ゲート 日本帝国軍 彼の異世界にて、活躍せり   作:西住会会長クロッキー

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第十三話 奴隷解放作戦 前編

帝都南部・第一皇太子居館

その居館の主人たる男、ゾルザル・エル・カエサルは、沙の天蓋に覆われた寝台に座り込み、頭部に二つの白い兎耳を持つ女性の首を軽く締め上げていた。

「で、殿下。お許しを……」

「ふんっ。ヴォーリアバニー族の長はその程度か?もっと良い声で苦しめ。苦しめっ!」

程なくして意識が朦朧としていた兎女に対して、ゾルザルは飽きた玩具を放り出す赤ん坊のように、女性を突き飛ばした。

女性はこれに慣れていたのか、すぐに起き上がった。

だが、起き上がるたびに身体中の痛みが女性を襲う。無論、彼女の身体には複数のアザと、擦り傷、微々たる程の切り傷といった度重なる暴力の痕跡で覆われていた。

「我が同胞にお情けを……」

続けるようにして女は、小さく震えるような声を上げた。

「ほぅ。流石はヴォーリアバニーだな……満足した。帰れテューレ」

ゾルザルはめんどくさそうにそう言うと、ヴォーリアバニーの女『テューレ』が着崩れた襤褸を整えてからゾルザルの部屋を後にした。

ゾルザルは舌打ちすると、「この頃、敗北主義者共が煩くて、苛々するばかりだ」と呟いた。

すると、その独り言に応える声があった。

「失礼いたします殿下。悪所に関する報告に参りました」

主戦派のポダワン伯爵であった。

「ん?名の通り汚らわしい場所のことか。それがどうしたのだ」

「近頃、チンピラ共が妙に大人しいのです」

「大人しいだと?」

「はい、殿下。アルヌスから帝都を往来している商人の拠点付近でチンピラの死体を見かけることが多くなったと近衛の兵士達が噂にしていたので、密偵を派遣したところ。早朝まで(やかま)しい悪所の酒場も静まり返っていたそうです」

「静まり返っている。良きことなのではないのか?帝都の汚点が少しでも無くなるのだから」

「さらには、悪所を取り仕切っていたベッサーラという者が身体中を刃物と思われる物に刺された状態で死体として見つかったそうです。それから悪所は元来からの陰惨な空気が薄れつつあるとのことです」

「ほぅ。面白い報告じゃないか。だが、俺はあそこが好きじゃないんだ。そんなに気にすることは無いだろう」

「し、しかし……」

「しかしもこうもあるか。また騒がしくなったら軍を赴かせて大人しくさせたらいいではないか。丁度、第Ⅳ軍団の視察に行こうとしていたのだ。十五万人から二十万人に増えた兵の士気を確認しに行く為にな。ポダワン伯。俺は出掛けるぞ」

ゾルザルは、部屋の外にいた取り巻き達に「いくぞっ!」と声をかける。

その背中を見送ったポダワン伯は、額に手を添える。

「殿下は、唐突な変化に不安にならぬというのか」と不安げに呟いた。

 

 

その夜、第一皇子居館と帝都の奴隷市場は血煙と悲鳴で溢れた。

遠くの空から甲高い音が鳴り響いたと思うと、しばらくして爆発音が響き渡った。

この一瞬で、緑の服を着た者達が居館や市場に居た奴隷達とともに、鉄の木甲車に乗り込んでアルヌスの丘がある方へと走り去ったようだ。

帝都の住民達は、貴族や奴隷商人同士の小競り合いと考えた。また、それと同時に響いた甲高い音や爆発音が人々の関心をそそらせた。

そして、明るくなって分かった光景は、ズタズタになったチンピラ達の死体が奴隷市場で多く横たわっているというものであった。また、第一皇子の居館のありさまはもっと凄かった。居館の警備兵達は身体中に穴を開けられているか、頭部を刈り取られた状態で死んでいた。

