機動戦士ガンダムSEED 理想の従者 作:傍観者改め、介入者
登場人物にアラスカ合流組を追加しました
アラスカ基地に待機しているアークエンジェルの一行は、アラスカからの返答を待っていた。
アークエンジェルはいつまでここに待機しているのかという質問だ。
「暫定の措置ではあるが、第8艦隊所属艦アークエンジェルは、本日付で、アラスカ守備軍第5護衛隊付きへと所属を以降すものとする。発令、ウィリアム・サザーランド少将」
しかしやってきたのは、無情な命令だった。宇宙軍であるアークエンジェルが、なぜか地上守備隊に回される違和感。
――――シャレになってねぇよ。これは
ハッキングしたエリクが、アラスカの地下に眠るものを見つけた時、つぶやいた言葉である。まだ確証はない。もし本当なら確かめる必要がる。
――――ここで混乱を招くわけにはいかねぇ。直接調べに行くしかねぇ
エリクは、ザフトの攻撃に合わせてアラスカ司令部へと侵入する魂胆だった。
「了解しました」
マリューはその命令を平坦な声で聴き、受諾する。
モニター画面が消えた後、クルーの間でも疑心暗鬼が広がっていた。
「まじ、かよ」
パルは、苦々しげな声でうめいた。そして、マリューの機転が思いのほか自分たちの命を救うと確信していた。
「ああ。宇宙軍であるアークエンジェルがここに配属の時点で黒だよ」
チャンドラは、やや諦めた表情で、軽く見られていることに憤りを感じていた。本艦は最新鋭の戦艦で、宇宙船なのだ。それがなぜ地上の守備軍に配属されるのかと。
「まあ、捕虜を非人道的な場所に放り込みそうな上層部だからな。もう俺らのこともどうでもいいとか思っているんだろうよ。提督も低軌道戦線での戦績で昇進もねぇんだから」
トノムラも、いい加減連合のやり方に辟易しているのか、そこまで動揺はしていなかった。
しかし、ナタルは少しだけショックを受けた顔をしていた。
「アラスカに――――まともな指示を出せる人間すらいなかったのか……」
自分が信じていた上層部はそこまで腐っていたのかと、これまでの努力が色あせていくのを感じ、目晦を覚えたのだ。
「ナタル―――――」
マリューは、連合の軍人として誇りを持っていた彼女の気落ちした様子を見て、声をかけることが出来ずにいた。
「ええ。ですが、本当に我々のこれまでの成果が彼らに届いていないのなら――――次の戦場で我が艦の精強な姿を見せつければ――――」
しかし、切り替えが早いのは得意なのか、ナタルはもう引き摺らなかった。
一方、ザフト軍はアラスカ基地への侵攻をついに正式発表してしまう。青天の霹靂と言っていい直前での攻撃目標の変更は、プラント評議会にも驚きを与えていたのだ。
スピット・ブレイクが発令され、この作戦にあまり関係のなかった者たちは、その攻撃目標に驚愕することになった。
「そんな。まさかアラスカが攻撃目標だなんて―――――」
リディアは、そんな大変な作戦に、ニーナが参加していることに驚き、そしてパナマではなかったことに不安を覚えた。
―――――大部隊を動員しての大規模作戦。ザフトは早期戦争終結を目指しているけど
「ええ。これまで宇宙を実効支配していたザフトが侵攻に踏み切れなかった理由。それはアラスカの要塞としての堅牢さ。しかし、消耗戦を恐れた議会――――つまり急進派の意向が反映された形、ですね」
ラクスとしては、この作戦が成功してもしなくても、世界はまた荒れると考えていた。そもそも、この作戦にはいろいろなことが起こり得る、と考えていた。
「ラクス。議会はどうにもできなかったよ。アマルフィまで取り込まれれば――――」
クライン議員は、疲れた様子で議会でのことを話し始めた。
プラント評議会では――――――
「なんだと? パナマではないのか?」
