ゲート 日本帝国軍 彼の異世界にて、活躍せり   作:西住会会長クロッキー

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第五話 遭遇

本来なら、あと二〜三カ所の集落めぐりをすることになっていた。だが、保護した二人のエルフの娘を連れ回すわけにも行かない。

そのために相馬は、コダ村に巨大な飛竜が現れたことを告げるために立ち寄る事にした。

ところが、コダ村は昨日とは違い。みんなして意気消沈としていた。

そこで、相馬は住居のそばで寂しげにパイプを吹かす村長に話しかけた。

「何があったのです?」

「盗賊じゃよ。多分、あなた達と戦った諸国軍の連中や帝国軍の連中が混ざった盗賊が村を襲撃したのじゃよ。

村の男たちが撃退したのだが。村にいた六割の男衆が奴らと相討ちになったりして殺されたのじゃよ」

コダ村の村長が目を向けた先には、数百人の男性の遺体を葬った簡易的な墓が立てられており、その傍らには、その男性達の妻と思われる女性や、その子供達が悲しみの涙を流していた。

相馬は、盗賊についてメモ帳に記した。続けるようにして、相馬は炎龍について話し始めた。

「我々、森に行く。大きな赤い龍、いました。森焼けた。村焼けました」

ドラゴンを意味する言葉と共に、地面に絵を描いてみせる。意外と相馬は絵が上手かったりする。

村長は、絶望のどん底に叩きつけられたような表情を浮かべた。

「よりによってこんな時に炎龍が……」

「ドラゴン、火、だす。エルフ、たくさん、焼けました」

「なんと、エルフの人々までやられてしまったのか。くそっ……こんな時にピニャ殿下の薔薇騎士団がおられたら……」

相馬は、ピニャと薔薇騎士団という単語をメモ帳に書き込む。

そこで、相馬は村長に対し、アルヌス基地での保護を持ちかけた。

「我々、あなた達、保護する。よかったら来てください」

「なんと……わしらを助けてくれるというのかっ!!」

村長の言葉に、相馬は「はい」と目を合わせて言った。続けて村長に、テュカとユノのことを話した。

「二人、女の子を助けた」

そこで、相馬は村長を九三式機動車の荷台へつれて行きぐっすりと眠る金髪の少女らを見せた。

「痛ましい事じゃ。この娘二人を残して全滅してしまったのじゃな」

村長は、二人のエルフ娘を心の底から哀れんだ。種族は違えど、このコダ村とエルフの集落とはそこそこ交流があった。

お互いが困りごとを協力して解決したり、時には、共に狩に出かける事もあった。これらの協力もあってか、特に揉め事がなかったようだ。

それから、夕刻にかけて相馬達第三偵察隊は、村人達の避難作業を手伝った。

数時間後、辺りは太陽が沈みきり、人や家畜、家財道具を乗せた馬車が村の中心に集められていた。

夜に出ると、自動車のライトを照らしても分かりにくい道のりである事が分かるため、明日の夜明けに出発する事になった。

さて、そんな中で『カトー・エル・アルテスタン』という魔導師の老爺に、「弟子の『レレイ』とその子供たちを呼んできてほしい」と頼まれた相馬は、迎えに行くことにした。

 

 

 

 

コダ村の中心から少し離れた森の中に緩やかな流れの小川が、流れていた。その側では、年の頃十四〜五といった感じで貫頭衣をまとったプラチナブロンドの少女『レレイ・ナ・レレーナ』と彼女の後ろにいる二人の少女達は、馬にまたがる二人の輩と十人くらいの盗賊に問い詰められていた。馬にまたがるちょび髭を生やした中年の男がレレイに対して、嘲るように言う。

「おい、嬢ちゃんよぉ……頼むからおじさん達と一緒に遊ぼうぜぇ……」

レレイは親の敵にあったように男を睨みつけている。その傍らで二人の少女は酷く怯えている。

すると男が馬を降り、鞘から剣を抜き取った。

「さっきから舐めた態度をとりやがって……串刺しにしてやるっ!!」

ガガガガガッ!!

