ゲート 日本帝国軍 彼の異世界にて、活躍せり   作:西住会会長クロッキー

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第十五話 元総統と元老院

帝都・元老院議会堂

「陛下にお尋ねしたい。アルヌスの異界の軍勢この呼び掛けに対して、どのような対応をご講じられるおつもりか」

元老院議員のカーゼル侯爵は、以前のように議会堂の真ん中に立つと一枚のA4サイズほどの紙を持ちながら玉座の皇帝モルト・ソル・アウグスタスに向けて歯に衣着せぬ言葉を突きつけた。

薄闇の広間ともいえる場所が議員達の騒めきによって色んな意味で煌びやかになっていた。

何故なら、東の空が白んで変わらない帝都の朝を迎えたところ、天空を切り裂く大音響が響き渡った。

それは暴風にも似た、腹にも響く大音響であった。

四体の巨大な翼竜のような飛行物体が天を闊歩するように横切ると、そこから投下された紙が、帝都に降り注いだのである。

人々は逃げることなく、降り注いできた紙を手に取った。

しかも、それは帝都だけでなく。イタリカ、ロマリア山地と呼ばれる地域の近くにある学都ロンデルにまで降り注いだという。

市民。特にこのファルマート大陸において博識な者達が住まうといっても過言ではないロンデルの市民達は、その紙に記された内容に強い関心を抱いた。

これは、第三偵察隊と霞部隊が帝都から撤収した直後に、空軍長距離爆撃隊所属の四式超重爆撃機・富嶽から大量のビラが投下された後だった。

その紙の内容は次のようなものだった。

『我が日本帝国は、ファルマート大陸の非ヒト種民族や少数民族の悲惨な現状を大いに憂い、我ら日本民族の総力を挙げて、決起するものである。また、我が帝国はファルマート大陸の民との共栄を望むものとする。最後に我が帝国と共に共栄を望む者をアルヌスの丘にて待つものとする』

要するに日本帝国は、これ以上戦争を継続するなら帝国に対して民族解放戦争を辞さないという姿勢を示したのである。

とはいえ、自分達の権威の醍醐味である帝国中にばらまかれたこの紙の内容に元老院議員達は圧倒されていた。

「事の次第は、昨晩に帝都の悪所付近にあるとされる奴隷市場と皇子ゾルザル居館に襲撃を仕掛けた敵の行いに始まる。敵兵は、ゾルザル殿下がアルヌスでの開門直後に行ったとされる蛮族征伐戦で奴隷にしたヴォーリアバニーの女王や他の虜囚を連れ去ったそうです。間違いありませんな。皇帝陛下そして、殿下」

見ればゾルザルが、畏まった態度で皇帝の傍らで静かに頷いた。

これにはハト派タカ派の議員問わず。多くの議員達が彼の態度の変化に驚きを隠せなかった。

「はい、私の居館に強襲を掛けた敵は私の奴隷達を連れさらい。その上、私の優秀な部下達と衛兵達を殺戮しました。(この無能が日頃からいかに粗野な人物であったことが分かるな……お陰で周りのローマもどき共からざわつかれるわけだ)」

ゾルザルいや、彼の肉体を乗っ取っているフレーリッヒ“元”総統はいささかな苦労を感じていた。

すると、タカ派の座席に腰掛けていたポダワン伯爵が声を上げた。

「皇帝陛下っ!敵が異常なまでのお人好しとはいえ、このまま手をこまねいていると、帝国内の他民族や帝国に反感を持っている諸外国で帝国打倒、民族独立の火の手が上がりかねませんっ!また、このままだとニホンテイコクと名乗るこの国が正義の味方で我々が悪として誹りを受ける事でしょう。陛下っ!今こそ我が帝国が勢力の拡大を図る絶好の機会です。国家の機能が失われつつある諸外国を服従させ、帝国の威光を強大なものとしましょう。そして、来るべき敵との決戦に備えるべきですっ!!」

