機動戦士ガンダムSEED 理想の従者   作:傍観者改め、介入者

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第42話 灼熱のアラスカ 中編

アラスカ基地内で警報が鳴り響き、

 

そして彼女らは選択を強いられる。

 

「ラミアス艦長!! この船に使えるモビルスーツは何機ある!!」

 

ロヴェルトは、ラミアスに搭載されているモビルスーツの数を尋ねる。このまま単独での戦闘は無謀なのだ。

 

「ええ。デュエル二号機はブロードウェイ中尉の機体で、後は鹵獲したブリッツと、ジンが3機あるぐらいよ」

 

「なら俺はジンに乗る!! テネフ少尉にブリッツを!!」

 

「えぇぇぇ!? で、でもOSが―――――」

 

 

「そんなもん、俺専用のOSをインストールすりゃあいいんだよ。端末だってあるしな!」

 

ポケットから端末とデバイスを取り出したロヴェルト。

 

「―――――このままでは、死にに行くようなものです。私たちに出撃の許可を」

エアリスも、戦う覚悟が出来ているようだった。

 

しかし彼らはいくら成績が良くても初陣前の新兵。こんなところで彼らを出すわけにはいかない。

 

 

アークエンジェルが前線に出る間もなく、連合軍は鬼気迫る勢いで空と海からやってくるザフト軍に蹂躙されていた。

 

「ぐわぁぁぁ!!」

 

「回避!! 回避しろぉぉぉ!! うわぁぁぁぁ!!!」

 

迫りくる機動兵器の前に、連合軍艦隊は苦戦を強いられていた。次々とモビルスーツの攻撃であっさりと沈んでいく艦船を尻目に、ザフト軍がアラスカに殺到する。

 

 

「砲火を集中させろ!! 弾幕を張って近づけるな!!」

しかし、連合艦隊も負けられない。正面からの戦闘では勝ち目なしと判断した現場指揮官たちが、砲火を面制圧にシフト。如何に機動性を誇るザフト軍と言えど、これでは回避のしようがない。

 

飽和攻撃による物量の波。

 

 

「突破口を開きます! モビルスーツ隊、私に続け!!」

先陣を切るのはニーナ・エルトランド。今は亡き隊員と、本国へと召集されたアスラン、フィオナに代わり、今作戦の要となっていた。

 

勇ましい彼女の活躍と、アークエンジェル部隊との度重なる戦闘で否応なく強くなった実力に、連合軍は恐怖を覚え、ザフト軍には活力を与える。

 

今回彼女が乗るのはフィオナも乗りこなしていたゲイツ。しかもこれは連合軍のモビルスーツの技術をも取り込んだ、先行量産型。

 

「ええいっ!!」

 

一気に急降下しながら、ビームライフルで精密射撃。上空の敵に放火を集中していた連合艦船の死角に入り、一気に艦船を沈めていく。

 

「直上よりモビルスーツ!! 急降下してきます!!」

 

「いかんッ!! うちおとせぇぇ!!」

 

しかし、膨大な数を自在に操ることが可能なのは、稀有な指揮官のみ。ニーナの奇襲により、簡単に面制圧の定義が崩され、反撃する暇もなく第一防衛線を死守していた連合艦隊が壊滅した。

 

「ええい!! 第二次防衛ラインまで後退!! 後退しつつ、牽制!! 弾幕を張れ!!」

 

「アンチビーム爆雷射出! ビーム攻撃により被害を減らせ!!」

 

自力で劣り、戦闘力でも劣る連合艦隊は次第に数を減らしていく。機動兵器を出している連合軍だが、それは旧時代の遺産。

 

最新鋭の戦闘機では、最新鋭のモビルスーツに勝てる道理はない。

 

 

 

「なるほど、足つきとの戦闘で腕を上げたか。」

 

ニーナの目を見張る成長にクルーゼは微笑んだ。しかし彼女をほめるという感情から湧き出たものではない。

 

――――精々派手に暴れろ。貴様の死は、フィオナという更なる災厄を生み出す

 

