機動戦士ガンダムSEED 理想の従者 作:傍観者改め、介入者
穏健派は直前で転進し、コンプトン基地へと引き返す。しかしザフト軍には穏健派は主力モビルスーツを多数配備しているという強烈な牽制を与えることが出来た。
何しろ、あの仇敵とも言えるストライクをベースにした量産機なのだ。もし、背後から強襲された場合、敗走は必至だろう。
「どうやら、穏健派は積極的な戦闘は望んでいないようだ。地上にいるニーナたちと急いで合流しなければ―――――」
ジャスティスを駆るアスランは、機体とともに大気圏へと突入する。この最新鋭の機体は、単独での突入を可能としており、万能機としての性能は一線を画すものを備えている。よって、兄妹機であるフリーダムにもそれは継承されている。
「—————嫌な予感がします。アラスカを放置した連合が、パナマを無防備にするはずがない」
恐らく、アラスカ以上の激戦区となる。地上との連携が不十分なまま、穏健派を警戒していた宇宙軍は、進軍計画が狂ってしまったのだ。
恐らく、すでに地上軍は戦闘状態に入っているだろう。
「こちら、フリーダム。これよりジャスティスとともに単独での大気圏突入を敢行します。ポッドの降下地点を確保します」
「ジャスティス、その任に追随する。行動開始」
パナマは連合の本拠地と言っていい。今、どれだけの戦闘が起きているのか。
―――――すでに、グングニールは降下済み。予定通りなら――――――
突入中に、フィオナは不安を隠せなかった。いくら計画上では完勝できると言われても、
「ジャスティス、フリーダム!! 応答せよ! こちら、コンスコン! 地上に降下したグングニールのマーカーが消え始めている!! 急いでくれ!!」
そんな時だった。作戦の要であったグングニールが破壊されているという途中経過。ザフト軍の勝利を後押しするそのやりが無力化されている恐ろしい事実に、
「急ぐぞ、フィオナ! 何かがおかしい。パナマには何かがいる」
アスランも、パナマで何が起きているのかが分からないでいる。Nジャマーの影響で通信が安定しない状況下だ。援護に向かいたいが、状況を把握しきれていない。
両機はついに大気圏を抜け、パナマ上空に突入した。地上では戦闘の爆発と思われる煙も見受けられ、尚も戦闘行動が継続されているのが分かる。
「地上部隊、聞こえるか!? こちらジャスティス。状況を報告せよ!」
アスランはチャンネルを開き、友軍機に呼びかける。が、
「な、なんだあいつは! ぐわぁぁぁぁ!!!」
「早すぎッ あぁぁぁぁあ!!!!」
「く、来るな来るな来るな!!! ぎゃぁ゛ぁ゛ぁぁあ!!!!」
アスランが聞いたのは、地獄の釜に引きずり込まれる友軍の断末魔だった。
「「!!!」」
パナマ近海に展開していたはずの友軍は、蹂躙されていた。
「連合の新型!? 迎撃する!!」
スラスターを吹かせ、新型に追随するアスラン。あの素早く飛び回る機体が遊撃として友軍を苦しめているのは明白だった。
「あん? 今度は赤い奴!? ははっ、面白れぇェェ!!」
赤髪の少年と言えなくもない新型の機体――――――
GAT-X370レイダーに駆るパイロットのクロト・ブエルは強襲した敵を前に笑みを浮かべる。
「新たな敵機体を補足。これより迎撃する」
そして、灰色の機体に乗る青年、“エクステンデットはジャスティスに乗るアスランの存在に気づかないまま、彼に襲い掛かるのだ。
その灰色の機体の名は、GAT-X252フォビドゥンの二号機。TP装甲を備え、機体の長時間稼働を実現したことに加え、光学兵器を無力化するだけではなく、曲げることも可能なゲシュマイディッヒ・パンツァーを搭載しているのだ。
これにより、フォビドゥンには光学兵器が無意味なものと化している。
「————!? この動き、手強い奴か!」
レイダーの動きに合わせ、アスランの隙をついてくる動き方。それは味方の視点から見続けていた動きそのものだった。
