機動戦士ガンダムSEED 理想の従者   作:傍観者改め、介入者

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先ほどは投稿ミスをしてしまい、申し訳ありません・・・・

内容はしばらく忘れてください・・・・


第32話 祈りを込めて

ザラ隊率いるザフト軍は、アークエンジェルの情報を一切寄越さないオーブに業を煮やし、潜入して情報収集に当たることになるのだが、

 

 

「なぜニコルさんと私、フィオナが任務から外されるんですか!!」

 

「―――――どういうこと、アスラン?」

 

ニーナとフィオナは冷たい視線でアスランを見つめている。その後ろで、「まあ、まあ」と二人を宥めていたニコルが苦笑いをしながらアスランに助けを求める視線を送っていた。

 

 

「今回潜入が出来るのは工場区内周辺。しかも、本命にはまるで届かない場所だ。おそらく、徒労に終わる可能性が非常に高い」

アスランは冷静な声で説明する。

 

「でも隊長たちはするんですよね? だったら!」

食い下がるニーナ。

 

「――――多少男性で容姿が整っているぐらいなら、まだ誤魔化しも利く。しかし、3人には悪いがそれは難しい」

男女平等が叫ばれ、女性の工員というのも珍しいものではなくなってきている。しかし、容姿が整い過ぎている美少女3人組が潜入となると話は別だ。

 

アスランも大概だが、ニコルたちはもっと潜入に適さない。

 

「――――そういうことです、フィオナ、ニーナ。私たちはオーブの町周辺を探りましょう」

ニコルはアスランの説明に便乗するように二人を宥める。

 

「―――オーブの情勢を市民も少なからず知っているはずだ。スカンジナビアからの旅行者としての身分も偽造した。どんな些細な情報や予測でもいい。俺たちが欲しいのは確証だ。確固たる証拠が欲しいわけではない」

 

 

「了解――――」

 

「そこまで言われるのでしたら――――」

 

渋々ながら、二人はアスランの命令に従う。

 

「そう気にすんなよ。俺らがちゃんと手柄は取って帰るさ」

 

「うむ。人の口にチャックはつけられない。ボロが出てくるはずだ」

 

ディアッカとドリスが気落ちする二人を励ます。特にディアッカはニーナのことを案じていた。

 

――――イザークのことで、あいつは相当頑張っている

 

彼の仇と叫びながら、ストライクに幾度となく挑み続け、その実力を上げている。彼女の鬼気迫るものを心強いと思いながら、申し訳ないと思う自分がいた。

 

―――データがいくらか飛ばされているのかもしれない。

 

アークエンジェルだけが希望の光、だなんてことはない。もうデータはそれぞれの基地に行き届いているだろう。アラスカ、パナマ。

 

ここでアークエンジェルに固執する必要は、ないのかもしれない。

 

――――ここまで来たら意地もあるんだよ。絶対に落とす

 

打倒アークエンジェルを誓うディアッカ。

 

 

「――――ではいくぞ。カーペンタリアからの圧力もかけてもらっているが、それが原因でさらに警戒が厳しくなる可能性もある」

 

 

 

一方、傭兵契約が切れたリオンは、トールとミリアリア、そしてラクスとともにオーブの町を訪れていた。

 

「帰ってきたんだな、俺たち」

 

「うん。そうだね…」

 

早速二人の雰囲気を作り始めていたトールとミリアリアを察し、リオンは

 

「オーブに帰って、ゆっくりしたい気分もあるだろう。15時に噴水に集合で構わないか?」

空気を察し、リオンは自由時間を二人に与えた。恋人同士の空気を乱すつもりはない。

 

「!! ありがとう、リオンさん」

トールが感謝の言葉をリオンに送る。ようやく日常に帰れたのだ。今は彼の厚意に感謝し、この平和を甘受するべきと考えた。

 

二人がオーブの町に消えた後、

 

 

「カガリも来たかっただろうが、彼女はこの国でも有名なのでね。外出をすると目立ってしまうから」

講師につかまり、溜まっていた分の勉強をしているカガリは、屋敷に缶詰めだ。というより、アクティブすぎる彼女の脇の甘さを修正したいウズミのひそかな願いも関係していたりする。

 

 

「これが地球の街並み。中立と呼ばれるオーブの在り方なのですね」

ラクスは感慨深そうに今までの道のりを思い出し、今日という日を迎えた外出を想う。

 

