ゲート 日本帝国軍 彼の異世界にて、活躍せり   作:西住会会長クロッキー

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第四話 炎龍

アメリカ合衆国・ホワイトハウス

「大統領閣下。東京に現れた門に関する、第六次報告です」

合衆国大統領の『ヘンリー・マルティネス』は、どこかめんどくさそうに、補佐官から報告書を受け取る。大統領は表紙を含めて数枚ばかりめくる。しばらくして、テーブルの上にしずかに置いた。

「やはり、未だにWWⅡで中立を保った日本のことをファシストに恐れをなした腰抜け呼ばわりしている一部諸外国のように、彼らを侮ってはいけないようだな。日本は亀の子のように引っ込んでいるが、それははっきり言って、何があるか分からない異世界に対するベストな態勢を整えているではないか……」

「その通りだと思います。閣下。日本は、前大戦期のドイツ、イタリアの失敗を教訓として学んだのです。いかに強力な戦力を有しているとは言え、広大な領域を制圧支配しようとするには、その戦力は不足します。なので、彼らはそれを徹底して見極め、要点を抑えているのでしょう」

だが、マルティネスは日本のことが怖かったのであった。かつて、彼の前に大統領を務めていたスペンサーという男が国民党中国と手を組んで、日本を戦争の道へと引きずり込もうとしたが、逆に全て日本側にお見通しにされ、日本は戦争を回避し、そのうえ国力がさらに発展したのであった。

また、彼は、日本の陸軍力や空軍力そして、海軍力に恐れをなしていた。

これら全てを並行して強化して行ける国はアメリカ合衆国のみと言われていたが、日本は海洋国家でその上島国であるにもかかわらず。

三軍を強化するということに大成功を収めていたのだ。

そんな戦力、技術、外地、そして国力を持つ日本がアメリカに矛先が向いたらと、マルティネスは言い知れぬ恐怖に支配されていた。

「ですが。ご安心ください。日本帝国は今や、頼れるお隣さんとして我が合衆国と同盟を結んでいるではありませんか。あの門が現れたからと言って、ソ連や中国が大人しくしているわけではありません。あのような門は日本に任せておいて。対ソ連、中国、ワルシャワ条約機構の策を大統領閣下は、講じるべきです」

強烈な反共主義であるこの補佐官は、大統領を別の話題に誘導する。

「そうだな。こうしていては、対共産防衛に支障が出ることになろう……日本には、武器供与の支援と武器、弾薬のライセンス料を安くして、武器などのライセンスの売買を促進させる。というのはどうだね?そうすれば、連邦議会の戦争屋共を黙らせることも出来るだろう。それに伴って東京に開いたあの門の話題を持ち上げる国内世論はましになるだろう」

彼は日本に対する策を補佐官に言うと、「それがいいでしょう」と補佐官がマルティネスに共感の言葉を返した。

こうして、アメリカ合衆国の対日姿勢が決まったのであった。

この姿勢には、あまり日本に加担しすぎると万が一の時に巻き込まれる恐れがあるという意味が、マルティネスによって込められていた。

 

 

 

ウラ・ビアンカ(帝国皇城)

皇帝モルトが居る玉座の間の普段は、貴族・諸侯が毎日のように参勤し、その会議では優雅に踊り、食事を楽しみ、帝国の今後を話し合う場所でもあった。だが、ここしばらく続いた敗戦が、それらを全て消し去り、空虚な雰囲気が玉座の間を支配していた。

「皇帝陛下、連合諸王国軍の被害は甚大なものとなりました。死者・行方不明者はおよそ八万人。重軽傷者を併せますと、損害は十万に達する見込みです。敗残の連合諸王国軍は統率を失い、それぞれ散り散りとなって故郷に帰国したようです」

内務相の『マルクス』伯爵の報告に、皇帝は静かに嗤った。

「ふむ、予定通りと言えよう。わずかばかりの損害に怯えておった元老院議員達も、これで安堵することだろう」

「しかし、あの門より現れ出でました敵の動向がいささか気になります」

「余は、そなたの心中を察するぞ。だが、現在我が帝国軍は、再建が終わろうとしている。また、臣民は二つに割れている。戦争の継続を望む者、一部元老院議員のように講和を望む者も居るそうだ。だが、これらを全て頭の片隅に置いたうえで、来るべき決戦に備えるのだ」

