機動戦士ガンダムSEED 理想の従者 作:傍観者改め、介入者
アークエンジェルの眼前で、二機のMSが出撃。それを見守るのは赤いデュエルことデュエル二号機に乗るエリク。そして、初陣が立ち見となったムウのジン。
「――――狙撃の準備だけでもしておこっか」
ムウは笑みを浮かべながら狙撃体制に移るやれることといえば、後方からの援護射撃だけになる。
「この分だと、それすらいらないかもしれないっすけどね……」
エリクはムウの言葉に対し、眼前で起きている光景を見て乾いた笑みしか浮かべることが出来なかった。
まず、キラの乗るストライクが航空機以上の機動性をもって、戦闘ヘリを無力化することから始まる。
「な!? 何だあの装備は!?」
「空の上から!? それにあの機動性は!?」
地上ヘリの速力など置き去りにするスピードをもって、彼らの頭上から一方的な攻撃を仕掛けるキラ。
「宇宙用のストライカーパックしか使ってこなかったから。でも、あったから仕方ないね」
バルカンで戦闘ヘリを次々と落としながら、地上で行われている惨劇を見て苦笑いするキラ。
「――――うん、本当に僕の助けは、いらなかったみたいだ」
しかし、待つだけでは申し訳ないと思い、隙を見せているバクゥを空から狙撃していくことにしたキラ。
「くそっ!! 地上の赤い彗星だけでも手いっぱいだってのに、あの新型装備のストライク!!」
当然、地上の王者であるバクゥが一方的な攻撃にさらされることになる。目の前にはエースの赤い彗星。後方には十分な護衛をつけているアークエンジェル。
そして空には、キラの乗るストライクが絶えず隙を見せた機体を撃破していくのだ。
完全な戦略上での敗北だった。
「俺たちが、地上の―――!!」
全てを言い終わる前に、メインカメラごと胴体を撃ち抜かれたバクゥが爆発する。
「ぐわぁぁぁ!? あれ?」
機体を撃破されたにもかかわらず、生きていることに驚くパイロット。赤いストライクは動けなくなったバクゥの横を素通りし、次の獲物に攻撃を仕掛けていく。
「次は右に急旋回。ひきつけたバクゥの周囲を狙え。そうすれば敵も動きを止める」
「了解。でも、本当に…」
「ああ。お前を巻き込んだ形にはなったが、頼めるか?」
リオンからは、今回のクライン派閥の部隊をあまり殺すなと言われている。和平に必要な人材だというので、キラに異論はなかった。
「大丈夫。リオンなりの考えがあってのことなんだよね。僕は、リオンを信じるよ」
「恩に着る。お前の航空支援は心強い」
リオンのストライクは飛び回っているだけだ。むしろ、スコアを伸ばしているのはキラの方だ。リオンはバクゥの高速機動を軽くいなしながら、サーベルでのカウンターを決めているに過ぎない。
空と地上での連携は、それほど強固なものだった。
「―――――次々と僚機が!」
レセップスの甲板で待機していたリディアは、唇をかみしめながら戦況を見ることしかできなかった。
――――ゲイツは君にとっては新型だが、この地上戦では分が悪い。他の戦場でならいいんだがね
バルドフェルドの命令は待機だ。自分でも勝てるかどうかわからない相手に、新兵を突っ込ませるつもりはなく、
「――――来たか」
サーベルを片手に持った状態で、オレンジ色のバクゥの発展型と思わしき機体が躍り出たのを見て、リオンは薄く笑う。
「――――赤い彗星、どういう意図かは知らんが、それはあまりにも手を抜き過ぎだろう」
軽口をたたくバルドフェルドだが、目は笑っていない。
最善と思われる戦略を立ててくると考えていた。しかし、目の前のこれはどういうことだ。
戦闘ヘリはすべて撃墜され、重傷者を出すなど被害は出ている。だが、まだ死亡した隊員の報告は受けていない。
そして、地上で撃破されているバクゥもすべてが大破という状況だ。すでにパイロットは脱出し、レセップスへと戻る最中だという。
目の前の赤い彗星は、手心を加えている。それははっきりと断言できる。
