機動戦士ガンダムSEED 理想の従者   作:傍観者改め、介入者

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ついにオーブ防衛戦開始。

リオンの全力全開(一回目)が勃発。

48話を読んでいない人はそこから読んでください。



第49話 赤い彗星 

オーブ軍初代モビルスーツ部隊において、特に若き才能の集う部隊が存在する。

 

 

アサギ・コードウェル一尉率いる第二中隊である。

 

トール・ケーニヒ二尉、

 

ジュリ・ウー・ニェン三尉、

 

マユラ・ラバッツ三尉、

 

ロヴェルト・ホリソン三尉、

 

エアリス・テネフ三尉ら、総勢15名で編成されており、キラ・ヤマトの扱きに耐え抜いた者たちである。

 

 

アサギとトールは、最新鋭の機体である可変モビルスーツムラサメに搭乗することが決まっており、他の面々もフライトユニット装備のアストレイとなっている。

 

オーブ指令室には、第二中隊の生存を願いつつも、オペレーターとして職務を全うするミリアリアの姿も。

 

————トール、どうか無事でいて

 

 

 

本作戦のカギを握るのは、第三中隊、第四中隊、第五中隊で編成された水中強襲部隊である。水中戦闘仕様と化したマリンアストレイは、本土防衛の直前の海戦を想定した機体であり、物量に劣るオーブ軍は敵空母を撃破する必要があった。

 

急遽、スライド登板として隊長に任命されたのはガルド・デル・ホクハ一尉。やはり経験豊富な彼がこの困難な任務を果たす必要があった。

 

「—————まったく、予定変更が多いな。状況が状況だけに」

 

「ああ。だが、貴方方がどれだけ空母を破壊するかにかかっている」

 

空からはリオンが、海からはガルドが強襲を行う手筈となっている。つまり、陽動は一機で十分とかそういう次元の話である。

 

 

「第一中隊はパリス・アップトン一尉が率いることになる。強襲で混乱した連合軍艦隊を空から強襲を仕掛ける」

 

なお、パリスもムラサメが愛機となる。アストレイが追従できない操縦技術と、規格外のGへの耐性から彼には不釣り合いの機体だったのだ。

 

「—————後は、地上部隊だな。陽電子砲による一斉正射。数で劣る我々は、面制圧でどこまで数を減らせるかが勝敗を分かつことになる」

 

第六、第七、第八中隊は本土防衛に回り、第九、第十中隊は司令部防衛、最終防衛ラインの維持、もしくは戦線維持のために迅速に動くことが要求される。

 

 

後は機甲部隊と戦闘機部隊がどこまで踏ん張れるかによる。

 

 

「—————そして、あんたは陽電子砲発射とともに直上より単独強襲。正気とは思えないな」

 

「—————当たらなければ、どうということはないさ」

さらりととんでもないことを言い放つリオン。しかし、その理屈が通るのがこの青年だ。

 

「勇猛果敢も、実績ありだからな。何とも言えんな」

 

 

 

そして一方、プラント評議会ではパトリック・ザラが方針を覆したことで大きなうねりを呼んでいた。

 

 

「どういうことだ、パトリック!! 今更和平だと!!」

 

アマルフィは、裏切られた気持ちになった。あの強硬路線の象徴だった彼が、和平方針に切り替えたことが信じられなかった。

 

「——————大洋州連合、アフリカ連合のケースもある。我々は独立を掴むチャンスを掴まねばならん」

 

毅然としたもの言いのパトリック。そこにはもう私情の一切が存在することを許さない政治家としての顔があった。

 

 

それをモニターで見ていたラウ・ル・クルーゼは仮面の下でかなり動揺していた。彼はパナマ攻略失敗の責任を追及され、本国に召集されていたのだ。

 

 

—————どういうことだ!? なぜ今になって

 

この程度で臆する男だったのかと、クルーゼは失望していた。世界を破滅に追い込む装置には都合の良かった彼が、今更和平を求めた理由は明白だ。

 

 

プラントは多少の賠償金とエイプリール・フール・クライシスの謝罪をするだけで、独立が約束されるのだ。そこには、シーゲル・クラインの国際裁判への出廷も含まれている。

 

 

穏健派もシンボルである彼を差し出すことに抵抗を覚えたが、クライン氏の覚悟をくみ取り、彼の意思を尊重したのだ。

 

同様に、パトリック・ザラも盟友の覚悟に涙する場面があったが、彼の最後の願いを聞き入れる必要があると悟り、プラントは完全に和平への道に進んでしまっていた。

 

「——————予定が早くなったが、ジェネシス、ヤキン・ドゥーエでの計画を進めるぞ」

 

ジェネシスは解体がすでに決定している。手を打たれる前にクルーゼは決断する必要があった。

 

 

クルーゼの同志である存在とは、コーディネイターであることに悲観した者たちが含まれている。

 

そして、パトリック・ザラに裏切られた過激派の面々。大部分はここだろう。アラスカでサイクロプスの生贄にされ、パナマでは敵討ちすらできなかった。

 

—————食料プラントに仕掛けた爆弾はやや足りないが、仕方があるまい

 

これで、プラントは自給自足が困難となり、地球が滅亡すれば人類は滅びる。

 

 

自分たちのような人類の闇を生み出した、遺伝子操作の負の遺産を生んでしまった世界に復讐するために。

 

 

議会では、満場一致とはいかないが、和平交渉が賛成多数で可決された。喝采を浴びるパトリックと、酷く安心した顔をしているシーゲル・クラインと、涙ぐんでいるアイリーン・カナーバ議員。

 

プラントの未来が約束されたことで、一同はその事実に喜んでいた。

 

 

少なくとも、何者かによってジェネシスとヤキン・ドゥーエが軌道から外れていなければ。

 

 

「リオン様。プラントは、変わりましたわ」

 

