【シャッキー'SぼったくりBAR】
ここは、シャボンディ諸島、13番グローブ。
相変わらずのふざけた看板を掲げた店が見える。
2年前のある日。
ひょんな事から、泳げば魚人島に帰れるんじゃね? と気付いた俺は、母さんの命日に合わせて墓参りをするように成っていた。
今回で3回目。
距離的、地形的、時間的に無理だと諦めていた魚人島への里帰りも、カームベルトを突っ切ればなんとかなる。
今の時期、アーロンパークを離れる事に気がかりがないと言えば嘘になるが、墓参りが可能と判明したからには、欠かすわけにはいかないだろう。
それに、離れても良いだけの準備はしてきた。
半壊させたクリーク海賊団は、最近になって兵力をあの時以上に整えたとの話もあったが、アーロン一味に仕掛けて来ることなく
ナミには余計な真似をしてくれるな、と釘を刺しているしこっちも問題はないだろう。
薄れつつある漫画の記憶を参考にすれば、ルフィ個人に俺達を攻撃する理由はなく、あくまでもナミの懇願あっての戦闘だからな。
アーロンとも今後の一味の在り方の
って、なんだ?
客が居るのか?
バーのドアノブに手を掛けた俺は、シャッキーともレイリーとも違う気配が店内にある事に気が付いた。
見聞色の覇気と呼ばれるこの力。
母さんはこの力で読心術に近い事が出来たらしいが、俺は気配や殺気を読み取って闘いに活かすことにしか使えない。
本来であればこの力は、誤解なく判り合う為のモノだろうに、これではまるで闘いに特化した新人類だな。
「邪魔をする」
自嘲気味に笑った俺は、そのままドアノブを捻ると店内へと足を踏み入れた。
「いらっしゃい。あら? シュヴァちゃんじゃない。墓参りかしら?」
「あぁ、そんなとこだ。って、あんた……あの時の?」
身ぐるみ剥がされ希望者かと思いきや、店内に居たのは黒髪の美女と、その背後で隠れきれていない全体的に大柄な二人の女性。
その特徴的な構図と組み合わせから“あの日”このバーで見かけた少女達の成長した姿だと直ぐに気が付いた。
「そ、そなた、あの時の子供か? 大きくなったものよ」
来客に備えて警戒していたのか、カウンター席から立ち上がっていた成長した彼女も又、俺に気付いた様だ。
目を丸くさせて驚いているが無理はない。
あの当時の俺は彼女の腰ほどの背丈しかなかったのが、今では逆に俺が見下ろす程になっている。
成長し過ぎた感は否めないが、今のところは日常生活に不便はない。
「あんたの方は美人になったもんだな。正に絶世の美女ってやつだ。そういや、あん時は礼も言えずに悪かったな。ありがとう」
ここであの時のハンカチを返せれば良いのだが、ハッキリ言って何処にやったか覚えていない。
てか、こんな風に再会するなんて考えてもいなかったからな。
まぁ、彼女達の小綺麗な身なりからも、元気に生きていたと伺い知れるし、なによりだ。
「あ、姉様を前にして自然体なんてっ」
「ん? そりゃまぁ、俺って半分魚人だしな。あんたの姉さんの事は美人だと思うが、人の見た目でどうこうってのはあんま無いんだ。気を悪くしたか?」
ここまでの美人を前にしたら、男なら舞い上がってもおかしくない。
言い方を変えるなら、黒髪の美女はチヤホヤされるのが当たり前だろう。
もしかしたら俺が普通過ぎたことに気を悪くしたのかも知れないと考える。
「そ、その様な事はないぞ」
「そうか? だったら良いんだ。隣、座っても?」
俺の考えは杞憂だったようだ。
黒髪の美人は特に怒る事なく、どちらかと言えば……怯えてる?
なんだ? この感覚。
黒髪の美人とその妹達からは、あまり感じた事のない気配を感じるんだが、良くわからない。
これだから中途半端に感じるのは困るんだ。
「知らぬ仲でもないし、特別に許可してやろう」
俺が戸惑っていると、先客である彼女は何故か急に偉そうになって頷いた。
情緒不安定なのか?