フォローが得意な彼のような動き。そして、それはかつての仲間を想起させるものだった。
「まさか、そんな馬鹿な、お前のはずが―――――」
動揺を隠せないアスラン。その背後から新手が現れる。
「おいおい、よそ見なんて余裕だね。だからさぁ、さっさと死ねよ――――ッ」
灰色の機体と特徴が酷似している機体が鎌を振りかざしてくるのだった。それを何とかシールドで防ぐも、アスランには決して弱くはない衝撃が襲う。
「ぐっ、ドリスが連合に? 何をしたッ!!」
苦悶の表情を浮かべながら、アスランは呻くように問いただす。
無論、ドリスは既に死亡しており、この世界にはいない。アスランの早とちりである。しかし、それを確かめる術は存在しない。
「はっ!! 何意味の分かんねぇこと言ってんだよ!! 死ねッ!!」
フォビドゥンでアスランのジャスティスに襲い掛かるシャニ・アンドラスは、自分にとってどうでもいいことを尋ねる彼に対し、息をするようにキレていた。
「アスランッ!! このっ、離れなさいっ!!」
フルバーストモードに切り替え、フィオナのフリーダムの高エネルギービームがフォビドゥンを襲う。が、
「はんっ!!」
肩部に伸びている盾上の装備がビームを曲げ、フリーダムの最大火力だった攻撃を無力化したのだ。
「なっ!? ビームが、曲がるっ!? はっ!!」
アラームとともに襲い掛かるクロトのレイダーの突撃を寸前で回避したフィオナ。特化型の機体を複数投入している連合軍。
特殊な盾を持つ機体が2機、高機動型のタイプが一機――――――
「特化型の敵機体を補足。これより迎撃する」
「—————迎撃する」
フォビドゥンが敵機体と交戦していることに気づいたイザークとエクステンデットが、アスランたちに接近する。
「なっ!? デュエルと、バスター!? なんでこの機体が―――――それに、このシグナルは」
フィオナも先ほどのニーナと同じように動揺を隠せない。あのシグナルは、あのコードは間違いない。
「イザークさん!? どうして貴方がここに!?」
「誰だ、貴様。貴様の存在など知らない」
通信に応えたその声は、聴き間違えるはずがない。紛れもなくイザークの声だ。
「あれほどの火力と、機動力。戦闘目的の変更を具申。鹵獲行動を推奨します」
「理解した。核動力の可能性あり。ニュートロンジャマ-キャンセラーを備えている可能性が予想されます」
次々と無機質な知り合いの声が響き渡る。まるで相手を人と認識していないかのような声色。
「そんなっ!!! 私です、フィオナです!! 私の声が聞こえませんか!?」
棒立ちになっていたフリーダムを体当たりすることで射線から退けたアスランは、フィオナに指示を飛ばす。過酷な戦場だが、このまま止まっていてはやられてしまう。
狂気しか存在しえないこの戦場で、強靭な精神力を持つアスランだからこそ、正気でいられるのだ。
「くっ、止まってはだめだ、フィオナ!! くそっ、このままでは――――ッ!!」
―――――仮に、本人だとしても、この状況では
手加減して、切り抜けられる状況ではない。
「フリーダムとジャスティスを援護しろ!!」
「特化型、くらいやがれ!!!」
パナマ基地に侵攻中の友軍が、窮地に陥っているアスランたちを援護する。が――――
「新たな敵を確認。排除する」
ヴェルデバスターの一斉射撃が、そのポイントにいたザフト友軍機を爆風の中に葬り去ったのだ。
「だめぇぇぇぇぇ!!!!」
フィオナが悲鳴を上げながらライフルを乱射するも、その一撃もドリスの乗るフォビドゥンに阻まれてしまう。
かつての仲間に対し、容赦のない一撃。爆発の後に残ったのは撃墜された友軍機の残骸のみ。
―――――先行していたニーナたちはどこだ!? まさか――――――
「グングニール、すべて破壊されました!!」
友軍から放たれる、絶望を知らせる凶報。パナマ攻略の切り札と言っていいカードが、すべて破壊されたのだ。
