【完結】アーロン帝国建国記(仮)   作:あきすて

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5話 ナミ ONE

 

 

 

 今回の収穫は上々だったわ。

 馬鹿な海賊達から財宝の他に強力な毒薬を手に入れる事が出来た。

 

 これさえ有ればアーロンを仕留める事が出来るっ……。

 

 アーロンの支配が始まってから6年。

 この6年で判ったことがあるの。

 それは、支配に乗り気なのはアーロンとシュヴァの二人だけってこと。

 他の連中はアーロンに従っているだけで、別にこの島の支配になんか興味はない。

 シュヴァの奴にしたって色々と逆らうような意見を言ったりしてみても、結局最後はアーロンに従うのよね。

 あくまでもアーロンあってのアーロン一味。

 だからアーロンさえ始末出来れば、私は殺されちゃうかもしれないけど、他の連中は魚人島に帰っていくはずなのよ。

 

 危険なのは判ってる。

 だけど、もうあまり時間がない。

 この島に生きる人達の、生活の糧を得る手段が魚人頼りになってしまってきている。

 逆らいたくても逆らえない。

 口には出さなくても、もうこのままで良いと考える人達が増えてきている。

 私はそんなのは絶対に認めない。

 あいつらさえ来なければ、私達は私達だけで自由に暮らせていたんだから。

 

 だから私はっ、今日こそアーロンをっ!

 

「無事に戻れて何よりダ。麦わらの海賊には会ったカ?」

 

「シュヴァっ……!? 会ってないし、なんでここにいるのよ」

 

 意気込んでアーロンパークの門をあけると、そこにはシュヴァが待ち構えるように立っていた。

 いつもいつも、私がアーロンを殺そうと決意をした時に限ってコイツは居る。

 

「そうか……まぁ、久々に身体検査でもしておこうかと思ってナ」

 

「好きにすれば?」

 

 私は抵抗することなく両腕を上げた。

 

 大丈夫。

 身体検査をされるのはコレが初めてじゃない。

 ポケットの中を確認するように服の上から軽く叩いていくだけよ。

 今まではそれで見つかったけど、今日の隠し場所は一味違う。

 私も成長しているの。

 

「あれ?」

 

「どう? 満足した?」

 

「……あぁ、なるほど。お前、面倒くせぇことすんなよなぁ」

 

 一通り叩き終えて何も見つけられなかったシュヴァは、私を見て勝手に頷くと嫌そうな顔をしてぼやいた。

 そして、素早く私の胸を掴み襟首から胸元に手を差し入れた。

 

「ちょっと、何する気っ!?」

 

 咄嗟に腕を払い除けて後ろに下がったけど遅かったみたいね。

 シュヴァの手には私が胸の谷間に隠しておいた折りたたみ式のナイフが握られている。

 

「それはこっちの台詞ダ。こんなもんを忍ばせて何する気ダ?」

 

「護身用よっ」

 

「ふーん? 護身用ねぇ……って毒カ?」

 

 折りたたみ式のナイフをまじまじと見たシュヴァは、刃先を出すとそこに滴る液体を舐め取った。

 人間が体内に取り込むと1時間もしない内に死に至る毒なのに、全然平気そうにしている。

 『象とかを0.1ミリで痺れさせるくらいの毒じゃないと俺達には効かない』とか言ってナイフを返してくれたけど、そんな毒なんて手に入る訳ないじゃない。

 ナイフをそのまま返してくれたのだって、やれるもんならやってみな! と内心で馬鹿にしているからに決まってるわ。

 

「アンタってホンっとヤな奴ね」

 

「そうカ? 俺は結構良いことしてるつもりだゾ。それはそうと、やっぱ海賊相手の泥棒稼業を辞めるつもりはないのカ?」

 

 シュヴァは半年くらい前から私に、泥棒を辞めろと勧めてくるようになった。

 そう言えば『麦わらの海賊』とか聞いてくる様になったのもその頃からね。

 麦わらの海賊がなんなのか分からないけど、泥棒稼業に関しては、多分私が順調に稼いでいるのを知って辞めさせたいのでしょうけど、お生憎様。

 

「ないわ。金の上での約束は守るんでしょっ! だったら私の金稼ぎの邪魔をしないでくれる?」

 

「別に賞金稼ぎとかでも良いだロ?」

 

「嫌よ! 人殺しのアンタ達と一緒にしないで」

 

 海賊相手の賞金稼ぎだと命のやり取りになる。 

 いくら海賊が相手でも人殺しには成りたくないし、懸賞金のアベレージが低い東の海で賞金稼ぎは割に合わないと思うのよね。

 それに、私は腕っぷしには自信がないから逆に命を落とす可能性だってある。

 それを言ってやると、『修業すればいいだろ?』と変な方法を教えてきたのもコイツよね。

 私は棒を武器にするから、水平に構えた棒を突いて姿勢を正してお辞儀する……これを一日1万回すれば強くなるとか、わけわかんない。

 

 お辞儀する意味ってあるの?