自然というものを身近に体感でき、さらに身近な場所には慣れ親しんだ人工物。その二つが調和した国。

 

「戦争の最中、こんな日常を謳歌できることは大変なことだ。けど、その努力の末に、この光景が広がっている」

 

リオンは、オーブのいい面を強調するように説明する。これからプラントに帰るであろう彼女に、少しでもプラス面を見せておきたい。

 

 

「―――――それは、あの船を中に入れても、ですか?」

 

ラクスの鋭い指摘が、リオンの耳に響いた。

 

「――――力がなければ蹂躙されるしかないこの国が、生き残りをかけて行っていることだ。正しいとは言えないだろうが、間違っているとも俺は言えない」

 

彼女が抱く感情を、彼は否定するつもりはない。ラクスがオーブに感じた悪感情。連合とプラントの間を巧妙に割って入り、利益と力を啜る姿は、若者にとっては卑怯以外の何物でもない。

 

「――――想いだけでも、力だけでも。世界は簡単には変わることは出来ず、折り合いをつけなくてはならないのですね」

 

顔を伏せ、悲しそうな顔で、その残酷な事実を口にするラクス。この日常を得るために、清濁併せ呑む。それが政治家の役目であり、この現在までそれを守り抜いているのも事実なのだ。

 

「いかにその折り合いを理想に近づけるか。これが大人の世界へのチケットだよ」

少し浮かれていたのかもしれない。世間知らずの少女にいろいろとオーブのすばらしさを仕込んでおきたいと策に溺れていた自分がいた。だが、やはりこの少女はプラントの娘なのだ。

 

 

「―――――なら貴方は?」

 

不意に、ラクスはリオンに尋ねる。

 

「――――どういうことかな?」

 

 

 

「貴方は世界を終わらせるわけにはいかないと考えています。以前わたくしに語ってくれたように、この戦争の行きつく先は地獄であると。貴方はそれを止める手段の一つに、わたくしを救った」

 

 

ラクスはその言葉で、リオンの理想と、オーブの理想が違うことを指摘する。そして、その事実を彼はどう折り合いをつけているのかが気になった。

 

「―――――残念ながら、理想は志半ば。それに、俺一人が頑張ればいいだけではないさ。その為の君であり、提督たちの勢力だ」

 

自分一人がすることではないし、できるとも考えていない。世界を救うのだ。人を信じることが出来ずして、どうして世界を信じることが出来ようか。

 

難しい命題だが、人を信じ、人を動かすことは、重要なことだ。

 

「―――――もし、止められなければ? その予測がついてしまったときは? どうされるのですか?」

 

最悪の事態がその先に待っていたら、彼はどうするのだろうか。

 

ラクスは、リオンが理想と現実の間で揺れると確信していた。

 

「―――――その時は、世界が滅びを選んだと考えるだけさ。後はどれくらい被害を食い止められるか。少ない犠牲で済ませられるか」

 

暗に、切り捨てなければならない命があることを示す、リオンの告白。

 

「――――そうならないために、プラントの大量破壊兵器の使用は、防がなくてはなりませんね」

 

「連合の核攻撃も無論防がなくてはならない。考えにくいことではあるが、プラントが其れを備えないという保証はどこにもない。その危惧はある意味正しい――――貴女の不在で、プラント情勢はあまり考えたくないものでもあるのです」

 

ラクス・クラインという希望を失ったプラントがどう暴走するのか。それを想像するだけでも恐ろしい。彼らは容易に大量破壊兵器を作ることが出来るだろう。

 

 

 

「こんなことを言うのもなんだが、プラントの暴走を抑えられるのは、もはや君しかいないと考えている。すでにオーブを通し、カーペンタリアに君の生存を伝えている。身分を偽り、連合の戦艦アークエンジェルで世話になっていたこともね」

 

多少の説明は必要になるだろうが、とリオンは苦い顔で白状する。その事実は、リオンの口から艦長方に伝えることになっており、自分が直接言うことが、礼儀でもあると考えていた。

 

アークエンジェルがここにいることを悟らせないために、低軌道宙域でシャトルに乗り込んだと伝えておくべきだろうと。

 

「その際、わたくしが身分を偽っていたとお伝えください。リオン様はわたくしの正体を知らなかった、と」

 

