ゲート 日本帝国軍 彼の異世界にて、活躍せり   作:西住会会長クロッキー

12 / 19
第二章 講和模索編
第十二話 来訪者達


日本帝国軍による異世界進出から六ヶ月後

特地派遣部隊隊舎

「エルベ藩王国の国王が、ここの診療施設に入院している?」

大高弥三郎陸軍大将の話に前原一征海軍少将は、驚きを隠せなかった。

こんな重要な人物が身近にいたとは。もし本当なら、藩王国との国交が成立する機会があった。

「本物なんですか?」

「ええ。先ほど、白石大尉から連絡を受けまして。フォルマル伯爵家のカイネ氏と大尉が本人と会話になったということで、間違いがないようです。私もそうですが、彼女も大いに驚いていましたよ」

大高も抜け目なく、カイネや他のメイド達に国王が本物かどうか確認させたようであった。

それから、前原は診療施設の病室へと赴いた。

前原の見た光景はベッドに座った隻腕隻眼の初老の男性が、晩飯をがつがつと口に運んでいるところだった。

病み上がりとは思えない健啖ぶりである。

「おおっ、来たか。待っておったぞ……」

デュラン王は、前原の顔を見るなり、待ちくたびれた感じの表情で前原に声を掛けた。

それからお互いに軽い自己紹介をし合った。程なくして静かな交渉がはじまった。

まず前原は、国境を越えての軍事作戦。炎龍討伐に関する交渉について語り始めた。

「という訳で……我が軍の戦闘機が貴国の山岳地帯の方へ飛び去って行くのを目撃しています。我々としては、今後の脅威となりうる炎龍を討伐したいのです。そして、炎龍の生息地を明確に知るために我が軍の一部を貴国に派遣したいのですが……」

「炎龍の討伐じゃと?実に面白いではないか……じゃが、その前にやってもらいたいことがある」

デュランは前原に、二通の信書と手描きの略地図を差し出した。

「そこでな、この手紙をクレムズン公爵と、ワット伯爵に送ってくれ。この二人は私に味方してくれる。場所も地図で示しておいた。この二人を通じて、国内の有力な貴族をまとめて貰うつもりじゃ」

「我々をお家騒動に巻き込まれるつもりですか?お家騒動ならば、宗主国ともいえる帝国にお願いします」

するとデュランは「帝国はもう嫌じゃ」と顔をしかめながら前原に言った。

前原はデュランが帝国に対して相当な恨みを持っていることを察してしまった。

「それで、炎龍以外に我が国に対して何を要求するのだ?」

デュランは前原が思ってもみないことを口にした。それは、取引の材料を増やしたかのようであった。

前原は、あえて遠慮無く欲しいものは欲しいと素直に告げることにした。

「地下資源の採掘権。様々な税の免除。国交の正常化、同盟の締結」

「ほぅ……良いことを言うではないか。じゃが、金山と銅山は、我が国の富の源泉じゃ」

「ことごく寄越せとは申しません。金銀銅山については三割。そして金銀銅以外で、有望な資源があれば、全てということで」

「譲歩をしてくれるという訳じゃな。しかし、貴殿が金銀銅以外は全て寄越せと口にする理由じゃ。妙に気になる。金銀銅以外で価値のあるものが、我が国に埋まっておることを知っておるではないか?」

「ええ。知っていますとも。教えなければならない理由等はございますか?」

「……見た目に反して欲張りな者じゃな。分かった。金銀銅などの貨幣に用いる鉱物以外の、地下資源一切と免税、国交の正常化と同盟の締結じゃな」

「陛下も譲歩をされるわけですか……感謝いたします。では、我ら帝国軍が、陛下のご帰還を護衛いたします。ドラゴン討伐の段取りのためです」

「よし。我が国はニホンテイコクと同盟関係じゃな。仲良くしようではないか」

「ええ。私や我が国は、貴国と共に繁栄することを望んでいます」

こうして二人は、手を握りあった。

この交渉は日本帝国やデュラン王のエルベ藩王国の両者にとって都合の良い結果となった。

 

 

 

