機動戦士ガンダムSEED 理想の従者   作:傍観者改め、介入者

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遅くなりました。


第33話 人類の夢

一方、キラはM1アストレイのOS開発にいそしんでいた。しかし、その作業もすぐに終わり、機体動作性能を約50パーセントも向上させるなど、当時の水準を大幅に上回る制御システムを構築。

 

やるからには凝り性の彼らしい完成度となった。

 

「処理速度が遅かったんです。回りくどいプログラムは破棄し、簡素な構成に仕上げたことで、即応性も上がりました。後は搭乗者のお好みでカスタマイズすることで、機体慣熟にも有効だと思います」

 

前方後方、左右へ走る、後退。ペダルの強弱で速度も変わる。スラスターと合わせて機体の移動アシストも完備。

 

複雑な動きや、コーディネイターの身体能力ありきで考えるOSは必要ない。キラにとっては、ザフト軍が使っているOSでさえめちゃくちゃに見えてしまう。

 

――――回りくどいやり方をする必要もない。なぜこんなOSを

 

ナチュラルにはもちろん、並のコーディネイターでさえ苦労するだろうOS。確かに、使いこなせば使い勝手はいいのだろう。

 

キラはこのOSに慣れるのに半日という時間を要した。それ以降カスタマイズを続けているが、これをスタンダードにしているザフトの神経を疑う。

 

「――――このままオーブにいてもいいのよ?」

アサギは、リオンに比肩し得る才能を持つキラに、連合で使い潰されるよりも最良の未来を約束できることを伝えた。

 

しかしキラは、その誘いを聞いたうえで首を横に振る。

 

「アラスカで、僕はいろいろと確かめないといけないことがある。この戦争をどう考えているのか。この先コーディネイターはどうなるのか。ハルバートン提督のような人だっている。戦争を終結させる方法を探している人の声を聴きたいんだ」

 

強い決意を心に秘めるキラは、連合の真意を聞きたいの一点張り。

 

彼はわかっているのだ。この戦争の勝利者は恐らく連合になると。その上で、コーディネイターたちの未来はどうなるのかを聞きたかったのだ。

 

プラントのコーディネイターと、地球で明日を生きるコーディネイターは違う。そのことを知ってほしいのだ。

 

ナチュラルと呼ばわれたものを、見下すコーディネイターばかりではないと。

 

 

――――貴方のおかげでもあるんだ、リオンさん

 

大局を見て、行動する。少しでも誰かのために動きたい。今の今まで成長させてくれた世界に恩返しをするために。

 

 

「決意は変わらず、ね」

 

アサギは、まっすぐ過ぎる少年の本音を聞いて、悲しそうな顔をする。

 

「――――でも、この国が僕の生まれ育った国であることに、変わりはないですから。戦争が終わったら、絶対に帰ってきますよ」

 

 

 

その後、一度も工区の外へ出なかったキラは、アスランと鉢合わせすることなくやり過ごすことに成功した。しかし――――

 

「オーブは恐らく、アークエンジェルを匿っています。オーブのやり口を考えれば、彼らから技術提供を受け、軍事力強化を狙うはずですから」

 

「―――――確かに、その可能性は高い。それに、俺たちが欲しいのは確証だ。可能性があるのなら、動かない理由にはならない」

 

ニコルの報告から、アスランは網を張ることを決断。予定通り、ザラ隊はオーブから出てきたアークエンジェルを撃破する算段だ。

 

しかし、カーペンタリアから報告を受けたものと、ニコルから齎された情報にアスランは衝撃を受けていた。

 

「ラクスが、生きているんだ……オーブで保護されて――――本当に、よかった……」

 

とても安心した様子のアスラン。これまでずっと彼女のことを想い続けていたのだ。ようやく無事が判明し、今頃プラントでも大騒ぎになっているだろう。

 

「ですが、赤い彗星に救われていたのは複雑ですけど」

 

ニーナが難しい顔をして、その事実を素直に喜ぶことが出来ないでいた。

 

「―――――赤い彗星。ラクス様は正体を隠したと言っていましたが、アレは恐らくそうではないです。」

 