「くそっ、指示系統が分断されている! 各個撃破されるぞ!!」
アスランは残存勢力をまとめ上げ、パナマからの撤退を具申する。
「だめっ! あそこには、イザークさんが! ニーナだってまだ!!」
フィオナが泣きながらその命令に反対する。あの惨状の知り合いをそのままにしておくわけにはいかない。
しかし、尚も友軍はその圧倒的な物量と、アスランとフィオナでは抑えきれなかった特化型の機体によって数を減らされ続けている。
「いいねぇ!! 最高だぜ、この機体はよぉぉ!!」
オルガの乗るカラミティは、その特化型の最大の特徴でもある重火力によって、ザフト軍機を撃破していく。防御も回避も許さない。
単騎では規格外の砲弾の嵐が、狙われた敵を逃がさない。
「ぁぁぁぁぁ!!!!」
「いやだぁぁ、やめろぉぉあぁぁ!!!」
「くるなっ、くるなぁぁぁ!!!」
そして運よく大破で済んだザフト軍機はさらに過酷な運命が待っている。しかし、それは現状この戦域にいるザフト軍兵士にとって想像し得ないものである。
「な、がはっ!?」
「貴様! うっ!」
コックピットから脱出したザフト軍兵士を麻酔銃で捕獲する連合軍兵士。
「検体を確保。よし、どんどん運べ」
「了解した。ゴーゴーゴー!!」
特殊な装備を身に纏う連合軍兵士が意識を失ったザフト軍兵士を運んでいく。それらを無造作に特殊車両に運び入れ、その場を後にしていく。
「—————くそっ、このままでは――――」
アスランはこのまま座して待つようなことだけは避けるべきだと考えていた。
――――せめて、フィオナ達だけでも―――――
もう動ける者たちだけを連れて撤退するべきだと。
だが聞こえてしまった。
「いやっ!! 離してッ!! 離してよぉぉぉ!!!」
周囲のノイズの中から聞こえた、女性の悲鳴。その瞬間、アスランの心が急激に冷えていく。
―――――なん、だ? 今のは――――――
「アスランッ!?」
不意に地上へと急降下するアスランを見て慌ててついていくフィオナ。
「行かせないもんねぇ!!」
「核エンジンの機体は鹵獲する」
「はんっ、どこ行こうってんだ!!」
しかしフィオナの前に、レイダー、ヴェルデバスター、フォビドゥンが立ち塞がる。
「このっ、邪魔よ!!」
地上に降り立ったジャスティスは、特殊車両に連れ込まれようとしているニーナの姿を視認したのだ。
「みんなを返して!! 返してよぉぉぉ!!!」
振りほどいたニーナが距離を取る。が、周りを囲まれ、命運が今にも尽きようとしている。
「………ッ!!!」
その時、生まれた初めてアスランは理性を放棄した。
「きゃぁぁぁぁぁ!!!!」
ジャスティスの頭部バルカンがニーナを囲んでいた連合軍兵士に直撃していく。突然の爆音にニーナは蹲って悲鳴上げる。
そしてその爆音がやんだ時、ニーナは自分を囲んでいた連合軍兵士がミンチよりもひどい状況になっているのを見て、顔を青ざめる。
「あ……あぁ………」
これが戦争なのだと、これが奪われるものと奪うものの景色なのだと。
そしてそれは瞬く間にひっくり返されることもあるのだろ。
「——————ッ」
アスランは、マニピュレーターを動かし、ニーナの近くにまで動かした。早く乗れと。
「っ!」
その目の前の行動だけでそれを理解したニーナは迷わず飛び乗り、アスランのコックピットにまで移動するマニピュレーターが止まった後、開かれたコックピットの中に入り込んだのだ。
「アスラン、あの車両の中の人を―――ッ」
それだけで分かった。あそこには、友軍が捕まっていたのだ。
「ああ。すまない。ここを離脱する。あの車両だけでも――――」
今は、感情の一切が許されない状況。アスランは他の車両も存在しているであろう予想については強制的に考えず、ニーナの近くにいた車両だけを鹵獲した。
「アスラン!! ここはもう持ちません!!」