クラインは、まさか敵の本拠地をたたく作戦とは知らされておらず、この事実に驚きを隠せない。
「そうだ。パナマに部隊を展開している連合の隙をつく」
ザラ議員は手短に彼に話した。
「だが、ここまでの大規模作戦。リスクが大きすぎる! それに、パナマからの増援が間に合えば、物量で劣る我らは押し切られるぞ!」
連合が本拠地を見捨てるはずがない。ますます消耗戦になると彼は危惧していた。
「圧倒的に勝利する!! そのための力が我々にはある!!」
そしてザラの力強い言葉により、後ろからゆっくりとある人物がやってきた。その人物は、クラインもよく知る人物だった。
「あ、アマルフィ――――なぜ君がそちらにいる!?」
ユーリ・アマルフィ議員。ニコル・アマルフィの父親だった男だ。しかしその眼と雰囲気は彼が知る人物ではなかった。
「ここまで戦果を拡大させたのは、見通しが甘かったからだ。これまでの犠牲は、穏健派にあったのだ、クライン議員」
辛そうに言葉を紡ぐアマルフィ。彼の気持ちは勿論わかる。しかし、娘を失ったからと言って、ここまで過激になる、というのは政治家として許されるべきことではない。
「クルーゼ隊長に諭され、私も決心がついた。娘も家内も、納得してくれたよ」
達成感を覚えた顔で、アマルフィは残酷な言葉をクラインに与えた。
「彼だけではない。ジュール議員も、エルスマン議員も。全員、志は一つだ。ナチュラルどもに、我々コーディネイターの力を見せつけてやるのだと」
「待てパトリック!! この法案を通したとしても、最悪のケースは勿論考えてあるのか? それがなければ承認などできん!!」
ハイリスクハイリターンな作戦は看過できない。それでは本当にプラントを滅ぼすことになりかねない。
攻めるだけが、プラントを守ることにはつながらないのだ。
「勝てばいいのだ!! 戦争は!! 我々が未来を勝ち取るためには!!」
「パトリック――――ッ」
「――――我々も勝負に出る必要があるのだ!! いつまで若いものを犠牲にし続ける!! いつまで戦争を継続している!! そのためには!! ナチュラルを屈服させる必要があるのだ!! もう二度と!! 我らに刃向かう気など起こさないほど!!」
「ザラ議員。もう我らは、選ばなければならない時期が来ているのです」
冷めた目で、シーゲル・クラインを見つめるアマルフィ。そして、いつの間にか急進派にすり替わっていた面々。
「クライン議員は、娘が帰ってきてくれました。少し複雑ですが、赤い彗星によって彼女が救い出されたのは幸運と言っていい。ですが、私の娘は帰ってきませんでした」
「!!!」
クラインも何度かあっているニコルのことだ。彼女は非常に聡明で、ピアノの演奏が上手で、人を惹きつける魅力を持った少女だった。あんな女性が戦争に行くと聞いた時はクラインも心が痛んだものだ。
「――――この戦争を、もう私と同じ痛みを覚える親を生み出したくないのです」
ここまで言われては、クラインも何も言えなかった。実際、ラクスの生存が絶望視されたとき、そんな気持ちが一瞬脳裏をよぎった。
しかし、政治家として私情を挟むことは出来ないと考え、穏健派としての立場を捨てなかった。腰抜けと弾劾する輩もいたが、彼にはこれ以外の道を思いつくことが出来なかった。
簡単に理性を手放すわけにはいかなかったのだ。彼は、少なくともエイプリール・フール・クライシスの責任を取るまで、死ぬわけにはいかないのだ。
あの未曾有の人災を引き起こした者として、その責任を取らなければならないのだ。だが、今はそれを行うことすらできない。
――――願わくば、もう作戦の成功を祈るしかないのか
出来るだけ犠牲が少なく、決着がついてほしい。もうこの流れに逆らう力を、彼は持っていなかったのだ。