ラクスは、ようやく和平への道のりが進み始めた議会を見て涙ぐんでいた。自分は叫び続けただけで、世界情勢が最終的に後押しをした形となった。だが、手柄がどうのこうのという次元の話ではない。

 

「貴方の善意が、世界を変えたのですよ」

 

オーブが太平洋連邦の攻撃にあうことは既に知っている。ザフト軍は、フリーダムとジャスティスのザフト最新鋭の機体を投入することを決意。

 

 

平和の花を守り続けた強小国を救え。

 

 

アスランとフィオナは奮い立ち、カーペンタリアを飛び立ったという。

 

そのカーペンタリアでは、

 

「まさか、こういう形でまた、オーブを訪れるとはな」

 

アスランの声色も、心なしか軽やかだった。

 

「そうですね、アスラン。彼の妄言が、ここまで形になるなんて—————」

 

恐らく、この流れはリオンでさえ想像し得なかったことだろう。彼の善意は、世界に届き、届き過ぎていた。ただそれだけのことだったのだ。

 

「父上が決断してくれたおかげだ。憑き物が落ちたようで、本当に良かった」

狂気から解放された議長からの命令はとても短く、しかし重要な意味を持つものだった。

 

「—————もうすぐ、貴方とお茶を飲めそうだ、リオン・フラガ。それにキラにも会える」

 

今度は殺し合う形ではなく、共に立ち上がる者として。

 

————少しだけ、ほんの少しだけ、貴方に感謝します、リオン・フラガ

 

アスランの笑顔を取り戻してくれたことだけは、認めてあげないでもないですよ、と。

 

 

 

 

 

太平洋連邦のオーブ侵攻、そしてプラントの和平交渉開始をいち早く察知したのは、大洋州連合だ。

 

トーマス・アンダーソン大統領は滞在中の南アメリカにて緊急会談を要求。ジョゼフ・コープマン大統領とコンタクトを取ることに。

 

「大変なことになった。オーブが攻められる!」

 

「分かっている。プラントの和平交渉が確定した以上、脅威は急進派のみだ。アフリカは間に合わないだろうが、南アメリカに駐留する主力を派遣する」

 

「ああ。私も本国に主力部隊の出動を要請した。ウィンスレット社の製造した105ダガーとオーブのOSは素晴らしい。非常時であるため、戦後にいろいろ契約金はあるが、この際どうでもいい」

 

互いに部隊派遣を決定する首脳。オーブはこの世界を変えた存在だ。仲介国をここで失うわけにはいかない。

 

その派遣部隊の中に、水中部隊を率いる女性がいた。

 

ジェーン・ヒューストン大尉である。現在は南アメリカの水中部隊を指揮し、水中型モビルスーツ、フォビドゥンブルー開発の第一人者でもあった。

 

そして空には——————

 

「新入り、いい飛びっぷりだな!!」

 

 

「————訓練しましたので」

 

「調子に乗るな、エドワード。貴様の悪い癖だ」

 

 

量産型レイダー部隊を率いるのは、エドワード・ハレルソン少佐。その補佐にはモーガン・シュバリエ大尉がいる。どちらも戦場で名を馳せたエースパイロットではあるが、その二人に追従する存在がいた。

 

スウェン・カル・バヤン少尉。危うくエクステンデットにされかけていたが、クーデターの混乱に乗じて上官、訓練校の少年少女らとともに脱出。

 

 

「—————私たちの知らない家族、スッゴイ人だってデュエインおじ様も言っていたの! 私は、そのリオンって人に会いたい! だって私たちのお兄様なんですから!」

 

「————私も、会いたい。凄く、気になる。あと、痛いことをした奴ら、絶対に許さない」

 

「それ同感!! プラグを突き刺したり、イケナイ薬を投与したり! 絶対にギッタギタにするもんね!!

 

フラガ家に因縁のある少女らも参戦。スウェンはこの二人の少女が苦手だった。彼女らも、スウェンと同じく、寸前で助けられた、もしくは度重なる改造に屈さなかった強い存在だ。

 

 

 

「——————震えが止まらない。なぜ恐怖を感じている」

 

スウェンは、体の震えが止まらない事に驚いていた。その殺意が自分に向けられたわけではないというのに、視界から何かオーラのようなものを感じ取ったスウェン少年は、震えが止まらない。

 

何か、見えてはならないものを見た気がするのだと。

 

 

「純粋な殺意ほど恐ろしいものはないぜ、少年」

 

「お前の場合は変な方向に逸脱しかねん。無駄口をたたく暇があるなら集中しろ」

 

「へいへい」

 

モーガンに諫められ、大人しくするエドワードだが、

 

 

「けど、赤い彗星かぁ。どんな奴なんだろうな」

 

「噂では、若い青年らしいな。私も一度でもいいから会いたいものだ」

 

 

大いなる和平の動きは消えない。リオンの小さなきっかけから、多くの人が影響を受けた。

 

 

彼の世界への善意が人々に広がり、今こそ彼のために立ち上がる。

 

 

プラントが和平交渉に入ることは、オーブ攻撃4時間前に伝えられた。

 

 

「なんだと!? そこまでプラントは進んでいたのか!?」

これにはさすがのリオンも驚いた。ジェネシスの脅威がなくなった瞬間、オーブは全力で太平洋連邦を打倒することが出来る。

 

そして、宇宙へと向かうはずだったアークエンジェルの動向が不明瞭になる。

 

 

「とりあえず、ツキが向いてきたな、大将」

ガルドは、作戦水域の水中にてその朗報を聞いていた。これでエリクら主力部隊を出すことが出来る。が、宇宙戦闘仕様であるため、すぐには出せない。

 

「なんとか彼らの参戦まで粘れば、勝機を見いだせるかもしれない」

 

 

————これで、ようやく終わる。この戦争が終わる

 

 

操縦桿を握り締める力が強くなるリオン。待ち望んでいた新時代がすぐそこにある。

 

————ご先祖様、平和な時代が来ますよ。

 

リオンは自分に語り掛けるようにつぶやく。

 

—————リオン—————ッ、アークエンジェルは、動かすな

 

苦悶の表情に満ちたご先祖様の顔と、声色をリオンは聞いた。

 

————ご先祖様? いったい何が!?

