機動戦士ガンダムSEED 理想の従者 作:傍観者改め、介入者
エリクは無念のエネルギー切れ。ムウはシグナルロスト。アルベルトも撃墜された。
残るMS部隊はキラ一人だけだった。そして彼はアスランとフィオナを相手に互角以上の力を示す。
まさに鬼神の如き力。赤い彗星不在の中、彼はアークエンジェルの柱だった。
そんな死闘が行われている中、ニコルは単騎でアークエンジェルに仕掛けていた。
「あの船さえ落とせば――――」
しかし、アークエンジェルは尚も健在。上空を移動している。
「わっ!!」
強力な弾幕につかまったニコル。イーゲルシュテルンのシャワーを浴びるニコルはその場から動けない。
「このままじゃ―――」
やられると判断したニコルは、何とか機体を後退させようとするが、
「照準、マニュアルで寄こせ!」
機体を動かすことが出来ず、CICに座っているエリクが、ゴットフリートの照準を渡すよう吠える。
そして――――
「きゃぁあぁぁあ!!!!」
こちらにまっすぐ向かってくる大出力ビーム砲がニコルのブリッツに直撃したのだ。右腕の盾ごとマニピュレーターを溶解させられ、ブリッツは直撃の余波で吹き飛ばされる。
轟音とともにブリッツは大地にたたきつけられ、その漆黒の色合いも灰色の力なき姿へと変化する。
「――――――あぁ……アス……ラン………」
その衝撃でニコルは頭部を強打し、意識を失ってしまったのだった。
互いに戦力を消耗し、犠牲となるものが増えていく。アルベルトが死に、ディアッカが、ドリスが、そしてムウが散っていく。
「っ。みんなは!? みんなどこなの!?」
大破した機体の中で目を覚ましたニーナは、必死に呼びかける。動けなくなった自分が目覚めるまで、何が起きているのかを把握するために。
「嘘よ……そんなの嘘ッ!! 応答してください!! 先輩ッ!! ディアッカさん!! ドリスさん!! ニコルさん!!」
今のアスランたちには知る由もないことだった。
次々とお互いの戦力が消えていく中、アスランはここである決断をすることになる。
イージスは損害軽微とはいえ、長期戦になれば厳しい。フィオナのゲイツに至っては、もはや動けているだけでも上出来と思われるような損害状況だ。
「フィオナ、君は先に帰投するんだ。その機体状況では厳しい」
――――このまま、彼女まで失うわけにはいかない。
せめて彼女だけでも、彼女だけでも生き残ってほしいという、どこまでも他人に甘いアスランらしい言葉。
「で、でも!!」
食い下がるフィオナを制するようにアスランが諭す。
「俺は、他でもない。フィオナがもう悲しまなくていい世界であってほしいと願ったから」
そうだ。ザフト軍兵士アスランの始まりは、それだった。
ザフトのために、プラントのために、という大義が先に出てきたわけではない。
目の前の女の子の笑顔を、その未来を守りたいと思ったことが、アスランの原点だった。
「だから、フィオナには生きてほしいんだ」
泣き腫らしている顔をモニターから見ながら、アスランは彼女に微笑んだ。
だが、憎しみに身を任せた親友はアスランを待たない。
「―――――そんな機体状況で、余裕を持つなんてぇぇぇ!!」
攻撃が緩んだことで、手を抜かれたと勘違いしたキラは、苛烈な攻撃を繰り出す。
袈裟斬りからの回し蹴りを食らい、よろめくイージスだが屈さない。二本の足で力強くその攻撃を受け止め、盾の名を冠する機体は屈することを知らない。
――――どうしてだろう
アスランは不思議な気持だった。劣勢で、苛烈な動きを見せる親友相手に追い込まれている状況で、なぜか焦りを感じなかった。
――――悪いな、キラ。
アスランには、確信にも似た予感が渦巻いていた。
