機械の少女は世界の終わりに何を見る【完結】   作:イヴ

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彼女がどんな生活をしていたのかという記録。


生活

「おはようございます、ししょー!」

「……だから、師匠にはならないと何度言えば」

「ならばおししょーになってもらう」

「何が違うんだ張り倒すぞ小娘」

 本機が再起動してから三日。

 

 

 つまり、少女と出会ってから三日。

 

 

 竜人族といっても基本的な生活習慣は人間と大差ない。

 少女は日が沈めば安全そうな場所を探し寝て、日が昇って少しした頃に目を覚ます。

 

「諦めないよー?」

 彼女の持ち物は小さなポーチだけだ。

 小さなナイフ等が入ったポーチに着いた紐を肩に掛けて、少女の一日は始まる。

 

 

「何度言われても受け答えは出来ません。……それで、今日はどちらに?」

「勿論、気ままに世界を歩くのさー。ぶらりぶらりと旅をしながら……そろそろご飯を食べたい」

 普段の調子で語り始めたと思うと、少女はお腹を抑えて蹲った。

 竜人族でも食事は必要である。本機と彼女が出会ってから、本機の知る所では少女は何も口にしていない。

 

 

「あなたの食事に興味があります。……普段は何を食べているのですか?」

 狩りをしなくなった人類がどのようにして糧を得ているのか、本機の記録に残さなければならない。

 

 

 

 ───それが、何の為なのかは分からないが。

 

 

 

「化物の食い散らかした草食性の化物とか?」

 ハイエナかこいつ。

 

「他には?」

「うーん、どうしても我慢出来なかったら草を食べるよ。あとね、最悪の場合化け物のうんこ」

 うんこ。

 

 

「とにかく、今日は何か食べれる物を探そーう!」

 両手を挙げて声を上げる少女は、直ぐに足元に生えている草に手を伸ばした。

 ふとその手元を見ると、食べられそうなキノコが生えているが……。手を伸ばしたのは草である。

 

 そしてそれを口に運んで、少女はモグモグと草を噛み始めた。

 

 

 ……人類大丈夫か。

 

 

「不味い!!」

「……そこの茸は食べないのですか?」

「きのこ……? あーっと、これ?」

 それですそれ。足元にあるでしょう。

 

 あれは確か特産キノコですね。食用としても問題ない筈。

 

 

「この形の奴食べたおばあちゃんが昔、口から緑色の煙を出して硬くなったり力強くなってから腹痛で倒れたんだけど」

 それドキドキノコ。

 

「……不思議な茸もあったものですね。しかし、その茸は大丈夫だと思われます。成分から食用として問題ないと断言出来ます」

「え? 本当に?! 食べる!!」

 少女はギネス記録に乗りそうな速度でキノコを平らげた。

 

 

 ……あまり現人類の生活に干渉するのは良くない筈ですが、今回はノーカウントという事で。

 ノーカン。ノーカンなんだ! 失礼。

 

 

「美味しい!!」

 お口に召したようです。

 

 

 と、なると今後見付けた特産キノコをポーチに保存しておけば保存食になる筈だ。

 最後の人類の寿命を延ばしてしまった気がするが、気にしない。

 

 

 

「よーし、このきのこって奴をいっぱい集めよう!」

 そう言ってから少女は元気に駆け出して、手近な茸を探し始めた。

 

 茸ばかりでは栄養の偏りもある為、動物性たんぱく質等も摂取させ───

 

 

「うわぁぁぁ!! 痺れる!! 身体が痺れるぅぅううう!!!」

 ───茸は辞めさせた方が良いかもしれない。

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

「今日は肉を食べようと思うよ!」

「……ほぅ」

 少女と出会ってから五日。

 

 

 朝目覚めると、いつも少女は唐突に第一声を放つ。

 彼女を観察して五日経つが、目覚める度に何か今日する事を言葉にするのだ。

 

 

「質問です。肉とは、何の肉ですか?」

「んー、決まってない。化物が倒した奴の肉が落ちてないか探しに行こうと思う」

 彼女の生活はかなり不安定である。

 

 毎日ただ目的地もなく歩き回り、食料を探す旅。

 物心付いた頃からそのような生活を送っていて、故郷の事は殆ど覚えていないらしい。

 

 

 現人類はそんな不安定な生活を送るしかないのだろうか?

