機動戦士ガンダムSEED 理想の従者   作:傍観者改め、介入者

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灼熱のアラスカ
第36話 信念の先へ


オーブ近海での捜索は完全に打ち切られ、ザフト軍も手を引かざるを得ない。

 

 

ザフト軍とアークエンジェルの戦闘を見ていたのは、オーブだけではなかった。

 

 

その近海周辺で何かを探していた潜水艇が、アラスカに到着したのだ。その潜水艇の所属は大西洋連邦。

 

アラスカの司令部では、アークエンジェルとザフト軍の戦闘映像が流され、さらには戦利品も奪うことに成功した。

 

「紆余曲折があったにせよ。バスターを取り戻すことが出来たのは僥倖だったな」

 

「それを言うなら、エネルギー切れのデュエルが落ちてきたときもそうだったではありませんか」

 

奪還に成功したバスターとデュエル。生存している搭乗者は現在強化人間として再調整中であり、意外と頑丈な彼らの肉体は高いレベルの薬品にも耐えられることが証明され、今後の被検体はコーディネイターのほうがいいのではないかという意見さえ出ている。

 

残念ながら、バスターと新型の搭乗者は原形をとどめていなかったが、とりあえずスペアの生体CPUを使えばいいという判断に決定している。

 

 

 

しかし、処置がまだ完全とは言えず、記憶を奪う必要が出てきたといえる。

 

「奴らの検体が一名のみとはいえ、試験部隊の上役も喜んでいたよ」

 

「ああ。今後は蒼き清浄なる世界を作る兵器として尽力してもらいたいものだ」

 

「しかし、奴らを素体にすることに反対の者たちもいる。効率を考えてほしいものだ」

 

ブルーコスモスの間でも、意見が分かれるコーディネイター強化プラン。強度的に弱い素体を使ってコストを無駄にするよりも、強度のある素体を使いたい思惑が見え隠れしている。

 

 

「ふん、まあいい。コストはいくらでもかけていい。奴らを殺す算段だからな。幸い、資金はたんまりもらっている」

 

 

しかし、最後に邪魔が入ったことは見過ごせない。

 

「オーブめ、いち早くMSを量産し、すでに実戦配備とは」

 

「奴らにこちらの存在を悟らせるわけにはいかなかったとはいえ、最後にもう一人被検体を獲得したかった」

 

孤島近くで潜伏していた連合軍は、オーブ軍の接近により、最後の一人――――

 

フィオナを捕獲できなかった。オーブの一人勝ち、甘い汁を吸う姿勢に不満を持つ軍政部は、彼らに対しあまりいい感情を抱いていない。

 

 

そしてここで、これまで沈黙を保ってきたウィリアム・サザーランド大佐が口を開いた。

 

「そうだ、いいことばかりではない。アークエンジェル。とうとうこちらまでたどり着いてしまったぞ」

 

色々と曰く付きの戦艦であり、ザフトに多大な被害を与えた部隊。幸いなのは、キラが直前でMIAになったことぐらいだろう。

 

「GATシリーズは、我々の旗頭となっていく機体だ。それをコーディネイターの子供に使われていた? 裏切り者のエリク・ブロードウェイが使っていた? それは認められんよ」

 

MSの量産体制が整い、OSも徐々にではあるが完成してきている。もはや彼は不要の存在といえる。

 

「――――アズラエルには何と?」

 

「すべてはこちらで修正すると。もはや我々に“神話”は必要ない。すべては不幸な出来事だったと。そしてこれから起こることもね」

 

連合の強化人間計画は戦後さらに加速していくことになる。

 

「それと、フラガの忘れ形見についてはどうする?」

 

「――――素養は高い数値をたたき出している。もはやフラガ家は連合から離れた存在だ。彼女らには新たな存在として生まれ変わってもらおう」

 

そして、キュアンとリオンの知らない最後の忘れ形見についてにも及んだ強化人間の計画。

 

「まだまだ処置には時間がかかるそうですがね。思いのほか抵抗が強くて。コーディネイター同様、彼女らも厄介ですな」

 

 

 

 

