機動戦士ガンダムSEED 理想の従者 作:傍観者改め、介入者
プロローグ 蒼い瞳は・・・
遥か彼方、遠い宇宙の記憶を彼は持っている。私には想像もつかない重荷を背負う少年は、その因果に抗うと決めた。
いずれ来る、適応の瞬間まで。それが私にはどうしても納得できない。果たしてその因果は世界を導く存在なのか。叔父が語った一人の天才、我々を栄えさせた要因ともいえる男の名。
その男の記憶と思想は、果たしてこの世界に必要なものなのかがわからない。むしろ私にはそれは害悪に思えてならないのだ。
確かに叔父の思想に理解がないわけではない。この世界の暗雲を打破するためには、普通の存在では到底成し遂げられないだろう。
そう、今の世紀はかつての教訓を忘れ、今まさに再び戦乱の時を迎えようとしているのだから。
その世界はまるで、この世界の未来を暗示しているかのような、惨憺たるもので、数多の命が無残に消えていく。
何度英雄が現れても、何度平和が訪れようとも、
世界は再び、平和の花を散らせていく。
C.E65年。忌まわしい別世界の年号と意味は同じ、宇宙を表す世紀。人類が宇宙へ進出し始めた、輝かしく、そして不穏な時代が近づく時代。
その夜に、彼はすべてを語ってくれた。彼が見えるもの、彼がもっている記録、そして、彼のできること。
コズミック・イラという時代は、今の私たちにはすっかりなじみのある年号だろう。西暦という言葉はすでに過去のものと化し、歴史を習うような感覚ほどに遠いものとなっている。
その今の世紀に至るまで、さまざまな悲劇があったことを、漠然と知りながら。
今世紀の幕開けを告げたのは、人間らしく悲劇から齎された。
世にいう再構築戦争。
今の世界群を作り出した原因である、第三次世界大戦。第二次世界大戦の教訓を忘れ、ブロック経済圏による対立。
激化する再編戦争。多くの文化と国名が失われ、巨大な世界群を形作る血肉と化す。おそらく、固有の文化の多くはこの時点で失われていっただろう。
いつも人類は気づくことに遅れ、コズミック・イラ元年ともいうべき年に、最後の核が落とされた。その頃には新型インフルエンザが猛威を振るい、多数の民間人を死に至らしめる人類史に残る難病も存在した。
人類は、2度目の絶滅の危機を迎えていたのだ。これ以上の戦闘に意味はなく、自らの首を絞める以外に他ならないと。
人類は二度と戦争の悲劇を踏まない。第二次世界大戦の教訓を忘れない。この戦争により、多くの文化と宗教は失われ、時代に適した新たな文化も台頭した。
人類は適応した。過去の因果を乗り越え、新たな世紀、コズミック・イラの時代へ突入したのだと、人々は祝福をもってこれを歓迎した。
そしてC.E60年一人の少年の話をしよう。私は彼に出会い、多くの驚きと、叔父の狂気を知った。
フラガの分家として、そしてのちの本家当主としての私、キュアン・フラガの残した手記として、この出会いを記そう。
私は分家の当主として、本家がニューヨークにて消滅した際の事後処理、引継ぎを行っていた。C.E59年10月に起きた、本家を襲った悲劇。
何者かによって当主夫妻は襲われ、その使用人の悉くは死に絶えた。ゆえに、誰が何のためにフラガ家を襲撃したかは皆目見当がつかなかった。
残されていたのは、焼け落ちる運命にあった家から脱出した、ただ一人の少年。齢7歳にして、危険地帯であったはずの死地から生還した力。
それが私にはどうにも運だけでは説明がつかない。精神的に落ち着いたタイミングを見計らい、私は大火災について尋ねたのだ。
「――――――使用人に助けられた。だから、無意味に死ねなかった。そのまま楽になるわけにはいかなかった」
その年齢には酷すぎる想い。私にとっては重い言葉が、室内に響いた。
「意味を知りたい。俺が生まれた理由、あの人の思いをわかるために」
彼は何を見てきたというのだ。これは一種のサバイバーズ・ギルトなのだろうか。なら、無駄ではなかったと証明する、というのはどういうことなのか。
それを知ったのは、その翌年の年始。叔父が何をしていたのか。膨大な金額を投資した先に何があったのかを知った。
そして、分家には知り得ない。我々の手には収まりきらない、世界を揺るがしかねない遺産。
「―――――狂っている。一人の天才などという時代はとうに過ぎ去っている。多くの人間の努力によって事を為し、時代を切り開く。その天才をいくら作ったとしても、それはあくまで作られたものだ。」
我々も、今でこそ本家扱いではあるが、分家の時期は華やかなものではなかった。知恵を絞り、家を残すために事業を為す。そのためには猫の手も借りる事も厭わなかった。立場の違う者に頭を下げるなど日常茶飯事だと思わなければならない。
我々は万能ではない。我々は一人で何かを成し遂げることはできない。必ず、ひな形のアイディアが生み出され、人々に評価されたからこそ、天才と呼ばれる者たちは、偉業を成し遂げている。評価されなければ、理解されない天才は、残念ながら報われない。
