機動戦士ガンダムSEED 理想の従者   作:傍観者改め、介入者

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前話から読んでください。連続投稿です


第38話 前兆

決して浅くない傷を負いながらも、アークエンジェルがアラスカに辿り着き、赤い彗星と思わしき機体と白い悪魔を打倒したザフト軍のザラ隊は、つかの間の休息と、けが人の引き渡しの日を迎えることになる。

 

 

「―――――――」

 

フィオナとアスランは、味方が乗っているであろう飛行艇に近づいていく。

 

「彼を、殺したんですね」

ぽつりと、フィオナはアスランに問う。

 

「―――――いや、殺しきれなかったよ。最後の最後で、俺は―――――軽蔑してくれ」

アスランは沈痛な顔で吐き捨てた。

 

「そんな――――だって隊長の―――――」

フィオナは、アスランがストライクのパイロットの近くで意識を失っていたことをオーブ軍兵士から聞いた。重傷を負った彼の前で涙を流し、倒れていたアスランは痛ましい姿だったという。

 

だからもう、フィオナはキラ・ヤマトを恨むことが出来なかった。

 

 

現在彼女はゴムボートに乗ってオーブ軍の兵士の保護を受ける形で飛行艇に接近している。その扉の向こうには、残された希望を見つけた表情を見せるニーナ・エルトランドの姿。

 

「隊長!! フィオナっ!!」

眼に涙を浮かべ、彼ら二人を出迎える彼女を見て、二人は驚いた。

 

「ニーナッ!?」

 

フィオナは彼女は死んだと思っていた。そしてそれはアスランもそうだった。ニーナはあの時敵機に撃墜されたのではないかと。

 

「ニーナ!? そうか、よく生きていてくれた――――ストライクは討った。デュエルもニコルが撃墜した。これで終わったんだ」

肩の荷が下りたと力を抜いたアスラン。

 

「―――――ニコルも、これで安心しただろうか。それに―――――」

 

アスランは、フィオナとニーナを見て目を逸らした。彼女らに近しい人間すら守れない自身の至らなさを情けなく思っていたのだ。

 

彼女らの世話を見てくれていたであろう、イザークやディアッカ。そして、自分をいつもサポートしてくれていたニコル。彼女らがいないのだ。

 

そんな彼の無念をくみ取ったフィオナは――――

 

「隊長こそ、今まで辛い戦闘だったはずです。隊長こそ、自分を労わってください」

 

深くは言わない。深く踏み込む必要性もない。だが、これだけは言わなければならない。フィオナは、親友と殺し合ってきた彼の苦悩を察し、寄り添うような言葉をかける。

 

 

それから、フィオナとアスランは、ついにニーナに事情を話すことになった。ストライクのパイロットはアスランの親友で、同じコーディネイターで、ヘリオポリスで日常を奪われた存在だったと。

 

ショックを受けたような表情で、アスランを見るニーナ。ストライクを討ったとアスランは言った。ならその言葉が意味することはただ一つ。

 

「―――――友達を―――――ごめんなさい!! 私、無神経でした!!」

頭を下げ、謝るニーナ。憎しみに囚われ、怒りの声をあげていた時にも、そんな感情を胸の内に秘めていた彼に対して、どれだけ傷ついた言葉を言っていたのかを理解したのだ。

 

「―――――俺は隊長だからな。隊員の命を預かっていた。弱音を吐くわけにはいかなかった。それに、ニーナも憑き物が晴れた顔をしている。久しぶりに血色がいい」

そして、ぼろぼろなはずの自分を労わる前に、部下を気に掛ける不器用な優しさを持っているアスラン。

 

「先ほどのお言葉をお忘れですか、アスラン」

やや非難めいた口調でアスランを諭すフィオナ。昔から他人の事ばかり気にかけている悪い癖が治らない。それが彼女の機嫌を悪くした。

 

船内に搬送されたフィオナとアスランは、個室にてニーナとの話を続けることになる。

 

 

その中でニーナが一番関心を持っていた事柄、赤い彗星の脅威についての話から始まった。

 

 

「赤い彗星は、やっぱりオーブの人間だったわ。あの時乗っていたパイロットは、おそらく別の人間」

 

