ゲート 日本帝国軍 彼の異世界にて、活躍せり 作:西住会会長クロッキー
第一話 異世界軍、撃退す
その日は、夏にもかかわらず少し肌寒かった。街は何故か市民が居らず。そこ居たのは、帝国陸軍の歩兵、戦車、さまざまな種類の火砲などだった。
何故なら、現れた異界の軍勢によって市民が虐殺される。という内容が書かれた謎の予言書が一ヶ月前に、東大寺から見つかったからだ。もし、これが本当ならば?という時の『大星』皇帝陛下の提言により、陸軍が銀座に出動する事になったのだ。
事情を知らされた市民や住民は、警察と憲兵による誘導のもと、一時的に皇居や東京都外に避難した。
銀座四丁目交差点には、有刺鉄線が張り巡らされたり、土嚢が積み上げられていた。その土嚢に身を隠すように歩兵達が九六式半自動小銃や九九式軽機関銃を構えている。
三式戦車改や九八式中戦車・チヌが主砲の照準を交差点の真ん中に合わせる。その背後には、野砲、高射機関砲、自走砲を操作する砲兵達が続いており、最後尾にはもしもの時のために、衛生兵達が待機している。
そして、午前十一時五十分。陽光は中天にさしかかり、気温が少し上がろうとした頃、東京都中央区銀座に突如『
中から溢れだしたのは、中世ヨーロッパの鎧に似た武装の騎兵と歩兵、弓兵、ワイバーンと呼ばれる架空生物に跨る竜騎兵。
そして……ファンタジーの物語や映画に登場するようなオークやゴブリン、トロルと呼ばれる異形の生き物達だった。
しかし、彼らは見たことがない軍勢から放たれた光の弾によって撃ち倒されてゆく。
屈強なオーガが突進を始めるが、三式戦車改やチヌなどの戦車や歩兵が操る小銃、機関銃の集中砲火によって粉砕される。
何とか弾を避けた竜騎兵は、弾幕を張る歩兵に対して急降下をしながら突撃を行おうとするが、二式四十粍高射機関砲や別方向に居た歩兵達による集中射撃によってバタバタと撃ち墜とされる。
亀甲隊列を組む歩兵も持っている剣や槍で攻撃をする前に数を減らす。
帝国の将軍・アルトゥーロは、自軍に向けられて飛び交ってくる閃光を前に戦意が失せそうになっていた。
彼の周りには、つい先程まで言葉を交わしていた部下の遺骸と彼を囲うように展開していた重装歩兵の遺骸が転がっていた。
騎馬の名手と呼ばれている彼は、乗っている馬を飛び降りて真っ先に門の向こうまで走り出したいほど怯えていた。
門を潜った先に街があれば、そこに居る敵国の民を殺し、強姦し、略奪し、殺した敵の遺骸で築き上げた屍の山に帝国の旗を突き刺し、高らかに征服を宣言してやろうかと思ったのだが。
現にアルトゥーロの目には、受け入れ難い光景が広がっていたのであった。
歩兵や弓兵は、閃光によって両手を刈り取られ悶え苦しみ。重装騎兵は、装甲で身を固めた騎馬で駆けるが、無数の閃光によって虚しくなぎ倒され、硬い鱗を持つ翼竜を巧みに操る竜騎兵は、耳をつんざく音や上空に向けられてやって来る閃光によって四肢と上下半身が真っ二つに切り裂かれ、肉片へと姿を変えた。
力を頼りとする凶暴な怪異達は一方的に撃ち倒され、屠殺場に送られる家畜のように泣き悶えていた。
この光景を一言で言い表すならば、『地獄』であった。
アルトゥーロは、目の前に広がる光景を受け入れる事を心の中で拒み続け。気が付けば、自身の身体も前にいた者達と同じように、手足が刈り取られていた。
そして、アルトゥーロは満足できないことに憤りを覚えながら赤く舗装された地面に倒れた。
日本軍による攻撃が止んで分かった光景は、歩兵、騎兵、竜騎兵などの死体によって築かれた屍の山のそばで、兵士達や異形の生物が呆然と立ち尽くしていたり、地面に伏せて怯えているというものだった。これらは全て拘束され、捕虜となった。これに対して、日本側の被害は無かった。
だが、一方的に戦争をふっかけて来たのは、彼らの方である。帝国陸軍は、門の向こうの世界を調査するために、機甲科を中心とする強襲部隊を編成した。
その日のうちに、ティーガーⅠ型・六号重戦車や二式快速戦車などを中心とする戦車隊や、所謂ハーフトラックと呼ばれる装甲車両を装備する機械化歩兵隊が門の向こうへと突入していった。
門の向こうに居た敵は、布陣していたようだが、全て戦車隊や機械化歩兵隊などによって制圧された。続けて、軍や協力を名乗り出た市民、民間企業によって門の向こうの異世界を調査するための拠点の建設が始まった。
『銀座事変』
歴史に記録される異世界と我らの世界との接触は、後にこのように呼ばれることとなった。
始めて予言というものが当たったということに、世界中の人々は銀座事変に関心を持った。
帝国軍が派遣されてから五日後、時の内閣総理大臣である『
「当然のことではありますが、その土地は地図に載っていません。どんな環境があり、どのような人々が暮らしているのか。その文明の水準は?科学技術の水準は?宗教は?統治機構の政体すらも不明であります。
現在。門の向こうの異世界、『特別地域』を略して、特地に我が軍を派遣して調査の真っ只中であります。後には、『門』の向こうの勢力を和平のテーブルに着かせ、再び平和を取り戻しましょう」
約十万人の陸海空帝国軍将兵(今のところ海軍は、航空隊のみ)が追加という形で門の向こうへと派遣されることになった。
派遣される十万人が本土から居なくなるため、本土防衛の臨時募集をかけると、志願する者が殺到した。
こうして、本土の防衛や門の向こうの防衛に盤石な体制を整えた。なお、アメリカ合衆国や大英帝国をはじめとするNATO諸国は、「門の調査には、協力を惜しまない」との声明を発表している。
戸村総理は「現在のところは必要ではないが、情勢によってはお願いすることもありえる。その際はこちらからお願いする」と返答している。
また、ソビエト連邦政府は、『門』という超自然的な存在は、国際的な立場からの管理がなされることが相応しい。
日本国内に現れたからと言って、一国で管理すべきではない。ましてや、そこから得られる利益を独占するようなことがあってはならないとの声明を発表した。