―――――今のお前には、負ける気がしない。
何処までも力が湧いてくる。何が何でもやるのだという気持ちが強くなる。この気持ちは何なのだろう。こんな気持ちになったのは初めてだった。
ならば叫ぼう。力のある限り叫ぼう。
「だから、君は生きるんだッ、フィオナっ」
アスラン・ザラの願いは、至極単純で、万国共通、世界最強の理由だった。
「俺は死なないッ!! 必ず、君の傍に戻る!! だからッ!!」
絶対に生き残る。その強い決意が、アスランにさらなる力を与える。
踏み込まれたことに激昂したキラは、尚も苛烈な攻撃を仕掛ける。形容しがたい感情がキラを支配する。目の前の親友は何か違うモノを見ている。それが分からないことが、酷く苛立たしい。
「アス゛ラァァ゛ァ゛ッンゥゥ゛ゥッ!!」
よろめいた姿勢を逆に利用し、バックステップしながらの後退。イージスに生まれた致命的な隙を見逃すはずがなく、キラはアスランを殺すべく猛追する。
「―――――お前のその動きも、俺の―――――ッ」
キラの獣の如き動きを見て、悲しい気持ちになるアスラン。彼をここまで憎しみの権化にしてしまったのは自分だ。その罪は受けよう。
だが、ここで死ぬわけにはいかない。サーベルの連撃を盾で防ぎながら、アスランは叫ぶ。
「だが、俺の命は、俺一人のモノではない!!!」
苛烈な攻撃は単純になりやすい。リズムよく殴るような攻撃だったストライクの横薙ぎの一撃を盾で逸らしたアスランは、機体を上昇させ、飛び蹴りをストライクに叩き込んだ。
約束したのだ、誓ったのだ。彼女の未来を守ると。
「ぐっ!?」
不意を衝かれた反撃の一撃。キラは衝撃に揺らされ、機体とともに一瞬よろめいた。
それが、この死闘の明暗を分かつ瞬間になる。
同時にモビルアーマー形態への瞬時変形による、スキュラの一撃。
その一撃が、戦闘を優位に進めていたストライクに致命的な手傷を負わせることになったのだ。
「なっ!?」
コックピットはそれたものの、右腕を完全に喪失してしまったストライク。しかも衝撃で転倒するというおまけつき。
たまらず距離を取るキラ。この機体状況では不利なことは明白だ。怒り狂うキラにでもわかるほどに致命的なのだ。
「くっ!」
しかしアスランも無事では済まない。急な姿勢制御をしてしまったイージスも地面に激突。アスランにも強烈な衝撃が襲う。
「アスランッ!! こいつさえ落とせばッ!!」
よろよろと立ち上がるストライクにとどめを刺さんとフィオナが斬りかかるが――――
「邪魔をするなァァァ!!!」
もはや獣の如き動きでフィオナの一撃を左マニピュレーターで上に逸らし、蹴りによって歪んだフレームにさらに一撃を与えるキラ。
「かはっ……」
万全でも失神を誘発させかねない一撃が、不完全な装甲の上からたたきこまれた。この衝撃にフィオナは意識を奪われ、フィオナのゲイツは完全に沈黙した。
「フィオナっ!? バイタルは―――――無事かッ」
イージスのメインカメラから剥き出しになったコックピットに無傷でいるフィオナを視認したアスラン。気絶しているだけでまず安心したのだが、気が触れたかのように暴れまわる親友を止めなければ危険であるままだ。
「―――――キラ、お前は――――だがそれでもッ――――」
ヘリオポリスにいた親友をここまで歩ませてしまったのは、紛れもなくプラントのせいだ。
だが、アスランにも譲れないものがある。守らなければならないものが出来た。そして今、その繰り返される自問自答の中で、アスランは遂に悟る。
――――そうか、俺は―――――
「アァァスラァァァァンっっ!!!!」
「俺は、あいつと一緒に生きる……生きたい……ッ!!」
叫び声を上げながら襲い掛かってくるキラを前に、どこまでも平坦な声で誰に語るまでもなくつぶやくアスラン。