 

「なんダ、知らないのカ? 海賊はクズだから始末しても人殺しにはならないゾ」

 

「……アンタ、自分達も海賊だって忘れてるの? あっ、そうだ! アンタが三億くれるなら、泥棒辞めても良いわよ?」

 

「おっ……そうカ。その手があるのカ……」

 

 嫌味で言ったはずの言葉を聞いたシュヴァが、ハッとした表情を見せて考え出した。

 シュヴァって顔に出るからわかりやすい。

 コイツは今、本気で閃いた! って感じでいるわ。

 

 でも、

 

「わけわかんない……アンタと話してると疲れるし、私はもう行くわよ」

 

 私に三億を渡せばココヤシ村の権利を手放す事になるって分かってるのかしら?

 『パークの金は使えないし、俺は金持ってないし、どうすっかな』とブツブツ言うシュヴァを残して私はアーロンパークを後にした。

 

 

 

 

 ココヤシ村へと向かう道すがら、前方から荷物を肩に掲げた人物が向かってきた。

 

「にゅっ!? ナミじゃねぇか。お前、こんなところで何してるんだ?」

 

「家に帰るとこよっ。悪い?」

 

 私に気付いたタコの魚人、ハチが足を止めて私に話しかけてくる。

 私は自然とトゲのある返事をしてしまう。

 こっちは仲良くする気なんてないのに良い迷惑。  

 

「にゅ~。そうだったな。こっちに行けばココヤシ村だな。おれか? おれはココヤシ村でモームのエサを買ったその帰りだ」

 

 聞いてもいないのにハチは自分の事情を語り出した。

 

 そうなのよね。

 魚人達は私達からお金は巻き上げるけど、それ以外は奪ったりしない。飲み食いや、建設、建築……魚人達は何をするにもきっちりとお金を払う。

 アーロンはこれを金の上での約束で、良い世の中は金が回ると言っていたけど、私は違うと思う。

 魚人達が使ったお金は、どうせ後から貢ぎ金として回収出来るって腹づもりなのよ。

  

「はいはい……ご苦労さま。ねぇ……シュヴァってどんな奴?」

 

 戯れにシュヴァの事を聞いてみる。

 実はハチって無害な奴だし、周りに他の魚人が居ない機会も中々ない。

 

「変なこと聞く奴だな? ナミはシュヴァを知ってるハズだぞ。おれか? おれはシュヴァとは付き合いが1番長いんだ。アイツは働きモンの良い奴だな」

 

 シュヴァが良い奴ですって?

 どこがよ!

 この前だって徒党を組んでお金を稼ぐ人達に対して、『会社は法人とみなす。利益の半分を納めろ』とかわけわかんない事を言いだして、お金を巻き上げる仕組みを作った。

 その影響が大きい港町ゴザの人達がカンカンになって怒っていても、シュヴァはどこ吹く風で気にしない様な奴よ。

 

「ハチが知ってる子供の頃のシュヴァがどんな奴とか、秘密とか有ったら教えてほしいかなぁ、って」

 

 反論したいのをぐっと我慢た私は、続いてハチに尋ねた。

 

 シュヴァはやたら強いし、変なこと知ってるし、妙に勘が鋭いし、毒も効かないし、絶対になにか秘密があるはずよ。

 

「にゅ~? それは人間の悪いトコだと思うぞ、ナミ。シュヴァがお前に言わないなら、それは言わなくても良いことなんだ。探る様な真似は良くないぞ。オレはな、お前がシュヴァを見て、どう思うかが大事だと思うぞ」

 

「〰〰っ! だったらヤな奴よ! じゃぁ私行くから!」

 

 ハチの事だから簡単に口を滑らせると思っていたのに、まさか説教されるなんてね。

 バツが悪くなった私はそう言い捨てると、ハチを残して大股で家路を急いだ。

 

 

 

 

「ホンっと、頭にきちゃう!」

 

 家に帰った私は、今日有った出来事を残さず打ち明けると、テーブルをドンと叩きつけた。

 