評議会も急進派の勢いが強く、クラインの右腕でもあるアイリーン・カナーバ、アリー・カシムらが何とかその勢いを押えようとしたが、ラクス・クライン生還直後の政情は、彼ら穏健派にとって非常に厳しいものとなっていた。
「申し訳ございません、シーゲル様。止める手立ては、もう――――」
「カナーバもよく根気よく話してくれた。この作戦では間に合わなかったが、次の機会ならば――――」
「カシムもアイリーンもよくやってくれた。ギリギリの数だが、次に向けて希望は持てる結果となった」
議決後、カシム、アイリーンらと話し込んでいたクライン。その他の議員もこの大規模作戦には疑念を持っており、急進派の中にもそれは存在した。
「今後も何とか停戦に向けた動きを探さなければ―――――」
彼らはこの先も戦争終結に向けて動くことになる。
「―――――議会はこんな顛末だ。アラスカはもう、火の海になっているだろう」
「――――ラクスの恩人でもあるアークエンジェルも、あそこには――――」
やりきれない、といった表情のシーゲル。
「お父様―――――」
「でも、捕虜は取るんですよね? バルドフェルド隊長の下でも、そうでしたし」
リディアは、捕虜は丁重に扱うのでは、と質問する。バルドフェルドの指揮下にいた彼女は、連合軍の捕虜を丁重に扱っていた。抵抗の意志がなくなったものには乱暴はしない。当たり前のことだと思いたいが、こんな雰囲気で果たしてやれるのかどうか、疑問なのである。
「―――――バルドフェルド君や少数の部隊が特例なのだ。残念なことに、民間人の虐殺こそ聞かないが、連合軍の兵士の捕虜については聞かない。私の任期中にはあまり起きていなかったのだが、今の私には――――」
申し訳なさそうな顔をするシーゲル。ということは捕虜を虐殺している部隊が存在するということだ。
「―――――そんな―――――」
ショックを受けたような顔をするリディア。そういうことをすれば、相手は死に物狂いで抵抗してくる。結果として被害が大きくなる。
なぜそんな単純なことも分からないのだろうと、彼女は悲しかった。
――――嘆くだけで、私たちにはもう、どうすることもできない
ここでプラントを裏切る行為こそ、自らの首を絞める行為だ。この国難を乗り切るには、団結する必要があるのは簡単にわかる。
しかし、その方向が果たして正しいのかと言われると、疑問が離れない。その後リディアに再度地球への降下が命じられ、ニーナとの再会を果たすことになる。
スピット・ブレイクが発令されたことを宇宙で知ったアスランとフィオナは、シャトルの中で悶々としていた。
「―――――ニーナ、大丈夫かな――――」
フィオナは不安だった。どうせなら自分も残って戦闘に参加したほうがいいのではと考えていたが――――
「――――ニーナはあの戦闘を生き残った。だから信じてやるんだ。他ならぬ君が」
アスランも口ではそう言っているが、ニーナのことを大分心配していた。
「スピットブレイク……父上は焦っておられる。赤い彗星のことで、ザフト軍は甚大な被害を出した。そしてあの足つきもアラスカに辿り着いてしまった」
結局、ニコルとフィオナ、ニーナにしか、キラ・ヤマトが連合にいたことと、彼を傷つけた事実は言えなかった。無論、それは父親にも。
「―――――」
次に何を失ってしまうのか。それを考えると鬱になる。そんな彼の様子をくみ取ったのか、フィオナは微笑み、
「――――アスラン」
と声をかける。
「どうした、フィオ――――!?」
気づけば、頬にキスをされていた。
「!?!?!?!!?!」
気が動転してしまったアスラン。しかし無理に動くと彼女を傷つけてしまう恐れがある為、動けに動けないフリーズ状態だ。
「―――――プラントには、姉さまがいます。だから、これが本来の在り方で、もうすぐ私のこの行為も意味がなくなる」
