機動戦士ガンダムSEED 理想の従者   作:傍観者改め、介入者

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第30話 オーブの心

ザフト軍を悉く撃破し続けるアークエンジェル。あと少し、オーブ寄港まではあと数十キロと差し迫った地点に入ったという報告を受けている。

 

ニューヨークに戻ったジョージ・アルスターとフレイ・アルスターは、アークエンジェルが無事にオーブに辿り着く見込みであることを確認し、安堵していた。

 

「アークエンジェル、無事にたどり着けるみたいよ、パパ!」

 

フレイは嬉しそうにその事実を語る。サイ・アーガイルは連合軍に入ることが心配だが、アークエンジェルにいれば早々心配はいらないだろう。

 

「ああ。あの戦艦は皮肉にもこの戦争が原因であのような状態になった。コーディネイターもナチュラルも関係ない。手を取り合い、懸命に生きていたのだ」

 

地球にいる推定5億のコーディネイターのほとんどは、民間人がほとんどだ。ジョージ・アルスターも虐殺者になりたいわけではない。

 

「緩やかに、コーディネイターの問題は浮き彫りになるだろう。遺伝子を弄る行為で、いろいろな可能性が生まれ、いろいろな可能性が消える。結局は自信がないのだ、遺伝子の運命に頼る親というのは」

 

「パパ?」

真面目な話を聞くことが多くなったと最近自覚しているフレイ。こんな父の姿を見ることが多くなった。

 

「私は完ぺきな親ではないかもしれない。子供に夢を託す願いもわからないでもない。だが、子の夢は、その子のモノなのだ。決して私たちの夢ではないのだ」

 

子供をレールに乗せるな。遺伝子を弄ってまで子供の未来を強制させてはならない。

 

「それでも、遺伝子を弄るというならそうすればいい。だが、子供の夢を、子供のしたいことをちゃんと理解しなければならないのだ。ジョージ・グレンも、才能によって名を馳せ、才能によって殺された」

 

遠い目でジョージが語る最初のコーディネイターの生涯。

 

「今こそ人類は、自らを律する理性と、尊厳を取り戻す必要があるのだ」

 

 

「自らを律し、尊厳を取り戻す――――でも、どうやって?」

 

漠然と深い言葉だと思えた。フレイは父の言っていることをまだ完璧に理解しているわけではない。

 

「それが以前は宗教だった。人間だけが持つ、内なる神。ナチュラルを見下すことが果たして良いことなのか、コーディネイターを空の化け物として断罪することが、果たして良いことなのか。かつての最大宗教は隣人愛を説いたという。だが、今はどう見える、フレイ?」

 

 

「――――いがみ合ってる」

 

「そう。その答えを言えるようになったことが、私はうれしいよ、フレイ」

 

明朝をそろそろ迎えるニューヨーク。朝日の先で、アークエンジェルは今もなお航海を続けている。

 

――――娘にきっかけを与え、私の命を救った船。

 

彼らと別れた後も、その願いを忘れたことはない。

 

どうか、彼らの旅路が良いものでありますように。

 

 

 

そしてそのアークエンジェルは今、オーブの目と鼻の先でザフト軍と激しい戦闘を繰り広げていた。

 

「エリク、奴らをエンジンに取り付けるな!!」

 

スナイパーライフルを構え、接近するシグーディープアームズを退けながら、ムウが吠える。

 

 

「分かっていますよ!! 強化プランが完成していないのに、こんなところで死ねませんよ!!」

 

デュエルに乗るエリクは、ライフルで応戦しつつゲイツという新たなザフト軍MSと戦っていた。

 

 

「うかつに前に出過ぎるな! アークエンジェルの弾幕は簡単ではないぞ!!」

 

 

「このっ!! 赤いのが邪魔だ!!」

 

ドリスとゲイツに乗るニーナが後方からエンジンを執拗に狙ってくる。現在跳躍による反撃でエリクがこの2機を押えているが、飛翔することが出来ないデュエル二号機は苦戦を強いられていた。

 

 

「ディアッカ! エンジンを止めるんだ! エンジンさえ止めればこの船は落ちる!!」

 

「けど、こっちもこっちでやばいだろ!!」

 

 

アスランとディアッカが相手にしているのは、目下の最大の強敵、赤い彗星。

 

ジェットストライカーで飛翔能力を得ているストライク二号機。

 

「迂闊な敵機ほど落としやすいものはない」

 

砲撃体制になるために、必然的に正面をむくことになる機体。それを優先的に狙う。ディアッカが真っ先に狙われたのだ。

 

 

「うおっ! こっち来たぞ!!」

 

ライフルを無闇やたらと乱射しないストライク。のはずだが――――

 

イージスとバスター相手にビームを乱射するリオン。一見するとやみくもに撃っているように見える。

 

二機は散開しつつリオンの両脇から反撃に転じる。側面を取られたリオンは急加速で逃れようとするが、後ろにつかれる。

 

「そんな攻撃で!!」

 

今日こそこの敵を沈める。主砲で狙いを定めるディアッカだが――――

 

不意にモニターに赤い壁が映ったのだ。

 

「なっ!?がぁぁ!?」

強い衝撃とともにバスターはグゥルから落下してしまう。それを遠目から見ていたアスランは目を見開いた。

 

――――シールドを投げ飛ばし、ディアッカをグゥルから叩き落したのか!!

