機動戦士ガンダムSEED 理想の従者   作:傍観者改め、介入者

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連続投稿です。48話から読んでない人は、順番に読んでください。


第50話 比翼の希望

それはリオンが特機に包囲されていた時の事だった。

 

オーブ軍は飛行艇の処理に追われ、沿岸部の防衛戦はほぼ崩壊状態。今にも上陸を許しかねない状況だった。

 

「リオン特尉は特機の足止めに遭遇! まだ戻り切れません」

 

「第一、第二中隊が沿岸部防衛に参加! 敵モビルスーツ部隊と交戦中!!」

 

アサギ率いる第二中隊、パリス率いる第一中隊が空から攻撃支援を仕掛け、本土防衛に回された中隊が港への進軍を阻止している。

 

「ヤマト特尉を投入する。前線は後退しつつ応戦! 機甲部隊の砲火を防衛に集中させろ!! ここが正念場だ、持ちこたえろ!!」

 

司令部では、カガリが尚も指揮を執り、少ない部隊をうまく運用し、大群であるが故に迅速な動きが出来ない連邦軍を翻弄していた。

 

「機甲部隊、上陸部隊の殲滅に成功!! 尚も第二陣、きます!!」

 

「陽電子砲発射態勢、完了しています!!」

 

第一陣を倒しても、第二陣が迫る圧倒的物量差。カガリは一瞬口元がゆがんだが、指示を絶えず飛ばす。

 

「陽電子砲、目標沿岸部駆逐艦群。足場さえなくせば、連合の量産機はここまで侵攻は出来ない!!」

 

圧倒的な個の力はあちらも持っている。ならば、後は指揮官の力量の差。ここで負ければ、オーブの命運が終わってしまう。

 

世界は進み始めている。ここまで来て、その未来を授かれないのは悔しすぎる。

 

————まだだ。援軍が来る予定まで、我が軍は負けるわけにはいかない

 

 

 

しかし、ここで、戦線を打開する存在が到着する。

 

 

「後は僕に任せて!」

 

 

 

空に舞い上がるのは、黄金の輝き。それはオーブの意思そのもの。オーブの命運を握る、もう一つの切り札。

 

 

刃を向けるものには刃で返そう。

 

その輝きに魅せられたのなら、その威風堂々とした姿を晒そう。

 

「アカツキ、戦線を押し上げます!!」

 

 

キラの乗るアカツキが、太平洋連邦の視線をくぎ付けにする。煌く肢体をその黄金の太陽の下に晒し、敵の軍勢に相対する。

 

「リオンだけに、その重荷は背負わせないよ」

 

彼にとっての黄金の意思と、黄金に輝き続ける可能性という名の未来のために。

 

 

出現したアカツキを前に、連邦軍は奇異に思いつつも応戦を敢行する。見掛け倒しなのか、それともそうではないのか、なんにせよ、あれは不明機。彼らにとっての敵そのものだ。

 

 

「なんだあの黄金の機体は!!」

 

「撃ち落とせ!!」

 

「アレに砲火を集中させろ!!」

 

一斉に光学兵器の嵐がアカツキに向けて放たれる。キラはそれを難なく躱しつつ、そのタイミングを待っていた。

 

無条件に攻撃を跳ね返すのではない。アカツキは反射角と演算がしっかりしていなければ、攻撃を無効化するだけの性能に落ちてしまう。

 

それでは無意味だ。並のパイロットであれば十分な性能だが、キラ・ヤマトが乗る場合はそうではない。

 

 

しかし、ついに連邦軍の眼前で光学兵器がアカツキの機体を捉えた。その瞬間彼らは撃墜を確信した。

 

 

「反射角補正、ヤタノカガミの装甲なら—————!!」

 

 

彼の眼に内蔵されたガンカメラが、迫りくるビームの大群を前にその全てを捉える。

 

 

そして——————

 

 

黄金の機体に迫るはずだった光の雨は、その光を発した者たちへと帰っていく。

 

「え?」

 

あるパイロットの呟きが、爆炎ととともにかき消された。悲鳴も、恐怖も存在しない。

 

その周辺に存在した連邦軍の機体とパイロットもそうだった。

 

 

辺り一面に敵影が消えたことで、トールは驚いていた。

 

「キラ、それにあれが、アカツキの—————」

 

なんて性能だ、とトールは舌を巻く。こちらが頑張って数を減らしていたのに、あっさりと敵影を葬り去ったのだ。

 

