機械の少女は世界の終わりに何を見る【完結】   作:イヴ

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それは確かにそこにあった物で。


隔壁

 少女と邂逅してから四十七日目。

 

 

「近付くにつれてどんどん大きくなってくねぇ。あの壁は一体なんなんだろう?」

 少女と本機は普段の生活の途中、遠目に自然物には見えない壁を見付けた。

 

「本機のデータにもありません。目測ですが、高さは三百メートル程かと」

 古代文明の遺跡か、もしくはまだその壁の向こうに文明の名残がある可能性も高い。

 少女は興味を持ち本機もそれを確かめる事を重要事項として認定。二日程歩いてようやく近付いてきた所である。

 

 

「さんびゃくめーとるって、どのくらい?」

「本機が垂直に二百体並んだ高さと同等ですね」

「想像もつかないや」

 でしょうね。

 

 

 それから半日歩き、遂に少女と本機は壁の側面に辿り着いた。

 なんの変哲もない、石積みの巨大な壁。それが見渡す限りに続いていて、まるで世界をこの壁が二分しているかのようである。

 

 ではこの壁はなんの為に作られたものなのだろうか?

 巨大な竜をも退ける事が出来る高さ。どこまで続いているか分からない長さ。

 

 もしかしたらこの壁の向こうでは、まだ人類は繁栄しているのかもしれない。

 そんな希望的観測が過ぎった。

 

 

 

「凄いねぇ、高いねぇ、長いねぇ〜っ!」

「暗くなって来ましたし、壁の調査は明日にしましょう」

「それは賛成。疲れたもんねー」

 本機に疲労という概念はないが、少女には少しこたえたのだろう。

 彼女はその場に倒れるように座り込むと、徐ろに保存食として残しておいたキノコを食べ始めた。

 

 

「この先に何があるのかな?」

「……さぁ。その前に、壁の向こうに行く方法を探さなければいけません」

 登って行くのは───現状の技術と本機の機体性から導かれるに不可能である。

 壁を掘り進んで行くという方法は途方もない。何処かに抜け道がないか探す方が早いと結論が付いた。

 

「楽しみだねぇ〜」

「興味はありますね」

 少女と出会い、本機はこの世界の最期を見届ける旅をし始めている。

 

 その終焉は何時なのか、何処なのか。

 

 

 この先にその答えがあるのか。

 

 

 ただ、最期に向けて───

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

「うわぁ〜おぉ……」

「これで壁の向こうに行く事は出来ますが……。壁の中では人類が繁栄しているというのは本当に希望的観測に終わりしたね」

 翌日。少女が見付けてしまった(・・・・)のは、壁に開いた大きな穴だった。

 

 

 穴というよりも、三百メートル強の壁が一部崩壊して中に入れるようになっている場所を見つけたのである。

 

 その穴は、まるで何かに外側から押されて砕かれたかのように───内側に壁だった破片がばら撒かれていた。

 

 

 

「何かおっきな化物に壊されちゃったのかな?」

「この巨大な壁を破壊出来る生き物ですか。想定出来ませんね。……もしそんな存在がいたのならば、中にいたであろう人類は───あ、あの壁は三百メートルだぞ?! と驚愕していたでしょう」

 人類はその日思い出した、的な。

 

 

 

 超大型モンスターの中にはこの壁よりも巨大なモンスターがいただろうか?

 記憶ファイルの破損が惜しい所である。

 

 

 

「とりあえず中に入ってみよぉ〜」

「壁の中には何も残っていない可能性が高いですよ? もしこの壁を破壊出来る生物が壁の中の文明を攻撃した場合、人類に成すすべはなかったと思われます」

「うーん、よく分からないけど。……この中に何があるのか、私は気になるから!」

「気になる……?」

 興味本能という物だろうか?

 

 

「あなたも気になるでしょ?」

 その機能こそが、今の本機を動かしている原因であるのだから。───答えは決まっていた。

 

 

「……そうですね。興味があります」

 人類に何が起きたのか。その答えがこの先にあるのだろうか?

