機動戦士ガンダムSEED 理想の従者   作:傍観者改め、介入者

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ここから何もかもが変わり始めます。


第48話 善意の輪

コーディネイター憎しの声は、灼熱のアラスカを経ても消えることはなく、連合を二分するほどの事態となっても、急進派の勢いはいまだ保たれていた。

 

南米奪還を諦めた急進派はアジア圏、北米を中心とした勢力圏を再構築。太平洋連邦を発足。プラントに対する基本方針は変わらず、あくまで徹底抗戦を主張したのだ。

 

 

一方、穏健派は南米を中心とした勢力となり、アラスカ基地の惨状を知る現地市民の支持も集め、南アメリカ大陸を完全に掌握。旧カナダ圏、諸島列島を勢力下においた。

 

さらに、アフリカ連合の和平実現に尽力したことから、マスドライバーを確保することにも成功。アフリカ連合と大西洋連邦は同盟を結んだのだ。

 

この動きに反応したのが大洋州連合。ザフトの地球圏での軍事行動が困難となった為、政治的にも軍事的に孤立した彼らは穏健派に接近。

 

穏健派としては、戦争終結と、支持勢力を増やすことに苦心していたため、これを快諾。あくまで対等な立場での終戦条約を結び、大洋州連合は大西洋連邦と肩を並べることになる。

 

混乱の最中、大西洋連邦の大統領に就任したジョゼフ・コープマン大統領が、大洋州連合のトーマス・アンダーソン大統領と会談。正式に終戦条約が結ばれ、後に汎ムスリムもこの動きを追うことになり、事実上プラント支援国家が消滅。

 

終戦後の共同での宇宙開発の約束も発表され、明らかに戦後に向けた動きを準備していることを世界に知らしめた。

 

 

プラントと急進派は、国際的に孤立してしまう。しかし、世界の最先端を往くプラントと、権力者と背後に隠れる巨大な組織をバックに、強大な影響力を持つ太平洋連盟は互いに滅ぼすことを止めない。

 

 

「どういうことだ、貴様! 連合と勝手に条約を結ぶなど!!」

これに激怒したのは、パトリック・ザラだ。プラント支持国家としてとりあえず当てにしていた大洋州連合の裏切り。しかし、アンダーソン大統領はそんな彼にある提案を投げかける。

 

「しかしだな、ザラ議長。この流れはどうにもならんぞ。穏健派が存在しなければ、我々は連合に滅ぼされていた。この流れに身を任せ、独立を守るだけでもいいのではないか?」

 

穏健派はエイプリール・フール・クライシスの賠償と謝罪を約束するならば、独立を認めてもいいと提案しているのだ。

 

そして、改めてユニウスセブン攻撃の件を謝罪したのだ。大西洋連邦のトップの謝罪は異例ともいえる。プラントとしても意見が割れるほどのインパクトだ。

 

「ぐぬぬ……」

パトリック・ザラもわかっているのだ。このままでは消耗戦になると。不毛な戦闘を避けるべきなのは理解していた。

 

ここに来て、プラントの急進派たちは揺れていた。賠償金を払う、エイプリール・フール・クライシスの謝罪をするだけで、国家として認めると穏健派は提案しているのだ。

 

自分たちが待ち望んでいた独立がすぐそこまで来ている。

 

「——————中立国家として、オーブが終戦条約の間を取り持ってくれる。我々も秘密会談でオーブに接触を受けた。今がその時だ、ザラ議長」

 

アンダーソンもここでプラントを見捨てたままでは寝覚めが悪い。できる限りの誠実さを彼に伝える必要があると考えていた。

 

「——————分かった。穏健派の要望を改めて書面で送ってくれ。その内容を吟味したうえで、議会で提案する」

 

 

秘密会談を終え、パトリック・ザラは考える。一体何がどうなって、この流れが発生したのか。一体誰が、世界を変えた。

 

穏健派の主要メンバーは、第八艦隊を含むヘリオポリス崩壊に間接的にかかわった勢力だ。モビルスーツ開発を提唱したのはデュエイン・ハルバートン大将。

 

低軌道戦線での勝利を含め、名将と持て囃されている。だが、あの戦闘はあるたった一つの存在がすべてを変えたのだ。

 

————赤い彗星。奴が戦闘に介入し、連合は勝利した

 

圧倒的な力でザフト軍を撃滅し、第八艦隊の窮地を救った。その前にも先遣隊と思わしき艦隊を見つけたザフト軍が赤い彗星に全滅させられている。

 

