ゲート 日本帝国軍 彼の異世界にて、活躍せり   作:西住会会長クロッキー

6 / 19
第六話 転生者

コダ村の住民を保護して二日が経ったある日。

相馬はいつものように住民達のもとへと向かおうとしていた。さて、今日も行くか……そんな事を考えて廊下を歩いていた。

突然誰かが、「ちょっと相馬君」と相馬に声をかける。

かけられた声に、相馬は大儀そうに振り返る。

すると各戦闘団の団長がいる部屋の前に立つ、軍刀や拳銃を腰に下げている黒髪の女が見えた。彼女は久しぶりなんだからスルーするなという感じの表情だった。

白石 紀子(しらいし のりこ)』大尉であった。

「皆さん。こちらが相馬中尉です」

「第三偵察隊隊長の相馬と申します。以後お見知り置きをっ!」

相馬が白石に連れて来られたのは、本部隊舎の会議室だった。そこには、特地派遣部隊の最高司令官を務める『大高 弥三郎(おおたか やさぶろう)』大将、国防大臣の『高野 五十六(たかの いそろく)』、特派空軍司令官『巌田 新吾(いわた しんご)』中将、第一戦闘団団長『瀬戸 基(せと もとい)』大佐、特地戦略担当官『前原 一征(まえはら いっせい)』少将、さらには内閣総理大臣である戸村謙三らが集まっていた。これらの面々は相馬を拍手で歓迎した。

「相馬君。我々のことを知ってもらうために、今日は君に来てもらったよ」

「戸村総理、我々のことと言うと?」

相馬の質問に戸村は、静かに笑いながら答えた。

「そこにいる望月さん……失礼。白石大尉のように、君を除く皆さんは『転生者』なんだよ。また、狭間陸将いや、大星皇帝陛下も転生者なんだ」

相馬は、話の内容を理解すると、何だそんなことかという表情になった。

「おっと。その様子だと我々以外の転生者に遭遇したことがあるみたいだね……一応言うと、私がこの世界に転生する前の世界では、柳田 明という名前の自衛隊員だった」

「自衛隊?たしか、日本があの戦争に参戦して負けたとされる世界で出来た軍隊のような組織ですよね」

「ああ、そうだよ。君が遭遇した転生者に俺と同じ自衛隊員が居たのか……あのお方もお人好しだなぁ」

相馬の疑問などに答えながら柳田……いや、戸村は真剣な表情に変え、話を進める。

「当然のことだが、我々は歴史を動かしすぎた。

一九三四年一月に当時、軍大佐だった私がこちらの大高大将や高野国防大臣らと共に起こした帝国軍決起事件をきっかけに前大戦に参戦しなかったこと、さらに銀座事変の前に軍の展開や避難勧告の発令も裏で我々が動いたからだ。他には、本来登場しなかった兵器が数年、数十年早く登場したのは我々の仲間による行動だ」

相馬は興味津々で戸村の話に聞き入っていた。

次に大高大将が声を上げた。

「いやぁ、戸村総理が我々の仲間で良かったと今でも思います。第一前世では、米国との開戦。第二前世では、米国だけでなく独国とも開戦してしまったが。この世界ではあの悲劇の大戦に巻き込まれることなく。日本や満州で人々とともに一時的ではありますが、平和を謳歌できましたなぁ」

大高は戸村と目を合わせながら語った。「ええ、私もそう思います。大高閣下」と戸村はころころと笑いながら言葉を返す。

ちなみに、大高の言う第一前世というのは史実の世界のことで、第二前世というのは、アメリカやドイツと開戦こそしたものの、日本が第二次大戦において優位を保った世界のことであった。

相馬は、大高の話にも聞き入っていて、ついこんな質問をしてしまった。

「じゃあ、俺が日ソ戦争の時に軍法会議にかけられなかったのは、貴方達転生者のおかげですか?」

相馬の質問に、戸村は答えた。

「ああ、それはそちらの白石大尉のおかげだよ。あの時、白石大尉いや、紀子様は黒河省での君をとても気にかけてくださったのだよ。だから軍部は君の軍法会議をしないことにしたんだ」

相馬の横で紀子がころころと笑っていた。

「帝国軍に皇族の方がおられるとは聞いていましたが。白石大尉が皇族だったなんて……あ、あの時はありがとうございます!大尉殿っ!」

相馬が白石の方を向いて敬礼をする。「どういたしまして」と言いながら白石は相馬と敬礼を交わした。

それから、戸村はまた語り始めた。

「たしか……私の前世の記憶だと。この後、いずれかの偵察隊がイタリカという場所に行くはずだったんだ。実は、転生した際にこの異世界に関する記憶はほとんど消えてしまったようだ。だから、どうも部分的にこのイタリカという地名しか思い出せない。だから、我々の謎を晴らすのに丁度いい。悪いが、相馬中尉。このイタリカへと赴いてくれないか?」

「はっ!我々第三偵察隊にお任せください!」

相馬は戸村の頼みを受けいれた。

「君ならそう言ってくれると思ったよ。ただいまからイタリカ探索作戦発令の準備に取り掛かる。作戦発令までゆっくり休んで居てくれ、相馬中尉。我々が君に言うことは最後だ」

「分かりました。私はこの特地探索に貢献するために全身全霊で努めます。では、失礼いたします」

相馬は、転生者達と敬礼を交えると、部屋を後にした。

 

 

 

