「私の名前はねー、ココットだよ」
ココット村という場所があった。
村の村長は竜人族で、ハンターをこの世界に広めた第一人者でもある。
彼──ココットの英雄──には五人の仲間がいた。
その中の一人は本機であり、もう一人はココットという名の少女だった。
「新しく村を作るんだ。村の名前はそうだな、ココット村にしよう」
「おー! 私の村だね!」
「イヴ村にしましょうよ。イヴ村にしましょうよ。イヴ村にしましょうよ」
「語呂が悪い」
「ふぁっきゅー」
英雄はココットと恋に落ち、二人は新しい村を作る。村はみるみると発展した。
モンスターを狩る事が出来る存在というのは、かの時代それなりに居るものだったが、この頃はそれだけでも人が集まる特別な存在だったのである。
「この村も賑やかになってきたねー!」
「アレが一角竜を倒してから、各地にこの地が知れ渡った事も大きいでしょうね。……案外人間は残っていたという事でしょう」
───これは無機質な記録だ。
彼女が名前を名乗る記録まで
そう、これは過去に起きた出来事なのである。
つまり、ココットの英雄がその命を落とすよりも前。本機が再び機能をシャットダウンするよりも前の記録なのだ。
データと一致しない、本機の言動と思考が一致しない、そのような事は多々あったのに、このデータの再生を本機が経験している事と勘違いしたのは本機がポンコツだからだろうか?
どちらにせよ、これは過去の記録である。
ただ再生される過去の記録。
ココットの英雄はこれを夢と言っていた。
過去に起きた記録の再生。
つまり、彼女の未来は決まっている。
覆す事の出来ない未来。
──「基本は五人だったのじゃよ。……あの山であの龍と戦うまではな」──
──「その龍との戦いで……」──
───「そうじゃ、ワシの婚約者。ココットが命を落とした」──
「近くの山に大きなモンスターか現れた?」
化け物をモンスターと呼び出したのはいつからだったか。
狩人をハンターと呼び出したのはいつからだったか。
「それじゃ、俺達が行くしかないな」
彼女達が五人で集まって狩りに赴き始めたのはいつからだったか。
「この五人ならどんなモンスターにだって勝てるよね!」
村に人が集まって、武器や防具がしっかりとしてきたのはいつだったか。
「油断は大敵ですよ。あなたは直ぐに無理をするのですから」
「イヴが居るなら私は最強だー!」
「そうでしたね、ココット」
彼女の名前で呼びあったのはいつからだったか。
記録の再生は断片的になっていった。
視界に黒い龍が映る。
息を吐けば周りの森林を炭にして、翼を動かせば炭すら吹き飛ぶような、強大な龍だ。
人類は確かに繰り返す事が出来た。
彼女達の前の時代───竜大戦の後、人類は自然の理とほぼ引き分けという形で数を減らす。
しかし、約千年の時を経て本機が目覚め、それと同時に人々はまた活気を取り戻した。
それはきっと本機が関わらなくても成し得た、人類の力の賜物だろう。
本機が見てきた竜騎兵や遺跡はかの竜大戦時代のものだったという事である。
そう、かつて人類と竜は争っていた。
しかし人類は繰り返す事が出来たのである。何度滅びかけても、また繁栄を繰り返す事が出来た。
だから、繰り返す。人類は何度でも。
「……私がこいつを惹きつけるから、二人は逃げて」
過ちも、正しさも、衰退も、繁栄も。
「待て! その役なら俺が……!」
「ココット、今回ばかりは冗談ではすまされません」
ただ、それらはいつだって突然で。
「二人をお願い。盾を持ってるのは私だけだし、きっともう時間もない。言いたい事沢山あるけど、ごめんね。……行って」
変えられない。
「ねぇ、おししょー」
今本機が何をどう思考しようが、目の前の彼女の運命は決まっている。
「人はきっと、繰り返せるよね。これは間違いじゃないよね」
数秒後、リオレウスの物とは比べ物にならない業火が彼女を襲い、少女は一瞬で黒い炭と化した。
頑丈な鉄の盾など意味がない。青年が叫ぶ暇も、涙を流す暇もない。口も開けていなかっただろう。
ただ事実として、少女はその時、命を落とした。
彼女の言葉に返事をする事は二度と出来ない。
少女はもうこの世界にいないのだから。
「ねぇ、おししょー」
「なぜ、あなたがここにいる」
「なんでだろー? 分かんないや」
少女は首を傾けながら、しかし「夢だからかな?」と呟いた。
そうだ、これは本機が今体験している事ではなく、記録である。
しかし、この少女の言動は記録にはない。
これは一体なんなのだろうか。
「あー、イヴって呼んだ方が良い?」
「別になんでも」
「んー、じゃあ懐かしいしおししょーって呼ぶよ!」
お先にどうぞ。
「これはきっと夢だから、本当の私は死んでるんだねー。実感ないなー」
「物凄く意味不明な事を言っている実感はありますか?」
「実感ないなー!」
ダメだこいつ、はやくなんとかしないと。
しかし、この反応は確かに彼女だ。
「夢……とは、なんなのでしょうか。本機にそんな機能は無い筈です」
「おししょーポンコツだからじゃない?」
「張り倒すぞ小娘」
「おー、このやり取りは懐かしい」
そうですね……。
「……おししょーの目的は達成されたかな?」
「……分かりません。確かにココットの英雄が広めたハンターという存在は後の時代を作る存在になりました。……本機が眠る頃、世界は彼等によってとても豊かに繁栄していた」
しかし。
「いつかまた、龍の怒りを買うかもしれない。自然の理に反した人類はまた同じ過ちを繰り返すかもしれない。今推測するに、あの黒い龍は再び繁栄し始めた人類を許すまいと本機達を襲ったのではないでしょうか?」
あの後───五人の内ココットを除く四人が敗走した後、かの龍は山から姿を消している。
あの龍が何者だったのかも分からない。少女の死体は見つからなかった。炭になった後、バラバラにされたのだろう。
「この世界が、人を許さないと……おししょーはそう思うの?」
「人類は確かに繰り返せるのかもしれません。……ただ、やはり繰り返してしまう。この世界は人類を許さない。いつかまた牙を剥き、一度でも繰り返せなければそのまま滅びてしまう」
そんな人類を見捨てずに守るというのが、本機の作製された目的だ。
ならば、その目的が達成される事はないのではないだろうか?