 

 

 

 ……非常に興味がある。

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

 壁の中は巨大な森林となっていた。

 

 

 もしこの壁の中で文明が過去に栄えていたとしても、それはその全てが自然に還る程の遠い昔の話なのだろう。

 人の姿はやはり、見当たらない。

 

 

「これまでと同じで普通に森だねぇ」

「残っていた人工物はあの壁だけですね。壁の中がどれ程の大きさなのか分かりませんが。……逆に、我々が元々壁の中で生活していたという考え方も出来ます」

「それはそれで面白いかもね!」

 実は壁の中にいたのは自分達だった。なんて、二流の物語によくありがちな設定ですが。

 

 

「まぁ、否定しますが」

「えぇ?! 自分で言っておいて?!」

「先程、巨木に登り遠方を確認してきました。通り抜けてきた壁の反対側、つまり進路方向に同じような壁を視認出来ます」

 つまり壁は円形か平行に、この森を囲う形で作られている。

 ここは真に壁で覆われた立地だ。どちらが中か外かという哲学はさておき。

 

 

「うーん、それじゃあの壁は何のために作られてたのかな?」

「人類が壁を作るなら、理由は外敵から身を守る為でしょう。それは何も化物だけではなく、敵対する人類という事もありえます」

「敵対する人類……?」

 少女は本機の言葉に首を横に傾ける。まるで意味が分からない、そんな表情だった。

 

 

「過去、人類は人類同士で争う事もありました。それはどんな時代であれ、変わりません。それとは別の外敵として、あの化物達が挙げられます。……どちらにせよ、ここに文明を築いてきた人類には外敵がいたと考えるのが正しいでしょう」

「じゃあ、あの壁を壊したのはその外敵……なのかな?」

「それは確証がなく、なんとも」

 この先にその答えがあるのか。

 

 

 それは人類の最後か、それとも───

 

 

 

「行ってみよっか」

「……良いのですか? この先は壁で、その先に進める確証はないのですよ」

「別に私は目的地もないしねぇ、おししょーと一緒なら何処でもいっちゃうよぉ」

「だから師匠ではないと……」

 そういう事なら、その気持ちに甘える事にする。

 

 

 向かうは反対側の壁。

 

 

 あの壁を破壊した犯人の向かう先。

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

 ソレ(・・)を少女が見付けたのは偶然であった。

 

 

 日が沈む頃、休める場所を探していた少女は巨大な岩に出来た窪みを見付ける。

 奥行きの深いその場所は、窪みと言うよりは洞窟に近い形状だった。

 

 この壁の中にもモンスターは居て、何度か遭遇している。

 さらに雨も降って来たという現状を考えるに、その洞窟は今の少女にとってはとても都合の良い場所だった。

 

 

 そして、その洞窟で永きの間眠っていただろうソレ(・・)と邂逅する。

 

 

 

 巨大な身体は龍のよう。

 しかしそれは竜ではなく、しかしそれは龍に等しかった。

「なんだろう……これ?」

「……竜騎兵」

 覚えていた。

 

 

 それだけは、覚えていた。

 

 

 人類が犯した過ち。人と竜の戦争を厄災とした起因。

 

 

 

 竜騎兵。龍に等しい兵器(イコール・ドラゴン・ウェポン)

 

 

 かの大戦の時代、人は数多の竜の命から一つの生命を作り上げる技術を有していたらしい。

 

 その集大成がソレ(・・)である。

 

 

 

 あの壁と同等の全長。一対の翼を有し、その巨体を支えるのはそれ一つだけでも竜と同等の質量を持つ四肢だ。

 

 しかしその四肢は地面に付いておらず、身体は洞窟に埋まるように天井に固定されている。

 良く見れば所々が破損し、内部機構は原型を留めていなかった。

 

 

 

「死んでるのかな?」

「死んではいないし、生きてもいない。……コレは、本機と同じような存在です」

 記憶の断片に、ソレと同じ物が映る。

 かの大戦に本機は間接的に関わっていた。断片的な記録だが、それは確かだろう。

 

 

「どういう事?」

「コレの命は作られた物だという事です。数多の化物の身体を繋ぎ合わせ、生命の理の外から埋め込まれた命。……本機はコレより高性能ですが、本質としては何も変わりません」

「ごめん、良くわらからない」

 しかし、コレはいつの物なのだろうか。

 

 

 かの大戦は、本機が眠るよりも遥か前の時代に起きた事だ。それがこうして残っている物だろうか?