突然、甲高い音がなった同時に、ちょび髭の男の身体には、風穴が開いた。そして、倒れ込む。さらに誰かが駆ける音と共に、横からレレイ達を襲おうとした巨漢が首をはねられ、その切断面から血液を飛び散らした。

「あ、あいつだやれっ!」

馬にまたがるもう一人の男がそう言いながら指差した先には、サーベルより少し細長い刀を握った異様な格好をした男がいた。その男は三人の少女を逃した。

 

 

 

「よりによって幼気な少女達に手を出すとは……許せん。この外道共がっ!!」

相馬は、喊声(かんせい)をあげながら軍刀を片手に馬の男に斬りかかった。男は、抵抗する術がなく。左腕を切り落とされ、馬から転げ落ち、泣き悶えながら多量出血によって死んだ。

相馬は、男が乗っていた馬に飛び乗ると、馬を巧みにあやつり始めた。そして、周りの盗賊たちを斬り伏せていった。

あたふたする盗賊たち。仲間がどんどん斬り伏せられてゆく姿を見た一人は、相馬の左胸に向けて弩の矢を発射して、見事に命中させるものの、勢いを止めることが出来ず。それどころか、血を流しながら動き回る相馬に、全員斬り伏せられた。

「はぁ…はぁ……今度は守れたぞ……」

相馬は、そう言いながら馬から降り、地面に寝転がった。

「ち、中尉が怪我をしているぞっ!!久島、室井!!早く手当をっ!!」

駆けつけてきた久島や室井が相馬の左胸に刺さっていた矢を抜き、止血治療を始める。

気付けば、レレイが心配そうな表情とともに相馬の前にしゃがみ込んでいた。

「お嬢さん。俺なら平気だ。それより、さっきは大丈夫だったか?」

相馬は、自身の怪我よりもレレイの身を心配した。すると、レレイは相馬の左胸に手を当てはじめた。当てはじめて数秒後、レレイの右手は、エメラルドグリーンに輝き始めた。相馬や、他の三人が見つめていると、相馬の左胸に空いた傷がみるみるうちに、元に戻った。

「お嬢さん……君は、優しい子なんだね。ありがとう」

相馬がレレイに感謝の言葉を言うと、レレイは言葉の意味を理解したのだろう。どこか嬉しそうに「どういたしまして」と言い、村の中心に向かって行った。

「あれが……魔法か」

大滝は、レレイの後ろ姿を見つめながらそう呟いた。

「三人ともありがとう。三人は、村の中心に行って欲しい。大滝少尉、悪いがしばらく俺を一人にさせてくれ。指揮は、少尉に任せる」

相馬は、三人が去ると、自身の横に落ちていた軍刀を拾い、すぐそばに流れていた小川で血まみれになった刀を拭き始めた。

 

 

 

その日の夕食時、偵察隊の隊員達は何故か盛り上がれなかった。

何故なら、あそこまで相馬が怒ったことについてずっと考え込んでいたからだった。

相馬は、比較的に温厚な性格をしており、偵察が始まる前夜に隊員達を集めて食堂のごちそうを自腹で振る舞うほどの人物だった。だから、そんな人物が怒ったということを聞いた隊員は、未だに信じられないのであった。

「しかし、中尉はすごいですよ。馬にまたがりながら敵を斬り伏せるなんて」

田中がそう言いながら牛缶の肉をおにぎりの上に乗せて食べる。

他の隊員達は、「ほんとにそうだよ」なんて言いながらおかずやご飯を頬張る。すると、大滝が箸と缶詰を置き、隊員達に向けて呟いた。

「みんな。黒河省事件って聞いたことはあるか?」

他の隊員達は、「知っている」と答えた。

黒河省事件とは、本土、台湾、朝鮮半島に住む日本人が満州に移住を始める前の一九三七年、日ソ戦争中に満州国・黒河省で起きた事件であり、住民だった満州人や華僑系人などが侵攻してきたソ連軍によって虐殺されるという事件だった。

駆けつけた満州国軍や日本帝国陸空軍により事態は解決したものの、何の罪も犯していない人々が多く犠牲になった最悪の事件であった。大滝は、少し暗い表情で続けた。

「実はな……あの時少尉候補生だった相馬中尉は、さっきの盗賊を倒したみたいに、捕虜のソ連兵達を殺したんだ」

これに隊員達が騒めく。

田中が「理由は何だったのですか?」と大滝に尋ねる。

「理由は悲しいものだ……当時、相馬中尉ととても仲が良かった満州人の女の子を侵攻してきたソ連兵達によって犯された挙句。殺されたんだ。それを知った中尉は、さっきより怒り、主犯と思われるソ連兵将校を見つけるやいなや軍刀で斬りかかって首をはね、見張りをしていた兵卒の短機関銃を奪い取ると、その周りにいたソ連兵達に向けて乱射しはじめたんだ……」