しかしながら、地球連合軍の体たらくにはあきれるほかない。こうも簡単に本拠地を襲撃されるようでは情けない。

 

――――いや、固く閉ざされたアラスカ基地。不意を衝かれたとはいえ、やはり堅牢な守りだ

 

 

ならなぜ、地理的にも優れた要塞がここまでの襲撃を許すのか。

 

――――確かめる必要があるな。

 

アラスカ基地上空の一部分は手薄な場所が存在する。クルーゼは狡猾にその空域を通過し、アラスカ基地司令部へと向かう。

 

クルーゼがアラスカに侵入した時系列。それはエリクとニコルが彼を目撃した場面である。

 

「ちょっ、スピード出し過ぎです!! やっ! ちょっ、手が、手が離れちゃう!!」

ニコルが悲鳴を上げるが、エリクも別の意味で厄介な事案に悩んでいた。

 

―――――着やせするのか、この子は

 

背中にギュッと抱き着いている状態なので、彼女の膨らみを直に感じている感覚を体感しているエリク。煩悩退散と念じ、その邪な感情を排除した。

 

 

「ちっ、時間を食ったな、予想以上に。ん、あれは?」

 

その時だった。上空に一機のシグーが飛翔していたのだ。グゥルに乗っていつの間にここまで侵入したのだろうか。

 

「あれは、クルーゼ隊長の!?」

ニコルは見間違えることはない隊長だった男の機体がどうしてここまで入り込んでいるかに疑問を抱く。

 

「おかしい。確かに連合は穴だらけだが、抜け道がない限りこんな場所には―――――」

エリクも、その只ならぬことが起きていることに一つの考えが思い浮かんだ。

 

明らかにおかしい。やはり自分が垣間見たデータは真実だったかもしれない。そして彼もその事実を知っている可能性がある。

 

————もし、あの作戦内容が本当なら、今すぐに—————

 

 

「――――――エリクさん?」

ニコルは難しい表情を浮かべたエリクに対し、思わず声をかけてしまう。陽気な彼がそこまで思い詰めることがあったのだと考えたからだ。

 

「――――悪いが寄り道をする。確かめたいことがあるんでな」

アクセルをまた一段とかけるエリク。ニコルはそのこと自体に異論はない。しかし――――

 

 

「は、はいっ!! ひあっ!? でも速度落としてよぉぉ~~!!!」

可愛い悲鳴を上げながら、ニコルはエリクにギュッと抱き着きながら、この状況に耐えるのだった。

 

 

――――本当に着やせするなぁ、この子

 

エリクもエリクで、少し冷静さを失いつつあった。

 

 

司令部に辿り着いた二人は、警備兵一人いないその場所に不穏なものを感じつつ、奥へと進むことを決断する。

 

そこは異常な光景だ。アラスカ基地は連合における本拠地と言って過言ではない場所だ。それがここまで手薄になる理由を考えて場合、エリクはやはり最悪のシチュエーションを察してしまう。

 

—————おいおい、本当に捨て石かよ。ここも含めてアラスカは—————

 

「大丈夫、ですか? エリクさん?」

 

「あ。ああ。心配すんな。用が終われば逃げるからな。それで終わりだ」

 

渋い表情をしているエリクを気遣うニコル。あの快活な青年を苦しめる何かがそこにある。彼女もまた彼から言われた本部の光景に目を疑っていた。

 

—————本当に、ここが本部、なのかな。人の気配がなさすぎます

 

「しまった、忘れていた。おい、手を出せ」

エリクは思い出したようにニコルに手を前に出すよう指示する。促された彼女は彼の言葉のままに手を出しだすと、

 

ガシャン

 

エリクは捕虜であるニコルの手錠を外したのだ。

 

 

「え、エリクさん!? な、なにを!?」

 

実はもうバイクに乗っていた時点でエリクは彼女の手錠を外していた。しかし、降りた際に怪しまれると不味いので、手錠をかけなおしていたのだ。そして彼女は察した。もう手錠をしている余裕はなくなったのだと。

 

