機動戦士ガンダムSEED 理想の従者   作:傍観者改め、介入者

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不穏なタイトルを送れて出しました。


第34話 崩壊

カガリが住んでいるアスハの別邸にて、ラクスは海を眺めていた。今日の昼前には、アークエンジェルがオーブを発つという知らせは聞いていた。

 

 

 

「―――――心配なのか?」

 

 

 

隣にいたカガリは、ラクスの不安そうな顔を見て、アークエンジェルのことだろうと尋ねた。

 

 

 

「いえ。ザフト軍とアークエンジェル。きっと誰かが死んでしまう。そう思うと、悲しいのです」

 

 

 

アークエンジェルにはもうリオンはいない。しかし、それでもザフト軍は不利といえる。詳しいことは知らないが、あちらは5機のMSを有しているとはいえ、数的優位をもってしてもアークエンジェルに勝てなかったのだ。

 

 

 

「―――――優しいな、お前は」

 

 

 

カガリは敵味方関係なく命を思いやる彼女の姿勢に好感を持った。地球では散々な言われようのシーゲル・クラインの娘とは思えないほどに。

 

 

 

「――――なら私も祈るさ。戦争が早く終わりますようにってさ」

 

 

 

ニッ、と笑うカガリ。せめてもの励まし方なのだろう。ラクスの沈んだ表情を何とかしたいという思いに満ち溢れている。

 

 

 

「そうですわね―――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてアークエンジェルは、すでに戦闘配備を完了させていた。

 

 

 

「―――――オーブの公式発表を素直に信じているほど奴らもバカではない。網を張っているはずだ。警戒を怠るな!」

 

 

 

ブリッジでは、バジルール中尉が指示を飛ばしている。そしてクルーたちもそれを十分に理解している。

 

 

 

「ええ。MS部隊はいつでも出撃できるよう準備を」

 

ラミアス大尉も、MS部隊に即座に動けるよう指示を出していた。

 

 

 

格納庫にはすでにキラとエリク、ムウがストライク、デュエル二号機、ストライク二号機にそれぞれ乗り込んでいた。

 

 

 

「けど、キラの作ったOSは動かしやすいぜ。ジンのアレで満足できないほどにな!」

 

デュエル二号機に乗り込んでいたエリクは、新しいOSを積み込んだデュエルの出来栄えに感嘆を漏らしていた。

 

 

 

「俺はついにGシリーズに乗るとはなぁ。あの世であいつらも驚いているだろうな」

 

 

 

ムウは、自分が守れなかったテストパイロットたちよりも先に、MSに乗ることになるとは考えていなかったので、別の意味で感慨深い気持ちになっていた。

 

 

 

「――――ストライク二号機の出来栄えは、どうですか?」

 

 

 

キラが手掛けたOSなのだ。技術者である本人がムウに確認を取らないはずがない。少しでも不備があれば、彼の命にかかわるものだ。それだけ気になっている。

 

 

 

「いい感じだぜ。リオンが乗ったほうがいいかもしれねぇけど、あいつにも事情がある。少なくとも、俺の最大限を実現できそうな出来と言っていいぜ!」

 

 

 

 

 

そして、格納庫に収容されていたジンに、アルベルトが乗り込んでいた。

 

 

 

「―――――甲板での援護射撃が主になると思う。二人は前に出過ぎないで」

 

 

 

「おうよ! キラや中尉に乗っからせてもらうぜ」

 

本当に分かっているのか。しかしアルは意外と冷静なところがある。信頼しても恐らく大丈夫だろう。

 

 

 

「アルの気楽さは分けてもらいたいよ。どこから来るの、その自信?」

 

 

 

 

 

「強い気持ちを持ってないと、こういうのは無理だ。俺は絶対生き残るんだって強く想う。それで覚悟決める! そんだけ!」

 

 

 

「――――うん。絶対にアラスカまでたどり着こう、必ず」

アルベルトの覚悟を聞き、キラは強い気持ちを抱く。恐らく自分が彼の戦う理由の一部になっている。だからこそ、戦場に連れてきてしまった負い目がある。

 