こちらの攻撃を、盾を使うまでもなく回避し続ける。そんな芸当が出来る人間など、そうはいない。
回り込んで機動力で翻弄するつもりが、
「確かに速い。加速力も相当なものだ。だが、速いだけでは俺に攻撃を当てられるわけではない」
真横から並走しながら狙撃するも、脚部バーニアによる逆噴射でブレーキをかけ、方向転換。
「――――っ」
アイシャの射線からまたしてもリオンが消える。
「ぬぅ!!」
そして、背後を付いてくるリオンの動き。後方からのライフルを避けるバルドフェルドだが、動きのスピードが問題ではないことを悟る。
――――スピードに対し、見切りをつけたうえで正確にアプローチするか。
いったいどんな頭脳をしているのだ。バクゥの高速戦闘を簡単に見切るなど、常人では考えられない。
「アンディ、熱くならないで、負けるわ!!」
「熱くなる暇もないがね!」
アイシャの砲撃によって、ストライクは距離を取りながら回避するが、無駄弾は撃ってこない。本当に手ごわい相手だと彼は心の中でうめく。
――――フェイズシフトの短所を理解したうえで、最小限の動きを優先してきては―――
これでは、せっかく対G戦闘を考えていたのに、その成果を出すことが出来ない。
そして、それらの難題を容易に乗り越えて見せる目の前の赤い彗星の姿に、苦笑いをするしかなかった。
――――本当に、目的のためにはどんなこともするのだね、君は
バルドフェルドもバカではない。クライン派閥でもある自分たちを刺激させず、有効に活かすことで、今後の和平のことでも考えているのだろう。
目の前の戦闘に目が向いておらず、政治の話を考える兵士。それでも片手間で撃退される自分たちはどうなのだろうと。
「まったく、あの少年の強さは末恐ろしい。いったいどうやって手に入ったかが皆目見当もつかない」
冷静に、なんでもなさそうに言うが、そうではない。
齢18歳であそこまでの戦闘経験を、一介の技術者が出来るものか。存在自体が詐欺のようなものだ。
「そうね。でも、あの子が連合を最後に見限ると確信できたからこそ、ほっとしているところもあるわ」
彼は連合の人間ではなく、オーブ寄りなのだ。今後も先陣を切って彼が敵として立ちはだかるならば、プラントにとっては脅威といえる。
そして、手心を加えるほど彼の実力は他とは一線を画すものであり、こうして今も、
「―――――」
油断なく、こちらの動向を見定め、無闇に動こうとしない。的に見えるが、いつでも対応できるよう逆に隙のないストライクの姿は、これまで戦場で見たことのない強敵であった。
バクゥの戦い方を見たのは数回のはずだ。なのに、
「いい機動力だ――――」
軽く右ペダルを踏み、レバーを右に入力することで、右へと軽くステップしたストライク二号機。斜め右後ろから砲撃を加えてきたラゴゥのビーム攻撃を回避し、
「しかし、俺の敵ではない」
続けざまに後方にダッシュするようレバーを入力し、ペダルを強く踏んだリオン。背後にいたはずのラゴゥの後ろを取ったのだ。
最小の動きで回避し、詰めの動きを迅速に。
「なにっ!?」
ストライクの背後を取り続ける動きを予測されていたバルドフェルドは、逆にリオンに背後を付かれることになる。
「そこだっ」
ライフルの一撃が二門あったビーム砲の一つを正確に射抜いたのだ。スパークを起こしながら爆発する武装。
「きゃぁぁ!!!」
スパークを起こす計器を見て悲鳴を上げるアイシャ。被弾をした段階で決着がつき始めていることを悟るバルドフェルドだが、ここで退くわけにはいかない。
――――完全に動きを見切られているか……
しかし、リオンは自分をはるかに上回るエースだ。しかも、奴は恐らくまだ本気を出していない。
「ならばっ!!」
一門になったビーム砲で距離を取りながら攻撃をし続けるバルドフェルドだが、火力不足なところもある。
「一門だけでは、どうにもならない。降伏を勧めるが」
