機械の少女は世界の終わりに何を見る【完結】   作:イヴ

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巡り合ったというよりは、出会ってしまったという事だ。


邂逅

 システム同期。異常ナシ。

 

 

 太陽光発電ニヨルバッテリーノ充電完了。並ビニ接続。異常ナシ。

 

 

 インターネット接続。……エラー。

 

 

 記録ファイルノ破損ヲ確認。バックアップファイルノ受信ヲ開始。

 

 

 システムヲ再起動。

 

 

 システム同期。異常ナシ。

 

 

 太陽光発電ニヨルバッテリーノ充電完了。並ビニ接続。異常ナシ。

 

 

 インターネット接続。……完了。

 

 

 記録ファイルノ破損ヲ確認。バックアップファイルノ受信ヲ開始。

 

 

 圧縮データノ解凍ヲ開始。

 

 

 データヲ保存中。

 

 

『人は───繰り返す。きっと、───道を回───としてもだ。───ちを繰り返すものだ。───これは、───けの時が経とうと───ないだろう。きっと、人は何度でも過ちを繰り返す』

 データノ保存時期ニ大幅ナ空白ヲ確認。

 

 

『───か? これは。古代文───術で作られた、───身体を待つ───というなら、この───応用───竜の力を───士を作───もしれない!』

 空白期間ノ該当データナシ。

 

 

『竜機───違いだ───だろうか? 龍の怒───ってしまうなんて。───を貸してはくれないか? ───までは、人───んでしまう』

 

 

 時代測定、衛星機器ノ老朽化ニヨリ困難

 

 

 時間設定、午前十時二十七分三十二秒。

 

 

 言語設定。

 

 

 システムソフトウェア更新完了。

 

 

「おー?! 人が倒れてるーーー?!」

 前回ノシャットダウンカラノ期間ヲ測定。……千二百四十一年五ヶ月六日三時間七分十二秒。

 

 

「こんな所で久し振りに人間さんに会えるなんて……いや、でも今はそれどころじゃ───」

 本機ヲ再起動シマス。

 

 

「おー、目が開いた? 生きてる?」

 視界に映ったのは、忙しく表情を変える竜人族の少女。

 整った顔立ちに整った黒髪、服装は記録された人類の物とそう大差はない。

 

 

 竜人族。

 ホモ・サピエンスの後に登場した人間に近い種。長い耳などが特徴的で、人の数倍の寿命を持っている。指の数が四本なのも人間とは違う特徴だ。

 ココットの英雄と同じ種族である。

 

 

「……ここは」

 辺りを見回す本機の視界に映るのは、鬱蒼と生い茂る木々の数々だった。

 前回のシャットダウンから約千年の月日が経っている。ココット村はなくなったのだろうか。

 

 ヒーローブレイドは?

 不自然だと認識するのは、本機の状態であった。

 本機はシャットダウン前、ヒーローブレイドと共に彼の墓に本体を埋めた筈である。

 それがなぜ、本機は地面の上に存在していたのか。状況把握が困難。

 

 しかしよく辺りを見渡すと、ヒーローブレードは本機の傍に転がっていた。

 

 

「……あった」

 すぐ脇に置いてあったヒーローブレイドを手に取り、本機は立ち上がる。

 それを見た竜人族の少女はなぜか歓喜の声を上げるが、思い出したように慌て出した。

 

 

「まるで兵士みたい───って、違う違う。もうそこまで来てるんだよ、化物(ばけもの)が。逃げないと」

「……化物?」

 そう言われて本機が推測される姿は、ゾンビとか魔物の類いである。

 モンスター(化物)の姿を候補に入れなかったのはなぜだろうか? この世界は彼等の世界の筈なのに。

 

 

「青くて大きくて嘴の着いた化物だよ」

「奇妙な化物もいたものですね」

 まだ状態と状況の整理は終わっていないが、どうやら起きてすぐに現人類とこの世界に住まう他の生き物に邂逅出来るようだ。

 この世界の終わりを見る役割を持つ本機としては都合が良い。そう判断した本機は、その化物とやらを待つ。

 

 

「えーと、逃げないと、食べられちゃうよ? ほら、逃げよー!」

 しかし、竜人族の少女は本機の腕を掴んで木々の間に本機を引っ張った。

 抵抗しようと思えば抵抗出来るが、貴重かもしれない現人類を傷付ける訳にもいかない。

 

 

「……そんなにやばいのですか」

「メッチャやばい。私の故郷はあの化物に襲われて、皆食べられちゃったからねー」

 なんと、それは相当やばい化物である。

 

 

 あの時代から本機は千年眠っていたらしく、その間にそのやばい化物が誕生したのだろうか?

