ゲート 日本帝国軍 彼の異世界にて、活躍せり   作:西住会会長クロッキー

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第十六話 炎龍討伐前夜

アルヌスの街・デリラの食堂

デリラ達ヴォーリアバニーが営む食堂の一角では、陸軍の瀬戸大佐と『秋川 正喜(あきかわ まさよし)』少将、海軍の『岡村 啓司(おかむら けいじ)』少佐、そして空軍の大竹大尉の四人が、食事をしながら炎龍のことについて話し合っていた。

「皆の衆、何か意見はないか?」

「海軍による偵察で、先に奴を捕捉して、それから囮役の空軍の戦闘機が奴をどこか開けた場所に誘導し、自走砲や対空砲の射程圏内に入ったところを展開している秋川少将の第二戦闘団による集中攻撃から、空軍機による急降下爆撃。それに、第一戦闘団の戦車による集中攻撃を行う。それから深部偵察隊に奴の死亡確認を行わせるのはどうでしょうか?」

秋川少将の呼びかけに、真っ先に岡村少佐が自身の提案を持ちかけた。

「ですが、問題は奴の機敏さです。この前偵察に出ていた疾風が、奴と会敵して少しだけ空戦になったようです。それで、肝心の結果は、疾風が空中分解寸前で帰った来たことです。そして、パイロットに話を聞くと、空中浮遊をしながら火を吐き続けていたため、近くにも近づけなかったそうです。やっと攻撃を加えれたと思ってもドラゴンは嫌がるばかりで、機関砲の効果はあまり無かったそうです。それから方向転換をしたと思うと、エルベ藩王国の方に飛んで逃げていったようです。それで、そのパイロットは追いかけたみたいなのですが。疾風のように速力がそこそこあるレシプロ機でさえも追いつきそうになかったそうです」

「そうじゃな。大竹大尉よ、陸軍のわしが言うのも何じゃが。これを機に本国から憤式(ジェット)戦闘機の一時的な配備を呼びかけるのはどうじゃろうか?」

「確かに。噴式ならドラゴンに追いつくし、仮に追いかけられてもうまく誘導できるかもしれんな。あと、三偵の相馬中尉が言っていたのですが、七糎噴進砲で奴の腕を吹き飛ばすことができたみたいです。しかし、腕はともかく。胴体はドイツのマウス戦車以上の装甲を持つと予測されていますが……」

秋川は咳払いをすると、再び語り始めた。

「そのための第二戦闘団だぞ。儂の戦闘団には、四式自走砲が配備されておる。こいつは二年前のフィンランド戦線のカレリア防衛戦において、迫ってきた露助のIS-2を自慢の十五糎榴弾砲で粉砕したやつだ。きっと馬鹿でかいあのトカゲ野郎も榴弾を受ければ木っ端微塵じゃろうな……がはははははっ!!」

秋川は、フィンランドに義勇兵として派遣されていた日本軍将兵の一人だった。

多分、その時の戦果の時のように炎龍が木っ端微塵にされる姿を想像したのだろう、顔を上げて高らかに笑う。他の三人は、「確かにそうかも」という感じの表情で頷いた。

その傍らで、皿を拭いていたデリラが「くすっ」と笑う。

すると、相馬と前原や炎龍討伐の依頼を申し出てきたダークエルフの女性が店に入ってきた。

「よおっ、ソウマの旦那、マエハラの旦那っ!」

「こんにちは、デリラさん」

「噂をすればやって来たのう。皆の衆、静かにするぞ」

四人は、相馬達と敬礼を交わすと再び食事に手をつけ始めた。

 

 

相馬は、前原に誘われてヤオと共に、アルヌスの街に出てきてデリラの食堂の入った。

ヤオは始めて相馬に会ったため、不思議そうな顔でずっと彼を見つめている。

前原は、話の本題をすぐに切り出した。

「ヤオさん。こちらは、炎龍を撃退した我々の仲間の一人、相馬中尉です。何か炎龍に関する質問があれば彼に聞いてみてください」

「御身があの炎龍を……」

この時点でヤオの目は、宝石のように輝いていた。何せ、炎龍を撃退した張本人に会ったからだ。

「炎龍は相当おっかない奴だったよ。噴進砲という名前の武器が有るんだけど、それでやっとという感じだった。こんなことを言うのもなんだけど……はっきり言って俺らは運が良かっただけなんだ」

相馬は簡単な経緯を交えつつ、彼女に対して自身の炎龍に対する思いを打ち明けた。

だが、相馬はせっかく助けを求めてやってきた彼女を落胆させたくなかったのだろう。続けるようにして言った。

「もし、俺と部下達がいかに強い装備を持とうとも再び奴と会ったら今度の勝算は、絶望的だ。だけど、安心してくれ。じきに俺達日本帝国軍が本格的な討伐態勢に入る。そして、必ずあんたの仲間の仇を取り、以前ように安定した暮らしを取り戻すと約束しよう」

「………ありがとう」

ヤオは、相馬の一言を理解すると静かに頭を垂れた。

「ところで、ヤオさん。我々が炎龍の討伐をするにあたって、炎龍の生息域に関して詳しくうかがいたいのですが」

「奴は、テュバ山という名前の火山に棲んでいる。生息域は基本的にこの火山だが、最近は我らが元々住んでいたシュワルツの森を含む、南部地域全域に出没し、我が同胞に牙を剥いている」

