ゲート 日本帝国軍 彼の異世界にて、活躍せり   作:西住会会長クロッキー

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第十八話 新たな進展と不穏な影

帝国領内・キケロ卿邸

キケロ邸の午餐には豪華な食事が並べられ、その傍らでは帝国の貴族たちが恋愛遊戯や今後の政治構想や互いの領地の統治方法について語り合っていた。

華やかな雰囲気の中、この邸宅の別室では絶句という言葉が相応しい空気が流れていた。

「これが、ニホンという国の力……」

「まぁ!」

キケロ・ラー・マルトゥス卿とその妻は、ピニャによる仲介のもと日本帝国の外交官『須田 恭輔(すだ きょうすけ)』と極秘裏での対面を行なっていた。

その護衛としてやって来た日向中佐がピニャの従者達の手を借りて、手土産代わりと言わんばかりに自分達で討伐したという一番小さい新生龍(緑龍)の首が入った箱を運び込んで来たため、この二人は絶句していた。

最初は作り物だと思っていた二人だが、実際に触ってみると、竜騎兵が騎乗する翼竜とはまた違った上質さが感じられたので、本物だと認識した。

これには、我々は古代龍というこの世界の脅威など赤子の手を捻るようにして討ち取ることができるぞという意味が日本側に込められていた。

「キケロ卿、これだけではないぞ。貴殿の甥が生きているという情報を持って参った。スダ殿、あれを」

ピニャの言葉を聞いた須田は日向から一枚の写真と紙を受け取ると、キケロ卿とその妻に差し出した。

案の定、これを見た彼の妻は嬉しい知らせに感極まって倒れてしまい、メイド達があわてて彼女を別室にから運び出した。

「実は、ピニャ殿下に仲介の労を担っていただくことの引き替えとして、殿下からご要望をいただいた数名に限って、無条件で返還する約束を取り付けております」

「無条件……ですと?」

「はい。無条件です」

「身代金や領地割譲の類は必要ないと?」

「強いて申し上げれば、殿下のお骨折りが身代金に相当することになりましょう。あくまでも殿下のお口添えのある数名と限らせていただいておりますが……」

須田の放ったこの一言は、ピニャの立場が危うくなるような言動は慎め、という意味を持ってキケロの耳に届いた。

ピニャは捕虜の命を救う為に、我が身と名誉を犠牲にしてあえて仲介者として奔走しているのだ。

そう考える方がキケロにとっても受け容れやすかった。

彼は自分自身の中に有ったピニャに対する誤った考えを心の中で改めることにした。

キケロとしては、ピニャ足元に取りすがってでも甥の帰還を頼みたいところである。

彼は何も言わずに彼女の手を取った。ピニャも表情を和らげて頷く。

「最後になりますが、我が国の産物を手土産として持って参りました。ご笑納いただければ幸いです」

このあたりは手の込んだ手順であった。

須田が指を鳴らすと、日向とピニャの従者が部屋を出た。

それから日向が従者の手を借りて、日本を代表する工芸と実用の逸品揃いともいえる手土産が入った箱を運び込んで来た。

キケロ卿はホッとしたのか、表情を和らげて応じた。

「素晴らしい。貴国ニホンは古代龍をも討ち取る力を持ちつつ、このように華美な工芸品も作り上げるとは……」

「全て、我が国の職人の手によるものでございます」

「大変満足しました。是非、貴方達と共に繁栄して行きたいと考える良い機会になりました」

キケロは、まいったという気持ちと安心した気持ちを表して須田に対して頭を軽く下げた。

須田も彼に対して、自分達の意思を理解してくれたという感謝を込めて頭を下げる。

「ありがとうございます。本日は以上でございます。我々は後日、デュシー侯爵家の方に出向く予定がありますので、これにて失礼致します」

ピニャと須田はキケロに頭を下げると、キケロ邸を後にした。

 

 