そして孤島での捜索を完全に打ち切ったオーブ軍はザフト軍兵士を収容し、近くの沖合で聴取を行うことになった。

 

 

「―――――――」

静かに目をあけたフィオナは、自分がベッドに寝かせられていることに気づいた。そして、ここが自分の知らない場所であることに気づき、鋭い視線で辺りを見回そうとするが、

 

「あまり動かないほうがいい。ナチュラルなら全治半年ほどの怪我なのだがね」

 

ベッドの近くには、オーブ軍の軍服に身を包んだ忌々しい金髪の青年がいた。

 

「―――――やはりオーブ軍の軍属だったのね」

 

「以前はそうではなかった。だが、君にはあまりこの問答は意味がないだろう。どうとでも捉えてくれればいい」

 

リオンはどうでもよさそうに言う。

 

「――――私をどうするつもり?」

挑発するように、フィオナはリオンに対し嘲ったような口調で尋ねる。身動きが出来ない女性がする態度ではないが、これでオーブの弱みをと今の彼女は少々自棄になっていた。

 

戦闘が終了し、改めて冷静になった頭で理解したのだ。親友であるニーナは殺され、仇を討つことも出来ず、ディアッカとドリス、ニコルはMIA。

 

憎しみに呑まれ、その心に突き動かされ、体はぼろぼろになった。虚脱感が彼女を支配していた。

 

「どうもしない。大人しくザフト軍に戻ってもらうだけだ」

 

そしてリオンも、彼女に対して情けをかける意味もない。それ以上の興味もなかったからだ。

 

「―――――私は、貴方の知り合いを殺したわ」

 

あまり動じないリオンを前にして、フィオナは言ってはならないと感じていたことを言い放つ。彼が赤い彗星であるならば、必ず反応する言葉のはずだ。

 

「―――――分からないな。戦場での君は、最後まで生きることを諦めない存在だと思っていたが、どうやら見込み違いのようだ」

 

「―――――なんですって……っ。貴方は――――っ!?」

 

馬鹿にされたような言葉を切り返され、フィオナは文句を言おうとしたのだが、傷が痛んで言葉が詰まった。

 

「――――まあいい。君の望む通り私が君に襲い掛かるとしよう。であるならば、君は既に死んだ者として扱うことになるが、そこまでは考えていなかったのかな?」

 

リオンとしては、下手な挑発など効かないと考えていたし、こうしてキラと戦闘を行った女性と話をしても、特に何も思わなかった。

 

だからこそ、敢えてそうなった場合の予想を簡単に説明した。

 

「―――――っ、最低ね。オーブ軍は気取っていても、鬼畜だったようね」

 

 

「君一人の意見はあまり関係ないのだよ。こうしてその鬼畜ぶりを知る君が何も言えなければ情報は伝わらない。もっとも、今の君はとてもつまらない」

 

そして、フィオナを追い込むことに悦に浸っていたリオンは追い打ちをかける。

 

「さらに言えば、仮に君が俺を赤い彗星だと断言し、本国へと報告するだろう。しかし、口頭での証言と、国の公式見解。どちらのウェイトが高いかは言うまでもない」

リオンの言うとおりだ。口頭での証言と紙面を通した公式見解では比較にならない。万人が信用するのは後者だろう。

 

「―――まるで悪い大人の見本のようね。貴方のようなあくどい男性は初めて見たわ」

 

「それが大人になるということだ。子供では何も守れないし、何にも届かない」

 

 

「―――――そうだな。一つ面白い話をしてやろう」

思いついたようにリオンはある話をし始める。

 

 

「この戦争で平和を謳歌していたコロニーには、子供たちがいました。彼らは健やかに成長し、未来を創る人材だった」

 

 

「しかし、ザフトの襲撃でそれは崩壊し、彼らは軍人になる。何とも救われない話だと思わないか? 憎しみの連鎖と、戦争の火種。これで拡大の原因一つが出来上がったぞ」

 

軽薄そうな口調で語りを始めるリオンにフィオナが切れた。

 

「―――――プラントもユニウスセブンですべてを失った人だっている!! 自分たちだけが失ったと思うな!!」

 

