機械の少女は世界の終わりに何を見る【完結】   作:イヴ

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それはこの世界の理だ。


古龍

 本機ノ製作者ノ記録ヲ再生。

 

 

『この世界は時期に放───染で終───迎えるだろう。人類は───かもしれない。しかし、もし人類──────のなら。最後───類を見───に守って欲しいんだ。その為に───作った』

『人は───繰り返す。きっと、───道を回───としてもだ。───ちを繰り返すものだ。───これは、───けの時が経とうと───ないだろう。きっと、人は何度でも過ちを繰り返す。だが───は───せる』

 

 

 人類、最後、見、守って、その為に、作った。

 

 

 

 なんど再生を繰り返し結果を計算しても、本機の目的は人類の最期を見守る事になる。

 

 

 

 なら、なぜ本機は少女を守るのか。

 

 

 

 なぜ───

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

 少女と邂逅してから五百七十七日目。

 

 

 人類数を減らすのに比例して、自然は豊かになっていく。

 かの時代はそこに何かがあったのかもしれないが、自然がそれを飲み込むに充分な時間が経っていた。

 

 

 

「あれ、何だろうねぇ」

 そんな自然の密林。そこにある巨大な湖の中心に建築物のような物を見つける。

 あんな所に人工物だろうか?

 

「泳いで行ってみようかな?」

「泳げるんですか」

「少しなら!」

 そんな事で死んでもらっては困るのだが。

 

 

 ……困るのか。

 

 

 

「おししょーは泳げないの?」

「沈みます」

 重過ぎて。

 

 

「それに水中に沈むと回路がショートするのを防ぐ為に電源がカットされます。よって、再起動が困難となり───まぁ、簡単に言うと死にます」

「わーぉ」

 陸路があればいいのだが。

 

 

「なのであの遺跡を調べるのは諦め───」

「お、あそこからいけないかな?」

 少女が指差す先には、まるでここから向かってくださいと言わんばかりの砂の盛り上がりが遺跡のある小島に繋がっていた。

 

 

「……水位が上がったら死にますね」

「行ってみる?」

 しかし、人の使った建築物ともなると調べない訳にもいかない。

 目測だがそれなりの高さの建築物があり、この自然に囲まれた密林では異様さを放っている。

 

 

「……行きますか」

 人類の歴史を見るために。

 

 

 

 小島はそれなりの大きさがあるが、モンスターは見当たらない。

 ゆっくりと遺跡を観察すると、出入り口を発見した。

 

 さて、中に何があるのか。

 

 

 

「───これは」

「これ、なんか見た事ある気がするねぇ」

 天井に繋がれたら巨大な身体。龍と見間違うかもしれないが、これは竜であって龍ではない。

 しかし、龍と同等の力を持つ兵器である。

 

 

 ───竜騎兵(イコール・ドラゴン・ウェポン)

 

 その成れの果てだった。

 

 

 

「おししょーは前にこれを見た時、作られた物だって言ってたよね。作られたからには理由があって、その目的を果たすために動くんだって」

「……そうですね」

「これは、目的を果たせたのかな?」

 結論を言ってしまえば、果たせていないのだろう。

 

 

 人間がこれを作ったという事は、明らかに敵対意思を持って竜と戦ったという事だ。

 そしてその結果は見ての通り。想像に容易い。

 

 

 

「……目的は達成されなかったでしょうね」

「そっかぁ……可哀想だなぁ。悔しいかったろうなぁ」

 可哀想、悔しい、ですか。

 

 

 人間はそう思うらしい。

 

 

 

「人類はかの戦争で敗北したのでしょう。これは、その名残ですね」

「目的を果たせなかった……かぁ。……そういえばおししょーの目的は結局見つかったのー?」

「いえ、まだ……」

 人類の終わりを見届ける。

 

 

「そっかぁ……。それじゃ、おししょーはまだ私を守らないとなの?」

「まるで守ってもらわなくても良さげな反応ですね」

「いや、守ってもらわないと困るけど。……それでおししょーの邪魔をしてるなら嫌だなぁって」

「邪魔なんて事は……」

 その為に少女に着いて、人類の痕跡を探して回れど答えは見付からない。

 

 

「おししょーの目的、私も手伝いたいよ」

「なぜ、そうなるのですか?」

 一体本機は何の為に作られたのだろうか?

 

 

「悲しいのも悔しいのも、辛いことだって知ってるからかなぁ?」

「……理解できませんね」

 目的が達成出来なければ悲しいのか、悔しいのか?

 

 

「……あなたは悔しいですか? 半有機物のあなたには、感情という物があるのか」

 作られた命に手を伸ばして問いた。

 

 答えは帰ってこない。当たり前だが。

 

 

「……目的の為に作られた物ならば、その目的を果たすべきだ。……その目的を果たせなかったあなたも、目的を勘違いしているかもしれない本機も───ポンコツですね」

 竜騎兵が揺れる。まるで怒っているかのようだが、そうではない。

 

 

 揺れたのは竜騎兵だけではなく、遺跡全体だった。まるで何かが遺跡にぶつかったかのような衝撃である。

 

 

 

「うぉ?! 何事ぉ?!」

「外に出ましょう。……あなたは本機の後ろに」

 何かが居るのか?

