機械の少女は世界の終わりに何を見る【完結】   作:イヴ

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それは、モンスターハンターだ。


狩人

 少女と邂逅してから千六百七十二日目。

 

 

「本当に良いのか? この剣貰っちまって……」

「本機が使うと腕が捥げるので。実証済みです」

「なぁ、この人何者なんだ?」

「ろぼっと? なんだってー。よく分からない」

 件のモンスターを倒す為、少女達と村で準備を進めてはや数日。

 

 

 本機が持っていた剣は青年に渡す事にした。本機が使用しても充分に力を発揮出来ないからである。

 それに、青年は木の棍棒という片手剣と同じような質量を持つ武器を使っていたので直ぐに順応してくれる筈だ。

 

 少女の方はそのまま木の槍を使うしかないだろう。木の盾だけは丈夫な物を新調した。本機が殴ってもヒビ割れない丈夫な物である。

 

 

 本機の武器は、その辺の木を削り巨大な棒を製作。

 切るというより叩き潰す用途で製作したので、切れ味は必要無い。ただ蛮族のように振り回すのみ。

 

 

 かつて人類が行なっていたように罠も用意した。

 穴を掘って、その場所を踏んだら身体を地面に落とすという単純な罠である。

 少女が一度自分で引っかかってやり直しになったのでケツを三回くらい蹴り飛ばした。

 

 

 

 ある程度準備を終えた所で、その日は村に戻り休息を取る。

 

 

 剣の振り方を数日青年に教え、村の手伝いをしながらその時を待った。

 

 

 

 

 そしてその日は当然やってくる。

 

 

 

 

「例の化け物、山でキノコ採りをしていた奴が見かけたらしいぞ!」

「……やはりこの辺りを縄張りにしていましたか」

 件の竜が見付かり、本機と少女達はかの竜の討伐へと赴く事になった。

 

 

 

 かつての時代、それは日常的に世界のあらゆる場所で行われていて。

 

 

 しかし、彼等は英雄と称えられ、そして散っていく。

 

 

 

 それが自然の理だった。

 

 

 

 

 人類はまた繰り返すのか。

 

 

 また、繰り返せるのだろうか?

 

 

 

「……それでは、一狩り行きますか」

 きっと、繰り返せる筈。

 

 

 

 そんな願いを乗せて、本機と二人はその地に赴く。

 

 狩場へと。

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

 見覚えがあるという表現は間違っているだろうか?

 

 

 右手に見える川を見ながら、丘を登る事数分。

 この景色と記録上の景色がある程度一致しているように見えた。

 

 ココット村周辺にあった場所に似ている。

 

 

 しかし、そんな事はあり得ないと判断しているのか。本機はその事について推測する事はなかった。

 何故だろうか? 長い旅の果てに元いた場所に戻った可能性はゼロではないというのに。

 

 ……偶に本機は分からない行動を起こす。ポンコツだからか。

 

 

 

「件の化け物はこの丘の天辺辺りに巣くっているみたいですね」

「罠を作ったのは森の中だっけ? どうしようねー、おししょー」

「この辺り一帯は既に件の化け物の縄張りでしょうから、あの場所に向かって来ない事はないでしょう。罠を張ったのは丁度水場ですし、そこで待ち伏せするのが無難かと」

 こちらから向かってくには丘の上は地の利が無い。弱ってかの竜が巣に戻らない限りは、大きな移動は避けるべきだろう。

 

 

「それじゃ、森の中で待つとするか。隠れながら戦えるし、その方が良いだろ」

「そういう事です」

 青年は草食獣を狩り慣れているのか、本機が手渡したヒーローブレードに手を向けながら先頭を歩いた。

 

 

 ──いつか、この剣を持つべき者に渡すといい──

 

 あの時の約束を果たせただろうか。

 

 

 

「……実際の所、あなたが戦力の半分を占める事になります。抜かりのないように」

「え? 私?」

「違いますね。むしろあなたには期待してません」

「酷い、あんまりだ!」

 木の槍ではなぁ……。

 

 とはいえ本機の武器も丸太と大差ない物です。

 

 

 

 いや、しかし、かの時代のとある島では丸太こそ最強の武器であり汎用性に優れた資材だという記録もあった。

 

 

 みんな丸太は持ったな!! 行くぞォ!!