「もし俺の予想が正しければ、手錠をしている暇はねぇからな」

真剣な瞳で話すエリク。ニコルはそこまで彼が言うのだから、おとなしくしておこうと決めた。

 

 

司令部には見張りはおらず、通路に至る所にも、兵士らしい影が存在しない。ほぼ無人と言っていい。

 

―――――ああ。こりゃあ、予想は当たったかもな―――――

 

 

その時だ。通路の奥が分から影が見えたのだ。慌ててニコルの手を引いて隠れたエリクと、それに従うニコルは、その人物を見て驚愕した。

 

―――――仮面の、男!? まさか、大尉の―――――

 

金髪の、仮面の男。ザフトの軍服に身を包むここにいてはならない存在がいた。

 

――――クルーゼ隊長!? なぜこんな場所に。

 

ここで躍り出るのが賢明かもしれない、と考えたニコルだが、余計な混乱を生むだけだと諦める。なぜ死んだはずの自分が連合軍の基地で、自由を許されているのか。

 

その理由はエリクの厚意あってのことだが、隊長はそんな甘い人間ではない。最悪銃を突きつけられるだろうし、エリクの調べものという事柄も無視できない。

 

ニコルもまた、司令部の状態に何かを感じ取っていた。

 

――――アラスカ基地、なのですよね? ここは…

 

地球連合軍の本拠地なのに、この人の無さはやはり怪しすぎる。

 

「――――悪い嬢ちゃん。奴とは今、事を構える暇はないんだ……」

エリクは、折角友軍と合流できるチャンスだったニコルに一言入れる。チャンスだったはずなのに、彼女は動かなかった。それを彼は不思議に思っていたのだ。

 

「私たちは、まだ調べないといけないことがありますから。エリクさんの調べたいこと、そして私の疑問は、おそらく同じです」

 

 

「―――――悪いな」

 

そして、二人はクルーゼが見ていたものを見てしまった。無人の指令室の大画面に映っていたサイクロプスの設置場所、今回の作戦のこと。

 

 

その全てが――――――

 

「――――――こりゃあ、オーブに泣きつくしかないな……」

 

しっかりとデータを引き抜き、エリクは戦後の証拠とするべく、とれるだけの範囲の機密を奪い取った。これでもう、言い逃れは出来ないだろう。

 

そして、亡命先はオーブかスカンジナビアになるだろうと予想していた。

 

「そんな……味方ごとなんて……」

ニコルは、そんな捨て石にされた連合軍守備軍と、何も知らずに攻め込んでいるザフト軍を想い、涙する。

 

そんな彼女の様子を見ていたエリクは、

 

――――本当、いい子だよなぁ、この子

 

ちょっと死なせたくなくなった、どころではない。死なせたくない。

 

「とりあえず、格納庫に行くぞ。早くここから脱出する」

 

「は、はい……っ」

 

ニコルはまたバイクに乗ってあの爆走を経験するのだが、この際贅沢は言えない。起動した瞬間に死ぬことが確定しているのだ。急いでここを離れる必要がある。

 

――――でも、私ってこの場合どうなるのかな

 

アークエンジェルが連合軍でなくなれば、自分はもう捕虜ではなくなる。

 

――――私は、どうしたいんだろう

 

アスランに会いたい、はずなのに――――――

 

その時、銀色の乙女の姿が見えてしまった彼女は、何か胸の中でチクリとした感覚を覚えるが、エリクの無茶過ぎるライディングテクニックに圧殺されるのだった。

 

「もういやぁぁぁぁ!!!!!」

悲鳴を上げながらエリクにまた抱き着くニコル。

 

「大丈夫だって!! 手錠で固定したし! 今度も振り落とされないって!!」

涼しい顔のエリク。大丈夫、安全だと言い聞かせるが、彼女の反抗は行きよりも激しかった。

 

「手錠の使い方違いますぅぅぅぅ!!!!!」

 

 

 

そして混迷窮まるアラスカに急行するリオンは、何か女性の悲鳴のようなものを感じていた。

 

 

『?? 主、どうされましたか?』

 

「いや、酷く情けなく、可愛らしい悲鳴が聞こえたような」

 