 

 

 そんな思いで遺跡の外に出るが、辺りには何も見当たらない。

 強いていうなら雨が降っているだけだ。

 

 いや、木々が何本かなぎ倒されている。何かが居たことは伺えた。

 

 

 

「何があったんだろ───おぉ……」

「ナ……ニ……」

 ふと歩いて来た道を見てみると、雨によって水かさが増したのか道が無くなっている。

 これはマズイ。

 

 

「……とりあえず遺跡に戻りましょう。雨が止んで少しすれば道も元に戻る筈です」

「うーん、困っちゃったねぇ。とりあえず戻ろ───うぉぉ?!」

「はぁ???」

 目の前で突然遺跡が崩れた。

 

 

 何の前触れもなく、入り口が潰れて中に入れなくなる。

 全体的に崩れたという訳ではないが、崩壊の可能性を感じて本機は少女を下がらせた。

 

 

 出るのが遅ければ中に閉じ込められていた事になる。間一髪か。

 

 

 しかし、遺跡は突然崩れる程老朽化していたとは思えない。どういう事だ?

 

 

 

「何か居る……?」

 しかし視界には何も映らない。サーモグラフィーも雨で機能せず、それ以外の感覚器官ではこの場に何が居ても見つける事は出来ない。

 

 

「どうしようね、おし───うわっ?!」

 突然少女の身体が浮かび上がる。まるで見えない何かに捕まったかのように、彼女は宙に浮かんだ。

 

「何これ気持ち悪いぃ?! って───うぐぐ、苦しい」

 首を抑えながらもがく少女に近付き剣を抜く。

 

 そこに何かいるのなら、叩き伏せれば少女を助けられる筈だ。

 

 

 

 ───何故助ける?

 

 

 いつも通り、その疑問より前に身体が動く。

 

 

「そのアホを離しなさい……っ!」

 剣を振るうと同時に、少女が飛んで来た。

 急いで動きを止めるとぶつかって来た少女と共に本機は地面を転がる。

 

 何が……。

 

 

 

「いたたぁ……おししょー身体固すぎ。あと重い、死ぬ」

「失礼」

 少女に乗っていた体を起こして、本機は辺りを見回した。

 

 

 何も居ない。

 

 

 そう思った矢先、視界を薄紫が覆い尽くす。

 

 

 

「───は?」

「うぉぉ?!」

 ティガレックスをも凌ぐ巨体。四肢に翼を持った身体はまさしく龍であった。

 大きな眼球を持つその姿は、大昔の生き物──カメレオン──と類似しているがカメレオンはこうも巨大ではないし翼も持っていない。

 

 

 前脚を振っているのが見えて咄嗟に盾を構える。

 足を踏ん張ってその前脚をとめると、盾を持っていた腕はひん曲がって挙句肩関節部の耐久値を上回り───文字通り外れて湖に落ちた。

 

 

「……オウノウ」

「お、おししょー?!」

 これは……勝てませんね。

 

 

 ティガレックスの時なんかよりも絶望的で、本機がこれ以上無事に旅を続ける事は不可能だと結論が出る。

 

 

 

 目の前の生き物はそれ程にも強大な存在で、人間が何を作ろうがこの生き物達に勝てる訳が無いと簡単に判断出来た。

 

 

 

「……なるほど、龍か」

 いくら科学を突き詰めた結晶でも、竜を継ぎ合わせた兵器でも、この存在には太刀打ち出来ない。

 だから人類は滅びたのだろう。最期を見るまでもない、結論を出すまでもない、彼等(この世界の理)に逆らった時点で人類の終わりは確定している。

 

 

 

 ──『この世界は時期に放───染で終───迎えるだろう。人類は───かもしれない。しかし、もし人類──────のなら。最後───類を見───に守って欲しいんだ。その為に───作った』──

 

 

 なのに何故、本機はまだ少女を守ろうと剣を握るのか。

 

 

 泣き付いて「逃げよう」と叫ぶ少女の前に立っているのか。

 

 

 

 ──『この世界は時期に放───染で終わりを迎えるだろう。人類は───かもしれない。しかし、もし人類が生き───のなら。最後まで人類を見───に守って欲しいんだ。その為にお前を作った』──

 断片データノ修復ヲ開始。

 

 

 最後マデ、人類ヲ……?

 

 

 

 ──『この世界は時期に放───染で終わりを迎えるだろう。人類は滅びるかもしれない。しかし、もし人類が生き───のなら。最後まで人類を見捨てずに守って欲しいんだ。その為にお前を作った』──

 

 

 アァ……ソウイウ事カ。

 

 

 

「……やっと、本機の目的が修復されました」

「───ぇ? お、おししょー、今はそんな事言ってる場合じゃないよ?!」

 最後まで、人類を、見捨てずに、守って、欲しい。

 

 

 

 それが、製作者が本機に託した願いだった。

 

 

 

 成る程、本当に勘違いしていた訳か。

 

 

 

 全く───ポンコツにも程がある。

 

 

 

 今更、遅い。

 

 

 

 その願いは叶わない。

 

 

 

 人類はもう来る所まで来ている。

 

 

 

 人工物は自然に飲まれ、人は龍の怒りを買い、瞬く間に数を減らしている。

 

 

 

 もう人類は終わりなのだ。その願いを、目的を果たす事は出来ない。

 

 

 

 悲しいか?