ラクスの自分を庇うような物言い。ここでリオンがラクス・クラインと知って彼女を救出したと伝われば、今度は連合との火種を抱えることになる。

 

それだけは避けなければならないし、自分が背負う範囲だと考えていた。

 

「―――――あの時とは逆だな、ラクス」

 

逞しくなったラクスの言葉に、リオンは笑みを浮かべる。あの悲劇を乗り越え、それでも平和を求める姿に、共感を抱くリオン。

 

彼女のことを利用しようと考えていたリオンだが、オーブという枠組みすら超えた、同志であると思うようになった。

 

「今度はわたくしがリオン様を助ける番ですわ。貴方の理想を叶えるために、プラントに平和を広めていきましょう」

 

 

「――――今の君は、とても頼もしく見えるよ、ラクス・クライン」

 

 

「!!!」

 

その言葉を聞いた瞬間、ラクスは心臓が飛び出そうになるほど驚いていた。だが、それを彼には悟らせない。

 

やっと彼に認めてもらえた。それが嬉しいと思えるラクス。守られてばかりで、実際彼は世界のために、暗躍をできる範囲で行っていた。

 

自分は歌を歌うだけ。プラントの中で与えられた役目を果たすだけだった。こうして自ら飛び出して、考えて、行動することが嬉しい。

 

――――今の貴方にとって、カガリ様が一番でしょうけど

 

彼が忠誠を誓う、金髪の少女がリオンの背中に映っているように見えた。彼を突き動かす理由の一つ。

 

――――ですが、その近くにいてもよろしいでしょうか……

 

 

もっと、もっと彼とともに世界を見てみたい。憧れていた気持ちがやっとわかった。

 

彼は自分がこう在りたいと思っていた理想に近い姿なのだと。そして彼もまた、カガリの姿を見てまぶしさを感じているのだ。

 

 

純粋な、彼が忠誠を誓うオレンジの瞳を持つ少女。彼女の純粋な祈りを為したいと思うからこそ、彼はその為に突き動いている。

 

そんな純粋な彼を応援したい、彼の力になりたい、たとえ自分の全てを使っても。

 

 

彼の傍にいたいと思えてしまった。彼には意中の人がいるはずなのに。ラクスはリオンのことを好きになってしまった。

 

 

「しかし、そこまで意気込まなくてもいい。強調し過ぎれば、余計に怪しまれる可能性がある」

 

「はうっ!? そうでしたわ――――わたくし、余計なことを言ってしまいました……」

失敗した、と苦い顔をするラクスだが、

 

「ただ、その心意気は好ましいと思うよ。少なくとも俺はね」

リオンはそんなラクスを見て微笑むだけだった。

 

「り、リオン様!?」

 

 

 

遠くで二人の姿を見ていたフィオナとニーナ、ニコルは衝撃を覚えていた。

 

「―――――ラクス、様?」

 

「うそっ、どうして? なんでここに―――むぐっ」

 

「ダメ、声を出さないで。気づかれるよっ」

 

シルバーウィンドとともに宇宙に消えた歌姫が、どうしてオーブにいるのか。彼女らは知らないが、今頃オーブを通してラクス・クラインの身柄を保護していることは伝えられている。

 

どういった経緯で彼女が生き残ったのか。事実を多少隠し、大筋のところを変えずに。

 

 

そんな歴史の転換点になるかもしれない局面を知らない三人娘は、リオンとラクスの様子を監視することしかできなかった。

 

 

そんな歴史の分岐点を握る人物たちを見て、ニコル・アマルフィは悩んでいた。

 

 

――――どうすればいいのでしょうか。死亡扱いが濃厚なラクス様に似た少女。

 

ここでうかつに行動すれば、ザフトの立場を危うくするかもしれない。だが、ここで動く必要がある、それとも迂闊に接触をすることを取りやめるべきか。

 

ニコルが思考の沼に使っている間に、フィオナが突貫していたことに気づかない。ニーナは半ば呆然とした表情でフィオナの後姿を見ているだけだった。

 

「ラクス様?」

 

掠れたような、信じられないものを見たような声で、桃色の髪の少女に尋ねるフィオナ。

 

「――――あら? フィオナさん?」

気軽に、そして親しい人に向けるような笑顔を向けるラクスを見た瞬間、リオンは自分が同じミスをしていたことに気づく。

 