 

 

 失礼。

 

 

 

 とにかくそういう記録もあるので大丈夫でしょう。丸太こそ正義。

 

 

 

「お、俺か……」

「その剣はかの時代より化け物を倒す事に使われていた剣でもあります。切れ味だけは保証付です」

「そりゃ、お前の背負ってる木を切ったのもこの剣だけどなぁ。……俺が倒した事のある化け物なんて、二本牙の生えた獣とか、嘴のある青い奴くらいだぜ?」

 それを木の棒で倒せていたのなら充分な筈。

 

 

 後はかの竜とどう戦うか。算段はあるが、実績はない。

 

 

 

「あなたの実力は本物ですよ。コレとは大違いです」

「私だって苔の生えた豚倒した事あるぞー! あとちっこいの!」

 論外。

 

 

「まぁ、出来るだけやってみるさ」

「おー、格好良いね!」

「───な?! い、いや、それ程でもないけどぉ? なっはっは」

 なんだこいつ。

 

 

 ……まさか。……これが恋か?!

 

 

「よし、俺無事に帰ったら君に伝えたい事があるんだ!」

「おろ? なになにー? 今でもいいよー?」

「いや、無事にあの化け物を倒してから伝えるぜ!」

「おいフラグを立てるのは止めろ」

 完全なる死亡フラグなので勘弁して欲しい。

 

 

 これが竜人族同士でなく人間同士なら本機の目的上その先へ追いやるのだが、竜人族なので別にどうでも良い。

 

 

 

 むしろ邪魔したい。何故か。分からない。本機がポンコツだからだ。

 

 

 

「……ん、待て。風向きが変わった」

 青年がそういうと、確かに木々を揺らす風の向きが変わる。物理的に逆風が吹いていた。

 

「風が吹いてくる方、罠がある場所だよね?」

 少女はそう言う。少しして風は止んでまた逆の方から風が吹き始めた。

 

 

 

 つまり、そういうことか。

 

 

 

「……居ますね」

 そこに居るのだろう。件の竜が。

 

 

 

 

 かの時代、もっとも知名度の高かった竜。

 

 かの竜を打ち倒した者は英雄───すなわち、モンスターハンターと呼ばれた。

 

 

 

 この時代にそんな存在が再び現れるのだろうか。

 

 

 人類の未来を、人は、繰り返す事が出来るのだろうか?

 

 

 

「ヴォァゥァァァアアアッ!!」

 咆哮が森に轟く。この世界は己の物だと主張するように。

 

 

「気付かれた?」

「なんか音がするぞ?!」

 赤い影が風のような速度で向かってきた。

 一対の翼はまるで太陽を隠すように頭上に現れる。

 

 そして、隠された太陽と変わって視界に映るのは───紅蓮の焔。

 

 

 

「ヴォァゥァァァアアアッ!!」

 空の王者──火竜──リオレウス。この世界の支配者───モンスター。

 

 

「……散開!!」

 咄嗟に周りの二人を突き飛ばして、木の塊を前に突き出した。

 放たれた火炎は木を焼いて炭にする。壊れなかっただけマシとしよう。

 

 

「おししょー?!」

「作戦通りに、闇討ちに徹してください。本機が注意を引きます」

 かの竜を狩猟する為に本機が立てた作戦は、本機を囮にするというものだった。

 

 

 最悪身体が吹き飛んでも問題ない為(問題はあるが)人類の未来を考えるのなら妥当な作戦である。

 本機が囮になっている間に、少女と青年には横からチマチマと攻撃して貰う算段だ。

 

 さて、まずはせっかく掘った罠を使いたい。と、なるとこの先に誘き寄せるのが妥当か。

 

 

 

「さて……付いてきてくださいね」

 空から睨み付けてくる竜を尻目に本機は丸太を背に森の中を走る。

 左右から少女と青年が追いかけてきた。まずは罠を使って一気に弱らせましょう。

 

 

 

 辺りを木々に囲まれた水場まで来ると、空から攻撃するのを諦めたのか件の竜が降りてきた。

 

 

 一対の翼を羽ばたかせて、その紅蓮の巨体を二本の脚で支え、地面に降り立つ。

 その姿は威厳を放ち、咆哮は水面と大地を揺らした。

 