『世界中で悲鳴は出ていますでしょうに。特別なことではないかと』

 

「そうだな。気にすることではないな」

 

 

 

 

そんなドタバタにアラスカ脱出劇を敢行する二人は、何とか格納庫で戦闘機を発見し、そのままアラスカの第二防衛ラインへと急行していた。

 

第一防衛ラインはすでに突破され、メインゲートに少しずつ接近されている。連合軍はまともな準備などできずに、必死に防衛ラインを構築しているが―――――

 

 

「くっ、どんどん空から突破されているな」

 

低空飛行を続けながら、エリクはザフト軍がメインゲートに突入している光景を目の当たりにしていた。

 

「ちょっ、こんな海面近くの飛行なんて!! いくら、捕捉される危険があるからって―――っ!」

アラートが鳴り響くコックピットの中で、サブシートに座って悶えるニコル。目をきつく閉じており、衝撃に体を震わせていた。

 

 

バイクで危険運転をしたうえで、今度は危険飛行。ニコルのメンタルはぼろぼろだった。

 

「ちょっと乗り心地は最悪だが、しっかり捕まっていろよ!!」

操縦桿を握るエリクは闘志あふれる限界ギリギリの飛行を続ける。アドレナリンが出ているのだろう。額に汗が垂れている。

 

「ちょっとどころじゃないよぅ!!」

悲鳴を上げながら、ニコルは訴える。しかし同時に、足つきのエースを張っていたパイロットは修羅場を潜り抜けているだけあって、実は安心感を覚えていた。

 

――――破天荒すぎるよぉぉ!! でも、今はこれが最善だけど……

 

しかし本心は隠せないものだ。

 

――――生き残ったら、絶対ッ、絶対ッ!!! 文句を言ってやるんだからぁぁあ!!

 

「絶対に、文句を言うんだからね!!」

思わず本音が出てしまっていた。

 

「え?」

 

「あ」

可愛らしい言葉に、エリクはそれ以上何も言わず、ニコルも恥ずかしさで何も言わなくなった。

 

――――もういっそ、殺してぇぇぇぇぇ!!!!!

 

 

 

 

そんな超低空飛行を続ける戦闘機を彼女が捕捉したのは何という皮肉なのだろう。

 

 

「―――――なんなの!? あの戦闘機!!」

 

ゲイツのメインカメラからそのおかしな挙動をしている戦闘機を補足したニーナは、その高解像に処理された画像を見て、顔面蒼白となった。

 

―――――ニコル、さん?

 

乗っているのは、若い男性と、泣きながらしがみついているように見える彼女の姿。

 

――――まさか連合の捕虜に? でも、じゃあなんでこの戦闘中に――――!?

 

意味が分からない。今連合兵士と思われる座席にしがみついている理由も、どうしてこんな戦場に彼女が出られているのか、どこへ向かおうとしているのか。

 

 

戦意を瞬間的に失ったニーナは、ただその戦闘機を尾行することしかできなかった。

 

「ニーナ!? まあいい。彼女のおかげでメインゲートは陥落した。突入するぞ!!」

 

他の部隊は、彼女の突拍子もない行動に唖然とするが、構わずアラスカ最深部へと侵攻していく。

 

「しかし、さすがはザラ隊だ。練度は段違いだ」

 

 

「やはりあの世代は優秀だな」

 

 

一方、アラスカからの脱出を画策しているアークエンジェルは出来る限り戦線から離脱する必要があるのだが―――――

 

「艦長、このまま戦闘を続行してもこの性能差では―――――」

 

次々と落とされる味方を見て歯噛みするラミアス艦長。甲板には

 

「くそっ、数が多すぎる!」

 

「弾薬は有限。弾幕と同期攻撃すれば……」

 

ロヴェルト少尉とテネフ少尉の迎撃行動により、何とか血路を開くことは出来ているアークエンジェル。しかし、友軍を助ける余裕がないのが実情だ。

 

「ん!? 戦闘機? なんであんな海面すれすれを―――――」

ロヴェルトには分からないが、それにエリクとニコルが乗っている。

 