アスランも駆ける。これが恐らく最後の攻防だ。
「――――――死ねないッ、俺は、死ねないんだッ!!」
斬撃の応酬が、互いの機体を傷つけあう。
「ッ!!」
襲い掛かる攻撃をいなすだけでいいアスラン。片腕だけで振り回す斬撃をシールドでいなしながら、アスランはその機を待つ。
「おぉぉぉぉ!!!!」
一際大きなモーションから繰り出された一撃をシールドで受け止め、一気にスラスターを吹かせたアスラン。単調になっていたキラの攻撃を予測し、致命的な決定機でカウンターを仕掛けたのだ。
「!?」
不意を衝かれたストライクに乗るキラが後退する。これはさすがに不味いと彼も判断したのか、距離を取る。
「――――恨むなら、俺だけを呪え、呪ってくれ……ッ!」
まるで懇願するかのように、今まさに命を刈り取る相手につぶやく赤い騎士。今からその命を、仇敵の命を刈り取るのだが、それは自分にとって一番の親友であり、それはこれから先一生変わらない。
「くっそぉぉぉ!!!!」
この致命的なストライクの隙をモノにするのか、それともストライクがまだ粘るのか。
体勢が崩れた後に後退したストライクと、前進しながら追撃を仕掛けるアスラン。
どちらが速いのかは、語るに及ばず。
「―――――お前は……俺の………ッ」
その無防備なストライクのコックピットに迫るサーベルを突き出しながら、アスランの脳裏で、そんな言葉がよぎった。
そして、白と赤の機体は眠るように灰色の色へと変化し、最後の攻防が終わった。
「え―――――」
キラは体に強い衝撃を覚えた。そして機体と自分の体が思うように動かない。
寸前でイージスのサーベルは消失し、互いのエネルギーがダウンした。だというのに、ストライクの動力が完全に死んだ。
そして、フレームの亀裂から見えるイージスの姿を目視で確認できてしまっていた。
――――なんで、僕は――――――
視界も歪み、何も見えない。腕が上手く動かない。体が痛い。全身を刺すような、愚鈍な痛みと、徐々に体温がなくなっていく感覚。
その事実を認識したキラは、自分の置かれている状況を悟る。
―――――そっか、僕は、負けたのか……
キラは動かせる体の個所を動かしてみた。やはり動く。しかし、右半分の景色が見えない。
ストライクのPS装甲がダウンし、イージスも寸前で装甲がダウンし、その拳だけでストライクに致命傷を与えたということだ。
サーベルの一撃で消し去られるのではなく、拳で半ば押しつぶされてしまう寸前だったキラは、嘆息する。
そして、自分が敗北した原因をようやく理解した。
―――――アスランは、あの子を守って―――――僕には―――――
互いに機体に動く力はなく、イージスのコックピットが開く。霞む視界の中で、それだけが分かった。
―――――強い、はずだ――――ね……
アスランには、大切な人がいた。自分には、そんな存在がいなかった。たったそれだけの違いが、両者に違いを齎したのだ。
ゆっくりと近づいてくる足音。誰がそこに来るかはわかっている。
その足音が、いったん止まる。
「―――――――――ッ」
息を呑む音、そして動悸が激しくなっているかのような、荒い息遣い――――
そして、ヘリオポリスではもう聞くことがなくなっていた淪波の音のみが聞こえる。
「―――――強い、ね。アスラン、は―――――」
自分を打ち負かした相手であるアスランに、なぜそんな言葉をつぶやくのだろう。
「キラ―――ッ」
アスランは彼の名前以外のことを何も言わない。重症を負い、凄惨な姿に成り果てた親友を前に、返す言葉がない。しかし、彼の眼だけは親友の姿から視線をそらさない。
―――――なんで、そんなに悲しむのかな?