冷静な口調でリオンはバルドフェルドに降伏勧告を促す。
「―――――っ」
分かっている。もう勝負はついている。他のバクゥの部隊は空中で狙撃を続けるストライクによって、そのほとんどがやられている。
犠牲者こそ少ないが、動ける機体はリディアのゲイツと手負いのラゴゥのみ。
だが、彼もザフトの軍人としての矜持がある。ここでおめおめと逃げるわけにはいかない。
その時だった。
「っ!?」
リオンはその場を慌ててジャンプし、迫りくる緑色の閃光から逃れる。尚も追撃の手を緩めない攻撃は、ストライクとラゴゥの距離を十分なものとした。
「!? リディア!? どうして前に来た!?」
声を荒げるバルドフェルド。優秀な部類であるものの、実戦経験に乏しい彼女が前に出るべきではない。
こちらの窮地に前に出てきたことはありがたい。だが、彼女を危険に晒したくなかった。
「隊長っ!!! でも、このままじゃ――――」
ラゴゥを目で制しながら、リディアはストライクに乗るリオンの目の前に躍り出た。
「―――――前に出るということは、俺と戦う――――そういうことでいいんだな?」
チャンネルを開き、囁くような声で確認を取るリオン。まるで死神のようだ。しかしこれだけは言える。
「降伏はしません。けど――――」
リディアはストライクとラゴゥの間にライフルを乱射したのだ。
「!?」
突然のことに、リオンは目を白黒させる。そしてすぐに目晦ましであることを悟ったリオンは追撃するために、動き出すのだが――――
「!!(艦砲射撃か―――)」
まるでタイミングを図ったかのように、リオンの周囲に弾頭が飛び交う。だが、これはリオンを狙ったものではなく、あくまで足止め。
リディアの狙いがなんなのかを悟ったリオン。そしてそれを、まるで喜ばしいように笑うのだ。
――――うまく立ち回ったのは、彼女の方だったか。
その二つの物体が遠くなっていく。追撃は出来るだろうが今度はこちらのパワーが心もとない。そこまでのリスクを負う必要はないと判断したリオン。
もっとも、そういうことはただの言い訳になるのだろうが。
砂漠の虎は、赤い彗星に敗れたが、生還することが出来た。数多のザフト軍を葬り去り、部隊を壊滅に追い込んだあの強敵相手に、アフリカを放棄することになったとはいえ、複数回交戦し、生き残るというのは今後のザフトにとっては大きなことである。
何しろ、クルーゼ隊以外はほぼ全滅しているようなものだからだ。交戦した際に残るログも赤い彗星を倒すために必要なものだ。
それを手に入れたバルドフェルド隊に、そこまでの責任はないだろう。無論、負けたということでいろいろあるだろうが。
「―――――すまなかった。君のおかげで命拾いしたよ、リディア」
気を相当張っていたのか、バルドフェルドの声は疲れているように聞こえた。それだけの強敵だったのだ、無理もないと彼女は思う。
「――――あのままでは、間違いなく死んでいました。峰打ち程度で済ませようとした、彼がいつ豹変するかわかりませんでしたし――――」
リオンはこちらを殺す気はなかった。だからこそ、こうして追撃にも来ない。空にいたストライクも、突破するために攻撃を仕掛けていただけで、こちらもやってこない。
「リオン・フラガと、あの白い機体の―――――」
「――――ああ。おそらく、あの時一緒にいた茶髪の少年だろう。彼もいい腕だ」
ザフト軍はアフリカより撤退。不本意な形での地球降下となったアークエンジェルだが、期せずしてアフリカ解放を成し遂げることになったのである。
レジスタンスたちは、ザフトに尻尾を振っていた同胞に対して無闇な狼藉は行わず、今はただ自治権が解放されたことを喜ぶべきだと考えていた。
連合軍もザフト軍も関係ない。明日を生きるのに必要なものを奪わないのであれば、彼らは気にしないのだ。
「サイーブ。まさかこんな日が来るとはな」
ザフトに顔を売っていた、同胞アル・ジャイリーはザフトから解放されたアフリカが現実となったことに目頭が熱くなっていた。