ダークエルフ族の女性、『ヤオ・ハー・デュッシ』は困り果てていた。

『アルヌスの街』と呼ばれるようになったアルヌスの丘に居るとされる『緑の人』を探しにやって来ていた。

彼女がこの街にやって来た理由は、同胞の敵討ちの依頼。つまり、炎龍討伐を緑の人に呼び掛ける為であった。

ヤオ達ダークエルフ族が住んでいたシュワルツの森は、片腕を抉られた燃え盛るような赤い鱗を持つ炎龍によって襲われた。

各々のダークエルフは、散り散りに逃避行を始めた。

いつまでもこうしているわけにはいかないので、ダークエルフ達を束ねる長老達は、緑の人達に救済を呼び掛ける遣いにヤオを選んだ。

ヤオは、平穏な日々を取り戻したいと考えていたので、長老達の意見を積極的に聞き入れ、緑の人達を探す旅に出るということにした。

ところが、いざ街に着いてみると緑の服を着た男女が多く、誰に声を掛けて良いか戸惑っていた。

そして闇雲に探しても見つかるわけがなかった。

「ダークエルフの姉さんよぉ〜。誰を捜しているんだい?」

「緑の人だ」

ヤオは、理由を述べつつ流暢な言葉に振り向いた。振り向いた先には、ここの国の住民であることが分かる男が立っていた

次に男は、ヤオにこう言った。

「緑の人なら、俺が居場所を知っているから案内してやるからさ」

それはありがたい申し出だったので、ヤオは親切を受けることにした。

この男は、ヤオの手をとってから街を出て、森の暗がりへ連れて行こうとしたのだろう。すると、どこからともなく男を呼び止める声が聞こえてきた。

「ん?なんだ……?!」

「どうしたというのだ?」

ヤオは、男の驚いた表情に疑問に思いながら男が見る先に視線を向ける。

彼女の目には、少し青みがかかった髪を持つ青年とその取り巻きと思われる見たことがない言葉が記された腕章を付けた緑の服を着た者が映り込んだ。

「女性を連れて街を出ようとしているなあんた」

「あっ……え?何のことかなぁ?俺はこの姉さんを緑の人達のところへ連れに……」

緑の服を着た男こと、憲兵に問い詰められた男は、目を回しながらしらばっくれる。

「この男の特徴からして……暴行未遂犯の特徴に合致しないか?」

「そうですね。おい君、ちょっと付いてきてくれるかな?」

「………」

男は憲兵達に両腕を持たれると、無念と言わんばかりの表情で下を向いていた。

ヤオは、「ちょっと待ってくれ」と言いたかったが。それはすぐに解決した。

「貴女は、緑の人を探しているそうですね。それなら私について来てください」

「ああ、分かった」

ヤオは、少し青みがかかった髪を持つ青年……前原に疑問を抱きながらついて行くことになった。彼が緑の人の仲間だと知らないまま。

「遠路からはるばるおいで下さりありがとうございます。是非、炎龍という巨大生物の討伐に乗り出したいとこちらも考えておりました。ですが、こちらもあるお方との交渉を終えたばかりなので。炎龍討伐の段取りに時間がかかると思います」

「なるほど……」

大高は、賛成の言葉を口にしつつ、時間がかかるということをヤオに伝えた。

緑の人……日本側の状況を理解したヤオは、大高の言葉を信じて特地派遣部隊隊舎を後にした。

この後、前原の勧誘によりヤオはアルヌス基地に留まることになったのであった。

 

 

 

炎龍討伐の段取りに時間が掛かるもう一つの理由として、日本帝国軍は炎龍討伐の前にヴォーリアバニー族の女王とその同胞達を救出する作戦を決行しようとしていたからだった。

ここで時は少し遡る。

ピニャが帝国に帰国してから、交渉は順調に進むはずであったが、対日強硬策を打ち出した帝国の第一皇太子『ゾルザル・エル・カエサル』とポダワン伯爵らの継戦主張により、交渉は齟齬を見せていた。

そんな状況を打ち破るかのように、ピニャ達が帝国に帰国してから三ヶ月後に、ゾルザルらによって迫害されたヴォーリアバニー族と呼ばれる亜人達が、アルヌス基地へと亡命しにやって来たのであった。

そこで状況進展の起爆剤になると考えた大高や他の特地派遣士官達は、帝都に捕らわれているであろうヴォーリアバニー族達とその女王の救出作戦を練ることにした。

彼女達が亡命しにやってくるまでの経緯を一人のヴォーリアバニーを用いて説明しよう。

発端は、帝国軍によるヴォーリアバニーの王国の侵攻だった。

それは軍事的な攻撃というよりは、狩猟であった。

そう、奴隷狩りと呼ばれるものである。無駄な犠牲と労力をもってする非効率的かつ後進的なものであった。

当初は、ヴォーリアバニー側が優勢であったものの、優れた装備と数のごり押しによってヴォーリアバニー側の王国は敗北してしまったのである。

敗残したヴォーリアバニー達は、兵士達に凌辱され、ある者は彼らが連れてきた怪異達によって遊び道具のように嬲られ。

暴行を受けなかったヴォーリアバニー達は、奴隷市場に売り払われた。

もちろん全員が捕らえられた訳ではない。一部で、なんとか逃げ落ちることのできた者もいる。逃げ落ちた者は、三つに分かれた。

一つ目は、食料になる果物や動物類が豊富な地でゲリラ戦を行いつつ再起を図る。

二つ目が身分を装い、帝都の悪所に流れて身売りなどをして生計を立てる。

三つ目が奴隷にされる覚悟で緑の人の軍団に身を寄せる。

以上の三つが逃げ落ちた者たちに突きつけられた。

そんな彼女達に、ある時希望の光ともいえる噂が耳に入った。

イタリカを襲撃していた盗賊を緑の人達が様々な魔導を用いて撃滅し、その上慈悲深い対応をするや、野生の怪異に襲われそうになったところを『ショウジュウ』と呼ばれる魔導兵器を使って助けてくれた。という噂を耳にした。

これを耳にしたヴォーリアバニーの一人である『デリラ』は、仲間と共に身を滅ぼす覚悟で緑の人がいるアルヌスの丘に向かったのであった。

意外にも、緑の人は襤褸を身に纏い、傷だらけのデリラ達を手厚く出迎えた。しかも、達者な言葉で分かりやすく。

さらにデリラ達を驚かせたのは、衣食住の全てにおいて不満な点がないということであった。

極め付けは、緑の人……ニホンテイコクグンが帝都に囚われているであろう同胞の解放に協力的な態度を示したことだった。

デリラとて、最初こそ何かの罠だと思ったが。次第に交流を重ねていくうちに完全に緑の人を信頼できたのであった。

こうして、虐げられている奴隷達を解放することによって、帝国の頑迷な主戦派や日和見主義者に日本の強さを思い知らせるためでもあり、『門』の向こうの世界の国家がどのようなものであるかを思い知らせるための軍事作戦が実行されようとしていた。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。