そして極めつけは、ラクス・クラインがアークエンジェルに保護されていたということだ。赤い彗星が所属していた連合の戦艦の名前だ。

 

ラクスという穏健派のシンボルを救い、連合軍の穏健派の旗頭になっていたハルバートンが生き残った。

 

この流れのきっかけを生んだのは、赤い彗星としか思えなかった。

 

—————奴は一体何者だったのだ。

 

この時、パトリック・ザラは和平を考えるようになる。時世の流れに逆らうほど、彼も愚かではない。

 

「ジェネシスの起動は取りやめだ。元の用途に使用するよう、解体を進めておいてくれ。議会には私が説明をする」

 

 

そして、シーゲル・クラインにはパトリック・ザラとは別方面でアンダーソン大統領からの秘密会談が行われていた。

 

「—————すまぬ。だが、これが大西洋連邦の、エイプリール・フール・クライシスの賠償金の半分を帳消しにする条件だ」

アンダーソンは悲痛な声で、残酷な条件をシーゲル・クラインに伝える。

 

「——————この条件で、プラントが背負うはずだった半分の賠償が消えるのか?」

その声色は、アンダーソンとは対照的に、酷く安心したものだった。

 

シーゲル・クラインはその条件を聞き驚いていたが、安心していたのだ。

 

「—————私一人の首で済むのなら、プラントがこれから背負う苦しみが軽くなるのなら、私は喜んでこの身を捧げよう。その為に私はここまで来たのだ」

 

シーゲル・クラインが主導したと思われるエイプリール・フール・クライシスの国際裁判。事実上の死刑判決に等しい舞台に上がることを条件に付けくわえていた。

 

 

「すまぬ。だが政治家としても、これ以上ないプラントへの憎しみの消し去り方だと考えてしまう」

 

地球に蔓延る憎しみを一身に背負い、そしてこの世界を去ることになる。それを条件にされてもクラインが怖気づくことはなかった。

 

 

「分かった。パトリックにはまだ伝えておらんのか?」

 

 

「——————————」

顔を伏せるアンダーソン。こんなことを伝えるわけにはいかない。しかし、前に進まないといけないのだ。苦悶の表情を浮かべる彼に対し、クラインは口を開いた。

 

 

「了解した。私がパトリックを説得しよう。老い先短い私の命が、最大限活かされる時がやってきた。君は何も悪いことはしていない」

 

 

アンダーソンとの秘密会談を終えたシーゲル・クラインは、娘のラクスに事実を伝えに行く。

 

 

「お父様? どうかされたのですか? とても嬉しそうな顔をしていますわ?」

ラクスも不思議だった。以前までは戦争で心を痛めるばかりだった父が明るいのだ。

 

「そうかな? 目まぐるしく変わる地球情勢に、ようやく介入することが出来たのでな。これでようやく、和平の道が開く」

 

 

「まあ、そうなのですか!? 戦争が終わりに近づいて——————リオン様の起こした流れが、ここまで—————」

 

リオン・フラガのことは、すでにすべてを知っているシーゲル。娘の恩人であり、この流れのきっかけを作った存在。

 

彼には、感謝してもしきれない。

 

「—————私はな、ラクス。この世界の未来を、次世代に託す覚悟が出来たのだ」

 

 

「?? 何をおっしゃっておいでですか? お父様はまだまだ現役で為せること、為すべきことがあるはずでしょう?」

 

急に不穏な言葉が出てきたことに、ラクスは胸騒ぎを感じていた。

 

「——————穏健派はプラントに対し、エイプリール・フール・クライシスの賠償と、謝罪があれば独立を認めると発言している。そして、その賠償は莫大なものだ」

 

戦争で苦しくなりつつあるプラントには背負いきれないものだ。

 

「だが、私一人の命でその半分は消える。プラントの未来は続く。お前の未来も開く。最後に、世界に奉仕できる瞬間が待っていたのだ」

 

 

「————————っ!!!」

眼を大きく見開いたラクス。連合はシーゲル・クラインに、エイプリール・フール・クライシスの責任を背負わせる気なのだ。

 

人柱に選ばれた彼は、これ以上ないほど適任だった。

 

「——————だが、リオン君を恨まないでくれ。これは私も賛同したことだ」

恐らく彼が一役買っているだろう。しかし、有効的な策だから彼に異論はない。だからこそ、ラクスを歌姫ではなく、ただの娘に変えてしまった彼と娘の関係を考えていた。

 