「ぼやぼやしないで、この惨状では、沿岸部での防衛は困難よ! 私たちも戦線を押し上げるよ!」

 

「りょ、了解!!」

 

「あれがキラ・ヤマト、凄いな」

 

「了解しました(あれが、アークエンジェルを支えたエースの力)」

 

機体性能だけではない。彼の優れた操縦技術が、アカツキを活かしているのだとエアリスは感じた。

 

「——————俺も、あんな風になれるかな」

 

ロヴェルトはキラの活躍に驚きつつ、トールたちに追随するが、彼への憧れを口にしていた。

 

アラスカの初陣を経て、苦戦が予想されたオーブ防衛戦。

 

しかし、リオンが質の特機を全て押さえこんでいるため、大した強敵と鉢合わせすることはなかった。

 

 

戦線を押し上げ、連邦軍を追い込んでいく。

 

 

アズラエルは、特機がたった一機に抑え込まれ、飛行艇は次々と撃墜され、量産型の機体群はいまだにオーブの港を抑えることが出来ないどころか、逆に押し返され始めている。

 

「ええい!! あれにどれだけお金をかけたと思っているんだ!! 一機くらい落として見せろ!!」

 

赤い彗星そのものに抑え込まれていることに、怒りを覚えるアズラエル。

 

「赤い彗星、まさかあれは傭兵、なのか?」

 

傭兵、そのキーワードと思い浮かべた時、サザーランド中将は悟る。

 

あれはオーブの人間だったのだと。そして赤い彗星の正体は恐らく——————

 

 

「熱源が本艦直上に急速接近!! こ、これは——」

 

 

管制の声は最後まで続かない。

 

 

「——————貴方、なのね。ムルタ・アズラエル!!」

 

フィオナの乗るフリーダムがオーブ沖に到着。ザフト軍はオーブ軍を支援するために、スペシャルな機体を用意したのだ。

 

 

「これで、落ちなさいっ!!」

 

バラエーナの砲台を二門、ブリッジに照準を合わせたフィオナは、躊躇いもなくその引き金を引いた。

 

 

「な!?」

 

青い翼の機体に攻撃された瞬間を眼前で見る羽目になったアズラエル。驚愕と恐怖で感情が爆発し、

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

サザーランドとともに、光の奔流の中に巻き込まれ、ドミニオンのブリッジは完全に破壊されたのだった。

 

 

そして—————

 

 

「——————済まない。俺は、振り返らないからな」

 

残った特機である、デュエルを胴体から両断したアスランは、感情を消した声でつぶやいた。

 

 

「救えたかもしれない。だが、俺はこの土壇場で私情を優先するつもりはない」

 

手心を加えて、味方に被害が出れば、オーブに被害が出れば、外交問題に発展する。だからこそ、アスランは引き金を今度は引き抜いたのだ。

 

ザフト軍が私情を優先し、オーブの敵に成り下がった同胞を救う。薬物投与など、その事実をオーブが認識すれば、多少の便宜と釈明の余地はあったのかもしれない。

 

 

もうアスランは、これ以上オーブに甘えたくなかった。けじめはつける。それが、この戦場に彼がいることを予期しつつも、この戦闘に参加した彼の覚悟なのだ。

 

「——————」

 

 

しかしそれでも、爆散し、瓦礫と化した残骸を目の前に、アスランの感情は沈んでいた。全てを救えるわけではない。そして、救えなかった命は自分の力が足りなかったからだ。

 

パナマの戦闘で彼を救い出せていれば、違った未来があったかもしれない。

 

しかし、そのもしもの未来は意味を失った。

 

イザークを救うことを諦め、殺す決断をしたのはアスランだ。これ以上、リオン・フラガに重荷を背負わせるわけにはいかないのだ。

 

フィオナは彼のことが嫌いだが、自分は彼を好んでいる。彼がこれ以上恨まれるのは避けたかったのだ。

 

 

 

 

そして、もはや壊滅状態の太平洋連邦にとどめを刺したのは—————

 

「あら? もう勝敗は決まったようなものじゃない」

 

「おいおい肩透かしかよ、特機はどこに行った?」

 

水中よりジェーン・ヒューストンが、そして空からはエドワード・ハレルソンらが到着したのだが、もはや勝敗は決していた。

 

