【完結】アーロン帝国建国記(仮)   作:あきすて

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6話 ナミ two

 

「来たか、ナミ」

 

 アーロンパークにやってきた私にいち早く気付き、声をかけてきたシュヴァの表情は真剣そのもの。

 文句の一つでも言ってやろうと思っていたけど……これは、ただ事じゃないわね。

 

 私は思わず身を引き締める。

 

 煌々と灯りが付けられたアーロンパーク1階の広間に、ほぼ全ての魚人達が集まっているのも異例の事態。

 あの日、ココヤシ村にやってきた時よりも数が揃ってるんじゃないかしら?

 

 集まった魚人達の視線が床に置かれた大きな地図に注がれ、思い思いの表情を浮かべている。

 床の地図にはいくつもの船の模型が置かれ、その内の三つがバツ印の上に置かれている。

 

 それとあれは海賊旗?

 

 嫌な予感がする……これは聞いた方が早そうね。

 

「来てあげたわよ。一体何事?」

 

 コツコツと床を鳴らして歩き、シュヴァの隣に並び立った私は高飛車に尋ねる。

 魚人に囲まれているのは今でも怖いから、ついつい虚勢を張ってしまうのよね。

 でも、癪だけどシュヴァの横なら安心。

 コイツは無意味な狼藉なら、例えアーロンが相手でも認めない。 

 

「商船が襲われた」

 

 苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべたシュヴァが短く吐き捨てる。

 

「は? 何よそれ!?」

 

 詳しく聞いてみると、三日前にゴザから出港した商船がしばらくして航海した後、海賊船に襲われ積荷を奪われた挙げ句、沈められた。

 

 その数、3隻。

 襲ってきた海賊船はそれぞれが違う海賊旗を掲げていた。

 

 一つは、赤鼻が特徴的な海賊旗。

 一つは、ハートマークの海賊旗。

 一つは、猫がモチーフの海賊旗。

 

 いずれも東の海で悪名高い海賊団ね。

 

「同胞は無事さ」

 

 一通りの説明を受けた私にアーロンが心配するなとばかりに言ってきたけど、そんなことはどうだって良いの。

 

「人間も乗って居たはずよ! その人達はどうなったの!?」

 

 魚人達は交渉がスムーズにいくようにと、商船に人間を乗せている場合が多い。

 船が襲われ沈められたというなら、乗っていたかもしれない人達の安否が心配。

 そして、もしこれが、ココヤシ村の商船だったら……もしそこに、ベルメールさんやノジコが乗り合わせていたら……。

 そう考えただけでも恐くなる。

 

「さぁな。溺れ死んだか、殺されたか。自力で戻ってもこれねぇような下等種族なんざどうだっていいさ」

 

 アーロンが心底どうでも良さそうに告げる。

 

「良くないわよっ!」

 

「そうだナ…………支配下の人間を殺されたんダ。黙っていたら俺達の面子に関わる」

 

 一瞬でも、シュヴァが同調してくれた!? と喜んだ私が馬鹿だった。

 やっぱりコイツだって何にも分かっていない。

 

「面子の問題じゃないでしょ!! 人が死んだのよ!? 襲ってくる海賊はアンタ達が蹴散らすんじゃなかったの!? 魚人は上等種が聞いて呆れるわね!」

 

「多勢に無勢だったんダ。そいつ等じゃ百を超える数は相手に出来ない。撤退して情報を届けたのは良い判断ダ。お陰で敵がどこの海賊団か分かったんだからナ」

 

「敵? 三つの海賊団でしょ? 今頃どこかへ逃げてるに決まってるわ」

 

「違う。って、お前は知らないんだったナ。バギーとは海賊同盟を結んでいるから襲ってくる事はない。つまり、敵はバギーの名を騙る海賊団ダ」

 

「わけわかんない。海賊が海賊の名を騙ってどうする…………あっ……クリーク海賊団」

 