 

「ですが、お父様の命を差し出さなくても……ッ、まだ他に、他に方法は————」

 

 

 

「—————ずっと罪の意識に苛まれていた。理論上そこまでの被害はないだろうと考えられたあの戦略が、地球圏に多くの憎しみを生んでしまった。その決定を下したのは私だ」

 

その予想を超えた被害に彼はショックを受けた。こんなはずではなかった。こんなことになるとは考えていなかった。

 

「どうすれば彼らに償うことはできるのか。どうすれば憎しみを乗り越え、世界は戦争終結に向かうのか」

 

 

「それ、は——————」

 

それは、アークエンジェルの中にいた気さくなコーディネイターが抱えていた戦う理由。あんな気持ちのいい青年がプラントに敵意を持っていた。

 

純粋だった少年を悪鬼に変えてしまったのは、果たして誰なのか。

 

「——————私の最後の決意、誰であろうと邪魔はさせん。娘であっても」

 

————パトリック、これで私が本気であると認めるだろう?

 

「私の親友であってもだ」

 

 

「—————分かり、ました……ッ」

 

ラクスはつらそうな顔で父親の最後の覚悟を受け止めた。世界を思えば、どうしようもなく正しい。しかし、その正しさがいつも人を救うのではないと知ってしまった。

 

————ですから、わたくしは見届ける義務があります。

 

 

リオンの成し遂げた世界が、果たして平和になるのかどうか。ラクスは彼を一生見定める必要があるのだ。

 

—————途中で投げ出すことは、決して許しませんからね

 

 

 

一方、穏健派が次々と勢力圏を拡大していることに面白みを感じていないのが急進派だ。穏健派のあまりに迅速な行動により、急進派の名前すら奪われた感がある。

 

 

急進派もつかんでいるのだ。赤い彗星という傭兵の動きから、世界は変わり始めたことを。

 

その正体を、オーブは知っているということを。

 

急進派にとって幸運なことは、アフリカと大洋州連合にはもはや力がないことだ。穏健派は彼ら同盟諸国を守る為に兵力を割いており、大規模な軍事行動に出ることが出来ない。

 

穏健派の敵は、現状急進派だけではないのだ。ザフト軍がアフリカとオーストラリアのマスドライバーを破壊するかもしれないのだ。同盟を約束した以上、大西洋連邦は彼らを見捨てることはできないし、その選択肢は存在しない。

 

急進派は、アフリカ和平、大洋州連合との終戦条約で仲介国として暗躍したオーブを恨んでいた。

 

彼らのせいで、あの砂時計の独立を認める風潮が出来上がってしまった。あの宇宙の化け物を殲滅しなくてはならない。その使命に燃えるブルーコスモスは激怒する。

 

「あの頑固者め。大人しくしていればいいものを—————ッ」

 

「ああ。よりによって、和平交渉であそこまで動くとは——————」

 

ここにいるのは、フラガ家に競争で敗れた負け犬どもと、ブルーコスモスの支援者と、

 

「本当に、あの国は思い通りにはならないですねぇ。まさかここまで、世界を変えてしまうとは。とはいえ、遺伝子操作を誇りに感じる奴らと手を結ぼうとすることなど、論外ですよ」

 

ムルタ・アズラエル。ブルーコスモス。ブルーコスモスの盟主にして、アズラエル財閥の御曹司。

 

このままではここにいる者たちは次の時代から取り残されてしまう。フラガ家、アルスター家、和平実現のために政治生命をかけた政治家どもに時代の主役を奪われてしまう。

 

 

ジョージ・アルスターからブルーコスモスの名すら取り上げられた場合、大義名分すら失ってしまう。現在彼はニューヨークの本邸を脱出し、ブエノスアイレスに在住しているらしい。

 

「問題なのは、ロゴス内部でも裏切り者がいることです。我々は世界を管理する庭師なのです。勝手に秩序を創造しようとするオーブを、許すわけにはいかないのです」

 

もはや、なりふり構う必要はない。穏健派は動けない。ザフトは地球圏での軍事行動が不可能。

 

小国に過ぎないオーブならば、今の太平洋連邦でも掌握することは可能だと考えていた。

 

「我々は世界の経済から締め出されつつある。欧州、アフリカ、大洋州連合。ロゴス最大の裏切り者、フラガがまたしても幅を利かせておる」

 

フラガ家の得意分野は時代の先を行く資産投入だ。そして、それぞれの得意分野を誇るエキスパートを保護し、最適な環境を約束する。

 