 

リオンは和平交渉に入ったプラントは放置しても構わないと考えてしまっていた。だが、ご先祖様は違うらしい。

 

————禍々しい悪意が、あの巨大兵器を暴走させる。急げ、手遅れにならぬうちに

 

 

「—————ッ、アークエンジェルに通達! プラント和平交渉の知らせは聞き及んでいると思うが、ジェネシス解体作業開始まで宇宙戦闘仕様の変更は禁ずる!」

 

自分でも的を得ているのか、ズレているのか分からない言葉だった。しかし、ご先祖様は超常の存在だ。その彼が焦り、警告をするほどのことが起きようとしている。

 

 

そして程なくして、自分も見てしまった。まだ図面でしか見たことがない灰色の巨大な建造物が、地球に破滅の光を浴びせる光景を。

 

 

—————なんだ、あれは……なんで、なんで、なんで!?

 

 

全てが消えていき、全てが終わっていく景色が見えてしまった。誰が何のために、そこまでは分からない。

 

 

しかし、視えてしまったのだ。

 

 

宇宙に上がらなかった選択を選んだ瞬間、地球が死滅するという未来が見えてしまったのだ。

 

 

 

そして、以前から漠然と見え始めた不吉なビジョン。全てが回り始めた世界で、知り合いの表情が曇っていることだ。

 

 

凛々しい女性になりつつある太陽の慟哭が見えた。

 

 

リオンの弱さを認め、受け止めてくれた歌姫の絶望が存在した。

 

 

 

何度も見てしまうビジョンが、彼を臆病にした。悪夢が何度も同じ内容で流れてくる。まるで、警鐘のようなものだと、思ったものだ。

 

—————彼女らを悲しませる理由を、俺は知っている。

 

操縦桿を握るリオンの手が強まる。

 

—————俺はどうすればいい。彼女を悲しませず、あれを止めるには

 

 

色々なビジョンがいくつも浮かんでくる。常人ならば、あまりに膨大な情報量で頭がパンクしてしまうだろう。理解が追いつかないだろう。

 

しかし、彼は数ある未来を選び取っていく。彼に残された選択を探し始めた。

 

そして————————

 

 

—————なるほど、幸せは、未来は—————そういうことか

 

 

得心したリオンはフッと笑う。覚悟は決まった。もはや何の迷いもない。

 

 

「——————それと、タナバタに二基目のIOBとストライクグリントを急いで用意していてくれ」

 

 

「リオン? しかしこのままでは」

ナタルは、リオンの直観じみた命令に困惑するが、彼の焦った様子に何かがあると考えていた。

 

「説明をしている時間はない。急いでアークエンジェルは宇宙に上がるんだ。おそらく宇宙では、事態が緩やかに進行している」

 

 

リオンの直観染みた命令に、司令部も困惑する。しかし、リオンの直観は、フラガ家の直観は馬鹿には出来ない。

 

「——————アークエンジェルは打ち上げシークエンスに」

 

カガリはそんな中、リオンを信じる判断を下した。長年彼の直感は当たってきた。なら、今度もきっと、正しいはずだと。

 

「————だが、おかしくないか? プラント以外に、宇宙にいる敵っていないじゃないか」

しかしユウナは、プラントという脅威が消えた瞬間、アークエンジェルの役目は終わったと考えていた。つまり、この防衛戦に参加させるべきなのだと。

 

「ふむ。確かに、警戒する存在を特定もせず、ただ備えるというのはおかしな話だ。リオン、其方は一体何を見た?」

 

そして、ミナも彼に続いてしまう。リオンの言葉は大勢を動かすほどのものではないと。

 

「分からない。すまない、言葉では説明できない」

リオンは申し訳なさそうに白状する。リオンと亡霊でさえ何が起きているのかを把握しきれていない。

 

 

「すまんな、信用していないわけではない。しかし、憶測で虎の子の切り札を動かすわけにはいかん」

ウズミの言葉が決め手となり、アークエンジェルはこれより宇宙戦闘仕様から大気圏仕様への整備が始まる。

 

 

「しかし、グリントのほうは手を回しておこう。これが最大限の譲歩だ」

 

 

「わかりました——————」

 

結局リオンも折れ、グリントで機体だけ確保してもらうことを通すのみとなった。

 

 

その後、アークエンジェルは宇宙戦闘仕様から大気圏仕様へと換装を余儀なくされる。プラントのジェネシスという破壊兵器が無力化された以上、オーブ防衛戦にかり出す必要が出てきたのだ。

 

 

—————しかし、これでよかったのかもしれない。

 

 

アークエンジェルは間に合わない。ゆえに、もう彼らが死ぬことはないだろう。自分が、全ての因縁に決着をつければ。

 

 

「誰なんだろうな、滅亡を願う、この戦乱を助長するのは」

 

 

あの老人に貰った赤いルビーを見て微笑んだリオン。人のつながりがあってこその道のりであり、手が届く場所にまで未来が舞い降りている。

 

————あなた方に会うのは—————ちょっと、遅くなるかもしれません

 

再会を心待ちにしている彼らは、一足先に自由と平和を得ることが出来た。今頃、毎日がお祭り騒ぎだろう。

 

その様子を想像すると、心が晴れやかになるのが分かる。

 

 

きっと素晴らしい未来が、素晴らしい世界が彼らを待っている。

 

 

 

今なら何といわれても、揺るがない気がする。

 

 

—————俺、世界を好きになりたくて、駄々をこねてたんだ

 

多くの人々の協力があった。自分の我儘に振り回されてくれて、賛同してくれた。

 

