ゲート 日本帝国軍 彼の異世界にて、活躍せり   作:西住会会長クロッキー

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第十七話 炎龍の墓標

相馬は、ヤオや現場の状況を自身の目で把握したい秋川少将と共にロルドム渓谷を訪れていた。

「うむ、文字通り平らな場所じゃな。そして、あの野郎が降りて来れそうな場所でもあるし、周りの森林帯に火砲や戦車を集中させるのも良いな……よしっ!ここにするか」

対炎龍特別師団の団長を務めている秋川少将は、しばし周りを眺め終えると、メモ帳に部隊の配置を書き始めた。

相馬達が今いるこの場所は、数字の「0」のように真ん中がゴツゴツとした石が転がる場所で、その周りはこのロルドム渓谷で唯一森林が広がっている場所だった。

「おい、そこに居るのはヤオか?」

秋川の独り言に気を取られていた二人は、周りから人が出てくるなんて思っておらず、気が付けば、弓を持った七〜八人のダークエルフに囲まれていた。

「ヤオよ、よく戻った。二週間で帰ってくるとは、意外に早かったな」

場所は変わって光の届かない森奥深くの洞窟。薄暗い灯火の下で、ヤオは七人の長老がつくる円の中心に片膝を付くと、目を瞑ったまま「感謝いたします」と丁寧に応じた。

「御身の帰還があと少し遅れれば、この唯一の森は焼き払われ、多くの同胞を失っていたかもしれんな」

ヤオは長老達の中でも主だった三人へと顔を向け、はっきりと告げた。

「炎龍を退けたことで知られている、緑の人ことニホンテイコクグンの戦士を連れて参りました」

「おおっ!」

一斉にどよめく長老達。

「ソウマ殿、アキカワ将軍。こちらへ」

ヤオの一声に、相馬と秋川が洞窟の中へと入ってきた。

「よくぞ参られた。緑の人よ」

「初めまして。小官は、秋川と申します。小官は皆様ダークエルフ族の悲惨な現状を憂いてやって参りました」

秋川は、長老達に対して最敬礼を行なった。彼が最敬礼を終えるのと同時にヤオが相馬の紹介を始めた。

「もう一人が憎き炎龍をフンシンホウという魔導兵器を用いて撃破したソウマ殿であります。そして、此方も炎龍討伐を望む同志です」

「なんと、その本人が」

長老達は、秋川と相馬に好漢という印象を抱いた。この後、この場には居ない他の四人の紹介も行われた。

特に亜神のロゥリィと魔導師のレレイの存在は、ダークエルフ達にとってさらなる希望ともいえた。

テュカとユノの二人に関しては、共に炎龍を敵とする同志であるという理由から、ダークエルフ達にそこそこ受けが良かった。

さらに長老達と秋川の話は続いた。

「それで……炎龍を討つ時はいつになりますかな?」

「討伐なら、こちらの準備を考えますと約六日ほどになりそうです。また、我が軍はこのロルドム渓谷を拠点にして奴を待ち伏せするつもりであります」

「この渓谷を決戦場にされるつもりですか」

「はい。奴は森に潜む我々を絶好の食事だと思っていることでしょう。そこにつけ込んで我々と貴方達で一網打尽にしましょう」

秋川は、長老達の今後の事に関する質問に対して丁寧に応えた。

「それでは、我々は一度帰ります」

一連の話を終えた秋川と相馬が立ち上がった瞬間、渓谷に爆発の衝撃と耳をつんざく大音声が木霊した。

 

「退けっ!炎龍だ!」

ダークエルフ達の声が響いた。

洞穴から数百メートル離れた場所で見張りをしていたダークエルフの男が、急降下してきた炎龍によって踏み潰されてしまったのである。

炎龍の足の辺りに、上半身のみとなった亡骸が見える。

「こんな時に来やがって!みんな逃げろ!」

相馬は洞穴から抜けると、小銃を構えた。この九六式半自動小銃から放たれる7.7mm弾が炎龍に対して効果が無いことを理解しつつも炎龍の気をそらすため、目に向けて小銃を撃ち始めた。