次々と事業を成功させ、資産を有効活用する。単独での成功を諦めた結果、彼らはエキスパートに依存する手法を取った。

 

中でも、19歳にしてフラガ家史上最高の天才と謳われるリオン・フラガはコロニー開発、宇宙開発事業の第一人者にして、モビルスーツパイロットのエースとのうわさもある。

 

オーブはリオンをナチュラルであると公表しており、プラントには驚きと、アズラエルには決して小さくない嫉妬の感情を生じさせた。

 

恵まれた環境の中で、御曹司として努力してきたアズラエルだが、彼にはコーディネイターほどの才能はなかった。

 

しかし、リオン・フラガはナチュラル、コーディネイターの問題関係なく、彼らを驚嘆させる才覚を発揮している。同じナチュラルのはずなのに、ここまで違うのだ。

 

彼は、本物の天才なのだと。

 

「—————ブルーコスモスの総力をもって、オーブを掌握すればいい。パナマのマスドライバーがあるが、オーブにこれ以上荒らされたくないのでね」

 

パナマ防衛戦にて、ザフト軍を壊滅に追い込んだ勢いもある。現在この世界で最強の軍事力を誇るのは、太平洋連邦なのだと。

 

 

「特機が勢揃いならば、オーブも終わるだろう。アズラエルも大人げない」

 

「違いない。ハハハハハ!!!」

 

 

オーブ解放作戦が発令。太平洋連邦は世界の情勢をあるべき姿に戻すため、コーディネイターに肩入れするオーブの解放を行うことになった。

 

 

その報せは、程なくしてオーブ官邸に届けられた。

 

 

「———————予想はしていた。が、ここまでとはな」

 

ウズミは、太平洋連邦の有無を言わさない理屈に辟易していた。

 

現在の世界情勢を鑑みず、地球の一国家としての責務を放棄し、情勢を混乱に陥れ、あまつさえ、再三の協力要請にも拒否の姿勢を崩さぬオーブ連合首長国に対し、太平洋連邦はその構成国を代表して、以下の要求を通告する。

 

 

 

 

一、オーブ首長国現政権の即時退陣

 

二、国軍の武装解除、並びに解体

 

48時間以内に以上の要求が実行されない場合、地球連合はオーブ首長国をザフト支援国家と見なし、武力を以て対峙するものである

 

 

「——————世界情勢を混沌に誘っているのはどちらなのか。狂信者はこれだから嫌なのです」

 

ユウナは、連合寄りだった旗色を代えており、狂信者の急進派たちに対して冷淡だった。

 

「しかし、彼らはザフト軍を撃破した勢いそのままに、こちらにやってきている。オーブも防衛網を構築しているが、状況が状況だな」

 

 

現在、アークエンジェル、クサナギの宇宙戦艦はマスドライバーにて宇宙へ上がる準備段階だ。その為、選りすぐりのエースたちも宇宙での戦闘の調整を行っていた。

 

「————————」

ロンド・ミナは、この情勢で惜しむものはないと考えていた。最悪、自分が戦場に出る必要があると。

 

「—————あまり迂闊なことは考えるな、ミナ」

しかし、それを察したリオンがその意見をけん制する。心中を見抜かれたミナはやや驚いていたが、すぐに真顔に戻る。

 

「————しかし、出し惜しみをする余裕はないはずだ。私も訓練は受けている」

ミナは、そこいらのエースと同格の実力を誇る。戦場に出ても問題ないレベルを備えている。だからこそ、彼女は戦場に出る覚悟も決まっていた。

 

「————カガリとともに、次世代を担う人材だ。未来に響くリスクは避けておきたい」

理性によってひねり出された言葉だ。リオンはあくまでミナの戦場への出陣を許さない。

 

「—————それは、私がサハクだからか?」

真顔のまま、ミナはリオンに尋ねる。

 

「—————その通りだ」

やや間があったが、リオンはその言葉を肯定する。ミナにはサハクの当主としてオーブを導く義務がある。

 

リオンは理性によって、その問答を通す。

 

————本当に、わかりやすい奴よ、其方は

 

大切に思う人の前では、大切にされている者たちにとっては、唖然とするほどわかりやすい。自分がその中に含まれていることを嬉しく思うロンド・ミナ。

 

 

「では、私は其方に言っておかなければならないことがある。構わないだろうか?」

リオンが理性を含む我儘を通してきたのだ。ならば、こちらも多少の我儘を通させても問題ないはずと、彼女はリオンにある願いを届ける。

 