「そんなに広かったのですね。あと、南部地域で広くて平坦な場所等は有りますか?」

「それなら我が一族が隠れ住んでいるロルドム渓谷に行けばいい。渓谷にしては、御身が言ったような平坦な場所が点在する。ただ、奴が自由に動き回る可能性の方がある」

前原は思った。ならば、これを逆手に取れば良いのだと。彼の中にある歴戦の智将の直感が、彼自身の脳裏で囁いた。

それに共鳴するように、紅茶を飲み干したばかりの秋川少将が立ち上がり、ヤオの前までやって来た。

「ダークエルフの姉ちゃん。その場所の広さについて、もう少し詳しく教えてくれんか?」

「広さはというと……このアルヌスの街とほぼ同じ広さだ」

「ほぅ……ここと同じ広さか。大竹大尉、岡村少佐、空軍司令官と海軍司令官にこの姉ちゃんの言っているロルドム渓谷とやらの航空偵察の意見具申を申し出てくれ。瀬戸大佐、もしこの場所の地図明確に書き起こせたら貴様は各戦闘団の団長や副官、その他の下士官達に招集をかけてくれ」

秋川が他の三人にそう言うと、大竹と岡村は会計を済ませ、素早く店を出てそれぞれの持ち場へと戻っていった。

「………」

ヤオは、緑の人達言葉があまり理解できなくてもこの一瞬の言葉の意味や彼らの行動が理解できてしまった。

涙もろい性格とも言えるヤオは、両目から小粒の涙をこぼした。

「姉ちゃん。儂は、お前さん気持ちに共感するよ。だからもう少しの辛抱だ」

秋川は、自身が食事をとっていた机の上に置いてある帽子を手にとって深々と被ると、ヤオの前でビシッと敬礼した。それから秋川と瀬戸や前原も店を後にした。

「そうだ。ヤオさん、ちょっと来てもらってもいいかい?」

「……分かった」

相馬はヤオを連れて難民キャンプの方へと向かっていった。

 

 

キャンプから少し外れた森の中では、コアンの森の民、テュカとユノが周りの木々に向けて矢を放っていた。

これで何本目だろうか、周りの木々に深々と突き刺さっている。二人の身体は汗ばんでいた。特にテュカに関しては、何かに取り憑かれたかのようにして矢を射っていた。

言うまでもなく、全て炎龍絡みだ。

仲間を奪い、約束されたはずの平和を壊し、そして最愛の父を奪ったあいつだけは許せない。という心がここ最近のテュカを支配していた。

それに反応するように、また一つ矢が木に深く突き刺さる。

「はぁはぁ……」

「テュカ、ユノ。今日もやってるな」

気がつけば相馬が、見知らぬダークエルフの女を連れて立っていた。

すると、ダークエルフの女が口を開いた。

「この矢は全て汝らが放ったものなのか?それにしてもよく撃ち込んだものだ」

「あの……あなたは誰?」

「申し遅れてすまない。此の身はヤオ。ダークエルフ、シュワルツの森部族デュッシ氏族。デハンの娘ヤオ・ハー・デュッシ」

ヤオの存在に疑問を持っていたテュカとユノに深々と頭を垂れる。

「私は、テュカでこっちは友達のユノよ。よろしくねヤオ」

エルフとダークエルフは、微妙な違いがあれど同じエルフ族だ。しかもこの三人は、同胞を炎龍によって殺されていると言う共通点があるため、すぐに打ち解けることが出来た。

「さて、敵の敵同士が集まったことだし、これから仲良くしてくれ。それとテュカ、ユノ。炎龍のことなんだが……」

相馬は、炎龍討伐に関しては軍が行うため、テュカとユノが直接炎龍を討伐するとなると危険が伴うため、止めておくようにと二人に言った。ヤオの時と同じように二人を落胆させたくなかったのだろう。フォローするように言った。

「だから、見ていてくれ。俺たちの戦いを……」

この一言には、何か特別な魔力が有ると言っても過言ではなく、瞬時にテュカとユノは納得したように頷いた。

「ちょっとぉヨースケ。あたしとレレイは除け者にする気ぃ?」

相馬が振り向くと、そこにはロゥリィとレレイがちょっと待ったと言わんばかりの表情で立っていた。

「おっと、お二方すまないな。ヤオ、紹介するよ。こっちは亜神のロゥリィで杖を持った方がレレイだ」

「なんとエムロイの使徒ロゥリィ聖下まで……」

ヤオはロゥリィに対してさっきより深々と頭を垂れる。

「こうして四人いや、俺を入れたら五人か。丁度いい、みんなで炎龍討伐成功を祈ろう」

相馬、テュカ、ユノ、レレイ、ロゥリィ、ヤオの五人は円陣を組んで、それぞれの手を重ねて、五人目が重なったところで一回下げて、全員かけ声と共に夕陽に染まった空に向けて高く上にあげた。

この三日後、先のアルヌス攻防戦で瀕死の重傷を負ったエルベ藩王国の国王デュランが、前原に率いられた帝国軍部隊による護衛のもと、王国に帰還した。それからすぐに、日本とエルベ藩王国との間に正式に同盟が締結された。

さらに二日後、陸海空帝国軍による合同調査によってエルベ藩王国一帯の地図を書き起こすことに成功した。

こうして、炎龍討伐の火蓋が切って落とされようとしていた。

 


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