 

「ストライクのパイロットが、隊長の親友だってことも!! 全部知っているわよ!! そして、貴方は高みから私たちを見下ろして!! そんなに楽しいの!? その場所にいることが!!」

 

フィオナの感情が爆発する。ヘリオポリスでの民間人の犠牲者は皆無だ。軍属の者が死んだだけ。

 

「高い場所にいるという自覚はないのだけれどね」

 

肩をすくめ、リオンは困り顔で睨んでくるフィオナを見る。

 

 

そのしぐさ一つ一つが、フィオナとリオンの序列を決めてしまう。そして冷静さを崩さないリオンの姿が気に入らない。

 

「だが、今君がいる場所で世界を見続けて、果たして世界は救われるのか。未来があるというのかな?」

 

 

「何を―――――っ!!」

 

フィオナはすぐに反論しようとした。しかしできなかった。

 

 

――――俺たちは、いつまで戦い続けるべきなんだろうな

 

遠い目で、アスランがそんなことを言っていた。隣にいるニコルとともに。

 

 

成績は自分のほうが上だった。しかし、アスランは直前に負傷していたという経緯がある。だからこそアスランを超えたといわれても、納得はしていなかった。

 

軍人としての視点だけではなく、大局を見据え、時には決断する力もあった。

 

そんな彼が、未来について考えるたびに、頭を悩ませていた。憎しみに左右されず、常にプラントの未来について考えていた彼が、プラントの未来で悩んでいた。

 

 

「―――――大きな流れが必要なのさ。この世界の現状を打破するような流れが。それに気づけば、正気ではいられなくなる」

 

震えが止まらないフィオナを見て、冷めた目でリオンはその姿を見下ろしていた。

 

「苦しいと思うのは、君も疑念を抱いているからだろう? いつまで殺せばいいのか、いつまで死の恐怖と戦わなければならないのか」

 

 

フィオナは、リオンの話を聞きたくないはずなのに、その言葉に耳を傾けてしまっている。

 

――――ダメ、このままじゃ―――

 

戻れなくなる。ザフトのフィオナ・マーベリックでなくなってしまう。

 

 

この青年の話を聞き続けるべきではない。今までの自分を、すべて塗りつぶされてしまう。

 

「君も暖かい世界にいたかったのだろう? そして君はその世界にいた。だから戦争を終わらせるために戦う。だが君に、明確なビジョンはあるのかな?」

 

 

「やめて! そんなことをあなたに言われる筋合いはないわ!!」

 

明らかな拒絶の言葉を絞り出すしかないフィオナ。彼は麻薬だ。決して触れてはならない危険な存在だ。

 

ラクス・クラインも、きっとどうかしてしまっている。聡明な彼女がこの目の前の青年に恋をするような顔をしていた。

 

「戦争を終わらせるために戦う。それは私も同じだ。だが、どうやって終わらせる? 敵であるものすべてを殺し、すべてを滅ぼすのかな?」

 

自分も、塗り替えられてしまうのか。

 

「ちがっ―――――」

 

 

 

何も言えない。フィオナは、リオンの印象について、世界を弄ぶ道化に見えた。世界をまるで導いてやると言わんばかりの物言い。手段すら択ばず、効率的なプランがすでに彼の中で出来上がっているのだろう。

 

「―――――ただ、すべてを救おうなどとは思っていないさ。死んでもらう人間は存在する。少数を切り捨て、多数を救うとは言わない。だが、明確な基準があるのは確かだ」

 

人が言ってはならないことを平然と言い放つリオン。

 

人の命に序列をつけている彼を否定したくても、それを上回る意見がフィオナの中にはない。

 

 

「―――――貴方のやり方で、世界が救えなかったらどうするの?」

 

 

だからこそ、もし失敗したときのことを尋ねずにはいられない。ここまで言い切る彼の根幹には何があるのか。そのことに少しだけ興味がわいた。

 

 

「その時はその時だ。何しろ今の世界は、在り方すら択ぶ余裕がない。もはや手段を選んでいられない。それに、俺とて他人の意見に耳を傾けないわけではないさ」

 