 そして人類は滅びた。本機の仮説はこうなる。

 

 

「静かに……。足音が聞こえる」

 少女のそんな言葉に、本機は聴覚機能を引き上げた。

 聞こえるのは複数の生き物が駆ける足音。この感覚だと小型モンスターが十数匹か。

 

 

 

「ギャィッ」

 唐突に鳴き声が聞こえる。

 木々の隙間から覗く青。そして黄色い嘴を持ったその生き物は、本機や少女よりも背が高く、鋭い牙と爪を待っていた。

 

 ……ランポス?

 

 

「……恐竜ですか?」

「なにそれ?」

「太古に絶滅したとされる、鳥の子孫です。化物ではなく生物です」

 本機は少女に、木々の向こうにいる生物の詳細を説明する。

 

 

 やはり、この世界の支配者はモンスターへと変わっていた。そう考えるのが妥当だろう。

 

 

 

「鳥、鳥は知ってるけど。子孫? あの化物が、鳥さん達のおばあちゃんとかおじいちゃんなの?」

「そういうレベルの話ではありません。そして、本機の認識するラプトル種の恐竜とあの生き物達が同種であるとは考えられません」

「難しい話だ……」

 頭を抱える少女はしかし、木々の間から姿を見せる生き物達から目を離さない。

 生き物達は少女を探しているのか、徘徊しながら辺りを見回していた。

 

 

 

「……行ったかな」

 しばらくして、生き物の気配がなくなり少女は木々の間を歩いて行く。

 本機は少女について行く事にした。この少女は最後の人類の可能性がある。

 

 

 その最期を見届けるのが、本機の使命だった筈だ。

 

 

 

「ふぅ……大丈夫かな。しかし驚いたよ、人に会えたのは三十年ぶりくらいだ」

 この少女、人間で言えば十代半ばのような出で立ちをしているが想像より遥かに歳を重ねているらしい。

 

 三十年もの間、人類に会えない世界だとするとこの時代の人口はかなり減少している可能性がある。

 彼女が最後の人類という可能性も高まり、彼女への興味も増加した。

 

 

「あ、私はこう見えてもあなたより歳上なんだよねぇ。りっぱなレディって歳なのさ」

「残念ながら本機が生産されてからあなたが想像も出来ない時間が経過しております。歳上面は辞めてください小娘」

「こむ───っ?! 小娘ぇ?!」

 小娘は目を丸くして後退る。少し強く言い過ぎただろうか?

 

 

「ま、まぁ……同じくらいって事にしよう。どうせもう年齢なんて気にする程、周りに人は居ないんだしねー」

 寂しげに少女はそう呟いた。やはり、人類は……。

 

 

 

「……質問があります。人類は竜達に敗北し、数を減らしたのでしょうか?」

 あの世界が滅びるとすれば、ハンターがモンスターに敗北したという結末を考える事が出来る。

 それは一つの大きな戦いという意味ではなく、全体的な歴史においてという意味だが。

 

 

 もしハンターがモンスターを狩れなければ、生活がままならなくなる人々もいればそのモンスターに命を奪われる人も現れるのがあの世界。

 この世界の支配者は数千年前から人間ではなく、モンスターだ。───いや、きっともっと昔からこの世界の支配者は人間ではなかったのだろうが。

 

 

 この世界の支配者は強大な力を持っている。

 それはいとも簡単に人々を壊す事の出来る力で───それと人類の均衡を保っていたのはハンターという存在だった。

 

 

 もしその存在が自然的、もしくは自然の意思によって消えたとしたら。

 

 

 

 人類は滅びるだろう。

 

 

 

「うーん、難しい質問だね。でも、大昔に何かあったってお話は知ってるよ。人とドラゴンっていう化物達は戦っていて、人間は数を減らしていったっておばあちゃんに聞いたかな」

 思い出したのは、いつかの時代の記録だった。

 

 

 人は繰り返す。何度でも。

 

 

 そしてその繰り返しの果てにあるのが、この世界なのか。

 私が眠っていた場所は木々に覆われ、とてもじゃないが人が暮らしていた場所とは思えない。

 

 

 千年。気の遠くなる時間の果てにあったのは、やはり人類の───

 

 

「もう一つ質問させて下さい。もう人類は残っていないのでしょうか?」

 唐突に本機は彼女に向けて言葉を吐いた。気になる事ではあるが、なぜそんな事を聞いたのか。

 

 

「そんな事ないよ。だって、ここに居るじゃん?」

 そう言いながら、少女は本機の手を握る。その行為に理解は出来ないが、彼女の言いたい事はなんとなく分かった。

 