—————必ずアルを守る

 

 

少年二人で盛り上がりを見せている光景を見ていたエリクとムウは微笑んだ。

 

 

 

「いいねぇ。士気もいい感じだ。」

 

 

「大尉は踏ん張ってくださいよ。新兵を死なせるわけにはいかないんですから」

エリクがムウに小突く。

 

 

「俺の部下は手厳しい」

 

その時だった。ブリッジにいたトノムラ曹長の目には、レーダーに映る機影が複数。

 

 

 

「レーダーに感あり! 熱源接近! 機種特定、これはっ!!」

 

 

 

そして間髪入れずにつぶやいたのだ。

 

 

 

「Xナンバーと、ザフトの新型3! 低軌道戦線の時のものです!」

 

 

 

 

 

「地球に降りてここまで追撃を仕掛けてくるか! 第一戦闘配備! 急げ!」

 

 

 

ナタルがパルの報告を受けて迅速に指示を出す。が、クルーは既に予期していたので配置についていた。

 

 

 

「――――何としても振り切るのよ! MS隊順次発進させて!!」

 

 

 

 

 

 

 

発進シークエンスに入るキラたちは、敵が迫ってきていることを聞き、緊張を高めていた。

 

 

 

 

 

「APU起動。ストライカーパックはランチャーを選択。カタパルト接続、オンライン。進路クリアー。発進を許可する」

 

 

 

「キラ・ヤマト、ストライク。甲板にて迎撃行動に入ります!」

 

 

 

 

 

「続いてストライク二号機。ストライカーパックはジェットストライカーを選択。カタパルト接続、オンライン。進路クリアー、発進を許可する」

 

 

 

「ムウ・ラ・フラガ、ストライク二号機、出るぞ!」

 

 

 

キラとは違い、カタパルトから飛び立っていくムウ。すでにキラの乗るストライクはアークエンジェルの甲板に移動している。

 

 

 

「デュエル二号機。カタパルト接続、オンライン。進路クリアー、発進を許可する」

 

 

 

「強化プラン、当てにさせてもらうぜ。エリク・ブロードウェイ。デュエル、出撃する!!」

 

 

 

ホバー走行ならば可能なほどの出力を備えたアサルトシュラウド装備。宇宙戦闘でも機動力を十分見込めるデュエルの強化プランがついに現実のものに。

 

 

 

大きな特徴は、腕にシールドを装備するのではなく、肩にシールドをラックさせた状態であること。これにより、マニピュレーターの自由度が増し、様々なオプションをつけることが可能に。

 

 

 

多連装ミサイルポッドに、ビームガトリング砲を装備し、機体各所にコンデンサーを取り付け、稼働時間を伸ばすことに成功。実戦を強く意識した装備となっている。

 

 

 

「ヤマト少尉! まずは長距離砲撃で敵に打撃を与えろ!」

 

 

 

「了解!」

アークエンジェル部隊は先手を打ち続けることで、ザフト軍の襲撃を返り討ちにする算段をつけていた。これ以上の追撃をしてくるザフトをここでたたく。

 

その心中にはリオン不在という大きなハンデがあり、無意識のうちに彼がいないことで彼らは短慮だった。

 

 

 

アークエンジェルを落とすしかないザラ隊は、甲板からアグニを放ってくるストライクの砲撃に対し、

 

 

「散開しろ! アレに当たれば致命傷だ!」

 

 

アスランとニコル、フィオナとドリス、ニーナとディアッカの最小単位で別れたザラ隊。

 

 

 

そこへ、

 

 

 

「隊長、赤い奴が急速接近!」

 

 

 

フィオナの報告の通りに、赤いストライクはこちらにまっすぐ向かってきた。

 

 

 

「アレは大気圏用!? まずい、各機旋回! エレメントが後ろに取りつかれたら、真っ先にフォローしろ!」

 

 