 生活の基盤そのものが無い彼女の生活は、常に生きるか死ぬの世界だった。

 

 

 世界の人口が減少すれば流通は減り、自給自足を余儀なくされる。

 集団で行動する事により身を守る事も出来なくなれば、自分の身は自分で守るしかない。

 

 さらに定住が難しく、日々の生活の根城もなければこの危険な世界を歩き回るしかないのだ。

 そんな世界を数十年生きてきた彼女は、それなりの力を持っていたか運が良かったのだろう。

 

 

 この世界は人類にとってそれ程までに厳しい世界となっていた。

 

 

「……ない」

「ないですね」

 森の中を歩きながら、少女はハイエナのように腐肉を探す。

 闇雲に動き回っているので前日寝た場所には戻れない事が多い。

 

 日が沈む前には安全に寝る事が出来る場所をまた探さなければならないため、食料を探す時間は限られていた。

 

 

 

 そして日が沈みそうな夕方。ふと少女は生き物の影を見付けて身を隠す。

 

 凶暴なモンスターか、それとも今日の糧か。

 

 

 

「ねぇねぇ、何あの化物?」

 あの、とは?

 

 少女が指差す先には、背中に苔を生やし頑丈な額を待つ草食性のモンスターがキノコを貪っていた。

 草食種───モスである。

 

 

「苔の生えた豚ですね。……食べられます」

「食べれるの?!」

「苔はともかく、豚は元来人類が食してきた種です。……多分大丈夫でしょう」

「多分なんだね」

「確証素材がないのでなんとも」

 モスポークは有名な食材でしたが、はて。

 

 

 

「んー、でもなぁ。まだ生きてるしなぁ」

「自分で殺す事はしないのですか?」

 生き物は自らの糧を得る為に、他の生き物の命を奪うというのがこの世界の理だ。

 少なくともこれまでの人類はそうして生きて来ている。その意識はもうないのだろうか?

 

 

「だって、めっちゃ強そうじゃん?」

「豚だぞ」

 ランポスならともかく、自分より小さな生き物に怯えていてはこの先生きていくのが辛いだけだと……。

 

 

「あのおでこ? 凄い硬そうだし。突進とかしてきたら絶対痛いよ!」

「豚にそんな能力はありません。……分かりました、本機が手本を見せるので今後は自分で狩れるようになって下さい」

 世話がかかる小娘だ。

 

 

 本機はヒーローブレイドを構えながら前に出る。

 モスは本機に気が着くと、警戒しているのか本機を睨み付けた。

 

 

「なかなか威勢の良い豚ですね。しかし、所詮は豚───」

 本機がモスに近付き、振り上げたヒーローブレイドを叩き付けようとしたその時である。

 モスは───駆けた。

 

 全速力で大地を蹴る豚足。その硬い額をぶつけるために前に出し、モスは本機に突進してくる。

 モスの予想だにしない行動に本機は身動きが取れず、直撃して地面を転がった。なんて威力だ。破損箇所は……問題なし。

 

 

「だ、大丈夫?!」

「飛べないただの豚が調子に乗りやがってミンチにしてやりますよ」

「ぶたは飛ぶの?! どう見ても飛べるようには見えないよ?!」

「飛べない豚はただの豚であると検索にヒットしました」

「ただのぶたじゃないぶたは飛べるの?!」

 そのようです。

 

 

「ブヒィ」

 地面を蹴るモス。この野郎挑発してやがりますね。

 良かろうならば戦争だ。

 

 

 

「……覚悟」

「……ブヒィ」

「……ごくり」

 少女が唾を飲み込む。それが合図だったかのように、本機とモスは地面を蹴った。

 

 

 ───そして、モスは本機を通り過ぎて森の中に駆けていく。

 

 

 

「…………。……逃げるとは」

「あ、あわわわわわ……。や、ヤバイよ! 後ろ! 後ろぉおお!!」

 後ろ?

 

 

 振り向くとそこには巨大な豚───いや、猪が鎮座していた。

 猪とは言い難い巨体は本機や少女の身長を優に超える全長を有している。

 

 

 牙獣種───ブルファンゴ。モンスターだ。

 

 

「化物ぉ?!」

「めっちゃでかい猪ですね。……臭みがありますが食べられます」

「食べれるの?!」

「普通食べませんが食べられます。正しく調理する事により臭みも取る事が可能です」

「よく分からないけど、まず危ないよね?!」

 怯える少女の指の先、本機の正面ではブルファンゴが地面を蹴りながら本機を威嚇している。

 この剣を危険と感じて威嚇行動をしているのだろうか? 辺りに群れは見当たらない。

 

 

 

「本機は人類の最期を見るために存在しています。……なので、人類の延命をする事をよしとは出来ません」

「え? あ、うん。ししょーにはなってくれないって事だよね?」

 そんな事より目の前の化物が危ないよ? そう目で訴えてくる少女を本機は無視した。

 

 

「しかし、本機はロボット工学三原則により自己の防衛をしなければなりません」

「???」

 意味が分からずといった感じで、少女は首を横に傾ける。

 本機は何故少女に肩入れしてしまうのか。本来の目的から外れた事をしているのか。

 

 

 ───分からない。

 

 

 ───なぜ本機は、こんな事を?

