機動戦士ガンダムSEED 理想の従者   作:傍観者改め、介入者

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第27話 歌姫の想い

リオン負傷の知らせはアークエンジェルに衝撃を与えたが、掠り傷で済んでいることで大きな混乱を招くほどではなかった。

 

 

リオンはヘリオポリスの学生たちを集めてほしいと言い、マリューを含む主だった士官らがいる中、自分の目的を一部告げることにしたのだ。

 

「さて、学生たちはハルバートン提督から受け取った除隊許可証はまだ手元にあるな?」

 

「―――――リオン君?」

いきなり除隊許可証のことを出してきたリオンに、初めて不安を感じたマリュー。しかし、リオンは「砂漠の虎から逃亡するつもりはない」と言い放つ。

 

ここで除隊したとしても、足もなければ備蓄もない。無謀の二文字だ。

 

 

「今回、砂漠の虎を撃破する予定ではあるが、その後の航海は一筋縄ではいかないだろう。ゆえに、紅海を渡る際の一つの提案として、オーブへの寄港をアークエンジェルの諸君に提案したい」

 

 

そして、リオンはあろうことか中立のオーブへの寄港を具申してきたのだ。あの中立を掲げる国家に対し、またしても厄介を持ち込むことに連合士官たちは渋い表情をする。

 

「――――ヘリオポリスの時とは状況が違う。まずプラントの民間人、セイラ・グレンベルを引き渡すこと、そして私の契約もそこで切れるからだ」

 

リオンがハルバートンとアークエンジェルと交わした契約は、オーブへの寄港まで。リオン曰くそこで万全の支援を受けられる約束があるという。だが、リオンがオーブの中でいったいどれほどの存在なのかを知らない。

 

「そしてその証明のために、私の正体を明かすことにしよう」

 

 

 

無論、艦長たちは知っていることだが、一応機密扱いで下の士官には知らせていなかったことだ。

 

「リオン・フラガ。オーブの名家となったフラガ家の次期当主候補であり、モルゲンレーテの技術者。さらにいえば獅子の娘とも懇意にしている間柄」

 

 

「あの大火災を生き残った、本家の血筋を継ぐ者。オーブに確認を取るといい。しかし、このことはオーブ本国に到着するまで秘匿してもらうし、リオン・フラガ本人がアークエンジェルに協力していたことは伏せてもらう」

 

 

「まずはこの条件を受け入れてくれるかどうかだ」

 

リオンがここまでの要求を呑んだのには勝算がある。低軌道戦線での無茶な進路変更。アークエンジェルには戦闘データがあるにもかかわらず、見捨てないという判断をしたということ。

 

アークエンジェルの面々がリオンに対して信頼し始めた証拠と考えたからだ。

 

 

この戦艦の中で彼らに接していくうちにわかる、甘さを計算に入れた狡猾な要求。

 

 

「―――――今更あなたが何者であるか。それはもういいわ。それと、あれから貴方の隣にいた少女だけれど、カガリ・ユラ・アスハご本人よね?」

 

 

「―――――その通りです。彼女こそが未来の我が主君。獅子の名に違わぬ才覚を秘める、オーブに咲く大輪ですよ」

気障な言い回しで、カガリのことを白状するリオン。

 

―――――とは言え、咲いてもらわないと困るが…

 

しかし、若干不安を覚えるリオン。

 

 

「オーブの獅子の娘!? まさか婚約者ってことなのか!?」

サイが叫ぶ。リオンの言っていることはつまりそういうことではないかと。一般人離れした雰囲気を持つ彼がただ者ではないと知っていたが、まさかオーブの中枢にかかわりのある人物とは考えていなかったのだ。

 

「そ、そんな。金髪の女の子は―――」

カズイがリオンに対し、すがるような眼で尋ねてきた。もし、彼女がそうであるならばシャトルで先に帰ったということになる。彼女の権限を使えば、低軌道戦線の戦闘を止められたのではないかという浅はかな願いを心に秘めて。

 

「彼女が行使できる権限は少ないが、ウズミ前代表の娘…まっすぐで、優しい少女だ。アークエンジェルの中では民間人として身分を隠す必要があった。まだこの船のことをよく知らなかったのでな」

 

リオンはやんわりと彼女の権限ではあの戦闘はどうにもならなかったと暗に説明し、身分を隠したのも連合のオーブに対するキーになることを恐れてのことだったと白状した。

 