フィオナが特化型4機の集中攻撃に遭っていたのだ。機動力で同格のレイダー、防御能力で足止めをするフォビドゥンが二機、さらには後衛より隙を窺うヴェルデバスター。
このままではフィオナも危ない。
「すまん。誰かいるか!?」
辺りに通信を飛ばすアスラン。グゥルに乗っている友軍機を見つけた彼は、素早く指示を出す。
「この車両には友軍兵士が捕まっていた。これを母艦まで頼む!!」
「なんですと!? わ、わかりました!!」
アスランの言葉を信じ、部下はそのまま現宙域を離脱していく。これで、後はフィオナとともに離脱するだけだ。
――――確かに、ビーム無効化は厄介だ。だが―――――
それだけで追いつめられるほどこちらは落ちぶれていない。スピードだけが取り柄、砲撃だけが取り柄。
「すまない。かなり揺れる。何かにつかまっていてくれ」
辛そうな表情で、アスランはニーナに覚悟を強いる。まともな座席もない中、今から彼は博打に出る。
「は、はい。アスランの、思うように―――――」
そして、ニーナはそれを受け入れるしかない。強い覚悟を秘める彼を止めることなどできないのだから。
自分は、それすら超越する強敵と、何度も戦ってきたのだから。
「はっ!! 追いつくのを諦めたのか!」
レイダーに乗るクロトが、動きが鈍くなったジャスティスに狙いを定める。
「頂きッ!!」
後衛よりアスランに狙いを定めたオルガのカラミティの砲撃を最小限の動きで回避するアスラン。
――――あまり嬉しくはないが
ごく自然に、あの状況に移れるようになった自分を喜べるようになったアスラン。思考がクリアになっていく、全ての動きが目ではっきりと追うことが出来る超常的な現象。
その能力に。
「背後隙だらけなんだよぉぉぉ!!!」
鉄球型の近接装備であるミョルニルを振りかざし、強烈な一撃を狙っていたのだ。
しかし、ジャスティスはその一撃を盾で受け止めたのだ。否、そうではない
「—————ッ」
振り向きざまに盾をかざしたアスランは、スラスターを緩め、自由落下に近い状態を一瞬作り出した。その為、必殺を誓ったミョルニルの一撃がぶれた。
重力に引っ張られるように落下するジャスティスが、アンバック制御で機体の姿勢を修正し、
「へ?」
瞬時にスラスターで上空へと飛翔し、擦れ違いざまに一閃。
何が起きたのか、クロトはその光景を見るまで理解できなかっただろう。強い衝撃とともに、彼はレイダーの腕が消失していることに気づく。
「な、なんだぁぁ? こんなっ!?」
アスランは、レイダーに急速接近し、抜刀と同時にレイダーを切りつけたのだ。
「うっ……」
辛そうな声をあげるニーナ。急加速に対し、非常用シートで身を震わせるが、泣き言は言わない。
しかし、彼女の我慢がアスランに勝利を齎した。
「くそぉぉぉぉ!! 覚えてろぉぉぉ赤いのぉぉぉぉ!!!」
それでも致命傷を避けるように急所を守ったクロトは、続いて脚部ユニットを切断されるものの、地上へと落下して、戦線を離脱していく。
「クロト!? てめぇぇぇぇ!!」
怒りに染まるシャニが、アスランに向けてフレスベルグの連撃を仕掛ける。
「ビームが曲がる? あの盾か――――」
驚きこそあまり存在しえない。ビームを曲げる芸当をしたあの機体は、そこまでのことが出来ると。
「その隙、狙い打つわよ!」
アスランの動きで同様の広がる特化型の隙をついた、フィオナの一撃。光学兵器では無理と判断したフィオナは、レールガンで攻撃したのだ。
「くっ!? なっ!?」
レールガンの回避が難しいと判断したシャニは、盾でその攻撃を防御するも、
「おいおい、こっち向けよ!!」
「構う余裕は、ないわよ!!」
カラミティの攻撃をバレルロールで回避しながら、ハイマットモードで接近するフィオナのフリーダム。フォビドゥンの眼前に迫る。
―――――はっ! 一瞬止まるだけで十分だ。胴体だけ残ってりゃあいいんだろ?