「じ、自分が特地資源状況調査担当官任命と大尉に昇格ですか……」

「はい。要するに、この特地を自由に探索して役に立ちそうな資源を探せということです。丁度、貴方に向いているでしょう」

「たしかに、言われてみれば」

「三週間後をめどに、その任に就いてもらいます」

帰還早々、相馬は特地派遣部隊の最高指揮官たる大高から呼び出しを受け、いざ出向いてみるといきなり告げられた、辞令に驚いた。

まさか、こんな大きい仕事が待っているなんて思ってもみなかったのだ。

他の偵察隊隊長達は、固唾をのんで相馬を見守っている。

「また驚いてしまうのも無理はないでしょうが、これは皇帝陛下からのご勅令になりますので」

「はっ、謹んで上番致します!」

ここで、偵察隊隊長の一人が、「まじかよっ」と蚊の鳴くような声を漏らす。

無理もない。この世界の日本でも皇族に対する信頼や敬意は、根強いものであった。

それに加えて、不敬罪という概念がないほどよっぽどでもない限り皇帝をはじめとする皇族を悪く言う者が殆どいないという情勢だった。

大高の言葉に、相馬は静かに頷いた。

「これが人事異動に関することです」と大高が告げる。

それから数秒も経たないうちに、賞状紙を載せた黒い盆を掲げる下士官が続いていた。

「相馬中尉。いえ、相馬大尉。一級賞詞が国防大臣より届いています。現地住民との関係強化に対して大いに貢献した功績を特にたたえてこれを授けるものである」

大高は、相馬に賞状と略章を手渡す。

「次に、特地の各方面から、いろいろと来ていますぞ。まず、シュワルツの森のダークエルフ族長会議から、帝国軍特地派遣隊と、貴官個人の双方にそれぞれ感状が来ています。貴官には、名誉部族長の称号と、こちらです」

大高は、ヤオが持って来たらしい金剛の原石を、ドスッと相馬のデスクの上に置いた。

相馬は、この宝石の塊をイギリスの貴族や宝石マニアに見せたらどんな反応をするのか、などと考えつつ大高に頭を下げる。

すると、「気を、つけっ!!」

背後からの号令に相馬は背筋を伸ばした。隊長達は皆、一斉に起立して直立不動の姿となった。

背後から靴音を鳴らして現れたのは先の炎龍討伐戦で少将から中将に昇格した秋川だった。秋川の側にはヤオが居た。

彼女は無言のまま前に出ると、背筋を伸ばした相馬に向けて片膝をついて、胸にクロスさせた両の掌をあてて、深く頭を垂れる。

「此の身は只今より永久に御身の物。御身の、いかなる仰せにも従います」

相馬をはじめとする将兵達は、神妙に忠誠を誓うヤオを見て少々驚いた。いろんな意味でも身体を捧げそうだからだ。

「じゃあ、この世界の道案内役になってくれないか?俺たちはまだこの世界のことを知らないし」

「御意」

相馬にとってヤオという名のダークエルフは、涙脆いが自分達が勝利するヒントを与えてくれたり、一民族に対する忠誠心が高いという好印象しかないのだ。

「ヤオ氏はお前にほ……ごほんっ。お前に対する絶対的な忠誠を誓うと儂に行ってきたので、連れて来たのじゃよ。だから、事は慎重に扱うのじゃぞ。日本じゃこのような類の行為は重大な犯罪じゃからな」

秋川はそう言って、ヤオの権利書を相馬に押し付ける。ほぼ人身売買行為が行われているので、人間の所有権に関する証書類も存在するのだ。

ヤオが秋川に連れられて部屋を後にすると、再び炎龍を退治してくれてありがとうという趣旨の感状や巻物などが次々と運び込まれてくる。

最後の一通が、どことなく禍々しい気配が漂う黒い羊皮紙の手紙だった。

「ベルナーゴ神殿?そんなものありましたかな……見落としていたのでしょう」

賞状に略綬に、ダイヤモンドの原石と、書類の束。いっぺんに持って帰れそうにないところに、羊皮紙の巻物まで渡されたのであった。

大高は相馬と敬礼を交わすと、連れて来た下士官達とともに去っていった。

皆、相馬の方を向いて直立不動の姿勢を整えた。上司の森野少佐を含めて真顔で相馬を見つめていた。

「どうかしましたか」

「相馬第三偵察隊隊長の昇進を祝して敬礼っ!!」

相馬がそう口にしたのをきっかけに森野の掛け声と共に、隊長達が相馬に対して敬礼した。

 

 

「なんと、殿下が素晴らしい考えをお持ちだったとは、恐れ入ります」

帝国の貴族たるポダワン伯爵は、ゾルザル(フレーリッヒ)に対して、深々と頭を垂れる。

ポダワン伯爵の持つ一枚の羊皮紙には、今後の帝国先導論と記されていたが、これはフレーリッヒがドイツで自身の党を率いていた頃に、行ってきた政策内容が書き込まれた。

だが、それは良い部分しか書かれておらず。

負の部分に関しては、ゾルザルを乗っ取る以前から知っていた日本を刺激しないために、敢えて隠蔽したのであった。

「ポダワン伯爵閣下が、私の考えに興味を持っていただけるだけで満足ですぞ。(この者の反応が予想以上に良好だ。これなら日本を刺激することなく穏便に追い出す段取りができそうか?)」