 

 

 

 一つ考えられるとすれば───

 

 

「……簡単に言えば、人間の出来ないことを代わりにする為に人間に作られた物です」

「人間に出来ないこと?」

「世界の終焉を見る事や……そうですね───世界を終わらせる事。戦争の兵隊として戦う事」

 ───人はまた繰り返したという事。

 

 

 

 人類は何度でも繰り返す。

 

 いつかの時代、いつかの時に、誰かがそんな言葉を落とした。

 

 

 

 その相手は竜だったのか、龍だったのか、人間だったのか、人だったのか。

 そのどれにも当てはまらない何かか。

 

 しかし、人はまた繰り返した。そして、その成れの果てがこの朽ちた兵器なのではないだろうか?

 

 

 

「戦争……」

「遠い昔、かの時代に人と竜の戦争がありました。本機の知る、一番新しい戦争です。……結末までは本機の知る限りではありませんが、その時も同じような物を人は作り上げました」

 もし仮にこの竜騎兵が竜達との戦争の為に作られたのなら、人類は本当に救いようがない。

 その答えを調べる事は出来るだろうか? この竜騎兵の破損具合を見るに、巨大な何かと戦った痕跡があるが。

 

 

 

「うーん、何か重要な物を見れた気がするね」

「……そうですね、これは重要な記録になるでしょう。本機はあなたが休息を取っている間にこの兵器を調べます」

「うん、分かった! ずっと思ってたけど、おししょーが寝ないのはその……作られた物だからなのかな? よく分からないけど」

「……そうですね。コレと本機の本質は同じ物です。……作られた物として、その目的を達成する」

「難しいね」

「簡単ですよ」

 兵器が作られたという事は、戦いがあったという事である。

 

 

 兵器を作る目的とは、それ以外にありえない。

 

 

 その理由を調べる事は出来るだろうか?

 

 

 そこに人類の最期のヒントはあるだろうか?

 

 

 この竜騎兵は最期───何を見たのか。

 

 

 

「───あなたは、何のために作られたのですか?」

 龍に等しい兵器は沈黙し、ただ有機物の朽ちる時を待っていた。

 

 この兵器が自然に還るまでどれだけの時間がかかるだろうか。

 数多の竜の命はここに眠り、大地の糧となっていく。

 

 

 

 この世界の最期に一体、何が───

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

 それは答えなのだろうか? それとも───

 

 

 壁の中に入って二日目。

 前日は日暮れのせいで見えていなかった物の全貌が───いや、全体が見えてきた。

 

「これも、ししょーが言っていたりゅうきへい(・・・・・・)なのかな?」

「これは違います。……これは、巨大なドラゴンです」

 少女と本機の前にあるのは、巨大な生き物の頭部の骨だった。

 

 

 その骨だけで竜一匹程の質量を持つそれは、朽ちてもなお威厳を放っている。

 内部は朽ちて小動物の巣になっているが、その周りは他の地よりも命が溢れている様に感じた。

 

 この龍が朽ち、この地に膨大なエネルギーとして還ったのだろうか。

 

 

 

 そしてその頭部から少女が竜騎兵を見つけた洞窟まで、この生物の背骨と肋骨が連なっている。

 洞窟だと思っていたのはこの生き物の尻尾だったのだ。つまり、あの竜騎兵はこの超巨大な生物に潰されていた───そういう事になる。

 

 

「りゅうきへいは戦う為に作られたって言ってたよね? その相手は、この骨の主なの?」

「……そうでしょうね」

 この龍がこの場で朽ちているという事は、竜騎兵はこの龍と相打ちという形になったのだろうか?

 しかし壁は突破され、身の危険を守る事が出来なくなったこの地の文明は滅びた。

 

 

「それじゃ、りゅうきへいはおししょーの言う所のハンターだったって事?」

「それは違います」

 本機が否定すると、少女はそのままの表情で首を横に傾ける。

 それが分かっていないから、人類はまた繰り返したのかもしれない。ならば、もう繰り返さない為にこれだけは教えなければならない。

 

 

「狩人の狩りは、戦いであってもお互いの尊厳を賭け命を賭け、勝利した者は敗者を糧とする一種の自然の理でした。遠い昔の世界の狩人とはそういう者だったのです」

「それじゃ、りゅうきへいは?」

「……アレは殺戮です。狩りではない。数多の命を己の私利私欲で奪い、そして自然を殺していく。この世界の理から離れた行為」

「難しいね……」

 そうですね。

 

 

 だから、人は間違える。

 

