【完結】アーロン帝国建国記(仮)   作:あきすて

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2話

 

「いくら出た? 同胞よ」

 

「2500万と、ちょいってとこだな」

 

「上出来っ。シャーハッハッハッ……!」

 

 アーロン一味が手分けして、ココヤシ村の住人から巻き上げた金を袋に詰め込んでいく。

 アーロンはそれを見て満足げに笑っているが、2500万位ならグランドラインでそこいらの海賊を蹴散らせば、容易く稼げる金額なんだよな。

 尤も、この島の村はここだけでは無いようだし、安定した稼ぎとして考えれば、海賊を狩るよりも良いと判断するのも理解できる。

 

 まぁ、どちらにしても、俺は俺の目的の為にアーロンが帝国を作ると言うのなら、その野望に乗っかるだけだ。

 

「アーロンさん、村の外れからケ・ム・リ・DA」

 

「行くぞ! 取り立てだ」

 

 引き上げようとしていたところで、一味の一人が村の外れから立ち上る煙を見つけ、アーロン一味が連れ立って移動を始めた。

 俺はその最後尾を歩きながら考える。

 

 人間相手の荒事は面倒だし、腹も減ったし、一足先にアジト(予定地)に行ったらダメだろうか?

 

 

 村外れにある一軒家。

 煙突から炊事の湯気が上がり、辺りに旨そうな匂いが漂っているのが空きっ腹に堪える。

 

ーーコン、コン

 

 アーロンがノックをしてから玄関の扉を開けて足を踏み入れると、間を置かずに銃を持った女と絡み合うように飛び出てきた。

 

「グランドラインの海賊が何の用?」

 

 アーロンの口の中に銃口を突きつけた女が勇ましく睨みを利かせている。

 問答無用で引き金を弾けば、あるいはアーロンを殺せたかも知れないのに随分と甘いことだ。

 

「無力、無力! 下等な種族が、なんと無力な事よ」

 

 いわんこっちゃない。

 アーロンが銃口を噛み砕き、女海兵を弾き飛ばすと一瞬で形勢が逆転する。

 倒れた女海兵の腕を踏みつけるアーロン。

 ここからの再逆転は無理だろう。

 

「ベルメぇール!! つまらん正義感で命を無駄にするな! 金で解決出来る問題もある!」

 

 帽子に風車を刺した駐在がやって来て、女海兵を諭し始める。

 それを御丁寧に聞いてやるアーロン。

 粗野で乱暴に見えても話が分かる奴……アーロンのことはこう評して良いだろう。

 まぁ、元々が理不尽すぎる要求からのスタートの上に、アーロンが意見を変える事は滅多にないので話すこと自体が相手の不幸だったりする。

 

 アーロンと元女海兵ベルメール、風車の駐在を加えて3人での問答が始まった。

 金さえ払えば見逃す、とアーロン。

 10万有る、これで村人全員無事だ、と風車の駐在。

 金は払う。

 但し子供達の分だとベルメールが拒絶。

 

 意味が判らない。

 何故ベルメールはバレていないハズの子供達の存在を自ら明かし、自身の命を危険に晒すのだろう?

 

 そうこうしている内に、遅れてやって来た村人達と魚人達が交戦状態に入る。

 交戦状態と言っても、手にした道具をがむしゃらに振り回す村人を、魚人達が軽くあしらっているだけだ。

 この島への上陸前に、可能な限り殺すなとアーロンから言われているし、傍観していても問題ない。

 

「ベルメールさん!」

 

 どさくさ紛れに二人の子供が女海兵に抱き付いた。

 多分オレンジ色の髪をしたのがナミだろう。

 見た感じ俺と同い年位だから、主人公のルフィがやってくるのは大体10年後辺りかと思うが自信はない。

 ザックリした展開は判っても、何年前とか何年後などの細かな数字や、登場人物がどこどこ出身とかは記憶にないんだよな。 

 シャーリーの予言も有ることだし、何か手を打っておいた方が良さそうだけど、今はこの場がどう収まるか見届けよう。

 

 この顛末次第で、漫画の信憑性が推し量れるし、俺の行動は傍観のままで決まりだ。

 

「テメェの娘達だな?」

 

「そうよ」

 

 アーロンがベルメールに銃をつき付ける。

 ベルメールは覚悟を決めた様で、咥えたタバコに火を点けて腕を組み悠然としている。

 

 記憶にある漫画の内容が正しいなら、これは避けるコトが出来ない運命ってやつなんだろう。

 ここでベルメールが死んでもナミ達が立派に育つのは漫画が証明しているし、どっちにしろ俺にアーロンを止める事は出来ないし、別に俺が招いた結果でもないし、かわいそうだが漫画通りに死んでもらうしかない。

 

「フンッ……くだらねぇ愛に死ね」

 

「ノジコ! ナミ! …………大好き」

 

 って…………馬鹿か俺は。

 俺の脳内にしかない与太話を信じて、子供の前で親を殺させるのか?