赤いストライクは、その機動力を生かし、陣形の乱れたザラ隊に打撃を与えていく。

 

 

「あいつほどじゃねぇけど、俺もやるときはやるんだよ!」

ライフルを乱射しながら逃げ遅れたかに見えたフィオナに狙いを定めるムウ。このジェットストライカーは凄い、とムウは乗りながら思う。

 

 戦闘機を超える機動性と即応性。これこそ、連合の次世代を担う装備になると。

 

 

「ロックされた!? 速いっ!」

 

 

 

後方につかれたフィオナは、ストライクを振り切ろうとするが、機動性に大きく水をあけられているためか、振り切ることが出来ない。

 

 

 

「まずは一機。仕留めさせてもらうぞ。おっと!」

 

 

 

不意に感じた殺気を感じ取り、ムウは右脚部バーニアを吹かせ、空中で小さく旋回。ムウの背後からバスターがフィオナをやらせまいとフォローに入る。

 

 

 

「くそっ! 機動性が違い過ぎる!!」

 

 

 

あっさりと砲撃を回避していくストライクを見て歯噛みするディアッカ。しかし、彼の意識はそこまでだった。

 

 

 

「な――――っ!?」

 

突然ディアッカの意識がかき消された。本人もそれが何なのかわからないまま、バスターは動きを止める。

 

 

 

フィオナの眼前には、胸部を撃ち抜かれ、スパークを出しているバスターの姿。そして海面すぐ近くには、ホバー走行しているデュエルの姿が。

 

 

「ディアッカッ!!!」

 

フィオナが悲痛な叫びをあげるが、どうすることもできない。

 

 

「くそっ、デュエルの新型装備!? まずい、誘い込まれた!」

 

 

見慣れぬ装備をしたデュエルを見たアスランは、空と海の両方から挟み撃ちに遭っていることに気づくがもう遅い。

 

 

 

スパークを出しながら落下するバスターは海面に衝突。小規模な水しぶきを上げ、海面から上がってくることはなかった。

 

 

 

「そんな、ディアッカさん!!」

 

 

 

悲鳴を上げるニーナが、ホバー走行しているデュエルに斬りかかるが

 

 

 

「おっと、近づくとそれが来るのはわかっているぞ、新型!!」

 

 

 

ザラ隊の背後を付くようにホバー走行をしていたエリクは、今度は一転してアークエンジェルに近づくように後退していく。

 

 

 

そしてエリクを守るかのようにアークエンジェルの砲撃がニーナの足を阻む。

 

 

 

「弾幕が濃すぎる!! 近づけないっ!!」

 

 

 

「ニーナ、あまり突出するな!! 弾幕につかまるぞ!!」

 

ドリスが慌てて突出しているニーナを呼び戻そうとするが、ムウがこの瞬間を黙ってみているはずがない。

 

 

 

「ミサイルのシャワーでも浴びな!!」

 

戦術面で圧倒的な優位性を崩さないことで、ムウは上機嫌だった。しかし、ザフト軍はそれどころではない。

 

 

 

 

 

「戦術面で負けている!? こんなところで!!」

 

 

 

ミサイルポッドからミサイルを発射したムウ。これで仕留められるとは思っていない。ドリスの乗るシグーディープアームズは、何とかミサイルを迎撃、もしくは回避することに成功したが、誘い込まれていることに気づけない。

 

 

 

 

 

 

 

「座標に追い込んだぞ、キラぁぁ!!」

 

 

 

「目標捕捉! 撃ちます!!」

 

 

 

「しまっ―――――」

 

 

 

ドリスの目の前には、赤い閃光が迫っていた。もう回避することもできない。どうしようもない死の瞬間が彼の前にやってきていた。

 

 

 

 

 

「ドリスっ!! くっそぉぉ!!」

 

 

 

直撃こそ免れたものの、機体を大きく抉られたドリスのシグーは墜落。ディアッカとともに海の中へと消えていく。

 

 

 