ここで、大滝の話が止まった。隊員達は、何か悪いことを聞いてしまったような感覚になっていて、少し意気消沈としていた。

そんな傍ら、レレイはパンや飲み物などを持って相馬の方へ向かって行った……。

 

 

 

相馬は、緩やかな流れを感じる小川のそばですこしばかり寝ていたが、悪夢にうなされていた。

複数の銃弾を受けて死んだ男性の遺体に取りすがって泣き続けるその妻と思われる妊婦がいるという光景

ソ連兵によって暴行を受けた人々が悶え苦しみながら診療所に溢れかえる光景。

繁華街だった場所は、至近距離で大量の砲弾が撃ち込まれたせいか死体、瓦礫が道を覆い尽くしているという光景。

同じ日本兵や、満州兵達が捕まえたソ連兵達を怒る民衆の前に突き出し、ソ連兵に向けて石を投げさせたりなどという光景。

という黒河省の街をソ連軍から奪還した際に見た凄惨な光景が彼の夢の中で再生されていた。

彼の悪夢は絶頂に向かっていた。それは、かつて恋人のように仲が良かった満州人少女『鈴麗(りんりー)』の遺体を見つけた時の光景がはっきりと浮かび上がった。

相馬に仇をうってくれと彼に取りすがる彼女の両親。彼女を凌辱し、殺した者に対する憎悪によって理性的な何かが無くなりそうになる自分。

悪夢の場面はさらに加速する。相馬は怒り狂いながら彼女を殺したソ連軍将校を見つけ出すと、軍刀で斬りかかり、その首をはね飛ばした。

あたふたする見張りの兵士を気絶させ、彼から奪い取った短機関銃を怯えるソ連兵に向けて乱射した。

『地獄へ堕ちろ!!人でなしどもがぁぁぁぁっ!!』

そう叫びながら、弾が尽きた短機関銃を投げ捨てて、泣き悶えるソ連兵達を軍刀で斬り伏せる。

そして、駆けつけた上司達に抑えられたところで、ついに悪夢は絶頂に達した。すると、同時に優しい手の感触で目が覚めた。

 

 

 

 

「はっ?!またあの夢か……くそっ!」

相馬はそう言いながら飛び起きた。両目からは涙が少しばかり溢れ、身体は汗まみれだった。

その横にレレイが居たことに気づく。

「なんだ。お嬢さん来ていたのか。ん?これは……」

レレイが持っていたパンや、ヨーグルトのような飲み物に気づく。よく見ると、二人分あった。レレイの方を見ると、何か言っていることにも気付いた。

「一緒に食べよう」

どうやら、レレイは相馬の夕食を持ってきたついでに一緒に食べるために来たようだ。

「ああ、いいよ」と相馬は同意の言葉を口にする。その後、二人の静かな食事が始まった。

「君の名前は何て言うの?」

相馬はパンを食べながら、レレイに名前を聞く。相馬の言葉を彼の動きで理解したのか、「レレイ・ラ・レレーナ」と言葉を返す。「名前を教えてくれてありがとう。レレイお礼にこれをあげるよ」

相馬はころころと笑いながらズボンのポケットからキャラメルを出して、レレイの左手に持たせる。

レレイは、興味津々でキャラメルの包み紙を剥がして、キャラメルを見つめる。そこから出る甘い香りを感じたのか、口に含んだ。美味しいと感じたのかさらに口に含んだ。

「おっ美味かったのか。レレイそろそろ村へ戻ろうか」

相馬がそう言いながら村の方へ歩こうとするが、レレイが相馬の左手をさかんに引っ張る。

「何かあるのかい?」

相馬は、レレイに引っ張られるような感じで彼女の家の前と思われる場所までついていった。

それからレレイは家に入って石鹸やタオルのようなものを取ってきた。相馬は、何を始めるのかと思いつつレレイを見つめていると、突然貫頭衣の紐を緩め始めた。

何となく状況を理解した相馬は、その場から立ち去る。村の入り口まで後すこしというところで何故か身体が軽くなったように感じた。

「え?まさかなぁ……」

だが、相馬は村の入り口から遠のいて行く。振り向くと、井戸端の身体中が泡まみれになったレレイが無表情でこちらを見つめており、杖を右手に持っていた。

間も無くして、レレイの魔法によって連れ戻された相馬は、目をつむっていた。

「俺に見張り役をしてほしいのか?じゃあ近くまで、見回りに行ってくるね」

そう言いながら、ホルスターから拳銃を取り出して森の方へ行こうとするが、また身体が軽くなって、気づけばレレイの目の前まで来ていた。

「分かった。待っていればいいんだね」

相馬はそう言いながら、レレイを直視しないように目をつむった。

それから目をつむっているうちに、相馬はまた眠りについてしまった。

 

