【完結】アーロン帝国建国記(仮)   作:あきすて

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4話 ノジコ

 

 

 アーロン一味がやってきてから4年が過ぎた。

 私達の耐え忍ぶ戦いも、ナミの村を買い戻す為の戦いも続いている。

 

 表立って問題が起きないのはアイツ……シュヴァに依るところが大きいと思う。

 ベルメールさんは警戒してるけど、私はそれほどアイツが悪い奴には思えない。

 

 今日も蜜柑販売の打ち合わせにやって来る。

 

ーーコン、コン

 

「はーい。空いてるわよ」

 

「邪魔をすル…………ん? ベルメールは居ないのカ?」

 

「えぇ。今日は見張り台に立ってるわ。誰かさん達のせいで何かと物入りだからねえ」

 

「そうカ。邪魔をしタ」

 

 私の嫌味にも動じた様子をみせないシュヴァは、ベルメールさんが居ないと知ると直ぐにも立ち去ろうと踵を返す。

 

「ちょっと待ってよ!? せっかく来たんだからお茶位飲んでいきなよ? 相談したいこともあるし」

 

「相談……? 嫌な予感しかしないゾ」

 

「まぁまぁ、そんなこと言わずに。はい、どうぞ」

 

 二人分の紅茶を置いた私は、シュヴァを無理やりテーブルに座らせると対面に座り、村の人から受けていた相談事を語り始めた。

 それは、妊娠した若夫婦からの相談。

 今でさえ二人で必死に働き、やっとの思いで貢ぎ金を支払っている。

 出産する事になれば、奥さんは一時的に働けなくなるし、子供が産まれたら世話をしないといけないし、子供の為の出費が増えるし、子供の貢ぎ金の問題だってある。

 収入が減り、出費が嵩み、更に子供の貢ぎ金までのしかかると、若夫婦の生活は立ち行かなくなる。 

 

「ってわけなんだけど、なんとかならない?」

 

 手にしたカップに視線を落としながら話終えた私が顔を上げてシュヴァを見ると、物凄く嫌そうな顔をしていた。

 目尻をさげ、眉間にしわを寄せるシュヴァ。

 人って表情だけで嫌と表現できるモノなのね。

 

「そんな嫌そうにしなくても……」

 

「嫌なモノは嫌だからナ。大体、なんで俺に聞ク? チュウとかに聞けヨ」

 

「話したことないし。アンタがこの村の担当でしょ?」

 

「いや、違うし。村担当とかねぇかラ。そもそも論で言うとだナ。子供が出来たら生活の見通しが立たなくなるってんなラ、そういう事をするなって話ダ。ハァ、マジやってらんねえー」

 

 そうぼやいてテーブルにグデッと突っ伏したシュヴァは、「アイツ等マジ働かねぇし、支配する気あんのかヨ」と尚もぼやいている。

 

「そういう事って…………あっ」

 

 子供が出来たということは、あの若夫婦の二人は当たり前だけどそういう事をしていることになる。

 若夫婦の痴態を思わず想像してしまった私の顔が赤くなる。

 

「なんで顔を赤くするかナ? イチイチそんな事で動揺するお子様なら首を突っ込んでくるなヨ」

 

「う、五月蝿いわねっ。元はと言えばアンタ達が金を巻き上げるせいでこうなってるんだろ!? 私達は自由に子供を作ったらいけないって言うつもり?」

 

「子供を作りたいなら作れば良イ。将来的に貢ぎ金が増えるんだかラ、むしろ歓迎してやル。俺が言ってるのハ、金を巻き上げられているというなら、その現状を踏まえて計画的に中出しシロって話ダ」

 

「な、中だ……って、あ、アンタさっきからわざと言ってるでしょ!?」

 

「だから、なんで顔を赤らめル? ハァ……お子様なノジコじゃ話にならないナ…………なんでその夫婦が自分で言いに来ないんダ?」

 

「私が請け負ったからよっ! アンタ達とは私が交渉するんだよ! それとっ、お子様お子様って馬鹿にしないでっ」

 

「子供は子供だロ? 俺達の支配下では18歳以下はお子様と見なすから奉貢を50,000と取り決めてるんダ。まぁ、話は聞いてやるかラ若夫婦当人がアーロンパークを訪ねるように伝えてくレ」

 

 呆れた様子のシュヴァが話は終わりだとばかりに立ち上がる。

 

「ま、待ってよ」

 

 悔しい。

 年下のシュヴァに子供扱いされる事も、せっかく相談されたのにメッセンジャーにしかなれない事も。

 

「まだなんかあんのカ? 俺って結構忙しいんだから手短に頼むゾ」

 

 基本的に働かない魚人の中にあって、シュヴァは一人で忙しそうに働いている。

 シュヴァのせいで魚人の支配が続いているとも言えるし、シュヴァのおかげで村人の生活が成立しているとも言える。

 シュヴァの評価は村人の間でも分かれる所だけど、一つ言えるのは皆がコイツには一目置いている。

 私より年下のくせに、誰もコイツを子供扱いしないんだよ。

 

 ナミだって私より年下なのに、ずっと一人で戦っている。

 私は、ベルメールさんと暮らして、ベルメールさんの畑仕事を手伝って、ベルメールさんに奉貢を払ってもらっている。

 

 私は……私は……

 

「私は子供じゃない……」

 

「ん? あぁ……そうだナ。悪かっタ」

 

 私が短く呟いただけで、察した様にシュヴァは謝罪して軽く頭を下げる。

 

「またそうやって馬鹿にして! 私はもう立派な大人なんだよっ」

 