フィオナはきっぱりとラクスが赤い彗星を庇っていると感じていた。

 

「?? ラクスの右瞼が若干動いたのか?」

 

アスランもすぐにフィオナが言いたいことを理解し、彼女の事情を察する。

 

「!? え? どういうことですか? ラクス様の瞼?」

ニコルはアスランとフィオナの語る瞼の意味を理解できなかった。

 

「ラクスはうそをつく時に瞼が若干震えることがあるんだ。嘘をつく機会その物がほとんどないのだが。理由も他人のためにというものが多い」

 

婚約者、そして親しいものだからこそわかる仕草。

 

「へぇ、ラクス様にそんな癖があるんだ。」

 

「それは初耳だ。今度試してみたいものだ」

 

ディアッカとドリスも、ラクスに出会ったときに確かめたいものだという。ということは、赤い彗星はラクス・クラインと知って彼女を助けたということになる。

 

赤い彗星の情報は錯そうしている。ただの傭兵であったり、連合軍のテストパイロットであったりと真相が定かではない。

 

実は、連合内部でも彼に関する情報は少ないのだ。

 

「赤い彗星を引き抜くことはできないだろうか。」

ぽつりと、アスランはその可能性について考えた。アスランらしからぬ言葉が出てきたことに、一同は驚く。

 

「アスラン!? あれは連合軍の兵士ですよ!? ラクス様を助けたとはいえ、理由もはっきりしない相手なんです。信用するのは危険すぎます」

 

「おいおい。アレがこっちに来ても大歓迎されるわけでもないだろ。そりゃあ、一騎当千のエースパイロットは引く手数多だろうけど。」

 

ニコルとディアッカが異論を唱える。当然と言えば当然だ。得体のしれない存在を味方に引き入れることは大きなリスクを伴う。

 

「―――――彼は恐らく連合の兵士ではない。オーブの人間だ」

 

アスランは、二人の言葉を聞いたうえで、仮説を立てていく。

 

「それではオーブの人間が連合内部にいたということになります。考えにくいのでは?」

フィオナはアスランの仮説を否定する。もしかすれば、赤い彗星だったかもしれない人が目の前にいたかもしれない。

 

しかし、赤い彗星と彼は違う。

 

だがアスランは尚も仮説を立てることを止めない。

 

「ヘリオポリス内部の混乱で、民間人がアークエンジェルの中に多数収容されたと聞く。そこで紛れ込んでも違和感がない。それにオーブが技術を欲していたとはいえ、アークエンジェルを匿う決断はそう簡単ではない。」

 

アスランは、間違いないと確信していた。

 

「赤い彗星は、オーブのスパイであり、オーブのエースパイロット。ラクス・クラインを、オーブの手で引き渡すことにメリットを感じている存在、ということになる」

 

「け、けどオーブにそこまでのエースがいるなら――――」

ニーナは、信じられないと思いつつも、アスランの予想が全くの見当違いではないと考えていた。

 

「技術力はあれど、武装面ではやや劣っていたモルゲンレーテ。オーブが動く理由はある。」

 

連合に技術協力を、代わりに武装面の充実を図ったオーブ。まったく違和感がない。

 

モルゲンレーテの技術力は地球圏の中では屈指の高さを誇る一方、長らく戦争に無縁な国家でもあったオーブの影響もあり、武装面の進化は鈍かった。

 

連合は再構築戦争の勝者である大西洋連邦に加え、広大な領土を誇るユーラシア連邦を中心に強大な軍事力を有している。

 

そこに目をつけ、敵として目標にされない程度に協力をしつつ、自分の力を磨き続ける。

 

パトリック・ザラは、オーブを卑しいハゲタカのような弱小国というが、中身は全く違う。

 

強小国、といえばいいのだろうか。領土は恵まれていない。資源も輸入に頼らなければならない。しかし、国家を支える技術力と、豊富な人材がある。

 

そして、コーディネイターとナチュラルが手を取り合い生きているその国は、アスランにとってまぶしいものだった。

 

「―――――まさか―――――」

 

フィオナが震えるような声で、つぶやいた。そんなはずはないと思っていた。その様子を見たニコルとニーナは、何かを察した。

 