「ああ。俺たちがやったわけじゃねぇ。あの船が紅海へ抜けるために砂漠の虎を倒しただけだ」
自分たちが、自分たちの手で虎を倒したいと考えていたサイーブだが、モビルスーツやモビルアーマー相手にロケット砲を積んだ車で勝てるわけがない。無駄に死者を出さないためにも、息をひそめ、陰ながらアークエンジェルに物資を提供した。
結果的に彼らは虎を撃退してくれて、ザフトの支配からアフリカは脱却した。同じ地球の人間を大事にする、ブルーコスモスにもまだ染まり切っていない連合軍士官が赴任してくるそうだ。
「少数とはいえ、うちにも正体を隠している奴らだっている。あいつらも同胞だ。ブルーコスモスなんぞに仲間を売るわけにはいかねぇ」
サイーブはこぶしを握り締め、先日も街で騒ぎを起こした馬鹿どものことを思い浮かべ、怒りに震える。まともな思考能力すら捨てた、狂人どもの戯言に聞く耳もないし、その片棒を担ぐつもりもない。
「ええ。同胞を殺すというのなら、今度は共に手を取り合い、立ち上がろうではありませんか」
ジャイリーは、砂漠の虎のように付き合い方を間違えなければ安全な相手ではない狂人が敵となるのなら、今度は降りないと言い切った。
「――――だがまずは、武器を置いて街の復興だな」
「そうですな」
戦争はいまだ拡大し続けている。だが、アフリカでは平和の輪が少しずつ広がっていく。
外で両者の会談を待っている者たちがいる。大勢の同胞たちだ。その中に、緑色の鉱石を持った少年が心配そうに中の様子を見つめていた。
「――――――」
「だいじょうぶだ、アフメド。ジャイリーさんも、今度はサイーブさんと手を取り合うさ」
「う、うん」
少年は紅海へ出るアークエンジェルの姿が見えなくなるまで見つめていた。恩人にも等しい彼らにはまだまだやるべきことがあるそうだ。
だからこそ、アフリカでゆっくりすることもできないという。
「今度、あの人達にケバブ以外の料理を紹介したいな――――」
どうか恩人たちの旅路に幸あれ。少年は心からその願いを祈っていた。
「でも、お爺ちゃんがあんなに固まるなんて、中々見ないね」
「うん。いつもは冷静なお爺ちゃんがねぇ」
この二人は、ラクスとリオンと話す機会があったのだ。二人に宝石の話を教え、その後ちょっと内緒で雑務をやった仲である。
勝利の翌朝。まだ日が昇りきっていない時間帯。彼らは赤い彗星と呼ばれる機体から降り立つ青年に出会う。周りには祝勝会で潰れた大人どもが散乱している。
「ん? 手伝おうか?」
リオンは酔いつぶれた大人どもを尻目に、片付けをする少女を見て微笑んだ。
「えっと、その…」
息を呑んだ少女。まさかこんな時に出会うとは考えていなかったのだ。あの時も結局掃除の手伝いをさせてしまったのに、また後始末をさせるのは気が引けた。
「気持ちは分かるが、子供に尻拭いはいけないだろう。人間は無理だが、掃除ぐらいは出来る」
「どうか手伝わせてくださいな。私も、貴方方と同じように、祈ることしかできませんから」
そしてどこからともなく表れたラクスもどさくさに紛れて現れ、少年たちと一緒にごみ掃除をすることになったのだ。
しかし、二人はこのままではいけないとお爺ちゃんに相談する。この大地を取り戻した恩人にごみ掃除をさせる等、一族の名折れ。何とかできないものかと
老人は告げる。その方々に会いたいと。
そして老人はリオンの姿を見て目を大きく見開いたのだ。
「同じじゃ――――――まさに」
「ん? どうかされたのですか、ご老人?」
リオンは、初対面の老人になぜ驚かれるのかわからなかった。本当に身に覚えがないのだ。彼であっても戸惑いはする。
「―――――今より昔の事じゃ。其方と雰囲気の似た男がこの地を訪れたのだ。その透き通るような青い瞳、赤を連想させる色合い。何もかもが似ておる」
「――――――青い瞳?」