――――諜報部は何をやっていたのですかねぇ

 

こうも簡単にザフト軍の侵入を許していることに、憤りを隠せないリオン。もはや隠すような案件ではないが、せめてお行儀良くしてほしかったと悔やむ。

 

そして、同じミスをした自分に対して怒りを感じていた。しかし以前とは違うことがある。

 

―――暗部は俺たちの近くに待機はしている。処理をするのがいいが、どうしたものか

 

フラガ家の特殊部隊がすでに配置についている。ここで消すことは簡単だが、ラクスの知り合いらしい。

 

「本当に、生きて――――ラクス様ッ!!」

そして、隣にいるリオンなど気にせずラクスの胸に飛び込む銀色の髪の少女を見ていることしかできないリオン。

 

諦めたように彼は肩をすくめ、仲間らしき少女二人に声をかける。

 

「さて、色々聞きたいけど、とりあえず冷静になろう」

 

「貴方が一番落ち着いてなさそうですよ、えっと――――」

緑色の少女がリオンの名前を呼ぼうとするが、当然のことながら彼の名前を知っているわけがない。

 

「リオン・フラガだ。一応彼女はオーブの客人ということになっている……おっと、そろそろ15時か。」

 

腕時計で時間を確認したリオンは、困ったようにため息をついた後、

 

「何も見なかったことにしてもらいたい。とはいえ、それでは君たちも納得がいなかないだろう」

 

 

リオンは徐に携帯を取り出し、トールたちに連絡を入れる。三人娘の相手はラクスに任せ、予定変更があることを伝える。

 

 

「不味いことになった。ザフトがオーブに入り込んでいた」

 

 

《ええ!? 嘘だろ!? やっぱり疑っているのか……》

電話に出たトールは、ザフトがまだまだあきらめていないことを知り、驚いていた。

 

「トールは俺の友人ということで話を合わせる。ヘリオポリス崩壊後、オーブ本土にやってきた、アークエンジェルのことは一切話すな、いいな?」

 

《わかった、セイラさんと一緒だけど大丈夫なの?》

 

そうだった、と心の中でリオンは舌打ちをする。トールたちにはラクスのことを知らせていない。

 

「すまない。今日は二人で早く帰るんだ。フラガ家の者を向かわせる。事情は明日、必ず俺の口から知らせる」

 

《!? あ、ああ。リオンさんがそこまで言うなら》

 

何とかトールを説得したリオン。これで一応ボロが出るリスクは減った。

 

 

「そうなのです。ポッドに乗り込んだわたくしはアークエンジェルに拾われましたの」

 

まだ大丈夫だ。まだその話はしてもいい。

 

リオンはラクスがどうかボロを出さないでほしいと祈っていた。

 

「そして、低軌道宙域でシャトルに乗り込み、オーブに辿り着いたのです。赤い彗星がそれまではわたくしのことをごまかしてくれたのです」

 

赤い彗星。その言葉が出てきたとたん、紫色の髪の少女が声を荒げる。

 

「誤魔化したって、どういうことですか?」

 

 

「ニーナさん?」

快活な印象を感じさせる少女の様子が一変したことに、ラクスは戸惑う。

 

「――――なぜ赤い彗星が貴女を助ける行動に出たのですか? とても信じられません」

仇敵に等しい相手、赤い彗星。ラクスはその存在に惹かれていることがわかる。

 

ラクスの、彼のことを話す姿が、あまりにも幸せそうなのだ。それがニーナには許せなかった。

 

――――あんなに貴女を愛しているアスランは、今も――――

 

彼女を案じ続けているアスランのことを思うと、ニーナは悔しくて仕方がなかった。

 

 

「ですが、彼が私の偽名を作って、民間人にねじ込んでくれたのです。あの時もシャトルが撃墜されそうになった際、白いMSが守ってくれました」

 

ラクスは知らない。ニーナにとって、白い奴は仇同然の存在なのだ。

 

「――――その白いMSが、赤い彗星が、どれだけ私たちの仲間を殺したと――――」

 

 

「――――それは……」

言葉に詰まるラクス。異名がつくほどの戦果を挙げている彼の存在は、ザフトにとっては憎い存在だ。ラクスは知らないが、彼によって全滅した部隊も出ている。

 