彼は宿願を果たした。彼は生き残ることが出来た。なのに、まるで敗者のように涙していた。
「―――――俺の罪が、俺の弱さが、お前を傷つけたんだ……」
絞り出すような声から出てきたのは、アスランの強さを全否定するような言葉だった。
「なに、それ……」
苦笑いしか出てこない。痛みは引いた。感覚はもはやない。視界はもうアスランを見ることが、確認することが出来ない。
――――出てくる言葉が、それ、なんだね……
何処までも優しいアスランのままだった。あのころと変わらない、自分がイメージしていた通りの彼だった。
――――アスランは、変わらなかった。
アスラン・ザラは、この戦争でもその当たり前にあったはずの感情を失わずに済んでいた。きっと、彼には心から信頼できる仲間が、
――――アスランは、僕の知っている、アスランだった。
大切な人がいて、その大切な人を守り切ることが出来たから――――――狂わずに済んだのだろう
守るものすらなく、戦い続けた自分よりも、重い覚悟を背負っていただけなのだ。
「―――――き――――は、勝った――――よ、ア――――ン」
もはや掠れるような声で、アスランにも聞き取れない。
「せん――――――だか―――――し―――――――い」
はっきりと聞こえてしまった。そこからのキラの掠れた言葉をはっきりと聞いてしまったアスランは、
「俺は――――ッ!! 俺はッ!!! 俺は―――――ッ!!」
声を震わせ、懺悔するように崩れ落ちるアスラン。
「だ―――――ぼ――――ぶん―――――で、」
――――違う、俺はッ お前の恨み言を聞かなければならなかったんだ!!!
断じて、今聞いているような言葉ではない。
平穏な日常を送っていた親友を戦渦に巻き込んだのは自分だ。
プラントを憎むようになったのは、自分のせいだ。
彼の大切なものを、尊い平和を壊したのは自分だ。
断じて、自分はこんな言葉をキラからもらう資格などない。
「―――――――――――――――――――――――――――」
その最後の言葉を紡いで、キラはまるで救われたかのように穏やかな表情となり、意識を失った。
「――――――俺は、こんな光景を見るために、戦ってきたのか」
アスランの絶望が広がる。戦争拡大を謳う両勢力への懐疑が、より一層深くなる。
「俺は、キラを殺すためにここにいるのか?」
「フィオナにも、恐ろしい目に遭わせてしまった」
親友を傷つけてしまった。親友の日常を奪い、こんなところに引きずりこんでしまった。
なにより、守りたいと思った存在が、戦士になってしまった。
そして、この戦闘の果てに、どれだけの仲間を失ってしまったのか。今回の戦闘だけではない。自分にかかわったせいで、多くの同胞が死に絶えた。
死んでいった者たちに、どう償えばいい?
それだけの理由を、今の自分は持ち合わせているのか。誇れるだけの理由が何一つ存在しない今の自分は、彼らに何を誇れるというのか。
「俺は、何のために――――――」
全てに絶望したアスランは、気が触れたかのように悲鳴を上げる。今まで張り詰めたものが決壊し、彼は溢れる感情を抑えることが出来ない。
「あぁ……あぁ゛ぁ゛ぁッ゛ぁぁッぁ゛ぁッあ゛ぁぁぁ!!!!!!
もう何も、考えたくなかった。生きたいと思う気力すら、消え失せた。言葉にならない叫び声を上げながら、アスランは絶叫する。
「なぜだぁ゛ぁぁ゛ぁぁ゛ッぁ!!!! なんでだぁぁ゛ッぁ゛ぁッぁッぁぁ!!!!」
――――なぜ世界はこうも理不尽なのだ
どうして世界は奪うばかりで、彼女らの大切なものが失われていくのか。世界はもう、終わりなのか。血で血を洗う闘争の果てに、絶望しか広がらないのか。
————なのに、俺はどうして正気なのだ? こんな世界で、俺はなぜ————ッ
それでも、彼は彼に狂うことを許さなかった。
――――助けてくれ――――ッ、救ってくれッ、こんなバカげた世界を
それでも、彼は世界を見捨てる気持ちにはなれなかった。フィオナと巡り合い、ニコルに支えられてきた。
何より、目の前で倒れているキラと、親友になれた世界なのだ。それは、アスランにとって大切で、失いたくない記憶であり、宝物だった。