さすがの炎龍も自身の目の辺りに放たれてくる銃弾に苛々したのか、その主である相馬を睨みつける。

「相馬、焦りは禁物だぞっ!これを使え!」

秋川が機動車に積んでいた九九式七糎噴進砲を相馬に手渡す。

他のエルフ達は、女性や子供の見張りを逃がしながら弓を射る。

中には、風魔法と呼ばれるそこそこ威力がある魔法で攻撃を行う者もいた。だが、鉄壁の防御力を持つ鱗に弾かれるばかりで全く効果はなかった。

炎龍は相馬やエルフ達による微々たる抵抗に苛立っていた。

その牙の隙間から、炎龍の殺意の集合体ともいえる炎が見え隠れする。

その時、空気を裂くような噴射音とともに一筋の光が炎龍の後頭部付近を通り過ぎた。その瞬間、どう聞いても絶叫のような咆哮を炎龍があげると、地を蹴って飛び立った。

「惜しかった。けど、野郎これに腕を抉られたことを覚えていたのか」

そして、炎龍は身体を翻しながら高く飛び上がった。

再び黙って逃すわけにもいかないので、相馬は噴進砲の弾を再装填すると、炎龍の背中に照準合わせて、引き金を引く。

しかし、噴射音が響いたのと同時に、炎龍は空高く飛び上がってしまった。

それから、空中で爆発した噴進弾の爆発音が大きく鳴り響いた。

「これが、魔導兵器フンシンホウ……」

思わず声を漏らすダークエルフ達だった。

 

 

相馬と秋川は、ヤオ達ダークエルフに改めて協力の意志を伝えると、周りの森林帯を詳しく見てから一旦エルベ藩王国の北部にある軍の野営地に戻ることにした。

今日における炎龍との小規模な戦闘やロルドム渓谷の地理を把握した秋川は、野営地にある大型テントで陸海空各軍の将官や佐官、尉官達を集めて会議を開いていた。

「このロルドム渓谷の森林の中にある開けた場所の付近に砲兵隊と戦車隊を布陣させようと思う。場所的に火砲と戦車が入れんところには、現地住民のダークエルフ族や相馬の第三偵察隊、アルヌス自警団員の代表者達を配そうと思う」

「第三偵察隊ならともかく……アルヌス自警団と現地住民をですか?」

「そうじゃ。あそこには、魔導師のレレイちゃんとイタリカの戦いで数百の賊徒共を平伏させたロゥリィ閣下もいらっしゃる。それに、射撃の腕の立つテュカちゃんとユノちゃんも居るからのう」

秋川が言うほど自警団の代表役である彼女達は、他の日本軍将兵達から信頼されていた。

現在炎龍と交戦状態にあるダークエルフ族なら炎龍の動きを正確に読み取ることができ、十分な対応が出来るということが会議に集められた将兵の中で浮かび上がっていった。

「最後になるが、何かしらの提案は無いか?」

「少将のお心のままに」と将兵たちは告げる。

会議が終わろうとした時、テントに兵卒が駆け込んで来た。

「アルヌスから入電。準備が整い次第状況を開始せよとのことです」

「うむ。承知した」

秋川は腰を上げた。

「儂を含めてここに居る者が前世や別次元の日本から転生して来た面々だから話すが、前世の蒙古決戦でアジア諸国が一丸となって、ヒトラーの神聖欧州帝国にぎゃふんと言わせたように、我々が為すことはこの世界の人々と共に初めて炎龍という脅威を討つということである。これを機に人々との恒久平和への土台を築き上げるべきだと思う」

秋川から放たれたこの一言に、将兵達は縦に頷く。

「全部隊に待機を命じる。適切な戦力を抽出して、来るべき決戦に備えよっ!」

「はっ!」

それぞれの部隊の隊長、その中枢を担う将兵達が散開していった。

 

 