 

魅せられてしまう。フィオナはなぜ彼がプラントにいなかったのかと悔しがった。きっとアスランの横にいれば、彼を正しく導けたかもしれない。彼の苦悩を背負ってくれたかもしれない。

 

彼がプラントにいれば、戦争は早々に終わっていたかもしれない。

 

毒されつつあることを自覚するフィオナ。しかし、聞かずにはいられない。

 

 

 

「貴方のやり方が、外道と蔑まれても? 世界の悪意を集めたら?」

 

 

 

「その際に、俺がこの世全ての悪意を受ける羽目になっても、世界が存続するならば構わない」

 

彼は言い切った。

 

 

 

「その悪意から逃げない。その先に何があろうとな」

 

 

「―――――――――それが、オーブの在り方に近いの?」

勝てない、そう考えてしまった。彼と自分では立つ場所が違う。戦う次元も違う。

 

ここまで世界を想い、世界の行く末を考える。国や思想に縛られた世界の中で、世界全体のことを考えていた。

 

 

「オーブはあくまで俺の理想に近いだけだ。しかし、完全とは言い難い。俺はオーブを世界存続のために“チップとして”賭ける。失敗すれば、もちろん亡国の仲間入りだ」

 

 

オーブの軍人でありながら、国の転覆すらなんでもなさそうに言い放つ。だからこそ、今の世界の人間では測れない。

 

 

もはや狂人の類だ。世界を滅ぼす因果に立ち向かうには、そこまでしなければならないのかと、フィオナは震えた。

 

――――狂っている。オーブは、こんな存在を自分の中に飼っているの?

 

 

「しかし、オーブがリスクを背負うことで、世界が救われるかもしれない。成功すれば、オーブも生かされる。彼の国の栄誉も思いのまま。すべてが滅ぶよりもましだとは思わないか?」

 

フィオナも無論分かっている。消耗戦が続けば、互いに疲弊していくことぐらい。大量破壊兵器がもし両軍の手に渡れば、躊躇いもないだろうと。

 

近代と呼ばれる時代には、世界を滅ぼす悪魔の兵器が生まれた。それを行使しないように我慢し続けて数十年が過ぎた。

 

リオンの言っていることは正しかった。しかし、万人を救う理想論とは程遠く、排除しなければならない存在を肯定する。

 

フィオナもリオンが言おうとしていることがわかる。

 

赤い彗星がなぜラクス・クラインを助けたのか。

 

第八艦隊をなぜ救ったのか。

 

 

プラント情勢の中で、クライン派は穏健派に位置する。

 

――――ザラ議長を、追い込むつもりなんだ

 

 

互いの穏健派にコンタクトを取り、同時に動かす。過激派と言われる人間を締め出す。

 

そして、オーブはその時に動くだろう。

 

 

この世界を滅亡に進ませるリスクを、根こそぎ締め出すつもりなのだ。

 

 

その人間の中に、パトリック・ザラは間違いなく入っているだろうと。フィオナは、肉親にも等しい彼を排除する、それに等しい態度を取るリオンに殺意を抱いた。

 

「貴方は、やはり高い場所でしか物事を見られないのね」

 

 

 

「君たちにとっては、高い場所に見えるのか。俺は広い視野を持ちたいだけだよ」

 

思案顔でフィオナに尋ねるリオン。彼にはフィオナの浅い考えに対し、理解が出来ない。

 

「むしろ君はなぜ、その場所に辿り着こうとしない? そのほうが理解に苦しむよ」

 

だから、そのまま疑問をぶつけてしまう。

 

「―――――貴方、人をイライラさせるのが本当に得意ね」

あまりにも怒ることが多すぎて、フィオナはやや疲れた口調で言い返す。彼は事実を言っているだけだ。彼に悪意がないのが余計に腹立たしい。

 

彼の色眼鏡に合わないものは、ガラクタなのだ。だから、必要としているオーブに力を与え、彼は剣となった。

 

 

その為の武力であり、その為の存在。オーブの国力を極限まで高めることで、その成功率を上げているのだ。

 

 