 

「そう、なんだ。やっぱり、あの時の金髪の男、だよね」

ニーナは、ニコルを過小評価していたわけではない。だが、あの存在が簡単に撃墜されるわけがないと信じていた。

 

赤い彗星が、ミラージュコロイドでの接近を許すほど、甘くはないということ。以前の赤い奴は、それすら看破し、ブリッツを追い込むほどの力を示している。

 

あのパイロットにステルスは通じない。

 

「―――――ああ。だが今は、オーブが戦争に加わる理由がない。これからも、ないと信じたい」

 

アスランとしては、ある種の理想にも似た国と出来れば戦いたくはない。そして、仕方のないこととはいえ、ヘリオポリスを破壊してしまったことを申し訳なく思っていた。

 

――――ナチュラルを恨み、憎しみのまま戦っていれば、気づくことは出来なかった。

 

アスランにとって、そんな妄念に囚われなかった要因は、目の前の少女だった。もし、自分がそんな存在に成り果てていたならば、キラに最後まで届くこと無く殺されていたと自覚できる。

 

 

――――目の前で傷ついた君を見たからこそ、俺は冷静でいられたのかもしれない。

 

フィオナがいたから。彼女が自分の傍にいてくれたから、自分の目は曇らなかった。

 

――――君を守りたいと、そう思えたからこそ、俺は―――――

 

 

そんなアスランの想いを知らないフィオナは、オーブについての見解を述べていく。

 

「―――――でも、オーブはこの世界で沈黙を保ち続けるとは思えません。あの力がどこへ向くのか。それがこの戦争を左右する。私はそう思います。それに――――」

途端に言葉を濁し始めるフィオナ。オーブという国を嫌いではなさそうに見える彼女の様子に、戸惑いを見せるアスラン。

 

「フィオナ?」

 

彼に名前を呼ばれ、彼女は仕方なしに自分の想いを告白する。

 

「――――あの国のこと、私は嫉妬していたんです。羨ましかった、なんであんな国がこの世界にいるのだろうと。どうしてあんな風にナチュラルとコーディネイターが手を取り合って生きているんだろうって」

 

今まで見たこともなかった。いや、自分たちがプラントに移住するときからその努力を彼らはし続けてきたのだ。ずっと両者が手を取り合って生きていける国づくりに励んでいた。

 

その結果が、今のオーブの在り方につながっていく。

 

「オーブという国の在り方、あの国に住む者の誇りと、ルールがあるから、なのだろう。民族や種族という縛りに左右されず、国という根幹がある。再構築戦争、コーディネイターの出現とともに、国家に対する執着心が薄れ、今は種族間の争いが中心となっている世界の中で、あの国は国家の在り方を守っている」

 

国家群と化した世界。そこにナショナリズムの入る余地はなく、その言葉は忘れ去られようとしている。コーディネイターをいい意味でも悪い意味でも特別視せず、一人の人間として扱う。

 

あの国では、ナチュラルとコーディネイターの間に生まれた者たちもいるらしい。それはあの国だけに限らず、同盟国であるスカンジナビア王国も同様だ。

 

時代の波に逆らう二国の在り方は、アスランの瞳にもまぶしいものだった。

 

 

「俺たち人類が、忘れていた、国への帰属意識。先人たちはそれを知っていた。確かにプラントという国に、俺たちは忠誠を誓っている。その忠誠心なら彼らにも負けないと自負しているつもりだ。しかし、俺たちと彼らでは、ベクトルが違うのだろうな」

 

コーディネイター主導で作られた、プラントという国。それはあくまで種族という縛りによって作り出された仮初の国。

 

シーゲル・クライン前議長は言っていた。コーディネイターは決して新人類などではない。ナチュラルの存在無くして、存続することはできないのだと。

 

生存維持すらできない種族の末路など、素人でもわかる。自分とラクスが婚姻統制で定められた関係であるという仕組みが物語っている。

 

「――――――でも、私たちは戦います。どこが相手であろうと、戦わなければ、何も勝ち取れないから」

 

強い意志を持ったニーナの決意。未来を考えれば考えるほど問題は山積みとなっているが、嘆くことは誰にでもできる。

 