「アスランさんも、貴女のことを案じ続けています。だというのに、なぜ貴女はこんなところに――――ッ!」

 

「ニーナ、やめなさい! ラクス様にも事情があるのよ! 先ほどの話を思い出しなさい!」

ニコルがヒートアップするニーナを叱る。このまま騒ぎになれば、隊長たちに迷惑がかかるからだ。ここで万が一身分が露見すれば、まずいどころの話ではない。

 

「――――ごめんなさい、ニコルさん。初めての地球に、私は少し浮かれていたのかもしれません。そして、わたくしを守ってその身を捧げてきた方々がいたこと、片時も忘れていません」

 

ニーナの本音をぶつけられ、表情を曇らせるラクス。忘れていたわけではない。ただ、隣にいるリオンが苦しいだけの今を変えてくれている。

 

それを言うわけにはいかない。彼を赤い彗星といえば、その全てが台無しになる。

 

「――――私たちは、低軌道戦線で戦闘を行っていました。無論赤い彗星の力もよく知っています。そして、ラクス様のお命を救ってくれた事実も、もちろん存じています」

ニコルはニーナを宥めつつ、ラクスに彼女の事情を話す。

 

「………圧倒的な力というのはああいうものをいうのでしょうね。なすすべもなく我が軍は敗走し、連合軍に敗北しました。彼女はその戦闘で多くの仲間を失ったのです…………察してくださいとは言いません。ただ、戦争というのは難しいものであることを肝に銘じてくださいませんか?」

 

ニコルもニコルで、赤い彗星のことを良く言うラクスの態度に何も思わないわけではない。だが、赤い彗星はラクス・クラインの恩人でもあるのだ。

 

「先ほどからわたくしは貴女方の気分を害すばかり。重ね重ね申し訳ありません」

 

 

「―――――確かに、君たちプラントにとって、彼は怨敵と言っていい存在だろう」

 

そして、ここで隣にいる金髪の青年、リオンが久しぶりに会話に参加する。

 

「ええ。単刀直入に言います。オーブはアークエンジェルを匿っていますね」

 

ニーナはオーブの関係者と思わしき人物、リオンにまっすぐな物言いをしてしまう。

 

「―――――それはどうかな? 公式発表では撃退されたものと聞いている。それ以上のことは私も知らない」

やんわりとリオンはアークエンジェルなどいないと言い切る。

 

「それは――――」

ニコルは、それを言われ言葉に詰まる。オーブの回答がそれであるというのなら、一部隊でどうこうできるものではない。

 

しかし、リオンの物言いに反論する存在がいた。

 

 

「ラクス様という機密の塊と一緒にいる時点で、貴方はそれなりの地位であることがわかります。アークエンジェルのことを知らないとは言わせません」

フィオナは、リオンがラクスと一緒にいること自体がおかしいと考えていた。それなりの身分であることが伺える彼は、目に見える場所に護衛が存在しない。

 

つまり、彼はそれなりの地位を有しながら、護衛の必要性がないほどの人物。

 

さらにいえば、雰囲気だ。人を殺したことのあるような雰囲気。間違いなく裏の顔を持っている人物だと断定できる。

 

「――――はぁ。こうも最初から疑うようなやり方はお粗末ではないのかね? ザフト軍は諜報のやり方すら知らないと見える」

 

リオンはお道化た様に肩をすくめる。

 

「――――話すことは何もないと?」

 

「そうだね。話せることは何もないよ。何度も言うが、我々は中立国だ。ヘリオポリスで一部の急進派が暴走したが、基本的に非介入が我が国の在り方だ。強硬手段をこれ以上続けるならば、君たちを拘束しなければならないのだが」

 

リオンの拘束という言葉が出た瞬間、フィオナの周りに大量の殺気が突然湧いて出たのだ。先ほどまで何も感じなかった視線を多く感じた彼女は、唇をかんだ。

 

――――まったく気づけなかった。オーブはこれほどの暗部を――――

 

「――――私たちが戻らなければ、隊長たちはすぐに気づきますよ」

ニーナは、いけ好かない青年であるリオンに突っかかる。拘束という言葉で脅そうとするならこちらもこちらで吹っ掛けるだけだと。

 

「――――だが、スパイ活動をした貴女方が先にルールを破ることになる。我々は知らないし、オーブに敵意を抱く者を放置するわけにはいかない」

 