これで、あっという間に2機が大破。どちらも通信途絶。浅い近海とはいえ、沈めばただでは済まない。

 

 

「誘い込まれていたのか!? くそっ」

 

 

 

「熱くならないで、アスラン! とにかくアークエンジェルを! アレさえ落とせば―――」

 

「前に出過ぎです、ニコルさん!! 弾幕につかまります!!」

 

 

 

ザフト軍は恐慌状態にこそ陥っていないが、指揮官含むほぼ全員が冷静さを失っている。

 

 

ザフト軍にも赤い彗星不在という大きなチャンスで浮足立っていた。彼がいなければ勝てる、相手を追い込むことが出来るという浅はかな慢心。慢心と言えるほどではないが、短慮ともいえる希望を抱いていたのは事実だ。

 

お互いの短慮はそのまま、自軍への被害に広がっていく。

 

 

「俺とエリクで敵を追い込む。キラは座標通りに狙い打て!」

 

 

 

「了解です!」

 

 

 

「作戦がハマり過ぎでしょ!! 油断大敵ってな!!」

 

 

 

アークエンジェル部隊は、戦艦に仕事をあまりさせず、ほぼ三人で敵機を撃墜し続けていた。後はブリットとイージス、ビーム兵器搭載型の新型2機。

 

 

 

「ニーナ、動いて!! 接近しすぎ!」

 

 

 

接近することをやめないニーナ。弾幕を躱しながら、アークエンジェルの背後へと迫る彼女をフィオナがとがめる。

 

 

 

「フィオナ!! 動力部をやるわよ!! こいつさえ落とせば!!」

 

 

 

 

 

一方二機の企みを察知したアークエンジェル側もそれどころではない。

 

 

 

「バリアント照準! 近づけさせるな!」

 

 

 

大型レール方から繰り出される弾丸がフィオナとニーナをけん制する。その直後に発射されるミサイルの嵐。

 

 

 

「だめっ!! 動いて、ニーナ!!」

 

 

 

ミサイルを回避、時にはバルカンで迎撃しつつ、フィオナは距離を取りながら対処していたのだが、ニーナは尚も突出し過ぎていた。

 

 

 

「こんな奴らに!! あっ――――」

 

 

 

そこには、大型ビームライフルを構えていたジンがニーナを狙い打つ姿があった。

 

 

 

「ほんとに来たよ、このチャンス……」

 

 

 

後は引き金を引くだけ。アルベルトにためらう理由もなかった。

 

 

 

「あっ――――」

 

 

 

フィオナの眼前で、ニーナの機体がビームで射抜かれた光景が広がる。もはや助からないかもしれない、そんな恐慌にも似た感情が彼女を支配する。ディアッカやドリスの時とは違う。

 

 

 

激情の引き金が引かれていくのを感じた。

 

 

 

ニーナの乗るゲイツは孤島近くに爆炎を上げながら不時着。小規模な爆発を繰り返し、動かないままだ。

 

 

 

「――――――っ!!!」

 

 

 

そこで冷静に味方に指示を出していたフィオナの中で何かが切れた。視界が鮮明になっていくというより、冷えていく感触。

 

 

今ならすべてが見えるような気がしてならない。

 

 

「くそっ!! これ以上やらせるか!!」

 

 

 

アスランはようやく中々掴めなかったデュエルを捉えることに成功した。

 

 

 

「くそっ! バッテリーがそろそろヤバイ!!」

 

 

 

対するエリクは、ホバー走行のし過ぎでエネルギーが心もとなくなってきた。そこでアスランが徐々にその動きに対応しての猛追。

 

 

 

「エリクは下がれ!! ここは俺が引き受ける!! っ!?」

 

 

 

「アスランはやらせません!!」

 

 

 

しかし、僚機の援護に回ろうとするムウを阻むのはニコル。ライフルを乱射しつつ、ムウとエリクを引き離す。

 

 

 

ニコルは周囲を見回し、意を決してムウの乗るストライク、赤い彗星が乗っているかもしれない機体を落とす算段を即興で考えた。

 

 

 

――――危険な賭けだけど、一か八か!!