「だから、アスランさんにはいずれトップになってほしいなぁ、って思うんです。私バカだから。戦士のままでいいです」

ニーナは、ここまで思慮深い人が上にいたら、心強いと口にした。奇しくもそれは、アスランがニコルに対して言った言葉のままだった。

 

――――本当は、お前にやってほしかったが……そうだな。

 

いつも自分は貧乏くじとは縁があるらしい。これからも苦労をするだろう。だが、苦労した甲斐があるのも事実だ。

 

「―――――本当に、君たちには驚かされる――――そうだな、部下が意地を張っているんだ。俺も、少しは男の意地というやつを見せないと、示しがつかないな」

ニーナの心意気に救われたかのような、アスランの笑顔。親友を失い、戦友を失った傷は癒えないが、それでも前を向き続ける力は再び生まれていた。

 

しかし、ある一言について、彼は納得がいかない。

 

「けど、俺はいつまでも君を戦士のままでいさせる気などないぞ。何年かかるかはわからない。だけど、俺は君がもう戦わなくていい世界にして見せる」

 

 

「――――――ア、アスランさん!? 何を――――」

 

なぜ戦士である自分を否定するのか。ニーナは自分を危うく責めかけたが、

これがいたって真面目なのだから手に負えない。ニーナは告白染みたアスランの決意に顔が真っ赤になりそうだった。

 

二枚目はここが違う。気障な言葉を自覚なしに言える。これがアスランをアスランとしているのである。

 

しかし、気障な言い方をする彼を咎める存在が横にいる。

 

「もう、そういうところは他の女性に誤解されますよ! ラクスさんを裏切るんですか!」

 

ラクスに姉として接していたフィオナの追撃。無自覚に女性をその気にさせる性質だけは、絶対に強制しないといけないと誓い続けているフィオナは、ラクスを悲しませる前に、何とか修正しないといけないと考えていた。

 

――――悪いな、イザーク、ディアッカ、ニコル、ドリス、そしてミゲル

 

そして、これまで救えなかった戦友たちや、ユニウスセブンで散った母親に対し、アスランは思う。

 

 

――――俺は、まだそっちには行けない。フィオナとニーナが、そしてラクスが最後まで幸せに生きられるよう、そんな細やかな幸せを、俺は守りたいんだ

 

 

まだ自分は死ねない。プラントを放り出す気もない。このまま逃げるつもりもない。そして、生き残ってくれたフィオナとニーナを、必ず守る。

 

――――母上。土産話をたくさん、期待していてください。

 

 

 

 

 

一方、アークエンジェルの中で目を覚ましたニコルは、自分が置かれている状況を冷静に認識し、暴れるようなこともせず、医務室で治療を受けつつも、捕虜として最低限のことは守っていた。

 

 

「―――――なんだか、連合の船には見えませんね」

 

女性の捕虜ということで、乱暴な目に遭うかもしれない。そのことを覚悟していたニコルは、アークエンジェルの憲兵たちが意外に紳士だったことに驚いていた。

 

「国際法を守る義務があるからな。おたくとは違って、捕虜への暴行は軍法会議ものだ」

 

ニコルの言葉に、若干いら立つ憲兵だが、内心では彼女のことを奇妙に思っていた。

 

――――こんなザフト兵もいるのか

 

ナチュラルを馬鹿にするような奴らばかりではない。こういった冷静な考えを持つ者もいる。それはアークエンジェルにとっても、コーディネイターの認識を改めるきっかけになっていた。

 

 

「あんな年端もいかない少女が、戦場に出ているとはな。まあ、うちもヤマト少尉やロペス少尉に無理をさせちまった――――」

 

「そうだな。年若い少女なのに、しっかりしてやがる。あんな子に乱暴すれば、俺はこの先胸を張って生きられなくなる」

 

 

「家族がいない俺にはわからんが、なんだか庇護欲みたいなのを擽られるんだが、俺は終わっているのか?」

 

「安心しろ。その年で童貞のお前は、元から終わっているから。おめでとう、お前は今日からロリコンだ」

 

「な、てめぇ!! オーブに家族がいるからってなめやがって!!」

 