 馬鹿な海賊達は自分達の悪名を轟かせたがる。

 海賊旗を掲げて自分達は犯罪者だとアピールするのもその為ね。

 そんな中で、海賊を騙る可能性がある海賊に私は心当たりがあった。

 

 それが『騙し討ちのクリーク』。

 

 過去には海軍船を装って略奪を行ったこともある、何でも有りの海賊団。

 

「そうダ。おそらく他の二つもクリーク海賊団ダ。アルビダや黒猫にしちゃあ数が多すぎるからナ。そしてこれは」

「まだ襲ってくる……」

 

 シュヴァの言葉を遮って私は呟く。

 敵をクリーク海賊団だと仮定して考えるなら、今回の襲撃は計画的なものになってくる。

 三つの商船が偶然にも違う海賊団に襲われたと見せかけておいて、襲撃を続ける算段。

 いえ、もしかしたら他の海賊団の仕業に見せかけて、アーロン一味と全面的に争うつもりかも知れない。

 東の海で手広く商売するアーロン一味は、クリーク海賊団から見て目障りな存在になってきているのよ。

 

「さすがに理解が早いナ。敵がクリークで計画的に襲って来ているなら、この海域の何処かの島に奴らの前線拠点があるはずなんダ」

 

 棒の様なモノを手にしたシュヴァが、コノミ諸島の東側の海域を円を描くようにして指し示している。

 

「それを私に割り出せってことね?」

 

 自然と海図を頭の中に思い描く。

 シュヴァが指す辺りはいくつもの無人島があって、確かに海賊が拠点を作るには打ってつけの海域ね。  

 襲撃を受けて戻ってきた魚人達から詳しく時間と場所を聞いて、潮流の関係を考えて探っていけば、敵がどの島から出航してきたのか割り出すのはそう難しい話じゃない。

 

 って、ダメよ。

 どうして私が魚人達の味方をしないといけないのよ。

 敵はクリーク海賊団?

 それがどうしたっていうの。

 つぶし合って両方とも死んでくれたら万々歳じゃない。

 

「出来るカ? これはココヤシ村の為にもなる」

 

 共倒れを願う私を見透かしたように、シュヴァはココヤシ村の名を口にする。

 言われた私は気付いてしまう。

 このまま私が何もしなければ、アーロン一味の商船がまたクリーク海賊団に襲われるかもしれない。

 そして、アーロン一味の商船とはこの島に住まう人や、ココヤシ村の皆が乗る船のことだ。

 

「アンタって、ホンっ……とヤな奴ね。良いわよ、やってやろうじゃない! アンタ達とは頭の出来が違うのよ! 直ぐに割り出してやるから、きっちりカタを付けてきなさいよ!!」

 

「さすがは我らが優秀なる測量士だ! 聞いたか、同胞達よ! 舐めた真似をしてくれた下等な人間共は必ず見つけ出して…………殺す!!」

 

 私達の話に聞き耳を立てていたアーロンが立ち上がって両手を広げ、煽られた魚人達が大きな歓声を上げている。

 アーロンに持ち上げられても嬉しくないし、人間を下等って言うなら出し抜かれてんじゃないわよっ。

 

 まったく、いい迷惑だわ。

 でも、やらないわけにはいかない私は、アーロンパーク内に作られた部屋で割り出し作業にとりかかった。

 

 

 

 

 明けて翌朝。

 私はシュヴァとクロオビ、名前も知らない魚人達と中型の船に乗り込んだ。

 

「って、なんで私が乗らなくちゃいけないのよ!」

 

「調査だロ? お前が行かなくてどうすんダ」

 

「安心しろ。幹部が二人も居る。いや、お前も幹部だから三人だ」

 

 地団駄を踏んで切れてみたけど相手にもされない。

 その三人目は闘えないんですけどっ。

 ホントに守ってくれるんでしょうね!?

