機動戦士ガンダムSEED 理想の従者 作:傍観者改め、介入者
C.E65年。今の彼女には、腐れ縁とは程遠い、変な奴が隣にいる。
「―――――――――」
毎日毎日、一人電子図書館に引きこもり、膨大な知識を身に着けることに心血を注ぐ、異端な少年。
「お前さぁ。毎日毎日そんなことをして楽しいわけ?」
呆れてものが言えないほどの本の虫、ならぬ探求心の塊。彼は毎日毎日機械工学を学んでいる。当然同年代の11歳はそんなことを勉強していない。
彼女は何となく家族ぐるみでの付き合いがあるから彼と接しているが、気味が悪い存在だと考えていた。まるで、何かに操られているように動くその姿が気持ち悪い。
「―――――俺が必要なことなんだ。カガリは気にしなくていいよ」
電子画面から全く目を逸らさずに、カガリの言葉に反応するリオン。
「――――お前に変な噂が立っているから来ただけだよ。お前に何かあれば、お前の親父の心労が溜まるし。」
キュアンはフラガ家移動の際にオーブに根付く覚悟を決め、時の首相ウズミ代表とのパイプを強くし、彼らでは扱いきれないオーパーツを引き渡した。その際にリオンは強くこの分野においての知識を求め、将来自分はこの分野で働きたいと強く願い出たのだ。
引き取られてから駄々をこねなかった彼が初めてわがままを言った。キュアンはリオンの思いを理解しているので、せめて好きなことをさせようと考え、それを了承し、ウズミに許可を願い出た。ウズミも誤差の範囲であり、構わないと答え、そこからリオンの現在の日常が始まったのだ。
「――――でも、面白いよ。ロボット工学は50年前の大戦で一時期は停滞したけど、逆に進化しかかっていたからね。空白の期間を埋めるためにこの数十年は目覚ましい発展を遂げている分野なんだ。それに、おれはこの分野に思い入れがある」
「なんだよ、思い入れって」
初めて少年らしい理由を聞けたカガリは、好奇心に突き動かされて、彼に尋ねてみた。
「秘密」
返ってきたのは、無機質なトーンで発せられた、無慈悲な回答。
「おまえなぁ。そんなんだから友達がいないんだよ。」
「カガリこそ、ボッチな俺に構うほど暇? 遊んでくればいいと思う。俺は俺の好きなことをしているし」
そっけないリオンの回答。あまりにもカガリのことなどまるで気にしていないといわんばかりの対応。
「そのくそ面白くない性格を矯正してやる!! こっちは好きでボッチじゃないんだよぉぉ!!!」
「わぁ、大変だ。逃げよう」
そして素早く逃げるリオン。引き籠りのくせに、運動神経が並み以上。神様は彼に多くのものを与え過ぎたと理不尽に思うカガリ。
「お、ま、え、なぁぁぁ!!!!!」
すでに追いつけないほど距離を離されているカガリは、遠吠えよろしく怒り狂って吠えた。
なお、その後図書館の係員に怒られ、帰宅したときにウズミに怒られたカガリ。泣きっ面に蜂である。
一方、キュアンはオーブに明け渡した遺産を眺めていた。
赤色に覆われた、球状の物体。その中には、オーバーテクノロジーともいえる、全周囲モニターらしき装置。
そして、目の前に鎮座する白亜の巨人。損傷が激しく、外フレームの大半が摩耗した状態で発見されたこれは、技術立国のオーブでも苦戦するほどのものだった。
「ええ。これは本当に今の時代には過ぎたものです。よくこんなものが見つかりましたね。」
研究者グループの若手で、最年少研究員の一人、エリカ・シモンズ。彼女は、最初のコーディネイターであるジョージ・グレンが開発した外骨格補助動力装備から始まった、パワードスーツ、並びにパワードスーツでは対応しきれない外宇宙専用の重機開発メンバーの一員でもあった。
現在オーブでは、建造中のアメノミハシラに並ぶ、巨大コロニー建設計画が出来上がっている。そのための革新的なブレイクスルーが求められており、フラガ家の所有する遺産が目に留まった。
「ああ。私はこの分野においては広く浅くしか知らないが、おそらく宇宙空間を自由に動き回れる存在だと考えられている。」
「――――フラガ家はどうやってこれを? ……ああ、ウズミ様には止められているのでしたわね」
「すまない。私も半分理解の及ばない領域なのでね。いらぬ混乱を招きたくない。かといってこれを有効活用してほしいと願う気持ちもある。どうか察して、作業に取り組んでほしい」
「ええ―――――これは噂でしかないのですが、」
エリカは周囲を見て、キュアンだけに耳打ちする形で、
「現在、プラントは出資した理事国と対立関係にあるのですが、先の63年事変で決定的なものとなったのはご存知ですよね?」
若干暗い表情で語るエリカ。どことなく才女らしからぬ歯切れの悪さ。
「ああ。熟知している。前置きはいい。それとも、それほどな案件なのか?」
「―――――現在、外骨格補助動力装備、その発展型としての重機の一つが、ついに軍事転用されたらしいのです」
「ああ。それは私の抱える暗部が調べた案件だ。熟知している。ウズミ様から聞いたのだろう?」
「―――――はぁ。知っていたのならばおっしゃってください。」
ジト目でキュアンをにらむエリカ。ここまで重い雰囲気を作った自分がばかみたいではないかと、訴えるような上目遣いで彼に視線を送る。
「すまんすまん。まさか君にもその案件が通っていたとはね――――オーブとしては、備えなければならない。そういうことだ」