—————そして、そんな世界がみんなを待っているんだ

 

 

その世界の夜明けが待っている。目の前に辿り着く場所なんて存在しない。進み続ける限り、人類の未来は、自分の未来は続いていく。

 

ここで止まるつもりなどない。そして人類も止まる気はないはずだ。

 

その先に未来という道が、広がり続ける限り。

 

————だから、守り通す。守るべきものを守る為に、惜しむものは何もない

 

必ず、オーブを守る。

 

カガリを、ミナを、みんなを守ると決めた。

 

ラクスを、プラントの未来だって存続させて見せる。

 

世界はいつだって、抗うことを止めないのだと、その悪意に見せつけてやる。

 

 

「攻撃開始まであと2時間! リオン、準備はいいよね?」

 

オーブの特機の一つであるアカツキに乗るのは、キラ・ヤマト。オオワシ装備の機動型を装備し、ビーム兵器に対して絶対の防御能力を誇る。

 

「ああ、勝ち取るぞ。必ずだ」

 

 

「うん!」

 

いつになく熱が籠るいい方に、キラは頼もしさを感じていた。飄々としていたリオンの本気が見られる。それだけで状況が違う。

 

 

—————反射射角によって、跳ね返り方が違う。僕にはうってつけの機体じゃないか

 

このガンカメラなら、演算ですべての数字が見える。これがリオンに並ぶアドバンテージだ。

 

 

 

司令部も、刻々と近づくタイムリミットを前に、緊張感が蔓延する。

 

そして、開始一時間前。

 

 

「陽電子砲、チャージ開始。リミットと同時に一斉正射。形振り構うな。ここが正念場だ」

カガリは鋭い視線をモニターに映る連邦艦隊に向ける。

 

物量差は圧倒的ではある。が、こちらは人材の力とアイディアによって対抗する準備は出来ている。

 

 

 

「機甲部隊は海岸線に展開。主力艦隊はモビルスーツ部隊を出撃させているな?」

各部隊に指令を送るカガリ。兵法は既にミツルギより学んでいる。というより、今回はモビルスーツを獲得して浅い記録しか持たない軍隊のぶつかり合い。

 

ここでものを言うのは、物量と質において優位性を示せるかではなく、如何に新兵器をうまく運用できるかにかかっている。

 

 

 

「はっ、すでに第三から第五中隊は沖合にて待機。第二中隊も港付近に待機。第一中隊はフラガ特尉の強襲後にいつでもいけます」

 

 

その為の高機動中隊。第一中隊は速度重視。第二中隊は戦線維持から強襲まですべてを請け負う本土防衛の要。

 

「上空の偵察機より報告。オーブ領海外より、多数の飛行艇を確認」

 

「第11、第12航空中隊で強襲を。フラガ特尉の強襲は遅れるが、飛行艇からの降下は必ず阻止する必要がある。」

少ない戦力で、如何に回すか。カガリに求められているのは大胆さと繊細な部隊捌き。

 

 

虎の子の第一中隊は、無闇に消耗はさせられない。旧時代の兵器とはいえ、戦闘機は飛行艇に対して有効な兵種だ。

 

 

「ホクハ一尉に通達。陽電子砲発射後に海中より強襲を行うように。」

 

状況は変化する。その変化に乗り遅れないよう、カガリは指示を飛ばす。予定されていた空と海での電撃作戦は不可能。

 

幸いにも、太平洋連邦は水中型モビルスーツの開発に手間取っている。優位性を示し、その威力を発揮する最大のチャンスでもある。

 

「フラガ特尉には、特機の足止めを担ってもらう」

 

 

「ヤマト特尉には、本土沖合にて、防衛戦に参加。第二中隊と合わせて特機の足止めを任せる」

 

問題はその特機の軍勢。これをいかにうまく抑えるかにかかっている。全てはリオンが飛行艇を殲滅する速度である。その時間によってオーブの命運がかかっている。

 

 

「主力艦隊は沖合の防衛強度を低下させ、予定通り別動隊が二つ連邦艦隊の両脇へと移動中」

 

排他的経済水域付近に展開し、威圧している連邦艦隊の側面に打撃を行うのだ。敵はこちらを少数と侮り、沖合の艦隊数に違和感を覚えないだろう。

 

無論、オーブ艦隊が所有する潜水艦をすべて投入している。後は機動力に長けた駆逐艦で包囲し、波状攻撃を加えるのだ。

 

 

「——————敵予想攻撃時刻まで、あと1時間!!」

 

 

「航空部隊を展開。第一機動中隊とともに、敵飛行艇を見つけ出せ。逐次偵察型ムラサメからのデータリンクを徹底しろ」

 

 

「敵飛行艇部隊。時速450キロで領空外を旋回中。待機場所を見つけました!」

 

 

「———————最初のターニングポイントは果たしたぞ」

 

懸案だった飛行艇部隊を早期に見つけることが出来た。旋回性能に劣る飛行艇ならば、わざわざモビルスーツを多数投入する必要はない。

 

 

そして、時間が訪れる。

 

太平洋連邦の旗艦、ドミニオンはアークエンジェルの同型艦であるが、さらに火器管制を強化した後継型の戦艦である。

 

 

その船に乗るのは、ウィリアム・サザーランド中将と、ムルタ・アズラエル。ここでオーブを勢力下におくことで、続くアフリカ、大洋州連合を屈服させることが出来る。

 

特機を6機も投入するのだ。そしてさらには圧倒的な物量。如何にオーブと言えど、これでは数で押し切られるはずだ。

 

「時間です」

ムルタ・アズラエルの言葉と共に、太平洋連邦の兵装が解除され、一斉攻撃が開始される。

 

 

しかし、

 

 

「高エネルギー反応捕捉!! これは陽電子砲!?」

 

 