それを見た俺はとりあえず、ハンコックの左隣に一つ席を開けて腰を下ろした。
「フフっ。シュヴァちゃんもハンコックちゃんも滅多に此処にはこないのに再会出来るなんてね。人の縁というのは不思議なモノだわ」
そう言って酒を置くシャッキー。
レイリーの拘りなのか、何気にここの酒は旨い。
このバーはぼったくりと言うよりか、高級酒取扱店なんじゃないかと俺は思ってる。
それを知らない馬鹿な連中が請求額を見て暴れるから、シャッキーに身ぐるみ剥がされる羽目になるって寸法だ。
「そうだな……って、ハンコック? もしかして、あんたっ
王下七武海の一角、ボア・ハンコック。
偉大なる航路に名を轟かせる超有名人だが、その容姿を示す写真は広まっておらず、あの時の少女がボア・ハンコックだったなんて思いもよらなかった。
というのも俺は、あの時彼女達が何故バーにいたのかも知らなければ、名前すら知らない。
勿論、後からシャッキー達に話を聞けば良いだけの事だが、何か事情があって彼女達がここに居たというのは俺にでも判る。
探るような真似は良くないし、俺が知るべき事柄ならシャッキーやレイリーから話がある。
それがないってことは、俺は知らなくて良い、もしくはペラペラと話す事ではないということだ。
しかし、まぁ……
ドレスの隙間から見える脚なんか、モデル顔負けの細さと美しさだ。
「シュヴァちゃんとどっちが強いかしら?」
頬杖突いたシャッキーが、イタズラっぽく笑っている。
こんな風に笑うって事は、黒髪の美女が七武海のハンコックとの見立てで間違いなく、しかも俺の方がやや弱いという事か。
「まじでかっ!? ジンベエ以外の七武海もそんな強いのか? 勘弁してくれよ…………この世界、化け物多過ぎだろ」
最近になってジンベエとまともに闘えるレベルに達してきた俺は、自惚れる訳じゃないがそれなりに強いとの自負がある。
そして、懸賞金的に考えても元の懸賞金が2億越えのジンベエは、七武海の中でも強いハズだと考えていた俺にとって、元の懸賞金が1億足らずのハンコックでさえ強いとの事実は、少なからずショックな事実だ。
海軍の三大将は勿論、本部大佐以上の一部海兵。
新世界の四皇とその幹部。
更には王下七武海まで俺より強いとか、一体俺は後どれだけ強くなれば良いのやら。
げんなりした俺はカウンターの上に突っ伏した。
「ぶ、無礼なっ」
「悪い悪い。綺麗な女性を捕まえて“化け物”はなかったな。俺はシュヴァ。今は
「わ、わらわはアマゾンリリーの皇帝にして、七武海の一人、ボア・ハンコックじゃ」
身を起こしてハンコックと握手を交わした俺は、続いて彼女の妹達というサンダーソニア、マリーゴールドとも軽い挨拶を交わした。
「んでさ、いきなりで悪いんだけど、あんた……いや、ハンコックが七武海なら俺に手を貸してくれね?」
ここで再会出来たのも何かの縁。
しかも七武海とくれば相談事を持ち掛けない手はないだろう。
「藪から棒になんじゃ? 内容にもよるが聞いてやっても良いぞ」
「天竜人を皆殺しにしたい。あんなクズ共が天を騙ってのさばってるのは我慢ならねぇ!」
一瞬で熱くなった俺は、ジョッキを握った手をカウンターに叩きつける。
ダメだな。
クールに成らなきゃ駄目だと判っていても、あのクズの事を考えたら頭に血が上る。
母さんの事があったからだけじゃない。
シャボンディに暮らせば嫌でもアイツ等の傍若無人ぶりは聞こえてくる。
なんであんなのが生きていられるのか理解に苦しむ。
そもそも天とは、偉大な男が目指したモノであり、断じてあんなクズが騙っていいものではない。
「そ、そなた正気か?」
「あら? アーロン帝国はどうしたの? 国を揚げて世界政府に戦争を仕掛けるんじゃなかったの?」
瞬間湯沸し器のごとく熱くなった俺を見たハンコックが、若干引きぎみになっている。
シャッキーの方は俺が子供の頃に語った事を覚えていたようで、面白そうに見ている。
「それ、な……出来れば天竜人を守り支える世界政府ごとぶっ壊したかったけど、そりゃ不可能だって気付いたんだ。無理やり支配は出来ても、俺達の為に命を張って兵士になる人間はいない。人間は魚人の風下には入りたくない……それが本能みたいだ」