「では、あの青年が―――――」

 

「ラクス様と一緒にいた、あの金髪が、赤い彗星?」

 

三人が出会ったオーブの要人と思わしき人物。あの不遜な雰囲気を出していた青年が、やはり赤い彗星だったのだ。

 

思えばラクスが見知らぬ人間と、あそこまで親しそうにしているわけがない。彼は彼女の恩人で、彼は彼女とオーブのために行動したのだ。

 

「なんだと!? 赤い彗星と思わしき人物だったのか!?」

ドリスは、三人が出会った青年が赤い彗星である可能性が高いことに、驚いていた。

 

「けど、これってチャンスなんじゃねぇの?」

しかしディアッカは、これを好機ととらえていた。

 

「確かにそうだ。もし彼がオーブの人間であるというなら、彼は戦線離脱がほぼ確実だ。アークエンジェルは絶対的なエースを欠くことになる」

 

アスランも、ディアッカが言いたいことを最初から理解していた。赤い彗星が消えた場合、エリク・ブロードウェイ、白い悪魔と言われているキラ、エンデュミオンの鷹のみ。

 

それでも強敵には違いないが、勝率は確実に上がった。限りなくゼロに近かった勝率が、上がるのだ。

 

「――――だが、もし仮に彼が懐柔されていた場合、速やかに退くぞ。あの戦力は一部隊でどうにかできるものではない」

 

 

ザフト軍はそのタイミングを待つ。赤い彗星が抜けているのか、そうでないのか。

 

 

丁度その頃、リオンはトールとミリアリアに説明をする羽目になっていた。

 

「えぇ!? あの女の子、シーゲル・クラインの娘だったの!?」

 

「う、うん。でも、なんだか同性として何か違うと私は感じていたけれど、まさかそんな」

 

トールは目を大きく見開いて驚き、ミリアリアは納得していた。

 

「――――すまない。オーブの国益を考えての行動だ。表向きは、プラントの民間人の引き渡しとなっている。今まで話すタイミングがなかった、申し訳ない」

 

 

「い、いや。いいけどさ。けどこんな機密を俺たちに話してもいいのかよ――――」

 

トールの問いに対して、リオンは少しだけ表情を曇らせる。

 

「――――君がオーブの軍人になると言わなければ、話すつもりはなかった。オーブが君たちを巻き込む形となったことを、まず詫びたい」

 

軍人としての適性はある。しかも、まだMAにもあまり触っていない貴重な人材だ。キラの開発したOSに触れていた彼の力量は、目を見張るものがあった。

 

「けど、ほんとに俺でいいの? オーブ初のMS部隊の初期メンバーって。」

トールも、MSの操作を知っている。そして、一通りの動かし方はアークエンジェルに乗っていた時に出来るようになっていた。

 

MAに染まり切っていない有望な人材。未来のエース。彼はその役目を担うことが出来る。

 

「オーブ政府肝いりのプロジェクトだ。選抜したメンバーに必要なのは適正と、MAに染まり切っていないことだ。この二つを満たすトール君が良ければ、この試験部隊への入隊を希望する」

 

リオンとしては、ある程度プレッシャーをかけたつもりだった。国家プロジェクトを前に、臆することを恥ずかしいとは思わない。ただの少年だった彼が、首を縦に振るか、横に振るか。

 

決めるのは彼だ。

 

「――――どっちにしろ。オーブだってこのまま平和が続くとは思えない。なら、少しでも力になるさ」

 

トールは、アークエンジェルに乗りこみ、世界を最前線で見ることになった。世界が抱える問題は、オーブをいずれ飲み込もうとする。

 

「――――トールが乗るのなら、私も残ります。」

ミリアリアも、トールとともに戦場から離れる気がないようだ。残念ながら、性格、適正ともにMS乗りとしては適さないが、オペレーターとして頭の回転はいい。

 

新設された戦艦のCICになれるだろう。

 

「――――ならばこれ以上は何も言うまい。オーブ軍は君たちを歓迎する」

 

 

 

二人はその後、リオン付きの軍人によって入隊手続きを取ることになり、いったん彼らと別れることになったリオンは、壁の裏から出ている影を見て苦笑する。

 