太平洋連邦艦隊に向けて、複数の陽電子砲が照射されたのだ。一斉攻撃を仕掛けた瞬間の為、回避できない艦隊が多数存在し、そのまま光の渦に巻き込まれてしまう。

 

「艦隊に直撃!! 被害甚大!! 轟沈する戦艦もあります!」

 

「急げ、急げ! ダメコン急げ!! 浸水を止めろ!!」

 

「艦が傾斜します!! ダメです、制御効きません!!」

 

 

慌ただしくなる回線のノイズ。アズラエルはオーブの先制パンチを前に、怒りに震える。

 

「あの忌々しい砲台を破壊しろぉぉぉ!!」

 

「ローエングリン、一番二番起動! 目標、オーブ沿岸部!」

 

ローエングリン発射態勢に入るドミニオン。ここで打撃を与えれば、防衛戦に大穴を開けることが出来る。

 

 

あの忌々しい砲台をオーブは必死に守っており、沿岸部はミサイルのシャワーでずたずたになりつつある。

 

「水中より高速接近する熱源あり!! こ、これは!?」

 

その時だった、水中より被害を受けた艦隊に迫る水中からの脅威。

 

マリンアストレイの部隊が到着したのだ。

 

「さぁ、狩りの時間だ。手当たり次第に艦艇に風穴を開けてやれ!!」

 

ガルドの咆哮とともに、海の益荒男たちが猛威を振るう。

 

 

「な、なんだ!? 蒼いモビルスーツ!?」

 

 

「くそっ、こんな時に挟撃だと!?」

 

 

不意を衝かれた連合艦隊は混乱に陥る。ガルドは部下たちに無理はさせないつもりだった。

 

「深追いするな! 叩きは陽電子砲に任せろ! 各自連携し、陽動に徹しろ!!」

 

ここで兵士を一人失うだけでオーブには痛い損耗だ。魚雷攻撃などで海中より奇襲を断続的に仕掛ける彼らは最大限の戦果を挙げていた。

 

 

「頂きッ!!」

 

そして、一人の部下が戦艦の背後を取ったのだ。そのままサーベルでブリッジを両断し、素早く海中へと逃げ去る。追尾するミサイルも、海という広大なカーテンの中で力を失っていく。

 

一撃離脱と水中からの攻撃で、マリンアストレイは艦隊に修復不可能な損耗をたたき出し、陽電子砲の次回照射を待っていた。

 

「第二撃!! きますっ!!」

 

「よし!! 海中へ退避しろ!! 本命の一撃を特等席で確認するぞ!!」

 

 

海の戦闘を生業とする部隊は、どの戦闘においても連合の鬼門となっていた。

 

 

不意を衝かれた艦隊は、陽電子砲からの攻撃で立て直しつつあった矢先であり、さらなる混乱により、混乱状態に陥ったのだ。

 

「特機を出撃できません!! このままでは————!!」

 

「くそっ、特機だけでも出させろ!!」

 

アズラエルは次々と不意を突き、相手にペースを握らせないオーブに憤怒の表情を浮かべる。

 

「おのれぇぇぇ!! ここまで私をコケにするとは、許さんぞ、オーブ!!」

 

 

そしてついに、陽電子砲のチャージが完了し、後は薙ぎ払うだけ。沿岸部でオーブは抵抗を続けているが、入り込めばいずれ飛行艇で蹂躙できる。

 

「第二撃!! きますっ!!」

 

「回避ィィ!!! 取り舵————うあぁぁぁぁ!!!」

 

 

「艦が沈む、傾斜する!? うわぁぁぁぁ!!」

 

 

「退艦は許さん!! 死ぬまで戦え!! モビルスーツを射出してからしねぇぇ!!」

 

断末魔と混乱で惑う人間たちの声が飛び交う。大軍で小国をすりつぶす算段だった太西洋連邦軍と、少数だが地の利と知恵を活かしたオーブ軍。

 

何よりここは、彼らのテリトリーなのだ。苦戦を予想していない時点で、彼らは戦術的に劣勢だったのだ。

 

 

「何をしている!! 陽電子砲さえ葬れば、こちらは上陸できるんだぞ!!」

アズラエルの檄が飛ぶ。本命はあの陽電子砲だ。あれを必死に守り続けるということは、オーブ軍にとってあれは作戦の要だ。素人の人間でもわかる。

 

「チャージ完了!! いつでも撃てます!!」

 

「あの忌々しいデカ物をこわせぇぇぇ!!」

 

上陸してしまえばあとは進軍するだけの簡単な戦闘なのだ。アズラエルは、オーブ軍の虎の子を壊せば、後は数で押し通ることが出来ると踏んでいた。

 

 

 

「悪いが、それは認められない」

 

 

しかし緑色の閃光が二筋、ドミニオンのローエングリンを貫いたのだ。

 

 

「な、ぁぁぁ?!」

 

衝撃に揺れ、席から滑り落ちてしまうアズラエル。勝利を確信する一撃を期待していた彼は、事態が急変したことを悟る。

 

 

 

そして見た。それは連合に勝利を捧げ、ザフトに敗走を重ねさせた、神話そのもの。

 

 

赤い装甲、緑色の瞳、そして4本角。

 

 

オーブ沖合で撃墜されたはずのストライク二号機が、今度は連合の前に立ち塞がっていた。

 

 

「こちら、レッド1、陽電子砲の気配があったので、寸前で破壊に成功した。すぐに飛行艇強襲を支援する」

 

 

リオンの乗る機体はストライクグリントではない。リオンはこの土壇場で機体を変更。ストライクグリントは宇宙仕様に変更し、IOBとともにすぐに出撃できる態勢を整えさせたのだ。

 

 

それは、リオンにしかわからぬ直感。ここでストライクグリントを使用してはならないという予感が彼にはあった。

 

 

「状況報告。飛行艇には無事航空部隊が強襲に成功。敵モビルスーツ降下を阻止。第三から第六中隊は被害軽微のまま作戦行動中」

 