六日後、特地の空を暗緑色に塗装された海軍の四式偵察機・景雲が天空の蒼とそれを彩るように広がる雲を背景に、眩しい太陽が輝いていた。

そんな中を景雲がプロペラの音を響かせて空を闊歩していた。

「現在、高度八千メートル。そろそろ出て来てくれないもんですかね」

副操縦士の『川井 秀(かわい しゅう)』上等兵が操縦士の岡村少佐に愚痴をこぼしながら計器を見ていると、計器が電子音をあげた。

「レーダーに感あり、進路そのまま。空中動作ありっ!」

「ヨーソロー。高度を上げて近づくぞ」

この景雲に搭乗する岡村少佐と川井上等兵は、対炎龍特別師団がロルドム渓谷に向かっている間も休むことなく、アルヌス基地を往復して五日も警戒を行なっていた。

いい加減見つかっていいだろうと思ったときに、それと思しき反応があった。

偵察機は、高度を上げつつ徐々に目標へと迫ってゆく。

空気を切り裂き、なおも景雲は轟音を立てて優雅に空を舞う。

すると、キャノピーから赤い鱗で覆われた身体が目に入った。

「電文発信します」

「特地巨大甲種害獣、通称炎龍と確認。間違いない」

「本部からです。速やかに帰投せよとのことです」

「ご苦労。帰ったら風呂に付き合ってくれよ」

「はっ!」

川井が素早く電文を発信したおかげもあってか、炎龍に見つかる前に景雲は身を翻して基地へと戻っていった。

 

 

それから一時間後、曇天の空に覆われたロルドム渓谷の森の中で日本軍将兵達が戦闘準備を整えていた。

ある者は対空機関砲を空に向け、戦車は崖の手前にある林に身を潜め、自走砲をはじめとする火砲を操る兵士たちは、離れたところで射程距離を計算しながら照準を合わせている。

そんな中、戦車や火砲が入れない場所に布陣した相馬達第三偵察隊とヤオをはじめとするダークエルフ達、そしてテュカといった四人娘達もこの中にいた。

「緊張するか、テュカ?」

「ええ。昨日から胸騒ぎが…」

テュカは、噴進砲を下に置くと両手を自身の手に重ねる。

「こっちは盤石の備えだ。もしもの心配は少々しなきゃならないけど、あの野郎を粉々にしてやろう。テュカが頑張っている姿を見たら天国の父さんは、喜ぶと思うぜ」

相馬は、空の方を指差しながらそう言う。

「……そうねヨウスケ。けど、あなたにそう言われると何だかあなたがお父さんに見えてくるの」

「俺が君のお父さんにか……だったらそうでも構わないけどな」

相馬は軽い冗談を言いつつ、テュカを励ましていた。

噂をすればというやつだろうか。

遂に決戦の時がやって来たかのように、空を引き裂くような複数の轟音が遠い空から木霊した。

すると、相馬はテュカの下ろした噴進砲を手に取るとテュカとユノに背後から構えさせた。

「二人とも、あの時は見ていてほしいと言ったけど。今は、野郎があの辺りに来たらこれをぶちかましてやれ」

相馬は二人の前に立つと、噴進砲の弾がギリギリ届く距離を指差す。

「でも……本当に出来るのかな?」

「へへっ、撃てると思ったら俺が指示を出すよ。そうだな……俺をお父さんだと思ってくれよ」

相馬は微笑みかけながらテュカにそう言った。

テュカは彼のこの一言に、不思議な感覚を覚えた。だんだん相馬が天国にいるであろう父に見えて来たからだ。

そう考える暇もなく、六機の五式戦闘機・火龍がジェット機特有の空を引き裂くような音を鳴らしながら相馬達の真上を通過していった。それから十秒も経たない内に、地面を覆う砂を巻き上げん勢いで羽ばたいて来たくそったれのトカゲ野郎(炎龍)が姿を現した。

そして、その憎たらしくも美しい頭が開けた場所へと入った。

 

「今だっ!!テュカ、ユノ!」

相馬が腹の底から声を張り上げる。

それに共鳴するように、二人の構えた噴進砲から噴進弾が勢いよく放たれ、なおも羽ばたく炎龍の顔に直撃した。

グオォォッ?!!