しかし、フリーダムは眼前の自分を素通りし、
「がっ!?」
足場にしたのだ。急激な加速からの方向転換の先にいたのは、
「!?」
エクステンデットの乗るフォビドゥン二号機。この機動には予想し得なかった彼もあせる。
「いいから早く起きなさい、この馬鹿ァァァ!!!」
強烈な蹴りが、コックピットに入れられたのだ。思わず衝撃で身を震わせるエクステンデット。当然だが、フィオナもアスランの物言いで勘違いし、ドリスが生きているものだと考えていた。
「!?」
地面にたたきつけられ、動かなくなるフォビドゥン二号機。逆に鹵獲しようとするフリーダムの動きを見ていたシャニは、
「おまえぇぇぇ!! っ!?」
コケにされたと憤っていたが、次の瞬間その感情はかき消される。
紅色の支援ユニットが、突如真っ直ぐこちらに機銃を放ってきたのだ。これをガードするシャニだが、あれは赤い機体の背中に装備されていたユニットというのを覚えていた。
――――どこに!?
「はぁぁぁぁぁ!!!!」
太陽を背に、ジャスティスは直上よりフォビドゥンに急降下していたのだ。気づいた時にはまず太陽の光がメインカメラを一瞬焼き、
そのビームサーベルがフォビドゥン自慢の盾を貫いた。
「ぐわぁぁぁぁぁぁ!!!!」
悲鳴とともに機体ともども衝撃で吹き飛ばされるシャニ。とっさに盾を犠牲にすることで、致命傷を避ける格好だが、屈辱的な場面であることは間違いない。
「—————あと、残りは何機だ?」
アスランは、この短時間で鬼神の如き強さを誇っていた。初見でしかも特化型の機体を二機撃退。連合の旗頭になり得るはずの、最新鋭のモビルスーツを打倒して見せた。
「くっ、もういいだろう。離脱するぞ、フィオナ!」
「は、はい!!」
ハイマットモードからフルバーストモードに切り替えたフィオナは、その追撃をけん制する目的で手当たり次第に砲撃を加え、相手の動きを止める。
「くっ!! この野郎、待ちやがれ!!」
盾で防御するオルガ。だが、なかなか攻撃に移れない。
「回避優先」
「回避を優先する」
イザークとエクステンデットたちも、回避を優先する。そして攻撃に移るにはすでに彼らは遠くに離脱していた。
局地戦闘では敵を圧倒したアスランの奮闘もむなしく、ザフト軍はパナマを攻略することが出来なかった。
ザフト軍は、アラスカ基地攻略に続き、甚大な被害を被ってしまい、地球圏での大規模な作戦行動が困難になってしまった。
博打に勝つことが出来なかったプラントは、今後窮地に立たされることになる。
そんな未来をまだ知らないアスランとフィオナは、クルーゼ隊長が待つ母艦へと帰投する途中だった。
「——————まだ奴らの勢力圏だ、油断するな」
「結局、イザークさんは―――――」
沈痛な表情で、彼らを連れ出すことが出来なかったことを悔いるフィオナ。
「クルーゼ隊長。特殊車両を運んでいた友軍機は、帰投済みですか?」
「? 車両だと? 聞いていないが―――――」
目晦がした。アスランの視界が暗転しかねないほど、彼はショックを受けていた。
「そ、そんな――――――」
助けられなかった。その事実だけが彼を抉る。
「——————アスラン、さん―――――」
そして唯一生き残ったニーナは、隣で肩を震わせている彼の名を呼ぶことしかできない。