 

そう。リオンの物言いはある意味正しい。いくらザフトが公式記録は嘘だと叫んでも、オーブが認めず、証拠がなければ意味はない。

 

さらにいえば、スパイ活動をしたとなれば、拘束されても文句は言えない。

 

「――――っ」

それが分かっているからこそ、ニーナは憎しみを含む目でリオンを睨みつけていた。

 

「――――貴方方はずるい。いま世界で人が死に続けているのに、貴方たちは――――」

 

フィオナは羨ましくて仕方がなかった。オーブは今も平和を維持し、当たり前の日常を作り上げている。戦時中であることさえ気づけないほどの平和がそこにある。

 

連合に尻尾を振り、プラントにも中立宣言をし、今度はラクスを確保している。

 

世界を賢く泳いでいる。そのやり方はフィオナにとって納得のできるものではなかった。

 

「なら我々も戦争に介入しろと? それは御免だ。戦争はお金がかかる、労働力も減る。生活水準も落ちる。それに、我が国はナチュラルもコーディネイターも関係がない。そちらの抱えているイデオロギーに何一つ共感できる物もないし、連合についても同様だ」

 

 

リオンは腕を不意に上にあげる。まるで何かの合図のように。

 

「こちらの平和を侵害するものは、コーディネイターだろうが、ナチュラルだろうが、殲滅対象となる。君たちはどちらかね?」

 

銃を突きつけられている。しかも、絶対に逃げ込むことが出来ない場所だ。フィオナたちは追い込まれていた。

 

 

「――――――――っ」

 

まずいことになった、とニコルは考えていた。おそらくリオンという青年が言っていることはほぼ間違いではない。ラクス・クラインがこのまま解放されるのも間違いないだろう。

 

オーブは彼女を隠し続けるメリットがない。そして、カードを切るタイミングも今が最善だ。

 

目の前の青年の命令一つで、自分たちがどうなるかが決まる。

 

 

「――――――カーペンタリアに大人しく戻れ。もし君たちがまだ前に進むというのなら、進めばいい。後悔はするだろうがな」

 

リオンが合図をした瞬間に殺気が消えた。彼女たちを押しつぶそうとしたプレッシャーが消える。

 

「ラクス・クラインは手筈通りにプラントへ引き渡す。これ以上オーブにいる意味はないと考えるが」

 

追い打ちをかけるように、彼女の引き渡しは行われると言い放つ。

 

「――――そう、ですね。大人しく引きさがります」

それ以上のことは言えなかったニコル。しかし彼女の中である確信があった。

 

――――アークエンジェルは、オーブに潜んでいる。

 

オーブが求めるのは力と利益。その全ては自国民の安全保障を実現するためにある。ゆえに、彼らが連合のMSの性能を無視するわけがない。

 

 

だが、ニコルはフィオナの暗い瞳がリオンに向いていることに気づかなかった。

 

「―――――貴方は、赤い彗星なのですか?」

 

フィオナもなぜこんなことを言ったのか、なぜそんな結論に至ったのかがわからない。だが、その雰囲気、その佇まいがなぜか赤い彗星と被ってしまう。

 

リオンという青年こそ、仇敵である赤い彗星ではないかと。

 

「―――――赤い彗星、ね。低軌道戦線の戦闘映像は見させてもらった。我が軍にスカウトしたいくらいだよ。彼個人の理想や人格に興味はないが、その力はオーブにとって有益だ」

 

リオンは赤い彗星の力だけを評価していた。

 

「しかし彼の存在は危険だ。単騎で戦場を一変させるような存在はしっかりと鎖をつけておく必要がある。その鎖が役目を終えるまでな」

 

強欲なオーブの軍人らしい、赤い彗星を単純な力としかみなさない言い方。彼の自由など保証せず、その力を利用し、その存在がすり潰されるまでこき使うかのような物言い。

 

さすがのフィオナも、赤い彗星をすりつぶす気満々の発言に眉を顰める。

 

「―――――重なったと、思えたのに―――――」

 

憎らしいほど余裕を見せてきた赤い怨敵。リオンはそうではなかった。その赤い彗星すら上回る畜生だったと。

 

 

「さすがに、私も彼を憎いですけど――――そんな言い方――――」

ニーナもリオンの物言いに冷静さを逆に取り戻し、彼を非難する意思を示す。

 