皇帝は続けた。

焦土作戦を行うのではなく。いざとなったら再建が終わった帝国軍に民衆を守らせ、そのうちに民衆から屈強な兵士を養成し、貧困層の民衆には軍需産業への就労を勧める。そして門の敵を退けた後は、門を取り壊し、そのままの勢いで反帝国諸国を葬り去る。

という事がモルトの口から語られた。

「そうすれば、税収の低下を免れることが望めますな。また、カーゼル卿あたりを抑えれるかと思います」

マルクス伯は民衆の被害が無い事に安心し、皇帝の打ち出した案に共感する。

そして、マルクス伯爵が玉座の間から去ろうとした瞬間。

凛と響き渡る鈴を鳴らしたような声が、部屋に響いた。

「皇帝陛下!!」

つかつかと皇帝の前に進み出たのは、皇女、または皇帝の娘である『ピニャ・コ・ラーダ』であった。

「どうかしたのか?」

「無論。国内情勢、そして敵のことであります!イタリカでは治安の悪化や他の地方では、盗賊集団の横行。また、アルヌスの丘はまだ敵の手中にあると伺い、そして連合諸王国軍の敗退を耳にしました!諸王国軍が多大な犠牲を出して敵に対処できたとはいえ、いつ攻めてくるか分かりません!また、各軍団の増員を申し出たくて伺いました!」

「ピニャよ。帝国軍の再建は終わろうとしている。そして新たに騎馬兵団といった機動力主体の軍団を増員の対象にしよう。だが、偵察兵の不足が事実だ。丁度良い。ピニャ、そなたが率いる薔薇騎士団でアルヌスへと偵察に向かってくれぬか?」

ピニャは、早くも軍の再建が進んでいることに安心したと同時に、偵察に行って来いという皇帝の一言に驚いた。

だが、日頃から兵隊ごっこと揶揄されてきた騎士団にとって、栄光の初陣とも言えた。

そこでピニャは、各地方の視察も兼ねて行けば良いだろうと思い、父である皇帝の意向を受け入れた。

「確かに承りました」

「うむ、成果を期待しておるぞ」

「では、父上。行って参ります」

そしてピニャは、玉座に背を向けて部屋を後にし、騎士団の準備が整いしだい帝都を出発しようとしていた。

事実、帝国軍は徴兵や募集に志願兵が殺到したため数が初期の十万人から十五万人に成ろうとしていた。

騎兵や竜騎兵には、普段から馬や翼竜を飼い慣らしている者が集まり、歩兵や弓兵には、普段から狩猟で生計を立てている者が集まり、怪異使いには、怪異を専門とする奴隷商人達が集った。

こうして、帝国も盤石な姿勢を整えつつあった。

 

 

 

「空が蒼いなぁ。さすが異世界だ」

相馬が呟く。青空に、大きな雲がぽっかりと浮かんでいる。

周りを見渡せば、電柱や電線などもない。前から後ろまで、上半分は完全に空だった。

「こんな風景でしたら。樺太にいっぱいありますよ」

運転席の、田中二等兵が応じた。

田中は、樺太の鉾部陸軍基地から来ている。そのうえ彼は生まれも育ちも樺太だった。

「俺は、銀座やこっちに来てから見たドラゴンとか、昔親に読んでもらったおとぎ話の本に出てくる妖精みたいな生き物がつねに飛び交っていると思ったのですが。意外と人間ばっかりでしたね。家畜に変わったのはいましたけど。正直人間を見たら安心しますよ」

田中は両親や友人、高校時代の恩師の勧めを受けて帝国陸軍に志願した十八歳だ。

相馬とは、銀座事変以来一緒で、階級に関係なく仲が良くなっていた。

青空を背景に迷彩色(史実における後期迷彩色)に塗装された軍用車輌が列を組んで走り抜けていく。

先頭に九三式機動乗用車(以下、機動車)、その後ろに約二台の九二式小型貨物自動車、さらには一式半装軌装甲兵車・ホハ改が続く。要するに、前三台はトラックみたいな乗り物、後ろの一台は戦車に見えるバスみたいな乗り物が走っているのである。