「あ、姉様……この男、メチャクチャよ」
マリーゴールドには呆れられたようで、確実にドン引きされている。
これはマズイな。
もう少しフレンドリーにいかないと、ドン引きされたままじゃ交渉どころじゃないぞ。
「笑えるだろ? 6年だ。人を傷つけ、怨みを買って、気になる女にも手を出せず。それでもちゃんとしてりゃあ支配者として認められる。そう信じてやってきたけど根本的に無理だった、って話さ。6年かかってそれに気付いた」
「だから世界政府の打倒は諦めて、天竜人の殺害に狙いを絞るってことかしら?」
「いや、元々俺の目的は天竜人だし。中途半端にひよってねーし。世界政府の打倒も、アーロン帝国もその為の手段だし。それに、この8年だって無駄じゃない。幸い金は十二分に貯まってるからな。後はクズな海軍准将殿から横流し品の武器を調達するだけってトコまで来てる」
横流し品の海楼石。
こいつの数を揃えるのに苦労している。
金に目が眩んだ准将殿が出し渋って値を吊り上げようとしている可能性もあるが、悪魔の実の能力者が少ない
それを
「ほ、本気のようじゃな。それで、わらわが手を貸すと言えば、何をさせようと言うのだ?」
「別に大した事じゃない。聖地マリージョアの中の様子が知りたいだけさ。七武海なら聖地に行くこともあるだろ? 闇雲に攻めてもターゲットに逃げられる。チャンスは一度きりだと思ってる。たった一度のチャンスで、天竜人を皆殺すっ!!」
中途半端に天竜人を殺せば、その後で確実に殺される事になるだろう。
だからチャンスは一度切り。
一度のチャンスで確実に仕留める為にも、聖地マリージョアの情報は不可欠だ。
天竜人の人数と住居にはじまって、建物の配置、護衛の数、海軍への連絡ルート、等々。
どごぞの海兵を買収して情報を得ないといけないと思っていたが、ハンコックが七武海で尚且つ協力してくれるなら、実に有り難い。
「中々面白い話をしておる」
「っ!? レイリーか。まさか、止めるつもりか?」
声がしたので振り返ってみると、いつの間にかレイリーが立っていた。
くそっ。
今日も気付けなかった。
俺はかなり腕を上げたハズなのに、レイリーの気配絶ちに気付けない。
これがそのまま俺とレイリーの実力差。
レイリーの背中が見える位には強くなったと考えていたが、まだまだ遠い存在ってことか。
これで世界最強の称号は別の男が持ってるって話だし、ホントに勘弁してほしい。
「止めはせんよ。君が決めて君がやることだ。だがな、シュヴァ君。天竜人を殺せばどうなるか、君は知っているのかな?」
俺が内心でブー垂れている内にレイリーが左隣に腰を下ろした。
「海軍大将がやってくる……って意味じゃ無さそうだな。殺せばどうなるか、か……」
なるほど。
確かに考えてみればおかしな話だ。
天竜人には、あれだけの傍若無人な振る舞いが出来るだけの理由が有るってことか?
単に世界政府の開祖の末裔位に考えていたが、それだけじゃないのか?
「君がそれを知った上でも尚、行動を起こすというなら止めはせんよ。だが、何も知らずに血気に逸る姿を見ているのは少々忍びない」
「レイリーは其を教えてくれないのか?」
「私が知るのは、私達の答えだ。それが正しいとも限らなければ、君が同じ答えを出すとも限るまい」
「自分で探せってか」
時折、レイリーは面倒な言い回しをする。
付き合いがそれなりに長い俺は、レイリーが言わんとすることを読み取ると、一言に纏めてみせた。
「そういうことだ」
俺の見立ては合っていた様で、酒を口にしたレイリーが満足そうに頷いた。
「まぁ、覚えておくさ」
どのみち力が足りない。
今のままだと聖地に襲撃をかけたところで、失敗は目に見えている。
俺だってまだまだ強くなる余地は残ってる。
当面は
それが済んだら、島の連中に運送業等の経営権を売却してから取引先を引き継いで、インフラ設備を売却する。
そして、アーロン一味は巨万の財を築いた勝利者として魚人島へ凱旋だ。
でも、
造ったのは自分たち?
いやいや、金を出したのは俺達だろ?