 

「遠い昔、人類はこの世界を敵に回しました。戦争は何も糧を生まず、ただお互いが消耗するだけの愚かな行為です」

 それでも、人類は繰り返した。

 

 

 その結果が目の前にある。本機が見るべき物はこれだったと見せ付けるように。

 

 

「難しいけど、なんだか悲しいお話だね」

「……それだけ分かってくれれば良いのです」

 その気持ちさえ忘れなければ。

 

 

 きっとこの世界は終わらなかった筈なのだから。

 

 

 

 いつ忘れてしまったのか。

 

 

 

 この旅でその答えが見つかるだろうか。

 

 

 

 目の前にあるこの光景は、ある意味で本機の目的を果たす物だった。

 

 それだけは確かである。

 

 

 

「さて、この先はどうしますか? この生物は壁を壊しましたが、この地で朽ちている以上向こう側の壁は健全であり通り抜けられないと推測出来ます」

「それでも、先に進むかな」

「……なぜ?」

 その先に道があるとは限らないのに。

 

 

「何もなかったら戻れば良いんだよ。道がなかったら戻って、また進めば良い。そうやって繰り返していけば、いつかどこかに辿り着くのさ」

 少女はそう言って、朽ちた龍が見据える向こう側の壁へと歩き出した。

 

 

 不思議な考え方をする少女である。

 しかし、成る程、それは間違っていない考えだ。

 

 

 とにかく進んで、ダメだったら戻れば良い。

 

 

 そして人類は繰り返す。

 

 

 その先にある答えを探して。

 

 

 

 三日目の夕暮れ。壁に辿り着き、少女は一つの答えを見付け出した。

 

「いやぁ、やっぱりダメかぁ!」

 壁は健全である。非力な少女や本機では、あの龍のように壁を壊す事など出来ない。

 そこには道はなかった。少女は残念そうに壁を見上げる。

 

 

「この先に何があるのかなぁ」

「気になりますか?」

「あの大きな化物が目指していた何かがあるのかなって」

「アレが目指していたのはきっと……」

「きっと……?」

「……いえ、なんでもありません」

 言うだけ野暮だ。

 

 

「……戻りますか?」

「うん、戻ってやり直す! その前に今日は寝る!!」

「そうですね、日も暮れてきましたし。そこの壁の窪みで───」

 突如、大きな地鳴りがする。

 

 上から何かが降って来た。これは───壁の破片?

 

 

「え、何?」

「地震……?」

 それにしては、揺れは断続的だ。

 まるで巨大な何かが歩いている。そんな地鳴り。

 

 ───何か居る?

 

 

 

「ヴォゥゥゥゥォォァゥゥゥウウウッ!!!」

 ソレは壁の外から聞こえた。

 

 空気を揺らす振動。それだけで石の壁は割れ、破片が落ちてくる。

 本機は少女の手を引いて壁から離れた。何かが居る、それだけは分かる。

 

 

 

「うぇ?! か、壁が!!」

「な……」

 そして突然、壁は崩壊した。

 

 まるで何かに外側から押されたかのように。

 少女から一キロ離れた壁が崩壊し、順に付近の壁も崩れていく。

 

 

 本機は少女を連れて出来るだけ壁から離れた。

 

 幸い崩壊の速度は遅く、瓦礫が飛んでくる事は無かったが───

 

 

 

「うわぉ……」

 ───少女の行方を阻んでいた壁は取り除かれる。

 まるでこの先に進めと言わんばかりに。

 

 

 

「進んでみるものだねぇ」

「……そう……ですね」

 こんな事があるのか。

 

 

 ふと遠く離れた地に視線を移す。

 

 その先に映る巨大な影。その姿はこの地で朽ちた龍と酷似していた。同種の生物なのだろうか。

 

 

 

 この世界は彼等の世界である。

 

 きっと彼等にとって、この巨大な壁は邪魔だったのだ。

 この世界の理である龍がその掃除をしたに過ぎない。簡単な理屈である。

 

 

「……でもなんだか、寂しいね」

「……そうかもしれませんね」

 やはり、人類は終わってしまったのだろうか。

 

 

 この地に人々の痕跡が消える頃、この世界はどうなっているのだろうか。

 

 

 

 その日はただ、その巨大な命の影が消えるまでその姿を見届けていた。




ソレは過去を物語っていた。
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