彼はこの特地の常識に従ってお得意の主戦論をもって皇帝に呼びかけるが、直後意外な人物が彼を制止した。

「待たれよポダワン伯爵。貴公はまだ敵を侮っているのか?仮にも、敵はアルヌスに赴いた十万の将兵を二日足らずで葬り去ったのだぞっ!真実を明かせば、今朝私の邸宅の庭に五体の翼竜と身体中を抉られた竜騎兵達の死体が転がっていた。その側に立っていた警備兵に訳を聞くと、敵の巨大な翼竜が、尻尾のようなものから放った火花で竜騎兵や翼竜を粉々にしたそうだ。私はこの時思った。アルヌスの敵………ニホンテイコクの軍は帝国や連合諸王国軍の兵士達をこのようにして葬ったのだと……」

タカ派の重鎮ともいえる『キケロ・ラー・マルトゥス』卿は少し興奮気味で語った。

この一言は、タカ派の議員達を唖然とさせた。

さらに議員達を驚かせる事実が、初めて元老院に招かれたピニャによって語られた。

彼女は事の次第を時系列に従って、説明し始めた。

「そもそも、妾が彼らと出会ったのはイタリカにおいてだ。敵は弓も届かないところに立つ魔導兵器を兵達に当たり前に持たせている。それだけではないぞ。彼らは火を吐く鉄甲車ともいえる魔導兵器を持っている。現に妾は、盗賊の軍勢に押されているところを彼らが操る鉄甲車で助けてもらった。また、この世界における翼竜の鋼鉄版ともいえる魔導兵器を持ち、空から盗賊達を強大な魔導を使って滅却した。妾は、ニホンテイコクという門の向こうにある国を見てきた。あそこは、この帝都を遙かにしのぐ、摩天楼のごとき世界だった。それは地上をことごとく埋め尽くして、天空への広がりを見せていた。そして、この国を治めている皇帝は言った……『民を愛する国』であると。この一言は、正真正銘のものであった」

帝国の為政者達は、自分達が何者と戦争を行なっているかを知ることとなったのである。

実際に日本軍による攻撃を目の当たりにしたキケロ卿は、共感するように頷いた。

ピニャの話を聞いた議員達は講和派、徹底抗戦派、日和見派の三つに割れた。しかも均等に。

そのうち議員達は、誰一人と声を発することなく黙り込んでしまった。

すると、今まで黙っていた皇帝がゆっくりと口を開いた。

「皆の者。これだけは覚えていてほしい。民を愛しすぎる国はいつか滅びるということを……これ以上皆の意見がないのであれば、今日の議会は閉会とする」

皇帝モルトの一言によって議員達は、頷くと静かに解散していった。

「もう終わりなのか……(このピニャという女は、日本のカイザー大星を見たというのか。確かにあの男はこのモルトという皇帝やピニャという女が言ったように、民を愛することを誇りにしている人物だったな……。日本は惜しい国だ。希少価値が高い資源が大量に埋まっているといっても過言ではないこの世界を制圧支配しないのだ?我が第三帝国が栄えていた時代にこの世界と私が元いた世界を結ぶ『門』とやらが開いたならば、国防軍やSS(武装親衛隊)で攻め入って、真の支配者として君臨してやったのに……)」

そんな事を考えていたフレーリッヒは、モルトと目が合うと、目線を逸らしながら議員達に紛れて元老院を後にした。

 

 

 

日本帝国・首相官邸

相馬と白石からの無線による報告を受けた、特地派遣部隊最高指揮官たる大高陸軍大将は、ただちにテューレ達のアルヌスへの移送を命じると共に、帝国ならびに帝国政府に対する威嚇として、空軍の巌田中将を通して四機の富嶽によるビラの投下を要請した。