両手を見せて苦笑するキュアン。しかしすぐに、オーブの理念を守るためには必要なことだと納得する。
「―――――理事国のやり方は明らかに混乱を誘発させています。このままでは―――」
明らかに、エリカは理事がそれを狙っていると考えていた。それが彼女には気に入らないらしく、プラントの現状を表す確固たる情報がキュアンの手にある。
「遠からず、なるだろうな。人類史上初となる、宇宙が戦場となる大戦。だが、今のままではプラントに勝機はないだろうな」
軍事転用した段階で、プラントの出方は決まった。リオンが記録の中で語る、モビルスーツと呼ばれる機動兵器が生まれる。
あちらでは、ミノフスキー粒子と呼ばれる物質によって、レーダーが使えない有視界戦闘を強いられた結果、遠距離からの砲撃の正確性が低下、さらにはレーダーに依存した兵器を有する機動兵器も被害を受けた。そのため、高い機動性と近接戦闘、さらには重火力を実現できるモビルスーツが活躍した。
だが、ザフトも何をもってモビルスーツを活躍させる環境を作り出すのかがわからない。
「ザフトが何をもってその新兵器の活躍の場を用意するのか。暗部も最近では入りが厳しいのでな。折を見てすべての諜報員を引き上げるべきだろう」
無論、情報は連合にやるわけにはいかない。情報もタダではない。プラントの不満を誘発させたのは理事国のこれまでの行動だ。オーブに飛び火させるわけにはいかないのだ。
「―――オーブは気にしないぞ。君の出生がどうあれ、私は個人として君を評価する。この国は、この国の法律を守る者には平等だ」
彼女がこうもプラントよりの考えには訳がある。彼女も同じ存在だからだ。
最初の天才から始まった、人類の進化の一つ。ある意味では革新的な方法で生まれた存在たち。旧世紀の人間には到底受け入れられないだろう。
「貴方だけです。こんな風に悩みを聞いてくれる人は。私の友人は笑い飛ばして相談に乗ってくれません」
肩をすくめ、彼女の親友ともいえる女性の話をする。自分が悩んでいるのがばからしく感じつつ、それでも出生の秘密は他人との壁となっていた。
「――――君はチャーミングな女性だ。私はごく当たり前に、勤勉でまじめな君を好ましく思っているだけだよ。」
「そのナンパ癖を直せば、すぐに相手は見つかりますよ。」
再びジト目でキュアンをにらむエリカ。笑い飛ばして相手にしてくれない親友もだが、三十路を迎える前に母親を安心させたい息子の悲哀を知っているので、このわざとらしいアプローチもつかれる。
「―――――ふむ、だがチャンスすらないとどうしようもないのでね。出会いの機会が限られてしまうのさ」
肩をすくめ、わざとらしく自身の現状を白状する。とにかく白々しい男だ。
「けど、あなたの考え方は、いいと思います」
しかし憎めない男のお惚けぶりは、嫌いになれない。
「さて、まずはアメノミハシラに続く巨大コロニー建造に必要な資材を完成と行こうか。重機が完成すれば、納期を軽く超えられる」
一方、カガリに駄々をこねられ、ついに陥落したリオンは、彼女とともに近くのグラウンドで同年代の子供と遊んでいた。
「なんだあいつは!! 半端ないぞ!!」
フットボールを縮小したフットサルという競技で、初心者同然だった彼が経験者を驚かせる。
「そのタイミングでステップとか、おまっ、それはないだろ!」
茶髪の少年がリオンの力量に驚いていた。開始数分は「リフティングって何?」という問いから始まった彼が、目の前でシザースのフェイントをかけたのだから。
「トール! しっかりしなさいっ! 意地を見せて! もうトールだけが頼りだよ!」
同年代の女の子なのだろうか、トールと呼ばれた少年を応援する。なお、少女は中盤でリオンに翻弄されてスタミナが切れていた。
「一人じゃ無理だ! ダブルチームだ!!」
「手を貸せ、カズイ!」
「え、ぼくぅ? 無理だよぉ、勝てっこないよぉ」
眼鏡をかけた少年が、地面で大の字になっていた少年を奮い立たせる。しかし、カズイと呼ばれた少年もばてていた。
「アル! お前もあがけよ!」
「無理無理無理のカタツムリ~。けど、あんな楽しそうな奴、初めて見た」
アルと呼ばれた金髪の少年は、やる気なさそうな顔をしつつも、リオンの自然と出た笑みを見て、何かを感じていた。
――――あいつ、たぶん初めてあんな風に笑ったのかな
「おしっ! 俺がリオンから一本を取ってやる!」
「がんばれ、トール!」
「俺たちも行くぞ!」
「じゃあ、おれリオンのチーム」
「図ったな、アルベルト~~!!!」
「うわぁ、なんだこれ」
誘ったのはカガリだが、あんなにはじけた笑顔のリオンは初めてだったので、彼女はとても戸惑っていた。
当の本人は、
「汗をかくのもいい。いい気分転換になる。もっと人の動きをトレースしたデータを取り込むべきだろう」
と、いつものヒキニートの雰囲気のまま、冷静に仕事につかえないものかと思案顔になるリオン。
彼らとはそう遠くないほどに一時の別れを迎えることになる。カガリは獅子の娘として、リオンは本格的に機械工学への道を歩むために。
彼らが再び出会うのは、運命の日まで待つことになる。
カガリは、リオンの心を最初に揺り動かした存在です。
作中でも、彼女の成長がカギになります。