 

 

しばらくして、相馬は日が差し込むどこかの家の中で目が覚めた。

外を見渡せば、井戸端の前にあった家の中であることが判る。相馬は時間を確認するために腕時計を確認すると、午前四時頃であることを確認した。

「出発の三時間前か。みんなを待たせすぎたかな。そろそろ行こうか」

今までは気が付かなかったが、ベッドの上にいることも理解した。そして自分の左側を見ると、レレイが自分の方を向いてぐっすり眠っていた。

「いかんいかん。自分は何をしているんだ。あっ…あの時そのまま寝てしまったんだな俺」

昨日の事を思い出した相馬は、レレイを見つめる。それから、眼を覚ますために井戸端で顔を洗う。レレイも起きて来たのだろう。相馬の後ろに立っていた。

「おはようレレイ。今日は昨日より晴れているね」

登りかけている太陽を見つめながらそう言う。

「兵隊さん。おはよう」

レレイは相馬に挨拶の言葉を返した。それから準備を終えた二人は村へと向かった。

村へ着くと、隊員達が出発の準備をしていた。大滝少尉が相馬に気づいて、駆け寄ってくる。

「おはようございます。中尉、昨日はぐっすり眠れましたか?」

相馬は、大滝が半笑いになっているのに気づく。それから隊員達を見ると、男の隊員達は、いつもより明るく。テンションが高かった。女性兵の二人の反応は、室井が今にもお幸せに〜。と言いそうな感じで、久島はいわゆるジト目でずっと相馬を見つめていた。

「おやっさんとみんな昨日のこと知ってたんだ」

相馬はすこし照れながら隊員達にそう言う。隊員達は、からかいながら「知ってました」と言葉を返す。

 

 

 

数時間後、コダ村の住民達は相馬達帝国陸軍第三偵察隊による先導のもと、アルヌス基地へと帰投していた。

「基地に戻ったら少佐と勉強会か。なんか気が晴れないなぁ……」

「へぇ、中尉ってそんな事もやらなきゃいけないのですか」

田中が不思議そうに相馬に言葉を返す。

相馬が、特地深部偵察隊の指揮官である森野とコダ村の住民や炎龍について話さなければならなかった。

また、炎龍に関する報告書に覚えている限りびっしりと書かなければならなかった。相馬は久々に来るであろう書類関連の仕事にため息をついた。

そうやって話をしているうちに、前方のホハ改が停止した。

相馬は何があったのかと思いつつ車の外へ出てホハ改の横に行き、双眼鏡で前方を見ると、息を呑んだ。

相馬が双眼鏡を向けた数十メートル先には、カラスに囲まれるようにして、斧ようなどす黒い塊を持つ黒ゴスの少女が道の真ん中に座り込んでいた。

異様な黒ゴスの少女は、相馬に気づくと立ち上がってゆっくりと近づいて来た。

そうこうしているうちに、黒ゴスの少女は相馬の目の前まで来ていた。

「サヴァールハルウグルゥー?」

異様な姿である者であるとはいえ、敵意を持ってないことを理解させるために相馬は、車から降りて特地語でいつもより陽気に挨拶をする。

「あらぁ、陽気な兵隊さんね。私はエムロイの使徒・『ロゥリィ・マーキュリー』よ。よろしく」

ロゥリィと名乗った少女は相馬に挨拶を交わす。

それからロゥリィは相馬が乗っていた機動車に目をつけた。

「ねぇ、これってどんな乗り心地なの?私もこれの乗り心地を感じてみたいわぁ」

ロゥリィが相馬にそう言ったので、相馬は助手席を前に倒すために座り込むが……。

「っ?!」

なんと、ロゥリィは車の荷台に自身の武器であるハルバードを投げ込むと、相馬の膝の上にちょこんと腰を下ろした。

相馬は、なんとも言えない表情でロゥリィを見つめていた。その傍らで田中が唖然としていた。

「少尉。早く車を……」

相馬が大滝に指示を出すと、車がようやく動き始めたのであった。

しばらくして、基地についた相馬は、他の兵士に幽霊と間違われるほど顔面蒼白で無表情だった。

「どうしたんだ。相馬?気分でも悪いのか?」

森野は、避難民保護の書類を書きながら相馬に声をかける。

「い、いえなんでもありませんよ少佐」

上司の呼びかけに少し遅く反応する相馬であった。

 

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