「――――なるほど、ね。でも、どうしてカガリさんはヘリオポリスに?」

正体がカガリ・ユラ・アスハであるならば、どうしてヘリオポリスという資源衛星にいたのかがわからない。本国でその知らせを聞くのが自然だ。

 

「何処から嗅ぎ付けたのか、G計画がヘリオポリスで行われていると知り、俺を連れ戻すために従者一人を連れて、遠路はるばるやってきたのだ。俺は技術者だからな。当然衛星の中で仕事に従事していた」

 

 

「なるほどな。で、オーブが欲しいのは戦闘データか? 中立には金がかかるみたいだな」

エリクは、裏でこそこそと力を蓄えるオーブを見て少し目を細める。中立を謳いつつ、連合とプラントの間でうまく立ち回り、力を蓄える。

 

やり方は間違っていないが、あまりいいものではないと考えていた。

 

「ええ。オーブは国体を守るために力を欲しています。ナチュラルとコーディネイター。この二つの種族の共存を目指し、国を栄えさせるのはいばらの道。しかし見返りも大きい」

 

 

コーディネイターとナチュラルの共存。臆面もなく、リオンはそう言い放った。その言葉に息を呑む連合軍人たち。

 

「コーディネイターと、ナチュラルが――――――」

誰かの呟きが響く。しかし誰も異論を唱えることが出来ない。オーブの覚悟と決意を、リオンを通じて感じているから。

 

 

目の前のリアリストは、難業に等しい理想を掲げていたのだ。

 

 

見ているものの次元が違う。彼はどこまでも未来を見据えていた。

 

だが、気圧されたままでは話が進まない。ムウが最初にこの空気を壊すために両手でパンパンと叩く。

 

 

「――――ま、いいんじゃないか。いきなり敵になるわけでもないし。オーブが補給を万全にしてくれるのはありがたいだろ。紅海を抜けて、アラスカまで行くのは遠いからな」

ムウもリオンの提案に異論はないと考えていた。この戦争の中でも水面下で動くことに徹しているオーブの目的を正確に理解できただけでも良しとしたい。

 

 

ナタルは、アラスカ本部で報告するかどうかを考えていた。リオンという絶対的なカードを切れる期限はオーブ寄港まで。そこからはエリクを中心とした配置になるだろう。

 

―――オーブ縁の者なら仕方ない、か

 

キラ・ヤマトもそうだが連合は人材難だ。第八艦隊も精強さを誇る一方で新人が占める割合が高くなりつつある。

 

 

「そして、ウズミ様のツテで学生たちを何とか除隊させることはできるのだが、各々に判断を委ねたい。アークエンジェルに残るもよし、アラスカまで行くもよし。オーブ寄港までがリミットだ」

 

リオンは言いたいことを言うと、マリューたちの後ろに下がった。

 

「聞いての通りよ。本来なら低軌道での帰国が予定されていました。しかし、それは果たせず、こんな辺境まで付き合わせてしまいました。リオン君の計らいで、オーブに戻れるのは恐らくこれが最後でしょう」

 

そして、マリューは学生たちに頭を下げた。

 

「こんな未熟な艦長に、私たちに協力してくれて、ありがとう。そしてごめんなさい。オーブに戻れば、もうこんなことは起こり得ない」

 

 

以上でリオンからの話と、マリューの補足が終わり、緊急の報告が終了され、解散する学生たち。

 

「や、やっぱり戻れるんだ」

うれしそうなカズイの姿。カガリではないが、オーブが除隊を後押ししてくれると分かった途端に表情が明るくなる。

 

「よせ、今そんな顔をするべきじゃないだろ」

サイは士官たちの前でうれしさを隠さない彼を注意する。今までいろいろあったが、サイは連合士官たちとともに戦ってきた経験がある。そんなに悪い人たちではないし、第八艦隊のハルバートン提督のこともある。

 

――――絆されたよな、俺。

 

フレイもアルスター事務次官も先に地球に降り、決意を新たに頑張っている。自分だけのうのうとオーブにいていいのか。

 

 

連合に感化されている者、それでもオーブに帰る者。様々な感じ方をする若者たち。

 

 

 

「―――――しかし、本当に生き残っていたんてなぁ」

 

「―――――最初から言っていたでしょう? 嘘は言っていないと」

 