相馬はその一両目の機動車に乗っていた。

その後ろの席には銃火器が積み込まれていた。

他の隊員達は、小型貨物自動車の運転をしているか装甲兵員輸送車であるホハ改に乗り込んでいた。

車輌四台、総勢十二名が偵察隊の総戦力であった。

相馬は、ガサガサと地図を広げて田中に指示を出す。

「田中二等兵、この先をしばらく行くと小さな川が見えてくるはずだ。そしたら、右折して川沿いに進んでくれ。しばらくすると森が見えてくる。それがコダ村の村長が言っていた森だ」

相馬は、航空写真から作られた地図と、方位磁石とを照らし合せながら説明する。

相馬は、一九三七年三月から一九三八年十月までに行われた日ソ戦争で実戦を経験しており、その経験を用いてでの説明だった。

「そして、森の手前で停止して野営をする」

相馬の言葉に田中は「賛成です」と応じた。続けて無線で野営を行う事を各車輌に告げる。

「しかし、一気に乗り込まないのは何故です?」

「今、森に入ったら夜になるからな。それに、わけのわからん虫や動物がうじゃうじゃいるかもしれんし。現地住民を怖がらせてしまう。俺たちは国や本土や外地そして、諸外国に信頼されている日本帝国軍だし、森の手前で野営をすれば、こちらも向こうも損は無しだからな」

だから森には少人数で入ると相馬は告げた。

日本側の偵察の目的は、現地住民に武力による征服の意思が無い事を伝えるためでもあり、悪感情を持たれるような事を極力避けるために、兵員を用いて直接偵察に向かわせたのだった。

これまで三カ所の集落を通り、この土地の交流を取ってみた。

住民達は、あなた達が我々に危害を加え無いことは理解した。なので、これからは仲良くしよう。

という感じで、ある程度国家に対して信用はしているが、相馬達日本軍が傲慢な侵略者でない事を知るやいなや、嫌悪感を示すことは無く、友好的な態度を取ったのであった。

相馬は胸ポケットからメモ帳を取り出すと、この土地の挨拶を綴ったページを開いて予習する。銀座事変の捕虜を調査したある下士官と、事前に集めていた各国の言語学者達の成果だった。

「サヴァールハルウグルゥー?(こんにちは、ごきげんいかが?)」

「もうそんなにうまく使えるのですか?自分なんてまだ棒読みっすよ」

「経験を上手く使ったんだよ。ただそれだけ」

こうして、順調に森の前まで進むはずだった……。

 

 

森の手前にやってきた第三偵察隊であったが、最初に彼らの目に入ったのは天を焦がす黒煙だった。

「火事ですかねぇ」

田中の言葉に、「それにしては、盛大に燃えているな」と相馬はそう言いながら黒煙を見上げた。森から炎が立ち上がっていた。

「自然火災か?」

「いえ、中尉。あれを見てください」

副隊長の『大滝 五郎(おおたき ごろう)』少尉がそう言うと、双眼鏡を相馬に渡した。そして正面からやや右にむかったところを指さす。相馬は大滝の指さした辺りに双眼鏡を向けた。

「おい、冗談にしてくれよ……」

双眼鏡から見て分かった光景は、紅い鱗に身を包むそれも、何十メートルもあるような巨大な飛竜が地面に向かって火炎放射をしていた。

「あんなでかいトカゲに小火器は、豆鉄砲だろうな」

大滝のセリフに相馬が「おやっさん。それは、言えるかもね」と言葉を返す。

大滝は、第一次世界大戦に参加した経験がある五十三歳の古参兵だった。

そこで大滝は、かつて青島(チンタオ)の戦いで従軍し、複葉機に遭遇して対空戦闘になったときの記憶を回想しつつ飛竜に対する策を練ることにした。

後方で停止したホハ改から、平均的な身長の女性兵士が走り寄ってきた。

この偵察小隊には二人の女性兵士が配属されている。これには、一九三四年初頭のクーデターによって樹立された新政府の方針で、衛生兵科限定かつ、任意で女性の募集も行われた。それから、十一年が経った衛生兵科は男女比率が一対一になった。