これ以上、その宝物を失いたくなかった。これ以上壊したくなかった。
――――こんなに苦しいのに、なぜおれは理性を保ったままなんだ―――――
ダイヤモンドよりも固く、理性を失わせないと縛る、アスラン・ザラの理性が、アスラン・ザラであることを強いるのだった。
—————俺は、身近な平和を守っていたのではない……
絶望し、一回り感情が壊されたアスランだからこそ、その答えに行きつく。
————俺もまた、誰かの日常を壊していただけだったのか
最後に想った答えが脳裏をよぎり、アスランは考えることを止めた。
一方、アークエンジェルでは焦燥しきった空気が蔓延していた。
すでにブリッツは鹵獲し、バスターと特機仕様のシグー、新型は撃墜し、新型も撃破。残るはもうイージスのみ。
しかし、ムウのM.I.A、アルベルトの戦死という重い事実が彼らの感情を揺さぶる。
だが、連合の最新鋭機動兵器であるストライクとキラならば、どんな敵にも勝利できる。
そんな空気がアークエンジェルの中にあった。
しかし、彼らはその時まで知らない。その数分後にストライクのシグナルがロストしたことを知らないのだ。
その衝撃を前に、彼らは―――――――
ブリッジは凍り付いていた。あの最強クラスの力を誇っていたストライクが落とされた。
「ストライク、ロスト―――――」
パル曹長が呆然とした表情で、シグナルが途絶した画面を見て一同に報告する。
「バカな――――もっとよく探せ!! Nジャマーの影響で通信が悪いのではないのか!?」
「ブロードウェイ中尉を再度出撃させて!! もっとよく――――」
ナタルもマリューも、キラがやられたことでその顔が凍り付いていた。年若い若者が死ぬことに慣れているわけではない。乗り越えなければいけない時がやってくると悟っている。
ムウが死んでしばらく何も言えない状況だったが、泣き叫ぶような声で命令を飛ばす。
しかし、その事実は彼女らの暗い影を落としていた。
「六時方向、距離イエロー400! 多数のMSが接近中!!」
しかしここで敵の増援。ザフト軍にとってアークエンジェルは死神のような存在だった。だからこそ、ここで何としてでも倒す。
ザラ隊の他のメンバーたちが独断で、今も戦い続けていた仲間を救うため、増援を引き連れてきたのだ。
対するアークエンジェルはブロードウェイ中尉のデュエルが間もなく補給を完了するものの、他に残されているのは鹵獲したジンが数機のみ。
パイロットもエリクだけで、予備パイロットのサイをこんな局面で出すわけにはいかない。
「―――――踏ん張れというなら、出撃するぞ、艦長!!」
エリクが迷う艦長たちに進言する。ここでキラを助けに行きたいんだろうと。
しかし、確認された機影は10機。確かにエリクならばなんとかしてくれるかもしれない。しかしそれでも、これ以上被害をこうむればまた犠牲者が出るかもしれない。
隣では、指示を待つナタルと、クルーの視線が集まっていた。ここを離脱するべきではないかという視線と、今まで借りを作りっぱなしだったキラを助けるんだという多数の視線。
ナタルもいつもの冷静な離脱という意見と、キラを助けるべきではないかという本音の間で、揺れ動いていた。
その様子を見たマリューはほんの数秒だけ瞼を強く閉じた。そして―――――
「――――ストライクが最後に確認された座標をオーブに送って。それと、アークエンジェルは現宙域を離脱します。」
モニターに映るディンを睨みつけながら、マリューは指示を飛ばす。
「!?」
操舵手のサイはその際に彼女の顔を見て息を呑んだ。今まで見たことがない顔だった。
「―――――了解しました」
そして、隣のナタルは何も見なかったかのように指示に従うのだった。
マリューは、ここで今生きているクルーの命を優先した。そして非情な決断を下したマリューを支えるために、ナタルもいち早くその指示を全うするべきと判断したのだ。
ナタルは安心していた。ムウを失っても冷静な判断が出来ている彼女を見て安心してしまっていた。