 

 

 

ニコルはグゥルから跳躍を試みる。それを見たムウは、グゥルを放棄したと考えた。

 

 

 

「何が何だか知らないが!! 思い通りに等!!」

 

 

 

しかしその瞬間、ブリッツが消えたのだ。ミラージュコロイドを展開したのだ。しかし、空中で、しかも大気圏内でそれは、あまり意味がない。

 

 

 

 

 

「素早く動けないならどうということなど!!」

 

 

「くっ」

苦悶の表情を浮かべるニコル。ストライク二号機のバルカンで、すぐに丸裸にされてしまうブリッツ共に窮地に追い込まれる。

 

 

あっさりとステルスを解除させられたニコルだが、衝撃に対する苦悶の表情を浮かべるだけで、ニコルの読みは外れていない。

 

 

 

キラがニコルの読みに気づく。

 

 

 

「大尉、下がってください!!」

 

 

 

 

 

だが、もう遅い。その策は成立した。

 

 

 

 

 

「え? なっ!?」

 

 

 

ムウの目の前には、無人のグゥルが正面から追突してくる光景が。

 

 

 

「ぐわぁぁぁ!!!」

 

 

 

グゥルの爆発と衝撃で、近くの孤島へと墜落していくストライク二号機。そして、エリクはアスランの追撃に阻まれ、稼働時間の限界寸前だった。

 

 

 

 

 

「油断大敵だったかも――――」

 

 

 

 

 

「ここでまずは一機だ!!」

 

 

 

「中尉、下がって!!」

 

 

 

キラの乗るストライクがアグニで援護射撃。後一歩というところでデュエルを取り逃がしたアスランは舌打ちをする。

 

 

 

「ちぃ!! キラっ……」

 

 

 

 

 

だが、アスランとキラは失念していた。

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

アークエンジェルの後方では、アルベルトがフィオナに―――――

 

 

 

 

 

「あ―――――」

 

キラが振り向いた瞬間、アルベルトが乗っていた機体が新型のビームクローで攻撃されている光景だった。

 

 

 

「わ、悪い、しくじっ―――――」

 

機体ごと蹴り飛ばされ、自由落下するアルベルトの機体へ迫る追撃の一撃。

 

 

「ニーナの仇ィィィィ!!!」

フィオナの殺気じみた声とともに、ゲイツのクローがジンのボディを貫いたのだ。

 

「がはっ」

機体への衝撃とともに意識を消失させられるアルベルト。盾ごとクローで貫かれ、糸の切れた人形のように海へと落下し、小さな水しぶきとともに、彼が上がってくることはなかった。

 

 

 

幼馴染が殺されそうに―――――――否、その眼前で命を奪われた光景。

 

 

 

その景色は、キラに理性を放棄させた。

 

 

彼が生来持っていた善性、そうありたいと思っていた心が、彼に理性を放棄することを促したのだ。

 

 

 

 

 

「お、おまぇぇぇぇえ!!!」

 

 

 

キラは躊躇いもせずフィオナの乗るゲイツをアグニで攻撃。初めてだった。

 

 

 

キラは初めて殺意を持って敵を殺そうとしていた。

 

 

 

「!? 白いの!?」

 

アルベルトを殺したフィオナは、突如後方からのロックオン警報で急速回避。ニーナを殺した敵を、仇を取った後に待ち受ける難行。

 

 

 

 

「いつもいつも、赤い彗星と一緒に!! 今日こそ殺してあげる!!」

 

 

 

アスランの思考をかき乱す白い奴が憎い。アスランが味方にと思い始めた赤い彗星が妬ましい。

 

 

 

聞いてしまったのだ。アスランの親友がストライクに乗っていることを。その事実をニコルにだけ白状している場面を彼女は見ていた。

 

 

 

 

 

しかし、激昂しているのは彼女だけではない。

 

 

 