AIのノアに速報に頷いたリオン。何とかこれで飛行艇の脅威を除くことが出来た。

 

「飛行艇討伐は、俺の出る幕ではないな。予定通り、特機を抑える。ノア、状況は?」

 

「敵大型強襲艦より、特機と思われる機体が発進。母艦のほうからも来ます」

 

 

そしてついに、懸案だった特機の対応を任されることになるリオン。ここが彼にとっての正念場。

 

 

「赤い奴、やるよ? あの色嫌いなんだよ!」

 

「はっ、うっせぇよ!!」

 

「ごちゃごちゃ、うざい」

 

クロトはジャスティスに屈辱を味わっているため、基本的に赤い色の機体に嫌悪感を抱いている。そして噂によればあの赤い機体はかなり手強いらしい。

 

 

オルガとシャニも、赤い機体が赤い彗星の乗っていた機体だと知っており、その軽口とは裏腹に、油断はできないと考えていた。

 

 

クロトのレイダーが機動力を活かし、リオンに迫る。モビルアーマー形態に変化したその機体は易々とストライク二号機の速力を超越する。

 

「早いっ!?」

機体性能で劣っている、リオンはそう感じたが、ここでグリントを出すわけにはいかない。

 

 

「—————おらぁぁぁ、抹殺!!」

 

死角に回り込み、先制打を仕掛けるクロトだが、速力に劣る二号機は易々とそれを回避する。

 

 

まるで、攻撃が見えているかのような、見切りをつけた動きで、今度は逆に————

 

 

「そら、お返しだ」

 

横に回避しながらの反撃。脚部バーニアでロール機動しつつ、ライフルの攻撃。そしてその射撃精度はクロトを超越する。

 

 

「え!?」

 

迂闊に飛び込んだことが、クロトの運命を決定づけた。敵の力量を見誤り、迂闊な動きをした彼は、その一発の銃弾に沈む。

 

 

それはたった一つの銃撃だった。何の変哲もないただの正射。しかし、まっすぐ飛んでいるはずの弾丸は、まるでレイダーに吸い込まれるように飛んでいき、機体が着弾を待っていたかのように当たりに行ってしまう。

 

 

「な!?」

周りの将校たちは驚愕するしかない。あの赤い機体は先回りしたのだ。レイダーの動きを瞬時に予測し、その回避ポイントとルートを算出し、目測でその座標を狙い打ったのだ。

 

 

—————馬鹿な、音速を超える機体を目視で—————なんなのだ、あの怪物は

 

—————ば、化け物—————

 

 

正確無比にコックピットを射抜いた一撃は、レイダーにあらゆる力を奪い去り、自由落下していく機体は、クロトとともに空中で爆散したのだ。

 

 

「「!?」」

 

シャニとオルガはその光景に驚愕しないはずがなかった。クロトは気に入らない奴だ、しかし彼の力量は知っている。その彼があっさりと落とされたのだ。

 

 

「目標捕捉、特機と断定。排除行動に移る」

 

「了解、そちらに追従する」

 

 

そこへ、デュエルとバスターがレイダー制式仕様の機体に搭載されていた飛行支援ユニットとともに襲い掛かる。

 

 

「脅威を確認。第一優先順位として設定」

 

そして残るフォビドゥン二号機がリオン包囲に参加する。総勢5機の特機が、旧式化したストライク二号機に襲い掛かったのだ。

 

 

「これだけ新型のオンパレードでは、先ほどの様にはいかないか」

 

 

回避を続けるリオンだが、エネルギーの問題もある。幸い、エネルギーパックを複数装備した二号機の稼働時間は大幅に改善されているが、長期戦はまずい。

 

 

周囲は特機の巣窟だ。その全火力がリオンとストライク二号機に向けられているのだ。弾幕を水面方向へと加速しながら回避行動をとるリオン。

 

 

包囲されれば機体性能で劣るこちらに勝機はない。

 

「くそっ、」

 

牽制を入れつつ、鎌を持った機体が突出したことで、その二機を狙うが、

 

「はっ!」

 

「反射」

 

シャニは嘲った笑みとともに、生体CPUは抑揚のない声でゲシュマイディッヒ・パンツァーでその攻撃を歪曲させ、無力化させたのだ。攻撃を正攻法で防がれたことに驚くリオン。

 

 

「!? ビームが!? ミラージュコロイドの応用か!」

 

リオンとしても、あのサイズであの強力な磁場を発生させる機体を警戒する。しかし、ミラージュコロイドの磁場を発生させるためには、多量のエネルギーを食らうはずだ。

 

—————グリントならば、エネルギー切れを狙った集中攻撃だが

 

 

しかし、今は物量も時間も足りない。リオンは物理攻撃であれを仕留める必要があると踏んだ。

 

「おらぁぁ!!こっち見ろよ!!」

 

オルガがカラミティとともに飛行ユニットに乗り込み、空から追撃を仕掛ける。その重火力な面制圧力は、

 

 

「っ!!」

 

二号機の最大加速でなければ危ないものだった。あれ相手に悠長に同じ場所にとどまっていれば、ハチの巣にされかねない。しかも、こちらの装備と装甲では防いだ瞬間に詰みだ。

 

 

あのリオンをもってしても、特機を複数一機で相手取るのは骨の折れる仕事でもある。

 

—————約束したんだ。未来を繋ぐと

 

 

劣勢の中で、リオンはあきらめない。どれほどの逆境であろうと、彼はカガリにとっての最強であらねばならない。

 

 

「逃げてるばかりか!? あぁぁん!?」

 

「追撃を継続」

 

バスターとカラミティの飽和攻撃に回避で手いっぱいになるリオン。優れた乗り手が目の前におり、型式落ちでの戦闘を強いられるリオンだが、

 

 

「舐ァめるなァァァ!!!!!」

 

急降下しながら硬度を落とすリオン。当然ながら追撃を仕掛けるバスターとカラミティ。そしてそれに続くフォビドゥンの二機。

 

 

「——————了解した、オーブ本土への攻撃を優先。現空域を離脱する」

 

しかしデュエルだけがドミニオンからの命令でオーブへと向かう。リオンとしては追撃したいがそれはあとの者に任せる。

 

 

—————あの程度、お前ならば落とせるはずだ、キラ

 

 

 

そしてリオンはここであるひらめきによってこの劣勢を打開することを目論んだ。

 

正直、かなり分の悪い賭けだが、彼にとっての戦闘はオーブ防衛戦だけではない。

 

 

—————少しの遅れが、滅亡への致命傷だ。悪いが手早く落とさせてもらう!