「まだアフリカに現在のオアシスがない頃の事じゃ。男の気まぐれなのか、アフリカという場所で事業を立ち上げ、今のアフリカを支えるマスドライバーを作ったのだ」
「――――アフリカ、マスドライバー………まさか―――――」
その二つの言葉を結びつける要素が、そんな記憶が彼にはあった。
「その名は忘れたことがない。キャスバル・マス・フラガ。其方の名は何という?」
老人の口から、リオンの答えが出てきた。
「リオンだ………リオン・フラガ」
キャスバルという名を聞いた瞬間、リオンは運命を感じていた。フラガ家は世界的な資産家だ。本家が滅亡しても、今もなお力をつけている。
なら全盛期は世界中に影響力を持っていても不思議ではない。
――――――こんなところで、貴方は宇宙に未練を作っていたのか
至る所で、彼は宇宙への進出を諦めていなかったのか。人類が宇宙で暮らすこと。新たなる可能性を未だに夢見ていたのだろう。
感慨深そうに、「そうか、そうか……」とつぶやく老人。
「―――――このルビーは、其方が持っておくべきじゃ。じゃから、戦争が終わったらまたここに、来てくれんか?」
恐らく、一番重い宝石であろうルビーを、リオンの前に差し出した老人。
「フラガの者は、この大地の、この地に住まう者にとって、最大の恩人じゃ。存分にもてなしたいのじゃがのう」
頭を下げ、またここに来てほしいと頼む老人。
「―――――顔を上げてください。ご老人」
それは、ラクスが聞いた中でいちばんやさしい声だった。恐らく、これが本当の彼なのだと確信するきっかけ。
「長い年月。私たちを想い続けてくださったこと、逆に感謝します。この地に降り立ったのも……もしかすれば、運命だったのかもしれません」
「再び、フラガとアフリカを繋ぐきっかけ。そして、当時を知る貴方にお会いできてよかった」
片手を差し出すリオン。
「ええ。戦争が終われば、また戻りたいです。今度はケバブをちゃんと食べたいですし、他の料理も堪能したい」
その後感動で泣き崩れる老人を支えるリオンと子供たち。久しぶりに涙が出たという老人は、必ずリオンを待っていると言い、子供らとともにその場を後にするのだった。
「――――――――――傲慢だったな、俺は」
自嘲気味に笑うリオンだが、どこか晴れ晴れとしたものだった。
「リオン様?」
あんなに晴れやかな笑みを浮かべたのは初めてだった。憑き物が落ちたような、そんな顔だ。
「世界を弄るとか、違う視点で見るとか。単に俺は独り善がりなだけだったか」
参ったな、とリオンは笑う。
「本当に世界を動かすには、たくさんの人が動かなければならない。理解していたくせに、わかっていなかったよ」
どこか負けたような雰囲気を出しているのに、リオンはどこまでも笑顔だった。しかし、彼の笑顔を見た時にどうしようもなく惹かれてしまうラクス。
―――――尊いものを守る、それが貴方の望みですが―――――
自分に尊さがないようなことを言い放っている彼に、言わなければならない。
「ですが、知ることと理解すること、その違いを分かったことは、良いことだと思います」
「そうだな」
「そして、貴方が今眩しいと感じたそれを、実は貴方自身も持っていることに、気づいてくださいな」
だから言ってやるのだ。この勘違いしている聡明な青年に。ラクスはこの青年にわからせねばならないと考えていた。
「―――――どうだかな。とても敵わないと、思ってしまうよ」
やや諦めたような口調のリオン。あんな眩しいものは持っていないと弱気な発言。
「それを理解する基盤がなければ、貴方はそれを尊いと思えないはずです。わたくしが保証します。貴方は、尊さを持った人であると」
面食らったリオンは、しばらく呆然としていたが、すぐに冷静さを取り戻し、降参したようにラクスの言葉を肯定した。
「貴女のお人好しな一面には、一生敵わないな。だが、それでいいのかもしれない」
空を見上げて、視界では見えぬマスドライバーの方角を見やるリオン。