「普通のコーディネイターが、僕に勝てると思うな゛ぁぁッぁ゛ッ!!!」

 

 

 

 

 

その瞬間、キラの何かがはじけた。アルベルトを殺した敵を殺す。そのことしか考えられなくなった。

 

 

 

「IWSPに換装!! 座標固定!!」

 

 

 

キラが怒鳴りつけるように吠えると、

 

 

 

「くっ、了解した!! 後方の敵機を撃墜しろ!!」

 

アルベルトの機体は既に撃墜されてしまっている。その事実を知り、苦悶の表情を浮かべるナタルはキラの気迫に押され、直ちにカタパルトからストライカーパックを射出する。

 

 

 

 

 

ランチャーストライカーを解除し、空中に跳躍したストライクの背部にIWSPが誘導されていき、換装が瞬く間に完了。

 

 

 

「エリク機、帰投します!!」

 

 

 

「ブロードウェイ中尉は直ちに補給を!! フラガ大尉とは!?」

 

「連絡つきません!! ブリッツと交戦中!!」

 

 

 

「っ!!!」

 

 

 

キラは荒ぶる心のまま、フィオナめがけて対艦刀を投擲。突然のことにフィオナはシールドでとっさにガードするが大きく体制を崩されてしまう。

 

 

 

「くっ、白い奴!!」

 

 

 

「もうこれ以上やらせるもんかァァァ!!!」

 

 

 

さらにレールガンでグゥルを射抜いたキラ。スパークを出しながら火花を出すグゥルから脱出するフィオナは、奇しくもムウとニコルのいる孤島近くへと落下していく。

 

 

 

 

 

「キラ!!」

 

 

 

「フィオナさん!? ダメだ!! こっちに来ちゃ!!」

 

 

 

孤島の上では、ムウがやや有利な戦いを展開していた。3連装ミサイルは撃ち尽くし、ライフルとサーベルしか武装のないブリッツと、損害軽微なストライク二号機。

 

 

 

 

 

「ここで二機とも落とす!!」

 

 

 

クローを展開し、突撃を仕掛けるフィオナは、ムウに狙い目を絞った。

 

 

 

「あのアンカーが来るのか!? 同じ手をそう何度も!!」

 

 

 

「ムウさん下がって!!」

 

 

 

 

 

アレの対処法はキラが知っている。

 

 

 

――――ノーモーションには、ノーモーションのオプションだ!!

 

 

 

ムウのストライクを庇うように躍り出たキラは、IWSPに搭載されている単装砲を乱射するのだ。ここで必要なのは正確な射撃ではなく弾幕を張ること。

 

 

 

しかも、冷静さをなくしている相手だ。

 

 

 

「きゃあぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

強力な実弾兵器を至近距離で食らったフィオナは衝撃に悲鳴を上げる。そして彼女の機体も衝撃に悲鳴を上げる。フレームがゆがむということはなかったが、きしむような音がフィオナの耳に響いた。

 

 

 

フィオナのゲイツが傷つけられた。しかも、ほぼコックピットの真横への部位と、右マニピュレーターを破損した機体状況。

 

 

 

 

 

誰が見ても、もう戦闘は行えず、フィオナが危険に陥る状況であることは間違いない。

 

 

両者の力関係は、低軌道戦線ですべてが変わった。迷いを完全に喪失したキラは、フィオナすら圧倒する実力を手に入れた。そしてその力は単独戦闘で単騎のアスランを死に至らしめるほどのものであり、ザフト軍にストライクは単独で仕留めきれないという事実を突きつけるものだった。

 

 

「キラぁァァァ!!!! もうそんな好き勝手させるものかぁぁ!!!!」

 

そこへ、フィオナの危機にはせ参じるアスラン。とどめを刺そうとレールガンを構えていたキラに直上からライフルで攻撃してきたのだ。

 

アスランも自覚している。もはや、単独でキラに勝てる時期は終わっている。自分たちが生き残るには、残存する僚機で追い込むしか方法はない。

 