ぎゃー、ぎゃーと口論に発展するクルー。しかし、本気の小競り合いではなく、戦友との会話を楽しむ和やかな雰囲気は崩れないままだ。

 

そんなクルーの姿を見ることになったニコルは、自分が敵対していた存在を知ったことを後悔していた。

 

――――知らないほうがよかった

 

こんなにコーディネイターを差別しない。迫害しない連合の船があったことを知りたくなかった。これでは照準がぶれてしまう。

 

そして問題なのは、

 

「よう、怪我はもう癒えたか、嬢ちゃん」

 

この年上の青年は、なぜか自分に笑顔を向ける。同じコーディネイターなのに、連合にいる軍人。そしてこの船のムードメーカー的な存在。

 

自分が殺した上官の右腕だった男。エリク・ブロードウェイ。

 

「――――貴方は、私に復讐する権利があります」

仇と思われているような人間に、優しくされたくない。自分が傷つけてしまった人に、優しくされたくない。

 

「そんなつまらないことは言うなよ。そこは戦争なんだ。しゃぁねぇよ」

ドカッ、と椅子に座るエリク。そして徐に缶コーヒーを飲む姿に毒気を抜かれたのか、ジト目で見つめるだけのニコル。

 

「戦争で恨みとか憎しみで戦うやつは、大体ろくでもねぇ最後を迎える。俺はそんなの御免なだけだよ」

 

 

「どうして貴方は、コーディネイターなのに連合に?」

敵味方関係なく、裏切り者と呼ばれ続けた彼は、どうして勢力を変えないのだろうかと、ニコルは気になった。

 

「まあ、普通はプラントだよなぁ。戦うんなら。けど、俺はあのふざけたエイプリル・フールがあったからな。シーゲル・クラインさんには、どういう弁明をするのか興味があるけどな」

 

 

その言葉だけで、ニコルはすべてを察した。エリクはザフトの軍事政策で、大切なものを失ったのだと。地球全土のインフラを破壊したあの施策によって。

 

 

「――――そう、だったんだ―――――」

 

「それこそ俺も聞きてぇくれぇだよ。なんで嬢ちゃんは戦争に参加した? 虫も殺さないような別嬪さんが、銃を持っているとか、悪夢だろ」

 

一瞬迷った。あの政策で傷ついた彼に言うべきなのか。しかし、自分の原点はそこだった。

 

「―――――ユニウスセブンで、私も何かしないとって――――そう、思ったから」

 

「なるほどね。嬢ちゃんらしい理由だ」

何か安心したような表情のエリク。何に安心したのだろうか、とニコルは不思議に思った。

 

 

「ブロードウェイ大尉。なぜいきなり口調を変えたのかね? あまり似合わないことをする必要はないぞ」

医師のサハンは、やや呆れた目でエリクを見つめている。好青年がいきなり兄貴風な口調をするのも無理があることだ。

 

「気分の問題ですよ!! フラガ大尉がいなくなって、いよいよムードメーカー消滅の危機なんすよ!! 俺が兄貴的ポジションで――――」

 

「あきらめなさい。きみにはむりだ」

 

「おいぃぃ!!!」

 

 

――――本当に、この人軍人なのかな

 

ニコルは、階級関係なく誰とでも喋りまくるエリクを見て不思議な気分になった。

 

 

和やかな雰囲気のアークエンジェル。しかし、その雰囲気をぶち壊す案件がやってきた。

 

 

それは、マリューとエリク、ナタルでアラスカ司令部を訪れた時のことだった。

 

 

「捕虜の引き渡しですか?」

 

マリューは回線にて、ニコルの身柄を引き渡すよう命令してきたウィリアム・サザーランド大佐の指示を聞いていた。

 

「その通りだ。彼女を含むコーディネイターの捕虜はこちらで預かる。異論はないな?」

 

 

ブルーコスモスの思想に染まっている軍人が、いきなりザフト軍兵士の身柄を要求してきた。しかも、ニコルは年若いとはいえ、容姿端麗な顔立ちをした育ちのよさそうな少女だ。

 

マリューはその時に悩んだ。ここで命令を拒めば、ただでさえ立場の悪いアークエンジェルは、窮地に陥るかもしれない。

 