「………俺にも在ったのだな、その尊さが」
その意思は忘れられず、受け継がれていた。
一方、オーブでは遡ることカガリ帰還から数日後、ある会議が行われていた。
「アフリカなんかに落ちていたのか。リオンは無事なのだろうか――――」
いち早く帰国したカガリ・ユラ・アスハがアサギとともに官邸を訪れていた。
「ああ。どうやらリオン君は砂漠の虎を退けたようだ。本当に彼の力量にはいつもいつも驚かされる」
ウズミ・ナラ・アスハ元代表は、現代表のホムラとともにカガリから齎された宇宙戦闘におけるGシリーズの戦闘データを専門家とともに考察を続けていた。
「――――しかし、これが宇宙での戦闘。Gシリーズの性能もさることながら、ストライクのパイロットであるキラ・ヤマト君の力量も驚異的だ。彼に関してはあきらめているが」
ホムラもこういった技術面に関しては疎い傾向にあるが、それでもザフト軍のモビルスーツを圧倒するリオンとキラの姿を見て、これをオーブが得たメリットは大きいと考えていた。
オーブは技術立国として世界に認知されているが、戦争を行ったことはない。ゆえに戦争素人が大半を占める軍隊を保持している格好だ。
だからこそ、リオンが横流しした宇宙戦闘の記録は貴重なものだった。
「リオン君のレポートも当てにならないところはありますけどね。デブリ帯での効率的な高速戦闘に関するレポート、ウズミ様は拝見されましたか?」
アサギはリオンレポートなる資料をすでに確認しているであろう彼に感想を求めた。彼女は最初にそのレポート、というよりその意見を述べたリオンに絶句したのだが。
――――デブリ帯の中は出力最大で突っ切る。デブリを足場にして、より迅速に動くことが出来る
――――それが出来るのは限られているよ、リオン君
アークエンジェル艦内でのやり取りを思い出したアサギ。ウズミも同様の感想のようで、
「私も最初は意味が分からなかった。だが、彼は実際に成し遂げてしまっている。今後はこのシミュレーションも入れておくことにしよう。技術班の方はどうかね?」
しかし、さすがはオーブの獅子。シミュレーターという形で訓練ができる環境だけは整えておくべきだと考えていた。これを量産、もしくは訓練によって再現できるならばオーブはより強い力を得ることが出来る。
「何分、機体設計と開発だけでしたので、何とも言えません。しかし、これが実際可能ということは、試してみる価値はあると考えております。何より驚いたのは、Gシリーズのさらなる進化と、その最大の欠点を補う新たな概念の発見です」
リオンは好んで高速戦闘を行う傾向にあるが、過剰な機体即応性を求めている節がある。その為、内骨格の設計に、複数の注文を付けてきたのだ。
「まず、フレームをPS装甲にするべきだということですが、将来的には可能だと思います。ただ、今のバッテリー駆動では稼働時間が大きなネックです」
ただ、と技術者はここで一旦言葉を切る。
「PS装甲素材製内部骨格部材を仮に採用した際、内部骨格部材に電力を供給することになります。その際、余剰エネルギーが発生する可能性があるというのです」
「??? すまない、どういうことだ?」
エリカから技術面において少しずつ知識を深めているカガリだが、惚けた顔をして尋ねる。つまり、どういうことなのかと。
「フラガ君のレポートでは、これを利用できないかと考えています。この余剰エネルギーが光子の形で放射されるため、それを使った蓄電機能。これをモビルスーツに取りつけることで、稼働時間を伸ばすプランです」
核が使えないならば、核を使わない方法でエネルギー問題を解決する。同時期に核融合炉というものも存在していたが、木星、もしくは太陽風によって運ばれるヘリウム3を使ったある特殊理論を用いたエネルギー方式である。
核分裂を抑制するNジャマ-の影響は受けない核融合炉。ある特殊粒子を用いてフィールドを形成し、融合炉内を電磁誘導させることにより、圧縮、安定を実現。プラズマを安定させる理論。