 

ついでと言わんばかりに、リオンはディアッカが使っていたグゥルを乗っ取り、アスランへと襲い掛かることもせず、アークエンジェルの方へと向かう。

 

「!! させるか!!」

 

すぐに赤い彗星の狙いを看破したアスランは、リオンを追走する。アレを恐らく味方に使わせるのだと、判断したのだ。

 

現在アークエンジェルには滑空能力を持つ機体が赤い彗星だけなのだ。他の機体は跳躍こそできるが、あまり推奨は出来ない状況下だ。

 

空戦能力が増せば、こちらが不利になる。

 

「隊長、誘われています」

 

フィオナが冷静にライフルで追撃を仕掛ける。しかしアスランのように距離を詰めるようなことはせず、遠距離からの仕掛けに徹していた。

 

「なに!? はっ! そういうことか―――っ」

 

アスランはフィオナの言葉で理解した。彼には滑空能力がある。そもそもグゥルなど無用の長物なのだ。

 

なのに、彼はそれを奪い取る行為を行った。アスランが考えた味方への供給として、それを行ったのだと。

 

 

しかし、それは違う。

 

 

「――――あの青い機体。本当に忌々しいな」

 

リオンも狙いを見透かされたことで苦笑いを浮かべる。リオンはグゥルをおとりに使い、爆風の中から狙撃することでイージスを撃破する算段だったのだ。

 

爆風の中、視界が悪い中での有視界戦闘に頼るモビルスーツがどうなるかなど、赤子でもわかる。

 

 

リオンはそれ以上の言葉を吐かず、とにかくあの二機をアークエンジェルに近づけてはならないと考えていた。

 

「私が前衛に。隊長は後方より折を見て攻撃してください」

接近戦、射撃戦でもどちらもできるゲイツ。それに最新鋭の機体でもあるのだから、自分が適任と考えていたフィオナ。

 

 

「フィオナ!? 無茶だ、相手はあの赤い彗星だ」

 

「前衛二人では攻めにくいです。だから私が――――」

 

そして二人に対して苛烈とは言えないほどの攻撃が襲う。二人とも盾でその攻撃をはじきながら反撃をうかがう。

 

「敵を前に作戦会議とは、恐れ入るよ、その余裕は」

何か策を講じる準備があると見たリオンは、とりあえず形だけでも攻撃しようと考え、ライフルで牽制を入れる。

 

「俺が前衛になる。フィオナは後衛であいつの動きを制限してくれ」

 

「――――了解しました」

何か含みのある声ではあったが、フィオナはアスランの命令に従った。

 

 

「!?」

不意にグゥルからイージスが飛び上がった。飛翔能力を捨ててまでやる行為は限られてくる。

 

これでは的だと考えたリオンだが、背中を凍らせる感覚に従い、ライフルを構えたところで回避運動を取る。

 

「っ! そうだったな、こちらがいる!!」

 

右に急旋回しながらその攻撃を避けたリオンは、絶妙なタイミングで援護射撃を入れてきた蒼い機体を見て表情を歪める。

 

「ハァァァァ!!!!」

 

そして眼前には4本のサーベルで襲い掛かるイージスの姿。

 

「――――ちぃっ!!」

 

まずは蹴り飛ばしの感覚で振るってきた右足の斬撃を回避するリオンだが、次に襲い掛かるのは遅れて出てきた右腕の薙ぎの一撃。

 

「くっ!!」

さすがのリオンもこの状況は苦しい。先ほどバスターを落とすためにシールドがない状態なのだ。サーベルで受け止めることなどできないので、防御手段がない。

 

 

しかし、ここでリオンの脳裏に圧倒的なひらめきが起きる。

 

「ならばっ!!」

 

リオンも構わずサーベルを振るう。アスランはついにあの赤い彗星が自棄になったのかと考えていたが―――

 

「――――なにっ!?」

 

迫りくるイージスの横薙ぎの一撃を防いで見せたのだ。それも超人的な絶技をもって。

 

 

「そんなっ!? 隊長っ!!」

決まるかと思われていた必殺の一撃が決まらず、そればかりかイージスが逆に窮地に陥った。これにはフィオナも驚きを隠せない。

 