故に、リオン・フラガは間違いなく最終局面で戦場に降り立ってくる。

 

 

「―――――私は、過激派側の人間よ。こんなことを言えば、穏健派はおしまいよ。私の一言で、彼らは死ぬわ」

 

自分を引き取ったのはザラ議長だ。だからこそ、彼を滅ぼすリオンを脅して見せた。

 

「―――――もし君が穏健派を破滅させるつもりなら、俺の見立ては間違っていたことになるだろう。ラクス・クラインに近しい君を見て、もしやと思った」

 

向きなおったリオンは、再びフィオナを見下ろす形となったが、今度は別の意志を感じさせるものだった。

 

 

「君ならば、戦後苦しい立場に立たされるだろう彼女の、懐刀になれると思ったからだ」

 

 

 

ここでラクスの名を出してきたリオンはどうしようもなく卑怯だ。

 

 

「彼女の意志を理解し、彼女に近しい、彼女を想うナイト。彼女の意志を守る、刀になれる存在。無論クライン派が存在するものの、彼らの中に、エースと言われる存在がいない」

 

 

バルドフェルドでは、いささか物足りない、とリオンは付け足した。

 

「戦場で君を見た時、私は君の存在に目をつけていた。どんな苦境だろうと諦めない胆力、そして私を驚かせた実力。彼女の騎士には申し分ない資質を君は備えている」

 

 

「自分を驚かせるって、よくもまあ己惚れた発言が出来るわね」

 

呆れた口調になるフィオナ。

 

 

「当然だ。この身は最強を義務付けられている」

 

 

「大した自信ね…」

 

 

 

 

 

リオンとフィオナが話し込んでいる部屋の外では、カガリが聞き耳を立てていた。

 

――――防音は完璧か、リオンは抜かりないなぁ

 

聞き耳を立てられることを恐れて、部屋を選んでいる。フィオナとリオンが一体どんなやり取りをしているかわからない。

 

 

すると、リオンが突然部屋の扉をあけて出てきたのだ。

 

「カガリの抜かりの無さは大体最後の詰めを誤っているようだ。残念だったな、聞き耳を立てられなくて」

 

 

呆れた表情と皮肉気な言葉を同時に出してくる将来の従者リオン。将来の主に対する態度ではない。

 

「――――軽口を立ててくれる存在がお前しかいないからな。いや、最近アサギも発症しているからお前のせいだな、このクソ野郎」

 

 

「苦言を呈する忠実な従者の存在は、貴重であると思うけれど?」

微笑むリオン。そんな彼の様子を見てフィオナは驚愕する。

 

————この人、そんな顔も出来るの?

 

むしろ、先ほどまでの彼に違和感を覚えるほど柔和な笑み。だから、赤い彗星の人物像がぶれてしまう。

 

 

「抜かせ、まだ主と認めてもいないくせに。いつか、というより、近いうちに絶対に認めさせてやるからな」

 

しかし、フィオナの驚愕は続く。金髪の少女とのやり取りは、むしろ同等の地位にいる者同士が行うそれに近い。だが、少女は未来の彼の主。ナチュラルの国でそれが行われていることに驚きを受けているのだ。

 

 

「え?え? えぇ………」

 

主と従者の会話とは思えない、言葉のドッジボール。相手にパスを出すのではなく、痛烈なスローイングをぶつけるようなやり取り。

 

プラントでもありえない光景だ、とフィオナは思った。

 

すると、リオンはフィオナに向き直り、最後に一言だけ彼女に伝える。

 

 

「ではな、マーベリック。奴は存外脆い。君がちゃんと支えてやれ」

その言葉を伝えると、リオンは彼女に背を向けて、そのままこの場を去ってしまった。

 

 

「???」

カガリは一体何の話だと、と首をかしげるが、フィオナはそれどころではなかった。

 

 

 

 

 

「—————おい、どうしたんだ? 凄い顔をしているぞ」

カガリは、リオンがまた鬼畜染みたことを言い放ったのだろうと察する。相手によっては心を折りにいくのがリオンの所業だ。

 