 

 あり得ないっ!!

 

「止メロっ! アーロン!!」

 

 実に四年ぶりに声が出た。

 思った以上の大声に、暴れる魚人と村人達の動きが止まり、怪我のせいか何人かその場で倒れ、残った人達の視線がこちらに注がれた。 

 衆目の中カタコトで話すのは恥ずかしいが、言ってる場合でも無いだろう。

 

「おれに指図するのはどいつだ!?」

 

「俺ダ」

 

 魚人達の間を割って出て進んだ俺は、アーロンと向かい合う。

 

 って、なにやってんだ、俺?

 傍観するって決めていたのに、ちょっとのことですぐに態度を変える俺は、どこまでも中途半端ってことか。

 

「てめぇか、シュヴァ。話せるようになったのはめでてぇことだが、おれに意見するたぁどういう了見だ? エェっ!?」

 

 アーロンが殺気を込めた眼で俺を睨む。

 正直、怖い。

 だが、こうなった以上ビビるな。

 アーロンは同胞と認める俺を無闇矢鱈に攻撃しない…………ハズだ。

 

「殺ス必要ハなイ」

 

 震えそうになるのを抑えて言葉を紡ぐ。

 力で止められないなら、話して分かってもらうしかない。

 

 考えろ。

 屁理屈でも構わない。

 アーロンは話せば分かってくれる奴なんだ。

 アーロンがベルメールの殺害を思い止まるだけの理由を考えるんだ。

 

「オレだって殺したかぁねぇさ。コイツらは大事な金づるさ! だがなぁ! 金を払えねぇなら話は別だ。おれの支配下では金のねぇ奴は死ぬんだよ!」

 

 そうだ。

 金が無いから殺すんだ。

 逆に言えば、金さえ有れば殺さない。

 

「金ナら有ル」

 

 リュックから無造作に札束を取り出した俺は、ベルメールの目の前に札束を投げ落としてやる。

 

「何の真似だぁ、シュヴァ! 金をくれてやって払わせようってんじゃねぇだろうなぁ!?」

 

 益々アーロンの殺気が強くなる。

 ヤバイ。

 切れた時の目をしている。

 

「分カってル。ダカら女、ソこノ子供はオマエのダな?」

 

 怒れるアーロンを一先ず無視した俺は、再び寄って来ていた子供達を抱えるベルメールに問い掛けた。

 

「そうよっ。私の大切な娘達よ!」

 

「ソの金デ、ソッちノ…………紫の髪ヲ買っテやル。ソの金ヲアーロンに払エ」

 

 ベルメールに抱きつく二人の子供を見比べた俺は、少し悩んで紫髪の方を指名する。

 方便で買ったとしても、ナミが大人しく従うとは思えないからな。

 

「「「なっ!??」」」

 

「シャーハッハッハッ。こりゃぁ良い」

 

「貴様ぁっ! 何を見ていた! ベルメールは娘達の為に命をも捨てようとしていたのだぞ! それをっ……命惜しさに娘を売れと言うのか!?」

 

 村人達が一斉に驚き、アーロンは笑い、風車の駐在が血管が切れそうな勢いで激高している。

 

「ダかラ良いンダロ? 子供ガ反抗すレバ女海兵ヲ殺ス。女海兵ガ反抗すレバ子供ヲ殺ス。そレガ見エナい鎖ニナッて反抗ヲ防ぐ枷にナルかラナ」

 

 物理的に縛る手段はないけど、奴隷です。

 こんな理屈でアーロンが納得する訳がない。

 これは見えない鎖という建前があるからこそ、ベルメールとナミ達の絆が強いからこそ通用する屁理屈なんだ。

 

「な、なんだこの子供……悪魔か?」

 

 あれ?

