機械の少女は世界の終わりに何を見る【完結】   作:イヴ

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そこには人類が居た。


人間

 ──『この世界は時期に放───染で終わりを迎えるだろう。人類は滅びるかもしれない。しかし、もし人類が生き───のなら。最後まで人類を見捨てずに守って欲しいんだ。その為にお前を作った』──

 

 

 最後まで、人類を、見捨てずに、守って、欲しい。

 

 

 

 それが、本機が作られた目的だった。

 

 

 

 その先の願いを叶える為に、本機は少女と歩く。

 

 

 

 そこに何があるのか。

 

 

 

 人類の未来は───

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

 少女と邂逅してから千六百七十日目。

 

 

 人間の感覚ではそれなりの時間が経過しているが、少女の身形はあまり変わっていない。

 竜人族の生は人の何倍もあり、成長も遅いので老化もまだ見られない。

 

「今日は木の実を探そーう! お腹減った!」

 ちなみに中身も変わっていない。

 

 

「この四日間絶食ですからね。……そろそろ何か見付けなくては」

「本当だよ……。これは死ぬ、このままでは死ぬ。今日こそ食べるんだ。あー、空気が美味しい」

「無駄口を叩いてる暇があったら動きますよ。……本機も探索に助力するので」

 むしろ変わったのは本機なのではないだろうか?

 

 

 本機は作製された目的を再確認し、人の生死に深く関わるべきではないという認識を改めた。

 今もこうして少女が生きる道へと進む手助けをしている。少女自体は人間ではないのだが。

 

 

 本機の目的そのものは人間の未来を守る事であるが、少女を守る事でその未来が人間を救う事にもなる筈だ。

 そもそも人間がこの世界にどれだけ残っているか分からないが。

 

 

 

「うお?! 今何か動いた! 肉!」

「……落ち着いてください。モンスターだったらどうするんですか」

 この四日間動物すら発見出来なかったのでこの付近にはもう何も残されていないのかとも思っていたが、どうやら生き物くらいは居たらしい。

 それがモンスターだろうが小動物だろうが、その日の糧となりえるなら狩猟するのが妥当である。

 

 

 さて、鬼が出るか蛇が出るか。

 

 

 

 

「大型なら逃げますので、ゆっくりと静かについて来て下さい」

「おししょーの剣で倒せないの?」

「本機の出力上の問題でこの剣での戦闘を一定以上の硬度を持つ生物と行うと、本機の腕がもげます」

「何言ってるか分からないけど、また直すのは大変だなぁ」

 数年前の竜や龍との戦いで分かったのは、本機の耐久性ではこの武器を扱いモンスターと戦うのは難しいという事だ。

 

 

 過去には十万馬力で動作しても自壊しない強靭なロボットも存在していたという。なぜ本機はこんなにポンコツなのか。

 

 

 それはともかく、本機が戦闘するなら何か巨大な剣を振り下ろしたりしていた方が効率的である。

 加工技術そのものどころか人間が居ないのでどうしようもないが。

 

 

 

「なので、小型の場合のみ食用にします」

「うーん足跡はそこそこの音だったけど。……多分私と同じくらいじゃないかな?」

 そうなると鳥竜種の可能性が高い。肉食ですが、生存が賭かっているので仕方がありません。

 

 

「狩りましょう」

「おー! レッツハンティング!」

 少女も木の棒で作った槍を持って構えた。

 何度か再製作しているうちに見栄えも良くなって来ている。……未だに棒切れのようなものだが。

 

 

 足音を追って、森の奥へ。

 左右に分かれて挟み撃ちする事にした。

 

 さて、獲物は何か。

 

 

 少女の合図で本機も茂みから飛び出す。

 

 

 

 

「うぉぉおおお?! 待て待って!! 俺の言葉分かる?! まずは話し合おうぜ!! なぁ?!」

 しかし、先に飛び出した少女とは別の声が森に広がった。

 人語で話している? ───まさか人間?