炎龍は己の身に何が起こったのか、理解できぬまま、バランスを崩して真っ逆さまに落下し、空から地面へと叩きつけられた。

怒りが頂点に達した龍は咆哮を上げ、口から火をちらつかせながら立ち上がろうとする。だが、これが炎龍にとって最後の行動だった。

『だんちゃ〜く、今っ!!』

約二十両の四式十五糎自走砲・ホチから放たれた破甲弾が炎龍に直撃して炸裂する。

『効力射撃始めいっ!!戦車隊、攻撃開始っ!!』

秋川が、無線に向かって怒鳴りつけると同時に四式自走砲やその他の火砲から放たれた炎が、今まで炎龍に屠られた者達の怨みを含んだかのように炸裂する。

今まで姿を隠していた三式戦車改も前に出るなり、成形炸薬弾を煙に覆われて見えなくなった炎龍に向けて放つ。

その次に、五式戦闘機による六十キログラム爆弾の投下が行われた。

次から次へと放たれる弾丸は、確実に炎龍の骨を断ち、肉を切っているだろう。

それぞれの兵士達が忙しく動き回っている傍ら、ダークエルフ達は静かに見守る。

「これが、イタリカで盗賊を滅却した魔導の力……」

「つくづく私が炎龍じゃなくて良かったと思うわい」

長老達の一部は、火砲や戦車から放たれる弾を見てそう呟く。

三分が経った頃、ようやく対炎龍師団による攻撃が止んだ。それから煙が晴れてわかった光景は、あれだけ集中砲火を受けたにも関わらず炎龍が世紀末を制する覇者の如く、立ったままその生命を終えていたというものであった。

その外傷を挙げるならば、両翼とかろうじて残っていたはずの右腕が抉られていたものと、炎龍の眉間を何かが貫いているというものであった。

「三時方向より、新たに翼竜が接近中っ!!」

「何じゃとっ?!」

秋川が驚きつつ双眼鏡を手に取ってその方向を見る。

双眼鏡に映ったのは、激昂しているであろう赤、黒、緑、紫色の四匹の翼竜であった。

この四頭は、尋常じゃない速さで迫りつつあった。

 

 

 

「な、何だっ!なんて、こった……お前らっ!あっちへ行くなって!!」

日本軍による一斉砲撃を目の当たりにした白ゴスの女、『ジゼル』はこの特地において頂点に君臨する王ともいえる炎龍が無様に攻撃される様子を見て言葉を失っていた。

炎龍を五十年早く叩き起こして四頭の新生龍を産ませ、先輩ともいえるロゥリィ・マーキュリー打倒を目指していたのは良かったものの、今起こった出来事によって、全てが終わりを告げようとしていた。

ジゼルが従えていた新生龍は、動物のように親を大事にする程の知能を持っていたためか、人間の子供が泣くような咆哮を上げ、母親がいる方へと羽ばたいていった。

無論、その新生龍達も親と同じようにして集中攻撃に晒される。

よく見れば、魔道師が形成したと思われる連環円錐から放たれた凄まじい爆轟波の奔流が中でも一番大きい赤龍に叩きつけられ、その次に大きい黒龍は、森から放たれてくる沢山の閃光に叩きつけられ、逃げようとした緑、紫の龍はロゥリィ・マーキュリーによって首を刈り取られ、二体の身体が地面へと叩きつけられるのが目に入った。

「ちくしょうっ!お終いだっ!!」

ジゼルは、この場から逃げることにして、大鎌を担ぐと明後日の方向を向いて飛び立った。

 

 

戦いの終わったロルドム渓谷。

夕焼けを背景に、立ち尽くしたまま死んでいる炎龍とそれ彩るかのように転がっている新生龍達の屍体の確認を対炎龍師団の将兵達が始めた。

日本軍から貸与された噴進砲があったとはいえ、自身の手で新生龍を葬り去ったダークエルフ達は、歓喜に満ちていた。

レレイとロゥリィが相馬を抱き枕にする形で眠り、ユノは他の隊員達と歓喜に満ちていた。

ヤオは、相馬の横に座り込むと嬉し泣きの涙を流していた。

「敵を討てたんだ……」

「そうだな」

呟くようなテュカの言葉に返事を返したのは相馬だけだった。この中で彼女が炎龍に大きな一撃を与えたといっても過言ではない。

「ねぇ、ヨウスケ。貴方をお父さんって言っていいかな?」

「………君が俺のことを父だと思うならそう言っても構わないさ」

相馬は、テュカを見つめると静かに微笑みかけた。

 


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