 

程なくしてエリクからアークエンジェルに通信が入る。

 

「こちらブロードウェイ大尉だ!! 応答してくれ、アークエンジェル!」

切羽詰まった顔が映し出される。突然の通信にラミアス以下、クルーは驚く。

 

「ブロードウェイ大尉!? その戦闘機は!? いえ、それによくご無事で――――」

ラミアスも、この襲撃の中単独で合流できる彼のバイタリティには驚く。しかし、その彼が深刻そうにしているだけでも大ごとだ。

 

「とりあえず話は船の中だ!! 着艦させてくれ!」

 

「わ、わかりました。第二カタパルトを開きます!」

 

通信が切れ、エリクの要請に少しため息が出たラミアス。

 

「――――急襲以上に、何があるというのよ……」

 

緊急着艦で戦闘機はぼろぼろになったが、その機体からエリクとニコルが飛び降りたのだ。

 

「え!? じょ、嬢ちゃん!?」

 

「ごめんなさい!! 後で必ず説明しますから!!」

それだけ言うと、エリクの後を追って走り去ってしまう。呆気に取られている整備班の面々。彼女を知る者たちは、なぜだか彼女を信用出来た。

 

だから、手荒な真似もしなかった。

 

 

「艦長!! 大変だ!! サイクロプスが!!」

エリクもエリクで冷静ではなかった。いきなり主語を抜かした物言いに、困惑するナタルとラミアス。

 

「え、えぇ!?」

 

「サイクロプス!? 一体どういうことだ!!」

ナタルも、ラミアスと同様にいきなり変なことを言い出したエリクに不審な目を向ける。

 

「エリクさん! 主語が抜けてます!! 実は、アラスカ基地の地下に、大量のサイクロプスが埋まっているんです!!」

ニコルが代わりにきちんと説明をする羽目に。横では「そうなんだ。半径10キロが範囲なんだよ!」と騒いでいた。

 

「な、バカな!? アラスカ基地だぞ!! そこを捨て石にするなど――――」

ナタルも、これまで堅牢を誇ったアラスカが、こんな使われ方をするとは想像できなかった為、憤りを隠せない。

 

「でも事実なんです!! 司令部はもう人一人いませんでしたし――――」

ニコルも、尚も信用してくれないナタルに、食い下がる。このまま死ぬつもりもないし、アークエンジェルの人たちにも死んでほしくない、そう思えてしまっていた。

 

「アラスカの奴らはもう脱出済みだ!! パナマからの援軍は間に合わない! 守備軍は全滅し、ゲートを突破され、施設の破棄もかねてサイクロプスでザフト軍もろとも破壊しつくす気だ! 正気じゃないぜ、こんな作戦!!」

 

 

「そんな――――――」

ナタルは額に手を押え、しばらく無言になる。今まで信じてきたもの、積み重ねてきたものをすべて否定されたような感覚に、目眩がしたのだ。

 

そんなナタルを見て心が痛んだニコルは、ここでラミアスに提案する。

 

「おそらく、ここにいる守備軍は、ユーラシア連邦と―――――貴方方のような、上層部に切り捨てられた部隊です」

 

 

「―――――残る意味なんて、もう――――ないですよ―――――」

しかし、最後の一言を言った瞬間に目を逸らしてしまった。彼らは軍人だ。自分よりもその軍歴は長い。だからこそ痛いほど理解できる。

 

長年信じたものが、裏切った瞬間など、本当は理解したくもなかった。

 

「―――――だったら!!」

 

その時だ。カリウス・ノット曹長が叫んだ。

 

「戦艦レゲートっていう名前なんだ! そこは戦艦を失った第八艦隊の面々がまとめて残っているんだ!! そいつらにも連絡してくれ!!!」

仲間を救いたい一心で、ノット曹長は叫んだ。レゲートという戦艦に精鋭の部隊だった第八艦隊の一部が存在する。それはラミアスをも動揺させた。

 

「――――なんですって!? なぜ宇宙軍のクルーが―――――まさかそれも――――」

 