 

 

 悔しいか?

 

 

 

 そんな感情は持ち合わせてはいない。

 

 

 

 ただ───

 

 

 

「ぇ、おししょ───?!」

「泳いで逃げなさい。……本機は、あなたの未来に目的を託します」

 彼女を湖に突き飛ばしてそう伝えた。見たか、ポンコツでもここまでのパワーがある本機の力を。本機偉い。本機超優秀。

 

 

 

「本機はただ、目的を果たす為に行動するロボットです。悲しい? 悔しい? そんな物はない。これがもし造られた物語なら、本機に感情が芽生えて涙を流して感動を誘えるお話に出来たかもしれせんが、残念ながらそれは出来ません。ポンコツなので」

 目の前の龍に語り掛ける。

 

 理解は出来ないだろう、正直本機も理解が出来ない。

 

 

 

 目的の為に作られた物は、その目的を果たせなくなった場合最早不要な物体だ。

 

 

 

 ならばこのポンコツの身体を、せめて目的を託す為に使うだけ。

 それが本機が出来る唯一の事である。

 

 

 

 

「さぁ、人類の科学の英知の結晶が相手をしましょう」

 ただ───

 

 

「あわよくば、再び起動出来ることを」

 ───ただ、願いに似た何かを感じてはいた。

 

 

 

 重大ナ損傷ヲ確認。

 

 

 回路ノ漏電ヲ防グ為、全システムヲ強制シャットダウンシマス。

 

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

 システムヲ再起動。

 

 

 システム同期。異常ナシ。

 

 

 太陽光発電ニヨルバッテリーノ充電完了。並ビニ接続。異常ナシ。

 

 

 インターネット接続。……完了。

 

 

 重大ナ損傷ヲ確認。

 

 

 時代測定、衛星機器ノ老朽化ニヨリ困難

 

 

 時間設定、午後三時四十二分十三秒。

 

 

 言語設定。

 

 

 システムソフトウェア更新完了。

 

 

「おししょーーー!! 起きてーーー!!!」

 前回ノシャットダウンカラノ期間ヲ測定。……三ヶ月十日十三時間五分五十六秒。

 

 

「───は?」

「起きたぁぁ?!」

 ───なぜ、再起動している。

 

 

 

「……何が」

「良かったぁ、本当はダメかと思ってたけどやって見るものだね! おししょー、人間じゃなさそうだし、もしかしたらって思ったんだよねぇ」

 ───理解が出来ない。

 

 

 

 ───何が起きた?

 

 

 

「状況説明を……。なぜ本機は再起動出来ているのか。アレから三ヶ月経ったようですが」

「頑張って、湖から引き上げてみました。おししょー見掛けによらず、でぶ? だから大変だったよ」

「誰がデブだ」

 そんな汚い言葉を教えたのは誰だ。あ、本機だ。確かゲリョスを見た時にデブ鳥とか言った。

 

 

「……一体なんの目的があって態々そのデブ(・・)を引き上げたんですか? 理解に苦しみます。三ヶ月という時間も要する理由があったのですか?」

「目的かぁ……私はおししょーみたいに目的があって誰かに作られた訳じゃないからなぁ」

「では何故?」

 理解出来ない。

 

 いや、出来なくて当たり前なのだが。

 

 

 

 ───ただ、願いに似た何かを感じてはいた。

 

 

 

 製作者の願い。人類に対する、本機の製作者の思いを感じているのか。

 

 

 

「自分がしたかったから、だよ。目的っていうか、その先の? 願い、かな。おししょーを助けて、また旅に出たかった。おししょーを助けるって目的は、その願いを叶える為に立てただけだし」

 目的の先にあるもの……か。

 

 

「よーし、おししょーも助けたしまた旅を続けよー! あ、そうそう。腕も拾っておいたんだけど、直せるのかな? なんかおししょーなら直せそう」

「治せます……が、少し力を貸して下さい」

「おっけー!」

 それが願いだというのなら。

 

 

 

 本機が少女に託したように。

 

 

 

 製作者が本機に託した願いは、本機の中にもあるのだろうか?

 

 

 

「ねぇ、おししょー」

「なんでしょうか?」

「目的は見付かった?」

「そうですね。見付かりました。……その先も」

 

 

 

 ならば、その願いを叶える為に。

 

 

 

 目的を果たさなければならない。

 

 

 

 

 本機はその為に作られたのだから。

 

 

 

 

 

 

 その目的の先にある物を掴む為に。




きっと、それは願いに似た何かだった。
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