 

 

「はっ、効かないって言って—————」

 

シャニの乗るフォビドゥンに攻撃を仕掛けたリオン。当然ながら攻撃は曲げられ、無力化されるのだが—————

 

 

「—————あ」

 

バスターの胸部に曲がってしまったビームが直撃したのだ。連携も糞もない陣形で追撃を仕掛けた敵の油断を衝いたリオンの搦手。

 

 

不規則に見えて、彼らは互いに有理な座標でこちらを包囲しようとしていた。それぞれが自由に考えて、それぞれの兵種と機体性能に合わせ、彼らは論理的に動いていた。

 

 

それは本能と言えばいいのだろうか。戦闘を生業にして、なおかつ野生の本能に身を任せた彼らは、相当有能な戦士になっていただろう。その連携で今まで通用していたのだから。

 

しかし、リオンを前にして、彼らは経験が足りなさ過ぎた。たった数回で相手のポジション取りの癖と傾向を見抜いた彼は、彼らの反応速度を上回り、なおかつ機体制御だけで誘導して見せたのだ。

 

例えば、フォビドゥンへ攻撃する際の、バスターの位置取りはどうなのかと。

 

 

彼はフォビドゥンを地点と設定した場合、通常斜め上40~50度の場所から援護射撃を行っていた。あの中で理路整然とした動きを見せていただけに、合わせようとする彼の動きは見切りやすかったのだ。

 

 

「バカな!? 何なんだあいつはァァァ!!!」

 

 

「そんな、特機が2機も—————嘘だァァァ!!!」

 

よりによって、味方の装備で撃墜される羽目になったバスターはそのまま空中で爆散したのだ。退艦中の将校たちも、圧倒的な実力を見せつけるストライク二号機に畏怖と恐怖を覚える。

 

 

「これで、2機目ッ」

 

一方、汗がだんだんと流れるリオン。無茶な機動に節約しながらの戦闘。集中力はこれまで以上に研ぎ澄まされている。

 

本能で演算を行っているリオンは、それだけ脳にかかる負荷も一段と重いものとなりつつある。瞬間的な五感と第六感で脳内イメージを映し出し、瞬時に判断して行動する。

 

この戦場で最も戦闘に特化しているのは強化人間ではない。彼らの目前に居座る最強なのだ。

 

 

 

「くそっ、なめやがって!!!!」

フレスベルグで連射を続けるシャニ。相手のビームを曲げることが出来るのならば、自分の攻撃も曲げることが出来る。

 

「!?」

 

とっさの判断で、リオンはライフルを手放す。寸前でビームの軌道が変わったため、不意を衝かれたのだ。何とかその初見の攻撃を回避したが、ビームライフルを失ってしまう。

 

 

「——————オオワシ装備で一番有効な武器が————」

 

まだ飛び道具は存在するが、リオンにとってライフルはここで失う計算ではなかった。フレスベルグはほぼ初見だった。なのに、彼はそれを回避したのだ。その事実はシャニにとって衝撃となったに違いない。

 

「対象はフレスベルグの軌道に対応しきれていない模様。有効な武器を選択します」

 

 

「おらおら、逃げまどえよ!!!」

 

フレスベルグの嵐がリオンを襲う。殺気と事象を予知するリオンの能力と、これまでの戦闘技術で回避し続けているが、リオンはさらに追い込まれつつあった。

 

 

—————くそっ、ここで時間を食うわけにはいかないのに

 

 

「!!!」

 

ここで、意識外からカラミティの攻撃がフォビドゥンに当たる。その瞬間にリオンの背筋が凍る。

 

 

カラミティの発射したビームが、オオワシ装備の羽根を掠ったのだ。掠っただけで、機動力は落ちないものの、リオンには久しく忘れていた瀬戸際の感覚を思い出していた。

 

「面白い、俺を捉えるか!!!」

 

出し惜しみすることなく、形振りも構わない。時間が刻一刻と過ぎ去っていく。小物を前に足止めされるわけにはいかないのだ。

 

 

————ここで殺す、生きて太平洋に戻れると思うな

 

「こいつで—————うわっ!?」

 

お返しとばかりにリオンはオオワシ装備の高エネルギー砲でフォビドゥンに攻撃を当て、カラミティのバズーカと肩部に装備された二連装ビーム砲台を破壊したのだ。

 

これで、胸部のスキュラ以外ほとんどの攻撃手段を失ったカラミティ。

 

「こ、この俺が—————」

信じられないといった表情のオルガ。多人数で追い込んでいるはずなのに、被害ばかりが増えていく。

 

「おおおぉぉぉぉ!!!!!」

 

陣形が乱れた瞬間に、フレスベルグの嵐を掻い潜ったリオン。急加速で猛追する先は、オルガの乗るカラミティ。

 

鬼気迫る声を戦闘で初めて出したリオン。ここが正念場、ここが自分の役目の瀬戸際。

 

ならば、倒れる理由は存在しない。

 

 

「バカが、死ねよ!!」

 

しかし最大の隙を見せたリオンの背中に張り付いたのは、シャニの乗るフォビドゥン。フレスベルグの直射であの忌々しい赤い機体を撃墜する。

 