「——————俺が、もっと早く戦場に駆けつけていれば―――――」
彼らは、助かったかもしれないのだ。
「アスラン—————アスランは、ニーナを助けたじゃないですか」
フィオナは、彼が救った命に目を向けさせた。
「—————だが、俺の手からまた、零れ落ちたんだ。俺の、力が足りなかった」
悔しさに身を震わせるような声ではない。諦念が、またしても彼にまとわりつく。
―――――俺では、世界は救えない。届きもしない。
目の前の命すら、救うことが出来ない。
―――――プラントは、どうなるのだろうか
地球圏での作戦行動は、これでもう不可能になっただろう。後は宇宙での戦いが主戦場になる。
————プラントの未来を守るには—————
穏健派と、そしてオーブ。それは赤い彗星が種を蒔き、生み出した大きなうねりの中心。
迷っている暇はなかった。アスランはカーペンタリアについた後、ある決断を果たすことになる。
一方、パナマ攻略すら失敗に終わったプラントは荒れていた。
「どういうことだ。これで戦争が終わるのではなかったのか」
「甚大な被害、そして連合軍の反攻作戦。採算が合わないぞ」
穏健派はこぞってザラ議長の責任を追及する。連合軍の反攻作戦前に、講和なり有利な条件を引き出すほうがよかったのではないかと。
そして、穏健派となら上手く交渉が出来たのではないかと。
「今ここで、そのような議題こそ不毛だ。オルバーニの譲歩案をお聞きになったか!?」
「今と昔は状況が違うのだ。アラスカを失った連合も疲弊している。仲介役にスカンジナビア王国、アフリカ連合、そしてオーブがいる。穏健派もこれらの勢力との関係を強くしている。国体維持ならまだ間に合う。どうか考えてくれないか、パトリック」
そんな中、穏健派の長であるシーゲル・クラインは連合もアラスカを失ったダメージは大きいはずと説明し、仲介してくれる勢力もいる状況を活かさない手はないと助言する。
「ナチュラルどもに、屈しろというのか!!」
腹立たし気に、パトリックはその意見に対して強い拒絶の意思を見せる。
「そうではない。我々は連合軍に勝つのが目的ではない。我らの目的は独立することだったはずだ。違うか、パトリック?」
「この状況で甘いことを抜かすな、クライン!! より大きな成果を見せつける必要があるのだ!! 連合に弱さを見せつければ、それこそ思うつぼだ!!」
議会は紛糾。しかし、確実にパトリック・ザラの求心力は低下していく。
だからこそ、穏健派は今こそ行動に移すべきなのではと考える。
だが、パトリック・ザラにはまだ切り札があったことを見落としていた。
宇宙が初めて戦場となり、大量破壊兵器が次々と生み出されていく時代の頂点に位置する悪魔の兵器。
それは、核の力ではない。プラントにあれほどの爪痕を残したその力すら超越する大いなる人知の結晶。
「おのれ、ナチュラルども」
パナマ防衛の余波は、世界に混迷を齎す。
ニーナちゃんはかろうじて生き残りました。そして戦後の法改正でアスランが救済される未来まで見えます。
今更ですが、アスラン君こんなポテンシャルあったのか。義理堅い、頭堅いを意識して描いたつもりですが、ここまで化けるとは・・・・
逆にキラ君は悪女いないと覚醒しないんだな・・・・主要人物に成り下がってしまった・・・・