「――――隠れなくてもいいよ、カガリ。影でバレバレだ」

 

 

「―――――少しは驚いてくれてもいいんだぞ。」

 

ムスッとした表情で、諦めたように壁の裏から出てきたカガリ。リオンはオーブに帰ってきたというのに、まるで休みを取らない。

 

「――――俺は、君がここにいることに驚いているよ。アサギたちはどんな様子かな?」

 

「悪くない。あいつが手掛けたOSは、アストレイを強力なものにしたぞ。あいつらも、それなりに動かせるようになった」

 

 

「――――そうか。」

 

あの三人娘が平均以上に動いてくれるならば、それはオーブにとって喜ばしいことだ。他のテストパイロットたちも比較的若い年齢が多い。本来ならば、壮年のMS乗りがいると助かるのだが、オーブにそこまでのコネはない。

 

 

「――――お前は、アークエンジェルに残らないのか?」

 

「残る理由はない。オーブに戦闘データを送り届け、一応の成果を出した。クラインの引き渡しも滞りなく終わる。アークエンジェルを守るという義理はほぼ果たした。」

 

リオンははっきりと言い放った。アークエンジェルに残る必要はないと。オーブの利益となるからこそ、リオンはこれ以上連合に肩入れする気はない。

 

「――――残る奴らもいるんだぞ? オーブの国民なんだぞ」

カガリは、リオンがキラたちを切り捨てたと悟る。強引に口説けば、彼らだって除隊できるかもしれないと考えていた。なのにリオンはそれをしない。

 

「元国民だ。今は手が出せない。これ以上アークエンジェルに貸しを作るわけにはいかない。赤い彗星のデータを抹消してもらったのだ。ここまでだ」

 

オーブのために、彼らには連合で戦い続けてもらう。生き残ることがあればそれでいい。先のことはわからないし、彼らが生き続ける限り、オーブに戻る未来もなくはない。

 

「――――お前のことが露見すると、オーブは窮地に立たされる。そういうことか?」

 

 

「情けない話だが、そういうことだ。別に戸籍を抹消してもいいのだが、まだその時ではない。」

カガリとしては、そのどちらも起きてほしくないことだった。露見すればオーブは窮地に陥る。かといってリオンの戸籍が抹消された場合、フラガ家次期党首の地位を失うことになる。

 

「――――っ」

 

だから何も言えなかった。リオンは危ない橋を渡って、オーブの利益を出している。お飾りでしかない自分にはできないことだ。

 

「そんな顔をするな。俺は別に名誉が欲しいから動いているわけではない」

リオンはカガリが自分を心配していることに気づいていた。だからこそ、笑みを作る。そして、地位や名誉、お金は自分の目的に必要なものに過ぎないことを伝える。

 

 

「………そう、だったな。お前はそういうやつだった。」

 

悲しそうな表情をすることが多くなったカガリ。幼少のころに見せた無鉄砲な側面が鳴りを潜み始め、女性らしい柔らかい表情が多くなった。

 

――――なんだろうな、年下は趣味ではないのだが

 

あの男と同じではないか。今自分が抱いている感情はなんだ。

 

――――どうしたものか

 

 

カガリの何かを訴えるような眼ににらまれ、リオンはしばらく行動を制限されることになった。

 

 

 

 

そして最後に、技術開発に勤しんでいたキラは、両親との再会を果たすことになる。

 

 

「キラッ!! あぁ……本当に、よく無事で……っ」

 

母親のカリダ・ヤマトと、父親のハルマ・ヤマトとの面会の時間を与えられたキラは、両親ほど感動を覚えていたわけではなかった。

 

「――――母さん。心配かけてごめん」

 

「貴方がヘリオポリスの脱出艇にいなかったとき、もう会えないかもって……っ」

 

キラの胸に飛び込み、涙を流しながら息子の無事を感謝するカリダの姿に、キラは本当に心配をかけたのだと実感した。

 

「でもごめん。僕はアラスカに行く。この戦争と、未来について。僕はもう、無関係ではいられない」

 

「貴方が頑張る必要はないのよ!? もう戦争に行くなんてこと、やめて!」

 