 

「くっ、アスラン!!」

 

 

 

攻撃を受けることも出来ず、キラは後退するしかない。

 

 

 

「ここで俺が――――」

 

 

アスランは極限の状態で決意する。否、その選択を強いられた。圧倒的な死を招くキラという存在を前に、生存本能が突き動かされたのか。

 

 

「――――お前を倒す!!」

憎しみや悲しみではない。純粋な生存の危機から、アスランはその才能を目覚めさせたのだ。

 

 

アスランの方も思考が鮮明になっていく感覚がやってきた。火事場の馬鹿力に近いSEEDの力。

 

 

「やらせるものかぁ!!!」

しかし、アスランの気迫にひるむことなくキラも応戦。雄たけびを上げながら、イージスを睨みつけ、その命を奪うべく激しく動く。

 

 

「おぉぉぉぉぉ!!!!」

一方のアスランも、フィオナを守る為に踏みとどまる。次々と僚機を死なせてしまった自責の念から、もうこれ以上の失敗は許されない。

 

 

両者激しく切り結び合う。縦で相手のサーベルを防ぎながら、いかにして相手を殺すか。それしか考えていない両者の苛烈な攻撃がぶつかり合う。

 

 

 

 

 

「キラ――――くっそ、もうこれ以上は持たないか――――っ!?」

 

 

 

後退を頭に入れていたムウだが、その瞬間、機体が動かない。何かにぶつかった感覚だけがムウには感じられた。

 

 

 

 

 

「なっ――――嘘、だろ―――――」

 

 

 

赤いストライクの後ろから姿を現したのは、ニコルの乗るブリッツだった。ストライク二号機の左胸に生える桃色の光。それは間違いなく、ブリッツから出ているサーベルの光だった。

 

 

 

ミラージュコロイドによる隠密機動からの一撃必殺。ブリッツの真価が発揮された瞬間だった。

 

 

「俺が――――ここで――――」

 

 

 

信じられないといった表情で、徐々に機体がパワーダウンしていく状態に、衝撃を覚えているムウ。

 

 

 

「やりましたよ、アスラン―――――私――――」

 

 

 

小さいスパークを出す赤いストライクを見て、ニコルは万感の思いを秘め、つぶやいたのだ。

 

 

 

 

その時、アークエンジェルのブリッジでは凶報が流れていた。

 

 

 

「ストライク二号機、ロスト―――――」

 

パル曹長の呆然とした表情とともに、その受け入れたくない事実が流れる。

 

 

 

「フラガ、大尉? うそ、うそでしょ……?」

 

 

 

ショックを受けるマリューがパルを見つめたまま、動かない。

 

 

 

「――――バカな、戦況は有利だったはずだ!! もっと確認しろ!!」

 

ナタルが吠えるようにパルに再度確認を促す。が、パルは首を横に振るだけだった。

 

 

 

「――――通信途絶状態のままです。撃墜、「そんなはずないわ!! そんなはず――――」艦長――――」

 

 

 

パルの言葉を遮るように、マリューが叫ぶが、現実は変わらない。

 

「嘘ッ、 嘘よっ!! 返事をしてぇ!! ムウゥゥゥゥ!!!!!」

 

 

ムウがやられたのだ。

 

 

「エリク機! 出られるか!!」

半狂乱になったマリューに変わり、指示を飛ばすナタル。このまま何もしないでいれば、機動部隊が全滅しかねない。

 

「無理ですって!! 今出てもあまり持ちませんぜ!!」

 

マードック曹長の非常な現実にナタルは唇をかむ。

 

こうしている間も、キラは最悪でも3対1を強いられているのだから。

 

孤島での死闘は尚も続いていた。

 

 

 

「アスラン下がって!! 私が回り込みます!!」

 

 

 

「ハァァァァ!!!!」

 

 

 

「ここで終わらせる!!」

 

 

 