 

しかし—————

 

「分かっていたさ、お前がその位置に動くことは!!!」

 

腰部に装備されたビームサーベルを投擲したリオン。メインカメラで確認せず、規定された軌道へとただ誘導される光の刃。

 

そこにはロックオンも何もかも存在しない。

 

 

だが、だからこそリオンにしか到達し得ない攻撃であり、必殺の一撃。

 

警報が遅れて鳴り出した。危険を発するアラーム音が彼の耳に届くのと、命運が決するのはほぼ同時だった。

 

「ぐっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

サーベルがコックピットを突き破った瞬間、シャニは膨大な熱量にうめき声を上げる。そして断末魔とともに、この世界から跡形もなく消失し、

 

 

乗り手を失ったフォビドゥンは、同じく彼と同じく空中で爆散したのだった。

 

 

「だがてめぇは終わりだ!!」

 

シャニを仕留めたが、隙が出来てしまったリオン。このまま彼が予測し得ない初めての兵装、胸部ビーム砲スキュラでとどめを刺す。

 

 

「言ったはずだ、生きては帰さんと」

 

 

リオンはここで、盾ごと突っ込む判断を選択。エネルギーで満載される敵胸部に体当たりを敢行したのだ。

 

「ぐわぁぁ!?」

 

リオンの決死の体当たりにより、スキュラの射角がずれたのだ。辛うじて致命傷を避けたリオン。そしてそれこそが、この戦闘での勝敗を分かつ瞬間となった。

 

「—————賭けの代償にしては、安かったな」

 

無論、リオンも無事とは言えない。致命傷を避けたとはいえ、今のでシールドを持っていた右腕が消し飛んだのだ。中破寸前まで追い込まれたのは彼らの気迫が僅かに届いた証なのか。

 

 

どちらにせよ、勝敗は決した。彼らにはもう勝機は万に一つ存在しない。

 

 

足蹴にして、カラミティを見下ろすストライク二号機。オオワシの砲台は既にカラミティとオルガを捉えていた。

 

「な、まっ」

 

 

「終わりだ」

 

超至近距離での飛び道具の一撃。ボディに大穴を開けたカラミティは、海中に叩き落され、大きな水しぶきとともに爆散。

 

 

「計算外。理解不能。足止めを選択」

 

距離を取りつつ、牽制を入れるフォビドゥン二号機。特機6機のうち、4機を撃墜する並外れた実力を前に、生体CPUは時間稼ぎを選択したのだが、

 

「単騎で俺を止められると思うなぁぁ!!!」

 

 

猛追するストライク二号機と鬼気迫るリオンにあっさりと距離を詰められ、

 

「はぁぁぁ!!!」

 

残ったサーベルで、忌々しいゲシュマイディッヒ・パンツァーを切り裂き、無力化すると、

 

「くっ」

フレスベルグの直射で何とか生き残ろうとする生体CPU。しかしリオンはその攻撃を察知し、直上へと急上昇。

 

 

「終わりだ。世界の為、ここで死んでもらうぞ」

 

脚部ユニットでフォビドゥン二号機を揺らし、自由落下から体勢を立て直すまでの隙をつくリオン。

 

彼が機体の体勢を立て直したときには—————

 

「任務————失————」

 

 

最後に残ったビームサーベルが、彼を世界から消失させる瞬間が訪れていた。深々と光の刃が突き刺さり、自分たちが敗北したことを悟るCPU。

 

その言葉は最後まで続くことなく、リオンの先を見ることなく、彼は意識事消えていった。

 

 

「————————はぁ、はぁ、はぁ——————」

 

かなり瀬戸際だった。息を荒くするリオンは、自分が久しく忘れていた死地というものを実感していた。

 

————紙一重だった。これで連携までよければ、まだ2機しか落とせていなかっただろう

 

 

ここまで自分が追い込まれたと思える戦場はなかなかなかった。しかし、想定以上に速く任務を達成したとはいえ、味方の状況がどうなっているのか分からない。

 

「ノア、状況はどうなっている?」

 

 

「オーブ上空に、ザフト軍機2機が飛来。そのままこちらを援護する形で飛行艇の殲滅は完全に達成できました」

 

 

「——————は?」

 

無機質な報告に、リオンは間抜けな声を出す。いきなりザフト軍機がここで登場する意味が分からない。プラントはようやく和平交渉に入るというのに、いくらなんでも動きが早すぎる。

 

「南アメリカ共和国と穏健派の大西洋連邦の主力部隊が、太西洋連邦の背後から強襲。掃討まであともう少しです」

 

 

「——————まだ劣勢という計算だったのだが—————思わぬ誤算だ」

 

 

思い通りにいかない、予測した最悪が悉く覆される。ここに南アメリカと大西洋連邦が参戦してきた。それも最高のタイミングだ。

 

「俺の知らない流れが、世界にはあると、理解はしていた」

 

不意に目頭が熱くなるリオン。まだまだ世界は捨てたものではない、これからも未来は続くのだと確信したと同時に、

 

————だからこそ、邪魔はさせない。

 

 

メインカメラから空を見上げるリオン。そこに潜む悪意を彼一人が認知していた。

 

 

—————見えているぞ、その悪意は

 

 

最後の大仕事を前に、リオンは急いでタナバタへと向かうのだった。

 

 

 

 




激闘の末(一話のみ)、特機を5機撃破することに成功したリオン。

次は、リオンの視点以外での戦闘になります。


外伝キャラのガルド氏。ここにきての大戦果で二階級特進不可避。
水中部隊がこの防衛戦の勝敗を左右したと言っても過言ではないでしょう。

次点は戦闘機部隊。敵主力降下部隊の降下を寸前で阻止。これも大きい。


しかし、防衛戦で切り札を出せなかったオーブ軍。この選択を片隅に入れて、次回以降を読み進めてください。
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