 

 急いで茂みの向こうに走り、待っていた光景は───

 

 

 

「……ご飯」

「やめてぇぇえええ?!」

 ───竜人族の男性によだれを垂らしながら槍を向ける少女の姿だった。

 

「やめい」

「ぐはっ」

 とりあえず少女を蹴飛ばす。せっかく久し振りに会えた知的生命体を食べようとしないで欲しい。

 

 人間ではなく竜人族だった訳ですが。

 

 

 

 

「……ご無事ですか?」

「あ、あはは……お陰様で助かった。ありがとう」

 まだ若い竜人族。しかし少女もそうだが、竜人族は見た目から年齢を判断するのが難しい。

 青年と言ったところだろうか? 竜人族の彼は立ち上がって頭を掻きながら頭を下げた。

 

 

「いえ、うちのバカがご迷惑をお掛けして申し訳ありません」

「ばかとはなんだー! なんだー?」

 バカをご存知でない。

 

 

「頭の中が空っぽという事ですよ」

「なるほどー?」

 意味を理解出来てない。

 

 

「ははは……。と、とにかく飯にされなくて良かった」

「いやー、まさか人だとは思ってなかったなー。久し振りに見た気がするよ。何日振りかな?」

「千三百十日振りですね」

 あの遺跡で出会った彼以降、生きている知的生命体に出会ったのはこれが初めてである。

 

 

 雪山の村にもう少し早く着いていれば、人間に会えたかもしれなかったが。

 

 

 

「それじゃあ……君達は二人で旅でもしてるのか?」

「そうなりますね。人間を探して旅をしています。……今探しているのは食料ですが。あなたは一人旅ですか? かなり軽装に見えますが」

 少女が同族を見ながら涎を垂らし始めたので、そろそろ死活問題だ。

 本機もそろそろ狙われかねない。

 

 

「人間と食料を探してか……。俺は旅をしてる訳じゃないぜ。この近くにある村に住んでるんだ」

「村……」

「おー、村があるの?!」

 人が住む村を確認するのは初めてになるかもしれない。そこに人間はいるのだろうか?

 

 

「おぅ、そうだよ。何かの縁だし、村に招待しようか? 村の人達も喜ぶと思う」

「食料も出る?!」

「勿論だ」

 なんと都合の良い展開か。これが三流小説なら少女が囚われの身になって生贄に捧げられる所なので、本機は注意しながら彼に着いていく事にする。

 

 鬼が出たのか仏が出たのか……。

 

 

 

 

 

「うぉぉぉおおお?! 人だぁ?!」

 辿り着いたのは、家が四軒だけ立っている村と呼ぶには質素な場所だった。

 

 しかし家の外には数人の竜人と人間が談笑する姿が見える。

 そう、人間が居たのだ。しかも何人も、むしろ竜人よりも多い人数が視界に映る。

 

 

 

「おししょー、人間さんだよ人間さん!!」

「まだこんなにも……残っていたのですね」

 記録に残る人間と全く変わらない姿。もう本当にこの世界には殆ど残っていない可能性の方が高いと推測していただけに、この誤算は本機にとって幸いだった。

 

 

「おししょー、嬉しそう」

「……そういう感情はありませんが。……ただ───」

「ただ?」

「───製作者の願いを聞き入れる事が出来そうで、なによりです」

 本機の目的を果たす事が出来るかもしれない。

 

 

 

 死滅していないのなら、まだ人類は繰り返す事が出来る。

 

 

 

「良かったね、おししょー」

「……はい」

 きっと、その筈だ。

 

 

 

 

「村を案内するぜ。おーい、皆! 珍しく旅人を見付けたんだ!」

 青年の言葉に村人達が本機と少女に手を振ってくれる。

 かなり有効的な村らしい。

 

 

 そして村の住人達は、本機と少女を暖かく迎え入れてくれた。

 少女に食料を分け与え、寝所まで与えてくれた村人達には感謝してもしきれないだろう。

 

 

 

「ご飯が取れない……?」

「あぁ。最近この辺りに赤くてデカい空飛ぶ化け物が現れるようになってな。……そのせいか草食性の生き物が姿を隠しちまって、果実で飢えを凌ぐには少し足りない状態だ」

 赤くてデカい空飛ぶ化け物……。

 

 

 既視感があるが、本機はそれを言葉にしなかった。何だろうと頭を傾けるが、答えが出ない。

 

 

「え、それなのにご飯もらっちゃって良かったの……?」

「困った時はお互い様だろ。気にすんな」

「えへへ、優しいねぇ。ありがとう! 必ずお礼をするよ! ……おししょーが!」

 本機に振るな小娘。本機は何も貰ってない。食べなくても良いから。

 

 

「お、おう。……それで、これは提案なんだが。この村で暮らさないか?」

「え……?」

 青年の突然の提案に少女は驚いた表情で固まる。

 私と彼を何度か見比べてから、少女は「どういう事?」と青年に聞き返した。

 

