少年は甘やかされたい 作:クヤ
誰も言わないけど筆者の中では、いつまでも甘えられなくてストレスだったのさ。
でもちょっと甘さが足りない気もするんだ。
みんなはどうだい?
「レクサスはここに居て。いいね」
「ああ、わかった」
レクサスの情緒を養うために、ミッドから離れた自然公園へと来ていた二人。
引き取られて幾分か経った結果、自分の能力の手綱を握り直すことができていたので、それによるストレスから随分と解放されて、精神的には落ち着きを見せていたが、それは人としての感情を養うことにはなっていなかった。
それで、とりあえず外との接触による刺激のために出かけようと、遊園地やその他娯楽施設を検討した結果、人が少ない方がいいということで自然公園が選択されたのだった。
レクサスの中には、幾人もの記憶があり、それぞれ時代や背景が違ったので、常識という物には疎かった。
結果的にそれらをどれも正しいと扱わないことで、一般人の振りをしていたのである。
新しく得た情報とそれらをくみ上げて今、レクサスという人格を形成している過程であった。
そんな裏背景がありつつ、実際に自然公園に訪れてみると、意外と年寄りの記憶が多かったせいか、それとも崩壊系世界の記憶のせいか、ことのほか自然公園というところを気に入った。
穏やかな表情が多くてフェイトも一安心であった。
しかし、そこで事件が起こる辺り、主人公体質である。
どちらかと言えばおそらくフェイトが。
具体的に何が起きたかというと、よくいる密猟者が、自然公園内の希少生物を狙って現れたのである。
応援を要請され、仕方なく、本当に仕方なく、レクサスを預け戦場へと向かっていったのであった。
「懐かしい。戦場の臭いだ」
自然公園の職員に、あまり構わないでくれるよう要請し、窓の外を眺めながらそんなことを呟いていた。
影を背負ったその雰囲気は、似合っていた。実に似合っていた。
おい、お子様。
レクサスにこの体での戦闘の経験はない、しかし記憶の中で戦っていないことは少なかった。
違法研究者たちが抽出したデータなんてものはそんなものだろうと、戦ったこともないのに不思議なものだと自嘲した。
戦いたいなどと欠片も思わない。
面倒だ。そう思っている。
だがなんだろうかこの胸の内に渦巻くもやもやとした感情は。
「戦えば答えは出るだろうか。なあ?」
「ちっ」
いつの間にか忍び寄ってきていた男に、答えを期待せず問いかけた。
大方人質でも取りに来たのであろう。
舌打ちしてこちらに掴みかかってこようとしていた。
だがこの身に刻まれた戦いの遺伝子は、そんな素人じみた存在にどうにかされるほど生易しくはない。
体に最適化されていなかろうと、人体のどこをどうすればどうなるかを知っていて、人外じみた能力があったのなら、たいていの敵は相手にすらならない。
男が気が付いた時には、肺の中身を吐き出していて、天井を見上げていた。
魔力によって強化された肉体は、男に認識できない程度の速さで殴りつけ、床にたたきつけることなど造作もなかった。
「そのまま、寝ていろ」
倒れた男の顎を蹴りあげると、男の意識は容易く闇に飲まれた。
記憶に刻まれた常識に従い思考が殺害へと傾いたが、なぜか泣き顔のフェイトの顔が浮かんでいた。
こんな敵にもならない敵のために、泣かせる必要はないだろう。
「ふむ、この程度の相手では戦った内にも入らんな。気分は晴れず、か」
そしてそのまま、窓の外を眺める作業に戻った。
「レクサース!大丈夫だった?逃げた密猟者が来たんだよね」
はて自分はなぜこの人間の、泣き顔が見たくなかったのだろうか。
「どうしたの?」
「いやなんでもない」
「もっと子供らしくしていいんだよ?」
「子供らしくはよく分からん」
「私に甘えてくれたらいいんだよ!」
まあ、それも悪くないか。
ぶらぶらと抱き上げられて、見上げたフェイトの顔にそんなことを思うのだった。
「なのはーそれでねレクサスがねー」
「はいはい分かったから。飲み過ぎだよフェイトちゃん」
「いいのーきょうはのむよー」
「そのレクサス君が待ってるんじゃないの?」
「アルフが見ててくれてるし、それに今日は遅くなれって言われたから」
「誰に?」
「レクサスに」
「へー……?」
「やさしいんだー」
「そっかー」
それは帰ってくるなということでは?