「赤い彗星が特機を殆ど片づけたようですね」

スウェン・カル・バヤンは、オーブ軍から情報を受け取った際、彼がほぼすべての敵を打ち破ったことを知ったのだ。

 

「—————俺ら、いらなかったんじゃないか?」

 

「そんなことはないぞ、エドワード。ここに南アメリカ、大西洋連邦穏健派が来たことが重要なのだ。ザフトも含めた非常任理事国もな」

 

戦後を意識すれば、これ以上ない展開だ。モーガンは外交的なことを考えればオーブに恩を売る形となったので、肩透かしではないと考えていた。

 

 

こうして、対勢力に包囲された太平洋連邦こと過激派は、オーブ沖で完全に掃討されることになった。

 

アズラエルという旗頭を失っても、彼らは狂気に突き動かされ、道連れにしようと襲い掛かる。が、すでに量と質で圧倒される彼らは全滅する以外に出来ることはなく、

 

リオンの思惑通り、新世界の標準にそぐわない因子は、この世界から強制的に排除された。

 

 

「終わったね、ステラおねえちゃん」

 

「うん。リオンはどこなの?」

 

二人の金髪少女が、リオンの姿を探す。勝利したオーブにもはや敵はいない。だから、彼が戦うはずはないのだ。

 

 

しかし—————

 

「—————!? あれは—————」

 

スウェンは確かに見た。オーブの第二マスドライバー、タナバタより打ち上げられていく存在を。

 

 

トリコロールに光る機体と、モビルスーツに装備するとは思えない巨大な装備。

 

あれの乗り手は恐らくリオンなのだろうと、彼は察した。

 

 

—————何があるというのだ、この先に?

 

 

 

 

リオンがストライクグリントに乗り換えた時、カガリはその見送りに行くことはできなかった。

 

だからせめて、どんな形であれ彼にエールを送る為、彼女は祈るだけだ。

 

 

—————お前が何に対し、脅威を感じているかは分からない。

 

リオンは宇宙に上がる準備が必要だと言っていた。宇宙で何らかの異変が起きている、彼は最後までそう言っていた。

 

 

そして彼は自分の我儘を貫いた。圧倒的性能を誇るストライクグリントを使わずに特機を殲滅し、結果を出したのだ。

 

 

「だから、私はお前を信じる。部下の挑戦と行動に対し、責任を取るのも上の義務なのだろう?」

 

 

無条件に信じるつもりはない。そして、カガリは彼を信じたことが正解であることをすぐに知ることになる。

 

 

「プラント政府からの緊急暗号通信です!!」

 

 

「なんだと? どういう—————これは!?」

 

暗号通信の内容は、驚愕と絶望を招くものだった。

 

 

過激派生き残りがヤキン・ドゥーエを占拠。巨大兵器ジェネシスとのコントロール権を奪い、地球へ向けて侵攻中だったのだ。

 

 

あらかじめ散布され続けていた、この戦争で多大な影響を与え続けていたNジャマーがプラント政府と地球圏の交信を遅らせたのだ。

 

穏健派の中にこの事実を内密に処理しようとしたものもいたため、事態はここまで悪化していたのだ。

 

通常の戦艦クラス以上の出力で動き続ける巨大要塞、ヤキン・ドゥーエ。その速力はお世辞にも早いものではない。だが、確実に地球を射程圏内に収めるポイントに近づきつつあったのだ。

 

 

さらに不幸は重なる。プラントの食糧生産工場が何者かによって爆破されたのだ。これではプラントの自作自演とは言い難い。

 

彼らにメリットが何もないのだ。このままその巨大兵器が発射された場合、小惑星隕石衝突クラスの被害がもたらされることは、プラント側から告知されている。

 

 

プラントは和平への道を進んでいた。しかし、連邦軍という膿を出した連合と同様、残っていたのだ。

 

 

「—————まさか、フラガ様はこのことを見越して—————」

 

「しかし、こうも通信がやられていては、もはや直感というレベルを超えている」

 

「フラガ様が裏切り、とは考えにくい。ならば彼は宇宙に急ぐ理由がない。」

 

リオンが何らからの事情を知っていたのではないかと、疑心暗鬼になる者もいたが、彼の人格と信用についてまでは言及されない。

 

この戦闘でもそうだ。彼はどれだけオーブに尽くしたのか。それを彼らは理解しているのだ。

 

 

彼はきっと、自分の我儘だと述べるだろう。気にするなと。しかし、その我儘が何のためなのかを知れば、信じたくなってしまうのだ。

 