 何故だか一歩引いてあやすようなシュヴァの大人びた態度が堪に触る。

 

「だから、悪かったナ。でも、外じゃあんまり言うなヨ? 貢ぎ金が増えるゾ」

 

「別に良いわよ! 私はもう大人だし、子供だって作れる」

 

「……ハ? 何を言い出すんダ?」

 

「な、なんやらやってみる?」

 

 シュヴァの前に立った私は首筋に腕を回した。

 

「………………お前、いくつになっタ?」

 

 困り顔で私をジッと見ていたシュヴァが口を開く。

 

「16よ」

 

「そうか……まぁ、ギリ大丈夫カ」

 

 そう呟いたシュヴァが私を軽々と抱き上げる。

 俗に言うお姫様だっこで、私は部屋の隅に置かれたベッドへと運ばれる。

 私を座らせ、向かい合ってシュヴァも座る。

 前から胸に手を当てたシュヴァに軽く押された私はベッドの上に倒された。

 

 ギシッとベッドが軋みシュヴァが私に覆い被さる。

 ヤバイくらい心臓が高鳴る私と違い、シュヴァは随分と手慣れている。

 

 シュヴァの背中に回そうとした私の手が、リュックに遮られる。

 

「ね、ねぇ? リュック、脱ぎなよ」

 

 勢いだけで始まってしまったけど、どうせするならちゃんとした雰囲気でしたい。

 私は多分、初めて会った日からコイツの事が嫌いじゃない。

 ナミは絶対認めないけど、コイツが居なかったら多分あの時、ベルメールさんは殺されていた。

 

「ん……そうだナ」

 

 一瞬真顔になったシュヴァはベッドから降りると、そのままクルリと背を向けて入口へと歩き始めた。

 

「ちょっと、どういうつもり!?」

 

「少し……からかっただけダ。俺の黒く反り返ったモノを見たらビックリするじゃ済まないからナ。まぁ、さっきの相談事はアーロンと話をつけておいてやル。夕方、結果を伝えに来るから当事者のバカ夫婦も呼んでおけ」

 

「〰〰っ! 巫山戯んなっ! バカっ! 死んじゃえっ!」

 

 私はシュヴァが居なくなって閉じられたドアに向かって叫び、手近にある物を力いっぱい投げつける。

 そうやって誰も居なくなった部屋で一人で暴れ、暫くしてから気が付いた。

 

「あっ…………話、つけてくれるんだ……」

 

 アーロン一味の決定権の全てはアーロンにある。

 あのアーロンに意見をするのは魚人でも怖いハズなのに、シュヴァはなんだかんだで私達の話を聞いてくれるのよね。 

 

「伝えに行かなきゃ……」

 

 私は下着を履き替えると、若夫婦の元へと走った。

 

 

 

 

ーーコン、コン

 

「はーい、空いてるわよー」

 

 夕暮れ時。

 シュヴァは約束通りにやって来た。

 

「邪魔をすル」

 

 仏頂面をしたシュヴァは、私とベルメールさん、それに若夫婦が揃っているのを確認すると、空いている席に腰を下ろした。

 

「あ、あのね、怒らないで聞いてほしいんだけど……」

 

「2年ダ」

 

 ムスッとしたままシュヴァが呟く。

 

「えっ? 2年って?」

 

 聞けば申請してからの2年の間、子供は当然として母親の分の貢ぎ金も免除する。

 ただし虚偽の申告は極刑をもって罰するといった厳しいものだけど、それは仕方がないと思う。

 ホントは5年位は免除にしたかった、と口惜しそうにシュヴァは締め括った。

 

 予想を遥かに超えた内容に場が静まる。

 

 私達は、産まれてくる子供の分だけでもなんとかならないかと考えていたのに、母親分まで免除となると望外の計らいと言える。

 種族主義のアーロンがこんな内容で簡単に頷くハズもないから、シュヴァは相当タフな交渉をしてくれたことになる。

 

 い、言えない。

 妊娠は若夫婦の勘違いだったなんて。

 

「べ、ベルメールさん?」

 

 私は助けを求めるように目配せする。

 

「へ、へぇ~、頑張ってくれたじゃない。お礼に特製蜜柑ソースのオムレツをご馳走するわ」

 

 まさかの先延ばし!?

 ベルメールさん、それ、駄目な大人の典型だよ。

 

「悪いが遠慮すル。戻って布告用の看板と正式な文言を作らないといけないんダ」

 

「えっ? 今から?」

 

「あぁ、これは大事な事だからナ。早いほど良い。夜通しかければ明日の朝一には間に合うだロ」

 

「す、すいませんでしたー!」

 

 シュヴァが徹夜宣言をしたところで、若旦那が華麗にジャンピング土下座を決めた。

 

「何の真似ダ?」

 

「お、怒らないで聞いてほしいんだけど、妊娠は勘違いだったの。ほら? アンタ達のせいでストレスとかあるから多分そのせいだよ」

 

「そうか……まぁ、別に良いけど一つ聞かせてくれ」

 

「は、はい」

 

「勘違いしたのは、子供を作るつもりで中出ししたことがあるからヵ?」

 

「ちょっと、何聴いてるのよ!?」

 

「子供は黙ってロ。俺は真剣に聴いてるんダ」

 

 その言葉通り、シュヴァの表情は真剣そのもの。

 びくびくしながら質問に答える若旦那の声を聞いていた。

 

「そう……ヵ」

 

 答えを聞き終えたシュヴァは、どこか寂しげに呟くと「布告は出す、精々励め」と言い残して帰って行った。

 

 そして、この日から私とシュヴァは疎遠になった。

 








 

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