「――――っ、了解」
CICのチャンドラもキラの無事を願いつつ、この現状ではどうにもならないと険しい表情を浮かべていた。
アークエンジェルは、因縁の部隊との決着をつけることに成功した。しかし、キラは行方不明という代償を負うことになってしまった。
というより、ストライクとキラは3対1という状況でも戦い続け、すべての敵を撃退した。
間違いなく彼はエースだった。
そんなエースを失い、悲しみとともに彼らは戦場を去ることしかできなかった。
一方、仲間の捜索に出向いているニーナは、必死にディアッカとドリスを探していた。
アルベルトに撃墜されたと思われていたニーナは、致命傷を避ける形で生存していた。さらに運よく通信機器関連のみが生きていたため、応援を呼ぶことが可能だった。
だからこそ、彼女の声に応える形でみんながアスランたちを探している。
「お願い、お願いだからッ―――――」
クルーゼ隊長の後を任された自分たちは、仲間をたくさん死なせてしまった。自分の不用意な接近でバランスが崩れてしまった。
アークエンジェルへの憎しみではなく、自分のふがいなさに憤りを隠せない彼女は、せめて彼らだけでもと考えていた。
「ディアッカたちの機体がない!? なんで!?」
そして報告では、近海にはバスターとシグーディープアームズの機体が確認されなかったという。アークエンジェルには機体を鹵獲する余裕はなかったはずだ。
そして、オーブ艦隊も近くには存在せず、オーブもかかわりがないということもわかっている。
だとするなら、二人は一体どこへ消えたというのか。
「フィオナと隊長は!? ニコルさんは!? みんなの機体はどこなの!?」
ニコルとは戦闘中から通信が途絶していた。だからこそ、最悪の状況を既に予期していた。ニコルは倒されてしまったのだと。
そしてストライクと交戦していたフィオナとアスランも機体を失った。
そして、おそらくキラと殺し合い、戦闘が終わったということはわかる。
親友であるフィオナと、彼女の想い人であるアスラン。彼を支える良きパートナーであるニコルや、他の仲間が死んでしまった。
そんな事実を考えると、気が触れてしまいそうだ。
「ニーナちゃん! オーブ艦隊が接近しているぞ! ここは排他的経済水域圏が近い場所だ!! これ以上は―――――」
その報告を聞き、ニーナは唇をかみしめる。
――――ここで、仲間を見捨てて、去らなければならないの!?
「オーブ艦隊から熱源が射出! この大きさは、モビルスーツです!!」
「なんですって!? オーブ軍の!?」
ザフト軍の間では動揺が広がる。モビルスーツというアドバンテージが完全に失われた瞬間だった。アークエンジェルにのみ運用されていたモビルスーツが、オーブという第三勢力とはいえ、運用が開始されている事実。
これはザフトにとっては大きな事柄だった。その瞬間はまさしく、ザフトの優位性が失われた場面でもあったのだから。
「空域を飛行中のザフト軍に告ぐ。ただちに現宙域を離脱せよ。こちらは領空圏に接近しつつある貴殿らに対し、攻撃の許可を与えられている」
オーブ軍の新型モビルスーツ、M1アストレイ。その先行量産型に乗るのは、リオン・フラガ。
「たかがモビルスーツを持ち合わせただけで――――ッ!!」
部下がモビルスーツを揃えたことで対等と考えているオーブに対し、憤りをあらわにするが、ニーナはあのプレッシャーを覚えていた。
――――間違いない。あの落ち着き様、あの雰囲気。彼が赤い彗星
「警告は三度までだ。受け入れられないようなら排除する」
そして、リオンの後ろにはM1アストレイに乗っているアサギら三人娘とトールの姿も。
「フラガ隊長、その―――そんなに高圧的でいいんですか?」
アサギは、強気の姿勢を崩さない彼の様子に不安を覚える。もしザフトが襲い掛かってきあたらどうするのかと。
「構わない。あちらの指揮官は優秀だからな。ここで動けば、本国の首を絞めるということを理解している」
リオンはアークエンジェルを匿った際に何もしてこなかった部隊の動きを見て、冷静さを失わない指揮官があちらにいると考えていた。