 

「ええ。彼は時に超常的な能力で我が国を救っています。この戦闘記録でも、機械の領域を超えた何かを感じ取り、特機を圧倒していました」

 

ロンド・ミナは、彼の功績をたたえ、彼の事情を推察する。

 

「—————きっと彼は、世界の危機に聡いのです。故に一番危険な場所に、最初に辿り着いてしまう」

 

そしてその推察から考えられる残酷な事実を、口にした。

 

 

彼は最初からこうなると理解していたのだ。誰かに教えられたわけではない。世界を救う存在である彼は、世界の恩恵を与えられる代わりに、最も奉仕することを強いられている。

 

だから、彼にしかわからなかった。人という括りの中でしか行動し得ない自分たちでは推し量ることすらできなかったのだ。

 

 

 

彼らの躊躇と疑念が、アークエンジェルという切り札を、無駄にしてしまったのだと。

 

 

 

 

 

「—————そ、そんな。僕が、余計なことをしたせいで—————」

ショックを受けているのはユウナだった。自分の迂闊な言葉で、リオンが尻拭いをしなければならない。もし、彼の意見を聞き入れていれば、いい形でプラントの異変に対応できたかもしれない。

 

もっと切迫した状況に陥ることはなかったかもしれない。

 

「—————ッ」

 

他のものも同じだった。リオンのことを信じているはずなのに、最後の最後、彼に対して疑念を抱いてしまった結果がこれだ。

 

司令部の選択一つで切り札は無駄にも有用にもなり得る。

 

——————敵の勢力も未知数。兵種も未知数。そんな状態で其方を送らねばならんとは————

 

 

ロンド・ミナが危惧していたことはこれだった。頭の回る前線の戦士がいれば、きっと役割以上のことをしてしまう。そして、その存在に負担がどんどん積み重なるだろうと。

 

 

そして最後には——————

 

「諦めるな、ミナ」

 

今にも崩れそうな表情を我慢するカガリが、諦めつつあった彼女に言い放つ。

 

「リオンは負けない。今までだって、これからだって————ッ」

振り絞るように、カガリは彼女にだけではなく、この場にいる全員に宣言した。

 

 

「アークエンジェルは宇宙仕様のままだな?」

だから、彼らの英雄を助ける道具を、持ち出す必要がある。しかし、アークエンジェルは中途半端に大気圏仕様に切り替えている途中だったのだ。

 

命令が二転三転している状況下で、整備班には苦労を掛けるだろう。そして、それ以上に啖呵を切ったあの青年の感情はいかほどのものか。

 

—————何もできずに戦闘が終わる。これで何かあれば、私は殺されるかもしれないな

 

カガリは冷静に、あの青年が怒り狂うと予測できた。リオンを特別視せず、ちゃらけた態度で話す友人。エリクの存在は、カガリにとってもありがたい存在だったのだ。

 

きっと彼ならそうするだろうと予測もしやすかった。

 

「彼らにはすぐに打ち上げの準備と開始を。リオンに遅れるな、当初の目的通り、巨大兵器ジェネシスの破壊を依頼する」

 

 

さらにカガリの行動は早い。動けるものがオーブにないのであれば、動けるところを探す。

 

第八艦隊の宇宙艦隊がいる。ザフト軍だって無策のままではないはずだ。

 

 

「聞こえるか、アークエンジェル」

 

ブリッジに向けて、カガリは命令を下していく。

 

 

「はい。存じております。こんなことになるとは」

 

固い決意を見に秘めたナタルは、カガリの命令を完璧に理解していた。そして顔には出さないが焦燥もあった。

 

このまま彼を死地へと送ることになる、それが確定したことへの自責の念。どうしてこうなったのだという憤慨の色。

 

「—————リオンが宇宙に上がっている。この意味が分かるな?」

 

 

「—————ジェネシスが起動し、地球が危機的状況であること、ですね?」

プラントによる告知が行われたのは、オーブ防衛戦終了後のことだ。今頃、各国も対応に追われているだろう。民衆もパニックに陥っているはずだ。

 

政府は迅速な行動を求められ、オーブでも絶望が広がっていた。

 

「ああ。アークエンジェルはすぐにキラ・ヤマトのアカツキを収用し、宇宙に上がってもらう。命令は単純だ。使命を果たし、生きて帰ってこい」

 

「はっ!!」

 

