ゲート 日本帝国軍 彼の異世界にて、活躍せり   作:西住会会長クロッキー

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第十話 日本帝国皇帝

ピニャとボーゼスは、揺られながら九三式機動乗用車に乗っていた。二人は、帝国軍・アルヌス基地もとい、アルヌスの丘に向かっていた。

しばらくして見えたアルヌスの風景は、二人の知るものとは一変していた。

ただの土が盛り上がっただけの丘だったはずが、今や城塞がそびえている。

途中で見た特地第二基地よりも堅牢な作りに圧倒された。

しかも、かつて急斜面であったと思われる場所は平らに整地されていたということにピニャは技術力の高さに感心した。

ピニャ達を出迎えるかのように上空を訓練飛行中の戦闘機が五機編隊で飛び去っていった。

そんな中を、第三偵察隊の車列は砂利で整備された道路へとはいった。前哨監視線を越えると、いよいよ日本帝国軍の支配地域である。

その次に見えたのは、ニホンテイコクグンの兵士と思われる男達だった。彼らは先端に短刀をつけた長弩を構えている。その先には、見慣れた歩兵用の甲冑で作られた的があった。

ピニャは、何をしているんだと彼らを見つめていた。

突如、甲高い音が連続して響き渡った。見事なまでの疾さで瞬く間に横一直線に展開すると、的を穴だらけにする。

ピニャはこの瞬間に、門の向こうの世界の戦術を理解し、その戦術を駆使した日本兵達によってばたばたと撃ち倒される騎兵や歩兵の姿を想像した。

最後に見えて来たのは、暴れ狂う巨像にも比肩するほどの約十両の巨大な鉄の塊……ティーガーⅠ型・六号重戦車が轟音をあげて走っていくのが見えた。

六号重戦車の鼻先から突き出ている8.8cm砲が目に入った。

各々の戦車は土の盛り上がったところで停止して、砲塔を左に旋回して、照準を合わせてから甲高い音と共に主砲から火を吐いた。

「あんなに大きな火を吐く木甲車まで……」

ボーゼスが呻くように言った。こんな凄いものを作れるのは、帝国の武器職人や山岳地帯に住まうドワーフにもいないだろうと彼女は考えた。

「鉄の翼竜。火を吐く鉄の木甲車。あんなものを大量に作り上げるテイコクグンはいったい何者なのか?よりによって何故、こんな相手だったのだろうか」

ピニャの呟きに、レレイはついこんなことを言ってしまった。

「帝国は、鷲獅子(グリフォン)の尾を踏んだ」

「帝国が危機に瀕しているというのに、他人事のように……」

ボーゼスの静かな怒りを、レレイは肩をすくめてやり過ごすと言った。

「私は、ルルドの一族。帝国とは関係がない」

続けるようにして、テュカとユノも、手を挙げた。

「はい、あたし達はエルフです」

ロゥリィに関しては、あえて言うまでもないと薄く笑うだけ。

この特地における帝国とは、力による支配が主力であった。だが、支配力が強くても、地方の諸部族や亜人達が心から服していなかった。

この時ピニャは、国の現状を目の当たりにしたのであった。

 

 

 

ようやく目的地に到着したピニャは、アルヌスの丘頂上近くに建設された特地方面派遣部隊本部の看板が掲げられた建物に案内された。

ピニャとボーゼスの二人は制服で身を固めた佐官クラスの兵士に誘われ、階段を上り建物の奥へと迎えられた。

そして応接室に案内され、部屋に入る。

見ると初老の域に達した男が長椅子に座っていた。

灰色に近い髪を持つ。前原と違って少し穏和な笑顔が特徴だった。

男の着ている緑の制服が色とりどりの飾りを施していたので、一軍の最高位の指揮官であるとピニャは自己解釈した。

後から入ってきた前原が傍に立ち、彼に耳打ちするかのように何かを囁いているし、闊達とした振る舞いに、貫禄めいたものを感じられたからだ。

前原に続いて、イタリカで目にした同じ年頃の青年や、男の兵士達も入ってくる。

最後に、レレイが招かれたように入ってきて、初老の男の隣に立った。

初老の男が、笑顔でレレイを労うかのように何かを告げた。

レレイは首を振って、それからピニャの方へと向き直ると、初老の男について「こちらはニホンテイコクグンの将軍、オオタカ閣下」と紹介した。そうしておいて、オオタカに向けて、ピニャのことを紹介している。