そもそも横流しのデータがオーブに辿り着いて約50年前。本体が来たのは約20年前。この特殊粒子を使用するよりも、Nジャマーキャンセラーの開発を優先するべきとの声も上がっていた。しかし、実現すれば安定性のある融合炉が現在は勢いが強い。
この特殊粒子がなければ、ミラージュ・コロイドによる重力制御でプラズマ制御をという案まで出ていたのだ。白亜の巨人が存在しなければ、特殊粒子の利用はかなり遅れていただろう。
そしてこれは全くの余談だが、ビームサーベル形成にミラージュ・コロイド技術を使用しているが、鍔迫り合いが出来ない欠点があり、ラミネートシールドによる防御では取り回しも悪い。
特殊粒子を用いた場合、粒子同士が反発する特性は研究段階から判明していたことだが、ミラージュ・コロイドで形成されたビームサーベルを素通りし、数秒間ビーム形成を阻害するケースが見られた。これは、特殊粒子の「レーダー、通信、ミサイル誘導を阻害する」効力が、ミラージュ・コロイドにも影響を与えたとして目下検証中である。
なお、特殊粒子のネーミングは旧来のものに落ち着きそうである。
「内部骨格部材に小型大容量コンデンサーを内蔵することで、この光子を再利用します。つまり、激しく動けば動くほど骨格保護のために流れる電力が大きくなり、放出量も増加し、エネルギーを自力で得ることが出来ます」
「つまり、自走で自動蓄電、再度利用が可能ということか――――」
「現在推し進めているアストレイ計画でも、フラガ君の熱電変換材料を使用したプランがありました。マグネシウムとテルライドを基とする特殊合金を一部機体に取りつけることに成功しましたが、まだまだ量産化には至っていません」
「うむ、技術班はこれからも開発に邁進してほしい。次は外交方面についてだが」
ウズミは渋い表情でキュアンを見る。そしてキュアンは苦い顔をして両掌を見せる。
「――――まさか、クラインの娘を保護していたとはなぁ」
キュアンとしては、予想通りメリットもデメリットも大きい案件である。連合には内密にしたい案件であるため、今巧妙に隠し通しているリオンのことをある意味尊敬していた。
――――お前、ほんとに機転が利くというか……
「うむ、クラインの娘は丁重に迎えねばならん。我が国の在り方を見れば、穏健派とのパイプ作りも捗るだろう」
「立案者はリオン君だがね」
「影に徹し、裏方に徹し。彼という懐刀がいれば、オーブは安泰だ」
氏族の間でも、裏で手をまわし、オーブのためにリスクを冒して戦闘データを送ってくれた彼への信頼は厚い。
「ユウナ君を考えていたが、リオン君も捨てがたい。3人は仲が良いからなぁ」
マイリ・シュウ・ミツルギは、早くもカガリの結婚について考えていた。
「ミツルギの爺様!! そんな、私はまだリオンの隣に立てるような――――」
顔を赤くしつつ、リオンの隣に立つには自分は未熟だと自覚しているカガリはそれを否定する。
「だが、いずれは相手を選ばねばならん。爺のお節介かもしれんが、あのような男は早々転がっておらんぞ。それが好きあっているならば猶更」
「そ、それは――――その、リオンは確かに尊敬しているし、私にはまだ届かないし、でも、でも―――」
リンゴのように顔が赤くなっているカガリをアサギに任せ、孫娘同然の彼女のほほえましい光景を見つつ、氏族たちは会議を進めていく。
「うむ。では、オーブ入港後はそのような流れで」
「ああ。ここにたどり着くまでに大気圏での戦闘データも入っているだろう。入港が楽しみだ」
「クライン嬢が恋敵にならぬよう注意せねばな」
「そのような些末事、法改正でどうとでもなる」
「小童の説得が、最大の壁になりそうじゃがのう」
今日もオーブは元気に暗躍しつつ、戦争の影響を微塵も感じさせない一日だった。
ようやく、リオンが前作リオンらしい一面を描けた…
長かった…