「相馬中尉、どうしますか?このままあのドラゴンという生物の観察を継続しますか?」

室井 美代子(むろい みよこ)』兵長だった。

彼女を見ると多くの男性将兵達は、頼れるお姉さまと謙遜(けんそん)する。それには、衛生兵であるにもかかわらず射撃の腕は熟練の狙撃兵と互角で、百発百中の猛者である。

「室井兵長的には、あのドラゴンが何も無い森を無意味に焼き討ちすると思うか?」

相馬に意見を求められた室井は少しばかり首を傾げたあと、素直な態度で答えた。

「もしかすると。爆撃機が都市部の人々を攻撃するように、あのドラゴンは人々に襲いかかっているのでは?ほら、さっきのコダ村の村長さんが言っていたようにエルフと呼ばれる人々が暮らす集落が、ドラゴンによる火炎放射が行われている所の真下にあるはずだと思います」

室井の一言に相馬は、感心した。

すると、ドラゴンが突然。相馬の方を向き、甲高い咆哮を放った。次に、相馬達に向かって飛び出す。

「まずいっ気づかれたか!総員戦闘配置につけっ!富河軍曹っ!噴進砲を持って来いっ!!」

『富河 晃』軍曹が急いで九二式小型貨物自動車に向かってゆく。何も掴めないまま逃げるよりは、せめて実態を把握したいと思った相馬は一か八かの勝負に出た。その間に、隊員達が小銃や機関銃で攻撃を行う。ある程度効果があったのか、途中でドラゴンが立ち止まり、嫌そうな鳴き声をあげる。

「中尉っ!持って参りましたっ!」

富河が九九式七糎噴進砲を持ってくる。そして、室井に手渡す。

「はい、後方の安全確認」

「遅いよっ!」

室井の行動に、全員の突っ込みが入る。正直言って、訓練であれの扱い方がこうだからね。と思う隊員が多かった。

パシュンッ!という音を立てて噴進砲から砲弾が放たれた。

そして、怒りに任せて飛び立って来たドラゴンは、それを避けることが出来ずに、ドラゴンの左腕にあたる部分がいとも簡単にえぐられた。ドラゴンは己の痛みや状況を理解し、絶叫した。そして、翼を広げてよたよたとよろめくようにしながら飛び去っていった。

隊員達は、その後ろ姿を黙って見送るだけであった。

 

 

 

結局、相馬達が森に入ることが出来たのは、翌朝だった。

真夜中になってようやく雨が降り始めたおかげで火災は鎮火された。

森は、すっかり見通しが良くなっていた。

木の葉は全て焼けおち、立木は炭となり果てていた。地面は焼け焦げ、煙が立ち上っている。

地面にはまだ熱が残っていて、半長靴の中がじんわりとあたたかい。

「これで生存者がいたら奇跡ですね」

田中の言葉に、相馬もそうかもなと思いつつ、とにかく集落があったと思われるところまで行ってみようと考えていた。

二時間ほど進む。すると立木がない開豁地(かいかつち)へと出た。

この森が焼かれていなければ、ここまで入るのに最低でも半日を要したであろう距離である。見渡すと、明らかに建物の焼け跡とおぼしきものが何軒分かある。よく見れば、遺体と思われるものが何体も転がっている。

「中尉、俺はあっち探して来ますね」

「ああ、頼んだ」

田中は建物の中を捜索し始める。

だが、無事な建物は一軒たりともない。その建物の中にも遺体が転がっていた。

偵察隊一行は、小一時間かけて捜索したが、集落には生存者がいないようだと判った。

相馬は、井戸の脇にどっかりと腰を下ろすと、腰に下げていた軍刀を杖代わりにし、タオルで汗をぬぐう。

他の隊員達は、ここに住んでいた者が生活していた時の様子が判るものを探して、集落のあちこちを歩き回っている。

すると、室井がクリップボードを小脇に抱えてやってきた。

「中尉。この集落には大きな建物が三軒と、中小の建物が二十九軒ほどありました。確認できただけで遺体は二十六体で、少なすぎます。ほとんどは建物が焼け落ちた時に瓦礫の下敷きになったのではないかとも考えられます。また、人体の一部が欠損している遺体に関してはあのドラゴンによって襲われた人だと思われます」