「彼がラクス・クラインを助けたということが事実ならば、連合にとって彼は裏切り者だ。プラントに腕利きが存在し、もしその人物が彼と同様敵を助けたとすれば? 君はそんな輩を信頼することが出来るのかね?」

 

管理されない力など、なくなってしまえばいい。目の前の青年は徹底して赤い彗星を戦力として考えていた。

 

「―――――行くわよ、フィオナ、ニーナ。これ以上いても状況を悪くするだけよ」

 

 

「はい……」

 

リオンの物言いは理解できる。プラントの立場で見れば、ラクス・クラインを救った恩人でもある。なら連合にとっては貴重なカードを失わせたことにつながる。

 

信頼などできない。鎖をつける必要はあるのだ。

 

フィオナもニーナと同じようにリオンの物言いに納得し、ニコルの後を追うようにこの場を去っていった。

 

 

3人が見えなくなった後、悲しそうな瞳でリオンを見つめるラクス。

 

「―――――今貴方が言ったことは、本心なのですか?」

 

震えるような声で、彼女は彼に尋ねた。

 

「―――――半分本心であり、半分は建前だ。リスクを承知でオーブの利につながることをしたと考えていた。だが最初に抱いたのは、贖罪でもあった」

 

ラクスに背を向けて、リオンはあの時を振り返る。

 

「君を助けようとしていた人がいた。それを俺は殺した。立場上戦わなければならなかったが、せめて彼らが救おうとした存在だけは助けたいと思ったのだ」

 

恨まれるだろう。リオンはこれまで気づいてきた信頼を壊すかのように、独白を続ける。

 

「君の名前を聞いた時、打算が働いた。この戦争を止める流れ。そのきっかけの一つに君はなり得ると。オーブの立場で、個人の立場で手を伸ばし続けていたチャンスが目の前に廻ってきた」

 

 

「―――――君を見ていたわけではなかった」

 

 

 

ラクスはその全てを聞いたうえで、リオンに語り掛ける。

 

「―――――私は、それでもあなたを恨むことも、不信を抱くこともあり得ません」

 

 

「―――――酔狂だな、君も」

 

ラクスの恨まない発言に、苦笑いを浮かべるリオン。頭がどうにかなってしまったのか、と。

 

 

「貴方が人一倍世界と向き合っていることが理解できるから。国を超えて世界を救うために動く貴方を、誰が非難できましょうか? それに、わたくしは貴方に形はどうあれ命を救われました」

 

毅然とした瞳を向ける彼女はやはりプラントの姫君だった。彼女もリオンと近い視点で世界の在り方を見ている。もしくは彼に感化されたのか。

 

彼女は彼を想い続ける。その未来が約束されているわけでもないのに。

 

 

「参ったな……本当に、君の言葉には気圧されてしまうことがある。本当に厄介な方だよ、貴女は」

ここまで善意を向けてくれる存在は、リオンにとって初めてだった。一つ未来が違えば、この女性に頭が上がらない人生になっていたかもしれないと。

 

 

「ふふふ。初めて貴方に参ったと言わせましたわ」

朗らかに笑うラクス。リオンを武力ではなく、言葉ではなく、心で降参させるのは、なかなかできることではない。

 

 

 

「ならわたくしに一つお願いがあります、リオン様」

 

 

 

「―――――内容によるな」

少し考えてから絞り出すように答えたリオン。本来ならこんなことは言わないが、ラクスの前だからこそ応じてしまう。

 

 

「貴方はこれまで、果たすべき使命と、為すべきことを探し、行動し続けました。だからちょっと、余暇というものを、覚えてほしいのです」

当たり前のことを願うラクス。そして、当たり前のことをしていなかったリオン。

 

 

「ん? 余暇、だと?」

そういえば、余暇ということはあのフットサル以来やっていなかったような気がする。

 

 

「美味しいものを食べて幸せなお気持ちになられたり、美しい景色に心を打たれたり……人として当たり前の喜びを、知っていただきたいのです」

 

 

「―――――――」

言葉が出なかった。何事も答えは簡単に見つけられるはずのリオンにとって、これは難しいことだった。

 

 

―――――そうか、だからだったのか

 

そしてここで、ようやくリオンは、なぜ自分と彼らが違うのかを理解した。

 

 