 

「二人が旅をしてる理由は……確か、人間を救う? だったか。俺は違うがこの村にも人間はいる。彼らを救う為と思ってこの村に残って欲しいんだ」

「その理屈を理解は出来ますが、理由が分かりません。この小娘や本機が村に残る事で村が得られるメリットがあるとも推測出来ない」

「ご飯もらっちゃう事になるしねぇ……」

 本機の目的としては全くそれで問題ない筈である。

 

 

 この村に住む人々の未来を守れば、人はまた繁栄出来るかもしれないのだ。

 

 

 

 だが、本機がこの村に残る事で村人達に何が出来るのだろうか?

 ただ少女が少ない食料を食い漁るだけである。それでは本末転倒だ。

 

 

 

 

 

「この村は皆で色んな仕事をしながら過ごしてるんだ。果実を拾ってきたり、洗濯をしたり、畑を育てたり。……それで、俺の仕事は獣を飼って肉を得る事」

 そう言いながら青年は太い木の枝を削って作ったと思われる棍棒のような物と、ナイフを取り出す。

 この棍棒で殴り殺して肉を得ているらしい。蛮族だ。蛮族が居る。

 

 

 

「しかし、件の化け物のせいで獣の狩猟が困難になった」

「……そうだ。俺が不出来なせいで村の皆が困ってる。二人は旅をしてて、あの化け物達の事もよく知ってるんじゃないか? 自然の生き物の事とかも!」

「だから、力が貸して欲しい?」

「……そういう事だ」

 成る程、大体の目的は理解出来た。

 

 

「つまりその化け物を……」

 ただ、この村を救う方法は一つである。

 

 

「……狩る。じゃないと、俺はこの村に居る意味がない」

 それは古来人が、狩人が行なっていた事。

 

 

 

 この世界は元々そういう世界だった。

 

 

 

 それを繰り返し、人は過ちを犯して何度も滅びかけている。

 

 

 

 

 また、繰り返すのだろうか?

 

 

 

 人は───

 

 

 

 

「……ダメか?」

「私は嫌だとは言えないけど、おししょーは違うよね?」

「あなたは賛成なのですか?」

「ご飯食べちゃったし、考えるのは苦手だからなぁ……。おししょーに任せたい」

 無責任な。

 

 

「……一晩だけ時間を下さい。食料と寝所を提供して貰った上で失礼を承知ですが、問題が問題だけにどう処理すればいいのか」

「勿論だ。それに、こういう言い方は卑怯かもしれないが強制するつもりはない。俺は一人でもやる気だから」

 そう言って青年は立ち上がった。部屋を出て行く青年の表情はいつか見た狩人のそれに非常に似ている。

 

 

 

 彼は本気で竜を狩る気なのだ。

 

 

 

 そんな事が現在の人々に可能なのだろうか?

 

 

 

 木の棍棒を振り回しているような小さな人間に、何が出来る。

 かの時代はもっと鋭い剣を持ち、硬い鎧を身に纏って狩猟に赴いた。

 

 

 今の我々が戦った所で勝てる見込みは少ない。

 

 

 それにもし、遠い未来にまたモンスターを狩猟する世界が構築されたなら───人はまた繰り返すのではないだろうか?

 

 

 

 それこそ本当に自然の怒りを買い、滅ぶような過ちを。

 

 

 

 

「おししょー、お悩み?」

「……一つ、問いてもよろしいでしょうか?」

「勿論」

 なんやかんやで、この少女の言葉に本機は導かれていた節がある。

 

 ならば、少女の言葉を聞こうではないか。

 これがこの旅のゴールになる事自体にはなんの問題もない。

 

 

 問題はその先なのだ。この先の未来なのだ。

 

 

 

 

「人は、過ちを繰り返してきました」

「おししょーはそう言ってたね」

「人は過ちを繰り返し、その度に滅びの直前までを自らの足で歩いて。それでもなんとか生き延びて、今また滅ぼうとしている」

 記録上最初の滅亡から何年経っただろうか?

 

 

 計算するだけ無駄な時間が経ってはいるが、その間に何度も人は滅びかけている。

 

 

 

 その殆どが自らの過ちで。

 

 

 

 何度も何度も繰り返し、この世界の理に抗えずに滅びて来たのだ。

 

 

 

 

 そしてまた繰り返すのか?