ムウは、リオンとキュアンについての話を改めて聞くことした。互いに親族であると理解したからこそ、できる会話も増えた。

 

 

そして、キュアンのことを少なからず知っている彼は、リオンが本当にリオンなのだと知ることになった。

 

 

 

 

部屋に戻ったトールとアルベルトは、この先の選択について考えていた。

 

「やっぱりただ者ではなかったんだよな、あいつ」

 

「ああ。オーブのお姫様かもしれないっていう、アルの予想は当たっていたのか」

 

まさかすぐ隣にオーブの姫様がいたことに、その実感がなかった。

 

「――――俺、オーブ軍に入るよ。連合にこの先もいるつもりはない、な」

トールはオーブで降りる決意をする。自分はもう戦争から逃れられないかもしれない。だが、せめて自分の故郷の力になりたいと考えていたのだ。

 

もしかすれば、オーブ軍に入るかもしれない。そんな予感があった。

 

「――――俺は、連合に行く。前々から思っていたことだが、プラントのやり方には賛同できない。地球のコーディネイターにも被害が広がる。だけど、ブルーコスモスが無秩序にコーディネイターを殺すことだってだめだ」

アルベルトは、アークエンジェルに残ることを選んだ。連合は確かにコーディネイターの国であるプラントと敵対しているが、キラやエリクのような人間も連合の中にはいる。エリクの話曰く、ジャン・キャリーという男は自分の先輩にあたるそうだ。

 

「――――そっか」

 

道が分かれたことで、別れの日が近づいてきているのがわかる。気の合う友人であっても、信念はそう簡単に変えることが出来ない。

 

「キラや、エリクさんのような。もっといえば普通に明日を生きているコーディネイターを守るために、連合の中から変えなきゃいけない。止めなきゃいけない」

 

 

トール、ミリアリア、カズイはオーブへ。キラ、アルベルト、サイは連合に残る。

 

さらに、レジスタンスとの合同ではなく、単独での紅海への脱出を図るアークエンジェルは、立ちはだかるであろう砂漠の虎の撃破を条件に、進軍を開始。

 

連合士官たちもまた、前に進み始めていた。

 

 

 

 

 

後日、その話を聞いたリオンは嘆息する。

 

――――それはそうかもしれない。だが、お前たちが背負う必要はないだろうに

 

キラのアラスカでの問答、アルベルトのコーディネイターに対する誓い、アルスター事務次官を支えるためにニューヨークへと向かうサイ。

 

 

「―――――難しいものだな」

リオンは、普通の若者だった彼らが戦闘に出る必要はないと常々考えていた。なぜこんな風に彼らを駆り立ててしまうのかは理解できる。

 

――――俺も人のことは言えんからな

 

「――――彼らは、笑顔で別れを告げたそうですわ」

隣にいたラクスは、沈痛な表情を浮かべているリオンの手を握った。彼が責任を感じている、そう思えたから。

 

 

彼らはオーブ国民だったのだ。リオンにとってはそれも守る対象だった。それが自らその手の外へと歩を進めていく。

 

――――オーブは、お前たちの理想とは違う、ということなんだな

 

中立で、何もしない。二つの勢力が疲弊し、厭戦感情が高まった時に仲介をするだけ。リオンだけではなく、首脳陣も落としどころに介入し、戦争終結を目指している傾向にあった。

 

自らの血は流さず、講和を進める。それは国家としては最善の方法だといえる。

 

しかし、彼らの目には卑怯にも見えたに違いない。

 

「――――プラントに戻られたら、本当にお願いします」

 

リオンに出来るのは、まず目の前の彼女を信じることからだ。ラクスが無事にプラントに生還し、オーブという国に対するマイナス評価を和らげること。彼女というシンボルを旗頭に、厭戦感情を広めることだ。

 

「勿論ですわ。この戦争の結末は、冷静な人間ならば容易に想像がつきます。国家の利害ではもはや測れない、再構築戦争以前から蔓延る民族、種族の問題。どちらかが倒れるまで、争いが続く、地獄のような世界」

 

再構築戦争以前では、宗教の違い、エネルギー問題、経済圏、民族の違いというものに縛られ、世界を疲弊させていく。

 

蒼き清浄なる世界のために、という言葉が可愛く思えるほどの差別があった。ホロコーストという行為が、互いの意識の中に常に見え隠れしている。

 