 

「―――――俺らの所属はいいから、ノット曹長の同僚だけでも救えないのか?」

ここで、ケネス・オズウェル曹長がノット曹長の願いを聞き入れるよう嘆願する。

 

次第にその声は大きくなる。

 

「私からも頼む! 信頼できる戦艦にありつけて、その同僚であるなら、私にとっての仲間と同義だ」

パリス・アップトン少尉も、二人の意見に同調する。彼は現在、アークエンジェルで鹵獲していたジンに乗って迎撃行動に参加している。

 

「幸いにも、レゲートは近くの海域にいます。手が届かない範囲ではないですよ!」

パル曹長も、同じ第八艦隊がそこにいるなら救いたいと心を共にしていた。

 

「艦長!!」

チャンドラ曹長が叫ぶ。どうするのかと。

 

「――――――ザフト軍を誘い込むという当初の命令は、すでにその任を果たしたものだと判断しますッ」

 

ここからはもう出任せだ。何を言おうが困難な道が待っている。

 

「なおこれは、アークエンジェル艦長、マリュー・ラミアスの独断であり、乗員には一切、責任はありませんっ!」

 

言い切ったマリュー。これでもう後戻りはできない。

 

「――――これより我が艦は、第八艦隊の一部クルーが乗艦する、戦艦レゲートを救出し、速やかに現海域を離脱します!」

 

「――――気張るなよ、艦長。俺もデュエル二号機で出る。最強の裏切り者の力、このアラスカで見せつけてやるよ!」

 

「――――頼りにしています」

言葉少なめに、ラミアスはエリクに感謝の言葉を述べる。ここで計算できる戦力が加わったことは大きい。

 

「ニコルはとりあえず待っとけ。生き残ればお仲間にも会えるさ」

 

「はい――――――ご武運を――――」

いくらか間が空いたが、ニコルもエリクのことは気にかけているようだった。

 

 

「さぁてと! 友軍救出をパパっとしようじゃねぇか!!」

 

 

エリクが走り去るのを見ていることしかできないニコル。今の彼女にはモビルスーツに乗る権限もない。

 

「――――――――――」

 

 

「―――――特別に、ブリッジにいることを許可します。尤も、もう我が艦は正規の部隊ではないのだけれど―――――」

微笑んだラミアス。それを見たニコルは無言でうなずくと、邪魔にならない場所でエリクの姿を見守ることにしたのだ。

 

 

そしてすぐに、ラミアスはレゲートに打電。通信を開くのだった。

 

 

当然、彼らもサイクロプスの件は寝耳に水であり、動揺もした。しかし彼女らほどではなく、すぐに冷静になったので、

 

「すまない。先ほどのグーン部隊の猛攻を受け、そちらの速度に追従しきれん。」

第八艦隊ではないが、切り捨てられた温厚そうな艦長。

 

その名を、ジョーン・ケストラル大尉。海の益荒男と呼ばれた名艦長である。しかし、時代の流れにはついていけず、その運命は今にも消えそうだった。

 

「ならば、乗員をこちらに! 最悪船を乗り捨ててでも――――!!」

 

 

「だが戦闘中だ。貴官らまで巻き添えにするわけには―――――」

渋い顔をするケストラル大尉。その申し出はありがたい。しかし、この状況では厳しいと考えていた。

 

「だったら!! 私がその輸送を手伝います!! 戦闘ではないですから私にだって!!」

ニコルがここで意見したのだ。自分はもう捕虜ではないし、彼らの命令に従う義理もない。だが、こんなものを見せられて黙ってみてられるほど、機械的にはなれなかった。

 

「ん? ザフト軍の―――――まあいい。そこまで言われたのだ。君たちに我々の命を預けよう」

ここまで言われたからには、もう断れなかった。ケストラル大尉はアークエンジェルの提案を受け入れた。

 

 

だからこそ、今から出撃しようとしていたエリクは、ジンに乗り込んでいるニコルを見て驚いていた。

 

「嬢ちゃん!? どういうことだ、艦長!!」

 