 なんだ、この空気?

 爆笑するアーロンの殺気が収まった代わりに、村人達が怨嗟と怯えの籠もった目を俺に向けている。

 

「ベルメールさんっ、あたしを売って! それでベルメールさんとナミが助かるなら……あたしはどうなっても良いよ!」

 

 紫髪の少女、ノジコが悲壮な決意を語っているが、ちょっと待ってほしい。

 別にどうこうする気はない。

 強いて言うなら生き残ったベルメールがどんな行動に出るか判らないから、その行動を防ぐ人質の役割として傍に置くくらいか。

 

「この悪魔!」

 

 瞳に大粒の涙を溜めたナミが罵ってくる。

 交じりっけ無しの純粋な憎悪は結構堪える。

 

 おかしい。

 俺は死ぬはずの運命だったベルメールを助けようとしているのに、どうなっている? 

 ベルメールはベルメールで決断出来ずにいるようだし、なにやってんだ?

 親を殺されて平気な子供なんかいるわけないのに、何故生き残れる道を選ばない?

 

 とにかくこの場をサッサと収めて撤収しないと、俺の精神力がガリガリと削られる。

 

「煩イ。決メルのハ女海兵、お前ダ。自己満足の為二死んデ娘達ヲ悲シマせルカ、生きテ娘達と話せル機会ヲ得るカ、ダ」

 

「人の弱みにつけ込みよってっ……それならワシがベルメールに貸してやるわいっ」

 

 今度はドクター風の人物がしゃしゃり出てきた。

 なるほど。

 それが通るなら万事解決だが…………俺はアーロンに顔を向けて裁定を待った。

 

「そいつは聞けねぇなぁ。貸し借りは認めねぇ。今10万ポッチの金を用意出来ねぇ奴はこれからも用意出来ねぇ。そうなった時、お前等は金を貸し続けてやるのか? あァン!? 俺の支配下では金のねぇ奴、稼げねぇ奴は…………死ねっ」

 

 笑って見ていたアーロンが貸し借りを禁じる。

 これでベルメールが生き延びる道は、ノジコを売るしかなくなった。

 誰もがそう思い、固唾を飲んでベルメールの次の言葉を待っていた。

 

 そんな時だ。

 

「アーロンさん、この家海図があるョ」

 

 緊迫した空気を読まない男、ハチ。

 乱闘を適当に切り上げて動き回ったあげく、ベルメール宅から海図を発見したようだ。

 良いもの見つけた! とばかりに誇らしげに海図を掲げているが自由過ぎるだろ。

 

「ほぅ……こりゃ見事なもんだ」

 

「返してよっ」

 

 ハチから海図を受け取ったアーロンは、一目でその海図の出来の良さに気付いたようだ。

 

「女海兵、一先ずテメエの処刑は待ってやる。同胞達よ、撤収だ! 連れてこい」

 

「うぃーっす」

 

 何か思い付いた風なアーロンが口角を上げて撤収を告げる。

 ハチが首根っこを掴んでナミを持ち上げると、魚人達も撤収を開始した。

 

「待てぇい! その子の分の金は受け取ったハズだ。ナミを返せ!」

 

 風車の駐在が行く手を阻む。

 その理屈ならベルメールの金は受け取っていない事になるから、今すぐ殺しても構わないことになるぞ。

 いや、殺して構わないとか、これもう訳わかんねぇな。

 

「クドいぜ」

 

「ぐわっ……」

 

 剣を手にしたクロオビが駐在を斬りつけ、盛大に血飛沫を上げて駐在が倒れた。

 

 どう見ても致命傷なんだが、ホントに大丈夫なのか?

 俺としてはなるべく穏便に支配してアーロン帝国を築きたいのに、無闇に殺してしまっては上手くいくものもいかなくなる。

 

「クロオビ、ヤり過ぎダ。他の奴も下ガってロ、アトハ俺ガやル」

 

 不安を感じた俺は、対峙する村人と魚人達の間に割って入った。

 

 あまりやりたく無いけど言ってる場合でもない。

 俺は静かに闘気を高めていく。

 そう言えば、この世界だと闘気は覇気と呼ばれ、俺がコレを使う事に対してアーロンはあまりいい顔をしない。

 なんでも「下等な人間が用いる技術なんざ、魚人には必要ない」との理屈だけど、便利な技術なら変なこだわりは捨てて使うべきだと俺は思うぞ。

 まぁ、アーロンの場合、身体能力が高すぎるから必要ないっちゃあ必要ない。

 