 

 

「……この世界の理。……人類は繰り返せる、その証明としてその命を頂きます」

「ヴォァゥゥッ!」

 動かない本機に狙いを定め、リオレウスは地面を蹴る。そのまま突進する気だろうが、その先にあるのは人類の知恵の結晶だ。

 

 

「……落ちろ」

「ォァァッ?!」

 その巨体が地面を踏み砕き、予め掘っておいた穴に吸い込まれていく。

 我ながら丁度良い位置取りをしたものだ。合図と共に、青年と少女が出て来る。

 

 

「とりあえず何も考えずタコ殴りに!」

 慈悲はない。それが狩りだ。

 

 青年は背中を剣で刻み、少女は木の槍で翼膜に小さな穴を開けていく。

 本機は巨大な木の棒を振り回し、リオレウスの頭を殴り付けた。

 

 

 この竜さえ倒せば村の周囲に草食動物が戻り、生活も安定する筈。

 人間の未来を守る為に───その命、頂く。

 

 

 

「ヴォァゥッ、ヴォァゥッ、ヴォゥァァァッ!!」

 竜は暴れまわるが、自らの体重と絡まった縄で身動きが取れずにいる。

 このまま息の根を止めてしまうのが、せめてもの慈悲だ。

 

 

 

 何度目か。振り上げた木の棒を振り下ろし───それは地面を叩く。

 

 

 

「───な」

「飛んだ?!」

 視界から消えた竜の行方を青年が叫んだ。

 

 上を見てみれば───背中から血を流し、翼の所々に穴が空き、頭は数カ所が潰れているにも関わらず生きている化け物(モンスター)の姿が視界に映る。

 

 

 

「……バカな」

 あれだけの攻撃で死なない?

 

 むしろその憶測が間違っていたのだろうか。

 落とし穴に嵌め、三人で攻撃すれば倒せるとなぜ確信していたのか。

 

 

 モンスターという生き物達がそんなに甘くない事を本機は知っている筈。

 

 

 

 なぜ───

 

 

 

 気が付いた時には遅かった。

 

 

 

 視界に映る紅蓮の炎。空の王を火の竜と呼ぶ所以。火のブレスが、視界を包み込む。

 

 

 

「おししょー!!」

 しかし、その前に少女が本機と青年の前に立ち塞がった。

 

 

 木で出来た盾を構え───そして吹き飛ぶ。

 その小さな身体が衝撃に耐えられる訳がなく、ただ焦げ臭い匂いを漏らしながら地面を転がった。

 

 

「───な?! バカ、何をして!!」

「まだくるぞ?!」

「……っ!」

 再びブレスを構えるリオレウス。させる訳にはいかない。

 

 とっさに丸太を構え、それを投げ付ける。直撃したリオレウスは大きな音を立てて地面に落ちた。

 

 

「あなたはあのバカを安全な所に。アレの相手は本機がします」

「いや、彼女の事は任せた!」

「はぁ?!」

 本機の言葉を無視して、青年は地面に落ちたリオレウスの元に向かって走る。

 どうしてこうも人というのは理解出来ない行動に移るのか。推測は無駄だ。理解出来る訳がない。

 

 

 

「生きてますか? 返事をしなさい」

 煤だらけの少女に近寄って声を掛ける。息はしているようなので、命に別状はないだろう。

 

「うぉぉぉ……死ぬかと思った」

「死んだかと思いましたよ。……ほら立って、今の内に安全な場所へ」

「た、立てぬ。腰が!」

「投げ飛ばすぞ」

「待って! 嘘! 嘘です!」

 こっちも冗談なのだが。

 

 

「とりあえず、あの青年が時間を稼いでいる内に早───」

「いや、おししょー……アレ、時間を稼いでるというよりは」

 不思議な物を見る目で少女が指差すのは、リオレウスと戦っている青年だった。

 

 

 視界に映る青年はリオレウスの巨大な顎による噛み付きを紙一重で交わし、その頭に剣を叩き付ける。

 身体を回転させ長い尻尾での攻撃も盾で受け流し、脚を斬りつければリオレウスはバランスを崩して地に伏せた。

 

 

 

「めちゃ凄くない?」

「めちゃ凄いんですけど」

 なんだアレ。ハンターか。モンスターハンターか。

 

 

 いや、なんだアレは。

 

 

 

 人類は繰り返せるんじゃないだろうか?