その主人である皇子に関しては、別人のようになって自分の部屋でうずくまっていたそうな。

時に、正和(しょうわ)二十一年三月。霞部隊と第三偵察隊による奴隷解放作戦が行われた結果であった。

ここで時は、六日ほど遡る。

「帝都強襲隊は、作戦開始の三日前には特地第三基地へ移動せよ。霞部隊の目標は、サデラ山中腹にある南宮……帝国第一皇子の居館に捕らわれているとされるヴォーリアバニー族の女王の救出とその他の虜囚の解放。また、第三偵察隊は、悪所付近の奴隷市場から虜囚解放を遂行せよ。なお、帰還する時は、特地第三基地で輸送機に乗り換え、そのままアルヌスに帰投せよ。以上が作戦内容だ。そして、本作戦の要は速さである」

霞部隊総指揮官、千葉州作少将は指揮棒で机の上に置かれた地図を軽く叩きながら隊員達に説明する。

また、作戦開始の三日前には悪所に潜伏している深部偵察隊に向けての物資の空中投下が行われた。

当然のことながら、この特地には電波探知機といったものが無いため、易々と帝都上空に侵入し、物資の投下を行うことができた。

斯くして作戦開始の準備を整えた帝都強襲隊隊員は、英気を養いつつその日を待った。

 

 

特地第三基地

「神よ。天地を支える、使徒よ。我が祈りをここに捧げる。この身を供犠として、我は祭祀の炎をくべる者なり……。戦いの神エムロイ、冥府の王ハーディ、盟約の神デルドート、復讐の神パラパン」

デリラは複数人の仲間と一緒に祈りの言葉を口にしつつ、テーブルにしつらえた小さな祭壇に向かった。

既にその身は、戦衣や化粧につつまれていた。

「この身はこの時より、敵たる者の命を奪う一振りの剣と為らん……」

それは、ヴォーリアバニー族の祈りだった。

彼女達は、祈りを終えると部屋を出た。

その先には、戦闘服に身を包んだ白石紀子大尉が立っていた。

「祈りを終えましたか?六時間後に作戦開始なので。それまで必要な段取りをしておいてくださいね」

「ああ、分かったよ。あたいは、あんた達ニホンテイコクグンが仲間を助け出してくれるということにとても感謝してもしきれないほどだよ」

「そう言ってくれると嬉しいわ……変なことを言うと思うけど、私はまるで誰かの敵討ちをしたり、何らかの雪辱を晴らす気分になれる気がするの」

白石はそう言いつつ、自身の胸の真ん中に手を添える。その瞬間に、彼女が前世で経験してきたであろう苦い記憶が蘇った。

だが、彼女はすぐに立ち直った。

今度は、自分が助ける側になるんだ……と。

「あんたがどんな思いを受けたのかは、あたいは知らないけど。あんたの気持ちに共感が持てるよ」

デリラは白石が考えてることを理解したのか、共感の言葉を漏らした。

それから、二人は外の夕日を見つめながら静かに笑い合った。

 

 

悪所から少し離れた南東門付近

月に照らされた街路を第三偵察隊の隊員達が駆け抜けていた。目標である奴隷市場に向けて。

隊長である相馬が、小銃を構えながら周囲を見回す。さすがに夜中なので周囲には、敵と言える者が居なかった。だが、街中ということもあり、路地裏から敵が不意打ちを掛けてくると考えられた。

現に、先のアルヌス強襲において、敵が死体に紛れて、近づいて来た兵士に対して短刀やボウガンを用いて不意打ちを掛けてきたことが原因で、微小ながら怪我人が出てしまった。