しかし呆けているわけにはいかない。アスランと赤い彗星の距離を詰める、願わくば、隙が多い彼を撃ち落とそうとライフルで牽制を入れてくる。

 

「――――判断もいい。嫌なタイミング横やりを入れてくるな、君は」

リオンも青い機体に乗るフィオナの腕前を認めていた。あの敵は相当に手ごわい、と。

 

自分の見る目は曇っておらず、やはりあの機体から逆に撃破するべきだったと考えていた。

 

しかし、フィオナとアスランはそれどころではない。つい先ほどリオンが行った絶技は二人を驚愕させるには十分すぎるものだ。

 

まさか、サーベルの鍔迫り合いの斜め上の方法をとるとは夢にも思わないだろう。

 

 

イージスの右腕はサーベル発生装置が完全に切断されていたのだ。

 

つまり赤い彗星は――――

 

「サーベルの発生装置だけを、あの横薙ぎのスピードに対応しつつ、正確に切断したというの!? なんて出鱈目な!!」

 

損傷軽微とはいえ、2対1で赤い彗星を落とせない。フィオナとアスランの焦りをさらに深いものにする。

 

 

 

 

 

バスターは既に海水に落ちた。後は、キラが抑えているであろうブリッツのみ。

 

そのブリッツもキラの攻撃の前に苦戦を強いられていた。

 

「ミラージュコロイドが使えないブリッツなんて!!」

 

ライフルで乱射するキラ。グゥルによる移動手段に限られているニコルは当然苦しい戦いを強いられていた。

 

「くっ、これじゃあ近づくことすら――――」

 

ニコルが相手をしているのは、ストライクだけではない。アークエンジェルという母艦からの弾幕もあるのだ。

 

 

――――戦力差が違い過ぎる。むしろここまで持っているほうかも

 

モラシム隊が全滅したことは計算違いもいいところだ。こちらの要請に応えてくれたなら、まだ戦いようもあった。

 

このまま戦闘を続けていれば、死者だって――――

 

 

「うわっ!! しまった!!」

不意に彼女を衝撃が襲う。被弾してしまったということだ。機体ではなくグゥルがやられた。

 

ストライクはまだ背中を見せているのに。

 

ニコルのグゥルを撃ち落とされたのだ。その主は――――

 

 

「油断すると痛い目見るぜ、黒いの!!」

 

エリクの長距離狙撃がさく裂したのだ。なぜ、ニーナとドリスが抑えていたはずのデュエル二号機がこんなところに。

 

 

 

キラとエリクのポジションチェンジ。キラはニコルへ強襲をかけた後にエンジン部分を執拗に狙うニーナとドリスの前に躍り出たのだ。

 

 

「なっ!? 白い奴、ニコルが抑えていたんじゃ!!」

 

「イザーク先輩の仇!! 覚悟っ!!」

 

ドリスはその出現に狼狽え、ニーナは激昂する。しかし、キラはそんなことなど知ったことではない。

 

 

「なら押し通る!!」

 

右腕でサーベルを投擲し、ドリスのグゥルを撃墜することに成功するキラ。爆炎をあげながらドリスのグゥルが墜落していく。

 

「量産機!? 違うっ、あの時のビーム兵装の!!」

 

 

「ストライクッ!! 覚悟ぉぉぉ!!!」

勇ましい声をあげながら、ニーナがビームクローで斬りかかってきた。対するキラはそれをシールドで受け止めるが、

 

「やぁぁぁ!!!!」

一撃を食らわせてきた敵の攻撃を防いだと思った瞬間、機体に大きな衝撃が襲ったのだ。

 

「――――えっ!? これはっ!!」

シールドの上からアンカーらしきもので攻撃されたのだ。絶え間ない攻撃の嵐で体勢を崩してしまったストライク。

 

「これでっ!! 弾幕っ!?」

 

しかし、アークエンジェルからの援護射撃でニーナの追撃は断念せざるを得ない。モビルスーツを一瞬で溶かしかねない攻撃だ。ゲイツのシールドで防ぎきれるものではない。

 

「――――あと一歩のところを!!」

 

ニーナは再び距離を取り、ストライクを執拗に狙い続ける。その姿は執念すら感じる。

 

「あの機体だけ僕を狙う!? けど、陣形から引き離すチャンスかも」

 

キラは攻めが単調になりつつある新型を抑えるには、頭を使う必要があると考えた。

 

キラが冷静に怒り来るニーナを押えている最中、いよいよザフト軍は苦しい戦況に追い込まれつつあった。

 

「不味いぞ、このままだと全滅だ!! というよりみんな塩塗れになっちまう!!」

 

落下しながらドリスはアスランに現状を報告する。

 

 