「キラ。母さんの言うことを聞くんだ。これはお前が思っているような単純な話ではないんだ。」

 

ハルマも、キラがアラスカに行くことに反対している。だが、キラは直感的に両親が何かを隠しているのではないかと薄々感じ始めていた。

 

 

「それは何? 僕はそもそも何者なの?」

 

自分がコーディネイターである理由。両親が好き好んで自分をコーディネイターとして生んだのか。

 

この家で生まれ育って気づいたことがある。両親はナチュラルとコーディネイターの対立にかかわらないようにしていた。

 

「……キ……ラ?」

キラの言葉にカリダは目を大きく見開いた。この戦争で、彼は真実に近づきつつある。その事実が恐ろしいことであり、ハルマも彼の言葉に驚いていた。

 

「何を言っているんだ? キラは私たちの――――」

 

両親の様子がおかしくなったのを見て、キラは半ばあきらめるように悟っていた。

 

――――僕は、二人を疑っているわけじゃない。

 

ただ、自分と二人は本当の両親ではないのかもしれない。その過程が現実味を帯び始めたことが悲しかった。

 

――――その愛情だけは、疑ったことはなかったよ

 

コーディネイターが優れていることについて、何の言及もなかった。コーディネイターは遺伝子に自信を持った種族であり、それが根幹にもなっている。

 

だからこそ、一致しない。両親が自分をコーディネイターとする理由がない。

 

「本当に、僕はただの第一世代なの?」

 

自分は明らかに他のコーディネイターとは違う。お金をかけて、優秀な遺伝子をもって生まれることで、コーディネイターは超人染みた能力を発揮する。

 

こんなことを言うのもなんだが、自分はそこそこ裕福な家庭だった。だがそれどまりだ。

 

――――君は同胞の中でも、飛び切り優秀な部類に入るがね

 

かつて砂漠で、虎に言われた言葉がキラの脳裏に浮かぶ。

 

「僕は、何者なんだ?」

 

その言葉が引き金だった。突如としてカリダが崩れ落ちたのだ。

 

 

過呼吸のような症状を発し、苦しそうにしている。今まで見たことがないほど、母親の取り乱した姿に、キラは驚愕していた。

 

「カリダ!? おいっ、しっかりしろ!!」

ハルマがカリダに声をかけるが症状は治まらない。目の焦点が若干乱れ始めているカリダを見て、キラは後退った。

 

――――僕には、いったい何があるというんだ

 

母親をここまで苦しめる秘密が自分にはある。それを知ることが出来ないことに、もどかしさを感じていたキラ。

 

その後、面会は中止され、キラはウズミの下を訪れることになる。事の次第はキラの口から説明し、その説明を聞いたウズミの顔は渋いものになっていた。

 

 

「―――――どこから話したものか。まさか、この戦争で君がその真実に辿り着こうとしているとは」

 

 

「ウズミ様は僕と、“僕の両親”をご存じなのですか?」

 

キラは自分と、両親ではない両親のことを尋ねる。キラは真実を知ってなお、今の両親を愛している。自分が真っ直ぐ成長することが出来たのも、二人のおかげであり、今こうして生きていることも同様だからだ。

 

「――――ああ。君が生まれる前から、コーディネイターの問題は表面化していた。しかし、ある問題が一時期浮上していた」

重苦しい雰囲気を出したままのウズミ。一国の首相でさえ、頭を悩ませる苦悩を自分が持っている。いったい自分に何があるのだろうかとキラは不安になった。

 

「ある、問題?」

 

ウズミは、キラの目を見て、もう一度確認を取るように尋ねてきた。

 

「―――――ここまで来て、君は君であることをやめないか? それでも人として生きる勇気が、君にはあるかね?」

 

 

「――――僕は、人として生まれたわけではない。そういうこと、ですか?」

 

まるでそう言っているようだと、キラは不気味さしか感じていなかった。ウズミの物言いはまるで、まともな生まれ方をしていないかのような言い方だ。

 

「―――――コーディネイターが望まれた能力、容姿を得られない主な原因は何だと思う?」

 

 