「だけど、気落ちしているアスランを何とかしたかったから……ズルいよね、こんなの」
儚げに笑うフィオナ。彼女の驚きの行動で幾分か気分が戻ったが、それでも今度は逆に罪悪感を覚えていた。
ここで、アスランはラクスが自分の婚約者だと言えなかったことだ。もうすでに、彼女は赤い彗星に恋い焦がれている。それを咎めるつもりはない。彼ならば、ラクスともうまくやっていけるだろう。戦争が終われば、それは可能なはずだ。
だから、アスランも――――――
「―――――フィオナが望むなら、俺は別にいい」
もはや、関係は戻らない。なら、アスランはせめて隣にいる妹分の想いを守りたいと思ってしまった。
婚約者ではなく、フィオナ・マーベリックを守りたいと―――――
彼女のことを、愛するようになったのだ。
「――――ア、アスラン!? で、でも――――」
フィオナは狼狽する。こんなつもりではなかったのだ。アスランを元気づかせるために、自分がここでひどく振られるつもりだったのだ。
「父上には、俺が話をする」
思えば、自分で意見をぶつけたのはこれで二度目だと思ったアスラン。一つ目は言うまでもなくザフト軍への入隊。そして、その次は婚約解消と、想い人との結婚の嘆願。
その二つの理由には、フィオナがいた。彼女の為という理由があった。
――――なんだ。俺は変わらなかったのか
あの時から何一つ変わっていない。自分の戦う理由は、フィオナだったのだ。気づかなかっただけで、あの時から恐らく自分の気持ちは決まっていたのだ。
「―――――ラクスには、なんて説明しようかな―――――」
困ったようにつぶやくアスラン。しかし、なんだか元気を取り戻したようで、顔色もよくなっていた。
「お、思いっきり引っ叩かれるのがいい、と――――嫌っ、やっぱりだめ! お姉さまに怒られるのは、私一人でいいです!」
フィオナはフィオナで、覚悟を決めてしまったアスランを前にして、ぶっ壊れていたのだった。
「――――――いや、ラクスには、一緒に怒られに行こう」
「え――――?」
「俺も、もう少し我儘になるべきだったのかな」
アスランは、ほとんど空虚になってしまった心に温かいものが流れ込んでいるのが分かった。
――――キラ。もうお前は、戦場には出ないよな?
その遡ること数時間前。
「アラスカの低軌道宙域にて、ザフト軍展開。作戦が開始される寸前とみていいでしょう」
オーブ司令部では、オペレーターよりザフト軍に動きありと観測していた。
「よし、フラガ特尉に連絡だ。発進準備だ」
マスドライバー施設をもとに考案された、小規模リニアカタパルト、正式名称はタナバタ。IOB装備を想定した専用カタパルトである。
IOBの急加速は想像を絶するGを搭乗者に与える為、その安全性を実現するために大型カタパルトによる安定加速の措置が取られている。
「リニアカタパルト。IOBシークエンス開始」
「IOBストライクグリントとの接続オンライン。各ジェネレーター異常なし」
「発艦射角。30度に固定。リニアレール上昇」
「ストライクグリントの核分裂エンジン、異常値見られず。放射能汚染も見られません。排熱共に正常値」
「IOBブースター展開。リニアカタパルト、接続オンライン。射角固定。規定値に到達しました」
「IOBブースター起動確認。システムオールグリーン。発進よろし」
「ストライクグリント、発進する」
順調に加速を始めるストライクグリント。急加速をする装備ではなく、一直線への航続距離を優先したものであるため、まるで打ち上げロケットや、弾道ミサイルの様な機動だ。
しかし、徐々に加速していき、あっという間にオーブの排他的水域を通過。実戦初投入とはいえ、この加速力はシャレにならない。
司令部ではあまりの性能に息を呑む声が多数。
「IOB。これほどとは」
「あれは本当にMSなのかと疑いたくなるな」