「こちらは……帝国皇女ピニャ・コ・ラーダ……ニホン語での尊称がわからない」

「『殿下』がいいと思います。こちらの言葉で、王族の女性につける尊称は……フランセィアでしたか?」

大高は、レレイに確認する。レレイは、縦に首を振った。

「はじめまして、フランセィア(殿下)。そして、ボーゼス殿」

その後、前原達も腰掛けると、レレイの通訳を間に挟んだ会話が始まった。

「協定を結んで早々に、しかも殿下自らお越しに成られたのは、どういったご理由からでしょうか?」

「貴国がどのような国かしっかりと見てみたいと思って参りました」

「なんと。我が帝国をご視察されるおつもりでしたか。そういうことなら……殿下。後はよろしくお願い致します」

すると、傍らに座っていた同じ年頃の青年が所謂最敬礼をしながらピニャ達の前に立った。

「お会いできて光栄です。ピニャ殿下。私は、日本帝国第三皇子・陸奥宮と申します。どうぞ、お見知りおき下さい」

これがレレイに通訳された途端、ピニャとボーゼスの背筋に激震が走った。

ピニャとしては敵の本陣に来たのだから王族系の者がいても不思議では無いと思っていたのだが、いざ目の前に現れると言葉が出なかった。

しかも青年は自身の名を告げたので、ピニャには、「我が名は、ムツノミヤと言う。よく憶えるがいい」と聞こえた。

「ピニャ殿下。明日は、我が国をこの私が案内致します。気になる点がございましたら、なんなりとお申し付けください」

ピニャとボーゼスは、この親切さを逆に怖いと感じた。

無論、レレイが通訳しているので、陸奥宮を始めとする各々の軍人の言葉が、きつく言ってるように聞こえたのであった。

 

 

 

「刀を磨いて寝るか」

残った弾薬を弾薬交付所に返納して、銃を整備して武器庫に収め(室井の三八式歩兵銃に関しては、ボルト辺りに個人的な改造が施されているため、個人所有という形になっている)、車両の泥を落として……などとやっていたら刀を磨く時間もなく、既に陽は落ちて夜になっていた。

さらに報告書とかも書いて、提出して、明日の政府への出頭と、それが終わったあとの行動についての指示を受けたりして……さすがに疲れた相馬である。

とりあえず、デスク前に座って乾パンと金平糖を口に含んだ。

すると、廊下の方から戸を叩く音が聞こえた。

こんな時間に誰だよと思って振り返ると、暗い廊下にレレイがたたずんでいた。

「今日は疲れたろう。俺が送ってやるよ」

レレイは、相馬の前までいくと、杖を投げ飛ばして女の子座りでしゃがみ込んでしまった。

「ここで寝る……おやすみソウマさん」

「あらら……結構疲れてるなこりゃ」

そのまま床に寝転がろうとしたレレイを抱え上げ、自分が寝るために用意した布団に軽く放り込んだ。

彼女に毛布を被せる。

「な、何やってんだ俺」

相馬は、ふと気づいて呟いた。

そう、あと二、三年歳をとったら嫁も出来て子供を持つからおかしくない、と彼は自身の合理化を進めた。

この前のように、誰かに見られちゃったらまた変にからかわられそうだと思いつつも部屋から立ち去ろうとするが、だんだん意識が朦朧とし、睡魔がさらに襲い掛かる。

そして、身体がじっくりと重くなったところで、寝返りをうったレレイが相馬の右腕を抱え込んだ。

「あ、そういえば二日ぐらい寝てなかったよな。俺……」

こうして、相馬の意識が途切れる。

結局の所、レレイの抱き枕にされるという感じで眠ることとなってしまうのだった。

 

 

「これが、門の向こうの世界……帝国の将兵は、ここを見て何を思ったことか」

皇女ピニャ・コ・ラーダは、車に揺られている最中に出たトンネルの先の世界に驚いた。アルヌスの丘は、斜面が急で手付かずの自然が多く。そこから、世界を結ぶ門を越えた途端、目の前に広がった摩天楼に驚愕したのであった。

ニューヨークやロンドンなどといった都市を訪れた人からすると、銀座(この世界の日本では、1960年代前半の街並み)程度で摩天楼はないだろうと思うかもしれないが。皇城、元老院議会堂、あとは軍事用の城塞しか知らないピニャとボーゼスにとって、銀座の街並みでも十分に摩天楼なのである。