「それは――――よくわかりません。流産をしたとか、目の色が違う、というお話も聞いたことがあります。その理由まではわかりません」

 

 

「それは、人間の母体が安定しないから、とユーレン・ヒビキ博士は提唱したのだ。」

 

 

知らないワードだ。知らない人間の名前が出てきたことで、キラは目を細める。

 

「ユーレン・ヒビキ……でも、おかしいですよ。人は人が生むものではないんですか?」

 

コーディネイターという言葉に、世界が踊らされた時代。夢も未来も、すべてが遺伝子で決められてしまう。それは、なんだか恐ろしい気がした。

 

キラにはそれがなぜまずいのかをはっきりということが出来ない。だが、それを許せば人として何かが終わってしまう、そんな直感があった。

 

――――歪んでいる。他人の夢を押し付けられて、生まれてきて。生き方さえ決められるのか?

 

そもそも、キラはその意味を理解したくなかった。理解する寸前まで来ていた彼は、ヒビキ博士に嫌悪感を抱いていた。

 

「――――遺伝子に固執し、し続けた結末。彼は禁忌に手を染めた。人という母体ではなく、人工子宮という恐ろしい代物を作り上げてしまったのだ」

 

 

人工子宮。その言葉ですべてを理解したキラ。自分は人の中からではなく、機械の中で生まれ育った存在なのだと。

 

「――――狂っていますね……」

 

その言葉しか出せなかった。キラは、立ち眩みをするような感覚に陥った。母親の様子から、あまり知りたくない事実が先に待っているのだと予想は出来ていた。しかし、これはないだろうとキラは思う。

 

「だが、そんな研究が一時期はまかり通っていたのだ。だからこそ、ブルーコスモスは生命を弄ぶ彼らを許すことが出来なかった。実子さえ研究材料とした彼らを世界は許さない。彼らのいた研究施設、コロニーメンデルはバイオハザードで閉鎖。程なくしてヒビキ夫妻は暗殺に遭い帰らぬ人となった」

 

 

「――――そうですか」

 

不思議なほど自分は落ち着いていた。馬鹿げた、狂った理由で生み出されたのに、今は信じられないほど落ち着いていた。

 

「気丈にふるまう必要はない。もっと感情をあらわにしてもかまわないのだぞ」

 

ウズミに気遣われているのがわかる。しかし、キラは本当に何も感じていないのだ。

 

「―――――不思議なほど落ち着いているんです。今まで感じていたズレが、やっと消えたんだって。思えば僕はいろいろなことが出来た。それを当たり前だと思っていて、でも他の人には当たり前ではなくて。」

 

コペルニクスで同世代のコーディネイターといた時でさえ、キラは自分が他とは違うことを意識していた。

 

「――――どんな願いを込められて生まれてきたのか。けど、僕はそれを否定します」

 

しかし、自分はキラ・ヤマトだ。キラ・ヒビキではない。

 

 

「僕は、コーディネイターとナチュラルである前に、一人の人間でいたい。オーブでは、それが当たり前だった……それが僕の望みでもあったんだ」

 

離れて初めて気づいた事実。しかし、自分が知らなければならない事実であり、その事実を背負い、生きていく運命にあるからだ。

 

「だから僕は、その事実を聞いても揺らがない。僕は僕だ。その力があるというなら、自分の意志を貫くために使うだけです」

 

だからこそ、そんな夢は願い下げだ。自分の運命は自分で決める。遺伝子で決められたくない。

 

「僕は、キラ・ヤマトだ」

 

 

 

 

キラが部屋を去った後、ウズミはキラの決意について考えていた。

 

―――あそこまで強く、育っていたとは

 

戦争が彼を変えたのか。元々ここまで強固な意志があったのか。ただ言えるのは、こちらが心配していた取り乱し方をしなかったということは言える。

 

――――あとでヤマト夫妻に伝えてやらねばならんな

 

彼らの息子は、この戦争を乗り越えることが出来ると確信できた。

 

 

 




キラ君は、自分の出生についてどうでもいいと考えています。我儘になった分、図太くなりました。

そしてリオン君・・・・最後の最後に甘さを残す痛恨のミス・・・
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