「本体はMSですよ」
「いい加速力だ。予定よりも早く到着しそうだな。到着後にIOBは戦闘空域より離脱。後は自動制御で待機。やれるな、ノア」
『空域接近中に空中着脱。その後姿勢制御を行い、待機します。ご武運を、主』
オーブの新たなる剣が、世界に変革を齎す。
そのアークエンジェルは、この土壇場で新たなクルーの受け入れをしている最中であった。
「パリス・アップトン少尉です。以前はMAのパイロットをしていました。第八艦隊の勇名は存じております」
眼鏡をかけた、インテリな雰囲気を醸し出す青年。
「カリウス・ノット曹長です。アガメムノン級エルメスの乗組員でした。我が艦はすでにザフト軍の攻撃を受け轟沈。アークエンジェルのクルーに選ばれ光栄です」
短髪の角刈り男。筋肉質で日頃から鍛えてそうな豊かな体格の持ち主だ。
「ケネス・オズウェル曹長です。CICとしてのお役目、務めさせていただきます」
対照的なのは、理知的な性格と予想される金髪オールバックの中年男性。
「ロヴェルト・ホリソン少尉です。パナマでモビルスーツパイロットとして訓練していましたが、飛ばされました。よろしくお願いします」
赤髪で碧眼の美青年こと、ロヴェルト。まるで絵本の騎士のような二枚目男。しかしその言動はとにかくチャラかった。
「と、飛ばされた!? ど、どうして!!」
マリューたちは知っているが、アークエンジェルは見捨てられた存在だ。モビルスーツパイロットを捨て石にするなど考えられない。
「上官の一人がブルーコスモスでして―――――ちょっと諍いがありまして、相棒と一緒にここに―――――その、すいません」
苦々しい顔で、白状するホリソン少尉。なんだかエリクと気が合いそうな男だ。
「エアリス・テネフ少尉です――――よろしくお願いします」
「エアリスさん、って。訓練校の成績1位!?」
資料を一通り見た時にマリューの口が大きく開いた。モビルスーツ訓練校、卒業成績1位とかいうとんでもない拾いものを抱えてしまったアークエンジェル。
「―――――任務は果たさせていただきます。成績は関係ありません」
ツン気味な口調で、クールな空気を醸し出すエアリス。ただでさえ珍しい赤髪に、目を引くような容姿。
「―――――その、ここにはブロードウェイ大尉もいることだし、そんなに気を張らなくても――――な、エアリス?」
そこへ、フォローに入るロヴェルト。その一言で彼女も何か考えが変わったのか、硬い空気が若干柔らかくなったような気がする。
「ホリソン少尉? その、彼女は―――――」
「――――あぁ、その。俺の口からは何とも―――――「私はハーフコーディネイターです」―――というわけなんですよ、ラミアス艦長」
歯切れの悪いロヴェルトに変わり、その事実を口にするエアリス。エリクもコーディネイターだが、今度は何とハーフコーディネイターがこの船にやってきたのか。
――――まあ、今更よね。この船はいろんな人が乗っているし
今更過ぎるので、あまりインパクトはなかったマリュー。
「いいわ。私はクルーに対しては平等でありたいと思っているわ。人種については統制も迫害もしないわ」
「―――――おかしな戦艦ですね、ここは」
鉄面皮な表情が若干揺れたような気がするエアリス。隣のロヴェルトはニコニコしたままだ。
その後、工員たちも10数名補充され、コジロー・マードック曹長が人手不足から解消されると喜んでいた。
「―――――複雑だ。曰く付きばかりが増えていく―――――私もそうなのだから鬱だ――――」
ナタルは、補充要員の資料を見るたびに欝な気持になる。
アップトン少尉は、MAでの戦績はそこそこだが、被弾なしで修理が必要になるほど機体を酷使する。あの見た目に反してかなりのスピード狂らしい。