 

 

 

 また、この世界で繁栄出来るのではないだろうか?

 

 

 

「うぉぉぉ!!」

「ヴォァゥゥッ!!」

 一人の狩人(ハンター)化け物(モンスター)の姿。

 

 それはまるで物語のようで、その戦いに見入ってしまう。

 

 

 これがハンターか。

 

 

 

 かの竜が倒れるまで約三十分の間、少女と本機はその光景から目を離す事が出来なかった。

 

 それは、人類の未来を見ているようで───

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

「大丈夫だったか?」

 青年が話し掛けてきて、本機と少女はハッとお互いに顔を見合わせる。

 

 

 何をしていたんだこのバカとポンコツは。いや、自虐ですが。

 

 

「いやぁ、なんとか倒せたな」

「なんとか倒せたな……ではなくて。なんとかで倒せたんですか」

 なんだか言語がおかしくなっていた。致命的なバグである。

 

 

 

「愛の力だぜ……」

「あいー?」

「何故だろう、殺意が」

 別に人間じゃないしぶっ殺しても問題ないですよね?

 

 あ、これは違います。バグです。本気でそんな事する訳ないではありませんか。

 

 

「いや、まぁ……落とし穴にハマってた間の攻撃で弱ってたしな。……それに、そもそも彼女が俺達を守ってくれなかったらあの瞬間に俺とお前は死んでるしな」

「あー……」

 あの時、本機と青年はリオレウスのブレスが直撃する位置に立っていた。

 少女が盾を持って割って入ってなかったから、本機はともかく青年の命はなかっただろう。

 

 

「だから、彼女のおかげだ」

「いやいやー、それほどでもあるかなー」

 もう少し遠慮しろよ。

 

 

「でも、君も凄い格好良かったよ! 凄かった!」

「お、おぉ……?! 本当か?! それは嬉しいな」

「うん、なんかね、凄い。本に出てて来た英雄みたいだった!」

「英雄……。良い響きだな」

 英雄、か。

 

 

 

 かの竜を倒した青年こそ、確かに英雄と称えられる存在なのかもしれない。

 

 

 

「……しかし、それはそれとして。あのような危険な真似は今後一切禁止します」

「えー、なんでー?」

「危険だからに決まってるでしょうに……」

 死ぬ気かこの小娘は。

 

 

「でも、おししょーはもう私を守らなくても良いんだよ?」

「……は?」

 何を言って……。

 

 

「だって、あの村には沢山人間さんが居るんだもん。おししょーの目的は人間さんの未来を守る事でしょ?」

 少女は不思議そうな表情でそう言った。

 

「……そうですね」

「だから私は、もう別におししょーにとって必要な存在じゃ───痛ぁ?!」

 殴ってやる。

 

 

 

「お、おししょー……?」

 この小娘は何も分かっていないので、殴ってやった。

 

 

「……あなたは割と危険思考ですよね。……なんというか、自分の身を案じないというか。……そこの青年、この小娘の将来は任せましたよ」

「ま、まだプロポーズもしてないけれど!!」

 確かに少女の言う通り、本機が守るべきは少女ではなくなった筈である。

 

 

 しかし、まぁ、感情という物が無いとはいえ、その言い方はあんまりだ。まるでこれまでの関係が全部無かった事みたいではないか。

 

 

 

 寂しいと感じるのは、本機がポンコツだからだろうか。

 

 

 

 それが感情ではないという事だけは断言出来るのだが。

 

 

 

「だっておししょーは友達だもん。仲間だもん。助けるのは当たり前だよ」

「な……」

 しかし、少女はそんな事を言う。

 

 

「危険思考とか、おししょーに言われたくないよ。おししょーの方が、直ぐに自分を犠牲にするくせにさー! プンプン!」

 怒るんかい。そこ怒るんかい。

 

 

「あ、いや、その……」

「謝れー!」

 えぇ……。

 

 

「いや、俺を「どうしたら」なんて目で見られても。あんたらの方が付き合い長いだろ……?」

「はぁ……」

 なんというか、目標を達成出来ると確信したせいか思考回路がおかしくなっているのかもしれない。

 