「報告ありがとう。しかし、酷いものだ。この世界のドラゴンは集落を襲うこともあるって報告しておかないとな……」

相馬は残り少ない水筒の水を入れるために井戸をのぞき込む。すると、何かと目があった。

「まさかっ!」

「どうしましたか?」と、言いながら彼女も一緒にのぞき込む。

「なんと?!」

その先には、井戸の底で、長い金髪を持つ二人の少女が、お互いの手を握ってこちらを見つめていた。

 

 

 

数時間前 エルフの集落

エルフの少女、『テュカ・ルナ・マルソー』とその親友、『ユノ』は逃げ惑っていた。燃える木々や、焼かれる家を背景に。怒号や悲鳴、絶命の金切り声が集落に響き渡っていた。逃げ惑っている途中で父に会う。

「お父さんっ!」

「テュカ!無事だったのかっ!ユノと一緒にあの井戸に隠れなさい」

テュカの父は、数十メートル先にある井戸を指差す。

「で、でも。お父さんはどうするの?」

「私なら大丈夫だ。それに他の人々が炎龍に随分とやられている。だから、君はユノを連れてっ!早くっ!」

すると、二人の少女の横に、下半身がない男性の遺体が投げ飛ばされて来た。

「っ?!」

悲鳴をあげることすら出来ずに二人は驚く。続けるようにして、炎龍の咆哮が響く。そして、大きな影が二人を染める。

「逃げなさいっ!二人ともっ!!」

父の言葉に自然と体が動き、二人は走り出す。振り返る余裕すらなく、父が呪文を唱える声が耳に入る。炎龍の叫び、集落を守ろうとする戦士達の雄叫び、この両方も耳に入る。

そして、二人が井戸にたどり着き。二人はロープを伝いながら井戸に入っていった。テュカが井戸の底についた瞬間。井戸の上が業火で覆い尽くされた。

炎龍は咆哮を上げてアルヌスの丘がある方へと飛んでいくことが判った。だが、しばらくすると、炎龍が最も嫌そうな咆哮を上げて何処へと飛び立っていった。それから二人は、何も考えずにただ自身の脚を冷やす井戸の水を見つめていた。

すると、青空を背景に誰かが井戸をのぞき込むのが見えた。

父に似ているようで、似ていないような。深緑の帽子を被った青年が唖然とした顔でこちらを見つめていた。

 

 

 

 

「生存者を発見したっ!!田中二等兵っ!九三式をこっちに持って来いっ!」

田中が車に乗り込んで、バックしながら井戸に車を近づける。

「君たち大丈夫か?俺は味方だ」

相馬は、分かりやすい言葉でそう言いながらロープを伝って降りる。

相馬は、一人づつ少女を抱えて井戸から出る。

井戸から出ると、室井ともう一人の女性兵士『久島 愛里合(ひさじま まりあ)』兵長が、井戸から引き上げた見た目で十六歳前後の少女の濡れた髪をタオルで丁寧に拭いたりしている。

「よし、二人とも。この子達を九三式に乗せてくれ。俺は、二等兵と他のみんなを連れて警戒に入る。あとは任せた」

相馬はそう言いながら、井戸のそばに置いてあった軍刀を再び腰に下げると、ホルスターから十四年式拳銃を抜き取った。

続けるように、隊員達が小銃やらを構えながら森の方を見渡す。

しばらくして、相馬のもとに久島兵長がやって来た。

「どうだい、あの子達の様子は?」

「それなんですが。あの子達、中尉にお礼を言いたいそうなんです」

大滝に指揮を任せつつ、少女達のもとへと向かって行った。

「調子どう?」

相馬は、ぐっすりと眠っている少女の横にいた少女に声をかける。

「はい。大丈夫です。助けてくれてどうもありがとう」

少女の口からは、ハキハキと感謝の言葉が出る。それから、少女は隣で寝る彼女のようにうとうとと眠り始めた。

「昨日から一睡もしていなかったんだろう。この子達の親と思われる人が見つからない以上、保護するしかないな」

相馬がそう言うと、室井と久島がニッコリと笑った。

「中尉ならそうおっしゃってくれると思いました」

「もし我が国への亡命を望む難民や孤児がいれば保護するようにって言われたからね。それに、人道的な配慮がなきゃ、人々と友好を深めることは出来ないからね」

そして、アルヌス基地へと進路を向けて、帰還の準備が整った偵察隊は車を走らせた。

 


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