しかし、人道的な補償をしてくれるかも怪しい相手に、彼女の未来を託してもいいのか。

 

 

敵だったとはいえ、GAT計画を無茶苦茶にした敵の一人だったとはいえ、マリューは決断できなかった。

 

さらに言えば、ムウの仇でもある少女。憎くないと言えば嘘になる。

 

 

「その、一つ尋ねてもよろしいでしょうか」

ナタルがサザーランド大佐に質問をする。その表情は何かを不安視するようなものだった。

 

 

「なんだ? 手短くに話せ」

 

鬱陶しそうに返事をするサザーランド。値踏みするかのような表情でナタルの言葉を待っていた。

 

「その、彼女は今後、人道的な、国際法に則った扱いを受けるのでしょうか」

 

 

 

「国際法を守らない国の人間をどうしてそのように扱わなければならない?」

 

 

「―――――は?」

ナタルは、その言葉を聞いて、虚を付かれたように声が出てしまう。隣にいたマリューも、目を大きく見開き驚いていた。

 

 

――――冗談きついぜ、提督。これはどうにもなんねぇぞ

 

アラスカの目を覚まさせる必要があるとは言っていたが、これはそれ以前の問題だ。

 

エリクは、アラスカに巣くう、いや、連合全体に蔓延するブルーコスモスの思想に恐怖を抱いた。

 

 

「現在、我々に必要なのは、MSを動かせる人材と、OSの開発だ。後者は既に準備が整っているものの、まだまだ人材は十分とは言えない。そこで、我々は捕虜を有効活用するということだ」

 

 

「有効活用? しかしどうやって?」

 

ザフト軍兵士をザフト軍に当てる。言っていることは無茶苦茶だ。マリューは首をかしげるしかなかった。

 

「簡単なことだ。薬物投与に洗脳。やり方はいろいろある」

 

その発言にナタルはわれを忘れてしまった。

 

「我々が軍人の誇りを失ってどうするのです!! 軍人として、そのようなこと、認めてもよろしいのですか!! 相手は年端もいかない子供なのですよ!!」

軍人としての在り方を失う。敵とは言え、子供のような年齢の存在を非人道的な扱いをすると思われる場所へは渡せない。

 

「だが、コーディネイターでもある。これは前々から言おうと思ったが、なぜコーディネイターの子供にストライクを乗せた? なぜ赤い彗星などという傭兵はこちらにつかなかった?」

 

そしてやはり言及してきた赤い彗星の件。そしてキラ・ヤマトのこと。

 

 

「彼は正当な報酬をもって、オーブで退艦しました。フリーの傭兵で、今頃はどこにいるかも――――」

 

「そんなもの、後でどうとでもなる。なぜ奴の弱みを握らなかった? 義理や人情で戦争に勝てると本当に思っているのかね? 認識が甘すぎるぞ、ラミアス大尉」

 

捲し立てるようにマリューを叱責するサザーランド。

 

 

「我々はコーディネイターと戦っているのだよ。コーディネイターの少年を、自由意志を持った空の化け物の力を借りる等、言語道断。戦う意義すら失っているぞ。奴らがいるから世界は混乱するのだ。なぜそれがわからない?」

 

 

「――――赤い彗星はコーディネイターなのか、どうなるのか!? 奴は一体何者だ!!」

 

 

「―――――それは……」

マリューは、赤い彗星の件について言い淀んだ。

 

「おそらく偽名を使われたんです。なので、ここで名乗っても意味はありません」

エリクが、ここで出まかせを言い放つ。

 

「発言の許可を与えていないぞ、ブロードウェイ大尉。どういうことかね、ラミアス大尉」

 

マリューはエリクの意図を理解し、瞬時に出任せを考え付いた。エリクが作ったわずかな時間に感謝し、彼女は説明をする。

 

「その、偽名を使われ、その詳しい情報を掴めませんでした。彼無くしてアラスカに辿り着くことは出来ず、強く言うこともできませんでした」

 

 

「情けない。軍人として恥ずかしくはないのかね? 傭兵に踊らされる艦長で、よくアラスカにまでたどり着けたな」

 

サザーランド大佐はラミアスの言葉を信じたらしく、暴言を吐くだけでこの案件は終了した。

 

 

「そしてこれは命令だ。ザフト軍兵士を引き渡せ。これは軍政部の命令だ」

 

 

――――ラミアス大尉。こんな暴挙を許すのですか!?