私の叔父は当時、遺伝子研究のメッカ、L5のコロニー「メンデル」を頻繁に訪れていた。
そこで彼は、コーディネイター出産を一大産業としていたGARMR&Dの研究所の主任研究員であったヒビキ博士に、自分のクローン制作を依頼したのだ。
その多くは失敗作の烙印を押され、廃棄された。その多くは行方が知らず、新生本家の総力を挙げて、その子供たちを捜索したが、その悉くは既に息絶え、助け出すことが出来なかった。
もう、生き残りもいないだろう。それに、私たちが何かをしても、きっと彼らはそれを望まないはずだ。我々は、彼らにとっては試練ばかりを与えた悪魔なのだから。
業を煮やした叔父は、分家の一人であり、私の従妹に当たる者と結び、いわゆる近親婚に近い形で次男を作った。それが、彼だった。
リオン・フラガ。それが彼の名前。いまだ独身の私は、かつての両親のように子育てをした経験はない。父の死後、受け継いだこの家の跡取りとして、並びに本家の当主を受け持つ私には、荷が重いものだった。
だが、せめて彼には隣に誰かがいてほしい。オーブ代表の息女と、あまり年が変わらなかったのは幸いだったと今でも思う。そして、引き合わせてよかったと心から思う。
しかし、私が彼を保護するだけでは足りない。リオン・フラガという存在はあの大火災で死んだ、ということになっている今の状況を利用し、彼には別の名前でしばらく過ごしてもらう。
彼が何を為すかを決めるまで、彼の根っこが決まるまで。
後に、リオン・フラガの生存説、故人説というものが混ざり合い、彼にとって都合のいい状況が生み出されるのだが、それは今の私が知る由もない。
C.E65年になり。ついに、あの夜を迎えた。
彼はもう13歳になった。もともと大人びていた彼は、何か遠くを見るような目で、いつも空を眺めていた。
「遠くに行っちゃうかもしれない! あいつ最近おかしいよ!」
2歳年下の友人、移り住んでからは家族ぐるみの付き合いとなったオーブの獅子の息女が、リオンの様子を明かしてくれた。
「――――――俺には、この世界にはない誰かの記憶があるんです」
ついに頭がおかしくなった、とは思わない。すでに彼が何らかの形であの遺産にかかわっていることは予想できた。
「――――そうか」
私はただ、相槌を打つことしかできなかった。
「――――驚かないんですね。同年代の人には信じてもらえないと思ったので、今まで黙っていました。すいませんでした」
寂しそうに、ほっとしたような笑みを作ると、リオンは続ける。
「その人は――――俺から見るとひどく情けない男です。彼は、ある人を深く愛していた。彼がそれを自覚したのは彼女が死んでから。本当に救いようのない話です。」
「……それからでしょうね、彼が狂い始めたのは。彼は復讐を為したかったのか、それとも平和な世界が欲しかったのか。彼女を信じ、人々の可能性を信じたかったのか、彼は多くの因果を背負い、この世界に流れ着いていました。」
そうだ。彼は彼の愛機と、好敵手の機体とともにこの世界に流れ着いた。すでに好敵手は虫の息で、すべてを失い、自分の生まれた世界を救ったことを確信し、息絶えた。
好敵手はフラガ家の手によって手厚く埋葬され、好敵手を失った彼は、紆余曲折を経て当時の女当主と交わった。
だから今、オーブにその遺産はあるのだ。彼が生きた証、リオンを説明する事実は。
「――――最後まで、彼は絶望していた。もうこんなことはしない、こんなことは繰り返したくない。何度叫ぼうと人類はそれを理解できなかったと。自分自身の在り方も呪いながら、彼は逝きました。」
悲しそうな顔で、男の最後を語る。断末魔に近い、男の後悔。幼い彼には酷なものだろう。
「俺は、その思いを受け取った。死ぬわけにはいかなかったのは、彼の無念を知っているから。この思いを忘れるわけにはいかないと考えたから。世界を思う心が重なって、みんなを救った人がいたことを知っているから」
「――――だから、このままではいけない。俺は、早く大人にならないといけない。何もできない自分が悔しいんです。」
今の俺には、空を見上げることしかできない、彼はそう言って苦笑する。
私は、何も言えなかった。
この時、私は彼の思いを否定するべきだった。ここで引き留めなければならなかった。
彼の思いを尊重するべきではなかった。
まさかそれが、彼女らを悲しめる結末になるとは考えてもいなかったのだから。
恐らく、前作よりも救いはありません。
今回の彼は主要人物であり、主人公気質ではありません。
主人公度が下がり、畜生度が上がりました。
そして前作には出てこなかったキュアン・フラガという人物は、リオンというキャラをより自由に描くために生まれたキャラクターです。
フラガ家当主であり、分家でもある彼は光です。対して、リオンは影という立ち位置になります。
端的に言うと、語り部です。龍馬伝の岩崎弥太郎ポジションな感じです。