ノット曹長、オズウェル曹長は単にブルーコスモス派閥ではなく、言うなればビダルフ少将らのグループに属していたという。
ホリソン少尉とテネフ少尉に至っては、訓練校時代にトラブルが多かったらしい。テネフ少尉にちょっかいを出す同期メンバーが返り討ちに遭い、ホリソンも彼女に加勢し、大人数の訓練兵を病院送りにしたという。口止めしていたハーフコーディネイターの件も明るみに出て、腫物のようにここに流れ着いたそうだ。
ついでに、工員たちはメカニックオタクばかりだった。魔改造がしたくて辛抱たまらないらしい。
―――――まともな人員が二名しかいない
「はぁ」
「バジルール中尉。その、あまりため息ばかりつくのは、よくありませんよ」
ため息しか出ない彼女に寄り添うのは、アーノルド・ノイマン少尉。
「―――――もうこの空気に呑まれたほうがいいのか? なぁ、どうなんだ?」
「え、えぇぇ!? 中尉!?」
「私も頭を空っぽにして考えるといいのか? 私にはもう分からない」
その時だった。アラスカ基地内で警報が鳴り響いたのは――――――
「――――――このタイミングはないだろうと、君も思うだろう?」
「中尉。戦闘準備をしましょう――――――」
アラスカ基地がついに戦場となる直前、ニコルの移送の付き添いとして名乗り上げたエリクが、ニコルとともに車に向かっていた。
エリクはマリューやナタルには話していないが、アラスカにおけるある恐ろしい計画の一部を入手していた。
—————パナマからの援軍が来ても、深くまで侵入された再起不能だろうが
アラスカ基地は敵を最深部まで誘き寄せる、その後の情報が抜け落ちており、彼はそれが腑に落ちなかった。
—————まさか、ここを捨て石にするつもりか?
堅牢な要塞は脱出するのも一苦労だ。パナマからの援軍で挟撃すれば、壊滅に追い込むことはできる。が、本部ではそのような作戦は聞いていない。
—————司令部に行く理由は、あるな————
そして、いつもは能天気そうに見える彼の不穏な様子に、ニコルは気を使いつつ話しかける。
「――――――本当に、いいん、ですか?」
ニコルは、エリクに尋ねた。
「――――俺は、お前を地獄に送るために軍人になった覚えはないね。プラントには戦争できっちり落とし前をつける。民間人、捕虜には手を出さねぇ。それは俺のプライドだ」
アラスカからテキサスにある研究所まではまだ距離があるが、ここから飛行船に乗って移送されるのだ。色々な要因が重なり不安要素しかない現状において、目の前の命だけは何とかしたいという気持ちが勝っていた。
何より、エリクは自分たちを捨て石にする場合、もう従う道理はないと割り切っていた。
「―――――粗忽な物言いなのに、優しいんですね。」
その時、警報が鳴り響いた。自分の推察とマリューとニコルの話の通り、アラスカが攻撃目標だというのは本当だったようだ。
――――これで晴れて命令違反の銃殺コースか。だが、
裁く人間は司令部から脱出か――――――
エリクは、素早くニコルにかけられた手錠を外し、この場を混乱に乗じて後にする。
そして、研究施設では至る所で混乱が発生し、ふいうちを食らったかのように連合兵士が湧き出ていた。
「おいおい!! 防空網はどうなっている!?」
「なんでこんなに!? パナマではないのか!?」
「ザフトの奴らめ、俺たちの底力を見せつけてくれる!!」
錯綜する情報。先手を打たれ続ける劣勢の状況。そんな混乱の仲、二人は司令部へと急ぐ。
悲報 エリク氏、他人の女を口説く・・・ある意味似た理由を持つ者同士、感じることはあるでしょうが、これはいけません。
そして、ちゃっかり完全勝利するフィオナ。いい意味でも悪い意味でもアスランはブレません。戦闘では今回蚊帳の外のアスランですが、そんな彼の原点を象徴する話になりました。
リオン&キラ「出番は?」