「あの中に人も入れるのですね……」

ボーゼスが、門の右側にあったビルの中に居た日本兵を指差しながらそう言う。

もちろん、二人だけではない。

レレイやテュカ、そしてロゥリィすら、目を丸くして呆然と立ちつくしていた。

冬の銀座の真っ只中で、寒さも忘れてずうっとたたずんでいた。

「よし、警護所へ行くか」

そんな五人を後目に、警護所で営外へ出る手続きを終えた相馬に声をかける者がいた。

『憲兵』と書かれた腕章を付けた男と兵士の集団だった。

その代表者らしき人物は、禿頭が似合う三十代前半の男であった。

「相馬中尉でありますか?」

「ええ。そうですが」

「私は、憲兵隊の寺田であります。今回は、皆様の護衛を任されて参りました」

よく見ると、兵士達の背後には約四台の九三式装甲自動車が停まっていた。他国、それも異世界の要人を招いているのだから当然と言える。その要人を歓迎するかのように、三台のAA型乗用車も停まっていた。

「それでは、そこにある自動車に乗ってください。皇居まで我々が護衛します」

『寺田 秀夫』少尉は相馬の前で背筋を整え、ピシッと敬礼した。

 

 

銀座の『門』周辺につくられた、帝国陸海空軍の共同管理区域、後に銀座基地と呼ばれる場所を出ると、いよいよ銀座の街中へと進み始めた。

すると幼い子ども達がするように、特地から来た女性方は初めて見る日本の景色を見ようと車窓にかぶりつきになってしまった。

「こっちは相変わらず賑やかだねぇ」

銀座の街は、九月に恐ろしい予言が的中した現場であったと思えないほどに、たくさんの自動車が行き交い、多くの買い物客で賑わっていた。

一時的な住民の避難から、シャッターが降りて再開の目処の立たない店舗もある。

店主が避難先の場所を気に入ってそのまま引っ越してしまったからだ。

運営そのものが立ち行かなくなってしまった会社もある。あの出来事を機に社員の殆どが転職してしまったからだ。

それでも、多くの人々が銀座を盛り上げ、人を呼び戻そうとしていた。

そんな中で高級車を囲う軍の装甲車が来たので、歩道の群衆は足を止め、あるいは車道の路肩に自動車を止めて相馬達に注目する。それも気にせず一行は、皇居へと向かう。

皇居に到着した相馬達は、厳重なボディーチェックを受けて一人づつ中へと入っていった。

特にピニャとボーゼスの二人は、より厳しいチェックを受けたせいか。この時点で少しくたくたになっていた。

ここで陸奥宮がやって来て、相馬達をある場所へと案内する。

それから案内された先は、二重格天井であり、シャンデリアや絨毯などを取り入れたとされる折衷様式であり、様々な国の使節達が、東洋屈指の大美術であると賞賛したらしい部屋だった。

しばらくすると、戸村内閣総理大臣と高野国防大臣をはじめとする閣僚達が集まって来た。総理や閣僚達は、ピニャとボーゼスに一礼すると、部屋の隅で一列に並んだ。

「聞きたいことがある。ムツノミヤ殿。何が始まるというのだ?」

「殿下に会わせたい人が居ますので。今しばらくお待ちください」

陸奥宮は、ピニャの疑問に応じた。

二、三分経った頃だろうか。帝国陸軍・第一近衛師団の団長が入って来て、一同に最敬礼を行う。それから団長が声を張り上げた。

「大星皇帝陛下、御入来っ!!」

この瞬間、ピニャとボーゼスは鎖で縛られたかの様に硬直してしまった。

門を潜って来て、一番先に連れて来られたこのコウキョという名の城にて、一国を治める皇帝がいきなり来たということに酷く驚いて、小さな悲鳴や声すら出なかった。

そして、大高のものより煌びやかさを感じる飾りを施した衣装を身に纏った貫禄のある中年の男が部屋に入って来た。

ここで、相馬達が最敬礼を皇帝に対して行う。

特地から来た女性達は、空気を読んだのか。皇帝に対して頭を下げる。

 

 

 