アークエンジェルでは直ちにアカツキの着艦が行われる。

 

 

「急げ急げ!! すぐにオオワシからシラヌイの装備に切り替えだ!! 宇宙戦闘仕様だ!! 間違えるなよ!!」

 

工員たちが目まぐるしく動く。これが最後の大一番。否、この戦争最後にして最大の正念場なのだ。

 

覚悟が違う、抱えているものが違う。その決意が違う。

 

いつも以上に、その作業への入れ込みはあった。だから上司に怒鳴られても、嫌な顔一つせず、迅速に、黙々と作業をするのだ。

 

 

そしてパイロットたちも戸惑いを隠せない。

 

「おい!? どういうことだよ!? プラントは和平に入ったんじゃないのか!?」

 

「そんな、どうして!? それにリオンさんが単独先行!? 無茶です!!」

 

文句を言うのはエース格のエリクとニコル。彼らはオーブ防衛戦を断腸の思いで見守ることしかできなかったのだ。ジェネシス破壊が任務のはずなのに、プラントは和平交渉に入るという確定情報。

 

そしてオーブ防衛戦への合流に回されるが、カガリたちの見事な指揮と、リオンとキラの活躍、背後より現れた多国籍軍の援軍で、予想以上の速さで勝利してしまったのだ。

 

「——————くそっ、このまま一人で美味しいところをもっていかせるか!! 何が何でも宇宙に行くぞ!!」

エリクは叫ぶ。この土壇場で、自分たちも役目を果たすのだと。

 

 

そして—————

 

「アークエンジェル、無事に打ち上げに成功!!」

 

リオンが飛び立った数時間後、アークエンジェルもオーブを出立したのだ。英雄リオンにかなり離されている状況だが、彼らに後退の二文字はない。

 

「規定速度、規定コースを進行中!! 予定時間に宙域へと到達する予定です!」

 

希望は飛び立った。後は希望を支えるたくさんの手を作ろう。その背中を押す暖かい光を、彼らに届けよう。

 

彼らの奮い立つ理由がそこにある。

 

 

彼らの頑張りは支えなければならない。彼らに少しでも報いるために、カガリは一世一代の演説を行う。

 

 

原本はない。その全てがカガリの心であり、アドリブである。言葉足らずなのは自覚しているが、今必要なのは、その方向性だ。

 

 

今後人類がどのように未来を掴み取るのか、この世界存亡をかけた困難を前にして、どうあるべきなのか。

 

彼らは今、揺れている。絶望の中で、諦めてしまっている。

 

 

「そんな、小惑星クラス、だって!?」

 

 

「そんな、嫌だ————戦争が終わりそうだったのに!!!」

 

 

「なんでぇえ!! なんでだよぉぉ!!」

 

 

「こんな、こんなの!!! あんまりだぁぁぁ!!!」

 

オーブの市街地でも、不安におびえる民衆が官邸に近づいている。彼らを恨んでいるわけではない。ただ彼らは知りたいのだ。自分たちはどうなるのかを。

 

自分たちはどうすればよかったのかと、どうすればいいのかと。

 

 

だから全放送、全チャンネルに向けて、カガリは世界に発信する。

 

「私は、オーブ連合首長国、前元首の娘、カガリ・ユラ・アスハです。」

 

全世界が、突如モニターに映った彼女の姿に釘付けになる。

 

 

 

「カガリ様————?」

 

「カガリ様だ!」

 

「この国難を前に、カガリ様が————」

 

「でも、こんなのどうしようも—————」

 

彼女のカリスマをもってしても、父親の名を使っても、未だ不安は晴れない。

 

 

「戦場、そして我が家に住むすべての皆様方。戦火に怯える不安は取り除かれましたが、最後に大きな難業が待っています。」

 

 

「しかし今、我々の友人たちがその難業を乗り越えるため、宇宙に飛び立ちました」

 

 

友人のように、そしてある一つの存在は友人以上の存在だった。彼らが空中を超えて、宇宙に辿り着いた時、運命が決まる。

 

しかし、彼らは乗り越えてくれるだろう。きっと帰ってきてくれるはずだ。

 

 

 

「だから、安心してください。明日は明日の風が吹きます。当たり前の明日が、もうすぐそこまで近づいています。ゆえに民衆の皆様方」

 

ここで一旦言葉を切る、カガリ。何を思ったのだろう。しかし言葉は続く。

 

「彼らを信じて、彼らへのエールの心を、持ち続けてください」

 