「本機の目的が真の意味で達成される事は無いと推測されます」
「そんな事はないんじゃないかなー」
「と、言いますと?」
どうすれば本機の目的は達成されるのだろうか。
その先が見えない。製作者が本機に託した願いが見えない。
「だっておししょーの目的は
──『最後まで人類を見捨てずに守って欲しいんだ』──
「そうですね」
「最後っていうのは、人が本当に滅びてしまった後の事だと思うよ」
「それはつまり……」
「おししょーがどれだけ最善を尽くしても、どうしても人が滅びてしまったら、それが最後。……その最後まででいいから、守って欲しい。それがおししょーを作った人の願いだと思う」
それではまるで───
「……いずれ人類は滅ぶと」
「……きっとおししょーを作った人はそう思ってたと思う」
彼女がこうと断言的に言うのは、これが夢だからだろう。
要するにこれは自問自答なのだ。
しかし、本機はそれでも少女と会話をする。
「つまり、結局の所本機の製作者は人類の最期を本機に看取って欲しい。こう言う事だった訳ですね」
「むしろ最初の頃のおししょーは正しかったのかもねー」
それは違うと答えるべきだろうが、不毛か。
「本機はそろそろ目覚めるのでしょうか……?」
「そうだね。今記憶の整理をしている所だから」
やはり、これは夢か。
「次目覚める時は、本当に世界が終わってるかもしれない。逆に人は繁栄してるかもしれない。もしかしたら終わらない繁栄を手に入れてるかもしれないね」
「どうなっているのでしょうね」
「それは、見てみないと分からないかなぁ。少なくとも、私にはもう分からない。それを見るのがあなたの目的で、おししょーを作った人の願いだと思う」
その先に何があるのか……。
「そろそろ時間だよ」
インターネット接続。……エラー。
「そのようですね」
インターネットニ接続不可能ナ為困難。
「一つだけ言いたい事があったんだ」
時間設定、インターネットニ接続不可能ナ為困難。
「……なんですか?」
言語設定。
「私、おししょーと旅が出来て楽しかったよ」
システムソフトウェア更新完了。
「……そうですか。私には、そういう感情はないので」
「いけず」
前回ノシャットダウンカラノ期間ヲ測定。
「ただ───」
「ただ?」
……───年───ヶ月───日───時間───分───秒。
「───本機はあなたのおかげで、いつも前に進む事が出来た。人類の未来がどうなるか分からない。……ありがとうございます」
「感謝なんて事が出来たんだねぇ……。ふふ、私も楽しかったよ、おししょー。ありがとう、さようなら。そして、いってらっしゃい」
はい、行ってきます。
本機ヲ再起動シマス。
「おー?! 人が倒れてるーーー?!」
人類は何度でも繰り返すのだろうか?
繰り返す事が出来るのだろうか?
確かに人類は滅びるかもしれない。その最期を見るのが、本機の目的である。
人類が繰り返す事が出来るのなら、本機は何度でも繰り返す。
その先の願いの為に。
───これはただ無機質な記録である。
───何度でも繰り返す。
読了ありがとうございました。本作はこれにて完結となります。
本作の活動報告は『皇我リキ』というユーザーが投稿しております。もし良ければそちらもご覧下さい。
モンスターハンター原作で「モンスターハンターRe:ストーリーズ」「とあるギルドナイトの陳謝」を検索して頂ければ、その作者が『皇我リキ』です。
さて、本機の活動はここまでとなります。本記録は全てフィクション。
しかし、人類はいつか本当に滅ぶかもしれません。その時、あなたは何を見るのか。その後どうなるのか。
少しだけ、思いを馳せてみても良いのかもしれませんよ。本機は一足先に、その光景を見てきます。それでは、さようなら。