「——————注文が多いな、オーブの姫たちは」

 

一方のリオンも、何を言われるのか分かり切っている。

 

 

「ミナ?」

 

「サハク、いったい何を————」

 

カガリとユウナは、ミナが珍しくお願いを強請る姿に驚いていた。また無理難題を言うのではないかとハラハラしているのだ。

 

 

「——————状況に言い訳をするな。其方の持てる力を捧げ、オーブに生きて勝利を捧げよ」

状況は戦力差で圧倒的に不利な状況。この状況で戦争回避ではなく、勝つことを求めたのだ。

 

 

「—————ミナ」

リオンも、これまで無理をこじ開けてきた。しかし、いくら一騎当千の力がいたとしても、今回ばかりは厳しい。

 

 

国防のために配置されていたキラ・ヤマトがいるが、それだけだ。後は新兵同然の兵士。アルベルト、トール、アサギらオーブ組は確かに優秀だが、経験が足りない。

 

ロヴェルト・ホリソン、エアリス・テネフも筋はいい。しかし経験が足りないのだ。

 

エリクも、ニコルもいない。選抜したメンバーも一部がいない。アストレイを出し惜しみする必要はなくなった為、選抜は容易となった。

 

しかし、ジェネシスの件が不明瞭な中、ここで全兵力を集中することはできない。

 

「——————わかりました。ならば出し惜しみなどせず、私の全力をお見せしましょう」

 

戦闘は避けられない。ここにいる首相官邸にいる全員が分かっていることだ。

 

仮にこの戦いで勝利しても、ジェネシスの発射ですべてが無駄となりうる。すでに南アメリカ、大洋州連合、アフリカ連合には情報を通達した。

 

後は、彼らがどう動くかだ。

 

 

「無茶だけはするな、リオン」

 

ウズミは、若者たちの問答を見守っていた。しかし、リオンの危うさを指摘する。

 

「—————ウズミ様こそ、速やかに避難を。貴方にはまだ、戦後に仕事が残っています」

 

「————打てる手は打った。後はどうなるかだ」

 

 

 

そしてアークエンジェルでは、マスドライバーでの打ち上げ準備が行われていた。

 

「—————リオンはあとで来る。オーブを守った後に、なんだな?」

エリクはイラつきながら、モニターに映るカガリに悪態をついた。

 

「ああ。オーブ防衛戦の後、リオンはIOBで宇宙に飛び立つ」

 

 

「俺が気になっているのは、オーブ防衛戦の結果だ! 俺ら抜きでどうやって連合軍に勝つかを聞きたいんだよ!!」

エースにすべてを賭ける。オーブという国が焼かれても、世界滅亡だけは防がなければならない。だが、ここで戦う者は捨て石に等しいではないか。

 

「——————その気持ちがあるのなら、必ずジェネシスを無力化してくれ」

何かに耐えるような笑顔で、カガリはその言葉を絞り出した。本当は怖いはずだ。なのに、彼女は無理をしてその姿を見せない。

 

 

—————なんで俺は、目の前の女の子の涙すら拭ってやれない!?

 

エリクは頭に来ていた。どうしてこうなるのだと。

 

 

世界は順調だった。もうすぐ戦後が見えてくるはずだった。なのに、

 

「エリク。カガリさんの決意を無駄にしないために必要なことは、なんだと思う?」

横にいたニコルが、今まで黙っていたニコルが口を開いた。

 

「!!!」

 

「—————かつての故国に銃を突きつける、こんな女ですけど、せめて世界に恩返しだけはします。私は、世界がここで終わるなんて信じませんから」

強い覚悟で、ニコルは微笑んで見せた。カガリが笑っているのだ。これが最後になるかもしれない。それならば、今を全力で生きよう。

 

お互いに、今を大事にしようと。

 

「だから、カガリさんも最後まであきらめないでくださいね」

 

 

「——————ああ。お前も、最後まであきらめるなよ? 前科があるからな、お前は」

 

 

「も、もう!! どこで聞いたんですか!! あれは忘れてくださいよぉぉ!」

 

 

なんなのだ、これは。

 

 

エリクは頭を殴られたような感覚に陥った。どうして二人は笑顔なのだ。その理由がその感覚が分からない。

 

しかし、それが尊いものであることが分かる。失ってはならない、守り通さなければならない、必ず未来に存在しなければならない。

 

 

————俺は、そこまで強くねぇ。だったら

 