民衆への語りはここで終わる。カガリの想いを、そのままに。

 

「カガリ様が言うなら—————」

 

 

「知ってる! 赤い彗星だよね! 赤い機体が宇宙に飛び立ったの、俺見たんだ!!」

 

「この国を救ったエースが—————赤い彗星が————」

 

「負けない、赤い彗星なら、必ず間に合わせてくれる!」

 

「カガリ様のことを信じよう!!」

 

 

「俺らが怯えてただけじゃ、ダメだよ!」

 

「この国を守ってくれた軍人さんを、まだまだ信じないと!!」

 

 

そして、遠い向こう側、アフリカでもカガリの演説は届いていた。

 

 

「あ、宝石が—————」

 

それはかつて、金髪の男性に頂いたルビーの残り。それが今、信じられないほど光り輝いていた。何かに呼応するかのように、反応している様子は、それがただの宝石であるという認識を超えてしまう証拠だった。

 

 

「赤い宝石—————きっと彼じゃな」

 

老人は、リオンがこの難業に挑んでいることを悟った。彼もまた、宇宙を志す人間だったのかもしれない。この暖かい光が、優しさに溢れた光が、彼を教えてくれる。

 

 

理屈ではない。しかし理解できるのだ。

 

「あのお兄ちゃんが、頑張るんだよね?」

 

「うん。あのお兄ちゃん、ここに来るって約束したもんね!」

 

「ああ。あの人は約束を破らない。だってアフリカを救ってくれたもん」

 

「最後まで、いや————これからも希望を持ち続けようぜ。お前ら」

 

そしてこの国の中心人物ではなく、縁の下で行動を続けるサイーブは、彼らの言うリオンを信じようと決意した。

 

————お前さんなら、何かをやってくれる。この国に、この大陸に希望を届けた、お前さんなら、きっと大丈夫だ。

 

 

 

そしてニューヨークでは、太平洋連邦が瓦解し、大西洋連邦が返り咲いていた。その矢先で混乱もあった。だが、カガリの演説で彼らは信じることにしたのだ。

 

 

「見たまえ、彼女の演説は凄い効果だ」

 

「うん。凄いね、あれだけ暴徒と化していたのに—————」

 

 

アルスター親子はワシントンに戻っていた。復権した影響力を行使し、和平準備と復興活動を整えるために。

 

そして、カガリの背後に居続ける存在、赤い彗星の勇名は世界を超えて轟いているということを理解する。

 

 

「武の頂点と、彼女のカリスマ。まさしく比翼。彼と彼女でなければ、成しとげられない事だっただろう」

 

オーブの娘、カガリ・ユラ・アスハと、オーブの赤い彗星、リオン・フラガ。

 

 

もしかすれば、彼らの運命はこの日の為にあったのかもしれない。彼らが巡り合ったことで、世界は絶望の未来を回避し、希望が紡がれる目前まで来ている。

 

 

その希望を生み出し、慈しむのはカガリで、その希望の守り手は彼女の従者。世界最強の守護神が本気を見せるのだ。先ほど速報で、パナマ戦線で活躍した特機をまとめて撃破したのは彼だという。

 

プラントにとってもその戦果は衝撃的なものであり、彼が原初にして最強の証、連合の赤い彗星であることを悟ることとなった。連合の赤い彗星ならば、あの特機を圧倒してもおかしくはない。型式落ちで、最新鋭の機体をまとめて撃破することは、何らおかしくはない。

 

 

そしてそれは、連合軍にとっても同じことだった。しかし、彼を知る者は不安を隠せないでいた。

 

 

「リオンさん—————大丈夫、ですよね?」

サイ・アーガイルは、如何にリオンと言えど出来るのか不安だった。今回の案件は普通ではない。

 

「君は彼を知るのだろう。ならば、我々よりも正解が分かるはずだ。否、自分の信じたい未来は何かね?」

優しく、諭すような口調のジョージ・アルスター。

 

「—————それは—————」

 

言い淀んだサイ。しかし、

 

 

「俺は、信じたい。あの人を、オーブの皆を」

 

 

世界は今、希望を待っている。人の思念に敏感な彼は、この状況をどう思っているのだろう。笑っているのか、それとも苦笑いしているのか。

 

なんにせよ、彼が知らないはずがない。人と人とが分かり合うために定義された、ニュータイプの適性を持つ彼ならば。

 

 