「くっ、限界か。一時撤退だ!! 単純に戦力が足りなさすぎる!!」

アスランは隊員の安否を選択した。バスターとシグー、ブリッツは既に海に落ちた。残るはイージスとゲイツ二機だけだ。

 

「隊長!! まだ私は戦えます!!」

ストライクと互角以上の戦いを見せるニーナ。隠し装備のビームアンカーがキラの目測を悉く狂わせていた。

 

「あのアンカーがノーモーションで来ると、迂闊に飛び込むことも――――」

 

接近戦は苦手ではない。だが、手数と武装で不利なことを自覚しているキラ。膠着状態が続いていた。

 

しかし、フィオナがそんな猪突猛進な親友を諫める。

 

「これ以上は死人が出るわ。それに、隊長の命令よ」

 

フィオナはそういうと、ストライクに対して牽制射撃を仕掛け、ストライクをアークエンジェルまで下がらせたのだ。

 

「でもっ!!」

 

「それに私たちの状態だけではないわ。オーブ軍が近海まで来ているわ」

 

「!? 中立の皮をかぶった卑怯者が!?」

 

 

『こちらは、オーブ海軍、第2護衛艦隊である。接近中の地球軍艦艇、並びにザフト軍に告げる。貴軍等はオーブの領海に接近しつつある。ただちに進路を変更されたし。中立国である我が国は、武装艦船、並びに機動兵器の領海、領空侵犯を一切認めない。ただちに変針せよ』

 

オーブ軍艦隊は、アークエンジェルとザフト軍の様子を見ていたのだ。

 

 

オーブ首相官邸では、

 

「――――あれがアークエンジェル。連合の戦艦か」

 

「そして今ザフト軍と戦闘を行っている機体が連合の生き残ったMSか」

 

首脳官邸で映像を見つめる閣僚たち。その中でも一際戦果を挙げている赤い機体と、新型相手に一歩も引かず、敵を撃破している白い機体に注目が集まる。

 

「――――――」

キュアン・フラガは無言でこの映像を見ていた。あの赤い機体にリオンが乗っている。それだけで彼の胸は締め付けられていた。

 

――――ここまで来てくたばる、なんてことはないよな、リオン

 

 

彼がもたらした戦闘データだけではない。彼の安否が一番大事だった。

 

 

「――――オーブとしては、領海内での武装戦艦、並びに機動兵器に対する処置は既に決まっている」

 

ウズミ元代表は冷徹な言葉で、その全てを排除すると暗に言い放ったのだ。

 

「――――っ」

ほんの少し動揺を見せたキュアンだが、それでも何とか無表情を装う。

 

「しかし、テレビ中継はまずいでしょう―――これを」

ホムラ代表は近くの秘書官に小声で指示を飛ばす。

 

あの中に入っているモノ、今戦闘をしている機動兵器の力をオーブは欲しているのだから。

 

 

 

オーブ艦隊が集結しつつある現状、ニーナとてそこまで愚かではなかった。

 

「オーブ軍――――了解しました」

 

不満はあるが、ここで暴れてもしょうがないことはわかる。

 

『警告を無視した貴艦に我々は自衛権を発動する。速やかに転進せよ』

 

 

一方のキラも苛烈な攻撃をやめて撤退してくザフト軍を見て、

 

「やはりオーブへの介入は――――!?」

 

しかし安堵したのもつかの間、アークエンジェルに対し、砲撃が行われたのだ。

 

「――――おいおい。これはどういうことだ!?」

エリクはリオンに怒号に近い声を飛ばす。話が違うのではないかと。

 

「偽装工作ですよ。アークエンジェルはオーブ近海に無断侵入し、撃退されたものとする。これが“オーブの公式回答”になるでしょうから」

 

理路整然に、当たり前のことを言うかのようにリオンはその疑問と怒りに対して答えを与えてしまう。

 

「え、ええ。確かに表向きそのほうが波風は立たないわ。けど―――」

ブリッジにいるマリューは、リオンからの言葉で一応落ち着いてはいるが、絶え間なく飛び交う砲弾を見て肝が冷えてきていた。

 

「大丈夫です。オーブの砲撃手は優秀ですからね」

笑顔でオーブ軍の有能さを説明するリオン。

 

「ああ。直撃コースはなく、このまま直進すれば下手に当たることはない。だが、我々の事実をもみ消すことはできるのか?」

 

ナタルも、衝撃こそあるが、アークエンジェルに一切当たらない砲撃にようやくほっとしつつあるものの、これからのことを考えればどうなるかと不安を口にしていた。

 

 

「オーブ軍の諜報は、まあまあ優秀ですよ」

 

 

その後、ほぼ無傷のアークエンジェルは激しい攻撃にさらされるという演技を装いつつ、オーブの秘密ドッグへと収容されることになる。

 

 

 

 

 

 

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