相手を絶対に認めない。彼らを縛る思想と理念が、争いを激化させていき、駆り立てるのだ。

 

――――空の化け物を殺せ

 

―――ナチュラルを超えた存在だ

 

――――空に還れ、宇宙の化け物

 

――――新人類である我々こそ、世界の覇権を握るのだ

 

宇宙では、ザフト軍の戦士たちの声を聴いた。断末魔以外の、叫び声があった。

 

地上で目の当たりにした、ブルーコスモス。

 

「――――連合もザフトも、違わない」

 

悍ましいものを見続けた。世界を滅ぼす大きな二つのうねりを目の当たりにしたリオンは、アレを何としてでも止めなければならないと考えていた。

 

「あるのは、狂気だけだ」

 

 

リオンがプランを進める最中、戦場では誰かが死んでいる。誰かの日常が壊されていく。

 

 

そしてオーブは中立として、この混乱を放置し続けた。オーブにその義務があったかどうかは知らない。だが、自国民を守るために他の国民に目を向ける余裕も、力もなかった。

 

 

「――――君は軽蔑するかな。どちらの勢力にもつかず、裏で暗躍を続ける俺を」

その為に、自分は今できる事を為す。

 

「いいえ。貴方を判断するのは、未来の方々です。世界を想い、カガリ様を想い、世界のために動くあなたを軽蔑などいたしません」

 

強い意志を感じる瞳で、リオンの行いを肯定したラクス。

 

「――――ジョージ・グレンは何を思い、彼の在り方を明かしたのか。今のわたくしたちを見て、彼は何を思うでしょう」

 

本当にこれが、新人類なのか。彼が本当に望んだ世界なのか。

 

「少なくとも、彼には善意があったと思う」

リオンはジョージ・グレンに会ったことなどない。だが、さまざまな偉業を達成した伝説の偉人でもあることは知っている。

 

この戦争の根っこに位置するモノを知らないのでは、世界と向き合うことなどできない。

 

「僕はこの母なる星と、未知の闇が広がる広大な宇宙との架け橋。そして、人の今と未来の間に立つ者。調整者。コーディネイター」

彼が世界に最も大きな衝撃を与えた際に発せられた、メッセージを紡ぐリオン。その意味について、世界は解釈を間違えているのではないかと考えていた。

 

――――貴方は、何をもって人の今と未来の間に立とうとした?

 

そこから世界は狂いだした。メッセージを正しく理解できていなかったのかもしれない。

 

「リオン様?」

 

「――――なぜ彼は、外宇宙に進出する直前にあのメッセージを発したのか」

顎に手を当てて、考えるリオン。それがわかれば世界はさらに変革へと進む。なのに分からない。

 

「だからこそ、なのかもしれません」

聞き手に回っていたラクスが、リオンにヒントに近い言葉を発した。彼女もまた彼の芯に近づいたとは言いづらい。だが、確信めいた何かを感じ始めていた。

 

「外宇宙に出ることで、人類は大きな一歩を踏み出しました。ジョージ・グレンはだから――――」

 

 

ラクスがその次の言葉を言おうとした後、艦内に鳴り響く警報。第一種戦闘配備が知らされたのだ。

 

「――――すまない。話は戦闘が終わった後だ」

 

「ええ。どうかご武運を」

 

 

リオンはすでに機体に乗っているであろうキラ、ムウ、エリクとともに戦闘へと向かう。

 

 

先にもっとも待ち伏せに有効と考えられる地形を押えられていることが、紅海進出の大きな障害となっていた。

 

「本作戦は、紅海への進出を目指す我が軍前方に位置するであろうタルパティアに配置された敵部隊の撃破が主目的となります」

 

タルパティア。元はレアメタル採掘用の工場跡地であり、今は閉鎖されて放置されている廃墟地区。地形的に複雑なせいで、ゲリラ戦向きの場所といえる。

 

 

そこで多数の戦力を配置しているザフト軍は、ここでアークエンジェルをたたく計算なのだろう。

 

 

「アークエンジェルの直掩にヤマト少尉のストライク、フラガ大尉の大型ビーム砲装備のジンを配置し、遊撃はフラガ少尉、ブロードウェイ中尉が担当します」

 

 