「歓迎申し上げます。殿下、そして閣下。ならびに特地住民の皆様方」

この日本帝国の象徴とも言える人物から、歓迎の言葉をかけられたピニャとボーゼスの額には、一筋の汗が滴っていた。

迂闊な行動が国益を損なってしまうからだ。ピニャは、ここに講和をするために来た訳でない。

日本という国がどのような国であるかを見るためと、交渉の仲介を引き受けただけである。

だが、降伏を勧める敗北主義者同様だと揶揄されないために、ピニャはあえて仲介役に徹するのであった。

皇帝は特地の人間を知るために、交渉の要ともいえるピニャらを皇居に招いたのであった。

そして、招いた人々から日本に対する印象とそこからうかがえる特地住民の民心を聞くためにという事をもあった。

「特地住民代表者のレレイ・ラ・レレーナ殿にお尋ねしたいことがあります。特地からの報告で知ったことなのですが……あなたが我が国の言語。すなわち日本語に興味を持ったきっかけは何でしょうか?」

「それは、貴国の兵士達。特にこちらのソウマ中尉の人柄の良さから、貴国の人々と馴染みたいと思ったことと、今後私が異国の語学を知る上での教訓として役に立てたいと思ったからです」

「なるほど……貴女が我が国の言語に興味を持って頂いたことを感謝致します。これからも勉学などを頑張ってください」

皇帝は、頷いて感謝と励ましの言葉をレレイにかけた。

レレイも感謝の意を込めて軽く頭を下げた。

その次にテュカに声を掛ける。

「私は、エルフ、ロドの森部族マルソー氏族。ホドリュー・レイの娘、テュカ・ルナ・マルソー」

「失礼ながらお聞きしたいことがございます。貴女は巨大な飛竜に襲われた後に助け出された民間人の一人だと伺っています。我が帝国軍は貴女に対してどのように扱って来たかお伺いしたい」

レレイが皇帝の言葉を通訳すると、テュカは「なんだそういうことか」という表情をした。テュカはすぐに答えを返した。

「緑の人……ニホンテイコクグンは、村を襲っていた炎龍を退けてくれたうえに、私達を助け出して、贅沢みたいな感じの生活をさせてくれました。なので、話からは遠ざかりますが。貴方達ニホンテイコクグンには、とても感謝しています」

テュカの答えを聞いた皇帝は、頷いてレレイにしたのと同じように感謝と励ましの言葉を掛けた。

皇帝は、最後にロゥリィに声を掛ける。

「貴女は……エムロイの使徒と呼ばれる亜神の一人でお間違いないのですね?」

「あらぁ、日本帝国の皇帝にまでお見知り置き頂けるとは、嬉しいわ」

ここでいきなりロゥリィが達者な日本語で喋り出したため、相馬は「いつの間に覚えたんだよ」という表情で驚いた。

「さっきまでのレレイやテュカに対する質問を聞いていて思ったのだけど……この日本帝国は、巨大な国でありながら民を愛する良い国なのね。それも程よく行きすぎないほどに。九百六十一年生きているけど。こちらの世界にもこんな国があったら……と、時々思うわ」

ロゥリィは、ピニャの方を見る。

ピニャはそんなことよりもロゥリィが急に日本語を話し始めたことにきょとんとしていた。

「なんと、もう看破されましたか。はい、我が帝国が開闢して以来三百年間。国と民が共に危機を乗り越えて来ました。時には、お互いが傷つき合い、悲しみ合うこともありました。ですが。どんな時も民を愛するという事を忘れなかった祖先達のお陰で程よく行きすぎないほどに民を愛せる国になれたのです。これを神に仕える使徒様が我が国の国是を賞賛して頂けるとは、極めて満足でございます」

ロゥリィが日本を賞賛した事に対して、皇帝は感謝の言葉を述べるとともに、ロゥリィに軽く日本の成り行きについて説明した。

そして、最後の最後に皇帝はピニャとボーゼスに声を掛けた。

「我が日本帝国そして、国民や私は世界を超えて貴国と助け合うという事を望んでいます。また、講和が成立すれば現在は、犯罪者として収監していますが。貴国の軍の生存者一万人を返還したいと考えております。また、貴国を屈服させて支配しようとは考えてもいません。ですが。何らかの譲歩は期待いたします」

ピニャは皇帝の一言が威圧的ではなく、丁寧に聞こえたのであった。そして、ニホンという国が捕虜というものをどう扱っているのかを学ぶとともに、民を愛する国について学んだのであった。

こうして、歴史の教科書に記される事がない日本帝国の皇帝大星と特地住民らとの秘密の交流は幕を下ろしたのであった。

 

 

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