キラの絶技、サーベル斬りがここで発動。イージスのサーベル発生装置を切断。そのまま盾でイージスを殴りつけ、さらに片腕をサーベルで切りつけたのだ。

 

 

 

「うわ!!」

 

 

 

アスランもその絶技からの連続攻撃に対応こそしたが、片腕のサーベルを機能不全に陥らせた彼は間違いなく強敵だと悟る。

 

 

 

しかしキラが狙っているのはアスランのイージスではない。

 

 

 

「そこをどけ、アスラァァァァン!!」

 

 

 

アスランの後方にクローを構えているゲイツしか見ていない。キラは、アルベルトを殺した奴にしか興味がなかった。

 

 

 

「ニコル! お前は船の方をやれ!! 今なら丸腰だ!!」

 

 

 

「了解しました! アスランも上手く立ち回ってください!」

 

 

 

ニコルはそういうと、ディアッカが乗っていたグゥルを誘導し、アークエンジェルに追撃を仕掛ける。

 

 

 

「ああ、こいつは俺がやる!! フィオナは後退しろ!!」

 

 

 

「できません!! 2対1なら!!」

 

中破寸前の機体状況でも、果敢にストライクに挑むフィオナ。

 

 

 

 

 

「はぁぁ!!!」

 

単装砲での乱射から突撃を繰り返すキラ。PS装甲といえど、エネルギーは無限ではない。イージスに衝撃を与えつつ、パワーを削り取ればイージスは無力化できる。

 

 

 

あの新型を倒すことが出来ると。

 

 

 

 

 

「アスラン!!」

 

 

 

彼の後方からフィオナが突撃する。その動きを察したアスランはストライクとの切り合いを突如としてやめ、急上昇を選択する。

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

アスランの飛び上がった場所、その奥から新型が切りつけてくるのが見えた。キラは、その攻撃を単装砲で足止めをするのだが、盾を前に押し出しながら防ぐ。

 

 

 

「だったらッ!!」

 

 

 

キラは躊躇いもせず、スラスターを全開にする。あちらがその気ならこちらはその全てで叩き潰すだけだと。

 

 

 

「えっ!? あうっ!!」

 

 

 

ストライクがこちらと同じように盾で突撃をやってくるとは考えていなかったフィオナ。予期せぬ衝撃に一瞬だけ意識を飛ばされた。

 

 

 

「フィオナっ!!」

 

 

 

上空に飛び上がったアスランが、とどめを刺そうとフィオナに迫るストライクにバルカンで牽制しつつ、両足のサーベルで飛び膝蹴りの要領で斬りかかる。

 

 

 

「っ!!」

 

 

 

その一撃目の斬撃を屈んで避け、二撃目は盾で防ぐキラ。そしてキラもやられてばかりではない。

 

 

 

至近距離からのレールガンの一撃がイージスに迫る。

 

 

 

だが、今目の前にいるのはいつものアスランではない。生きることに執着し、手段を択ばない強敵なのだ。

 

 

 

「なっ!?」

 

 

 

キラが驚愕する。ほぼ近距離での一撃をアスランは回避したのだ。それどころか―――――

 

 

 

 

 

「もう誰も、俺の仲間は殺させない!! たとえお前であろうと!!」

 

 

 

クルリとまるでダンスをするのか様に弾頭を避けたイージスが、ストライクに反撃の一撃を与える。

 

 

 

「ここで、俺がお前を討つッ!!」

 

 

 

鬼気迫る闘志を身に纏い、赤の騎士の進撃は止まらない。キラはアスランの気迫に徐々に気おされていく。

 

 

 

サーベルの猛攻に耐える時間帯が増えていくストライク。

 

 

 

 

 

「――――ッ!! なんなんだッ、なんでッ!!」

 

アスランが抱えているものが分からない。キラはイライラが募るばかりだった。

 

 

ともに犠牲を払いつつ、決着の時が近づいている。その先に待っているものは何か。

 

 

 

彼らはその代償を支払うことになる。

 




さて、誰が正常なまま、生き残れるのか・・・・

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