酔っぱらいの相手をしたくなかっただけ、となのはの中のレクサス像は言っていた。
「でも、よかったよ。レクサスがちゃんと密猟者を生かしていてくれて」
「あー」
「引き取ったばかりのころのレクサスならたぶんやってた」
「そこまで?」
なのはもレクサスの事情については、一通り聞き及んでいたため分からなくもないという思いもあった。
それと同時に、そんななのかというデータ以外をあまりよく知らないが故の疑問もあった。
付き合いも長く、執務官として下したフェイトの判断には疑問を挟む余地はない。
しかし、それでもまだ幼児と言ってもおかしくない子供がそれほどに殺伐としているというのはどうにも信じがたかった。
「うん。だってあの子、今でもたぶん敵は死ぬものだと思っている」
「資料は見たけど、入力されている記憶がほとんど戦乱期のものなんだっけ」
「たぶんね。本人はぐらかしているからどの程度正確に記憶にあるかわからないけど、ただの森林に涙を流すなんて相当」
「ひどい時代だったらしいね」
「だから、目を離しちゃいけないんだ。犯罪者にさせちゃいけない」
「……そうだね。私たちがもっと頑張らないと」
手にした魔法の力は誰かのために。
「暗い話はまた今度!さ、なのはも飲も」
「よーっし、今日は飲んじゃうぞー!」
■
「フェイトよ」
「どうしたの?」
珍しく言いづらそうに声をかけてきたレクサスに、フェイトが疑問を覚えるのも当然のことだった。
「うむ」
「?」
「その、だな。膝を貸してくれないか」
「膝?」
レクサスと膝の関係が、フェイトの中で線を結ぶことはなかった。
「日ごろから甘えろというだろう?調べてみたところ、膝枕というのが一番わかりやすい甘え方のように思えたのだ。やめろ、その顔は己に効く」
ぱああああ、と輝くような笑顔を浮かべたフェイトに、レクサスはその顔を直視することが難しくなった。
精神年齢の高さを自覚しているレクサスは、最近それを落とそうという努力を始めたのであったが、羞恥心と戦っていた。
まだ子供になり切れていないのだ。
「いや、やはり」
「どうぞ!」
「うぬ」
「どうぞ!」
「……しつれいする」
ささっと姿勢を整えて、ソファの上で膝をポンポンしだした。
レクサスはフェイトの圧力に屈した。
「膝枕とはこれでいいのだろうか」
「いいんじゃないかな?」
仰向けに、寝転がってみたものの、膝枕の経験なんて言うものはないので、何が正しいのかいまいちわからなかったが、フェイトがそういうならそうなのだろうと、納得した。
「そうか、胸が邪魔で顔がよく見えないな」
「そうだねちょっと邪魔かも」
「だが、まあ、悪くはないな」
「そう?ならよかった」
「フェイトの息づかいは、なんだか落ち着く」
「私もなんだかこの重さが落ち着く気がする」
しばらく、二人の呼吸の音だけが、空間を支配していた。
声を出すと、何かが壊れてしまうようなそんな気がしてしまうほど、落ち着いた雰囲気だった。
「なんだか眠ってしまいそうだ……」
「眠ってもいいよ」
「邪魔だろうに」
「甘えるってそういうことだよ」
「そう、か。そうか、も……」
「レクサス?」
くー、と可愛い寝息が聞こえてきた。
「寝ちゃったか」
フェイトは思う。ずいぶんと距離が近づいたものだと。
初めて会ったときはなんだかとても無理をしていた。
きっと、口に出していたこと以上に、不調だったのだろう。
言葉が落ち着くまで、紆余曲折があったけれども、本質は変わっていなかったように思う。