「私と、あなたがここにいる。もし本当に世界中に他に誰もいなくても、私とあなたがここにいる限りは人は残ってるよ」

 彼女の言う事は正しいかもしれない───が、一つだけ訂正がある。

 

「……本機は人類ではありません」

 本機は人に作られた機械───ロボットだ。

 

 人間でも竜人族でも、その他知的生命体でもない。

 本機を最後の人類としてカウントするのは間違っている。

 

 

「ごめん、意味が分からない」

「だから、本機は───」

「ギャィァッ」

 本機の言葉を遮ったのは、一匹の生物の鳴き声だった。

 

 

 青い身体に嘴に牙を持つ化物。───ランポス。

 

 

「うわぁ?! で、出たぁ?!」

「……まだ一匹だけ残っていたようですね」

「冷静にそんな事言ってる場合じゃないよ?! そ、そうだ! その剣! その剣でやっつけられない?」

 大声を出すと仲間を呼ぶ可能性があるのだが……。

 

 少女は慌てふためきながら、化物の方を向いて後退る。

 このヒーローブレイドを使えば倒す事は可能かもしれない───が、それは本機の使命なのだろうか?

 

 

「ギャィァッ!」

 その解答を処理する前に、化物は少女に襲い掛かった。

 飛び掛かる化物は少女を押し倒す。悲鳴が上がり、少女は涙を流した。

 

 

 ───これが人類の終わりなのだろうか?

 

 

 ───これが人々の最期なのだろうか?

 

 

 ───これを見届けるのが本機の使命なのだろうか?

 

 

 ───……エラー。

 

 

 

 本機には共感などの機能が備わってはいるものの、人を助けたいという感情は備わっていない。

 しかし、ロボットである本機には守らなければならないものがある。

 

 

 ロボット工学三原則。

 人間への安全性、命令への服従、自己防衛。

 

 

 この点において、本機は目の前の少女の安全を確保する義務があった。

 ならば、迷う必要はない。

 

 

「う、うわ───」

「ギャィ───」

「……失礼」

 口を開き牙を少女に向ける化け物に、ヒーローブレイドを向ける。

 この剣はどう扱うものだったか。───インターネット検索。

 

 

 最適解ヒット。

 

 

 叩き付けるのではなく、腰を使って引くように───斬る。

 

 

 

「ギャィァッ?!」

 ランポスの首を狙ったそれは、しかし反応され背中を切り裂いた。

 血と肉が飛び散り、ランポスは悲鳴をあげる。

 

 

 

「え?! 凄い!」

 モンスター(化物)と呼ばれていても彼等は生命だ。この世界を支配している生き物達だ。

 

 

 そんな生き物達を殺す時、過去の人類はその尊厳に感謝し糧を得る相手に敬意を払う。

 

 

「……上手く避けたようですが、次はあなたの生命活動に支障が出るだろうと警告します。言葉は通じていないでしょうが」

 狩猟。狩り。

 人々はいつかの時代、彼等を殺す事をこう言っていた。

 

 

「グルゥ……ギャィッ! ギャィッ!」

「化物が逃げていく……。……あなたは、一体何者なの?」

 そしてそれを成す存在を、人々はこう呼ぶ。

 

 

「……強いて言うなら、狩人(ハンター)でしょうか」

「ハンター……。す、凄いね! 凄いよあなた! 弟子にして下さい!」

「は?」

 本機の手を握り、少女はその輝かしい瞳を本機に向けて来た。

 

 

 弟子……?

 

 

 本機を……?

 

 

 はて、何を言っているんだこの小娘は。

 

 

 

「私も、あなたみたいになりたい! そしたら、これまでみたいに逃げ回って生きていなくてもよくなる気がするんだ!」

「いや、あの、無理です」

「なんで?」

「過度な人類への干渉は再び災厄を起こす切っ掛けになりかねません」

「よく分からないからお願い!!」

「本機の話を聞いていますか?!」

「何でもいいからお願い!!」

「ダメです」

「お願い!!」

「……しつこい!!」

「ギャフン!」

 本機は少女を投げ飛ばす。さっきロボット工学三原則だとかなんとか言っていたが、そんな文明は既に滅びているので本機には関係ない。

 

 

「お願いぃぃ!! ししょぉぉ!!」

「えぇぇ……」

 

 

 

 これが、本機とこの奇妙な竜人族の少女との初めての出会いだった。




出力ミスによる誤字脱字が存在する可能性がありますが、それは本機がポンコツという訳ではなく出力機器に問題があるだけです。

つまりポンコツだと思ったそこの人。その通りです。
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