「そして各国将兵、施政者様へ。どうか心あらば、貴方方の持てる道具をもって、彼らを手助けしてほしい。未来を信じ、傷ついた者たちへ手を差し伸べてほしい。我らは難業を前に、己の矜持を思い出さねばならない」

 

 

そして最後に、強烈な檄を各国に飛ばすカガリ。指示系統が混乱していた彼らも、自分たちがやるべきことを認識させたのだ。

 

南アメリカでは、

 

「—————獅子の娘は、天女だったようだ」

 

「————あの年であれほどの演説を、言ってのける。肝が据わっている」

 

 

「ああ。彼女は希望の光そのものだ。そして、その影が赤い彗星なのだろう。影というには光り過ぎだが」

 

「ははは。だが、若者ばかりにいい思いをさせるわけにはいかん。彼らを信じ、復興活動の準備をしよう。大西洋連邦の第八艦隊は、すでにジェネシスに向け進撃中とのことだ」

 

目の前の不安を取り除くだけではない。まずは民衆に寄り添うことも重要だった。

 

 

そしてその大西洋連邦では、

 

 

「急げ!! 南アメリカと大洋州連合の分まで我々は奮起しなければならない!!」

 

 

ダイダロス基地奪還に成功した第八艦隊は、すぐに進軍準備を完了させ、次々と戦艦を出していく。

 

 

率いるのはハルバートン。この戦争が現役最後だと感じていた彼は、この一戦にかける思いが強かった。

 

—————君だけに最後まで背負わせるつもりはないぞ、リオン君

 

 

精強と名高い第八艦隊が出陣。これにより、大西洋連邦の市民の不安が低下。オーブとともに世界の危機に立ち向かう。

 

それが、曲がりなりにも世界盟主だった彼らの意地だった。

 

 

 

 

そしてオーブでは、

 

「急いでシェルターに、は無粋だったよね、ウィンスレットさん」

 

ヴィクトルは、ウィンスレット親子とともにシェルターへと非難するはずだったが、

 

「いや、どのみち彼らが成し遂げなければ世界は終わりだ。私は、彼らを信じて死ぬのなら本望だよ」

 

「—————ラスさんには—————」

ここにはいないラスのことを言い出すヴィクトル。

 

「本音と建前が矛盾するのはよくあることだよ。いけないな、彼らを信じたいのになぁ」

 

苦笑いのウィンスレット。やはり娘の存在は別格らしい。

 

「大丈夫です。俺も貴方も、きっと生き残ります。だって、リオンさんだから」

 

 

「あの人が空を飛んでいる。宇宙を駆け抜けている。ならその戦場は、リオンさんの勝利に終わる。今までも、そしてこれからも」

 

 

 

世界は絶望を前にして、徹底抗戦の構えを見せた。何が何でも生き残る。されど今の人類には、共通の敵を作るしか、団結することはできない。

 

 

だが、いつかきっと。彼が夢見た世界は訪れるだろう。

 

 

世界の希望を一身に背負う彼は、その未来のために宇宙を駆けるのだ。

 

 

「—————————————」

 

 

『どうかされましたか、主よ?』

 

 

「——————どうもしないさ。予定時間には間に合いそうか?」

 

 

ストライクグリントのコックピットにいる彼は、希望を持ち続ける民衆を感じ、何を思ったのか。

 

『アークエンジェルの合流を待つ余裕はなさそうですね。第八艦隊がアークエンジェルよりも先に辿り着きそうですが』

 

 

「——————なるほど。どちらにせよ、単騎でまずは霧払いする必要がるな」

 

彼は、淡々と状況を確認していく。しかし、誰も彼の表情を見る者はいない。

 

きっと、彼も自分が今どんな表情をしているかを認知しきれていないかもしれない。

 

 

 

 

 




盟主王、フィオナの一撃に沈み、急進派はここで壊滅。掃討作戦の後、残党も穏健派に鎮圧されます。

しかし、最後の戦いはやはり宇宙。カガリの演説は、コアな人ならビビッと来ると思います。



この話を書いていると、やっぱりメインヒロインはカガリなんだな、と思いました。

僕個人の見解ですが、ラクスはリオンの心に寄り添うヒロインで、カガリはリオンが心を奪われたヒロインだと解釈しています。

リオンの願いを信じるカガリと、リオンの弱さを認めてあげるのがラクス。

比翼どころの話ではないですね。この三角関係は・・・・
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