「殺すなよ。大事な金づるだからな」

 

「分カッてルから俺ガやルンダ」

 

 何か言いたげなアーロンからこの場を任された俺は、殺気を放つ村人の気配を読み取り、すり抜けざまに顎の先、鳩尾、頚椎へと一撃をいれていく。

 俺が通り抜けた後、一瞬の間を置いて村人達がバタバタと崩れ落ちた。

 

「そっ、そんな!?」

 

「コレで判っタカ? 俺にサエ勝テナいお前達ハ、ドう転んデモアーロンにハ勝てなイ。死にタク無けレバ大人しく金ヲ払エ。俺達の目的ハ虐殺ジャなイ、支配ダ」

 

 もっと言うなら支配は俺の目的の為の手段だが、今それを言っても受け入れられる事は無いだろう。

 とにかく下手にアーロンに逆らっても死ぬだけなんだから、大人しくしていてほしいもんだ。

 物理的に大人しくさせるのはこれっきりにしたい。

 

「ま、待ってよ。ナミは? ナミは返してくれるの?」

 

 立ち去ろうとした俺を、ベルメールを抱えたノジコが呼び止める。

 この状況下でもナミの心配を口に出来るノジコは、芯の強い良い子の様だ。

 出来ればノジコの期待に応えたいけど、そういう訳にはいかないんだよな。

 

「決メるノはアーロン。俺ニ聞カレてモ困ル」

 

 アーロン一味はアーロンを慕う魚人達の集団だ。

 基本的に決定権はアーロンにしかない。

 意見を言う分には、言いたい奴の自由だろう。

 しかし、それを採用するかどうかはアーロン次第。

 アーロンの方針が嫌なら一味を抜けるのが筋になってくる。

 

「モう良いカ? 俺は行ク」

 

 他に口を開く奴がいないのを確認した俺は、アーロンの後を追ってココヤシ村を後にした。

 

 

 

  

 アジト(予定地)の入り江の港へ向かうと、用意された椅子に座ったアーロンの前でナミが泣いていた。

 ハチ、クロオビ、チュウの幹部達だけが関心を持ってそれを見守り、他の連中は我関せずとばかりに思い思いの場所で寛いでいる。

 

「戻ったか、シュヴァ」

 

「問題ナイ。ナゼそノ子供ヲ連れテきタ?」

 

 確認の為にアーロンに聞いてみる。

 実際にグランドラインを航海してきた身としては、普通の海図とログポーズさえ有れば十分に思える。

 漫画の中のアーロンはナミが作る海図に拘っていたが、このアーロンもそうなのか?

 

「知れたこと。海図を書かせるのさ」

 

「帰してよっ! アタシ、海図なんか書きたくない!」

 

「ソイツは嫌だト言っテるゾ? 無理に書カせテも正確な物ハ出来なイ」

 

「そりゃあ俺だって分かってるさ。だから話して聞かせてやってる。だが、聞き分けないガキでなぁ……海図を書かなきゃ女海兵を殺すと言ってもこの調子だ。首を縦に振りやがらねぇ」

 

 そう言ってアーロンは、お手上げとばかりに首を振る。

 

 いや、そりゃそうだろ。

 ってか、脅しの材料に使う為に敢えてベルメールを見逃したのか。

 流石アーロン、えげつねぇし頭も回る。

 その頭の良さをもうちょっとだけ、生かさず殺さず方面に使ってくれれば言うこと無いんだけど……って、無理な相談か。

 アーロンの怒りはよく分かるし、俺が何とか上手く回していくしかない。

 

 とりあえずナミをどうするかだな……。

 このまま何もせずにナミを帰せば、金を払っていないベルメールの命が危くなる。

 ここでナミを始末すれば後々の憂いは潰せるのだが、それをやってしまうとココヤシ村の反乱を招き支配が覚束なくなる。

 ナミが本心から俺達の仲間になってくれるなら、それが一番良いんだけど…………無理だよなぁ。

 

 結局、アーロンの意向もあるし、ナミには悪いが漫画通りの展開に持ち込み、村の解放を餌にして海図を書かせるのがベターってことか。

 

 因みに、島の支配を諦める選択肢はない。

 

「アーロンさんっ! 海軍だ。支部の連中が来やがった」

 