 

横では、そんな言葉を訴えるナタルの姿がある。軍人としての誇りを持っていた彼女には、捕虜を乱雑に扱う暴挙を許すことはできない。

 

 

――――やばいな、これは試されているぞ

 

エリクは、ここでアークエンジェルを値踏みしていると悟っていた。この先連合に有益な存在になるか否かを、試されている。

 

 

まるで踏み絵のようなことをさせられていると感じたラミアス大尉は、悩んだ。

 

今、自分はクルーの命を預かっている。自分の私情を優先し、彼らにいらぬ危険を与えた場合、どうなるのか。

 

彼らの命を預かっているのだ。マリューの中で、一つの方向に定まっていくのが分かった。

 

 

「私は――――――」

 

 

 

 

会議が終了し、マリューは怒りの形相で襟を掴んでくるナタルに抵抗しなかった。

 

「――――我々は軍人だ。これを提督が許すと、本気でお考えですか?」

 

軍人としてのプライドが高かった彼女は、非人道的な行為を見逃したマリューに訴える。ハルバートン提督らの穏健派と、ブルーコスモスの思想が強く根付いた強硬派。あくまで立場を求める中立派。確かにアラスカは強硬派の巣窟だが、マリューは強く出ることも出来た。

 

彼女らは穏健派なのだから。

 

しかし、マリューにはある不安要素が頭の中から離れない。

 

「―――――私の一存で、乗組員の未来を決めるわけにはいかないわ。それに、今回の会議も根本のところから話が合わない。余計に刺激を与え、下手に前線に部下を送るわけにはいかないの」

 

相手の言葉一つで戦地が決まる。バラバラにされてしまえば処理をされてしまう可能性も捨てきれない。

 

「ですが――――ではあの期間の設定は一体」

 

ナタルが疑問に思ったのは、ニコルを捕虜として引き渡す期限をマリューが設定したことだ。いろいろな尋問が残っているやら何やらと言い訳を作り、期限を引き延ばしたのだ。

 

怪我を負っており、搬送には手間がかかる。そちらの処置をする前に死亡する可能性がある、とマリューは出任せを言ったのだ。

 

 

「彼女に話を聞いて本当に良かった。上層部には言わない約束だったけれど、こんなところで役に立つなんてね」

 

それは、ナタルたちにとっても初耳だった。

 

「おい艦長。そりゃあどういうことだ? アラスカにザフトが来るとかじゃないだろうな」

エリクも、マリューの様子を不審に思い、出任せのようなことを言った。

 

――――パナマへの救援のために、アークエンジェルは出撃する、そうじゃなかったか?

 

 

「ええ。ザフト軍はパナマではなくアラスカに攻め込んでくるわ。ザフトは早期決着を望む布陣よ」

 

 

「――――――よく冷静でいられたな」

エリクの真っ当過ぎる突込みに苦笑いを浮かべるマリュー。

 

「確かに、最初は許せないって思ったわ―――――けど、あんな子が銃を持っていた事実に、私は怖気づいたの」

 

複雑な心境を語るマリュー。それは毒気を抜かれたと言っていい。ニコルを見て、マリューは憎しみをぶつける機会を永遠に失ったのだ。

 

「―――――この世界の今に順応して、憎しみのままに戦うことが、どれほど恐ろしいのか。それを考えたら、復讐なんてできないわ―――――」

憎しみを抱くことに恐怖を覚えたのだ。今までの自分が、今までの理性が、彼女を引き留めた。

 

 

「――――ムウさんが惚れるだけはありましたね。やっぱいい女ですよ、艦長は」

エリクは、マリューの言葉を聞いて安心した。

 

「一言余計よ、ブロードウェイ大尉」

 

 

そして会話にはいれていないナタルはなぜかむかむかしていた。

 

――――なぜブロードウェイ大尉と艦長が話しているのを見て、ムカムカするのだ?

 

結局、その思いを口にすることなくエリクが茶化し、マリューが苦笑いするという場面がループすることになったという。

 

 

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