—————けど、本当に興味のない存在には酷い言葉すら言わないからな

 

優しさではない。厳しさでもない。

 

 

彼の基準は世界であり、オーブである。その未来を約束するために、目の前の少女は有用だと判断したのだろう。

 

しかし、無反応のフィオナとこれ以上いても時間の無駄と考えたカガリは、急いでリオンの下へ向かう。

 

ある朗報を彼に届けるためだ。

 

「どうした、カガリ? そんなに息を荒くして」

 

「リオン、アルベルト・ロペス、キラ・ヤマトのバイタルが安定した。生きてはいるが、片目を失い、重傷だ」

 

朗報とは言い難いが、彼らはピークを乗り越えた。しかも、片眼付近には大きな傷跡が残ることも確定している。

 

「なるほど、本当に悪運の強い奴らだ。連合も傷物に目が眩むほど飢えてはいないだろう。そのまま取り込んでしまうことは可能か?」

 

 

「もみ消しはいつものお家芸だろ? こういう誤魔化しだけは無駄に上手くなったようだ」

苦笑いのカガリ。手段は問わない。オーブ国民だった彼を救うためには、労力をいとわないと断言する。

 

「実戦経験者は何よりも重要な存在だ。全治半年は長いが、今後のオーブで重要な役目を果たしてくれればいい」

 

もはや、アルベルトが今回の戦争に介入することは困難になっただろう。だが、それで彼が必要ない人材、と断言するのは早計だ。

 

リオンとしても、一度だけはあっていこうと考えた。

 

「彼は今どこかな?」

 

「ザフト軍兵士とは離れた部屋で治療を受けている。危篤手前だったからな」

 

 

リオンとカガリは談笑しながらアルベルトのいる部屋を訪れ、久しぶりの再会を果たすことになる。

 

「—————気分はどうかね?」

 

 

「最悪の気分です。もっと上手くやれたんじゃないかって」

左目は包帯で巻かれ、失明したということを医者に知らされて、気分は最悪のアルベルト。

 

しかし相手を恨むのではなく、自分の未熟さを呪っていた。

 

「—————全治半年だ。もう少しで脊髄に突き刺さるところだったから悪運が強かったのだろう」

 

 

「—————アークエンジェルは、みんなは、無事、なのか?」

 

 

「キラも先ほど回収した。アークエンジェルは今頃アラスカだろう」

 

そっか、とつぶやいたアルベルト。こぶしを握り締め、悔しそうにしていた。

 

「——————怪我を癒して、また歩き出せばいい。軍人を続けるのも、一般人に戻るもよし。お前の人生だ。これからの身の振り方は、好きにすればいい」

 

「————————はい……」

拳を握り締め、何かに耐えるようなアルベルト。こればかりはどうにもならないとリオンは悟り、踵を返す。

 

それ以上のことは言わず、アルベルトからの言葉も聞かず、リオンは病室を去っていく。やや遅れてカガリが挨拶をしてからそれに続く。

 

「—————少し厳しく言い過ぎたかな」

 

「いや、リオンらしいよ。あいつも男の子なんだ。あれぐらいが丁度いい」

少年に対し、きつく言い過ぎたかもしれないと後悔するリオンと、あれぐらいではへこたれないとカガリは反論した。

 

 

「——————完璧な人間など、間違えない人間などいない。ああいう挫折を前にして、如何に立ち直るか。オーブ国民のあいつらには、頑張ってほしいのは事実だ」

 

オーブ国民とリオンは言い放った。つまり、またアルベルトらを受け入れてもいいと認めているようなものだ。以前のように元国民と言うことなく、声色もどことなく明るい。

 

————ほんとは嬉しい癖に

 

アルベルトが、キラが生き残ってくれたことが嬉しい癖に、素直ではないリオン。カガリは強がりをしている彼を見て微笑むだけだった。

 

「—————なぜ笑顔なのかな?」

 

「気にするな、私の自由だろ?」

 

勝ち誇ったように微笑むカガリと、意図が分からず困惑するリオン。人間らしさをよく見せてくれる大切な人の一面を、嬉しく思う彼女だった。

 

 

 

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