人間同士なら通じるハズの理屈が、何故か俺達を相手にする場合に限って通じない。
いや、理由は判ってるんだけどな…………はぁ、めんどくせ。
いっそ、蓄財しているハズの金を根こそぎ奪って去りたくなるが、ここは我慢だ。
無意味な略奪、無駄な虐殺をしてしまえば、俺達は天竜人と同じになる。
と、まぁ、ざっと考えただけでもやるべき事は多い。
出来れば共に聖地へ襲撃を仕掛けてくれる強者をどこかで見つけておきたいが、これは最弱の海と呼ばれる
何処かに命知らずの強者が居れば良いんだが。
「ま、そういう訳だからさっきの話は考えていてくれ。別に今すぐに……って訳でもないからな」
一通り考えが纏まった俺は、ハンコックの方へと向き直ると話を締めくくった。
「…………お主、わらわがこの話を告げ口するとは思わぬのか?」
「そりゃ大丈夫だろ? あんなクズに味方する奴なんて海軍以外にいてたまるか……って言いたいところだが、居るんだよな。でも、まぁ、ハンコックは大丈夫さ」
「何故、そう言い切る? わらわは七武海。言うなれば政府の犬」
「ハンカチをくれたからだ」
実際の所は貸したつもりなのかも知れないが、ここは断固として貰ったということにしておこう。
「ハンカチじゃと?」
「ここであの時、ハンコックは縁もゆかりもない俺にハンカチをくれただろ? それってかなり優しい心があるからなんだよな。んで、優しい奴なら天竜人なんかに味方をするハズがない。だからハンコックになら話しても大丈夫、って訳だ」
「たった……たったそれだけの理由で、わらわに話したというのか?」
「十分だろ? まぁ、これは俺と、俺達魚人の問題だからな。ハンコックが危ない橋を渡ることもないし、嫌だと思うなら断ってくれて構わないさ」
「関係あるのじゃ……」
「は……?」
そう言ったハンコックはドレスをはだけさせると、胸を露にしてから背中を向けた。
いや、眼福だけど背中を向けてから脱いでも良くないか?
こっちはストレスとか鬱憤とか、その他色々溜まってるんだから、毒じゃないけど目に毒だ。
なんてくだらない事を考えていると、ハンコックが長い髪をたくしあげた。
その背に現れる天竜人の紋章。
それが何を意味するのか、俺は知っている。
そして語られた三姉妹の身に起きた悲劇。
聞いてるだけでムカつきが止まらない。
出来る事なら今すぐにでも皆殺しにしてやりたいが、今の俺では力が足りない。
なんでだ?
まじで海軍の連中はなんでこんな天竜人を見逃すばかりか、護るんだ?
訝しげな視線をレイリーに送っても、伏し目がちに酒を口にするばかりで話す気配は全くない。
ちっ……そうかよ。
自分で何とかしろってんだな。
やってやるさ。
さしあたってはこの過去に囚われた三姉妹をどうするかだが……実際のところ、彼女達の苦しみは俺には判らない。
ただ、ハンコックから感じるあの感覚の意味するところが理解出来た事で、
「ふーん……ま、良かったんじゃね?」
「なんじゃとっ!?」
「ハンコック達は今もこうして生きていル。しかも、誰もが羨む美貌と、誰もが恐れる称号までも備えて、ダ。それでウジウジウジウジ悩むなんてバカじゃねーヵ?」
これは半分本音で半分が嘘だ。
俺の母さんは殺された。
それに比べたら生きているハンコック達はそれだけでも恵まれている。
恵まれているハズなのに、天竜人のせいで過去を引き摺り苦しみ続けるなんて、おかしいだろ。
「っ!? …………そなたに話したわらわが馬鹿じゃった。表に出るが良いっ! その減らず口、二度と叩けぬようにしてくれるわっ!」
「おーおー、上等ダ。七武海の力、確かめてやんヨ」
ハンコックが怒るのは当然だろう。
と言うか、怒る様に仕向けたからな。
同じ体験をしていない俺は、ハンコック達の苦しみをホントの所で理解することは出来ない。
今の俺がハンコックにしてやれるのは、怒りの捌け口になってやること位だろう。
怒りに任せて想いのままに暴れる。
これが鬱憤解消に効果アリなのは、アーロン相手に実証済みだ。
鬼の様な形相を浮かべたハンコックの誘いに乗った俺だが、ここで問題に気付いた。
なんだその闘気?
ハンコックって覇気使いか!?