この威嚇は国防大臣の高野五十六による発案で、そこに込められたメッセージは、「破滅か和平か」という内容である。

「高野国防大臣。こちらの作戦は上手くいったようですね」

「ええ。効果は極めて大と言っても良いでしょう」

内閣総理大臣の戸村謙三と高野は、執務室にて軽食を交えながら話をしていた。

「あとは、向こうの出方を伺いながら新たに同盟国に成ろうとしているエルベ藩王国との外交の開始ですね」

「そうですな。彼……前原少将ならやってくれるでしょう。それに伴って空飛ぶ戦車と揶揄されている炎龍討伐がいよいよ開始でありますな……しかし、奴とて生物であります。下手をすると戦闘機でも奴に苦戦するかもしれません。慎重に討伐方法を考えながらでないと、こちらにも損害が予測されます」

高野は、少しばかり(まぶた)を閉じながら瞑想する。戸村も彼に共感するように、瞼を少しばかり閉ざした。

「………今回は大規模な編成と慎重な判断で行きましょう。たしか、前世で私の同僚が相馬中尉達と一緒にいる女性達のような方や原住民の人々達と挑んで、犠牲を出しながら戦ったはず。ここからの記憶があやふやなのですが……この炎龍以外にも二体ほど居たはず……討伐の前に、深部偵察隊による新たな調査を発令してみてはいかがでしょうか?」

「総理がそう仰られるのなら、その方針を取らせていただきます。前世の記憶は、作戦の要といえるでしょう。私も第二前世では、第一前世の記憶を回想しながら戦ったものですから」

二人は再び瞼を閉じながら前世の記憶を思い出せる限り回想するのであった。

 

 

 

皇居

日本帝国の第三皇子たる陸奥宮陸軍中佐は、満月の下で皇居の二重橋濠に掛かる二重橋という鉄橋を眺めていた。

「我が軍による異界への進出からもう半年が経つのか……同時に私がフィンランド戦線でお師匠様と出会ってから丁度二年も経つのか」

彼は独り言を言いつつ北西の方を向く。すると、誰かが貫禄のある声で彼に声を掛ける。

「皇帝陛下。こんな夜遅くにいらっしゃるとは、珍しいですね」

「陸奥宮よ、二人きりなのだから。畏まることは無いだろう。私もどうも眠れないのでな。こうして二重橋の近くに来たのだ」

皇帝大星は、そう言いながら陸奥宮の横に立った。それから二人は話を始めた

「陸奥宮よ。私が先代からこの国を受け継いでから色々な事が起きたな」

「そうですね父上。一九三四年の戸村閣下達によるクーデターや日ソ紛争での外満州とカムチャッカ半島の解放、あの悲劇的な世界大戦……色々ありました」

皇子と皇帝はこれまでの日本の歩みと世界の流れを少し回想する。

「こうして月と二重橋を見つめていると、私は前世での事を思い出すのだよ。攻めようとする。守ろうとする。の意志がぶつかり合った場所ともいえるのでな」

「父上の前世ですか……。父上は、別の世界の日本では大高閣下のような立場でしたね。私は、父上や戸村閣下などがした転生というものをしていないので、いささか理解に苦しむところはあります」

陸奥宮は、微笑しながら右手で頭を掻くと、皇帝も静かに笑った。

「時々思うのだが、もしかすると私は無数に存在する次元の日本を司る神にこの世界の日本を導けと言われている気がするのだよ」

「神のお告げというやつですか……にわかには信じ難いのですが、本当にそうであるのなら、私は父上の子として誇りを持てます」

「嬉しいことを言ってくれるじゃないか。それならば私は、どんな民族も問わずに救いの手を差し伸べ、どんな悪にも立ち向かう我が子を誇りに思っているぞ」

皇帝はそう言いながら皇子の右肩に左手を添える。

「父上。それならば私はこれからも全身全霊を尽くし、日本の為、世界平和の為に生涯を費やしたいと思います」

皇子は皇帝の方を向くと、静かに決意の表明をした。皇帝は静かに笑うと、「うむ。その姿勢だ」と言いながら皇子の方を向いた。

それから二人は、煌びやかな月光の下で静かに笑い合った。

 

 


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