ここで、宇宙で鹵獲した敵武装の一部を流用したムウのジンが初出撃。高速戦闘が主体の今回の戦闘では後衛だが、公式では初となるナチュラルのMS戦闘。

 

「今回、MSでの戦闘が間に合うとは思っていなかったなぁ」

念願かなってモビルスーツに乗り込んだムウは、感慨深い気持ちでコックピットに座っていた。

 

「僕の作ったOSですけど、操作に不備はありませんか?」

 

「いいや、手足のように動くぜ」

 

まだまだ未完成な部分が多いOS。だが、一定の成果はある。

 

機体制御を一から見直し、ストライクなどの戦闘データを流用、パターン化することにより、運動性能を飛躍的に向上させた。何しろ、コーディネイターのOSはすべてがマニュアル、すべてが反応速度任せによる危険な代物であるからだ。

 

細かな姿勢制御までマニュアルでは安定したOSとは言えない。キラは余計な手順を撤廃し、統合したのだ。

 

着地の際の制御に必要な脚部スラスターの減速、機体姿勢をOSによって統合することで、繊細な操作技術を必要としなくなった。

 

さらには単純な二足歩行の際もバランスを自然と取るようにプログラムを追加、マニュアルによる乱暴な操作で機体の駆動系を傷つけないよう、完全に制御化に置いた。

 

二足歩行から背部スラスターのみを動かすのではなく、脚部スラスターを連動させることで、スムーズな加速、脚部バーニアによる逆噴射のブレーキも可能となった。さらに上昇の際のスラスター制御も脚部、背部と連動し、ペダルの強弱によって加速の強弱をつけることも容易となった。

 

これで、歩行、ダッシュ、ジャンプという基本的なMSの動きが可能となった。

 

火器管制に改善の余地ありだが、ジンのような単純兵装ならば問題ない。

 

 

 

 

「――――出撃だ、全員で戻るぞ。アークエンジェルにな」

 

フラガ大尉の言葉に各パイロットは大きくうなずいた。操縦桿を握る手の力が強くなる。

 

 

 

 

一方、アークエンジェルを待ち伏せしていた砂漠の虎は、レジスタンスの力を借りずに単独での突破を目指し、こちらの撃破を目指すアークエンジェルに苦笑い。

 

「相手は新型が3機。いくら地上での高速戦闘で有利といえど、アレは常識で測る存在ではない。絶対に単独戦闘を避けるんだ」

 

「―――――」

 

最新鋭のMS、TMF/A-803ラゴゥを背に、各隊員に敵の脅威について、念を押すように確認するバルドフェルドと、無言のまま彼の横で静かに立っているアイシャの姿も。

 

 

「――――――(どうする気、なのかな)」

リディアは、アークエンジェルの中にラクス・クラインがいる以上何もできないと考えていた。さらに言えば、ここで普通に戦ったとしても勝率は低い。

 

リオン・フラガという男は、ここで何をするつもりなのか。

 

 

彼女は目の前に鎮座するザフトの最新鋭MS、ZGMF-600F先行型ゲイツを見る。総合性能では、ジンやシグーを凌駕するザフトの最新鋭MS。ジンハイマニューバが来ると考えていた彼女にとって、これはうれしい誤算だった。

 

――――スペック上、連合のGシリーズにも引けを取らない。でも、

 

機体に乗り込むリディアの表情は暗い。

 

ここで、戦闘を行うことに意義はあるのか。厭戦感情が彼女を支配する。

 

 

その時、レセップスの艦内で警報が鳴らされる。アークエンジェルは逃げ隠れするつもりなどなく、正面から突破を試みるようだ。

 

 

モニターの映像からも、突出しているのはリオンの乗るであろう赤いストライクのみ。他の機体はすべてアークエンジェルの上に乗ったまま銃を構えていた。

 

「どういう、こと?」

 

 

全員でかかれば、より簡単に突破できるはずなのに、リオンはあえて単騎掛けでこちらと戦うつもりだ。

 

 

 

 

一方、アークエンジェルではリオンの驚くべき提案に驚きつつも、首を縦にうなずくだけだった。

 

「フラガ少尉の単独先行!?」

マリューはまずリオンのその提案に驚きを隠せない。いくら彼がエースといえど、それはさすがに厳しいのではないかと。

 

 

「むしろ、連合の新型の性能を喧伝するいい機会です。GシリーズにはGシリーズしか対抗できない。今後のことも含めて、ザフトの目をくぎ付けにする必要があります」

 

