがあるらしい。

 

「いやね。今ザフトはビーム兵器搭載型のモビルスーツの開発をしているんだが、シホのディープアームズとゲイツとかいう機体が競合していてね。誼で俺に用意してくれたんだよ」

 

ゲイツと呼ばれる機体。形式番号はZGMF-600。どうやら、フィオナには赤い彗星との交戦経験の実績から用意されるみたいなので、ライバル関係であるらしい。

 

「――――新型、早いな」

気落ちしていた心を押さえつけ、アスランはドリスから齎された情報を聞き、驚いた。

 

Gシリーズの技術をもとに、新型を開発するとは聞いていたが、もうこんな早期に少数投入されるとは考えていなかった。

 

「けど、これでも戦力不足だぜ。あいつらは並の戦力で挑めば全滅だ。こっちにもいろいろ準備が必要になると思うけど?」

会話にいつの間にか参加してきたディアッカがドリスの横にある椅子に座る。

 

「ディアッカ!?」

 

「まあ、最後にあいつを見たのは俺だし、親友の仇は取らねぇとなって」

 

ディアッカは当初、苦し気にイザークの状況を語ってくれた。大気圏に引き込まれる状況下で赤い彗星とストライクと交戦中にあったが、赤い彗星とディアッカは重力圏から離脱。しかし、イザークとストライクが捕まったという。

 

その際、民間と思わしきシャトルが降下したのだが、イザークが何を間違えたのか、これを攻撃しようとしたのだ。

 

この話を聞いて、アスランはそれが信じがたいものだと考えていた。だが、ディアッカは嘘を言うような人間ではない。ましてや、親友の名誉を傷つけることを良しとしない情に厚い男だ。

 

バスターから抜き取ったログにも、はっきりとデュエルが民間機をライフルで狙う姿はあったのだ。

 

それを赤い彗星が阻止し、ストライクは狂ったように攻撃を始めたという。ストライクに乗るパイロットがキラだということを知るアスランは憂鬱な気持になった。

 

――――お前は、守ろうとしていたんだな

 

バスターから見たストライクの動きは、苛烈そのものだった。あの温厚な親友が嬉々として人を傷つけるはずがない。

 

―――イザーク、どうして焦った……重力圏の話は前々からあったはずだ

 

ストライクにつけられた傷の礼をすると息巻いていた。だが、冷静さを失い、彼は志半ばで散った。

 

「―――っ」

不意に、腹部に激痛が走る。最近食欲がないことも影響しているのだろうか。胃薬をまた用意しなければならにと、欝な気持になるアスラン。

 

そして、アスランはそれを仲間に悟らせるつもりはなかった。隊長になったばかりの自分が隙を見せれば、部隊は揺らぐ。強い姿を見せ続ける責任がある彼は、倒れるわけにはいかない。

「アスラン?」

ニコルが怪訝そうな顔でアスランを見ているが、その真相にまでたどり着けなかった。そのことにほっとするアスラン。

 

「大丈夫だ。今心配なのは、フィオナの友人だ」

 

 

「―――赤い彗星は現在、アフリカにいるそうです。リディアは無事なのでしょうか。先日も戦闘があったようです」

フィオナは、アフリカに配属された親友の安否を気遣っていた。あんな怪物と戦うことになれば、生き残るだけで手いっぱいだ。無理をしなければいいのだが、と彼女は今もリディアのことを考えている。

 

「バルドフェルド隊長は聡明な方だ。おそらく無茶はしないだろう。だが、安全とは言えない」

 

 

「なんにせよ、今は俺たちの部隊の立て直しが先決だ。迷っているならやり通す。できる限りフォローするから、これから頼むぜ、ザラ隊長!」

ドリスが重い空気を消し去るように、手でパンパンと叩き、会話を終了させる。救われたように疲れた笑みを見せるアスランを見て、「いいって、いいって」葛藤のない隊長のほうが不安だからな」と笑みを送る。

 

 

ザラ隊は来るべきアークエンジェルとの対決のために準備を進めていた。

 

 

しかし、赤い騎士の葛藤は深まる一方だった。

 

彼は知らない。彼の同胞の行為によって、親友は昔のような温厚な少年から変貌しつつあることを。

 

 

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