「戦艦レゲートの乗組員の救出作業です! 彼女には戦闘を行わせません!」

 

 

「くっ、アップトン中尉とテネフ少尉で守らせろ!! ホリソン少尉はアークエンジェルに近づく敵を討ち続けろ!!」

リオンの気持ちが何となく理解できたエリク。無茶ぶりに不満はないが、こういう立場だったのだと思い知る。

 

 

「ごめんなさい!! でも私、できることはやろうって――――」

ニコルがエリクに謝ろうとするが、

 

「それはあとだ!! 嬢ちゃんは絶対に危ないことをするなよ!! 戦闘は俺たちに任せろ!!」

 

 

「はいっ!!」

 

 

「APU起動、デュエル二号機、リニアカタパルトへ。カタパルト接続。進路クリアー。オールグリーン。頼みます、大尉!」

 

 

「了解だ、エリク・ブロードウェイ、デュエル二号機、出るっ!!」

 

その声とともに出撃するエリク。完全フル武装のデュエル二号機。飛翔能力を手に入れ、課題のエネルギーも、エネルギーパックを取り付ける突貫仕様だ。

 

続いてニコル機が出る。

 

「ザフトの嬢ちゃんも、無茶だけはするなよ。」

 

「分かりました!! ニコル・アマルフィ。救出任務を敢行します!」

 

 

 

 

その海域。アークエンジェルの近くまでやってきたニーナは困惑していた。

 

「アークエンジェル!? こんな片隅にこんな大物が―――――」

 

あの戦闘機が乗り込んだのも、この船だ。ならこの中にニコル先輩がいるということになる。

 

 

――――どうしよう。このまま追撃をしないのも―――――

 

しかし、彼女の意思とは関係なく、ザフト軍は憎い仇敵を見た瞬間にスイッチが入る。

 

「アークエンジェルだと!! あの大物を狙うぞ!!」

 

「奴らを討って。希望も何もないことを教えてやる」

 

ザフト軍はここで怨念返しとばかりに彼女らに襲い掛かるが――――――

 

 

「!?」

 

「ぐわっ!」

 

一緒に襲撃していた2機が瞬く間に撃ち落とされた。よく見ると、直下からホバー移動で動き続ける赤い機体がいることに気づいた。

 

「あ、あれは」

 

「赤い彗星!? まさか、あんなところに―――――!!」

動揺を隠せないザフト軍。赤い機体、ツインアイ、2本角。あれはまさしく、自軍を苦しめ続けた宿敵であり、数々のモビルスーツを撃破したエース。

 

迂闊に飛び込まなくなったザフト軍を尻目に、エリクは戦意を高く攻めかかる。

 

「こっちもいろいろ守らないといけないものがあるからな。圧倒させてもらうぞ!!」

 

直下からの精密射撃で、無駄撃ちをせず、エリクは敵モビルスーツ群へと突撃を仕掛ける。

 

 

―――――これが、お前の背負っていたモノなんだな。

 

彼のようにうまくは出来ない。うち漏らしも存在する。

 

 

「大尉!! 左です!!」

 

ホリソン少尉の援護射撃。それが正確に敵モビルスーツの胸部を射抜き、撃墜する。そのモビルスーツはエリクの左から襲い掛かろうとしていたのだ。

 

――――新入りに助けられたな

 

 

「嬢ちゃんのほうは!? 救出作業はどうなっている?」

 

「まだ開始をしたばかりよ! まず第一班を輸送中だわ! まだまだ時間がかかるみたい」

 

「そうかっ!! 了解した!!」

 

 

レゲートは敵の集中砲火こそ受けていないが、テネフ少尉とアップルトン少尉は、物量の差に押し切られつつあった。

 

「数だけ多い。ザフト軍の地上部隊の総力が、ここになんて―――――っ」

汗が顔に滲み始めたテネフ少尉。先ほどから警報音が鳴りやまない。

 

「くっ、飛翔できないハンデが大きすぎるか」

アップトン少尉も、ブリッツにこそ乗り込んでいるが、その特性をうまく利用できずにいた。

 