相馬は、これを教訓として作戦に勤しんでいた。

「我々は、虜囚の人々を解放した後に、一度この帝都を離れますが。再びここに戻るのは、いつぐらいになりますかね?」

「分かっていることだけで言うと、俺達は帰還したらそのままアルヌス基地に留まるみたいだ。だから、いつここに戻るのかは分からない」

相馬は、富河の質問に応じつつ先陣をきっていた。それからさらに前進していると、暗闇の中にぽつりと火が灯っているのが、目に入った。ここが帝都唯一の奴隷市場である。

この奴隷市場の特徴は、日本でいうところの長屋のような建物が二軒ほど立ち並んでおり、周りは高い塀で囲まれている。

一軒につき、奴隷達が二、三十人ほど収容されている。

さらに警備も厳重で、長屋の周りには槍を持った男達と入り口には怪異使いのものと思われる四匹のオークと、弩を持った二人の主人が入り口に陣取っている。

「正面から突っ込んで奴らの仲間が出てきたら面倒なことになりそうだな。室井ちゃん狙撃の方を頼んだよ」

室井は、「了解」と言いつつ三八式歩兵銃に暗視スコープを取り付け、引き金に指を重ねる。

瞬く間も無く、ボルトの操作を素早く行いながら五発ほど敵の頭部に撃ち込む。

室井は、先に二人の怪異使いを仕留めたため。オーク達は、二人の主人が急に倒れたせいでパニックになっており、賢明な判断が出来ずに主人達と同じように撃ち倒された。

「いいね。よし、行こうか」

相馬の指示を受けた隊員達が、相馬の後に続いてゆく。市場に入った隊員達の一部は、敵を一気に撃滅するために、小銃の銃口に擲弾を取り付ける。

入り口の様子を不審に思った九人の男達が、近づいて来るのが分かる。

「よし、撃て」

相馬の指示を受けた『木場(きば) 寛人(ひろと)』上等兵、『古川仁(ふるかわ ひとし)』伍長、『楠木(くすのき)(わたる)』一等兵の三人が擲弾を一斉発射する。

無論、擲弾が発射された音が分からない男達は、迂闊に近づいて行くままなので、そのまま擲弾の餌食となる。

流石に大きな爆発音が三発も響いたせいか、数十人が駆ける音が聞こえる。

「おやっさんと田中二等兵は、機関銃を準備してくれっ!他のみんなは、小銃で一斉攻撃だっ!」

『了解っ!』

隊員達は、敵を迎えるために一旦入り口まで退いて手榴弾や小銃、機関銃を構える。

そして、敵が相馬達を視界に入れた時には、もう遅く。一方的に撃ち倒され、吹き飛ばされていった。

ここで初めて敵の悲鳴と相馬達の攻撃による爆発音や銃声が本格的に市場中に響き渡った。

市場の警備を排除した相馬達は、奴隷達が収容されていると思われる建物の扉にかかっていた錠と鎖をワイヤーカッターで壊し、扉を開ける。

扉を開けた先には、ヒト種からさまざまな種類の亜人種達がいた。驚くことに、みんな襤褸を身にまとった女子供ばかりだ。そんな彼彼女らは、不思議そうに相馬達を見つめている。しばらくすると、 ヒト種の少年がウトウトしながら相馬のもとに歩み寄ってきた。

「おじさん達は、誰で何しに来たの?」

「おじさん達は日本帝国軍。君たちを助けに来た。ただそれだけさ」

相馬がそう言った瞬間、人々は立ち上がって相馬達のもとに駆け寄った。人々は、これまで絶望的な状況下に置かれてきたせいか、完全に相馬達を信用していた。

それから相馬達は、人々の手錠や足枷を工具で壊していった。

「では、皆さん。我々と共にここを出ましょう」

相馬は人々を建物から連れ出すと、向かいの建物からヴォーリアバニー族を連れた大滝達も出て来た。

「よし、特地第三基地へ向かうぞ。他の隊員は警戒しつつ前進せよ」

見事に奴隷を解放した相馬達第三偵察隊は無事に悪所を通り抜けいった。偶然にも見張りが居なかった南東門の前では、特地第二基地所属の輪島新太郎曹長の機械化歩兵隊が待機していた。

「お久しぶりであります相馬中尉。我が隊は、万が一に備えてハーフトラックを備えてやって参りました」

よく見れば、ホハ改ではなく。アメリカから供与されたであろう六台のM3ハーフトラックが停止していた。

「ありがとう輪島曹長。さっそくで悪いのだが、我々を第三基地へ送ってくれ」

こうして相馬達第三偵察隊は、解放した人々とともに帰路についた。

 

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