 

 確かに、「一晩かけて大体の目星はついたから、後は現地で確認するだけね」って言ったのは私だけど納得いかない。

 でも、早いとこカタを付けないと次の犠牲者が出るかもしれない。

 

 アーロン一味に加担するのは、ほんっ――とうに嫌なんだけど…………渋々ながら出航した。

 

 

 

 

「そう言えばバギー海賊団と同盟を組んだとか、私、聞いてないんだけど?」

 

 目的の海域までは時間がかかる。

 波は穏やかで特にやることもなく時間を持て余した私は、気になっていた事を隣に座るシュヴァに尋ねた。

 

「そうだったカ? まぁ、別に大した事じゃないだロ。魚人にビビッたバギーが部下を派遣して、不可侵同盟を持ち掛けてきたってだけの話ダ。アーロンは話の分かる奴が好きだからナ。とんとん拍子に話が纏まったんダ」

 

 おかげでバギーを潰せなくなったとボヤキ気味にシュヴァは言う。

 

「だから、どうしてソレを教えてくれないのよっ。私って一応幹部なのよね!?」

 

「ん? なんダ? 本気でアーロン一味に入りたくなったのカ?」

 

「えっ……? 本気も何も私は今でも立派なアーロン一味の幹部じゃない。冗談は辞めてよね」

 

「そうカ……まぁ、そういうことにしておくカ」

 

 そう言って、少し寂しそうな表情を浮かべたシュヴァはそのまま口を噤んだ。

 コイツ……もしかして、私が本心ではアーロン一味に入っていないって気付いているの?

 でも、それを咎める風な素振りは全く見せない。

 どちらかと言えばクロオビの方が私に対して懐疑的。

 

ざざー……

 

ざざー……

 

 誰も話さなくなった甲板で静かな波の音だけが聞こえる。

 

「ねぇ…………アンタはどうしてアーロン一味に居るの?」

 

「いきなりだナ? まぁ、別に大した理由じゃない。やりたい事を成し遂げる為にはアーロン帝国が必要なんダ……それだけダ」

 

「大した理由じゃない!? やりたい事をやる為ですって!? 巫山戯ないでよ! そのアンタの身勝手な理屈のせいで私達がどれだけっ」

 

「ココヤシ村の連中は死んじゃいないだロ?」

 

 悪びれなく、いえ、むしろ自慢気に言い放つシュヴァ。

 

 もしかしたら、本当にもしかしたらだけど、コイツは何か事情があってアーロン一味に加担してる? と、淡い期待を抱いた私が馬鹿だった。

 やっぱりコイツは何にも判っていない。

 確かに人は死んでいない。

 死んでないけど、私達はコイツらの支配なんか望んでいない。

 コイツは根本的な事を判っていない。

 

「あっそ」

 

 話すだけ無駄と悟った私はそれだけ言うと、そっぽを向いた。

 

「そういや、オレも一つ聞きたい事がある」

 

「……何かしら?」

 

「もし俺達が人間だったら、村の連中はここまで抵抗したと思うヵ?」

 

「……っ!?」

 

 シュヴァの問いかけに私は息を呑む。

 アーロン一味が人間だったら?

 考えた事もなかった……でも、どうなんだろう?

 いえ、もし()()()()()だとしても、私達は自由が欲しいんだから抵抗するに決まってるわ。

 

 でも…………。

 

「なによそれ? 人間なら抵抗しないって言ったら、あんた達は人間になってくれるの? 有り得ない事を聞かれても困るんですけどっ」

 

 胸の奥がモヤモヤした私は、はぐらかすような答えを喧嘩腰に返した。

 

「ん……そうか。まぁ、そうだナ。俺達は魚人だ……それは変わらない。変な事を聞いて悪かったナ」

 

 なんなんだろう?

 自分に言い聞かせる様に呟くシュヴァはどこか哀しげに見える。

 

「……良いけど。私、寝るからっ。徹夜で疲れてるのよ」

 

 目的の海域までは時間がかかる。

 実際に眠気もあった私は、シュヴァに寄り掛かると眠りに就いた。

 







主人公が手広く商売した結果のパラドックス
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