今はまだ何とかなっているが、エリクのデュエルがエネルギー切れになった瞬間に瓦解する。節約して戦っているが、それもいつまでも持つのか―――――

 

 

「迎撃網を突破した機体が!!」

 

「なんですって!! 急いで迎撃を!!」

 

その時だった。テネフ少尉が一機だけ撃ち漏らしてしまったのだ。迎撃網を潜り抜けたシグーがアークエンジェルではなく、退艦中のレゲートに襲い掛かる。

 

「やめろ、手を出すな!!! 退艦中の船に手を出すか、外道!!」

汚い言葉で罵りながら、テネフ少尉がライフルで連撃するが、当たらない。実戦経験の浅さが彼女の致命的な失敗を誘発したのだ。

 

 

「へっ!! 戦場で逃げ出す腰抜けめ!!」

ザフト軍兵士としては、自軍の兵器が良いように扱われていることが我慢できなかった。

 

そして、自分たちの機体でその救助作業を行っているジンに向けて―――――

 

その銃口が固定したのだ。

 

 

警報音とともに、ニコルがその方向に機体のメインカメラを動かしたときには――――

 

―――――あっ、

 

ロックオンされている。ここで回避も可能だが、輸送中のコンテナにいる乗組員を傷つけてしまう。

 

それを座して待つはずがないエリク。しかし彼もまた包囲されつつあった。

 

「くそっ!! ニコルっ!! やめろ、バカ野郎ッ!!!」

慌てて作業中の彼女のほうへと近づくが、

 

「慌てんなよ、赤い彗星!!」

 

「俺らは片手間か!! 調子に乗るな!!」

 

「くそっ、邪魔だ!!」

ビームライフルで敵を撃破しつつ、後退するのだが、彼が戻る前に彼女が殺されてしまうのは予測できてしまった。

 

 

「ごめん、ね………」

 

その一瞬の躊躇が、彼女に回避という判断も鈍らせてしまったのだ。

 

 

「やめろぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

通信から、彼の悲痛な叫び声が聞こえた。それが悲しくもあり、なぜだか嬉しくもあった。嬢ちゃんという呼び方ではなく、自分の名前を叫んでくれたことが、どこか嬉しかったのだ。

 

あの軽薄そうな青年は、やはり優しい心の持ち主で、自分と同じような理由で戦場を選んでいた。敵味方に分かれたとはいえ、彼のような人に巡り合えて、親近感がわいた。

 

 

しかし、その思いはもうすぐ無意味になる。

 

 

―――――ごめん、私。もう……

 

それは誰に対してのものだったのだろうか。ニコルは心の中で自分の運命が潰えたことを悟り、目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

「諦めるのはまだ早いぞ」

 

 

 

 

一筋の桃色の閃光がシグーの胸部を撃ち抜いたのだ。浮力を失った機体はそのまま海面に沈んでいき、大きな水しぶきを上げたのだ。

 

 

「な、なにが―――――」

 

 

見たこともない機体だった。いや、正確にはストライクの系譜を受け継いだかのような奇抜な機体。

 

 

正確には姿を負えなかった。その機体はあまりにも早くその空域を飛び回り、次々とザフト軍を葬り去っていく。

 

「な?!」

 

「っ!? ああぁ!?」

 

「こいつはいっ――――」

 

そして目を引く早撃ち。あんな芸当が出来て、なおかつ一発の無駄玉もなく当てられる人物。あまりの早業、あまりの神業は、見ているものからしてみれば簡単そうに見える。

 

難しいと思わせる動きを一つも感じさせなかった乱入者の姿は、この戦場において、いい意味で場違いだった。

 

 

 

程なくして周辺にいたザフト軍機は全滅し、そのさらに外側にいたニーナは、悪夢が現実になったと恐怖した。

 

 

 

 

―――――まさか、あのパイロットは――――――

 

 

 

 

「待たせたな」

 

青年は微笑んだ。大天使の姿を見て彼は優し気な視線を送っていた。

 

 

 

 

ニーナの目の前に、最強が降臨したのだ。

 

 

 

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