リオンは落ち着いた口調で説明を始める。

 

「まず、紅海を抜けた時に我々を待ち受けるのは、水中型MSの群れでしょう。ザフトは小規模な部隊を複数出撃させ、網にかかった我が艦を補足する。海戦に不慣れなアークエンジェルをあわよくば撃沈させる、と」

 

広大な海を横断することになるアークエンジェル。だからこそ、ザフトはアラスカ行きを阻止するために部隊を広範囲に展開することが予想される。

 

「無論、それは私も考えていることだ。だが、今リスクを冒す必要はないのではないか?」

ナタルも、ここで蛮勇に等しい作を選択するリオンに眉を顰める。強者特有の傲慢さが出ていると感じていたし、リオンを失えばオーブでの補給の道が立たれるかもしれないのだ。

 

 

 

「――――だからこそ、理解させる必要があるのです。小規模な部隊をいくら展開しても、すぐに網を食い破るということを」

獰猛な目つきで、目の前で展開するバルドフェルド隊を見てささやくように言い放つリオン。

 

愉悦をはらんだかのような声色で、彼らを見て言うのだ。

 

 

お前たちは、俺の敵ではないと

 

 

 

「そして、小規模な部隊で交戦をさせても、いたずらに犠牲が増えるだけと考えたザフトはこう考えるでしょう。部隊を集結させて追撃に向かわせる必要があると」

 

 

リオンは、ここで強さを示すことで広くなるであろう紅海での包囲網を狭める狙いがあった。

 

 

分散した部隊を統合し、索敵を進めなければ人的資源に乏しいザフトはすぐに干上がる。彼らの弱みを理解し、たかが戦艦1隻に執着するわけにはいかず、かといってデータをアラスカに持ち帰られるわけにはいかない。

 

 

「彼らの弱点を考えれば、これ以上ない嫌な手でしょう」

 

 

 

「――――確かに、地球には5億前後のコーディネイターがいる。そして、プラントにいるのは1億前後のコーディネイター。コーディネイターの総意を掲げておきながら、過半数すらいかないんだからな。消耗戦は避けたいだろうな」

 

そして、リオンの話の聞き手に回っていたエリクが納得するように周囲に解説を始める。プラントの人的資源の乏しさこそ、弱点であり、基本戦略が限られてくる。

 

 

「ここで、赤い彗星一機に彼の高名な砂漠の虎が完敗するというシナリオ。軍政部は苦悩することでしょう」

 

 

「――――そういうわけなら、俺に異論はねぇ。ただ、もう一機つけとくべきだろう」

エリクはリオンの策を支持しつつも、さすがに単騎ではエネルギーの問題も出てくると考えていた。

 

「なら僕も前に出ます。ジェットストライカーで空からの援護ならいけます!」

 

ここで、キラがリオンとのエレメントを希望する。アークエンジェルの積み荷の中に含まれていたジェットストライカー。

 

宇宙戦闘では全くの使い物にならないものではあるが、大気圏内ではディンを圧倒できる高い機動性を誇る。

 

地対空ミサイル、対空ミサイルの2種類を装備しており、さらには基本装備であるビームライフル、シールドを有している。

 

ただ、この装備の難点は、キラの乗るストライクではビームサーベルを装備できないことにある。リオンの乗るX105Aストライク二号機ならば全く問題がないのだが、1号機のストライクにはサーベルを収納するスペースが存在しない。

 

「近接戦闘は出来る限り避け、空中での支援に徹してくれ。射撃に関しては当てにさせてもらう」

 

リオンも、ジェットストライカーの出来には注目していた。宇宙にいたころからほこりをかぶるような代物ではあったが、オーブの今後を考えればほしいデータでもある。

 

「わかった!」

 

 

 

キラの乗るストライクが飛び立ち、続けてリオンの乗る赤いストライクが敵部隊に突貫する。

 

 

 

「さぁ、無駄球は撃ちたくない。すべて近接戦闘で済ませたいのでな」

 

ビームライフルを収納し、盾を前に構えながらスラスターを全開にするリオン。1号機を上回る出力を誇る2号機は、リオンに強烈なGをかけてくるが、それに動じるような男ではない。

 

 

後の白い悪魔と、赤い彗星の競演。その競演は砂漠に何を齎すか。

 

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