「そうかい? 私はその魚人が間違ったことを言ってるとも思えないけどね」

 

 向かいに座って頬杖ついて聞いていたノジコは、私とは違う感想を持ったみたいね。

 

「なによっ。ノジコは魚人の味方をするつもり?」

 

「そうは言ってないさ。シュヴァの秘密が知りたいなら魚人が言うように自分で聞いて、確かめてみれば良いじゃない? ナミは私と違ってアイツと接する機会が多いんだからね」

 

 あんな奴のどこが良いのか分からないけど、多分ノジコはシュヴァに恋心を抱いている。

 それを私達に打ち明けないのは、ノジコ自身がそれを認めていないから。

 一度、ノジコにシュヴァをどう思って居るのか聞いてみた時に『アイツは支配する側で、私は支配される側……それだけさ……違うかい?』と話した切なそうな顔は忘れられない。

 ホントならノジコの恋は応援したいけど、アイツだけはダメなんだから。

 

「はいはい。二人ともそれくらいにして御飯にしましょ。じゃーん! ベルメール特製、子羊のステーキ、蜜柑ソース添えよ」

 

「「はーい」」

 

 あの日からベルメールさんは少し変わった。

 普段は私が悪さをすればゲンコツも落とす明るくて元気な、以前のままのベルメールさんだけど、魚人が絡むと少し違う。

 ホントなら意地でも魚人に逆らい続ける様な人なのに、今は私とノジコの間で魚人の話題が紛糾しすぎると意図的に話を逸らすのよね。

 全部あの日の伝言のせい……小さい頃は分からなかったけど、あの伝言は私を人質に取っていると言いたかったのよ。

 だから、ベルメールさんは何も出来ない。

 

 でも、大丈夫だよ。

 ベルメールさんは何も出来なくても、元気で生きていてくれるだけで私は幸せで、頑張れるから。

 

「「いっただきまーす」」

 

 久しぶりに三人でテーブルを囲んで摂る夕食。

 小さな幸せに浸りかけた、その時。

 

『ぷるぷるぷる……

 ぷるぷるぷる……ガチャ

 

 ナミ、そこにいるカ?』

 

 幸せな気分を台無しにするように電電虫が鳴り響き、そこからシュヴァの声が聞こえてきた。

 

 電電虫は東の海だと海軍が使用するくらいで、あまり流通していない。

 それをアーロン一味はどこからか調達してきて、私の呼び出し用としてベルメールさんの家に置いていたけど、実際にコレが鳴ったのは初めてね。

 

「何の用? 邪魔なんだけど」

 

 席を立った私は、電電虫のマイクを握りしめ不機嫌を隠さずに言い放つ。 

 

『悪いな、緊急事態ダ。今すぐアーロンパークに来い…………ガチャ』

 

 一方的に要件だけ告げたシュヴァは、こっちの都合も聞かずに通信を切った。

 

「ちょっとっ!? なんなのよっ、もう!」

 

 ホント、コイツってわけわかんない!

 

「行った方が良いよ、ナミ」

 

「そうね。電電虫の表情は真剣だったわ。何か……良くない事が魚人達に起きたのかな」

 

 夕食を中断して私の傍に立つ二人が揃ってアーロンパーク行きを勧めてくる。

 言葉だけ聞けば薄情にも思えるけど、二人とも心配そうにしてくれている。

 

「良くない事って……? もしかして、強い海軍がやって来たとか!?」

 

「それならナミを呼ぶ意味がないじゃない。アンタが行っても闘えないんだから」

 

 私が抱いた希望の光は、ノジコが放った正論によって一瞬で潰された。

 事実として私は闘えないからね。

 

「じゃぁ、一体……何が?」

 

 私は一応幹部だけど、海図を書くだけで一味の方針を決める場に呼ばれた事はない。

 そんな私が行く必要がある事態………………ダメ、分からない。

 

「分からない……けど、気を付けて行くんだよ」

 

 魚人には逆らわない……どんなに理不尽で悔しくても、これが私達が選んだ闘い方。

 呼び出しに応じない選択肢は最初からない。

 ベルメールさんもノジコも、それが分かっているから私を変に引き止めて困らせたりしないのよね。

 

「うん!」

 

 元気良く返事をした私は、子羊のステーキを掴むと一口で頰張り、『行儀悪いわよっ!』と叫ぶベルメールさんの声を背に、アーロンパーク向かって駆けだした。

 

 

 

 

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