 

 

「本機は今より凶暴な猪から自己防衛する為に、狩りを行います」

「狩り……?」

 狩猟。

 

 

「大昔、人類が自然から糧を得る為に生き物を殺す事が多々ありました。ただ殺すのではなく、その糧を得る生命に感謝を込めてこの好意を古くの人類は狩猟(ハンティング)と読んでいたのです」

 そして、それを成す存在。

 

 

 ───ハンター。

 

 

 

 この世界は自然の理であるモンスターとハンターの世界だった。

 今はどうあれ、昔はそうだった筈。

 

 

「見ていてください。……これが、狩人(ハンター)の狩りです」

「よく分からないけど……教えてくれるなら頑張って覚えるよ!」

 これで良かったのだろうか?

 

 

 本機は間違えていないのだろうか?

 

 

 この判断は正しかったのだろうか?

 

 

 

 それはきっと、人類が終わるまで分からない。

 

 

 

「お待たせしました、巨大猪よ」

「ブルォゥッ」

 モスとは桁外れの迫力を持ってして本機を威嚇するブルファンゴ。

 しかし威嚇という行為は相手の勢いを殺す為の行為である。

 しかし本機には恐怖等を感じる機能は存在しない。その威嚇にはなんの意味もないのだ。

 

 

 ブルファンゴは血走った眼で本機を睨み付け、しびれを切らしたのか遂に大地を蹴る。

 駆け出す巨体。二本の牙を向けた突進を、本機は盾で受け流した。

 

 

「おー!」

 そこ、興奮する所なのでしょうか……?

 

 

「ブルォゥッ?!」

 猪突猛進という言葉があるが、ブルファンゴはそれを絵に描いたようなモンスターである。

 突進は一直線で、急に留まる事が出来ない。突進を受け流されたブルファンゴは本機を通り過ぎてからも大地を滑った。

 

 脚を滑らせてやっと動きを止めたブルファンゴの背後に肉薄。ヒーローブレイドを叩き付ける。

 吹き出る鮮血。ブルファンゴは悲鳴を上げ、その大きな牙を横に振った。

 

 

 距離を取ってそれを避ける。

 大地を蹴り、再び突進してくるブルファンゴの攻撃を横に飛んで躱すと、本機は再び背後から肉薄しヒーローブレイドを叩きつけた。

 

 

 狩りの基本はヒットアンドアウェイである。

 

 

 分厚い皮を持つブルファンゴだが、何度も攻撃する事で体力を削る事に成功。

 その巨体は音を立てて倒れ、事切れた。狩猟完了である。

 

 

 

「……これが狩りです」

「す、す……」

 す?

 

「すっごーい!! 化物を倒しちゃった?! 凄いよぉ!!」

 なぜそんなにオーバーリアクションに。

 

 

「……昔の人間はこのくらい普通にやってのけました。それこそこんな原始的な武器を使わなくても、もっと───」

「いやいや凄いよ!! 私もあなたみたいになりたい!! なれるかな?!」

「……どうでしょうね」

 大昔のハンターの中には竜人族も居ました。

 

 

 それこそ、あの時代を作ったココット村の英雄達のように。

 

 

 

 もし彼女が彼等のようにハンターとしての先駆けになるのなら、まだ人類がこの世界に残っているのなら。

 この世界はまた繰り返すのかもしれない。また、人類は繰り返すのかもしれない。

 

 

 繁栄も、衰退も。

 

 

 

「よーし、頑張るぞぉ!! その前にお肉だよね。食べようよ!! どーこーかーらーたーべーよーうーかーなー?」

「……焼かないんですか」

「やく? 何それ?」

「肉をですね、こう、火であぶってですね」

 もし繰り返すのなら。

 

 

 

 その繰り返しの最期を見るのも、本機の役割なのではないだろうか?

 

 

 そう結論付け、本機はこれから彼女と共に世界を回ろうと思う。

 

 

 

 

 また繰り返す事は出来るのか。それとも───

 




この世界には世界共通語という物がありまして。
狩人とハンターの違いはイントネーション的な事です。きっとそこに深い意味は無いのです。
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