 

 バグが多過ぎる。

 

 

 視界が安定しない。

 

 

 

「……ごめんなさい」

「よろしい!」

 しかし、不思議な感じだ。

 

 

 

 何故だろう。

 

 

 

 これで人類はまた繰り返す事が出来るからだろうか。

 

 

 

 

 そういえばかの時代、初めてハンターという存在を作ったのは一人の竜人族の男性だった。

 

 

 

 

 また、繰り返す事が出来る。

 

 

 

 

 この世界は、繰り返す事が───

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

「凄いな! あの化け物を倒したんだって?!」

 村の人達の出迎えはとても豪勢なものだった。

 

 

 かの竜を討伐した事により、肉の心配が不要になったからか?

 残っていた肉や食料をふんだんに使われた料理が運ばれてくる。

 

 

 リンゴペンとは桁外れの豪勢な料理だ。

 

 

 

「お前ならやれると思ってたぜ! 我が息子よ!」

「いやいや、まぁ俺も頑張ったけども。……彼女のおかげだよ」

 青年は己の活躍を肯定しながらも、少女の活躍を褒め称える。

 

 

 おい待て、本機は? 本機も色々したからな。割と色々したからな?

 

 

 

「そうかそうか、それは本当に助かったよ。ところで、君達が良ければどうだい? この村に住んでくれないか?」

 さっき青年と話していた男性が話しかけてくきた。どうやらこの村の長らしいが、やはりまだ若々しい。

 彼もまた青年と同じ竜人族だからだろう。

 

 しかしこの村には人間も住んでいた。共存しているのだろうが、やはり数は少ない。

 

 

 少なくなった人類。でも集まって、また数を増やしていけばいい。

 

 

 だから、答えは決まっている。

 

 

 本機の目的はやはり、人類の未来を守る事なのだから。

 

 

 

 

「私は勿論だよ!」

「本機も問題ありません」

「それは良かった。それじゃ、村の皆に二人を紹介するから名前を教えてくれないか?」

 名前、ですか。

 

 

 ──『───名前───なきゃな。───しよう。人───の女性───よ』──

 破損データノ修復ヲ開始。

 

 

 ──『そうだ名前───なきゃな。イブにしよう。人類最初の女性───よ』──

 

 

 本機の作製者は本機にイヴという名前を付けていたようですね。

 

 

 名乗る必要がなかったので少女にすら名乗らなかったのですが、確かに接する人間が増えると固有名称は必要だ。

 

 

 

「……イヴです」

「おししょーそんな名前だったの?!」

 人類最古の女性の名前だとか。優秀な本機に相応しい名前だと作製者は言っていましたね(改竄)。

 

 

「ほーほー、イヴちゃん。それで、君は?」

「私の名前はねー、えーと───」

 そういえば、小娘の名前も知りませんでした。ずっと小娘とかバカとか呼んでいたのです。

 

 

 

 

 なぜ、気にしなかったのか。

 

 

 

 

 

 なぜ、気にならなかったのか。

 

 

 

 

 なぜ───

 

 

 

 

「私の名前はねー、ココットだよ」

 ───は?

 

 

 

 なぜ───

 

 

 

 

 ココット……?

 

 

 

 

 

 あなたがなぜ、ここ(そこ)にいる。

 

 

 

 

 

 イヤ、ソウイウ事カ。

 

 

 

「そんな名前だったんですね」

「そうだよー!」

 その名前に反応しないのは、何故か。

 

 

「そういえばおししょーに名前を教えてなかったねぇ。さっき言った通り、私の名前はココットだよ。これからはココットって呼んでね」

「変な名前ですね」

「酷い!」

 本機が平然と彼女と会話を続けるのは、何故か。

 

 

 

 

 ──人はな、起きる直前になると夢を見るんだ。記憶の整理をする為に、頭の中を覗いているんじゃよ──

 

 本機ハ夢ヲ見テイタンダ。

 

 

 

 

 コレハ人類ノ未来ノ記録デハナイ。

 

 

 

 

 

 

 コレハ過去ノ記録。無機質ナ、過去ノ記録。

 

 

 

 全テ過去ニ起キタ事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ソシテ───彼女ノ未来ハ。




これは、ただ無機質な記録である。
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