幼い頃からずっと、為すべきこと、やるべきことばかりを考えて生きてきた。それが終われば探して、見つけて、またその行動を繰り返す。

 

 

寄り道ということをあまりしたことがなかった。だというのに、どうも目の前の少女は自分を狂わせる。

 

―――――人らしい感情、というのはこういうことなのか

 

 

「余暇、か」

これまで誰も、休めとはいってきたが、楽しめとは言ってくれなかった。自分が欠陥人間だったことを痛感するリオン。

 

 

それに、なんだかいろいろと削ぎ落としてきたような気がする。

 

 

 

あの日、ガンダムに乗った瞬間からなのか、それともあの夜を迎えた時なのか。

 

 

 

「楽しいこと、嬉しいこと。それを感じてこそ人は明日に向かって頑張れるのです。それが希望であるから」

 

 

「もし、リオン様お一人で難しいのでしたら、貴方を慕う方々が、今度は力になってくれるはずですわ」

本当は、ここで自分がと言いたかったラクス。しかし、リオンに人らしい感情をもっと持たせるために、自分の我儘を割り込ませたくなかった。

 

恩人であるリオンに、そんなことはしたくなかったのだ。

 

―――――わたくしは、リオン様が好きです

 

それはもはや、隠すことのできない感情。アスランにも悪いと思っている。おそらくリオンに会わなければ、アスランとも上手くできていたと思う。彼は優しく、真摯な男性である。

 

 

しかし、彼女は自分の心を焦がすような存在に出会ってしまった。それは不幸なのだろうか。

 

 

――――ですが、ここで依存なんてさせません。世界のために頑張った彼には

 

まだ自分の心はさらけ出さない。人らしくなりつつあるリオンに、それは劇薬だ。そんなことをすれば、彼の在り方を歪めてしまう。ラクス一人だけを見てしまう。

 

 

――――まず世界から、恩返しされなければなりません

 

それは今までリオンが頑張ってきた成果に見合う、世界からの贈り物を受け取ってからだ。

 

 

 

「――――――そうだな。なら、うん。そうしよう――――――」

リオンは笑った。観念したかのように、年相応な笑みを、ラクスの前で見せた。

 

 

「―――――戦争が終わって、暇になったら―――――まずは世界を見たい」

 

 

「――――はい」

否定せず、ラクスはリオンの独白を聞く。

 

 

「――――いろいろと興味を抱かなかったこと、知ろうとしなかったことを、知りたい。たくさんの人と、話をしたい」

 

 

「そう、ですわね」

初めての我儘は、こんなにも普遍的過ぎて、ラクスは涙が出そうになった。

 

 

「砂漠でいろいろな食べ物を知った。いろいろな文化や違いがある。ただ光るだけの石ころに、なぜ価値があるのか。またここに来てほしいと言ってくれた人々がいた」

 

打算や使命という括りではなく、特に意味のないつながり。しかしどこか気軽で、安心を感じるようなもの。

 

 

「もっと知りたい。実際にこの目で世界を見たい、会いたいんだ。今まで見向きもしなかった場所に、尊さがあったのだと、気づかされたんだ」

 

 

 

「―――――――見つけられます、リオン様なら」

こんな無垢な夢を、絶対に散らせてはならない。ラクスは心に難く誓う。

 

 

 

しかし、次の瞬間、彼への慈しみの感情が大爆発する。

 

 

 

 

「世界を回った後、俺に余暇の意味を教えてくれた、ラクスさんの歌が聞きたい」

それはもう告白なのでは、と思いたくなるような衝撃発言だった。

 

 

「はい――――――えぇぇ!?」

顔を真っ赤にするラクスの前で、照れたように笑うリオンは、その訳を話す。

 

 

「―――――なんでだろうな。貴女の歌声が聞きたくなったから、という理由では、ダメなのかな?」

その理由の意味すら分からずに、リオンはラクスに甘い言葉をぶん投げる。

 

 

―――――えぇ、えぇぇ、えぇぇぇぇぇ!!!?

 

本当はリオンへの想いはまだ秘めておこうと考えていたラクスの計算はここに崩壊した。理性を働かせず、何となく言葉を出しているリオンと、理性をその言葉のせいでぶっ壊されているラクス。

 

 

カガリが見回りに来るまでこの空気は続いたという。

 

 

 

 

 

 




本当にすいませんでした。
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