 

 

 

「人類は昔、あの化け物と戦っていたのです」

「え、そうなんだ。凄いねぇ……。勝てたの?」

「はい。勝てました。化け物から得た素材をつなぎ合わせ、兵器を作る事もありました。……しかし、それは自然の理に反する事で、人は自然の怒りを買って滅びかけています」

「それが過ち……」

 そう。人は形は違えど同じような過ちを何度も繰り返した。

 

 

 

 この自然を敵に回すという、最大の過ちを。

 

 

 

 かつて人類がこの星の外まで進出していた時代。人類は己の科学の決勝で、己の住む世界を───自然を吹き飛ばして滅びの道を歩み始めた。

 

 

 世界の理は変わり、人類はその後以前程の繁栄を見せた事は二度となくなった。

 

 

 

 しかしそれでも、人類は同じ過ちを繰り返す。

 

 

 

 何度も自然から離れ、文明は滅びた。

 

 

 

 今この村を救う為にも件のモンスターを狩猟したとして、それはまた滅びの道への一歩を踏み出すだけなのではないだろうか?

 

 

 

 それでは、人類を救う事は出来ない。

 

 

 

「……それでも、人は何度も繰り返したんだよね?」

「……そうですね。だからこれは繰り返すべきではないと判断し───」

「そうじゃなくて、人は何度も繰り返せたんだよね?」

「……というと?」

 少女が何を言っているのか、理解が出来ない。

 どういう意味でそう言うのだろう? 偶に少女は突拍子も無く不思議な意見を語るのだ。

 

 ただ、その言葉にいつも導かれている。

 

 

 

「人は過ちを繰り返しても、またやり直せるんだよ。……過ちも、正しい事も、どちらも繰り返すからまだこの世界に人は居る。そうじゃない?」

「正しい事も……繰り返せる?」

「うん。確かに人は繰り返すばかりなのかもしれない。でもそれが全部過ちじゃない筈。間違っても、正しい事だって繰り返していける。いつか間違えずに正しい事だけを繰り返せるようになったら、それが人の理想の未来なんじゃないかな? その為にはきっと……繰り返さないといけないんだよ」

 それが本機の製作者が望んだ未来なのだろうか?

 

 

 いや、きっとそうなのだろう。

 

 

 なぜだか、そう感じるのだ。

 

 

 

「何が正しい事で、何が間違った事なのか分からないけど。……私達はただ繰り返すしかない。……人っていうのは、そういう生き物なんじゃないかなぁ?」

「……そうなのかもしれませんね」

「あはは、なんだか変な事言ってるかな?」

「いえ、そんな事は無いですよ」

 繰り返すしかないのなら、繰り返すだけだ。

 

 

 

 本機にはそれだけの時間がある。

 

 

 

 そして、目的がある。願いがある。

 

 

 

 ならば、何度でも繰り返すだけだ。

 

 

 

 

「件の化け物の討伐、引き受けましょう」

「おー、やる気だね」

「ただ、とても危険な狩猟になります。前準備は念入りにすませます。手伝って貰いますので、覚悟を」

「任せなさーい!」

 

 

 

 

 

 

 かつての時代───荒々しくも眩しかった時代。

 

 

 大地が、空が、そして何よりもそこに住まう人々が、最も生きる力に満ち溢れていた時代が記録上に存在する。

 

 世界は、今よりもはるかに単純にできていた。狩るか、狩られるか。そんな単純な世界だ。

 

 

 明日の糧をえるため、己の力量を試すため。

 またあるいは富と名声を手にするため。

 

 彼らの一様に熱っぽい、そしていくばくかの憧憬を孕んだ視線の先にあるのは。

 

 決して手の届かぬ紺碧の空を自由に駆け巡る、力と生命の象徴───飛竜達。

 

 鋼鉄の剣の擦れる音、大砲に篭められた火薬のにおいに包まれながら、彼らはいつものように命を賭した戦いの場へと赴く。

 

 

 

 そんな世界がかつて存在した。

 

 

 

 人々はかの数世紀を荒々しくも眩しかった時代と記録している。

 

 

 

 

 そして、人類は繰り返すのだ。

 

 

 

 

 モンスターハンターの世界。

 

 

 

 この自然の理が出来てから、何度でも───

 

 

 

 

「……それでは、一狩り行きますか」

 ───何度でも繰り返すのだ。




人はきっと、何度でも繰り返す事ができる。
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