下手すりゃ、死ぬな、コレ……。
しかし、今さら後にも引けずにぼったくりバーから出た俺は、小一時間ばかりハンコックと殴り合うのだった。
◇
「痛てててて………ちったぁ加減しろよな」
「黙らぬかっ。そなたこそわらわの顔を殴りよって」
殴り合いを終えバーに戻った俺達は、カウンター席で隣同士に座り、尚も口喧嘩を続けていた。
と言っても、そこに険悪な雰囲気はない。
そもそもハンコックの方も、俺の安い挑発に敢えて乗っていた節がある。
殴り合いを終えた今は、どこかスッキリした感じだ。
「ハッハッハッ。若いというのは良いものだな」
今日の飲み代は基本的に俺持ちだ。
タダ酒より旨い酒はないとばかりに、レイリーは飲みまくっている。
「黙れ、酔っぱらい。てか、早く止めろよ。死ぬとこだったじゃねーか」
どちらが強かったかは語るまい。
ただ軽く三途の川が見えたとだけ言っておく。
「そなたが貧弱なのが悪いのであろう? あんな程度で
「うるせー。顔を腫らして言ってんな。大体、そんな事は自分が一番判ってる。だから、今すぐって話じゃないって言っただろ」
「やはり、本気なのじゃな」
「当然だ。アレを何とかしない限り、魚人島にはホントの意味で平和はこないしな」
今でこそ少し落ち着いて見えるが、狂ったアレのほんの思い付きの言葉で、魚人の生活は変わってしまう。
例えば、そう……人魚の奴隷が欲しいなんて言われた日には、人買い家業の連中だけでなく、海賊達も魚人島に大挙して押し寄せてくるだろう。
「そうじゃな。そなたが……そなたが、わらわより強くなれば協力してやっても良いぞ」
「いや、別にハンコックが無理しなくて良いし。 聖地とか行きたくねーだろ? たった一度の人生だ。嫌で辛いことなんか忘れて、楽しく生きるってのもアリだろ」
さっきは気軽に頼んでしまったが、ハンコックにトラウマがあるなら話は違ってくる。
別に無理をしたハンコックに頼まなくても、金に目が眩む不正海兵はきっといるし、賄賂に使える金はたんまりとある。
こんなことに関わらなくて済むならそれが一番。
俺だって可能ならこんな事はしたくない。
ただ、俺の場合は二度程被害を受けただけでなく、人生が二度目だからやりやすいだけだ。
「簡単に言うてくれよる。それが出来るなら苦労などせぬ」
「あー……、まぁ、やっぱそうだよな」
心の傷は、つくづく面倒くさい。
掛ける言葉に詰まった俺は、誤魔化すように酒を口へと運んだ。
「はいはい。せっかく再会出来たんだから、物騒な話はこれくらいにして楽しく飲まなきゃ。こんな話より、私はシュヴァちゃんが言った事が気になるわ」
ここで唐突にシャッキーが話題転換を計る。
おそらく重い空気を察したシャッキーなりの気遣いだろうが、なんだろうか。
「俺が言った?」
結構色々喋ったし、何がシャッキーの琴線に触れたのか判らない。
「そうよ。気になる女にも手を出せず……それって一体どういうことかしら?」
「ほぅ。シュヴァ君も色を知る歳になったか」
「うげっ!?」
俺、そんな事言ったか?
言ったんだろな……ここぞとばかりに酔っぱらいが食いついてくる。
めんどくせ。
でも、まぁ、いいか。
酒の肴位にはなるだろう。
「いや、別に大した事じゃないんだ……」
そう前置きした俺は、ノジコとの出来事を語り聞かせた。
悪法であっても法は法とばかりに、単に逆らうだけでなく時には俺達へ改善点を訴えてくる、気が強く一本芯が通った女。
そんな女とある日、
あやしい雰囲気なったこと
据え膳喰わねばとばかりに喰おうとしたこと
その途中、脱げば魚人とバレると気付いたこと
嫌われるのを恐れ、悪態ついて逃げたこと
それからは、気まずくて話していないこと
酒の勢いもあったのだろう。
俺はほぼ、包み隠さず話していた。
そして、
「あ、姉様。この男、ヘタレよ」
「侵略者とか関係なく、ヘタレよ」
「その様じゃな」
話を聞き終えた三姉妹の言葉にキレた。
「あぁんっ? 上等だ! 表に出ろ! その偉そうな口を二度と叩けなくしてやる!」
こうして飲んで暴れての愉快な夜は過ぎていった。
◇
そして一夜明け、魚人島に向かった俺はそこで衝撃的な言葉を聞かされる。
『予言の日は直ぐソコよ。
あなたはこんな所で何をしているのかしら?』
…………は?
ありえんっ。
なんでだ?
もう少し、もう少しで全部上手いくってのに!
シャーリーから予言が変わっていないと聞かされた俺は、ぼったくりバーにリュックを預けると海へ飛び込み、全速力で
口調がおかしい等の感想大歓迎!