 

「きゃっ!?」

エリクは強引にニコルを抱き寄せた。不意を衝かれたニコルはされるがままだ。

 

「お前も死ぬなよ。そして、こいつは俺が意地でも守り通す。世界もなんもかんも俺が守ってやる! 諦めるなんて格好の悪いこと、二度とこいつにはさせねぇ!」

 

 

「え、エリク……」

愛の告白にも近い言動だが、エリクは自覚がないようだ。ニコルは困惑していたが、悪い気はしなかった。むしろ—————

 

————凄い、大事にされてる……

 

 

「—————まあいい。私も、最後の最後まで足掻く。精々約束を破らないようにな、ブロードウェイ」

 

モニターに映るカガリが消え、二人だけとなったニコルとエリク。

 

「————————悪い、つい熱くなった」

 

「謝らないで……別に、嫌じゃなかった、から」

 

お互い気まずい。両者はこの微妙な空気を何とかしたいが、どうもうまく方法が出てこない。

 

「「————————————」」

 

 

沈黙を破るのは、ニコルだった。

 

 

「でも、嬉しかった。ここまで熱烈に想われるのも、悪くないなって」

 

 

「ニコル——————」

 

 

「もう。ほんとにわたし、薄情だなぁ。プラントに好きな人がいたはずなのになぁ」

衝撃の事実。ニコルには想っていた相手がいたことを知るエリク。

 

「わ、悪い! 知らなかったとはいえ、俺は————っ!!」

事情を知ったエリクは謝罪をするが、それ以上の言葉が見つからない。

 

 

「でも、もういいよ」

朗らかに笑うニコルは、エリクに罪の意識を消し去ってしまう。

 

「私を、私の想像以上に幸せにしてくれるなら、貰われてもいいよ?」

 

 

その言葉を聞いたエリクは、強かな女だと感じた。さすがはザフトのエースで、自分が知らず知らずに意識してしまった女性だと痛感する。

 

——————だったら、無茶して生き残るしか、道はないな

 

 

 

一方ブリッジでは

 

「————遠いところに来たな。我々は」

 

ナタルは、オーブの軍服を身に纏い、ブリッジから見える景色を眺めていた。

 

「遠いですよ。ヘリオポリスから転戦続きでしたからね」

ノイマンは、その道のりを一番知っている。彼はこの戦艦の操舵手なのだから。

 

 

「世界が終ろうとしているのに、そんなことを忘れさせてしまう。この国が、最初は嫌いだった」

 

平和ボケした中立国という印象だった。それが今となっては世界の命運を握る存在となっている。

 

浅はかさを呪いたい気分だ。

 

「今は、この国の事、悪くないと、思い始めている」

 

「—————ええ。外から見た我々にも、守りたいと思えるほど、ですね」

 

ノイマンは、ナタルの言葉を否定することなく、彼女の言葉を受け止めていた。

 

 

—————オーブは、このままでは負ける

 

それがナタルも、そしてノイマンも悟っていることだった。いくらリオンが残るとしても、この戦力差は覆せない。現状確認できるだけでも特機が6機存在する。リオンが時間を食えば食うほど戦力差に飲み込まれる味方が増えていく。

 

そして万が一リオンが負けた場合、オーブは敗北する。

 

キラ・ヤマトがどこまでブランクを感じさせないのか。新人組がどこまで食らいつくか。もうここは計算の入り込めない場所だ。

 

————だが、信じてみたくなった。その可能性を

 

ナタルは、こういう精神論は好きではなかったはずだ。だが、その未来を信じたいと願っている。

 

「神様に祈る人間の気持ちが、今更分かった。あまり、いい気分ではないが」

 

「ですが、祈るのは神ではありません。私たち自身ですよ、艦長」

いつの間に、こんな饒舌な男になったのか、ナタルはノイマンを不思議な目で見ていた。が、敢えて深くは追及しなかった。

 

 

「————無茶を言う。だが、そうだな。悪くない」

 

今は、彼の戯言を聞くのも悪くない。

 

 

 




プラントは和平交渉を穏健派とすることになります。つまり、パトリック・ザラさんに生存フラグが建ちました。パナマの大敗が、政治家としての理性が復活する契機となりました。

やったね、フィオナさん。息子さんをくださいと、正面から言えるよ!


大洋州連合さんと穏健派のアシストで、宇宙の問題はほぼ解決しました。


あと、シーゲル・クラインさんが人柱になりますが、悪いようにはしないつもりです。

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