相馬が部屋から出て行った後、転生者達は少しの間話し合い始めた。

「特地に海があったら我が海軍の戦艦を海に浮かべたいものです。最近の地形調査はどうですか?」

戸村が前原に声をかける。

「ええ。順調に進んでいます。さっき総理が言っていたイタリカというところなんですが。どうやら城塞都市であると思われ、その周りには穀倉地帯が広がっています」

「穀倉地帯に城塞都市か……今後この世界における交流の要所にしたいものだ。しかし、そんな城塞都市はきっと重要なはずだ。こちらも何らかの譲歩をしつつ近づいてみたいものだ」

戸村はコーヒーをススっと飲むとそう呟いた。

「ですが。仮にイタリカの人々と友好を深め、交流を始めたとしても、今まで以上に情報の機密規定を敷かなければならないことになるでしょう」

前原の脳裏には、ソ連や中国などのスパイの存在が浮かび上がった。

「そうでしょうな。今後は公安や憲兵隊による監視をいきすぎないように強化しようかと思います。あとは、この世界でも同盟国であるアメリカとて例外ではありません。今後は同盟国にも警戒を強めましょう。兵器販売での利権を狙っている西側諸国もあるはずですから……」

戸村は同盟国も警戒の中に入れていたのであった。転生者一同は、戸村の考えに感心した。

こうして、転生者達は今後は同盟国や友好国にも警戒しながらという考えのもとで対特地作戦の会議を終えたのであった。

「この特地に第一、第二前世のような恐ろしい指導者がいなければ良いですな」

「そうですな大高閣下。ヒトラーのような恐ろしい指導者がいないことを私は願います」

高野や大高の脳裏には、彼の他に前世で見てきた策略家達の姿が浮かび上がっていた。

たとえこちらが優位に立っていても、味方はもちろん。

敵の尊い命を奪いたくないという思いが大高や高野、そして転生者達に共通してあった。

それから転生者各々は、自分達が居るべき場所へと戻って行った。

 

 

イタリカ・フォルマル家邸にて

「騎士ノーマ。どう思われますか?」

女性の騎士『ハミルトン・ウノ・ロー』が、街でたまたま捕らえた盗賊の話を話題に、先輩騎士の『ノーマ・コ・イグルー』に意見を求めた。

「どうって言われてもな?こいつが『緑のやつら』がとか言い出したんだから。私的には今話題の異世界軍しかないと思うのだが」

ノーマは自身の推測を交えつつハミルトンの質問に答えた。

ちなみに、帝国軍の生き残りの中には、日本軍側の戦闘服を見た者がいたのであった。帝国でこの生き残りは重要な証人として扱われていた。

「どうせ。あいつもパパパ!とか答えんたんだろうな」

ノーマとハミルトンの横にいた老騎士『グレイ・コ・アルド』はゴダセンの事を小馬鹿にしつつ言った。

ノーマはグレイに、「まったくその通りですよ」と言葉を返した。

すると、デュランのもとを訪れていた皇女ピニャとその護衛の『ボーゼス・コ・パレスティー』らが三人が集まる部屋に入って来た。

「ピニャ殿下。お疲れのようですね……デュラン陛下の様子はどうでしたか?」

ハミルトンが椅子やら飲み物を用意しながらピニャに声をかける。

「デュラン陛下は結局何も教えてくれなかった。ただ帝国に対する不満を聞かされただけだった」

ピニャはハミルトンが用意した椅子に深く腰掛けると、そう言いながら飲み物が入ったコップを口に運んだ。

「ピニャ殿下。お聞きください。盗みの罪で捕らえた者は、敵軍と接触したようです」

ピニャはコップを机に置くと、ハミルトンに連れて来いと命じた。それからしばらく経って、ボーゼスの怒号で部屋が響き渡った。

「軍人たる者がか弱き民衆を襲ってどうするのです?!この恥知らずっ!!」

ボーゼスは連れて来られた元連合諸王国軍兵士の男に平手打ちをしながら怒鳴りつけていた。そこでピニャがボーゼスを制止する。

「まぁ、落ち着けボーゼス。怒ってるとお前の美しい髪と顔が台無しになる。ここは妾が引き受けよう」

ボーゼスに変わってピニャが男の前に立った。男の頰には、ボーゼスの手形が浮かび上がっていた。そして男はめんどくさそうに語った。

「はっきり言いますぜ。奴らは全員魔導師だ。俺っちの戦友を葬ったパパパッと音がなる物の正体は棒のようなものや俺の手のふた回りはあるような鉄の塊だ。俺はこれぐらいしか知らねえ」

この男は、夜中にコダ村を仲間で襲撃したが。見回りに回っていた第三偵察隊のメンバーによって反撃され、生き残ったのは彼だけだった。

「貴様っ!誰に向かって口を聞いている?!こちらはピニャ・コ・ラーダ様であられるぞっ!!」

ノーマが男に怒鳴りつけながら剣を引き抜くが、これをまたピニャが制止する。

「ノーマも落ち着け。この男の話で敵のことがよく分かった。彼には感謝しよう」

「へへっ、照れますぜぇ殿下」

男は、急にピニャに媚を売り始めた。

「褒美として、お前には鉱山に行ってもらおう……」

ピニャはいわゆるダークスマイルで男を震え上がらせた。

そして、ピニャは深く日本軍について考え込んだのであった。

この男は後日、帝都に送られた後、タコ部屋労働かつ劣悪な鉱山へ送られた。何故なら、この男はイタリカに逃れてからフォルマル家に仕える者の金銭を盗んだからだったそうな。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。