「ここは俺達が行こう。シュヴァ、やり過ぎても文句はあるまい?」

 

 俺が考えあぐねていると、岸辺で寛いでいた連中の一人が報告にやってきた。

 それを受けて3人の幹部がゴミ掃除は任せろとばかりに名乗りをあげる。

 

「当タり前ダ。腐っタ海軍ナンかコの世界カラ消えテ無クなレバ良イ」

 

 海軍が正義を掲げるなんて片腹痛い。

 己が正義だというのなら、先ずはゴミそのものの天竜人をなんとかしろってんだ。

 ゴミを片付けるどころか、ゴミが幅を利かせる手助けをしている海軍は組織として腐っていると断言してやる。

 

 海軍の中には、本気で海賊を憎み正義の為に命を捧げている人も居るだろう。

 たが、そんな人達であっても腐った組織の権勢に加担しているのだから、俺にとって敵でしかない。

 

「何よっ! 腐ってるのはアンタ達じゃない。村の皆を傷つけてっ、お金を盗ってっ……アンタ達なんか全員捕まって死刑になれば良いのよっ」

 

「フんっ……サっきマで泣いテタくセに急二威勢が良くなっタナ。助かっタ、トでモ思ったノカ?」

 

 痛いところを突かれた俺は、ついつい子供のナミと張り合ってしまう。

 立ち位置が違うナミ達ココヤシ村の人達から見れば俺達は侵略者で、悪なんだよな。

 でもアーロン帝国さえ築いたら、国盗りとして評価されるハズ…………それまでは、なんと思われようがアーロンを支えてみせる。

 

 中途半端を自負する俺だけど、こればかりは譲れない。

 

 海軍の勝利を願うナミ。

 魚人の勝利を疑わない俺。

 正反対の想いを抱いた俺達が見詰める中で、数分としないうちに海軍の船が沈んでいく。

 船さえ沈めれば勝ちになる海上で、魚人達とやり合おうってのが無策にすぎる。

 

 驕り高ぶる海軍なんて、所詮こんなもんだ。

 

「そ、そんな……」

 

 さっきとは打って変わって怯えた表情になったナミが言葉に詰まる。

 

「コの子供ガ一番欲シいモノを売っテやれバ良イ」

 

 怯えたナミをみるにつけた俺は、もう早く終わらそうと漫画を参考にした取り引き案を口にする。

 色々考えてみても今の俺に出来る事は限られているし、ここでナミと口論してもあまり意味はない。

 

「ほぅ?」

 

「一味に入っテ海図を書くのを前提にシテ、ココヤシ村ヲ売ってヤるんダ。額ハ……一億でドウダ?」

 

「そりゃぁ悪くねぇ取り引きだ。そうは思わないか、お嬢ちゃん? ただし、額は三億だ」

 

 口角を上げたアーロンが腕を突き出して三本の指を立てた。

 

「なっ!? アーロンっ、イクらナんデもソの額は無茶ダ」

 

 あれ?

 なんでだ?

 漫画だと守る気があったのかどうかは別にして、年間三億の収入が見込めるココヤシ村の権利を、一億程度で払い下げる契約をするはずだぞ。

 

「シュヴァ……俺は譲歩してテメエの意見を聞き入れてやってるんだぜ? それとも何か? 俺はお前の意見を丸呑みしてやらなきゃイケねぇってのか?」

 

 そうか。

 俺が余計な事を言ったせいで、アーロンは自分の威厳を保つ為に金額を上乗せしたのか。

 なかなか難しいもんだな。

 結果を知る俺が先んじて動いたら結果が変わる事もあるということか。

 

「分かった。海図書く。一味に入って海図を書いたら、村を売ってくれるんだよね?」

 

「俺は金の上での約束は死んでも守る男さ。シャーハッハッハッ!」

 

 いや、もうなんか、ごめんなさい。

 とんとん拍子に話が纏まるのを横目に、俺は内心でナミに謝った。

 まぁ、でも、ベルメールは多分生き残れたし、総合的に見れば上手くいったハズだ。

 

 そしてこれは、漫画の内容は決まった運命ではないということも示している。

 上手くやれば破滅の道を避け、アーロン帝国を作る事だって出来るはずだ。

 

 俺は高笑いを続けるアーロンの横で、密かに決意を固めるのだった。

 

 

 

 

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