ゆえに、リオンは吹っ掛けるような物言いでザフトをすぐに追い払いたかったのだ。
「――――わかり、ました」
ニーナにはもはやどうすることもできない。このまま戦えば、自分たちは全滅する。自分のためにここまで来てくれた仲間を見殺しにするほど、彼女も愚かではない。
「けど、連合に媚びを売った結果がそのモビルスーツなのね、卑怯者」
ニーナも言われっぱなしでは我慢ならないらしく、中立の立場を使い、モビルスーツまで作り上げたオーブに恨み言を言った。
「それが我々の生きる道と信じているからこそ、我々は行動する。そちらに信念があるように、我々にも曲げられない信念というものがある」
「―――――っ」
そのリオンの物言いに対し、ニーナは黙ったまま仲間に帰投の指示を飛ばし、自分も現空域を去っていった。
「――――諸君。すぐにストライクを捜索するぞ。キラ・ヤマトは連合に渡してはならない人材だ」
リオンはキラの安否がどうであろうと、アークエンジェルには見つけられなかったという報告をするつもりだった。
あれほどの人材を手放すわけにはいかない。連合ではコーディネイターに対しての扱いはよいものとは言えない。ならば、ある程度理解のあるオーブでその力を発揮してほしいというのがリオンの考えだ。
そして一同は、ストライクと敵の機体と思われる残骸を発見したのだった。
「―――――キラがそんな―――負けたなんて」
トールがぼろぼろになったストライクを見て、信じられないことだとつぶやいた。
「なるほど、イージスのパイロットか」
彼がキラを撃破したことは、何ら不思議ではない。自分も手を焼く時がある相手だ。爆発的な力を備え、一時的にリオンを焦られた実力者。キラでも危ない。
機体から降りたリオン達は、まずストライクのコックピット部分を調べていた。そしてそこには、キラ・ヤマトが意識を失った状態で発見された。
「―――――負傷者を運べ。そして、」
その近くで、眠るように意識を失っているザフト軍兵士を発見したリオンは、一目で彼をイージスのパイロットと悟る。
―――――なるほど、やはり甘い奴だったか。
敵の目の前で意識を失う愚行。そんな間抜けを冒すとは、とリオンは思う。
トールは怪我を負いながらも生きているキラに抱き着き、涙を流してその生存を喜んでいた。
―――――キラ・ヤマトを抱き込むのに、トールは使える。
とんだ掘り出し物だ。数年後にはエース格に成長できるばかりか、エースクラスを引き入れることも可能だ。
何より、カガリの傍にいて好ましい人材だ。
「フラガ特尉。その横には新型らしき機影も」
部下の一人からの報告を受けたリオンは、その付近へと移動する。
その途中、
「―――――フラガ特尉。付近の民間人の報告では、周辺に艦艇らしき影ありとの情報が」
下士官の一人がリオンに報告する。
「――――その一団の特徴は?」
「我々が開発したアストレイに酷似した赤い機体と小型飛行艇です。その後はわかりません」
「―――――サハクもやるからには上手くやれと言いたいものだ。オーブ以外の者にわたっているではないか」
アストレイの雛型ともいえるフレームシリーズ。赤い機体は、ミナの報告ではとあるジャンク屋が所持しているらしい。
そして、暗部を使った捜索の結果、傭兵と呼ばれる一団にブルーフレームを運用されていることも調べ上げている。
「――――フレームシリーズを所持している一団に対して、今後はどうなさるつもりですか?」
ここで、ジュリがリオンにその一団の処遇について尋ねる。リオンの物言いでは、まるで彼らを邪魔者とみなしていると考えている、そんな思惑を感じ取っていた。
「――――そうだな。所詮は小勢力にも届かない規模だ。フレームシリーズの性能は良いものではあるが、そこまでの機体ではない」
現在開発中の可変MSや、局地戦闘を想定したMSのほうが今後は活躍する。汎用機は主力MSとしては優秀だが、今のアストレイは繋ぎでしかない。
「見逃す、そういうことですか?」
鋭い視線で、リオンの言葉に集中するジュリ。彼女は恐らく、赤いフレームを所持する集団と密接なつながりがあると見える。