「いや、殿下が講じられたこの『新秩序法典(特地版ナチズム)』の施行を強く希望いたします」

「ならば、ポダワン伯爵。貴方達主戦派の同志達に私の新秩序法典を広めていただきたい。さすれば、皇帝陛下も聞く耳を傾けてくれるはず。(出来ればカイザーモルトを味方につけ、我が覇業の障壁となり得る皇女ピニャを排除出来れば理想的だな)」

無論ポダワンは、第一皇子の肉体を門の向こうの世界から迷い込んできた元独裁者が乗っ取っているということを知る由がないので、あっさりとフレーリッヒの考えに賛同してしまう。

後に、この新秩序法典がこの世界の人々の一部を心酔の渦へと巻き込むと同時に小さな火種となるとは、誰が予想できたか……。

 

 

ハインツ・フォン・フレーリッヒは、総統を名乗りナチスドイツ第三帝国に君臨し、支配していた。

彼は、第一次世界大戦で疲弊したドイツを建て直し、世界恐慌から数年で世界に肩を並べるほどまで上り詰め、自国内と友好国から絶大な支持を集め、日々権力を増大させつつあった。

だが、彼の強欲な野心によってそれは儚い夢のように崩れ去った。

フレーリッヒの強欲な意向により、ドイツ軍がポーランドとフランスへ電撃的に侵攻したことによって第二次世界大戦が始まった。

共同でフランスを屈服させたイタリアとフランスを南北に分けて分割統治を行うと同時に、ヨーロッパ諸国、アフリカ大陸へと勢力を伸ばしたところまでは良かったのだが。

三年も経たないうちにイタリア占領下のソマリアと上陸した先の英本土でアメリカ軍による大規模な反攻作戦を受けたことにより、形勢が大きく逆転した。

一九四四年八月になると、イタリアは、連合軍によりアフリカとポルトガルから追い出され、残る足場は地中海、ユーゴスラビア、ギリシャ、イタリア本土のみとなり。

ドイツは、連合軍に上陸されたノルマンディーで防衛戦を強いられることになった。

さらに、十月となるとソ連が不可侵条約を一方的に破棄し、フィンランドへと向けていた部隊をドイツ占領下のポーランドや他の枢軸国に侵攻させたことによって連合国、コミンテルンによる挟撃が始まった。

それまで兵器の技術面において優位を確保していたナチスドイツとイタリアは、それまで外野扱いしていたソ連の底力を思い知ることになった。

遣芬ドイツ軍ですら見なかった最新鋭の兵器がソ連軍に配備されていたのであった。

それに加えて行われる人海戦術によってドイツやイタリアは、押しまくられた。

ドイツやイタリアのような大国ではない枢軸陣営諸外国は、ソ連の赤い雪崩によって押し潰された。

そして一九四五年三月、ドイツ軍の巧妙な戦略や堅固な防衛に四苦八苦しながら史実より遅くドイツとフランス国境に築かれたジークフリート線目前まで迫った連合軍に悲劇が起きた。

最後まで悪足掻きを続けようとしたフレーリッヒは、この世界史上最悪といえる命令を下した。

悪魔の兵器、核爆弾(長崎に投下された原子爆弾とほぼ同じ威力のもの)をジークフリート線に迫っていた約七千人の連合軍将兵に向けて投下させたのであった。

大地の緑を焼き尽くし、ありとあらゆる生命をも絶命させるこの兵器が炸裂後に飛散する放射能は、これによる攻撃を直接目の当たりにしなかった自国の兵士や独仏両国民にも襲いかかった。

この極悪非道の所業ともいえる命令をしたフレーリッヒは、ベルリンがソ連軍に無血開城される寸前で脱出し、Uボートによる国外逃亡を行なっている最中、大西洋でアメリカ海軍に発見され、激しい攻撃を受けて沈みゆくUボートごと海の藻屑になった。

そして、フレーリッヒの死亡報告を受けたドイツとイタリアは同時に降伏した。

史実と違ってドイツは東西で分断されることがなく全土がコミンテルン占領下となり、イタリアは連合国による占領下になったことでフレーリッヒの悪夢は終わりを告げた……。

しかし、不思議なことに彼は霊魂のみとなり、大戦前からそこそこ交流があった国、日本に開いた『異世界への門』の向こうへと迷い込み、今度は門の向こうの権力者の一人である第一皇子の肉体を乗っ取ったのであった。

「せっかく強靭で若々しい肉体を乗っ取ったのだ……邪魔者たる日本を追い出した後は、この世界で我が覇業の結晶を築き上げ、以前より絶対的な権力を握ってやる……ははははっ!」

誰も居なくなった居館で彼は、雷鳴が轟く空を背景に独り、高らかに笑い声を上げるのであった。

 

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