この子はきっと人にすごく気を使っていた。
その視線には、常に観察と警戒が含まれていた。
それに気が付いたのはいつのことだっただろうか。
その姿は、警戒する小動物というより、か弱い生き物と触れ合おうとする子供のようだったように思う。
つぶさないように、壊さないように、大事に大事にするように最大限の警戒。
フェイトの勘違いかもしれない。
でもきっと優しい子だ。それだけは間違いない。
「確かにちょっと邪魔かも」
自らの胸で、眠るレクサスの顔がよく見えないのが残念と言えば残念だった。
「うぬ?」
目を覚ますとずいぶんと息苦しい。
顔には何やらやわこいものが。
(ああ、あのまま寝てしまったのか)
ふしぎなものだ。フェイトの体温はなぜだか落ち着く。
自分はここに何故いるのか。
頭の中には、すでにこの世のものではない誰かの記憶に満ちている。
年代も性別も、区別はなく。
むしろ、人間ですらない記憶すら。
だから今いる自分は誰だっただろうかという疑問が、ふと湧いてくることがある。
昔は薬の影響で、ずいぶんと思考が制限されていたのだなと、良く思う。
軽く研究者を謀ったりしていたが、あんなものは誤差だろう。
違法研究者に人権なんてしゃれたものはない。
実験体にないのに奴らだけあるなんて不公平だから。
最近は色々なことを夢に思い出す。
大抵は戦乱の記憶。戦があるから、人間の記憶のコピーなんてことが許されていたのだろう。
とはいっても、まともに残っているものは少なかった。
読みだせないなら、人間に入れてみようとかバカの発想で、成功してしまっていることが悲しい。
そして目が覚めた時にはその時の記憶に引っ張られる。
いつかは、自分に興味がないといったが、自分がなかったから興味以前の問題だったというべきだったのかもしれない。
故に、他人に興味がなかった。
自分に興味がないものに、他人に興味なんて持てるはずもない。
そういえば、研究者を語る時に、理性的かつ客観的なこき下ろしでなく、感情的かつ憎々しげに語るようになったのは最近か。
この温かさを心地よいと思えるようになったのも、そのころ。
「寝ているのか」
嵌ったくぼみから、頭を抜き出すと気持ちよさげに眠る彼女の横顔が目に入る。
疲れていたのだろうか、まあ、疲れていたのだろうな。
「起こせばいいものを」
既に随分と時間が、経過しているようだった。
太陽が随分と赤く輝いている。
それを純粋に綺麗だと思った。
「これが情緒を養うということか」
綺麗なものを綺麗だと思えるようになる。
これも進歩。
「さて、己はあなたの願うとおりに成長できているか」
成長の仕方など選べるわけもなく、この間抜け面晒している保護者が笑っていられるように育ってくれればいい。
我がことながら、いい加減だ。
いや、我がことだからこそか。
「さて、夕食の仕度でもするか」
レクサスはフェイトを一瞥すると、キッチンへと消えていった。
ただその横顔は、誰も見るものはなかったが、確かな笑みを湛えていた。
いつの間にか、ずいぶんと遠くまで来てしまったようだ(ポイントやお気に入り数)
そして聞いてほしい。
短編ランキングを見てにやにやしようと思ったら、ランキングから卒業してしまっていた(愕然)
そうか、五話から短編には載せてくれないんだね。
知らなかったよ。
だからもう、連載にチェンジするのはいいかな。
この作品は短編なんだよ。
どんなに伸びても短編を貫くよ。
詐欺だと誰からも言われてないけど、あえて言おう。
詐欺である!