リオンはあえてジャンク屋のことをやり玉に挙げていた。もちろん彼らのことは人づてではあるが知っている。
――――素直にジャンク屋だけをやっていればいいものを。
アストレイを持っている限り、戦いから逃れられないというのに。アレをお宝と思う連中の気が知れない。
あれは兵器だ。今後新たな運用方法が生まれると予想できても、今は兵器なのだ。持っていれば人を簡単に殺し、町を破壊する兵器なのだ。
高跳びするぐらいの資金を渡すのはどうということもないし、それで機体を返却してくれるなら構わない。
「無論、オーブの機密を盗んでいるという大義名分はある。彼らがオーブに来るというなら何もしないが、敵対するのなら排除対象だ」
そしてオーブ軍の建前としては、その大義名分で彼らを討つ理由も簡単に作れる。傭兵の方は今までの敵とは違うようだが、倒せない敵ではない。
「―――――」
「現状、彼らはオーブに利益を与えてくれた。それは君たちの訓練、これまでの戦闘データと、能動的に倒すべき存在ではないな」
「―――――そう、ですか」
しかし、尚も彼女の表情はすぐれない。こうして敵ではないといったにもかかわらず、まだ不安を抱えるというのか。リオンにはその理由がわからない。
「――――どうやらそれでは不満らしいな、ニェン三尉。深く問うべきことでないなら聞かないが」
「ええ、酷くどうでもいいことです」
「ちょっ、ジュリ。すいません、フラガ特尉」
アサギがフォローに入るが、気にしていないと彼女を手で制するリオン。
そうなのだ。アサギとは訓練時代、アークエンジェルも含め、交流があるから理解があるのだが、ジュリとマユラとは仲が悪いリオン。
まだ付き合が浅いからこそ彼のことを良く知らないというのもあるが、第一印象が付き合いにくい年上の男性という認識だったのも原因だ。
合理的で、非情な判断も下し、キラを戦力とみなす態度は二人にとってはあまり良いものには見えなかった。アストレイのOSを完成させてくれた恩人に対し、恩義を感じていた二人はリオンを苦手としていた。
「連合軍所属のジンの中で発見された少年もですが、頭部へのダメージが大きいですね。バイタルはまだ生きていますが、ストライクのパイロットと同様、視力を失うことになりそうです」
「—————示し合わせた様に片方の目が見えなくなるか。そんなところまで仲良くする必要はあるまいに」
元オーブ国民だった二人の少年の怪我の度合いを聞いたリオンは、悲しい気持ちになった。ゆえに、彼らをもう元オーブ国民のままにするつもりはない。
「彼らはもはや連合軍兵士には戻さない。連合軍には死亡が確認されたと伝えろ。オーブ国民として、彼らは保護する」
リオンは彼らを連合軍に渡してはやらないと決意する。もう十分彼らは努力した。ならば、上の世代がこの戦争のケジメをつけなければならない。
そして、新型に乗っていた女性パイロットを発見したオーブ軍。
「浜辺の女性――――ザフト軍兵士はどうしますか?」
「イージスの兵士の鎖になり得るはずだ。拘束しろ」
「了解」
機体に戻り、コックピットに乗り込んだリオンは、気を失っていた少女の顔を思い出す。
「——————俗物だな。俺一人いないだけで、勝てると本気で思っていたのか」
あの時の少女たちだった。偶然とは思えないし、やはり必然だったのだろう。愚直なままに突き進み、壁に跳ね返った愚か者ども。仕留めきれると、何をもって計算したのか。
怒りはない、憎しみもないとは言い切れない。しかし、リオンの心に巣食っていたのは、嘲笑だった。
「——————身の程を弁えていれば、この未来は回避されていたのだがな」
残念だ、と薄笑いを浮かべ、リオンはフィオナを見下すのだった。
生きてはいますが、アルベルト君は出番(戦闘)がもうありません。欠損が苦手な人は覚悟していてください。
キラ君も、右目を失いました。しかし、支給品次第で・・・・
ザラ隊はフィオナとアスラン、ニーナを除き、ほぼ全滅です。
しかし、アスラン発狂。フィオナも彼次第で・・・・